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審決分類 |
審判 一部取消 商標の同一性 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z25 |
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管理番号 | 1370963 |
審判番号 | 取消2019-300529 |
総通号数 | 255 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2021-03-26 |
種別 | 商標取消の審決 |
審判請求日 | 2019-07-09 |
確定日 | 2021-01-07 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第2308182号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第2308182号商標の指定商品中、第25類「被服」のうち、「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,タンクトップ,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第2308182号商標(以下「本件商標」という。)は、「サラサラ」の片仮名、「SALA-SALA」の欧文字、「沙羅沙羅」の漢字及び「さらさら」の平仮名を四段に横書きしてなり、昭和63年12月28日に登録出願、第17類に属する商標登録原簿記載の商品を指定商品として、平成3年4月30日に設定登録され、その後、同13年1月23日に商標権の存続期間の更新登録がされ、同年9月19日に、指定商品を第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」及び第25類「被服」とする指定商品の書換登録がされ、その後、同23年4月5日に商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。 そして、本件審判の請求の登録は、令和元年7月25日になされたものであり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、平成28年7月25日から令和元年7月24日までの期間(以下「本件要証期間」という。)である。 第2 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第16号証(以下、証拠の表記に当たっては、「甲(乙)第○号証」を「甲(乙)○」のように、「第」及び「号証」を省略して記載する。)を提出している。 1 請求の理由 本件商標は、本件商標の指定商品中、第25類「被服」のうち、「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,タンクトップ,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」(以下「取消請求商品」という。)について、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。 2 答弁に対する弁駁 被請求人は、令和元年11月25日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)において、本件商標に係る使用事実を証明する証拠として乙1ないし乙12を提出している。 しかしながら、これら各証拠は、被請求人が、本件商標を本件要証期間内に日本国内において使用していた事実を証するものではない。 (1)被請求人が使用する標章 被請求人が使用する標章は、平仮名の「さ」を「ら」より一段上に書し、「さ」の上端一部と「ら」の上端一部を細線で結んだ「さら」の語を、左右に2つ書してなる別掲に示すもの(以下「使用商標1」という。)又は「さらさらパンス」(以下「使用商標2」という。)であり、本件商標ではない。 このことは、被請求人が、後記第3の1(1)アで自認していることからも明らかである。 使用商標1に係る「さらさら」及び使用商標2に係る「さらさらパンス」は、本件商標と同一又は社会通念上同一と認められる商標ではない。 (2)使用商標1について 被請求人は、商品「パンティストッキング」に本件商標の使用をしている旨主張し、乙3を提出しているが、同証拠によっては本件商標の使用と認めることはできない。その理由は以下のとおりである。 