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審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W31
管理番号 1362521 
審判番号 不服2019-8925 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-07-03 
確定日 2020-05-08 
事件の表示 商願2018-50831拒絶査定不服審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は、「江戸辛味大根」の文字を標準文字で表してなり、第31類に属する願書記載の商品を指定商品として、平成30年4月19日に登録出願されたものである。
その後、本願の指定商品については、原審における平成31年2月15日受付の手続補正書で、第31類「辛味大根,辛味大根の種子,辛味大根の苗,辛味大根の花,辛味大根の花を使ったドライフラワー,辛味大根の花の花輪,辛味大根を用いた飼料」と補正されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由の要点
原査定は、「本願商標は、『江戸辛味大根』の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中、『江戸』の文字は、『東京の旧名。吉原・深川あたりで内神田・日本橋辺を指していった称。』を意味する語であり、『江戸時代』に生産されたものや、東京の旧名称として東京近郊を示すものとしても用いられている語である。また、本願商標の構成中の『辛味大根』の文字は、『辛みの強い大根』を意味する語である。そうすると、本願商標は、その構成全体から『江戸時代から江戸(東京)近郊で栽培されていた辛味大根』『東京近郊で栽培される辛味大根』ほどの意味合いを理解させるにとどまり、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示するにすぎず、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものである。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。

第3 当審においてした審尋
審判長は、請求人に対し、令和元年12月20日付けで、別掲1及び別掲2(1)ないし(5)を提示した上で、本願商標は、その構成全体から「江戸時代から江戸の土地で栽培されていた辛味大根」、「江戸時代から栽培されていた辛味大根」、「東京近郊で栽培される辛味大根」ほどの意味合いを認識、理解させるにとどまるものであるから、これをその指定商品に使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ないものであり、商標法第3条第1項第3号に該当する旨の見解を示した審尋を発し、期間を指定して、これに対する回答を求めた。

