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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X33
管理番号 1362434 
審判番号 取消2018-300047 
総通号数 246 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-06-26 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-01-26 
確定日 2020-04-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第5350318号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5350318号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5350318号商標(以下「本件商標」という。)は,「PALINKA」の文字を標準文字で表してなり,平成22年1月8日に登録出願,第33類「洋酒」を指定商品として,同年9月3日に設定登録されたものである。
そして,本件審判の請求の登録は,平成30年2月13日にされている。
以下,本件審判の請求の登録前3年以内の期間(平成27年2月13日ないし同30年2月12日)を「要証期間」という場合がある。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第9号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
被請求人提出の答弁書並びに領収書及び納品書(乙3?乙8)は,「登録商標の要証期間内における使用」を立証していない。また,履歴事項全部証明書(乙1)によっては,本件商標にかかる商標権について「株式会社アピコラ」(以下「アピコラ社」という。)に対して使用許諾が設定された事実は確認できない。
(1)証拠偽造の疑い
アピコラ社に係る商品カタログ(乙2)は,不使用による取消を免れるために,虚偽の事実に基づいて作成された偽造証拠である可能性が極めて高い。
ア 「Palinka」と「Palinca」の明確な違い
欧州議会及び欧州理事会規則NO.110/2008に基づき保護されている地理的表示(GI)の添付III」(審決注:「III」はローマ数字の3を表す。以下同じ。)(Annexm)のリストには,「Palinka」の原産国として,ハンガリーとオーストリアの一部の地域が挙げられている(甲2)。
また,同リストには「Palinca」の原産国として,ルーマニアが挙げられている(甲2)。
つまり,「Palinka」と「Palinca」は,全く異なる地理的表示(GI)であり,ハンガリーとオーストリアの一部の地域には「Palinka」(審決注:2文字目の「a」にはアクサンテギュが付されている。)とその翻訳と目される「Palinka」の表示は許され,また,ルーマニアには「Palinca」(審決注:2文字目と7文字目の「a」にはU字形の記号が付されている。)とその翻訳と目される「Palinca」の表示は許されているが,原産地の誤認を生じさせるその他の表示は認められていない(甲2)。
イ 商品カタログ(乙2)の下段に掲載された商品の表示の不自然さ
そこで,商品カタログ(乙2)の上段に写真が掲載されている商品の原産国に着目すると,そこには「ルーマニア」と記載されている。そしてその商品説明の見出しには,黄緑色の筆記体調の文字で「Palinca」と記載されており,商品上にも「Palinca」との表示が認められる。よって,当該商品カタログの上段に掲載されている商品は,ルーマニアを原産国とする地理的表示(GI)の「Palinca」(2文字目と7文字目の「a」にはU字形の記号が付されている。)の翻訳と目される「Palinca」の表示を付した商品であると自然に認識し得る。