ア 使用商標1は、商標として認識されない 乙3のパンティストッキングの口紙写真には、同じレタリングが施された「爽風を感じる爽やかさ」及び「さらさら」の文字を上下二段に表示し、その下に「涼感シアータイプ」、中央にはスカートを履いた女性の写真、右半分中央部には「UV対策加工」の文字、その下に「つま先補強」の文字が表示されている。 ここで、乙6によれば、「さらさら」の文字は、被請求人が示した観念のほか、「油気・粘り気・湿気がなく心地よく乾いているさま。」の意味を有するとされている。そして、甲3ないし甲7によると、被服及び商品「パンティストッキング」を取り扱う分野において、「さらさら」の語は、「汗等で身体或いは足が蒸れてべとつかず、心地よく乾いている」程の意味合いで商品の品質・機能を表示する語として一般的に使用されている語であるということができる。 そうすると、使用商標1の取引者・需要者等は、該文字を商品の機能を記述的に記載する語である「爽風を感じる爽やかさ」、「涼感シアータイプ」、「UV対策加工」及び「つま先補強」と同様に、「足がべとつかず、爽快感があるパンティストッキング」という商品の品質を標榜するための記述的表現であると認識するとみるのが相当であると考えられる。 実際に、乙3の第2葉目の右中央部には、「高機能素材シデリア(登録商標)」の説明として、「…肌への密着度が低くベタつき感が少ないのでさらさら、快適に着用できるストッキングを実現しました。」と記載されており、「さらさら」の文字が商品の機能を標榜するための記述的表現として使用されているのが認められる。 そうすると、使用商標1の「さらさら」の文字も同様に、商品の機能を標榜するための記述的表現として使用され、取引者・需要者等に認識されているにすぎないと認めることができると考える。 よって、使用商標1に係る「さらさら」の文字の使用は、商標本来の機能である自他商品の識別機能を果たす態様として使用されていると認めることはできない。 したがって、使用商標1は、本件商標と同一又は社会通念上同一と認められる商標の使用とは認められない。 イ 使用商標1は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標ではない (ア)外観 乙3に表示された使用商標1は、前記(1)のとおり、平仮名の「さ」を「ら」より一段上に書し、「さ」の上端一部と「ら」の上端一部を細線で結んだ「さら」の語を左右に2つ書してなるものである。一方、本件商標は、「サラサラ」、「SALA-SALA」、「沙羅沙羅」及び「さらさら」の語を四段書きしてなる。 そうすると、本件商標と使用商標1とは外観において明らかに異なる。 さらに、以下に詳述するとおり、本件商標は、各段より生じる観念がそれぞれ一致するとはいえないから、審判便覧53-01の「(2)登録商標の使用の認定に関する運用の事例」「ア」「(エ)」「例2」の事例(以下「本件便覧事例」という。)に当てはまらない。 そうすると、本件商標と使用商標1とは、社会通念上同一と認められる商標であると認めることはできない。 (イ)観念 被請求人は、答弁書において、四段構成からなる本件商標のうち、一段目の「サラサラ」、二段目の「SALA-SALA」及び三段目「沙羅沙羅」からは「サラサラ」の称呼が生じ、このうち一段目及び二段目からは「乾燥した葉や小粒のものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」(乙6)や「物が軽く触れあってたてる音などを表す語。また、風や雨、雪、波などの音、水の浅く流れる音などを表す語。」(乙7)の観念が生じると主張し、三段目の「沙羅沙羅」については、特定の観念が生じないとも考えられるが、該語については平均的な日本人であれば大多数の者が「サラサラ」と可読できるから、「サラサラ」と可読できる以上は、乙6や乙7に掲載された観念と同一の観念を想起するであろうと考えられる旨主張する。 しかしながら、一段目の「サラサラ」及び四段目の「さらさら」からは、被請求人が主張する観念が生じるというよりは、むしろ、上述のとおり、商品「パンティストッキング」との関係において、「汗等で身体或いは足が蒸れてべとつかず、心地よく乾いている」程の観念を生じるとみるのが相当である。 そして、いずれの観念が生じるとしても、該語は、乙6及び乙7のとおり、通常「さらさら」と平仮名で表現されるものであり、これを欧文字表記すれば「SARA-SARA」となるのが通常であって、二段目の「SALA-SALA」の態様で表記されると一般的に理解されているとはいい難く、よって、「SALA-SALA」は特定の観念を生じない造語であると認識されるため、被請求人が主張する前記の観念を生じるものとはいえない。 