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審決分類 審判 一部取消 商標の同一性 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W32
管理番号 1367055 
審判番号 取消2018-300422 
総通号数 251 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-11-27 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-06-13 
確定日 2020-09-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5624288号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5624288号商標の指定商品中、第32類「全指定商品」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5624288号商標(以下「本件商標」という。)は、「てんし」の文字を縦書きで表してなり、平成25年6月17日に登録出願、第5類、第29類、第30類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同年10月18日に設定登録され、その後、商標登録の取消審判(2018-300419)により、第29類の指定商品について、取り消すべき旨の審決がされ、同30年12月28日にその確定審決の登録がされた。その結果、本件商標は、第5類「植物を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状のサプリメント,穀物(豆を除く。)を主原料とする粉状・粒状・錠剤状・カプセル状・液体状・ゼリー状のサプリメント,栄養補助用飼料添加物(薬剤に属するものを除く。)」、第30類「茶,コーヒー,ココア,氷,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,コーヒー豆,穀物の加工品」及び第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス」を指定商品として、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成30年6月28日であり、本件審判の請求の登録前3年以内の期間である同27年6月28日から同30年6月27日までを、以下「要証期間」という場合がある。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第6号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用をしていないものであるから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人は、本件商標は、その指定商品中「清涼飲料」について要証期間内に日本国内において、本件商標権者により使用されている旨主張しているが、以下のとおり、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものではないから、本件商標の登録は取り消しを免れないものである。
(1)被請求人のオンラインショップの画面について
ア 乙第6号証及び乙第7号証について、被請求人はこれが広告であることを意図しているのかもしれないが、広告ならば、それが商標法上の「使用」というためには、標章を付して展示、頒布等をしなければならない(商標法第2条第3項第8号)にもかかわらず、被請求人は、その広告を展示、頒布等をしていることを証明してはいない。
また、乙第6号証の証拠説明書等によると2018年9月5日に印刷されたものとあり、要証期間内の使用を証明した書面ではない。また、乙第7号証によると、天使のポリフェノールと称する商品が通信販売限定商品として2014年7月15日に販売を開始したとの告知記事であって、要証期間内の使用を証明したものとはいえず、また商標法第2条第3項第8号において標章の「使用」となるのは、標章を付して広告を展示、頒布等をした場合であって、要証期間前の商品の販売日というだけで証明されるものではない。
イ しかも、乙第7号証をみると、商品紹介文において「独自開発素材『パセノール』を配合した中高年女性向けの美容サプリメント」と記載されているように、乙第6号証及び乙第7号証の商品は「サプリメント」であって、本件審判請求に係る指定商品のいずれかについての商標の使用を証明したということはできない。
