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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W29
審判 全部無効 商3条柱書 業務尾記載 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W29
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W29
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W29
管理番号 1373847 
審判番号 無効2020-890008 
総通号数 258 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-01-24 
確定日 2021-04-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第6073226号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第6073226号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6073226号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成29年12月8日に登録出願,第29類,第30類,第35類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同30年7月18日に登録査定,同年8月17日に設定登録され,その後,登録異議の申立てにより,その指定商品及び指定役務中,第30類,第35類及び第43類の全指定商品及び全指定役務について商標登録を取り消すべき旨の決定がされ,その確定登録が令和元年11月18日にされ,残存する指定商品は,第29類「乳製品,冷凍野菜,冷凍果実,魚を加工してなる缶詰,魚介類の缶詰,水産物の缶詰,肉を加工してなる缶詰,食肉の缶詰,肉製品,加工水産物,野菜の缶詰(乾燥野菜の缶詰を除く。),加工野菜及び加工果実,レトルトパウチされたカレー・シチュー・みそ汁・野菜スープ,缶詰されたカレー,カレーの缶詰,缶詰されたシチュー,シチューの缶詰,缶詰されたスープのもと,スープのもとの缶詰,カレー・シチュー又はスープのもと」のみである。

第2 引用商標
本件審判請求人(以下「請求人」という。)が,本件商標の登録の無効の理由において,本件商標が商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する「ティラミスヒーロー」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)及び別掲2のとおりの構成よりなる商標(以下「引用商標2」といい,引用商標1及び引用商標2をまとめて「引用商標」という。)は,(a)シンガポールの会社「Hero Holdings Pte Ltd」,(b)(a)から委託を受けて日本で正規販売店を経営する「株式会社ティラミスヒーロー」(以下「ティラミスヒーロー社」という。),(c)正規販売店を経営する「株式会社ティラミスヒーロージャパン」(以下「ティラミスヒーロージャパン社」という。),(d)(b)及び(c)の関連会社である「株式会社ベンチャープランニング」(以下,「ベンチャープランニング社」といい,これら4社をまとめて,「請求人ら」という。)が,主に商品「菓子(ティラミス)」や役務「飲食物の提供」等について使用し,日本及びシンガポールにおいて周知性を有していると主張するものである。
以下,請求人が引用商標を使用して販売する商品「菓子(ティラミス)」を「請求人商品」という。

第3 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。
1 周知商標について(商標法第4条第1項第15号,同項第19号関係)
(1)シンガポールで引用商標が周知となる経緯
The Tiramisu Hero Cafeは,シンガポールで,2012年から営業を開始し,ティラミスヒーローを立ち上げた。代表者のPeggy(ペギー)は,元々シンガポールで著名なブロガーであり,当初,自分のブログにて宣伝をし,シンガポールにおいて引用商標が人気になった(甲12,甲16?甲18)。
(2)日本で引用商標が周知となる経緯
ベンチャープランニング社がHero Holdings Pte Ltdより正式に日本での販売依頼を受け,請求人商品の日本での販売を開始した。2018年4月には,ティラミスヒーロー社及びティラミスヒーロージャパン社を設立し,その後は請求人商品を現在に至るまで販売し,さらに売り上げを伸ばしている。
