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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W3035
管理番号 1367110 
審判番号 無効2020-890003 
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-01-09 
確定日 2020-09-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第6040505号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第6040505号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6040505号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおり、「銀座吉兆庵たいやき総本店」及び「銀座吉兆庵鯛焼総本店」の文字を、上下二段に横書きした構成からなり、平成29年7月28日に登録出願、第30類「たい焼き」及び第35類「たい焼きの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定商品及び指定役務として、同30年3月22日に登録査定され、同年5月11日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標の登録の無効の理由において引用する商標は、以下の登録商標であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第1484086号商標(以下「引用商標1」という。)は、「源吉兆庵」の文字を筆書き風の書体により縦書きした構成からなり、昭和52年8月19日に登録出願、第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同56年10月30日に設定登録され、その後、平成4年2月27日、同13年9月11日及び同23年10月18日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。そして、指定商品については、同13年11月7日に、第30類「菓子及びパン」とする指定商品の書換登録がされたものである。
2 登録第5087103号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおり、やや小さい「宗家」の文字、「源」及び「吉兆庵」の文字を、筆書き風の書体により、各文字の間に若干のスペースを空けて「宗家 源 吉兆庵」と横書きした構成からなり、平成19年2月28日に登録出願、第30類「アイスクリーム用凝固剤,家庭用食肉軟化剤,ホイップクリーム用安定剤,食品香料(精油のものを除く。),茶,コーヒー及びココア,氷,菓子及びパン,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類,食用グルテン」を指定商品として、同年10月26日に設定登録され、その後、同29年10月24日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
上記の引用商標1及び引用商標2をまとめていうときは、以下、「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第28号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。
(1)請求人について
ア 請求人は、昭和21年創業の、主に和菓子の製造販売を行う企業グループの中核会社である。
請求人のグループ企業には、「株式会社源吉兆庵」、「株式会社宗家源吉兆庵」のほか国内3社、その他シンガポールやアメリカ合衆国などに海外子会社がある。
平成28年9月において、グループ全体で展開している店舗数は約490店舗、年間売上高320億円、従業員数約2,500名に及んでいた。
なかでも「宗家源吉兆庵」の名称を冠した和菓子小売店舗は、日本全国に合計約150店舗を展開しており、世界主要都市にも40店舗を展開している(甲7?13)。
イ 請求人ら企業グループが製造販売している和菓子は、主に「宗家源吉兆庵」の名称を使用し、百貨店におけるお中元・お歳暮商品として継続的に採用され(甲14?16)、高く評価されている(甲17?20)。
ウ 請求人は、「吉兆庵美術館」を商標登録し(甲21)、「宗家源吉兆庵」鎌倉本店に併設して「吉兆庵美術館」を開館(甲7、22、23)、同美術館は鎌倉のランドマークになっている(甲24)。語頭に「源」の文字を伴わない「吉兆庵美術館」の名称を登録・使用していることは、請求人ら企業グループやその代表ブランドが、時に「吉兆庵」と親しみを込めて略称されていることを反映したものといえる。
(2)本件商標について
