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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y14
管理番号 1364115 
審判番号 取消2017-300390 
総通号数 248 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-08-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-06-08 
確定日 2020-06-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第4995373号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第4995373号商標の指定商品中,第14類「腕時計」についての商標登録を取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4995373号商標(以下「本件商標」という。)は,「moto」の欧文字を書してなり,平成18年3月24日に登録出願,第14類「時計」を指定商品として,同年10月13日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求の登録は,平成29年6月23日にされた(以下,当該登録前3年以内を「要証期間」という。)。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べた。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品中の第14類「腕時計」について継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれの者によっても使用した事実が存在しないから,その商標登録は,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標権者における腕時計の商品化の経緯について
ア 被請求人は,本件商標権者は2011年(平成23年)に,外部のデザイナーに腕時計のデザインを依頼していた旨を主張している(乙8)。
しかしながら,本件商標権者が,その既存のデザインを使用せずに,わざわざ異なるデザインの腕時計を台湾の会社に外注して製造させ,販売することにしたというのは,極めて不自然といわざるを得ず,本件商標権者が,真に腕時計を商品として販売する意思を有していたものと認めることはできない。
イ 被請求人は,被請求人ウェブサイトに写真が掲載された腕時計はモックアップではなく,実際の時計であった旨を主張し,これは台湾の下請先(会社名「君園國際有限公司」。以下「台湾下請先」という。)に製造させたものであると主張している。
しかしながら,この主張に関して提出された証拠(乙24?乙28)は,不自然な点が多く,被請求人が主張する事実,とりわけ,被請求人が台湾下請先に製造依頼したと主張する商品(乙24,乙27)と,被請求人のホームページ(乙3の1等)に掲載されている商品との間の同一性,あるいは,乙3の1等の腕時計がモックアップではないという点を信用することはできない。
ウ 以上のとおり,本件商標権者が,台湾下請先に製造委託して腕時計を製造したという事実自体,肯定することは困難である。なお,仮に台湾下請先が腕時計を製造していたと仮定したとしても,当該腕時計は台湾下請先が台湾で製造したものであり,さらに,本件商標権者の代表者が台湾でこれらの被請求人腕時計合計16個を台湾下請先から受け取ったと述べるとおり,当該腕時計は,日本国外である台湾において,台湾下請先から本件商標権者の代表者に譲渡ないし引渡しがされたものであって,これを以って日本国内における使用とは到底言うことができない。
(2)本件商標権者のウェブページにおける腕時計の広告について
ア 本件商標権者のウェブページ(乙3の1?3,以下「本件ウェブページ」という。)において,当該ページに記載された商品「置時計」には商品番号,商品名及び価格が表示されており,画像をクリックすると商品説明ページに移動できるようにリンクが貼られているのに対し,商品「腕時計」についてはその画像がデザイン的に同ページ上部に載っているだけで,商品名,商品番号,値段等は一切表示されていないし,当該同ページ内に商品「腕時計」を商品として説明する商品説明ページは一切存在しない。すなわち,本件ウェブページは,当該ページ内に腕時計の画像が装飾として用いられていることを示すにとどまり,本件商標権者が本件商標を腕時計の広告に使用していることを推認させない。
