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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W33 審判 全部申立て 登録を維持 W33 審判 全部申立て 登録を維持 W33 審判 全部申立て 登録を維持 W33 審判 全部申立て 登録を維持 W33 審判 全部申立て 登録を維持 W33 |
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管理番号 | 1366309 |
異議申立番号 | 異議2019-900292 |
総通号数 | 250 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2020-10-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-10-07 |
確定日 | 2020-08-19 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 登録第6169384号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6169384号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6169384号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成30年11月20日に登録出願,第33類「中国酒」を指定商品として,令和元年5月13日に登録査定,同年8月9日に設定登録されたものである。 2 登録異議申立人が引用する商標 登録異議申立人「宝ホールディングス」(以下「申立人A」という。)が登録異議の申立ての理由において,引用する商標は,以下の(1)ないし(7)であり,また,登録異議申立人「浙江塔牌紹興酒有限公司」(以下「申立人B」という。)が登録異議の申立ての理由において,引用する商標は,以下の(1),(2)及び(4)ないし(7)であって,いずれも,現に有効に存続しているものである (1)登録第702405号商標(以下「引用商標1」という。) 商標の構成:別掲2のとおり 登録出願日:昭和39年9月5日 設定登録日:昭和41年3月25日 書換登録日:平成18年10月25日 指定商品:第32類「ビール」及び第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」 (2)登録第929388号商標(以下「引用商標2」という。) 商標の構成:別掲3のとおり 登録出願日:昭和44年11月26日 設定登録日:昭和46年9月17日 書換登録日:平成13年12月19日 指定商品:第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」 (3)登録第929389号商標(以下「引用商標3」という。) 商標の構成:別掲4のとおり 登録出願日:昭和44年11月26日 設定登録日:昭和46年9月17日 書換登録日:平成13年12月19日 指定商品:第33類「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」 (4)登録第3225113号商標(以下「引用商標4」という。) 商標の構成:別掲5のとおり 登録出願日:平成4年12月16日 設定登録日:平成8年11月29日 指定商品:第33類「紹興酒」 (5)登録第3320071号商標(以下「引用商標5」という。) 商標の構成:別掲6のとおり 登録出願日:平成6年1月6日 設定登録日:平成9年6月6日 指定商品:第33類「紹興酒」 (6)登録第4061334号商標(以下「引用商標6」という。) 商標の構成:別掲7のとおり 登録出願日:平成6年4月21日 設定登録日:平成9年9月26日 指定商品:第33類「紹興花彫酒」 (7)登録第5104613号商標(以下「引用商標7」という。) 商標の構成:別掲8のとおり 登録出願日:平成19年1月25日 設定登録日:平成20年1月11日 指定商品:第33類「紹興産の加飯酒」 以下,申立人Aの引用商標(1)ないし(7)をまとめて「引用商標A」といい,申立人Bの引用商標(1),(2)及び(4)ないし(7)をまとめて「引用商標B」といい,引用商標Aと引用商標Bをまとめて「引用商標」という。 3 登録異議の申立ての理由 (1)申立人Aの申立ての理由 申立人Aは,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第52号証(枝番号を含む。表記にあたっては,「甲A○」(「○」部分は数字)のように省略して記載する。)を提出した。 