(3)催事での実績(日本での使用)
請求人商品は,日本のデパート等の催事に多数の出店実績がある(甲1)。
2014年から2018年まで,継続して合計およそ200回程度の催事に出店しており,これらは全て,有名なデパート等での出店である。また,地域的に見ても東京,千葉,神奈川,埼玉,茨城,群馬,山梨の関東地方のみならず,北海道,宮城,山形,福島,長野,大阪,福岡等の合計27都道府県において催事で出店している。これは,いうまでもなく,47都道府県の6割近い都道府県であり,全ての地方(北海道,東北,北陸,中部,関東,関西,四国,中国,九州)において出店していることになる。
(4)雑誌での実績(日本での使用)
請求人商品は,雑誌にも多数の掲載実績がある(甲2)。
例えば,「HANAKO」を見ると,「楽天で4ヶ月待ち」という記載がある。その他の多くの雑誌においても,「4ヶ月待ち」という記載があり,高い人気と周知性がうかがえる。また,甲第2号証のシンガポール旅行のガイドブックからは,シンガポールの本店が有名となっている事実がわかる。シンガポールの本店が日本人にとって観光スポットとなっているのは,日本においてティラミスヒーロー社が販売する請求人商品が「シンガポールの有名店発のティラミス」として著名であることも大きな要因であり,これは,日本における請求人商品の周知性が高い証拠にもなる。
(5)テレビでの実績(日本での使用)
請求人商品は,テレビでも多数の報道実績がある(甲3)。2015年から2018年に至るまで,少なくとも17回,テレビで取り上げられている。
甲第3号証から,請求人商品は,テレビに多数取り上げられているのみならず,エンドユーザーからの人気の度合いが著しいことがわかる。そして,ここでは,4ヶ月待ち,行列ができる,シンガポール発であることが繰り返し述べられている。
(6)ウェブでの使用実績(日本での使用)
引用商標は,ウェブでも多数の使用実績があり,周知性が高いことは明らかである(甲4)。楽天ショップでの使用では,2016年5月に「SHOP OF THE MONTH」を受賞したことが表示されている。ツイッターには,2013年にアカウントを登録し,5382人のフォロワーがいる。インスタグラムには,ツイッターより歴史が浅いのにもかかわらず,既に1788人のフォロワーがいる。
(7)取引実績(日本販売店)(甲5)
ア 全体の売上累計金額
日本での請求人商品の年度別売り上げは,例えば,本件商標が出願された2017年の売り上げはおよそ2億5500万円である。ティラミスという限られた商品だけにもかかわらず非常に大きな売り上げがあり,周知性が高いことは明らかである。
イ 百貨店での売上累計金額
今までの百貨店催事での売上合計金額は7億3599万9969円で,これはティラミスの単価を680円とすると,催事のみでも108万2352個を販売している事になる。
ウ 百貨店売上他社との比較
2018年2月28日から3月2日までの,京都伊勢丹での売上をテナントごとに記録した資料を見ると,ティラミスヒーローの売り上げが,出店企業の中で一番大きいのがわかる。
エ 楽天ショップでの売上累計金額
楽天ショップでの累計売上金額は7504万650円で,これはティラミスの平均単価を600円とすると,楽天ショップだけでも12万5067個を販売している事になる。
オ 瓶の購入量
請求人商品は,瓶入りティラミスであり,日本のティラミスヒーロー販売店では,ティラミスを作るために大量の瓶を購入している。瓶の購入量は,今まで合計147万6668本,金額にして4476万3031円分(審決注:「4475万3031円分」の誤記と認める。)の瓶を購入している。
カ ラベルの購入量
ティラミスヒーローのラベルの購入量は,今まで,合計枚数141万枚,金額にして4291万円分である。なお,この数字には,請求人商品以外のもののラベルが12万枚含まれているが,その他は請求人商品のラベルである。
キ 生クリームの購入量
日本における請求人商品の販売店の生クリームの購入量は,記録に残っているもので,今まで合計3023万1177円分である。この金額を元に計算すると,生クリームの合計購入量は3万4141キログラム分に相当し,およそティラミス136万5640個分となる。
ク ズームインサタデー全国うまいもの博 売上(他社比較)
2018年にティラミスヒーローがズームインサタデー全国うまいもの博に出店した時の売上においては,多くの有名店が出店する中,ティラミスヒーローは3位にランクインしている。
2 商標権者の不正目的について(商標法第4条第1項第7号,同項第19号関係)
(1)関連会社の説明