また,本件ウェブページに腕時計の画像が登場したのは,早くとも平成29年1月以降である(甲6)。本件商標権者がモトローラ社の日本における代理店に対し,最初にモトローラ社に係る製品の展示,販売中止を求める警告書を送付したのが同年2月9日であることを踏まえると(甲3),被請求人は同代理店に対し警告書を送付するにあたって,請求人又は同代理店から不使用取消審判が請求される可能性を察知し,紛争が顕在化する前に,不使用取消を免れる目的でのみ腕時計の画像を掲載したものと考えざるをえない。
イ 本件ウェブページの写真は,画像が不鮮明で文字盤上の文字も確認できない。また,被請求人は,本件ウェブページ用の写真(乙30)を提出しているが,これが本件ウェブページの写真と同じものであるか,この写真の撮影日が2017年1月23日であるかは,明らかでない。
また,電子メール(乙25)の写真も,文字盤上,「moto」の部分のみが,他の部分に比べて不自然に明瞭であり,例えば,元々「moto」との表示はなかったデジタル画像に,「moto」のイメージを合成する等して作出された可能性がある。
ウ 被請求人は,具体的な製造実績を明らかにしていない。仮に,被請求人の主張するとおり,「サンプル」の製造に関し,見積りがなされていたとして,見積書(乙24,乙26?乙28)には,「moto」という本件商標は記載されていない。いずれにしても,被請求人が主張するところの「腕時計」についての(サンプルではない)本格的な製造についての実績は主張すらされていない。
エ 以上のとおり,本件ウェブページは,腕時計の広告としての使用というにはあまりにも不十分なものであり,不使用取消審決を免れる目的で形式的に使用の事実を作出されたものといわざるを得ない。
(3)A社との取引について
ア 電子メール(乙4の1)は,従前のやりとりを一切含んでいないし,電子メールに添付されたとされる見積書は,捺印欄が空欄であること,この見積にかかる商品は,腕時計とは無関係の別の商品であることからすると,商品の価格見積を提示するメールにおいて,異なる商品のサンプルの写真のみが添付され,価格等については記載されず,かつ,かかるサンプルを送付する旨のみが述べられるというのは,不自然である。
被請求人は,当該電子メールを送信した同日にサンプルを送付した証拠として,「御見積書」(乙4の2)を提出するが,当該電子メールも含めマスク部分が開示されない限り,メールの宛先と宅配便の送付先の同一性を確認することすらできない。
仮にサンプルが送付されていたとしても,それは,実際に商取引に発展する可能性は皆無であるのに,不使用取消審判による取消しを免れる目的で,本件商標権者が一方的に行ったものではないか,という疑念を払拭することはできない。同様に,サンプルなるものが,単に外形上時計の体を成すに過ぎないモックアップ(実物とほぼ同様に似せて作られた模型)ではないかとの疑念を払拭することもできない。
イ 被請求人は,事実実験公正証書(乙45)を提出しているが,A社が実在する会社であるのかは,公証人によっても確認されているとはいえない。
被請求人は,電子メール(乙4の1)及び見積書(乙4の2)でマスクされている部分が営業秘密であると述べているが,マスクされた乙4の1と乙4の2に記載されたA社の社名は,公開情報であり,非公知性,秘密管理性がないことは明らかである。
ウ 電子メール(乙4の1)に添付された商品写真は,「moto」の文字を表示した時計の文字盤を模した紙のようなものを,文字盤部に貼り付けた腕時計の写真である蓋然性が高い。よって,被請求人が,実際にこのようなものをサンプルとしてA社に送信,送付したのかは,極めて疑わしいといわなければならない。
(4)ヤフーオークションでの使用について
ア ヤフーオークションの落札者(乙5の1・8)の素性は不明であり,当該落札者は,被請求人の関係者であり,被請求人から依頼を受けて,この腕時計を落札した可能性がある。当該ヤフーオークションの出品者は,本件商標権者の従業員のものであり,このオークションの出品は,同人が被請求人の職務として行ったということであるが,当該従業員に係る落札は4回あるのに対し,出品は1回だけであり,要するに,同人が,ヤフーオークションに商品を出品したのは,当該ヤフーオークション(乙5)に係る商品「腕時計」のみである(甲9)。
イ ヤフーオークションにおいて,本権商標権者の従業員が職務として腕時計をテスト販売するのであれば,オークションのページに,本権商標権者の社名を表示し,また,メールアドレスも,本権商標権者のものと分かるメールアドレスを表示するのが自然である。しかるに,ヤフーオークションにおける画面(乙5の1)には,本権商標権者の社名すら一切表示されていない。したがって,ヤフーオークションにかかる出品が,本権商標権者の職務として行われたとものと信用することはできない。