ア 「塔牌」及び「塔の図形」商標の周知・著名性について (ア)引用商標A又はその要部を構成する「塔牌」及び「塔の図形」並びにこれらの組み合わせによる商標(引用商標2の外観構成)は,いずれも「塔牌」,すなわち「塔印(塔のマーク)」の観念で理解されるものである。この「塔牌」商標は,日本においては,宝酒造株式会社(以下「宝酒造」という。)が一手に輸入販売する「紹興酒」の商標として,本件商標の登録出願前には既に周知・著名となっていた。宝酒造は,1972年(昭和47年)より,中国酒の輸入販売を手掛け,「塔牌」の紹興酒は,1976年(昭和51年)に,本格的に輸入販売が開始され,それ以来40年以上の長きにわたって宝酒造が独占的に販売を行ってきたロングセラー商品である。 (イ)宝酒造のウェブサイト中で,「“塔のマーク”の紹興酒『塔牌』」「“塔のマーク”は高品質の証し。」と紹介されているとおり,「塔牌」商標の使用に係る商品は,「“塔のマーク”の紹興酒」として取引に供され親しまれている(甲A9)。 なお,宝酒造は,同商品の日本国内における専売権を取得している。(甲A11,甲A40) (ウ)「塔牌」の紹興酒の歴史や商品の特長,商品ラインアップ等の販売事実等(甲A9,甲A10,甲A15?甲A48)から,「塔牌」及び「塔の図形」商標は,宝酒造により輸入販売される「紹興酒」の商標として,永年,盛大に使用されてきた結果,本件商標の登録出願前には既に「塔のマークの紹興酒」といえば,直ちに同紹興酒を想起させるほど,周知・著名なものとなっていたものである。 イ 商標法第4条第1項第11号の理由 (ア)本件商標と引用商標Aとの比較 本件商標は,塔図形と,その内部に「玉塔」の文字を配してなるところ,「玉塔」の文字は,「塔の美称」として「塔」と同義に用いられる語であり(甲A52),図形部分もまた,内部に表された「玉塔」の文字と相俟って,中国風の「塔」が表されたものと把握されるから,本件商標は,「玉塔」の文字と「塔の図形」より,「塔」の理解を生じるものである。 また,文字部分の構成中「塔」の文字は,前記したとおり,「紹興酒」の商標として周知・著名な「塔牌」(「『塔』印」「『塔』のマーク」)を想起させるから,本件商標に接する取引者・需要者は,「塔の図」である点と,「塔」の文字に着目して,「塔のマーク」と認識して取引に当たる場合も少なくないといえる。したがって,本件商標からは,「トウ(塔)」の称呼・観念も生じる。 これに対し,引用商標1は「塔牌」の文字よりなり,引用商標2及び引用商標4ないし引用商標7はその構成中に「塔牌」の文字と「塔の図形」を有してなり,引用商標3は同「塔の図形」よりなるところ,「牌」の文字は,中国語で「商標,銘柄,マーク,ブランド,ラベル」の意味を表し,他の文字に付いて「○○印」「○○ブランド」の意味合いで用いられる文字であり(甲A49),日本語の漢字としても「商標,マーク」の意味を表す語である(甲A50,甲A51)から,「塔牌」の文字は,「『塔』印」「『塔』ブランド」「『塔』マーク」と把握されるものであって,「塔」の部分が商標の要部として出所識別標識としての機能を果たすといえる。また,引用商標2ないし引用商標7の「塔の図形」部分も,中国式の「塔」を表したものと直ちに認識できるものである。かつ,引用商標の使用に係る商品は,「“塔のマーク”の紹興酒」として親しまれている事実がある。 してみれば,本件商標は,引用商標Aと「トウ(塔)」の称呼・観念と,「『塔』印」として周知・著名な「塔」の文字を共通にするものであって,両者はともに,その外観・称呼・観念より,「『塔』印」「『塔』のマーク」と把握されるものである。 そして,前記したように,市場における主要商品において「塔」をモチーフとする標章の使用は他に見当たらず,取引の際に「似たようなものがあるから十分に注意を払って取引に当たる」という状況にはなく,両商標の外観・称呼・観念が与える「『塔』印」「『塔』のマーク」との記憶・印象を頼りに両商標を隔離的観察した際には,取り違え・出所混同を生じる蓋然性が極めて高い。 以上のとおり,本件商標は,引用商標Aと,その類似点が需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察した場合,相紛れるおそれがあるといわざるを得ないから,両商標は,互いに出所混同のおそれのある類似の商標といえる。 (イ)そして,本件商標の指定商品は,引用商標Aの指定商品と同一又は類似のものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 ウ 商標法第4条第1項第15号の理由 引用商標Aの「塔牌」及び「塔の図形」商標は,日本では,宝酒造が輸入販売する商品「紹興酒」の商標として,40年以上もの長きにわたり盛大に使用されてきた結果,本件商標の登録出願前には既に周知・著名なものとなっていたものであり,また,同商標の使用に係る商品は,取引者・需要者において「“塔のマーク”の紹興酒」「“塔のマーク”が目印の紹興酒」として,広く認識されるに至っている。