(a)「株式会社gram」は本件商標権者であり,(b)「株式会社HERO’S」(以下「HERO’S社」という。)は本件商標権者の関連会社でティラミスヒーローのフランチャイズを募集している会社であり,(c)「株式会社gram-cube」も本件商標権者の関連会社であって,いずれも,「同じ人物が代表取締役」を務める会社である(甲10)。
(2)虚偽広告について
HERO’S社は,2018年9月頃から,雑誌アントレ及び自社のホームページなどで,「ティラミスヒーローのフランチャイズを募集する」旨の広告を掲載している。しかしながら,HERO‘S社と請求人らとの間には,何の関係もなく,フランチャイズ契約に関する約束事もなく,また,このHERO’S社やその関連会社が「ティラミスヒーロー」という商品を大々的に発売した事実はないから,これらの広告の内容には明らかな虚偽があり,かつ,周知商標と出所の混同が起こることを狙った記載内容であることは明らかである。
甲第6号証は,2018年9月,HERO’S社が,株式会社リクルートキャリアの制作する雑誌「アントレ」に掲載した広告に関するものである。「アントレの担当者」が記載したもので,「不適切な広告」が掲載されてしまったことの「経緯」についてまとめた経緯書である。
「経緯書」において,「当社担当者が,HERO’S社との打ち合わせの際に貴社HPを提示され」と記載されている。HERO’S社の代表は,ティラミスヒーロー社のホームページを見せながら,アントレの担当者に対して自社の広告の作成を依頼したため,アントレの担当者は,HERO’S社がティラミスヒーロー社の関連会社であると誤解し,ティラミスヒーロー社のホームページに掲載されていた「催事における行列の写真」を広告内に使った(甲6)。HERO’S社は,その後も,アントレ担当者が作成した広告の原案を何度も確認しているが,その点について修正指示はしなかった。
この行為は,HERO’S社が周知商標である引用商標を知っていたことはもちろんのこと,その上で,あえて引用商標と混同が生じることを狙った,明らかな不正の目的での使用といえる。
なお,現状,当該広告を見た第三者から,ティラミスヒーロー社に対し「フランチャイズの募集」について問い合わせが複数きており,既に出所の混同が生じていることは明らかである。
HERO’S社は,雑誌アントレの他,ウェブサイトのアントレnetでも虚偽の広告を出している(甲7)。最初に2018年9月28日に公開された広告は,雑誌版と同じく,請求人らの写真が掲載されており,その他,雑誌版とほとんど同じ内容の虚偽が記載されている。次に10月26日更新の広告の中の「ココに注目!」というページでは,未だ一度もティラミスヒーローを販売していないのに「新しいパッケージ ティラミスヒーロー登場」,「この限定感がお客様の(中略)行列を作り出しているのです」などの記載をして,自分らがかつてからティラミスヒーローを販売して人気を博しているかのような虚偽の記載をしている。これは,当時既に周知となっていた請求人商品の人気にフリーライドする目的であることは明らかである。
(3)ロゴマークのデッドコピー
本件商標は,請求人らのロゴマークのデッドコピーである。
甲第9号証は,シンガポール本店や日本販売店のパソコンの中のデータ情報を示したものであるが,登録商標のロゴマークと完全に同一な商標や,ロゴマークのデザインの元になった猫のキャラクターが,出願日よりはるか昔,2012年に作成されていることがわかる。
甲第15号証は,日本の代理店が本件商標権者の出願前から本件商標と完全同一のロゴを使用していたことがわかる証拠である。
甲第16号証は,Hero Holdings Pte Ltdが本件商標権者の出願前から本件商標と完全同一のロゴを使用していたことがわかる証拠である。デザインの作成日や,請求人らのロゴマークの使用時期,周知性から考えて,登録商標は請求人らのロゴマークに依拠したものであることは明らかである。
このように本件商標をデッドコピーして商標登録する行為からも,本件商標権者の不正の目的がうかがえる。
(4)過去の出願
本件商標権者やその関連会社は,過去にもティラミスヒーロー関係だけでなく,様々な未登録周知商標を先取り的に商標登録出願しており(甲11),不正の目的があることは明らかである。
3 商標法第3条第1項柱書について
自分が使用しないのに防衛目的で登録ができるのは防護標章登録制度に限られるにもかかわらず,本件商標に係る異議2018-900303において,本件商標権者は「本件の猫のキャラクターの商標登録は自社にとって重要な商標の周辺商標について防衛目的で取得したもの」と明言している。
そして,本件商標(猫の図柄付きのロゴ)は他人の著作権と抵触するものであるから,商標法第29条の規定により,本件商標権者は商標の使用をできないのは明らかである。
また,「株式会社gramからの文書」(甲19)においても,商標権者が本件商標を防衛目的で取得したことが明言されている。