本件商標は、構成文字数が相当に多いこと、中間の文字種が異なっていること、商標中の「銀座」、「たいやき」、「鯛焼」、「総本店」の各文字部分がそれぞれ意味を有し、その指定商品等との関係において出所識別標識としての称呼、観念が生じない場合がある一方、「吉兆庵」の文字部分は辞書に載録されていない語であって、一般に採択、使用される蓋然性もない一種の造語として認識されるものとみるのが自然であることなどからすれば、「吉兆庵」のみをもって商取引が行われることも少なくないというべきである。
したがって、本件商標からは、「吉兆庵」の部分に対応して「キッチョウアン」の称呼と「吉兆という名のいおり(茶室)」といった観念をも生ずる。
(3)引用商標について
ア 引用商標1
文字構成から生じ得る称呼は、冗長な感じが否めない上に、その意味合いから、形容詞的な「源」と固有名詞的な「吉兆庵」の各文字部分は自然と分離して把握・理解されるから、「吉兆庵」の文字部分に相応して単に「キッチョウアン」なる称呼が生じる場合もあり得る。
そして、「吉兆庵」の文字部分に相応して「吉兆という名のいおり(茶室)」といった観念をも生じる。
イ 引用商標2
「宗家」の文字部分が相当に小さく、「家元、総本家」といった意味合いの語として広く知られていることからすると、その語に続く「源吉兆庵」の文字部分のみが分離して把握・理解されるのは自明であるし、さらに「源」と「吉兆庵」の間がやや離隔されているから、「吉兆庵」の文字部分に相応して「キッチョウアン」なる称呼と「吉兆という名のいおり(茶室)」といった観念をも生じる。
(4)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標と引用商標は、いずれも「キッチョウアン」の称呼をも生じ得るのであり、また、「吉兆という名のいおり(茶室)」なる観念をも生じ得るのであって、称呼及び観念において共通する類似商標である。
イ とりわけ、引用商標は、請求人を中核として和菓子の製造販売を行っている企業グループの名称として、またその和菓子を販売する小売店舗の名称として、請求人ら企業グループの営業の同一性を表す営業標識として使用される社標であるのみならず、その和菓子につき統一的に使用されている商標であって、少なくとも日本国内において需要者等に広く知られている上に、単に「吉兆庵」と親しみを込めて略称されることも少なくない。
加えて、請求人ら企業グループ会社の「株式会社宗家源吉兆庵」は、銀座を国内事業活動の東の中心地としていることや、本件商標における「総本家」が「宗家」に通じる意義を有していること、「たい焼き」が我が国において伝統的に一般庶民にまで親しまれてきた和菓子の一つであること等からすれば、両商標が同一又は類似の商品・役務に使用されると相紛らわしいといえる。
ウ そして、引用商標の指定商品中「菓子」は、本件商標の指定商品「たい焼き」を含んでいるのであり、かつ、本件商標の指定役務「たい焼きの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは、類似する商品である。
エ よって、本件商標は、その商標登録出願日前に出願され登録された引用商標に類似しており、かつ、引用商標に係る指定商品に類似する商品又は役務について使用をされるものであるにもかかわらず、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものである。
(5)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と引用商標の類似の程度について考察すると、両商標は称呼と観念で共通する類似商標であると考えられるが、仮に類似するとまではいえないとしても、両商標において取引者・需要者に対し自他商品又は役務の出所識別標識として強い印象を与えるのは、いずれも「吉兆庵」の文字部分であると考えられるから、少なくとも相紛らわしいものである。
イ 引用商標の周知著名性について考察すると、請求人ら企業グループの歴史や企業規模、国内外の百貨店などに展開されている小売店の店舗数からしても明らかであるが、さらに我が国の和菓子を代表する商品として伊勢志摩サミットで唯一紹介された事実等に鑑みれば、引用商標は、少なくとも本件商標の出願前には日本国内において周知著名であって、その状態は本件商標の査定時においても同様であったということができる。
また、引用商標の独創性の程度についても、あらゆる商品及び役務について「吉兆庵」の文字を含む出願・登録商標は、本件商標と当該商標権者による別件登録商標「吉兆庵鯛焼総本店/キッチョウアンタイヤキソウホンテン」(商標登録第6040490号、甲25(以下「別件商標」という。)。なお、別件商標に対して登録異議の申立てを行った結果、その登録の取り消しが確定している(甲26)。)を除いては、請求人(旧名称のものもある)の登録商標10件以外には見当たらない(甲27)。
したがって、請求人所有の引用商標は周知著名であって、その独創性の程度も高いというべきである。