そして,引用商標Aの使用に係る商品の他には,「“塔のマーク”の紹興酒」「“塔のマーク”が目印の紹興酒」として知られた商品は見当たらず,「塔のマークの紹興酒」といえば,直ちに「塔牌」の紹興酒を想起させるものといえる。 そうとすれば,塔の図形と「塔」の文字を有し,「トウ(塔)」の称呼・観念を生ずる本件商標が,「紹興酒」を含む指定商品「中国酒」について使用された場合,これに接する取引者・需要者は,塔の図形と「塔」の文字より,「塔のマーク」と認識して,「塔のマークの紹興酒」「塔のマークが目印の紹興酒」として親しまれている引用商標Aを想起して取引に当たる蓋然性が高く,あたかも同商品シリーズの一のごとく,取引において取り違え・出所混同を生じさせるおそれがあるものといわざるを得ない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 (2)申立人Bの申立ての理由 申立人Bは,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。表記にあたっては,「甲B○」(「○」部分は数字)のように省略して記載する。)を提出した。 ア 商標法第4条第1項第11号の理由 (ア)申立人Bについて(甲B16) 申立人Bは,黄酒醸造企業であり,会社の総資産は6億人民元,黄酒の年間生産量は5万トン,自動充填能力は3万トン,現在業界内手作業醸造黄酒の生産量第1位。主な製品は,紹興加飯酒,花雕酒,元糺酒,香雪酒,善醸酒,そして新しい紹興麗春酒,江南紅酒などの多く品種があり,50年以上の歴史を持つ輸出ブランドとしての塔牌紹興酒は,その輸出量が常に業界で最高の水準であるので,紹興酒の重要な輸出拠点である。 (イ)「塔牌」ブランドの制作由来並びに中国での栄誉及び著名性(甲B16?甲B20) 「塔牌」は,江南の有名な塔,「六和塔」という,「貿易が栄え,世界に進出する」という意味のある塔から命名された。「塔」は一種の魔除けや邪を鎮めるといった意味を込めて作られた伝統的な建築物であり,酒のブランドとしての使用したことは,中国の歴史及び伝統文化への敬意と芸術的素養の表れであって,中国民間において幸せを祈る文化を象徴するものあり,酒類のブランドとすることで「美酒により天下の人々に滋養を与える」,すなわち社会に「安全,品質安心」の美酒を提供することに努めるという企業の理想を表現している。 塔牌紹興酒は度々国内外の金賞を受賞し,「中国の有名な商標」,「浙江の有名輸出ブランド」,「改革開放四十年杭州酒業功労ブランド」,「国家地理標志商品」として認定され,業界内では最も早く「中華老字号」の称号を獲得した。塔牌酒は頭一つ抜きんでた品質,濃厚な味わい,優良なサービスによって,30か国以上の国家と地区で楽しまれてきた。1993年に中南海,人民大会堂特製の国宴専用酒と指定され,2005年に上海で商務用酒の「主流ブランド」と評価された。 (ウ)申立人Bの商品の日本での販売 申立人Bの「塔牌」シリーズの蒸留酒商品は,長年大量に日本へ輸出されている。このシリーズの蒸留酒は日本の広域で販売され,消費者の中で一定の知名度を上げている。申立人の「塔牌」シリーズの商標に係る商品は,申立人Bが,大量に日本へ輸出しているものであり,日本現地での販売によって有効かつ広範に引用商標の使用を行ってきた(甲B21?甲B30)。 (エ)本件商標と引用商標Bとの類否 本件商標は,「玉塔」の文字及び塔の図形からなる商標であり,塔の図形から,「塔」の観念を生じるものである。一方,引用商標Bは「塔牌」の文字部分を有する。当該文字より,「『塔』のブランド」との観念を生じるものであり,引用商標Bの塔の図形部分より「塔」の観念を生じるものである。 申立人Bの「塔牌」シリーズの商品は,我が国において長年,宣伝広告され,販売されており,「塔のマーク」の商品として,一定の周知性を獲得したものである。 本件商標の塔も引用商標Bにおける塔もいずれも,中国の塔である点で共通している。たとえ,本件商標の「玉塔」より「ギョクトー」の称呼を生じるとしても,本件商標は,図形部分について,引用商標Bと「塔」の観念を共通にする,類似の商標であるというのが相当である。 本件商標は引用商標Bと類似の商標であって,かつ,本件商標の指定商品は引用商標Bの指定商品と同一又は類似であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 イ 商標法第4条第1項第10号の理由 引用商標Bの周知・著名性及び類似性は,上述したとおりである。