以上のことから,本件商標は,商標法第3条第1項柱書に違反しているものである。
4 結論
引用商標は,日本全国及びシンガポールにおいて顕著な周知性を有している。請求人らが引用商標を使用しているのは,主に菓子(第30類)や飲食物の提供(第43類)であり,本件商標権者の指定商品の内第29類(乳製品,冷凍食品等)に関しては区分が異なるが,同じ食品の分野でこのような完全同一の商標を使用された場合,出所の混同が起こることは明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
しかも,自社とは関係のないホームページを見せ,「フランチャイズを依頼された」との虚偽の説明をするなど,明らかな不正の目的があるため,商標法第4条第1項第19号にも該当する。
さらに,他者の未登録周知商標を先取りする行為を繰り返し行っている悪質な権利の濫用行為と考えると,商標法第4条第1項第7号にも該当する可能性がある。
また,被請求人は,本件商標を自己が使用する意思がないのに商標登録したことは明らかであるから,商標法第3条第1項柱書に違反している。
したがって,本件商標は,無効にすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対し何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 請求人適格について
請求人の提出に係る証拠を総合すれば,請求人は本件審判について請求人適格を有するものと認められる。
よって,以下,本案に入って審理する。
2 引用商標の周知性について
請求人の主張及び提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(1)引用商標1は,前記第2のとおり,「ティラミスヒーロー」の文字からなるものであり,引用商標2は別掲2のとおりの構成よりなるところ,シンガポールの本社「Hero Holdings Pte Ltd」は,2012年8月,シンガポールで「The Tiramisu Hero」を創業し,2013年7月に「ティラミス」を販売,提供する「The Tiramisu Hero CAFE」をオープンした。当該カフェにおいて,「THE TIRAMISU HERO(the tiramisu hero)」の文字及び様々なポーズの猫のキャラクターを店舗及び商品「ティラミス」の包装容器等に表示した(甲4,甲12)。
(2)請求人(ベンチャープランニング社)は,「Hero Holdings Pte Ltd」より日本での販売依頼を受け,2013年8月から,「ティラミスヒーロー」の販売を開始した(甲4,甲14,請求人の主張)。2018年4月には,ティラミスヒーロー社及びティラミスヒーロージャパン社を設立し,その後,ティラミスヒーローを現在に至るまで販売している(甲4,請求人の主張)。
(3)請求人らが「ティラミスヒーロー」を日本の有名デパート等の催事に出店した回数は,甲第1号証の出店情報によれば,2014年から2018年まで,合計およそ200回程度あり,東京,千葉,神奈川,埼玉,茨城,群馬,山梨の関東地方のみならず,北海道,宮城,山形,福島,長野,大阪,福岡等の合計27都道府県において出店していたことがうかがえる。
これは,47都道府県の6割近い都道府県であり,全ての地方(北海道,東北,北陸,中部,関東,関西,四国,中国,九州)において出店していたことがうかがえるものである。
上記催事の出店情報(甲1)によれば,出店場所は,エキュート品川,柏高島屋,マルイ池袋,マルイ新宿,日本橋高島屋などの有名百貨店等であり,エキュート品川,高島屋柏店,丸井サンシャイン池袋店における催事写真には,商品を展示するショーケース等に,「ティラミスヒーロー」の表示がある。また,催事用の看板等(甲15)には,「ティラミスヒーロー」の表示に加え,引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある。
そして,上記催事の中には,例えば以下のアないしウのように,ウェブサイトにおいて紹介されたものもある(甲15)。
ア GroumetBizのウェブサイトにおいて,2014年11月14日付けで,「高級マスカルポーネチーズとイタリア産ビスケットを使用したシンガポールの有名ティラミス店『ティラミスヒーロー』,町田マルイに11月19日?25日期間限定オープン。」の見出しの下,「町田マルイ・・・は,2014年11月19日(水)から11月25日(火)まで,『ティラミスヒーロー』を期間限定オープンすることを発表した。」「2013年にシンガポールでオープンしたスイーツ・ティラミスの有名店『ティラミスヒーロー』。」との記載及び引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある。