ウ 以上のとおり、乙第6号証及び乙第7号証は、要証期間内にその広告を展示、頒布等をしていること証明されておらず、さらに、その内容は、「清涼飲料」についてのものではなく、第5類の「サプリメント」に相当する商品として表しているものであるから、本件審判請求に係る指定商品のいずれかについての商標の使用を証明したということはできない。
したがって、乙第6号証及び乙第7号証は、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものということはできない。
(2)本件商標と「天使」の語からなる商標の同一性について
ア 被請求人が示した乙第9号証ないし乙第12号証の判決及び審決例は、出所表示機能を有さない態様において商品及び役務に付された商標について、商標の使用を認めた判断例であって、「天使」と他の語が一体的に表示された表示について認めた事案ではなく、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明する根拠となるということはできない。
イ また、審判便覧(甲4)の基準を本件に照らしてみると「てんし」の語から別異の観念を生じる漢字が存在する場合は、商標法第50条第1項における社会通念上の同一とは認められないところ、「てんし」の語からは以下に示すような別異の漢字が存在している(甲5、甲6)。
・「天子」:(意味)天帝の子の意、天皇のこと。
・「天枝」:(意味)天子・天皇の子孫
・「天姿」:(意味)生まれつきの容姿
・「天資」:(意味)生まれつきの資質
・「天賜」:(意味)天からの贈り物、天使から賜ったもの
・「点紙」:(意味)礼紙(書状を出す時、本文を書いた紙に儀礼的に添える白紙)に同じ
・「展翅」:(意味)標本にするための昆虫のはねを広げ、固定すること
・「転子」:(意味)脊椎動物の大腿骨の上部にある突起 など
上記に示したように、平仮名「てんし」と漢字「天使」の関係において、「てんし」の称呼が生じる「天使」以外の別異の観念を生じる漢字が存在するのであるから、社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
ウ 以上のとおり、乙第9号証ないし乙第25号証の判決及び審決例の基準に照らしてみても、乙第6号証及び乙第7号証で示されている各表示は、商標法第50条第2項で定める登録商標の使用を証明するに十分なものということはできない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第70号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標は、本件商標権者によって、本件審判の請求に係る指定商品中の「清涼飲料」に使用されている。
2 本件商標権者等について
本件商標権者は、日本有数の菓子・食品の製造・販売を業とする会社であり、「天使(エンゼル)」を創業の精神を体現するシンボルとして、天使図形からなる標章を採用し、明治38年(1905年)以来1世紀以上の長きにわたって自社製品に使用し続けている。これは、裁判所においても認められており(乙1)、特許庁における審判事件においても、天使図形のみならず、「天使」、「てんし\天使」、又は、「てんし\天使\テンシ」等の語からなる商標については、強い出所識別能力を有していることが認定されている(乙2?乙5)。
3 本件商標の使用について
本件商標権者は、「天使」の語からなる商標を、「清涼飲料」について、要証期間内に使用している。
(1)本件商標権者のオンラインショップの画面
乙第6号証は、本件商標権者が開設しているオンラインショップの画面の写し(抜粋)である。このショップでは、本件商標権者の提供する、清涼飲料(以下「本件商品」という場合がある。)等が販売されている。本件商品には、「天使のポリフェノール」等と表示されて、本件商標権者の「ヘルスケアブランド『天使の健康シリーズ』通信販売限定商品として、2014年7月15日に、販売が開始され、現在まで継続して販売されている(乙7)。したがって、「天使」の語からなる商標は、要証期間内に使用されている。本件商品は、このシリーズの内のドリンクタイプの商品であり、清涼飲料にあたる。ページタイトル、及び、商品の表示のとおり、本件商品は、常に「天使のポリフェノール」と紹介されている。かかる行為が、商標法第2条第3項第8号の「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」及び、商標法第2条第3項第1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」にあたる。
4 上記3の使用態様と第50条第1項に基づく審判における登録商標の使用について
本件商品に表示された「天使のポリフェノール」の標章(以下「使用商標」という。)は、清涼飲料の宣伝広告として、又は、商品に直接付して使用されている。したがって、本件商標がそのまま商品の名称ではないとしても、第50条第1項に基づく審判における登録商標の使用にあたる。この点は、判決及び特許庁の審決(乙9?乙12)においても、同様に判断されている。