したがって,引用商標Bは,申立人Bの業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものであり,本件商標は引用商標Bと類似であって,その指定商品は,引用商標Bの指定商品と同一又は類似の商品であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。 ウ 商標法第4条第1項第15号の理由 本件商標と引用商標Bが類似する商標であること,及び引用商標Bの周知・著名性は,上述したとおりである。本件商標の指定商品「中国酒」は,申立人Bの商品「紹興酒」と同一又は類似の商品である。 そうとすれば,本件商標に接した需要者は,塔の図形の部分から,申立人Bと経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認し,出所について混同するおそれがあるというのが相当である。 本件商標と引用商標Bは類似しており,申立人Bの「塔牌」シリーズの商品は日本に大量に輸出され,申立人B及びそのブランドは日本現地で酒類の商品内では一定の知名度があることに鑑みれば,本件商標が使用された場合,需要者は申立人Bの商標に対する一般的な認識,商品に対する信頼に基づいて,本件商標は申立人Bあるいはそれに関係する業者から出ていると誤認してしまい,需要者が商品とサービスの本当の出自について混乱させられる上に,商標から商品あるいはサービスの出所を区別する効能が失われてしまう。 よって,不当な競争が生まれ,市場が混乱し,結果として申立人Bの商業上の損失に繋がり,本件商標権者はこれに便乗して不当な利益を獲得できることになる。 同時に,申立人Bは本件商標権者の商品品質に対して全く監督・コントロールできないものであり,もし需要者が両社に関係性があると誤認した場合,申立人Bの商品に対する品質と信頼を基にして本件商標権者の商品が誤って売買されたとすると,商品の品質問題が起こった場合に,需要者に多大なる損害を与える。同時に申立人Bの名誉の破損にも繋がり,これを修復するのは困難になる。 最後に,本件商標の存在は,申立人Bの「塔睥」及び関連商標の顕著性と公衆の識別性を大きく減殺しうるものであり,申立人Bの先願権利及び利益に損害を与える。その商標を登録するという行為も商標登録の秩序を大変混乱させるものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 エ 商標法第4条第1項第19号の理由 本件商標と引用商標Bが類似する商標であること及び引用商標Bの周知・著名性は,上述したとおりである。 申立人Bの「塔睥」シリーズ商品は長年(少なくとも2012年ないし2018年)日本へ大量に輸出され,販売されている。日本では既に一定の知名度があり,需要者にとっては親しみがある。本件商標権者は第33類のみ商標申請を行い,その他の区分では暫定的に記録を申請した。申立人Bと同業という可能性が高く,高い確率で申立人B及びその主力商品と接触あるいは認知していたにもかかわらず,申立人Bが先願登録した一連の「塔睥」の商標と似たような名称を同一の商品に対して申請するのは,主観上一定の悪意がある可能性がある。 よって,引用商標Bは申立人Bの業務に係る「紹興酒」を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されているものであり,本件商標は,これらと類似する商標であり,不正の目的をもって使用するものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 当審の判断 (1)引用商標Aの周知性について ア 申立人Aの提出に係る証拠及び主張によれば,以下のとおりである。 (ア)宝酒造は,1976年(昭和51年)より引用商標Aを使用した紹興酒「塔牌」(以下「申立人A商品」という。)の輸入販売を開始し(甲A10),日本において独占的に販売を行ってきた。そして,宝酒造のウェブサイトにおいて,「“塔のマーク”の紹興酒『塔牌』」「“塔のマーク”は高品質の証し」と称して申立人A商品が紹介されている(甲A9)。 (イ)申立人A及び宝酒造の商品案内(商品カタログ等)において,申立人A商品の歴史や商品の特長,商品ラインアップ等が紹介されている(甲A15?甲A41)。 (ウ)宝酒造は,1976年(昭和51年)の申立人A商品の新発売のお知らせを始め,2017年(平成29年)までの間において,チラシ,新聞広告(夕刊フジ,日刊ゲンダイ等),雑誌広告(週刊ポスト,週刊文春等),パンフレットにおいて,申立人A商品を宣伝している(甲A42)。 イ 上記アによれば,宝酒造は,1976年(昭和51年)より,引用商標Aを使用した申立人A商品の輸入販売を行い,その販売当初から宝酒造及び申立人A(以下「申立人A等」という。)