ウ さらに、商品の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性についてみると、引用商標の指定商品中「菓子」には和菓子としての「たい焼き」が含まれることが明らかであって、その取引者及び需要者も完全に共通している上に、請求人の子会社が運営する和菓子店舗においては、代表的な商品として伝統的な「たい焼き」の姿に似た餡入りの饅頭を販売しているのであるから(甲28)、なおさらのこと、商品の関連性や取引者及び需要者の共通性は極めて高いといえる。
エ 以上のとおり、「混同を生ずるおそれ」の有無を判断するに当たっての各事情についてみると、本件商標と引用商標は相互に類似しているか、あるいは自他商品又は役務の出所識別標識として強い印象を与える「吉兆庵」の文字部分が共通している上に、引用商標は「たい焼き」が含まれる和菓子の製造販売を行う企業グループの名称及びその商標として周知著名であって、その独創性の程度も高いこと、そして、本件指定商品及び指定役務は引用商標の指定商品と同一又は類似しており、その取引者及び需要者が完全に共通しているのであるから、本件商標がその指定商品及び指定役務に使用されたときには、当該商品「たい焼き」や当該小売業務が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同じ企業グループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤認・混同されるおそれがあることは明らかである。
オ よって、本件商標が、その指定商品又は指定役務に使用された場合、引用商標の持つ顧客吸引力へのただ乗りや、その希釈化を招く結果を生じかねないから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
2 むすび
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、請求人の主張に対して何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、また、当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下、本案に入って審理する。
2 請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(1)請求人の「会社案内」(甲7)によれば、請求人は、昭和21年に個人商店として創業した後、同44年に「有限会社 桃乃屋本舗」、平成29年2月に現社名「株式会社 源 吉兆庵ホールディングス」となった旨の記載がある。また、請求人は、主に和菓子の製造販売を行う企業グループの中核会社であり、請求人のグループ企業には、昭和52年に岡山県岡山市に設立された和菓子製造子会社「株式会社 源 吉兆庵」、平成21年に東京都中央区銀座に設立された和菓子販売会社「株式会社 宗家 源 吉兆庵」のほか、「株式会社 菓匠 清閑院」(京都市左京区)、「株式会社 西洋菓子 鹿鳴館」(東京都中央区)、「株式会社 日本橋屋長兵衛」(東京都中央区)があり、その他に、世界8カ国地域に40店舗を展開している旨の記載がある。
(2)「山陽新聞digital」において、「宗家源吉兆庵の東京本社新築移転 銀座6丁目に19年11月完成」の見出しの下、「源吉兆庵ホールディングス(HD、岡山市北区幸町)は、和菓子販売のグループ会社・宗家源吉兆庵の本社を、現在の東京都中央区銀座7丁目から、同6丁目に新築移転する。・・・1階は和菓子店『宗家源吉兆庵 銀座本店』が入り、岡山県特産のマスカットなどの果実菓子を中心に約40種類を販売する。・・・同HDは傘下に菓匠清閑院(京都市)、西洋菓子鹿鳴館(東京)など8社があり、国内外で約490店を展開している。グループの年間売上高は約320億円、従業員約2500人。(2017年09月20日22時02分更新)」との記載がある(甲8)。
(3)2004年9月14日付け日経MJ3面に、「源吉兆庵『海外』に学ぶ??高級和菓子店、ブランド戦略巧み、『古都発祥』で売る。」の見出しの下、「『鎌倉 源吉兆庵(みなもときっちょうあん)』『奈良 香寿軒(こうじゅけん)』『京都 菓匠 清閑院(せいかんいん)』。最近、空港や駅ビルなどでも目にする高級和菓子店だが、これらはみな同じ企業が経営している。和菓子製造・販売の源吉兆庵(岡山市、・・・社長)グループだ。巧みなブランド戦略は海外の有名ファッションブランドから学んだものだ。寺院のような名前に地名を冠したブランド名の素案は、社長の弟、・・・専務が海外から持ち帰った。・・・すでに展開していた『宗家 源吉兆庵』に続き、一九九四年に『鎌倉 源吉兆庵』展開の新会社を設立。・・・来年には旗艦店として銀座に地下一階、地上八階建ての自社ビルを建設する予定だが、店舗網を拡大しすぎないという鉄則がある。一ブランドにつき出店は百店舗以内と決めている。国内の店舗数は現在『宗家』八十九、『鎌倉』三十六、『京都』七十八、『奈良』二十二。四ブランド合わせた年間売上高(二〇〇四年三月期)は、四年前と比べて五割増の二百五十三億円となった。」との記載がある。また、当該記事中に示された「源吉兆庵グループの売上高」のグラフからすれば、上記4ブランドのうち、「宗家」又は「鎌倉」を冠した「源吉兆庵」の2ブランドに係る年間売上高(二〇〇四年三月期)は、約140億円とみることができ、該2ブランドについて、その売上高は4年前から毎年増加していることをみてとることができる(甲11)。