5 本件商標と使用商標の同一性
ページタイトル、及び、商品には、使用商標(天使のポリフェノール)が表示されている。ここで、使用商標中の「ポリフェノール」の語は、「複数の水酸基が結合した芳香族化合物の総称。」であって、単なる含有物の普通名称である。そうすると、使用商標の要部は、「天使」の部分にあり、本件商標と社会通念上同一というべきである。かかる表示に接した需要者は、「『天使』印のポリフェノール(を含有した飲料)」であることを容易に認識する。商標法第50条の審判における使用証明については、登録商標と使用商標との完全同一までは要求されていないことはいうまでもなく、「社会通念上同一と認められる商標」については、判決及び特許庁の審決(乙13?乙25)のとおり、従前より比較的緩やかに解されてきた。特許庁の審理実績に鑑みても、本件商標権者が開設しているオンラインショップや本件商品に表示されている使用商標は、本件商標の使用と認められるべきである。
また、本件商標は、平仮名で「てんし」と縦書きにしてなり、他方、使用商標は「天使」の語を要部(自他商品の識別標識としての機能を果たす部分)としてなる。これは「称呼及び観念を同一とする場合の平仮名及び片仮名と漢字の相互間の使用」に該当するから、登録商標と社会通念上同一の商標の使用であることは明らかである。
6 審尋に対する被請求人の意見
文字商標は、全くの造語商標を除けば、当該文字に即した観念を有するし、その観念がただ一つという場合は少ない。本件においても「てんし」の語に接した需要者が、「天使」を連想することは明らかで、かつ、長年「天使」の標章を、企業理念を体現するシンボルとして使用し続けてきた被請求人の、「取引の実情を十分に考慮」すべきである。
(1)「てんし」の語からは「天使」が認識される
一般的な需要者にとって「てんし」の語からは、「天使」が認識される。換言すれば、現在使用されていない、あるいは、一部の業界又は学会でしか使用されていないような特殊な語義もあることをもって、社会通念上(観念上)の同一性を否定するのは妥当でない。上記のとおり、観念が1つしかない語というのは少なく、特許庁の審決でも、柔軟に判断されて同一性が認められており、また、日常使用されていないような語や、需要者が想起できないような語にも転換できることをもって、社会通念上(観念上)の同一性を否定するのは妥当でなく、かかる趣旨の主張は、多くの特許庁の審決において排斥されている(乙26?乙40)。
なお、本件商品には「天使のポリフェノール」の標章に近接して天使の図形が描かれていることからも、需要者は「てんし」の語を「天使」であると認識する(乙6、乙7)。
(2)被請求人の属する産業分野における取引の実情
上記2のとおり、被請求人は、「天使(エンゼル)」を創業の精神を体現するシンボルとして、天使図形からなる標章を採用し、明治38年(1905年)以来1世紀以上の長きにわたって自社製品に使用し続けており、裁判所においても、特許庁における審判事件においても、認定されている(乙1?乙5)。
本件商標についても、これらの認定と別異になされるべき理由はないと考える。
7 弁駁書の主張に対する被請求人の意見
(1)乙第6号証及び乙第7号証に関する「被請求人のオンラインショップの画面について」
ア 乙第6号証及び同第7号証について
乙第6号証は、本件商標権者のオンラインショップの画像であり、乙第7号証は、現在でも閲覧できる本件商品に関する紹介記事であって、いずれも、「標章を付して展示」されたものであるから、「商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」にあたる(商標法第2条第3項第8号)。
イ 本件商品のカタログについて
乙第41号証は、本件商標権者の発行・配布に係る、2017年11・12月号のカタログであり、これは、表題に記載のとおり2017年11月ないし12月に配布された。このカタログは、同年10月に作成され、納期は同年10月23日である(金額欄のみマスキングした:以下同じ)(乙42)。このカタログは、株式会社ゼネラルアサヒ(乙43)に発注され、26万部が作製されて、本件商標権者に納入された。カタログには、その表紙の最下部に、〔※価格は2017年10月現在、消費税8%で計算しています。〕とも記載されている。乙第41号証のカタログは、他のカタログ同様に、通販商品に同梱して配布されている(乙44?乙49)。
ウ カタログの発送について
本件商標権者が配布する商品カタログは、制作者・制作時期や制作・配布部数等も明らかで、かつ、商品に同梱されて全ての商品購入先に配布されていて、これらの行為が要証期間内に行われていることも、明らかである(乙50?乙53)。
(2)本件商標と使用商標との社会通念上の同一性は、肯定されるべきである
本件商標と使用商標との社会通念上の同一性は認められるべきである。