が継続して広告宣伝を行ってきた結果,申立人A商品は,紹興酒の取引者のみならず,紹興酒に相当程度関心のある需要者(愛飲家)の間に,ある程度知られていたものと推認することができる。 しかしながら,我が国における申立人A商品の市場占有率や売上高等の販売実績を示す証拠の提出はない。 また,申立人A等が申立人A商品について広告宣伝していることはうかがえるとしても,チラシやカタログの印刷部数や頒布エリアは不明であって,新聞や雑誌における広告の頻度は高いとまではいえないことから,提出された証拠から,申立人A商品に使用されている引用商標Aが,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,申立人A等の業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めるに足る事実を見いだすことはできない。 したがって,引用商標Aは,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人A等の業務に係る申立人A商品を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 (2)引用商標Bの周知性について ア 申立人Bの提出に係る証拠及び主張によれば,以下のとおりである。 (ア)申立人Bのウェブサイトには,「漸江省糧油食品進出口股フン有限公司が投資・建設した大規模な黄酒醸造企業であり,(略)すべての醸造は伝統的な手作業によって行っており,現在業界内手作業醸造黄酒の生産量第1位。会社は,(略)塔牌紹興酒生産拠点を拡大することで,元生産能力の3.5万トンを現在の5万トンに増加させた。主な製品は,紹興加飯酒,(略)そして新しい紹興麗春酒,江南紅酒などの多く品種がある。50年以上の歴史を持つ輸出ブランドとしての塔牌紹興酒は,その輸出量が常に業界で最高の水準であるので,紹興酒の重要な輸出拠点である。」と記載されている(甲B16)。 (イ)引用商標Bが使用された「塔牌」紹興酒(以下「申立人B商品」という。)の「塔牌」の由来について,「浙江省杭州市の江南名塔『六和塔』から名付けられた」等が記載されている(甲B17)。 (ウ)申立人Bの製造する申立人B商品が日本へ輸出されていることがうかがえる(甲B21?甲B22)。 イ 上記アからすれば,申立人Bは,中国における黄酒醸造企業であり,引用商標Bを使用した申立人B商品を製造販売し,我が国に輸出していたことはうかがえるとしても,我が国及び外国におけるその周知性の度合いを判断するための具体的な証拠(申立人Bの業務に係る申立人B商品を広告,宣伝した時期,回数,方法等の広告実績,あるいは当該商品の市場シェアや売上高等の販売実績)の提出はないから,申立人B商品に使用されている引用商標Bが,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,申立人Bの業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる事実を見いだすことはできない。 そうすると,引用商標Bは,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人Bの業務に係る申立人B商品を表示するものとして,我が国及び外国における需要者の間に広く認識されているものとは認めることができない。 (3)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標について 本件商標は,別掲1のとおり,黄色の塔と思しき外形図形(以下「本件図形」という。)と当該基礎部分内に「玉 塔」の文字を表した構成よりなるところ,本件図形と文字部分とは,文字部分が顕著に表されているため,視覚上分離して看取されるうえに,本件図形と文字部分との間に称呼及び観念上のつながりがあるとはいえないことから,本件図形と文字部分は,その構成態様などから,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。 そして,本件商標の構成中,文字部分は同書,同大でまとまりよく一体的に表され,これより「ギョクトー」の称呼が生じるものである。 そうすると,本件商標は,その文字部分に相応して,「ギョクトー」の称呼を生じるものであり,観念については,辞書に載録のない語であるから,一種の造語としてみるのが相当であって,特定の観念を生じないものである。また,本件図形については,特定の塔を写実的に描いたものとは直ちに認識されないから称呼及び観念は生じないものである。 イ 引用商標について 引用商標1は,別掲2のとおり,「塔 牌」の文字を横書きしてなるところ,その構成文字に相応して「トーハイ」の称呼を生じ,辞書に載録のない語であるから,一種の造語としてみるのが相当であって,特定の観念を生じないものである。 