一方,商品カタログ(乙2)の下段に掲載されている商品の原産国を見ると,そこにも「ルーマニア」と記載されている。そしてその商品説明の見出しには,赤色の筆記体調の文字で「Palinka」と記載されており,商品上にも「Palinka」の表示が認められる。しかしながら,上述のとおり,ルーマニアを原産国とする蒸留酒には,「Palinca」(2文字目と7文字目の「a」にはU字形の記号が付されている。)とその翻訳と目される「Palinca」の表示は許されても,ハンガリー及びオーストリアの一部の地域を原産国とする地理的表示「Palinka」(2文字目の「a」にはアクサンテギュが付されている。)とその翻訳と目される「Palinka」の表示は許されていない。にもかかわらず,本来ならば存在すべきではない「ルーマニア産の『Palinka』なる商品の写真が商品カタログ(乙2)に掲載されており,この「ルーマニア産」の「Palinka」の組み合わせからなる商品は,極めて違和感のある不自然な商品といわざるを得ない。商品の写真上においても,「Palinka」の表示の下に,ルーマニアの国の形を模したものと解される図形中に「Romania」の表示が認められるが,商品上における「Palinka」の表示と「Romania」の表示の組み合わせも,極めて違和感があり不自然であり,本来ならば存在し得ない表示である。
ウ ルーマニアの酒造会社ZETEA社の証言
商品カタログ(乙2)の上段及び下段に掲げられている商品の底部やや上に,白い太字の文字で「ZETEA」という表示を認識し得る。当該商品カタログの写真からは,文字を正確に読み取ることができない可能性があるため,請求人は,より鮮明に商品の写真を掲載したもの及びその商品の製造会社名を記載したものを提出する(甲4?甲6)。アピコラ社のホームページに掲載されている商品を拡大した写真(甲4)からは,「ZETEA」の文字が確認できる。また,インターネットショッピングサイトにおいて,「Zetea(ゼテェア社)」の商品として「Palinca」が紹介されている(甲5,甲6)。
これらより,商品カタログ(乙2)の上段及び下段に掲げられている商品の底部やや上に,白い太字の文字で書かれている表示は「ZETEA」であると確認できる。
そこで,このZETEA社を調べたところ,ルーマニアの酒造会社であることが判明した。そこで請求人は,ルーマニアのZETEA社に連絡を取り,同社に「palinka」又は「palinca」の名称を持つ商品や商標を保有しているか否かについて問い合わせを行ったところ,ZETEA社より,「Zeteaの名のもとでpalincaのみを製造しているが,「palinka」については一切所有してしいない」という回答を得た(甲7)。
(ア)電話記録の覚書(電話録取書)について
電話記録の覚書(電話録取書,甲7)は,ハンガリーの法律事務所のP弁護士が,2018年(平成30年)5月9日(現地時間10時30分頃)に,ZETEA社の地域営業部長であるR氏に直接電話をかけて,ZETEA社に問い合わせをした際のものである。該覚書には,上記のP弁護士の署名の他,覚書の内容に偽りの無い事を証明する第三者として,ハンガリーの法律事務所の弁護士の署名も連署で入っている(甲7の1)。
(イ)ZETEA社とのメールのやりとりについて
上記のP弁護士と,Zetea社との間で交わされたメールのやりとり(甲8)には,添付書類として,被請求人の商品カタログ(乙2)の下段に掲載されている商品の写真を抜粋したもの(甲8の1)が添付されており,ZETEA社は,当該カタログの抜粋の写真を見た上で,次のように回答している。
「ZETEAとともにPalinkaの名称が使われているいかなる商品も,我々ZETEA社に属する商品ではありません」(甲8の2)。
製造販売元のZETEA社による上記の証言によれば,商品カタログ(乙2)の下段に掲載されている写真の商品は,存在しない商品ということになる。してみれば,商品カタログ(乙2)の下段に掲載されている写真の商品名の「Palinca」の「c」の文字が,「k」に偽造して作成された商品写真である可能性が極めて高い。そうとすれば,その商品の説明文の見出しとして記載されている,赤字の筆記体調の「Palinka」という文字も,偽造された写真,つまり虚偽の事実に基づく表示であるということになる。
エ 商品写真上の「k」の文字の不自然な態様