(4)「ストアーズレポート(2006年1月)」において、「源 吉兆庵」の店舗数について、「全国百貨店及び直営店を合わせて、一二〇数店舗を展開している」との記載があり(甲12)、その後、「宗家 源 吉兆庵」の名称を冠した和菓子小売店舗を、日本全国に約150店舗展開している(請求人の主張)。
(5)請求人の業務に係る和菓子については、引用商標2と同一の態様及びこれを縦書きで表した「宗家 源 吉兆庵」の文字からなる商標が使用されており、東京銀座に本店を有する百貨店「松屋」におけるお中元・お歳暮商品として継続的に採用され、2018年のお中元時期には、日本経済新聞ギフト広告特集として松屋銀座の地下ショーウインドウに飾られた(甲14?16)。
(6)請求人の業務に係る「源 吉兆庵」ブランドの和菓子は、第27回全国菓子大博覧会において名誉総裁賞を受けた(甲17?19)。また、同和菓子は、2016年5月26日と27日の両日三重県で開催された第42回先進国首脳会議(伊勢志摩サミット)に際し日本政府が発行した公式パンフレットにおいて、日本の伝統文化等を紹介する和菓子として掲載された(甲20)。
(7)「吉兆庵」の文字を含む登録商標は、本件商標並びに請求人及び同人のグループ企業を商標権者とする商標のみである(甲27)。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
前記2(1)ないし(6)によれば、請求人は、主に和菓子を製造販売する企業グループの中核であり、当該グループ企業には、その名称に「源 吉兆庵」の文字を含むものが3社存在し、当該3つの会社はいずれも本件商標の登録出願日より前に設立されたものである。
また、引用商標2を構成する「宗家 源 吉兆庵」の文字は、1994年(平成6年)には請求人の業務に係る和菓子のブランド名として既に展開されていたとされ(甲11)、その後、2009年(平成21年)、グループ傘下の和菓子販売会社である「株式会社 宗家 源 吉兆庵」の設立を経て、継続して使用されていることから、少なくとも引用商標2は、請求人の業務に係る和菓子について、同期間中、継続的に使用されてきたことが推認できる。そして、現在においても、引用商標2は、請求人の業務に係る和菓子を表示するものとして、東京を中心に全国各地の百貨店等において使用されているものである。
さらに、「源吉兆庵」ブランドに係る和菓子の売上高は、2004年(平成16年)において約140億円に上っていたものであって、和菓子製造販売を行う請求人グループ全体の年間売上高は、同年に、その4年前と比べて5割増の253億円、2017年(平成29年)には約320億円であり、継続して拡大していることがうかがわれることからすれば、請求人の主要ブランドとして継続して使用されてきた「宗家 源 吉兆庵」ブランドに係る和菓子についても、相当程度の売上高を維持ないし拡大しているものとみるのが相当である。
加えて、請求人の業務に係る「源 吉兆庵」ブランドの和菓子は、全国菓子大博覧会で名誉総裁賞を受けており、伊勢志摩サミットの日本政府公式パンフレットにも掲載されている。
以上を総合して判断するに、少なくとも引用商標2は、長年にわたって使用された結果、本件商標の登録出願時及び登録査定時には、請求人の業務に係る和菓子を表示するものとして、取引者、需要者の間に広く知られていたものということができる。
そして、引用商標2は、「宗家 源 吉兆庵」の文字からなるものであるところ、その構成において、スペースを介して表された「宗家」及び「源」の各文字は、それぞれ意味を有する成語であるが、「吉兆庵」の文字は、特定の意味を有する成語(熟語)ではなく、前記2(7)からすれば、商標として採択されやすいものともいえないことから、上記各文字を組み合わせた引用商標2あるいはその構成中の「吉兆庵」の文字は、相当程度の独創性を有するものということができる。
(2)本件商標と引用商標2との類似性の程度
ア 本件商標について
本件商標は、「銀座吉兆庵たいやき総本店」の文字と、「銀座吉兆庵鯛焼総本店」の文字とを、上下二段に横書きした構成からなるものであるところ、構成中の「銀座」の文字は、「東京都中央区の繁華街」の地名であり、「鯛焼」及び「たいやき」の文字は、「鯛の姿をした鉄製の型に、水に溶いた小麦粉を入れ、餡を挟んで焼いた菓子」の意味を、「本店」の文字は、「営業の本拠である店」の意味を有し(いずれも「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)、「本店」の文字に「総」の文字を結合した「総本店」の文字が「大本の営業の本拠である店」の意味を容易に理解させるものであって、上記各構成部分はいずれも、本件商標の指定商品及び指定役務との関係においては、その需要者、取引者に対し、取扱う商品や店舗の所在地及び種類等を表すものであると理解、認識させるにとどまることから、上記各構成部分は、商品及び役務の出所識別標識としての機能を有するとはいえないものである。