また、「沙羅沙羅」の語は、「木の名。フタバガキ科の常緑樹。」(甲11)や、「植物。インド原産の常緑大高木。サラソウジュ(沙羅双樹)の別称」(甲12)の意味を有する「沙羅」の畳語からなると一般的に認識されると考えられ、さらに、平均的な国語教育を受けた日本人であれば、「沙羅」の語より、有名な古典である「平家物語」の冒頭の一節にある「沙羅双樹」を連想すると考えるのが相当であるといえる。 なお、商品「パンティストッキング」の分野において「沙羅沙羅」の語が「汗等で身体或いは足が蒸れてベとつかず、心地よく乾いている」という意味合いで一般的に使用されている事実も見受けられない。 よって、本件商標の一段目「サラサラ」及び四段目「さらさら」と、二段目「SALA-SALA」及び三段目「沙羅沙羅」の各部は、それぞれ観念を同一とするとは認められず、この場合、使用商標1と本件商標とは、本件便覧事例に当てはまらない。 (ウ)小括 以上より、使用商標1が本件商標の各段と同一の称呼を生じるとしても、商品「パンティストッキング」の分野において、「さらさら」の語は「汗等で身体或いは足が蒸れてべとつかず、心地よく乾いている」という意味合いで一般的に使用されていることから、本件商標中、欧文字部分の「SALA-SALA」及び漢字部分の「沙羅沙羅」が想起されるとはいえないから、使用商標1と本件商標は、観念上同一のものということができないし、外観においても異なるものであるから、社会通念上同一と認められる商標とはいえない。 (3)使用商標2について 被請求人は、乙4として、「さらさらパンス」と記載された納品書(控)を提出しているが、同証拠によっては本件商標の使用と認めることはできない。 その理由は以下のとおりである。 ア 称呼 納品書(控)(乙4)には品名「さらさらパンス」とスペースを空けずにまとまりよく一連一体に記載されており、被請求人の商品が「サラサラパンス」と称呼され、取引されていることが確認できる。 イ 観念 使用商標2に表示された「さらさらパンス」の語からは特定の観念が生じない一方、本件商標からは、前記のとおり、「沙羅双樹」の意味を有する「沙羅」の語の畳語であると認識される。 ウ 外観 使用商標2に表示された「さらさらパンス」は、「さらさら」の平仮名と「パンス」の片仮名より構成されるのに対し、本件商標は「サラサラ」、「SALA-SALA」、「沙羅沙羅」及び「さらさら」の語を上下四段に書してなる。 エ まとめ 以上より、使用商標2と本件商標とは、外観、称呼、観念が明らかに異なり、同一または社会通念上同一と認められる商標と認めることはできない。 (4)結語 以上のとおり、乙1ないし乙12によっては、被請求人の主張(すなわち、使用商標1及び使用商標2と本件商標との社会通念上同一性に係る主張)は立証されていない。 したがって、被請求人は、本件商標を本件要証期間内に日本国内において、取消請求商品のいずれについても使用していなかったものというべきである。 第3 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙1ないし乙12を提出している。 1 答弁の理由 (1)本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)は、「さらさら」の標章を、乙3に係る商品「パンティストッキング」(以下「本件パンティストッキング」という。)に使用した。 ア 乙3の写真に示すとおり、使用商標1は、本件パンティストッキングの口紙写真の表面上段には、青色の太文字で「さらさら」を記載している。この「さらさら」の文字構成において「さ」の上端一部と、「ら」の上端一部とを細線で結んでいる。 そして、商標権者は、本件パンティストッキングを、本件要証期間内である2019年2月28日に、株式会社エーダイニット(以下「エーダイニット社」という。)に販売した。 エーダイニット社に納品したことを示す納品書(控)(乙4)の品名欄には、「さらさらパンス」と番号「138-1003」が併記されている(以下、「さらさらパンス」の構成中の「さらさら」を「使用商標3」といい、使用商標1と併せて「被請求人主張使用商標」という。)。この番号は、乙3の裏面写真の下段に貼付されたシールに記載された番号「138-1003」と同じであり、当該納品に係る商品が本件パンティストッキングであることがわかる。 また、当該納品書(控)には伝票番号「117958」が記載されているところ、当該納品書(控)に対応するエーダイニット社への請求書(控)(乙5)の第5頁には、納品書番号「117958」が表示されており、当該納品書(控)の伝票番号と当該請求書(控)の納品書番号は、同一であることから、当該請求書(控)に係る商品が本件パンティストッキングであることが確認できる。 