ウ ヤフーオークションでの使用に関し,被請求人は,ヤフーオークションにおける一般人が見ていた画面(乙5の9)を提出するが,当該画面を見ても,商品「腕時計」の文字盤の記載は明らかではない。
また,被請求人は,オークションサイトに本権商標権者が使用した画像(乙36)を提出するが,当該画像が2017年(平成29年)5月当時に実際に使用されていたことを客観的に示す証拠はない。
エ 上記ヤフーオークションの落札及び支払があったことは確認できても,本権商標権者から第三者に商品が発送された事実(つまり,第三者に譲渡又は引き渡しがされたことを直接確認できるような証拠)は提出されていない。
(5)本件審判の請求の登録日(平成29年6月23日)以降の事情について
被請求人口頭陳述要領書で新たに主張されたB社,C社及びD社への提案は,そもそも要証期間外になされたものであるが,実際にサンプルが送付されているのか,仮に送付されていたとしても不使用取消審判による取消しを免れる目的で送付したにすぎない。
被請求人は,C社及びD社の担当者と商談してサンプルを譲渡したと述べるが,かかる証拠は提出されていない。被請求人は,譲渡の売上を記載した台帳(乙32,乙34)を提出しているが,作成日は,2018年(平成30年)1月であり,事後的に入力された可能性すらあり,いずれにしても,会計ソフトに入力された情報であって,情報を追加的に入力したり,入力した内容を修正することも可能であり,特段の証拠価値を有しない。
(6)本件商標の使用は駆け込み使用について
被請求人主張使用事実のうち,2017年(平成29年)3月8日以降になされたものは,いわゆる駆け込み使用であり,不使用取消を免れる「使用」に該当しない(商標法第50条第3項)。
被請求人との間の交渉経緯に鑑みれば,被請求人は遅くとも平成29年2月初めには,「取消審判の請求がされ得ることを譲渡交渉,ライセンス交渉等での相手方の動きから察知した」ことが明らかである。したがって,被請求人が平成29年2月初め以降にした本件商標の使用行為は,いわゆる駆け込み使用であり,平成29年3月8日以降の事実については不使用取消を免れる「使用」にあたらない。
(7)結語
以上のとおり,被請求人が立証しようとする「使用」は,そもそも存在しない架空のものである可能性があり,また,仮に存在しても,それは,名目的なものにすぎない。よって,本件商標登録中,「腕時計」に係る部分については,取り消されるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第60号証を提出した。
1 本件商標権者について
本件商標権者は,雑貨,電子製品,生活用品等の販売等を業とする会社で,時計の販売は主な事業の一つである(乙6,乙7)。
本件商標権者の代表取締役社長が保有・経営する会社は台湾にもあり,この台湾の会社の名称は,「賓来文創開殷股扮有限公司」(以下「国際事務所」という。)で,1984年(昭和59年)に設立した(乙8,乙49)。
本件商標の「moto」は,本件商標権者の商号である「モトデザイン株式会社」の「モト」の部分を英小文字にして商標としたものである。被請求人は,本件商標を企業ブランド商標として,ハウスマークないしコーポレートブランドとし,主力事業である時計事業に長年に渡って使用してきた(乙9?乙21)。
2 本件商標権者における腕時計の商品化の経緯について
(1)被請求人の「moto」商標を付した腕時計(以下「moto腕時計」という。)の販売構想は,2011年(平成23)から存在した。
被請求人は,2011年には,2012年の年間開発アイテムとしてデザイン事務所に腕時計のデザインを依頼し,腕時計の販売を検討していた(乙8,乙22,乙23)。
したがって,moto腕時計の商品化及び腕時計の販売は,請求人に対して権利行使をするためという訴訟対策目的で開始したのではない。
(2)moto腕時計の製造について
本件商標権者は,被請求人のウェブサイト(乙3の1?3)に写真が掲載されている「moto」の文字が使用された腕時計を,台湾下請先に製造してもらっている(乙8,乙24?乙28,乙47,乙48,乙50)。
本件商標権者の代表取締役社長は,台湾下請先と,文字盤に「moto」を付した腕時計の台湾下請先による製造について台湾において協議をし,2016年(平成28年)12月にはそのデザインと仕入価格が決定し,商品「腕時計」(moto腕時計)16個を台湾下請先に発注した(乙24,乙25)。