これに対し、本件商標構成中の「吉兆庵」の文字は、辞書に載録されていない語であって、一般に親しまれた意味合いを有する語ともいえないことから、一種の造語として認識されるものとみるのが相当である。
そうすると、本件商標は、その構成中の「吉兆庵」の文字部分が自他商品及び役務の識別標識として機能するものといえるから、商標全体として、各構成文字の意味合いに相応して生じる「銀座にある『吉兆庵』という名称の鯛焼を提供する大本の営業の本拠である店」程の観念、及び「ギンザキッチョーアンタイヤキソーホンテン」の称呼を生じるほか、「吉兆庵」の文字部分に相応して、「キッチョーアン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものということができる。
イ 引用商標2について
引用商標2は、「宗家 源 吉兆庵」の文字からなるところ、構成中の「宗家」の文字部分が、「宗主たる家。本家。家元」の意味(「広辞苑第六版」株式会社岩波書店)を有する語として一般に知られていることや、他の構成文字に比して小さく表されていることから、引用商標2の構成においては、「源 吉兆庵」の文字部分が自他商品の識別標識として着目される部分であるということができ、「源」の文字と「吉兆庵」の間には、約1文字分の空間を有することから、視覚上、当該「源 吉兆庵」の文字部分は「源」と「吉兆庵」の文字とを組み合わせたものとして理解され、分離して把握されるものということもできる。
ウ 本件商標と引用商標2との比較
本件商標と引用商標2とを比較すると、全体の比較においては構成文字や構成文字数が相違するものの、出所識別標識として機能する本件商標中の「吉兆庵」の文字部分と、引用商標2中の「源 吉兆庵」の文字部分を比較すれば、両者は、造語であって、一般に採択使用されることが想定し難い、特徴的な文字列である「吉兆庵」の文字を顕著に有してなるものであるから、何らかの関連性があるものと想起される場合も決して少なくなく、筆文字風の書体が似通っていることも相まって、一定の類似性を有するものといえる。
(3)本件商標の指定商品及び指定役務と請求人商品との関連性の程度並びに取引者及び需要者の共通性
本件商標は、「たい焼き」及び「たい焼きの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に使用するものであるのに対し、引用商標2は、前記2のとおり、商品「和菓子」に使用されるものであるから、いずれも菓子店で生産、販売、提供され、同一の事業者が生産、販売、提供することも少なくないものであり、原材料も共通にすることから、両者の関連性の程度は高く、その取引者及び需要者の範囲を共通にするものである。
(4)混同を生ずるおそれについて
前記(1)ないし(3)によれば、引用商標2は、我が国において、他人(請求人)の業務に係る商品「和菓子」を表示するものとして、その需要者及び取引者の間に広く認識されていたものであり、相当程度の独創性も有すること、本件商標と引用商標2とは、特徴的な「吉兆庵」の文字を共通にする一定の類似性を有するものであること、請求人の業務に係る商品と本件商標の指定商品及び指定役務との関連性は高く、取引者及び需要者の範囲も共通にするものであることが認められる。
そうすると、本件商標権者が、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用をした場合、これに接する需要者、取引者は、引用商標2を連想又は想起し、その商品又は役務が他人(請求人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(5)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、請求人のその余の主張について言及するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標2)



審理終結日 2020-08-03 
結審通知日 2020-08-06 
審決日 2020-08-19 
出願番号 商願2017-100110(T2017-100110) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W3035)
最終処分 成立  
前審関与審査官 林 悠貴杉本 克治 
特許庁審判長 木村 一弘
特許庁審判官 山田 啓之
板谷 玲子
登録日 2018-05-11 
登録番号 商標登録第6040505号(T6040505) 
商標の称呼 ギンザキッチョーアンタイヤキソーホンテン、ギンザキッチョーアンタイヤキ、キッチョーアンタイヤキ、キッチョーアン、キッチョー、ギンザタイヤキ 
代理人 森 寿夫 

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