第4 審尋に対する請求人の回答
請求人は、前記第3の審尋に対し、令和2年1月14日受付の回答書を提出し、要旨以下のように主張するとともに、その主張を裏付けるものとして、原審及び当審において提出した甲第1号証ないし甲第38号証に加えて、甲第39号証ないし甲第41号証を提出した。
(1)本願商標は、一体に結合した全体で一つの造語であって「江戸辛味大根」との意味合いしかなく、また、請求人以外の者が本願商標と同一の文字を使用している例はない。
(2)審尋で示された「江戸」の文字と商品の普通名称等との組合せの使用例は、本願商標の指定商品と根本的に違うものである。また、本願商標は、現存しない名前であって、生産地でもない「江戸」の文字と野菜の名称との組合せであり、現存する生産地名と野菜又は野菜の名称との組合せと同列に論じることはできない。江戸時代における「江戸」は、「現在の東京の近郊」ではなく、「現在の東京のど真ん中」であって、米、野菜の生産地でなかったことは明白である。本願商標は、これを「東京近郊で栽培される辛味大根」、「江戸の土地で栽培されていた辛味大根」と錯誤する者はいないし、「時間の変遷」を直感させる語彙、雰囲気が皆無であるから、「江戸時代から栽培されていた辛味大根」とするのは失当である。
(3)「江戸○○」の標章が数多く登録されており、本願商標は登録されてしかるべきである。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)商標法第3条第1項第3号の趣旨について
商標法第3条第1項第3号が「その商品の産地、販売地、品質、原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標登録を受けることができない旨規定する趣旨は、このような商標は、商品の産地、販売地その他の特性を表示記述する標章であって、取引に際し必要適切な表示としてなんぴともその使用を欲するものであるから、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに、一般的に使用される標章であって、多くの場合自他商品識別力を欠き、商標としての機能を果たし得ないものであることによると解され(最高裁昭和53年(行ツ)第129号 昭和54年4月10日第三小法廷判決)、また、取引者、需要者に指定商品の品質等を示すものとして認識され得る表示態様の商標につき、それ故に登録を受けることができないとしたものであって、該表示態様が、商品の品質を表すものとして必ず使用されるものであるとか、現実に使用されている等の事実は、同号の適用において必ずしも要求されないものと解すべきである(東京高裁平成12年(行ケ)第76号 平成12年9月4日判決)。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本願商標は、前記第1のとおり、「江戸辛味大根」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、「江戸」の文字と「辛味大根」の文字とを組み合わせた構成からなるものと看取、把握されるものである。
そして、本願商標の構成中、「江戸」の文字は、「東京の旧名」、「吉原・深川あたりで内神田・日本橋辺を指していった称。」(「広辞苑(第六版)」(株式会社岩波書店))を意味するものである。また、「江戸」を含む語を使用した例からすれば、「江戸」の語は、江戸時代から作られている商品、江戸の土地で作られた商品であることを表すために用いられており(別掲1)、「辛味大根」の文字は、本願の指定商品との関係において、商品の名称又は商品の原料を表すものである。
ところで、「辛味大根」は、野菜の一種であるところ、野菜を取り扱う業界において、「江戸」の文字を含む旧都市名や地域名等は、「野菜」の文字やその普通名称と組み合わせて、伝統的な野菜や、当該地域を中心として生産された野菜を表すものとして、使用されている実情(別掲2)がある。
そうすると、本願商標は、その構成全体から「江戸時代から江戸の土地で栽培されていた辛味大根」、「江戸時代から栽培されていた辛味大根」、「東京近郊で栽培される辛味大根」ほどの意味合いを認識、理解させるにとどまるものであるから、これをその指定商品に使用しても、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ないものである。
したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 請求人の主張について
(1)請求人は、「江戸切子」「江戸指物」「江戸甘味噌」の例は、本願の指定商品「野菜」とは全く違った商品の例であるから、本願商標の拒絶の理由には適用できない旨主張する。
しかしながら、審尋で示した上記使用例は、辞書に掲載されている意味に加え、「江戸」の文字が、広く商品名に冠されて使用されている実情があることを示したものである。
そして、本願の指定商品を包含する野菜についても、旧都市名等が野菜の名称等に冠されて使用されている実情があることは、別掲2に示すとおりであり、旧都市名等の一である「江戸」の文字についても、「江戸時代」に起源を有し、あるいは、「江戸時代」に生産されたものや、東京の旧名として東京近郊を示すものとして用いられているものであるといえることは、別掲2(8)ないし(9)に示すとおりである。
よって、請求人の上記主張は、これを採用することができない。
(2)請求人は、本願商標の構成中の「江戸」の文字について、現存しない名前であって、野菜の生産地でないことから、他の使用例と同列に論じることはできない旨主張し、また、江戸時代における「江戸」は、「現在の東京の近郊」ではなく「現在の東京のど真ん中」である旨主張する。
しかしながら、「江戸」の文字が広く商品名に冠して使用されている実情及び該文字を含む旧都市名や地域名等と「野菜」の文字やその普通名称との組合せの使用例を鑑みると、本願の指定商品の取引者、需要者である一般の消費者は、本願商標の構成中の「江戸」の文字を、詳細に理解し、かつ、江戸は野菜の生産地ではないと認識するというよりは、むしろ、「江戸」の文字を、東京近郊などの意味合いで認識するというべきである、
よって、請求人の上記主張は、これを採用することができない。
(3)請求人は、「江戸○○」の標章が数多く登録されており、本願商標は登録されてしかるべきである旨主張し、また、請求人以外の者が本願商標と同一の文字を使用している例はない旨主張する。
しかしながら、登録出願に係る商標が商標法第3条第1項第3号に該当するものであるか否かの判断は、当該商標登録出願の査定時又は審決時において、当該商標の構成態様と指定商品の取引の実情等に基づいて、個別具体的に判断されるものであって、他の登録例の存在によって、判断が左右されるものではないし、同号は上記1(1)のとおりの趣旨であって、商品の品質等を表すものとして現実に使用されていることは必ずしも必要でないものと解すべきであるから、仮に、「江戸辛味大根」の文字が、商品の品質等を表すものとして実際に使用されていないとしても、本願商標は、上記1(2)のとおり、本願の指定商品の取引の実情等を考慮すると、商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきである。
よって、請求人の上記主張は、これを採用することができない。
3 まとめ
以上のとおり、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当し、登録することができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1
(「江戸」の文字と商品の普通名称等との組合せの使用例)
(1)「広辞苑第六版」(株式会社岩波書店)の「江戸切子」の項に、「江戸時代末期、江戸で作られ始めた切りガラス。」の記載がある。
(2)「東京都伝統工芸士会」のウェブサイトにおいて、「江戸指物」の見出しの下、「京都の指物・・・これに対し江戸指物は、将軍家、大名家などの武家用、徳川中期以降台頭してきた商人用、そして江戸歌舞伎役者用(梨園指物)として多く作られ今日に至っています。」の記載がある。
(http://www.dentoukougei.jp/tokyo/16.html)
(3)「東京都味噌工業協同組合」のウェブサイトにおいて、「東京の味噌」の見出しの下、「江戸甘味噌とは・・・江戸に幕府が開かれました。・・・地方色にこだわらない江戸独自の味噌が江戸で作られるようになりました。江戸甘味噌の誕生です。」の記載がある。
(http://www.tokyomiso.or.jp/edoama/01b.html)