ここで,商品カタログ(乙2)の下段の商品写真の「k」の文字に注目すると,この「k」の文字は他の文字に比して極めて窮屈に配されており,本来の「c」が入っていたスペース部分に,後から無理に「k」の文字を挿入したとしか思えない態様で記載されている。通常,「k」という文字は,「l」(Lの小文字)との誤読を避けるために,斜め上と斜め下に延びる部分をしっかりと書くのが一般的である。ましてや通常の取引の実情においては,他社の製品との誤認混同を避けるためにいかなる文字も見易く商品に表示するのが一般的であり,このような窮屈な「k」の文字は見易さという観点からも一般的な取引実情の観点からも極めて不自然で疑義がある。
以上より,ZETEA社が「Palinka」を製造販売していない事実をも併せて考慮すると,この表示は偽造されたものであるといわざるを得ない。実際,インターネット上において,商品カタログ(乙2)の下段の商品と同一の商品があるか確認すべく調べたが,同一の商品を見つけることはできなかった。
オ 商品カタログ(乙2)に掲載の商品が存在することを証明する書面について
実物の商品には「酒類表示義務事項」の記載があるはずであり,その表示に記載されている事項も,原産国表示の観点から確認すべきものと考えている。
さらには,「酒類表示義務事項」に関連する書類として,酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行令の規定により,「表示方法届出書」がしかるべく提出されているはずである。
さらには,かかる商品が実在するのであれば,その商品をルーマニアから輸入する際に提出する「輸入(納税)申告書」及びそれに添付すべきインボイスが少なくとも税関において7年間は保管されているはずである。
(2)日付の不特定及び商品の不特定
ア 商品カタログ(乙2)
第一に,当該商品カタログには日付がないから,要証期間内の証拠であるか全く判断できない。
第二に,商取引を目的とする書類であれば,通常の取引実務の実情においては,商品価格の欄が設けられるのが一般的であり,仮に,価格が定まっていない場合には,オープン価格等の表示をするのが一般的である。しかし金額についての何らの表示もない以上,商品カタログ(乙2)が何のための書類なのか不明である。
イ 納品書(乙8,乙9)
本件商標の使用証拠として提出された証拠のうち,その書類の日付が要証期間内のものであると認識し得るのは,納品書(乙8,乙9)のみであるが,以下の理由により,本件商標の使用を立証する書類としては不十分である。
第一に,使用の対象となる商品が,誰の目からみても疑義が無いほどに特定されていない。納品書(乙8,乙9)の商品番号欄に記載されている「94」の番号と,商品カタログ(乙2)の下段に掲載されている商品の商品番号「094」のうち「94」が共通するものの,この番号のみで,正に,商品カタログ(乙2)の下段に掲載された商品に関する取引書類であるということは全く証明されていない。時間の経過により商品ラベルが変更されるのが通常の取引実務であることに鑑みれば,納品書(乙8,乙9)からだけでは,使用の対象となる商品の特定は到底できない。
第二に,納品書の商品名欄に記載されている「パリンカ」という片仮名は,本件商標とは同一でもなければ社会通念上同一の商標でもないから,本件商標の使用を証明してはいない。
なお,納品書(乙8,乙9)で出所を識別する商標として機能しているのは,左上に,ルーマニアの国を模したものと解される図形の中に「Apicola」の文字を配した「ロゴ」であると考える。
第三に,納品書(乙8,乙9)は,その発行元が「株式会社アピコラ京都」(以下「アピコラ社京都」という。)であると認識し得るが,アピコラ社京都は,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれでもない。
(3)社会通念上同一の商標について
被請求人は,「PALINKA」と「パリンカ」は,社会通念上同一の商標であると主張する。
第一に,片仮名の「パリンカ」に相当するローマ字は,欧州議会及び欧州理事会規則NO.110/2008に基づいて登録されている地理的表示(GI)だけでも,「Palinka」(2文字目の「a」にはアクサンテギュが付されている。),「Palinka」,「Palinca」(2文字目と7文字目の「a」にはU字形の記号が付されている。),「Palinca」と複数存在する。よって,納品書(乙8,乙9)に記載されている片仮名の「パリンカ」と本件商標とが,仮に同一の称呼を持つとしても,これをもって「Palinka」と社会通念上同一とは到底いえない。