イ FASHION PRESSのウェブサイトにおいて,2015年4月23日付け更新の記事として,「シンガポール発のティラミス専門店『ティラミスヒーロー』マルイシティ横浜に限定出店」の見出しの下,「2015年4月24日(金)から5月10日(日)まで,シンガポール発の人気スイーツ店『ティラミスヒーロー』が,期間限定ストアをマルイシティ横浜にオープンする。『ティラミスヒーロー』は,2013年シンガポールにオープンしたティラミスの専門店。・・・インターネットでは4ヶ月待ちになるほどの人気店の味を,この機会に是非一度体感してみてはいかがだろう。」との記載及び引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある。
ウ PRTIMESのウェブサイトにおいて,2015年6月1日付けで,「ネットでは4ヶ月待ち!?シンガポールの有名店『ティラミスヒーロー』が北千住マルイに期間限定で登場」の見出しの下,「北千住マルイ・・・では,6月3日(水)から6月16日(火)まで食遊館B1Fイベントスペースにて『ティラミスヒーロー』を期間限定で販売します。」「様々なイベントで大好評の『ティラミスヒーロー』は,2013年シンガポールにオープンしたティラミスの人気店。」との記載及び引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある。
(4)請求人商品に関する記事は,複数の雑誌,ガイドブック等に掲載されたことがうかがえ(甲2),例えば,雑誌「SAKURA SAKU LIFE 2014.March vol.122」には,請求人商品が,「ティラミスヒーロー」の文字及びウェブサイトのアドレスとともに掲載されている。
(5)請求人商品は,2015年から2018年に至るまで,少なくとも17回,日本テレビ,フジテレビ,TBSテレビ,テレビ東京等で取り上げられたことがうかがえ(甲3,甲15),請求人商品が,話題の人気商品として,引用商標2と同一の態様からなる商標や「シンガポール発」,「ティラミスヒーロー」,「人気行列店」,「4か月待ち」等の字幕とともに紹介されている。
また,複数のウェブサイトにおいても,請求人商品が紹介されており,例えば,Qrunのウェブサイトにおいて,2016年7月29日付けで,「見た目に思わず一目惚れ 美味しく可愛い『ティラミスヒーロー』って?」の見出しの下,「『ティラミスヒーロー』みなさんはご存じでしょうか。美食で有名なシンガポールで絶大な人気を誇る,ほっぺが落ちるほど美味しいティラミスのことなんです。日本でもじわじわ人気となり,今では4ヶ月待ちの人気スイーツに!今回はそんな人気スイーツ『ティラミスヒーロー』についてご紹介いたします。」との記載及び引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある(甲15)。
(6)請求人がティラミスヒーローの公式ウェブサイトと主張するもの(甲4)には,「Since 2012(Authored by Aileen and Peggy)【シンガポールの有名店ティラミスヒーローが日本上陸!】」との記載及び引用商標2と同一の態様からなる商標の表示がある。
また,請求人が楽天ショップのウェブサイトと主張するもの(甲4)には,2016年5月に「SHOP OF THE MONTH(2016年5月モバイル スイーツ・お菓子ジャンル賞)」を受賞したことが記載されるとともに,引用商標2と同一の態様からなる商標が表示されている。
そして,ツイッターにおけるティラミスヒーローのアカウントは,2013年6月に登録されており,2018年12月16日時点で5382人のフォロワーがおり,インスタグラムにおけるティラミスヒーローのアカウントには,2018年12月16日時点で1788人のフォロワーがいる。
(7)日本での請求人商品の取引実績(数量,金額等)(甲5)
ア 全体の累計売上
日本での請求人商品の年度別売り上げは,2014年度が約2千900万円,2015年度が約1億2600万円,2016年度が約2億2400万円であり,本件商標が出願された2017年度の売り上げは約2億5500万円である。
イ 百貨店での売上累計金額
2014年ないし2018年の百貨店催事での売上合計金額は7億3599万9969円である。
ウ 楽天ショップでの売上累計金額
2014年ないし2018年の楽天ショップでの累計売上金額は7504万650円である。
エ ズームインサタデー全国うまいもの博売上(他社比較)
2018年に請求人らがズームインサタデー全国うまいもの博に出店した時の売上は,全体で3位にランクインしている。