イ 本件パンティストッキングは、取引者及び需要者の視点から実質的に見れば「靴下」であり、これは取消請求商品に包含される。 ウ 以上のことから、商標権者は、被請求人主張使用商標を本件要証期間内に日本国内で指定商品「靴下」について使用したことは明らかである。 (2)社会通念上同一と認められる商標の使用 ア 本件商標は、四段構成であるが、被請求人主張使用商標は、「さらさら」である。 本件商標の構成のうち一段目の「サラサラ」及び二段目の「SALA-SALA」の構成からは、同一称呼の「サラサラ」が生じる。これらの称呼に対応する観念は、広辞苑第七版(乙6)によれば、「乾燥した葉や小粒のものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」であり、国語大辞典(乙7)によれば「物が軽く触れあってたてる音などを表す語。また、風や雨、雪、波などの音、水の浅く流れる音などを表す語。」とあるとおりである。一方、三段目の「沙羅沙羅」については、これが四字熟語でもなく、学研漢和辞典(乙8)、旺文社辞典forWebベーシック(乙9)及びweblio(乙10)でも意味が付与されない。このため、特定の観念は生じないとも考えられるが、該語については、平均的な日本人であれば大多数の者が「サラサラ」と可読できる。そうすると、三段目の「沙羅沙羅」からは、乙6や乙7に掲載された観念と同一の観念が想起されるであろうと考えられる。 つまり、被請求人主張使用商標「さらさら」は、本件商標の構成中、「サラサラ」、「SALA-SALA」及び「沙羅沙羅」と、称呼及び観念を共通にする。 よって、当該商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。 イ 審判便覧53-01の「登録商標の使用の認定に関する運用の事例」には、登録商標の使用と認められる事例が掲げられて、これに含まれる本件便覧事例の運用に鑑みれば、被請求人主張使用商標「さらさら」は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。 ウ 平成22年(行ケ)第10336号判決(乙12)によれば、取消請求に係る登録商標の三段構成でなる構成のうち上段の「YUJARON」と中段の「ユジャロン」について称呼と観念が共通すれば、最下段のハングル文字について称呼や観念が生じないとしても、「YUJARON」又は「ユジャロン」の一方又は双方が使用標章であれば、使用標章と取消請求に係る登録商標とは社会通念上同一の商標であると判断されている。 翻って、本件商標の場合、三段目の「沙羅沙羅」からは、他の構成と同一の称呼及び観念が生じることから、この裁判例に鑑みても、被請求人主張使用商標「さらさら」は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標といえる。 (3)まとめ 前記のとおり、商標権者は、取消請求商品に係る「靴下」について本件要証期間内に本件商標と社会通念上同一である商標を使用していることは明らかである。 2 審尋に対する回答書(令和2年10月5日付け) 合議体は、後記第4のとおりの内容を要旨とする合議体の暫定的見解を示す審尋(令和2年8月31日付け)を被請求人に対して送付したところ、被請求人は要旨以下のように回答した。 (1)「さらさら」の平仮名からなる標章は、本件商標と社会通念上同一といえるか 本件商標の二段目の「SALA-SALA」及び三段目の「沙羅沙羅」の文字を一段目の「サラサラ」及び四段目の「さらさら」と併せてみると、「SALA-SALA」及び「沙羅沙羅」の文字は、「さらさら(サラサラ)」の一種の当て字であると容易に認識できる。なお、このことは、「SALA-SALA」が「さらさら(サラサラ)」のヘボン式ローマ字表記ではないことを理由に左右されるものではない。日本語表記からローマ字表記への置換が常にヘボン式に従って行われるとは限らず、また、平均的な日本人であれば「SALA-SALA」のローマ字及び「沙羅沙羅」の漢字のいずれについても無理なく「サラサラ」と可読できるからである。 そうすると、「SALA-SALA」及び「沙羅沙羅」の文字からは、一段目の「サラサラ」及び四段目の「さらさら」と同様に、「サラサラ」の称呼が生じ、かつ、「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」の観念が生じる。 以上を踏まえ、本件便覧事例に鑑みれば、「さらさら」の平仮名からなる標章は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。 (2)審判便覧について 平成22年(行ケ)第10336号判決(乙12)を踏まえて、本件便覧事例をみると、「登録商標が二段併記等の構成からなる場合であって、上段及び下段等の各部が観念を同一とするときに、その一方の使用」は、社会通念上同一と認められる商標の典型例を示したものにすぎず、必ずしもこれに限定する趣旨のものではない。すなわち、本件便覧事例は、上段及び下段等の各部が別異の観念を生じるときは、その一方の使用では社会通念上同一の商標と認めないとするものであって、例えば、造語商標の場合などにおいて、上段及び下段等の各部のうち称呼又は観念が生じず他と比較できない部分が含まれていても、そのことをもって一律に、各部の観念が同一でないから社会通念上同一の商標と認めないとするものではない。このように解さないと、特定の観念を生じない造語を漢字、ローマ字、片仮名及び平仮名の四段併記で構成した商標にあっては常に四段併記が要求されることになりかねず、商標の記載スペースに余裕がなく一段書きを余儀なくされる場合に不都合が生じる。 そうとすれば、仮に、本件商標の構成中、「SALA-SALA」及び「沙羅沙羅」が特定の観念を生じないとしても、「さらさら」の標章は、一段目の「サラサラ」及び四段目の「さらさら」について称呼及び観念が共通するので、本件商標と社会通念上同一というべきである。 (3)使用する商標の選定について 商標権者が、使用する商標として「さらさら」の構成を採用したのは、納品先の小売店との商談の結果であり、今後においても、商標権者が使用する商標として本件商標の全部構成又はいずれかの部分構成を採用するのかは、小売店の要望を引き出して臨機応変に決定するものである。商標権者が、各部が同一の称呼及び観念が生じる四段書きの商標に係る商標権を取得したのも、かかる商標選定の実際の要請に応えるためである。 第4 被請求人に対する審尋(令和2年8月31日付け) 被請求人が靴下に該当する商品について使用したと主張する「さらさら」の平仮名からなる標章と本件商標とは、社会通念上同一であるとは認められない。 すなわち、「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」の意味合いを有する「さらさら」の文字と本件商標とは、本件商標の各段の文字からいずれも「サラサラ」の称呼が生じるといえるとしても、「SALA-SALA」の欧文字が「さらさら」の文字と同一の観念が生じるとはいい難く、「沙羅沙羅」の漢字は、これを構成する漢字の持つ意味合いからすれば、上記意味合いが生じるとはいえないから、当該標章と本件商標から生じる称呼が同一であるとしても、同一の観念が生じるとは認め難く、よって、当該標章は、本件商標と社会通念上同一であるとは認められない。 第5 当審の判断 1 認定事実 被請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下の事実が認められる。 (1)乙3は、「パンティストッキング」(本件パンティストッキング)の3枚の写真(3枚目の写真は、2枚目の写真の下部を拡大したものと思われる。)であるところ、その包装には、別掲で示す「さらさら」の平仮名からなる標章(使用商標1)が表示されている(乙3)。 また、2枚目の写真の下部には、「福助株式会社」及び「No.138-1003」の表示並びに「138-1003」の番号等が表示されたシールと思われるものが貼られている。 (2)2019年2月28日付けの納品書(控)には、取引先名として「福助((株)東日本総合営)」及び住所、左上に「(株)エーダイニット」、品名欄に「さらさらパンス」の文字(使用商標2)と「30 138-1003」の文字が上下二段に書され、伝票番号「117958」、原価金額合計及び数量「5」の記載がある(乙4)。 (3)2019年2月28日付けの請求書(控)は、商標権者である福助株式会社からエーダイニット社に宛てたもので、5葉目に日付「2019/2/28」、納品書番号「117958」、摘要「ストッキング」及び売上金額の記載がある(乙5)。 2 判断 前記1において認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。 (1)使用商品、使用時期及び使用者 商標権者からエーダイニット社に納品したことを示す納品書(控)記載の番号「138-1003」は、乙3の2枚目の写真の下部の「No.138-1003」の表示に係る番号及び下段に貼付されたシールに記載された番号「138-1003」と同じであり、当該納品に係る商品が本件パンティストッキングであるといえる。 