そして,本件商標権者の代表取締役社長は,台湾下請先から,2017年(平成29年)1月10日,上記のmoto腕時計合計16個を受け取った(乙26)。その後も,本件商標権者は,下請け先に,2017年(平成29年)6月25日付の見積書(乙27)に基づき,moto腕時計合計31個を発注し,同年8月30日にこれら合計31個を台湾下請先から受領した(乙28)。
(3)moto腕時計の写真撮影及びウェブサイト用画像作成
本件商標権者の代表取締役社長は,moto腕時計を被請求人のウェブページやカタログ等の広告で使用するために,2017年(平成29年)1月10日に台湾下請先から受領したmoto腕時計の写真撮影を写真撮影業者に依頼し,同月12日に合計19枚のmoto腕時計の写真を受領した(乙29)。
そして,2017年(平成29年)1月23日に,国際事務所において,上記のとおり受領したmoto腕時計の写真を使用し,ウェブページ用のmoto腕時計の画像(乙30)を作成した。
このように,被請求人ウェブページに掲載しているmoto腕時計は,台湾下請先に製造委託して製造したもので,モックアップ(模型)などではなく,腕時計としての機能を有する本件商標権者の商品である。
3 本件ウェブページでの広告について
本件商標権者は,上記のようにして作成されたウェブサイト用のmoto腕時計の画像を本件ウェブページに2017年(平成29年)1月23日に掲載した(乙3の1?3)。
そして,本件ウェブページには,moto腕時計の画像の右側に大きく「moto」が表示され,また,「moto」は,本件商標である旨の表示もされている。
なお,本件ウェブページに,商品名,商品番号,値段等が表示されていないのは,moto腕時計は販売活動を開始した段階であって,大量生産による販売をまだ開始していないからである。発売予定の商品を広告する際や販売中の商品においては,商品番号や値段等を表示せずに,商品の写真などで広告を行うことは通常行われていることである。
4 A社との取引について
本件商標権者は,本件商標を付したmoto腕時計のサンプルをA社(東京都台東区所在。実際の取引先会社名は営業秘密であるため「A社」という。)に送付するなどの取扱いの提案をした(乙4の1・2)。
本件商標権者は,moto腕時計の販売のため,A社にmoto腕時計の提案を行い,サンプルとしてmoto腕時計を譲渡し,引き渡した(乙4の1・2)。
本件商標権者がA社に譲渡したのは,台湾下請先に代金を支払って製造してもらったもので,腕時計としての機能を有する本件商標権者の商品である。
乙第4号証の1及び2でマスキングをした宛先の会社は全て同じA社であり,宛先の会社と担当者が同一であることについて公証を行っている(乙45)。
5 ヤフーオークションでの使用について
乙第5号証の1は,本件商標権者が,本件ウェブページのmoto腕時計の販売のため,2017年(平成29年)6月18日から同月21日まで,ヤフーオークションにmoto腕時計を出品した際のウェブページである。
本件商標権者は,この「moto」を使用したmoto腕時計のヤフーオークションでの販売広告を2017年(平成29年)5月19日から同月22日まで,同月28日から同月31日まで,同年6月9日から同月12日まで,同月18日から同月21日までの各期間に行った(乙5の1?6,乙35,乙36)。
当該ヤフーオークションのウェブページには,「時計」との記載及び「腕時計」との記載は商品の種類であるので,商品名欄の「moto」(本件商標)が被請求人のmoto腕時計の広告に使用されていたといえる。
また,当該ヤフーオークションのウェブページには,商品欄に「moto時計 腕時計」と記載され,商品説明欄に「moto時計 限定販売アイテム腕時計」と記載されたこのmoto腕時計について本件商標権者,落札者,ヤフーとの間のやり取り(取引連絡)に,このmoto腕時計について,商品欄の「moto時計 腕時計」の記載が使用されていた(乙5の1ないし乙5の9,乙35)。
このやり取り(取引連絡)は,取引書類(電磁的方法によるもの)に該当するから,moto腕時計の取引書類に「moto」(本件商標)が使用されていたといえる。
2017年(平成29年)6月18日から同月21日までのオークションにおいては,入札があり,moto腕時計は落札され,同月22日に,本件商標権者は落札者から代金の支払いを受け,落札者にmoto腕時計を販売した(乙5の7・8,乙35,乙56の1・2)。
なお,当該落札者は個人であり,その情報は個人情報で,また被請求人の取引先として被請求人の営業秘密でもあるため,開示していない。
このヤフーオークションでの出品手続は,本件商標権者の従業員が本件商標権者の職務として行った(乙38)。
6 本件審判の請求の登録日(平成29年6月23日)以降の事情について