なぜなら,「Palinka」と「Palinca」の間においては,「ハンガリー産の蒸留酒」と「ルーマニア産の蒸留酒」という全く別異の観念を含むものであるため,「パリンカ」から一の観念のみが生じるということはできない。万一本件において,同一の称呼及び観念のみが生じると認められた場合には,地理的表示(GI)において,「Palinka」と「Palinca」の両表示の保護対象とその範囲が明確に分けられている状況において,類似どころか全く異なる範囲にまで権利を拡大することを許す結果となる。そのような場合には,社会通念上同一の商標を認める本来の趣旨が完全に没却され,不当な結果を招くことは明白である。よって,納品書(乙8,乙9)に記載の「パリンカ」は,本件商標と社会通念上同一ということはできない。
第二に,商品カタログ(乙2)の上段に記載されている「Palinca」の表示は,末尾の2字において,本件商標と「ka」と「ca」の違いがあるから,文字の表示を相互に変更するものには該当し得ない。
よって,納品書(乙8,乙9)の商品名欄に記載の「パリンカ」と,商品カタログ(乙2)の上段に商品が掲載されている「Palinca」の表示は,本件商標と社会通念上同一ということはできない。
(4)結語
以上述べたように,被請求人によって提出された証拠によっては,本件商標の使用事実は何ら証明されていないから,本件商標の登録は取り消されるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第17号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 はじめに
(1)ハンガリー国家によって請求された,本件商標の取消審判は,請求人から提出された文書からも明らかであるが,ハンガリー及びルーマニアの二国間の商業的利益であり,被請求人が本件商標を日本国内で使用することとは全く関係ない。現に平成25年6月18日付けの駐日ハンガリー大使が正式に捺印及び署名し,送った通知書(乙11)に「貴殿が商標登録した洋酒『PALINKA パーリンカ』という言葉自体が存在しないこと。ハンガリー語では『PALINKA』,貴殿の母国ルーマニア語では『PALINCA』であるように商標登録された表記はいずれの言語でもないため,現在販売されているパーリンカとは同一ではありません。」と記載されている。請求人が主張している事と相反する。さらに被請求人は,日本人であり,日本国内で本件商標を使用した商品を販売するために商標権を有している。
(2)特許庁が登録した商標PALINKAは本件商標を表す固有名詞である。日本の法律を無視し,請求人は欧州連合の加盟国及び欧州連合戦略の対象でない日本に貿易原則を課すことを目指している。
(3)さらに,現状,欧州連合内でも「PALINKA」の地理的表示としての地位は確立したものではない。欧州連合は,未だにこの問題を明確にしていない。そのため,単なる日本に押し付けたい商業戦略でしかない。
(4)本件商標は,特許庁が日本国法に基づき商標登録し,被請求人は商標法に基づき,本件商標の独占的に使用する権利が与えられた。本件商標を取消すということは,法国家である日本を尊重せず,商業的かつ経済的利益のみを重視する者に機会を与える先例を作ることになる。
2 履歴事項全部証明書とその関連証拠について
履歴事項全部証明書(乙1)は,アピコラ社が本件商標の通常使用権者であることを証明する証拠である。千葉県市川市はアピコラ社の本社所在地であり,アピコラ社京都は京都府京都市にある酒類販売許可を得た営業所であった。そのため,「アピコラ社」と「アピコラ社京都」は同一の法人である。「酒類販売場移転許可通知書」(乙10)によりそれを証明する。
3 ブランデーのカタログについて
(1)「アピコラ社,ブランデーのカタログ」(乙2)は,アピコラ社が作成者で,作成時期は平成25年7月1日。頒布時期は,平成25年7月から平成29年1月であり,営業活動の必要性に応じて,カタログを印刷し頒布したため,元々定まった作成部数,頒布先,頒布場所及び頒布数があったわけではない。
被請求人は本件商標の商標権者でもあり,通常使用権者は「PALINKA」及び「PALINCA」の商標を使用した洋酒を販売している。そのため,同一商品をローマ字表記のみが異なる名前で販売している。それは,被請求人自身が保有しているブランド名及びブランドイメージを使用しているにすぎない。なお,販売している洋酒は,フルーツブランデーであり,地理的表示の酒類ではない。