引用商標2は,別掲3のとおり,塔と思しき図形を中央に配し,その左側に「塔」の文字及びその下部に小さく「PAGODA」の欧文字を表し,また,当該図形部分の右側に「牌」の文字及びその下部に小さく「BRAND」の欧文字を表した構成よりなるところ,その構成態様などから当該図形部分と文字部分は,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。 そこで,文字部分についてみるに,「塔」及び「PAGODA」並びに「牌」及び「BRAND」の文字は,図形部分の左右に配されてはいるものの,漢字及び欧文字ともに顕著に表されているうえに,漢字から生じる「トーハイ」及び欧文字から生じる「パゴダブランド」の称呼も,よどみなく一連に称呼し得るものである。 そうすると,引用商標2は,その文字部分に相応して,「トーハイ」及び「パゴダブランド」の称呼を生じるものであり,観念については,辞書に載録のない語であるから,一種の造語としてみるのが相当であって,特定の観念を生じないものである。また,図形部分については,特定の塔を写実的に描いたものとは直ちに認識されないから称呼及び観念は生じないものである。 引用商標3は,別掲4のとおり,塔と思しき図形を表してなるところ,特定の塔を写実的に描いたものとは直ちに認識されないから称呼及び観念は生じないものである 引用商標4ないし引用商標7は,別掲5ないし別掲8のとおり,いずれも,様々な文字及び図形並びに引用商標2と同様の標章から構成されるラベルと思しき態様からなるものである。 そして,引用商標4は,その構成中,「SHAD XING RICE WINE」の文字部分及び引用商標2と同様の標章部分が,共に自他商品を識別する機能を果たし得ると認められるものであるから,当該部分をもって取引に資されることもあるといえる。 そうすると,引用商標4は,「SHAD XING RICE WINE」の構成文字に相応して「シャオシンライスワイン」の称呼を生じ,当該文字は直ちに何らかの意味合いを理解させるものではないから,特定の観念は生じないものである。また,引用商標2と同様の標章部分からは,引用商標2と同様に,文字部分から「トーハイ」及び「パゴダブランド」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものであり,その図形部分からは,特定の称呼及び観念は生じないものである。 したがって,引用商標4は,「シャオシンライスワイン」「トーハイ」及び「パゴダブランド」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 次に,引用商標5ないし引用商標7は,その構成中に含まれる引用商標2と同様の標章部分が,自他商品を識別する機能を果たし得るものであるから,当該部分をもって取引に資されることもあるといえる。 そうすると,引用商標2と同様の標章部分からは,引用商標2と同様に,文字部分から「トーハイ」及び「パゴダブランド」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものであり,また,図形部分からは,特定の称呼及び観念は生じないものである。 したがって,引用商標5ないし引用商標7は,「トーハイ」及び「パゴダブランド」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 ウ 本件商標と引用商標との比較 本件商標と引用商標とを比較するに,両商標は,それぞれ上記ア及びイのとおりの構成態様からなるところ,それぞれの図形部分は,明らかに異なり,文字部分においては,構成文字に差異を有するものであるから,両商標は,外観上,相紛れるおそれはない。 また,本件商標から生じる「ギョクトー」の称呼と引用商標1及び引用商標2,引用商標4ないし7から生じる「トーハイ」「パゴダブランド」「シャオシンライスワイン」の称呼とは,その構成音数,構成音の差異により,明瞭に聴別し得るものである。 さらに,本件商標及び引用商標は,上記のとおり,いずれも特定の観念は生じないものであるから,両商標は,観念上,比較することができない。 してみれば,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから,両商標が需要者に与える印象,記憶,連想等を総合してみれば,両商標は,非類似の商標というべきである。 