(1)B社との取引について
本件商標権者は,2017年(平成29年)5月末に東京都台東区所在のB社(取引会社名は被請求人の営業秘密であるため「B社」という。)の担当者と商談を行い,「moto」が付されたmoto腕時計のサンプルを見てもらい,その後,2017年6月30日にB社に検討状況を確認するため電子メールを送信した(乙31の1)。
また,添付された写真(乙31の1)の腕時計は,本件ウェブページの腕時計の画像の腕時計であり,本件商標が付されている。
(2)C社との取引について
本件商標権者は,2017年(平成29年)12月上旬に東京都台東区所在のC社(取引会社名は被請求人の営業秘密であるため「C社」という。)の担当者と商談を行い,「moto」が付されたmoto腕時計のサンプルを2点譲渡した(乙32,乙33,乙52の1・2,乙53の1・2)。
(3)D社との取引について
被請求人は,2017年(平成29年)12月上旬に東京都台東区所在のD社(取引会社名は被請求人の営業秘密であるため「D社」という。)の担当者と商談を行い,「moto」が付されたmoto腕時計のサンプルを2点譲渡した(乙54の1?3,乙55の1・2)。
(4)moto腕時計のギフト・ショーへの出展
本件商標権者は,2017年(平成29年)年9月6日から8日に東京ビッグサイトにおいて開催された「第84回東京インターナショナル ギフト・ショー 秋2017」に参加した(乙39?乙42)。
被請求人のブースでは,「moto」商標を付したmoto腕時計を展示した。その他には,被請求人商品である,東京スカイツリーCLOCKその他の置時計,ルーペ,LED懐中電灯,壁掛け時計なども展示した。被請求人は,開催中には多くの流通業者を迎え,「moto」を使用したmoto腕時計についても紹介し,提案を行った。
本件商標権者は,カタログ(乙8の写真4,乙43,乙44)を,上記ギフト・ショーで頒布した。被請求人は,moto腕時計の販売に力を入れることにしていたので,人気商品である東京スカイツリーCLOCKとともに,moto腕時計の写真を「moto」の表示と表面に大きく掲載した。
7 本件商標の使用は駆け込み使用について
上記2のとおり,被請求人は,請求人との間で本件紛争となる前の2011年から腕時計の販売を検討している。
被請求人は,不使用取消を免れる目的で本件ウェブページを開始したのではないし,moto腕時計の販売努力は,不使用取消を免れる目的で行ってきたのではない。
なお,乙第3号証の1ないし3により,被請求人の本件ウェブページは,平成29年2月23日から同年6月23日まで継続されていたと認められる。よって,平成29年2月23日から同年3月22日までの同広告は,商標法第50条第3項の期間(審判請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間)の開始日である平成29年3月23日より前の広告である。
8 結論
以上のとおり,被請求人は,要証期間内に,本件商標を第14類「腕時計」について使用しているから,本件審判の請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 事実認定
証拠及び被請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件商標権者は,雑貨,電子製品,生活用品等の販売等を業とする会社である(乙6,乙7)。
(2)本件商標権者の代表取締役社長は,台湾に「賓来文創開殷股扮有限公司」(国際事務所)を保有し,経営している(乙8,乙49)。
(3)請求人は,「moto」シリーズの商品「携帯情報端末」(以下「請求人商品」という。)について,平成28年11月から同29年1月に東京メトロ,JR及び大阪市営地下鉄等の電車内において,広告映像を映写し,楽天及びアマゾンにおいて,バナー広告を流した(甲6)。
(4)本件商標権者は,遅くとも平成29年2月23日に自社のウェブサイトの「moto時計」の項の上部に4本の商品「腕時計」の画像を掲載し,その右側に「moto」の文字とともに当該文字が本件商標である旨を表示した。同ウェブサイト上の当該腕時計の画像には,掲載された腕時計の商品名,商品番号,値段等の情報は表示されておらず,これらの腕時計の広告や商品説明,商品を購入するための表示等も存在しない(乙3)。