判決及び特許庁の審決(乙13?乙25)では、登録商標に付加された語の識別力が弱いものが多いが、必ずしも指定商品の普通名称ではなく(あるいは他の商品も含まれ)、かつ、多義語である場合もある。これに対して、本件商品に表示された「天使のポリフェノール」中の「ポリフェノール」の語は、市場において、飲食料品に含有される優良な物質名(含有成分)であることは良く知られている(乙54?乙59)。したがって、判決及び特許庁の審決に徴して、使用商標の要部が「天使」の部分にあることも明らかである。
請求人は、審判便覧の判断基準及びその事例に鑑み、本件商標と使用商標とは社会通念上同一とはいえないと主張する。しかしながら、上述のとおり、同便覧においても、「登録商標の使用に当たるか否かの認定に当たっては、登録商標に係る指定商品及び指定役務の属する産業分野における取引の実情を十分に考慮し、個々具体的な事例に基づいて判断すべきものである」と特掲されている点にも考慮が払われるべきである。けだし、「通常の取引社会においては、常に登録商標と同一のものを使用するのではなく、当該商標を付する商品・役務の性質等に応じて、これに適宜変更を加えて使用するのが一般的であるという、実務上の要請に即」するべきだからである(乙60)。この点、本件カタログに使用されている「天使の\お菓子箱」又は「天使のポリフェノール」等の商標中の「の」は格助詞であり、「お菓子箱」は、使用商品である「菓子商品の詰合せセット(箱)」を直接的に意味し、「ポリフェノール」は、当該清涼飲料の含有成分の普通名称であるから、その要部は、「天使」の部分にあり、本件商標の使用と判断されるべきことは、審判事件答弁書において既に述べた。
判決及び特許庁の審決(乙64?乙73)に鑑みても、本件商標と使用商標との社会通念上の同一性は肯定されるべきである。また、本件商標のサプリメント(審決注:「清涼飲料」の誤記と思料)についての要証期間内における使用も、上記カタログにより証明された。

第4 当審の判断
被請求人は、本件商標権者が、要証期間に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品中の「清涼飲料」について使用している「天使のポリフェノール」の標章(使用商標)が本件商標と社会通念上同一であると主張しているので、以下検討する。
1 被請求人提出証拠等における使用商標
被請求人の主張及び同人の提出に係る証拠によれば、以下のとおりである。
(1)乙第6号証は、本件商標権者のオンラインショップ画面の写し(抜粋)であるところ、これには、「パセノールドリンク」と称される商品の包装容器の表面に「天使のポリフェノール」との表示があるが、当該写しの印刷日は、2018年9月5日であって要証期間外である。
(2)乙第7号証は、「RakutenInfoseekNews」と称するWEB画面の写しであるところ、これには「森永製菓が独自開発したエイジングケアのための天使のポリフェノール『パセノール(TM)』配合 中高年女性向け美容サプリメント『パセノール(粒)』&『パセノールドリンク』新発売」の見出しのもと、2014年7月15日に発売される旨告知されているが、当該写しの印刷日は、2018年9月5日であって要証期間外である。
(3)乙第41号証は、商品カタログ(抜粋)であるところ、これには、その表紙に「商品カタログ/2017年11・12月号/天使の健康」の表示があり、2葉目の上方には、「天使のポリフェノール『パセノールTM(審決注:TMは「ル」の右上に小さく表示)』」と表示され、下方には、乙第6号証と同様の「パセノールドリンク」と称される商品の包装容器の表面に「天使のポリフェノール」と表示されている。乙第44号証、乙第46号証及び乙第48号証における、商品カタログ(抜粋)においても、乙第41号証と同様に「天使のポリフェノール」と表示されている。
(4)乙第54号証は、「アサヒカルピスウェルネス株式会社」のオンラインショップ画面であるところ「りんごに含まれる“ポリフェノールの一種『プロシアニジン』は・・・」の記載がある。
(5)乙第55号証は、「エーザイ株式会社」のホームページであるところ「ポリフェノールとは、植物が過酷な自然を生き抜くために果実や果皮に蓄える成分のことです。・・・でもポリフェノールを含んだ食べ物を・・・・」の記載がある。
(6)乙第56号証は、「有限会社中垣技術士事務所」のホームページであるところ、「この黒い実にはポリフェノールが豊富に含まれ・・・有機アロニア100%果汁は、新鮮な果実から冷却加圧搾汁され、低温殺菌されていますので、有機成分が損なわれることなく瓶詰めされています。」の記載がある。
(7)乙第57号証は、「株式会社DHC」のオンラインショップ画面であるところ「。DHCの『ポリフェノール』には,月見草種子、りんご、お茶、赤ワインから抽出したポリフェノールを配合しました。」の記載がある。
2 本件商標と使用商標との社会通念上同一性
(1)本件商標について