また、当該納品書(控)には、伝票番号「117958」が記載されているが、エーダイニット社への請求書(控)(乙5)の第5頁にも、納品書番号「117958」が表示されており、当該納品書(控)の伝票番号と当該請求書(控)の納品書番号が同一であることから、商標権者は、本件パンティストッキングを本件要証期間内である2019年2月28日にエーダイニット社に納品(譲渡)したといえる。 そして、パンティストッキングは、ストッキングの一種であるところ、ストッキングが「長靴下」を意味する語であることからすれば、使用商品である「本件パンティストッキング」は、取消請求商品中の「靴下」の範ちゅうの商品といい得るものである。 (2)使用商標1及び使用商標2と本件商標との社会通念上同一性 ア 使用商標1について 前記第1のとおり、本件商標は、「サラサラ」の片仮名(以下「片仮名部分」という。)、「SALA-SALA」の欧文字(以下「欧文字部分」という。)、「沙羅沙羅」の漢字(以下「漢字部分」という。)及び「さらさら」の平仮名(以下「平仮名部分」という。)を四段に横書きしてなるものであり、使用商標1は、前記1(1)のとおり、「さらさら」の平仮名からなる標章である。 そこで、使用商標1と本件商標とを比較してみるに、使用商標1は「さらさら」の平仮名からなるものであり、「サラサラ」の称呼を生じ、当該文字は「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」([株式会社岩波書店 広辞苑第六版])の意味合いを有する、親しまれている語であることから、前記記載の観念を想起させるものといえる。 他方、本件商標は、各段の構成文字からいずれも「サラサラ」の称呼が生じるといえるとしても、欧文字部分の構成文字は、特定の意味合いを想起させるとはいえない造語であり、かつ、「さらさら」及び「サラサラ」の普通に用いられるローマ字表記ともいえないことからすれば、これより、「さらさら」の文字と同一の観念が生じるとはいい難い。また、漢字部分の構成文字は、特定の意味合いを想起させない造語ではあるものの、これを構成する漢字の持つ意味合いからすれば、前記の「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」といった意味合いが生じるとはいえない。 そうすると、使用商標1と本件商標から生じる称呼が同一であるとしても、両商標から同一の観念が生じるとは認められない。よって、使用商標1は、本件商標と社会通念上同一であるとは認められない。 イ 使用商標2について 使用商標2は、前記1(2)のとおり、「さらさらパンス」の文字からなる標章であるところ、「さらさらパンス」の文字は、前記第1に記載したとおりの構成からなる本件商標とは、その構成文字において、明らかに異なるものであり、本件商標と社会通念上同一の商標ということはできないものである。 なお、被請求人は、エーダイニット社に納品したことを示す納品書(控)(乙4)の品名欄「さらさらパンス」の構成中の「さらさら」の平仮名(使用商標3)についての使用も主張しているが、当該「さらさら」の平仮名についても、前記アと同様の理由で、本件商標と社会通念上同一の商標であるとは認められない。 3 被請求人の主張について (1)被請求人は、本件商標の欧文字部分及び漢字部分の各構成文字は、本件商標の平仮名部分の「さらさら」及び片仮名部分の「サラサラ」の一種の当て字であると容易に認識できるものであるから、欧文字部分及び漢字部分の各構成文字からは、片仮名部分及び平仮名部分の各構成文字と同様に、「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」の観念が生じる旨主張する。 しかしながら、本件商標の構成は、上部の二段をみれば、欧文字の上部に片仮名が配され、また、下部の二段をみれば、漢字の下部に平仮名が配された構成からなるところ、片仮名及び平仮名は、欧文字や漢字の上又は下にその読みを表すものとして、並記される場合が少なくないことに照らせば、むしろ、一段目の片仮名部分の構成文字が二段目の欧文字部分の構成文字の読みを表し、四段目の平仮名部分の構成文字が三段目の欧文字部分の構成文字の読みを表していると認識されるといえるとしても、本件商標に接した取引者、需要者が、欧文字部分及び漢字部分の各構成文字が片仮名部分及び平仮名部分の各構成文字の当て字に該当すると、認識するとはいい難いものである。 そして、漢字部分である「沙羅沙羅」の文字は、「沙」が「すな」を、「羅」が「うすぎぬ」を意味する語であり、また「沙羅」の文字を含む「沙羅双樹」が「釈尊が涅槃に入った臥床の四方に2本ずつあった娑羅樹」を意味する語である(いずれも、[株式会社岩波書店 広辞苑第六版])ことからすれば、当該漢字部分から、「さらさら」の語が意味する「乾燥した軽くて薄いものや小さいものが触れ合って発する連続音。