(5)本件商標権者の代理人は,平成29年2月9日に株式会社三交クリエイティブ・ライフに対して,同社が取り扱う「moto」との標章が付された商品「腕時計」の展示,販売行為は,本件商標権を侵害する旨警告した(甲3)。モトローラ・モビリティ・エルエルシーは,当該警告に対し,平成29年3月17日付け「ご回答」を本件商標権者の代理人に送付し,「当職らは,モトデザイン株式会社(審決注:本件商標権者)が商標『MOTO』を用いて腕時計の販売を行っていることについて疑いがあると考えています。モトデザイン株式会社のウェブサイトでは腕時計の画像と共に『moto』の語が使用されていますが,当該使用は本件対応のみを目的とする不自然かつ名目的なものに見受けられ・・・」などと主張した。
(6)本件商標権者は,平成29年5月12日付けで,A社宛てに「見積及び腕時計サンプル発送致します」との件名のメール(乙4の1)を送信した。当該メールには,「moto腕時計について,本日サンプルを送付致しますので,併せてご確認のうえご検討下さい。」,「*添付ファイルにて,先に商品写真を送付致します。」と記載され,文字盤に「moto」の文字の表記がある商品「腕時計」の画像及び腕時計とは別の商品についての見積書が添付されていた。また,同日受付で,品名「moto腕手時×1点サンプル」と記載された宅配便伝票(乙4の2)が作成されている。なお,当該メール及び当該宅配便伝票の宛先(A社)は,マスキングされているため,確認することができない。
(7)本件商標権者の従業員Tは,平成29年5月19日に自己の個人IDを用いて,商品名が「moto時計 腕時計」とする,商品「腕時計」の画像が付された商品を5000円でヤフーオークションに出品したところ,同年6月21日に落札され,同月22日に支払いがあった(乙5)。
(8)本件商標権者は,平成29年6月30日付けで,B社宛てに「腕時計の提案について」との件名のメール(乙31の1)を送信した。当該メールには,「5月末に下記商品 腕時計の提案をさせていただきましたが,その後は如何でしたか?」と記載され,文字盤に「moto」の文字の表記がある商品「腕時計」がケースに収められた画像が添付された。
2 判断
(1)本件商標権者における腕時計の商品化の経緯について
ア 本件商標権者の代表取締役社長は,文字盤に「moto」を付した腕時計の台湾下請先による製造について,台湾において台湾下請先と協議して,見積書(乙24)及びデザイン画像(乙25)を受領の上,平成28年12月にmoto腕時計16個を台湾下請先に発注し,そして,本件商標権者の代表取締役社長は,同29年1月10日,台湾下請先から,moto腕時計合計16個を受け取った(乙26)旨主張する。
しかしながら,見積書(乙24)には,「製品明細」として「ステンレス サファイアガラス 日本製ムーブメント 手作箱及び説明書」,「注意事項」として「腕時計サンプル製作」の記載,及び「数量」が合計16個である旨の記載があるが,当該見積書には,単価やサンプル納期の記載がないなど,不自然な点も少なくない。加えて,本件商標権者の代表取締役社長が受領したとする見積書(乙26)には,品名として「077」及び「088」とのみ記載され,デザイン画像(乙25)の商品「腕時計」に付された記号(A-1,A-2,A-3,C-1,C-2,C-3)についての詳細な記載もなく,当該デザイン画像に基づいて商品「腕時計」のサンプルが製作されたとする客観的な証拠は存在しない。
そうすると,上記証拠に基づき,文字盤に「moto」を付した商品「腕時計」のサンプルが製造され,本件商標権者に納品されたとの事実を認めることはできない。
イ 本件商標権者の代表取締役社長は,moto腕時計を被請求人のウェブページやカタログ等の広告で使用するために,平成29年1月10日に台湾下請先から受領したmoto腕時計の写真撮影を写真撮影業者に依頼し,同月12日に合計19枚の写真を受領した(乙29)。そして,平成29年1月23日に,受領したmoto腕時計の写真を使用し,ウェブページ用のmoto腕時計の画像(乙30)を作成した旨主張する。
しかしながら,納品書(乙29)には,納品された写真の画像等は添付されておらず,領収書(乙51)によっても,当該撮影費に係る写真は明らかにされていない。
さらに,ウェブページ用のmoto腕時計の画像(乙30)の最も左側に掲載された腕時計は,デザイン画像(乙25)中には存在せず,当該デザイン画像と当該ウェブページ用のmoto腕時計の画像とは整合しない。
ウ 以上よりすると,上記アのとおり,商品「腕時計」のサンプルが製造され,本件商標権者に納品されたとの事実を認めることはできないし,そして,同サンプルを基に台湾の写真撮影業者が撮影し,写真を納入したとの事実も認めることができない。
(2)本件ウェブページでの広告について
本件ウェブページ(乙3)での商品「腕時計」は,画像が不鮮明であり,腕時計の文字盤に「moto」の文字の表記があることは確認できない。被請求人は,本件ウェブサイトに掲載した写真を拡大したものであるとして乙第30号証を提出するが,その作成時期,作成経緯は明らかではなく,これが本件ウェブページの広告上の写真と同じものであることを裏付ける客観的な証拠はない。