(8)上記によれば,Hero Holdings Pte Ltdは,シンガポールにおいて,2012年8月にシンガポールで「The Tiramisu Hero」を創業し,2013年7月に「ティラミス」を販売・提供する「The Tiramisu Hero CAFE」(ティラミスヒーロー)をオープンし,我が国においては,2013年8月から請求人商品の販売を開始したことが認められ,また,遅くとも,2014年1月から百貨店の期間限定の催事に出店し,その後も継続的に期間限定の催事に出店していることがうかがえる。そして,催事への出店については,複数のウェブサイトにおいて,その開催場所や日時が紹介されるとともに,請求人商品がシンガポールで人気のスイーツであって,日本においても人気がでており,4ヶ月待ちの商品となっていることも記載されている。
そして,「ティラミスヒーロー」の文字は,2014年3月1日,2015年1月22日付け等の雑誌における請求人商品に関する記事において表示され,また,2015年3月1日,同月9日,同年8月17日等のテレビ放送の番組や2016年7月29日付け等のウェブサイト上の記事において,話題の人気商品として,請求人商品が引用商標2と同一の態様の商標や「ティラミスヒーロー」等の表示とともに紹介されたことが認められるところ,これらは,いずれも本件商標の登録出願前である。
してみると,請求人商品は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,既に我が国において,シンガポールからきた人気商品であることを宣伝文句として,百貨店等の催事において販売されていたこと,及び請求人商品が雑誌,ウェブサイト等において人気商品として紹介され,テレビにおいても紹介されたことがうかがえることから,請求人商品は,我が国においてある程度知られていたものといえる。
3 請求人らと被請求人との関係について
雑誌「アントレ」において,ティラミスヒーローのフランチャイズを募集したHERO’S社をはじめ,被請求人と請求人らとの間には,請求人商品に関するフランチャイズ契約等の契約関係が存在していた事実は確認できない。
また,雑誌「アントレ」の担当者(以下「アントレ担当者」という。)が,ティラミスヒーローのフランチャイズの募集に関する広告を掲載した際の経緯をまとめた「経緯書」(甲6)によれば,HERO’S社が,アントレ担当者にティラミスヒーロー社のホームページを提示しながら,自社の広告の作成を依頼したことから,アントレ担当者はHERO’S社がティラミスヒーロー社の関連会社であると誤解をした。
そして,アントレ担当者は,ティラミスヒーロー社のホームページに掲載されていた「催事における行列の写真」を使用した広告案を作成し,数度にわたり,HERO’S社に確認依頼をしたものの,修正指示はなされなかった。
以上からすると,本件商標権者は,請求人商品や引用商標の存在を知った上で,請求人らと何ら関係がないにも関わらず,請求人らに無断で,ティラミスヒーロー社のホームページに掲載されていた「催事における行列の写真」を用い,フランチャイズ募集に関する広告を行ったものである。
4 引用商標の独創性及び本件商標と引用商標との類否について
(1)本件商標と引用商標1について
引用商標1は,上記第2のとおり,「ティラミスヒーロー」の片仮名からなるところ,当該構成は,「ティラミス」の文字及び「ヒーロー」の文字を結合させたものと容易に理解され,いずれの語も我が国で親しまれているものであるが,構成文字全体としては特定の意味を有する語として知られているものではなく,一種の造語として認識し,把握されるものであるから,日常的に使用されているような成語に比べて,その独創性は相当程度高いといえる。
他方,本件商標は,別掲1のとおり,手書き風の「THE TIRAMISU HERO」の欧文字(以下「欧文字部分」という。)の「SU HERO」の文字の上部に,黒いマントとアイマスクを身に着け,4本の足を上部に向けて垂直に伸ばして仰向けにした猫の図形を,当該文字の「S」及び「U」の文字の上部に頭部が,末尾の「O」の文字の上部に尾の先が表示されるように配した構成からなるものであるところ,欧文字部分の構成中の「THE」の文字は英語の定冠詞であることが広く知られているものであって,自他商品の識別標識としての機能がないか又は極めて弱いものとして認識されるものである。
また,本件商標の欧文字部分中,「TIRAMISU」の文字は「(イタリア料理)ティラミス」の意味を,「HERO」の文字は「英雄」等の意味を有する英語(いずれも「ランダムハウス英和大辞典」株式会社小学館発行)として広く知られているものである。
そして,商標の使用において,商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変更して表示することは一般に行われていることであるところ,本件商標の欧文字部分中「TIRAMISU HERO」の文字と,引用商標1とは,それぞれが互いに文字種を変更したにすぎないものであるから,その類似の程度は相当程度高いものである。