エ まとめ 以上よりすると,本件商標と引用商標とは,非類似の商標というべきである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第15号該当性について 引用商標Aは,上記(1)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人A等の業務に係る商品(申立人A商品)を表すものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものであり,引用商標Bは,上記(2)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人Bの業務に係る商品(申立人B商品)を表すものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることができないものである。また,本件商標は,上記(3)ウのとおり,引用商標とは非類似の商標であって別異の商標というべきである。 そうすると,本件商標は,本件商標権者が,これをその指定商品について使用をしても,取引者,需要者が,引用商標を連想又は想起することはなく,その商品が申立人A等又は申立人B若しくは同人らと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 その他,本件商標が引用商標と出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (5)申立人Bのその他の申立理由について ア 商標法第4条第1項第10号該当性について 引用商標Bは,上記(2)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人Bの業務に係る商品であることを表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできず,また,本件商標と引用商標Bとは,上記(3)ウのとおり,非類似の商標である。 そうすると,本件商標は,他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品又はこれに類似する商品について使用するものということはできない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。 イ 商標法第4条第1項第19号該当性について 引用商標Bは,上記(2)イのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人Bの業務に係る商品を表すものとして,我が国及び外国における需要者の間に広く認識されていたとは認められないものであり,本件商標と引用商標Bとは,上記(3)ウのとおり,非類似の商標である。 そうすると,引用商標Bが需要者の間に広く認識されていた商標であることを前提に,本件商標は不正の目的をもって使用するものであるとする申立人Bの主張は,その前提を欠くものである。 加えて,申立人Bが提出した証拠からは,本件商標権者が,不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的,その他の不正の目的をもって本件商標を出願し,登録を受けたと認めるに足る具体的事実を見いだすこともできない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (6)まとめ 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものではなく,その登録は,同法第4条第1項の規定に違反してされたものとはいえないものであり,他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから,同法第43条の3第4項の規定により,維持すべきである。 よって,結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標(色彩については,原本参照。) 別掲2 引用商標1 別掲3 引用商標2 別掲4 引用商標3 別掲5 引用商標4 別掲6 引用商標5 別掲7 引用商標6 別掲8 引用商標7 |
異議決定日 | 2020-07-07 |
出願番号 | 商願2018-148572(T2018-148572) |
審決分類 |
T
1
651・
222-
Y
(W33)
T 1 651・ 271- Y (W33) T 1 651・ 263- Y (W33) T 1 651・ 262- Y (W33) T 1 651・ 261- Y (W33) T 1 651・ 25- Y (W33) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 駒井 芳子、古里 唯 |
特許庁審判長 |
岩崎 安子 |
特許庁審判官 |
平澤 芳行 大森 友子 |
登録日 | 2019-08-09 |
登録番号 | 商標登録第6169384号(T6169384) |
権利者 | 東成貿易株式会社 |
商標の称呼 | ギョクトー |
代理人 | ▲吉▼川 俊雄 |
代理人 | 特許業務法人みのり特許事務所 |