そして,上記(1)アのとおり,文字盤に「moto」を付した商品「腕時計」のサンプルが製造され,本件商標権者に納品されたとの事実を認めることはできないし,また,後記(3)のとおり,平成29年5月12日の時点においても,「moto」の文字が付された商品「腕時計」が実在したことを否定せざるを得ない。
以上よりすると,本件ウェブページでの広告(乙3)の画像に対応する本件商標権者の腕時計が実際に製造され,商品として購入できる状態にあったことを推認することはできない。
そして,本件ウェブページに掲載された商品「腕時計」の画像の右側に「moto」の文字とともに当該文字が本件商標である旨の表示があるものの,当該商品には品名,価格,商品説明等についての記載がないことからすると,当該画像に接する取引者,需要者をして,商品の特定をすることもできない上,その価格等をも知ることができないから,本件ウェブページの商品「腕時計」の画像が,当該商品の広告として看取されるとものであると認めることはできない。
(3)A社との取引について
上記1(6)によれば,本件商標権者が,平成29年5月12日付けで,メール(乙4の1)に添付した商品「腕時計」の写真は,腕時計の文字盤を模した紙のようなものに「moto」の文字を表示し,それを実物の商品「腕時計」の文字盤部に貼り付けた写真のように見受けられ,被請求人が,本件商標権者は台湾下請先からmoto腕時計合計16個を受け取ったとの主張及び当該メール本文に「moto腕時計について,本日サンプルを送付致します」との記載があり,商品「腕時計」の実在を示唆し,郵送(乙4の2)していることからすると,著しく不自然であり,当該時点において「moto」の文字が付された商品「腕時計」が実在したことを否定せざるを得ないし,当該メールに添付された見積書の品番/商品名が,必ずしも腕時計の品番等と合致するものではないことも不合理であるといわざるを得ない。
また,被請求人からA社宛てのmoto腕時計のサンプルの発送の証拠として,品名「moto腕手時×1点サンプル」と記載された宅配便伝票(乙4の2)が提出されているが,宛先がマスキングされており,事実実験公正証書(乙45)をもってしても,A社の実在性や同人と本件商標権者との関係は明らかでない。
したがって,これらの証拠によって,本件商標権者の商品「腕時計」について商談がおこなわれ,そのサンプルがA社に発送されたとの事実を認めることはできない。
(4)ヤフーオークションでの使用について
被請求人は,2017年(平成29年)6月18日から同月21日まで,ヤフーオークションにmoto腕時計を出品した旨主張する。
しかしながら,当該オークション画面(乙5)を見ても,出品した商品「腕時計」の画像は不鮮明であり,当該商品の文字盤に「moto」の表示があるかは確認できない。被請求人は,当該商品の拡大画像(乙36)を提出するが,当該画像が当該オークション画面と同一のものであることを裏付ける客観的な証拠はない。
また,当該オークションは,本件商標権者の従業員T個人のIDを用いておこなわれたものであるところ,本件商標権者が販売している商品をその従業員が個人のIDを用い,オークションを利用して1個のみを販売し,しかも,同出品の際の商品説明欄(乙5の9)に製造者である会社名の記載すら行わないというのは,法人による営業活動として不自然であるといわざるを得ない。
さらに,被請求人は,落札者に本件商標権者の腕時計を発送した証拠として,宅配便伝票(乙56の1)及び落札者が受け取り確認をした旨のメール(乙56の2)を提出するが,被請求人は,落札者の氏名を明らかにしておらず,落札者の実在性及び同人と本件商標権者との関係性は明らかでない。
以上によれば,本件商標が付された商品「腕時計」が上記オークションに出品され,本件商標権者と関係のない第三者が落札し,同商品が落札者に発送されたとの事実を認めることはできない。
(5)本件審判の請求の登録日(平成29年6月23日)以降の事情について
被請求人は,本件審判の請求の登録日(平成29年6月23日)以降の事情として,B社,C社及びD社との取引において,moto腕時計のサンプルを提供等の商談を行った旨,並びに,ギフト・ショーにおいてmoto腕時計の展示等を行った旨主張する。
しかしながら,B社との取引については,上記1(8)のとおり,本件審判請求の登録後の平成29年6月30日付けでメールを送付し,例え,当該メールに当該登録前の同年5月末に商談を開始した旨の記載があるとしても,それを裏付ける具体的な証拠の提出はない。