別掲2
(「江戸」の文字を含む旧都市名や地域名等と、「野菜」の文字やその普通名称等の組合せの使用例)
(1)「農林水産省」のウェブサイトにおいて、「にっぽんの伝統野菜」の見出しの下、「地域と伝統野菜・・・このように日本にはそれぞれの地域に、伝統野菜が根付いているのも特徴であります。」の記載があり、「江戸東京野菜」、「京野菜」、「信州伝統野菜」の記載がある。また、「大根」の見出しの下、「桜島大根」、「守口大根」、「聖護院大根」などの記載がある。
(http://www.maff.go.jp/j/pr/annual/pdf/pamphlet_japanese.pdf)
(2)「公益財団法人 東京都農林水産振興財団」のウェブサイトにおいて、「ご存知ですか?『江戸東京野菜』」の見出しの下、「江戸東京野菜とは、江戸から昭和40年頃(1965)にかけて現在の東京周辺でつくられていた、伝統野菜のこと。」の記載がある。
(https://tokyogrown.jp/product/edotokyo/)
(3)「金沢市農産物ブランド協会」のウェブサイトにおいて、「加賀野菜について」の見出しの下、「城下町金沢には、藩政時代から受け継がれた季節感に富んだ特産野菜、加賀野菜が数多く引き継がれています。」の記載がある。
(http://www.kanazawa-kagayasai.com/kagayasai/)
(4)「JA京都」のウェブサイトにおいて、「京野菜とは」の見出しの下、「京都府内で取れた野菜は全て京野菜と総称されています。」の記載がある。また、「京の伝統野菜」と「ブランド京野菜」との全体を「京野菜」とする図が掲載されている。
(https://jakyoto.com/kyoyasai/)
(5)「旬の食材百科」のウェブサイトにおいて、「白いダイコン(大根)の主な品種と特徴」の見出しの下、「練馬(ねりま)大根」の項に「練馬を中心に栽培されていた品種で・・・」の記載が、「三浦(みうら)大根」の項に、「神奈川県の三浦で生まれた品種で・・・」の記載が、「桃山だいこん」の項に「京都の桃山で栽培されていた・・・」の記載が、「親田辛味大根」の項に「長野県下條村の特産品。下條村内の親田地区でしか栽培できないと・・・」の記載がある。
(https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/vegitable/daikon4.htm)
(6)「奈良県」のウェブサイト
「大和野菜」の見出しの下、「大和野菜とは・・・奈良県の特産品として特徴をアピールできる大和の伝統野菜と大和のこだわり野菜です。」の記載がある。また、「大和丸なす」「大和きくな」「大和寒熟ほうれん草」などの記載がある。
(http://www.pref.nara.jp/yamato_yasai/)
(7)「大阪府」のウェブサイト
「リーフレット『なにわの伝統野菜』内面」の見出しの下、「『なにわの伝統野菜』の基準」の項に、「1.概ね100年前から大阪府内で栽培されてきた野菜 2.苗、種子等の来歴が明らかで、大阪独自の品目、品種であり、栽培に供する苗、種子等の確保が可能な野菜 3.府内で生産されている野菜」の記載がある。また、「勝間南瓜」「大阪しろな」などの記載がある。
(http://www.pref.osaka.lg.jp/nosei/naniwanonousanbutu/Leafletinside.html)
(8)2018年4月15日 毎日新聞(地方版 27ページ)
「東京産農産物:都独自にGAP認証 五輪向け安全性PR /東京」の見出しの下、「小松菜や大根のほか、『江戸野菜』という言葉もあるほど、昔は農業が盛んだった東京。・・・都内の農業は右肩下がりが続いており、・・・」の記載がある。
(9)2017年12月26日 産経新聞(東京朝刊 16ページ)
「江戸野菜『品川カブ』に長蛇の列 神社で品評会」の見出しの下、「江戸野菜の一つで、かつては品川宿周辺地域で栽培されていた『品川カブ』の品評会が、品川神社(品川区北品川)の境内で開かれ、江戸野菜の振る舞いに長蛇の列ができるなど大にぎわいとなった。品川カブは・・・しかし、明治時代以降は生産が減って幻の野菜となっていた。」の記載がある。

審理終結日 2020-03-05 
結審通知日 2020-03-11 
審決日 2020-03-26 
出願番号 商願2018-50831(T2018-50831) 
審決分類 T 1 8・ 13- Z (W31)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀内 真一 
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 中束 としえ
有水 玲子
商標の称呼 エドカラミダイコン、エドシンミダイコン、カラミダイコン、シンミダイコン、エドダイコン 
代理人 宇高 克己 
代理人 前島 大吾 

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