また、そのさま。」といった意味合いを取引者、需要者に想起させるということはできないものである。 また、被請求人は、欧文字部分が、「さらさら」及び「サラサラ」の一種の当て字であると認識されることは、欧文字部分の構成文字が、「さらさら」及び「サラサラ」のヘボン式ローマ字表記でないことを理由に左右されない旨主張するが、「ラ」のローマ字表記として、「LA」の文字が普通に使用されていることを示す証拠はないから、欧文字部分が「さらさら」及び「サラサラ」のローマ字表記とはいえないことに変わりなく、よって、前記2(2)アで説示したとおり、欧文字部分が「さらさら」の文字と同一の観念が生じるとはいい難い。 (2)被請求人は、知財高裁平成22年(行ケ)第10336号同23年1月25日判決(乙12)に照らせば、本件便覧事例である「登録商標が二段併記等の構成からなる場合であって、上段及び下段等の各部が観念を同一とするときに、その一方の使用」が社会通念上同一と認められる商標とされているのは、必ずしもこれに限定する趣旨のものではなく、そのように解さないと、特定の観念を生じない造語を漢字、ローマ字、片仮名及び平仮名の四段併記で構成した商標にあっては、常に四段併記が要求されることになりかねない旨主張する。 しかしながら、前記判決で判断された商標と本件商標とは、構成文字や構成態様が異なるから、この判決の存在によって、前記2(2)の認定判断が左右されることはない。 そして、前記2(2)で認定判断したとおり、本件商標の各段は、観念が同一とはいえないのであり、このような場合において、その一段を取り出した構成に該当する「さらさら」の平仮名からなる使用商標1が、本件商標と社会通念上同一であると認められる根拠はない。 (3)被請求人は、使用する商標として本件商標の平仮名部分を採用したのは、商標権者と納品先である小売店との商談の結果であり、今後、本件商標の全部構成又はいずれかの部分構成を採用するのかは、小売店の要望に基づき臨機応変に決定するものであって、商標権者が、本件商標のような四段書きの商標に係る商標権を取得したのは、かかる商標権者の実際の要請に応えるためである旨主張する。 しかしながら、前記主張は、本件商標についての被請求人における使用実態を述べたにすぎないものであり、そのような使用実態があることをもって、使用商標1及び使用商標2と本件商標とが社会通念上同一とはいえないとする前記2(2)の認定判断を左右することはない。 4 まとめ 以上のとおり、被請求人が提出した証拠から認定できる使用商標1及び使用商標2は、いずれも本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできず、他に被請求人が本件要証期間内に取消請求商品について、本件商標を使用していることを証明するものはない。 したがって、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る商品のいずれかについての本件商標(社会通念上同一のものを含む。)の使用をしていることを証明したものということはできず、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定商品中、「被服」のうち、「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,キャミソール,タンクトップ,ティーシャツ,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」についての登録を取り消すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(使用商標1:色彩については、乙3を参照。) |
審理終結日 | 2020-10-30 |
結審通知日 | 2020-11-05 |
審決日 | 2020-11-27 |
出願番号 | 商願昭63-148112 |
審決分類 |
T
1
32・
11-
Z
(Z25)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
木村 一弘 |
特許庁審判官 |
山村 浩 中束 としえ |
登録日 | 1991-04-30 |
登録番号 | 商標登録第2308182号(T2308182) |
商標の称呼 | サラサラ |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |
代理人 | 岡田 全啓 |