(2)本件商標と引用商標2について
引用商標2は,別掲2のとおり,手書き風の「THE TIRAMISU HERO」の欧文字及びその上部に黒いマントとアイマスクを身に着け,仰向けにした猫の図形を配した構成からなるものであって,その構成全体が,識別標識として強い印象を与える極めて特徴的な商標というべきものであるから,その独創性は高いものである。
他方,本件商標は,上記(1)のとおり,手書き風の「THE TIRAMISU HERO」の欧文字及びその上部に黒いマントとアイマスクを身に着け,仰向けにした猫の図形を配した構成からなるものであるから,本件商標と引用商標2とは,同一又は酷似するものであることは明らかである。
5 商標法第4条第1項第7号の該当性
(1)商標法第4条第1項第7号の意義
商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は,商標登録を受けることができないとしている。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号,同18年9月20日判決参照)。
以下,本件商標が,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるかについて,上記判決の観点から検討する。
(2)判断
本件商標は,上記4(1)のとおり,引用商標1との関係においては,「TIRAMISU HERO」と「ティラミスヒーロー」は文字種を変更したにすぎず,その類似の程度は相当程度高いものであり,また,上記4(2)のとおり,引用商標2との関係においては,両者は同一又は酷似するものである。
そして,本件商標は,上記第1のとおり,その指定商品中に,「ティラミス」の原材料等を含む第29類に属する商品を含むものである。
また,請求人商品は,上記2(8)のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,既に我が国において相当程度知られていたものである。
そして,被請求人と請求人らとの間には,請求人商品に関するフランチャイズ契約等の契約関係が存在していた証拠はないものである。
さらに,本件商標と,引用商標1とは類似の程度が相当程度高いものであって,また,引用商標2とは同一又は酷似するといえるものであるところ,本件商標権者が引用商標を知り得ることなく,両者が偶然に一致したとは想定し難く,むしろ,引用商標が催事における店舗,雑誌記事,テレビ放映の字幕,ウェブサイト等において表示されていたことからすれば,引用商標は,何人も容易に知り得る状況にあったものといえることから,本件商標権者は,引用商標の存在を知った上で,これが商標登録出願及び商標登録されていないことを奇貨として,先取り的に,不正な目的をもってひょう窃的に出願したものと優に推認できるものである。
このような行為に係る本件商標は,前記アの(a)ないし(d)には該当するものではないものの,「(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合」に該当するものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
付言するに,当審は,本件商標の登録は,審判請求人が主張する商標法第4条第1項第15号及び同項第19号には該当せず,同法第3条第1項柱書にも違反しないものと判断する。
よって,結論のとおり審決する。

別掲

別掲1 本件商標


別掲2 引用商標2



審理終結日 2021-01-19 
結審通知日 2021-01-21 
審決日 2021-02-26 
出願番号 商願2017-161654(T2017-161654) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W29)
T 1 11・ 18- Z (W29)
T 1 11・ 22- Z (W29)
T 1 11・ 222- Z (W29)
最終処分 成立  
前審関与審査官 駒井 芳子押阪 彩音 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 平澤 芳行
須田 亮一
登録日 2018-08-17 
登録番号 商標登録第6073226号(T6073226) 
商標の称呼 ザティラミスヒーロー、ザチラミスヒーロー、ティラミスヒーロー、チラミスヒーロー、チラミス、ヒーロー 
代理人 特許業務法人アイリンク国際特許商標事務所 

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