本件商標は「てんし」の文字を縦書きで表してなるところ、これより、「テンシ」の称呼を生じること明らかであり、また、「てんし」の文字は、「天使(天子の使。エンゼル)」、「天子(天皇のこと。)」及び「天姿(生まれつきの容姿)」(甲5、甲6、広辞苑第七版)等といった様々な意味を有する語を平仮名表記したものと認められるから、「てんし」の文字からは、それぞれの語に相応した複数の観念を生じるといわなければならない。
(2)使用商標について
被請求人が主張する「天使のポリフェノール」の標章(使用商標)は、上記1より、本件商標権者の取り扱いに係る「パセノールドリンク」と称される商品に使用されていることが認められる。そして、使用商標の構成中の「ポリフェノール」の文字は、飲食料品等に含有される物質(成分)名であると認められるから、当該文字部分は、本件審判の請求に係る指定商品との関係では識別標識として機能しないか、又は、極めて弱いというべきである。
そうすると、使用商標の構成中、自他商品を識別する標識として機能する部分は「天使」の文字部分にあるというべきであるから、これより、「テンシ」の称呼を生じ、「天使(天子の使。エンゼル)」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と使用商標とが社会通念上同一であるかについて
上記(1)及び(2)のとおり、本件商標と使用商標とは、「テンシ」の称呼を同一にするものの、本件商標からは、「天皇のこと。(天子)」、「天子の使。エンゼル。(天使)」及び「生まれつきの容姿。(天姿)」等の複数の観念が生じるのに対し、使用商標の要部である「天使」の文字から生じる観念は「天子の使。エンゼル。」のみである。
そうすると、本件商標と使用商標は、同一の称呼を生ずるものの観念においては、常に同一であるとは認められない。
したがって、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできない。
その他、被請求人が提出した証拠から、使用商標が本件商標と社会通念上同一であると認めるに足る証拠は見いだせない。
3 被請求人の主張について
被請求人は、文字商標は、当該文字に即した観念を有するし、その観念がただ一つという場合は少なく、本件商標「てんし」に接した需要者が、「天使」を連想することは明らかで、かつ、長年「天使」の標章をシンボルとして使用し続けてきた被請求人の「取引の実情を十分に考慮」すべきである旨主張する。
しかしながら、本件商標権者が、長年「天使」の標章を使用していることは認められるとしても、上記2(1)のとおり、「てんし」の文字は、同音異義語の平仮名表記であるうえに、「てんし」の文字が「天使」以外の意味を有する語を全く認識させないとする事情は見当たらないことに加えて、請求に係る指定商品の分野において、「てんし」の文字が直ちに「天使」を連想させるような取引の実情も見当たらないことからすれば、被請求人が主張する取引の実情を考慮したとしても、上記判断は左右されないといわなければならない。
したがって、被請求人の上記主張は、採用することはできない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人が提出した証拠から認定できる使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標ということはできず、ほかに被請求人が本件審判の請求の登録前3年以内に本件審判請求に係る指定商品について、本件商標を使用していることを証明するものはない。
したがって、被請求人は、本件審判の請求前3年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについての本件商標(社会通念上同一のものを含む。)の使用をしていることを証明したものということはできず、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしていないから、本件商標の登録は、「結論掲記の商品」について、商標法第50条の規定により登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲

審理終結日 2020-06-30 
結審通知日 2020-07-03 
審決日 2020-07-31 
出願番号 商願2013-46361(T2013-46361) 
審決分類 T 1 32・ 11- Z (W32)
最終処分 成立  
特許庁審判長 半田 正人
特許庁審判官 大森 友子
岩崎 安子
登録日 2013-10-18 
登録番号 商標登録第5624288号(T5624288) 
商標の称呼 テンシ 
代理人 小野寺 隆 
代理人 小林 彰治 
代理人 鳥海 哲郎 
代理人 廣中 健 

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