また,C社及びD社との取引については,本件商標権者の得意先台帳に本件商標権者の腕時計に関する取引記録(乙32?乙34)があるとしても,いずれも本件審判請求の登録後の取引であって,しかも,それを裏付ける具体的な証拠の提出はない。
そうすると,B社,C社及びD社との取引は,いずれも本件審判の請求の登録日以降における事情であり,しかも,moto腕時計が実際に要証期間内に存在したことを推認させるものでもない。
(6)小括
以上よりすると,文字盤に「moto」の文字の表示がある本件商標権者の商品「腕時計」が,要証期間内に製造され,台湾下請先から本件商標権者に引き渡されたと認めることはできず,これを前提とする本件商標権者のウェブサイトへの商品「腕時計」の掲載行為,A社との取引及びヤフーオークションへの出品行為は,いずれも商標法にいう「使用」に該当するとは認められない。
3 被請求人の主張に対し
(1)被請求人は,ヤフーオークションでの本件商標の使用に関して,商品欄に「moto時計 腕時計」と記載されたmoto腕時計について本件商標権者,落札者及びヤフーとの間のやり取り(取引連絡)は,取引書類に該当するから,moto腕時計の取引書類に「moto」(本件商標)が使用されていたといえる旨主張する。
しかしながら,当該取引連絡は,単なる商取引に関する経過を示す連絡であって,商標の広告的使用を目的とした商品に関する取引書類(例えば,注文書,納品書,送り状,出荷案内書,物品領収書,カタログ等)として頒布されたものということはできないから,当該取引連絡は,商標法第2条第3項第8号所定の「取引書類」には該当しないというのが相当である。
(2)被請求人は,本件ウェブページでの広告について,本件ウェブページに,商品名,商品番号,値段等が表示されていないのは,大量生産による販売をまだ開始していないからであって,発売予定の商品を広告する際や販売中の商品においては,商品番号や値段等を表示せずに,商品の写真などで広告を行うことは通常行われている旨主張する。
しかしながら,発売予定の商品であっても,広告においては,これに接する取引者,需要者の便宜を図るため,商品を特定するための商品名や発売予定日等が表示されるのが通常であることを考慮するところ,上記2(2)のとおり,本件ウェブページでの腕時計の画像は,本件商標権者の腕時計が実際に製造され,商品として購入できる実体があったことを推認することはできないことに加えて,本件ウェブページに掲載された商品「腕時計」の画像は,品名,価格,商品説明等についての記載がないことからすると,発売予定の商品の特定をすることができないものであるから,これに接する取引者,需要者をして,当該商品の広告として看取されるものと認めることはできない。
(3)したがって,被請求人の上記主張は,いずれも採用することができない。
4 結論
以上のとおり,本件審判の請求に係る指定商品中「腕時計」については本件商標の使用が認められないところ,本件審判の請求に係るその余の指定商品について,本件商標を使用したものと認めるに足りる証拠の提出はない。
そうすると,被請求人は,要証期間に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが本件審判の請求に係る指定商品のいずれかについて,本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認められない。
また,被請求人は,本件審判の請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,結論掲記の指定商品についてその登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2019-03-28 
結審通知日 2019-04-01 
審決日 2019-05-16 
出願番号 商願2006-26474(T2006-26474) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y14)
最終処分 成立  
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 木村 一弘
早川 文宏
登録日 2006-10-13 
登録番号 商標登録第4995373号(T4995373) 
商標の称呼 モト、モート 
代理人 岩瀬 吉和 
復代理人 山内 真之 
代理人 深井 俊至 
代理人 西川 喜裕 
復代理人 生島 芙美 
復代理人 白波瀬 悠美子 
代理人 城山 康文 
代理人 永岡 愛 
代理人 北口 貴大 

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