第二に,「アピコラ社 ブランデーのカタログ」の販売者情報(住所,名称,電話番号など)は,カタログの最後のページに記載されている(乙12)。購入方法及び価格は,カタログに添付した見積書に記載されている(乙13)。
上記は,商標法第2条第3項第1号及び第8号に該当する。
(2)通常使用権者が販売している洋酒,果実の蒸留酒は酒税法でブランデーに分類されており,地理的表示の商品を輸入して販売している訳ではない。前駐日ハンガリー大使が主張したとおり(乙11),本件商標はハンガリーの「PALINKA」とは全く異なるものであり,アピコラ社の仕入先である,ZETEA社(SC.Privat Silviu Zetea SRL)と交わした契約書(乙14)にも以下の記載がある,「契約の目的:本契約によって定められた条件のもとで,ZETEA社の果物から蒸留された伝統的なアルコール飲料の供給。製造者は,購入者の要望により,アルコール分100%に相当する異なるアルコール分の果実の蒸留酒(ツイカ,パリンカなど)を■リットルの量を提供することを約束する。」。したがって,通常使用権者は日本国内で酒税法及び商標法に基づき,原産国がルーマニアのブランデーを「PALINKA」及び「PALINCA」の商標を使用して販売している。なお,片仮名表記ではパリンカとなる。
4 納品書(乙8,乙9)について
(1)通常使用権者は,顧客の要望によって,「PALINKA」及び「PALINCA」の商品のデザイン及びパッケージングを自社で行っている。
(2)また,「PALINKA」及び「パリンカ」は,社会通念上同一の商標である。
(3)なお,請求人も通常使用権者が本件商標を使用した商品を販売していることを認識している。「あなたのpalinkaの売上が比較的少ないことはわかっています」と記載している(乙15)。
上記は,商標法第2条第3項第1号及び第2号に該当する。
5 請求人の主張に対する意見
平成29年1月26日に請求人が被請求人に日欧経済連携協定のための同意書に署名するよう書面で要求してきた。駐日ハンガリー大使が書いた手紙の最後には,「添付の同意書に署名することで,2020年9月3日の満了日までは商標を使用することが出来ます。署名を拒否すると,登録商標取消の法的措置に至る」と記載されており,あたかも請求人が商標権者であるかのように,交渉ではなく,無理やり同意書に署名するよう要求した(乙16)。なお,駐日ハンガリー大使の手紙(乙16)に記載されている住所は,「アピコラ社京都」の住所であり,請求人が被請求人及び「アピコラ社京都」の関係性を熟知しており,関係性を証明する証拠でもある。
請求人は,駐日ハンガリー大使の手紙(乙16)の後,数10通のメール,10数回の電話などで再三「同意書」の署名を無償で要求した後,駐日ハンガリー大使からのメール(乙15)で脅すかのように4000ユーロを提示した。被請求人は,再三なる連絡及び嫌がらせで,財産的のみならず精神的損害も伴った。
被請求人は駐日ハンガリー大使と面会した際に「同意書」の署名及び商標を譲渡する意思は無いこと明確にしていた,そのため,諦めさせ,終わらせるために大きな金額を提示した。当然,その後,請求人からの連絡は来なくなった。
なお,被請求人の登録商標「PALINKA」を使用していた企業に警告書を送ったのは,商標法第36条の権利を実行したにすぎない。同様の内容の通知書を平成25年5月13日にも送っており,請求人が指摘していることと異なっている。通知書を送ったことは,駐日ハンガリー大使の通知書(乙10)にも記載されている。さらに,上記の企業を請求人が保護し,援助することは違法行為を奨励することと同じである。
6 結語
以上述べたように,提出した証拠によって,本件商標の使用事実及び請求人の主張が事実と異なっていることを証明した。

第4 当審の判断
1 事実認定
証拠及び当事者の主張によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件商標権者は,食料品,飲料水,酒類等の製造,販売又は輸出入等を目的として設立された「アピコラ社」の代表取締役である(乙1)。
(2)アピコラ社とアピコラ社京都との関係について
アピコラ社の住所は,「千葉県市川市市川南三丁目13番2号」(乙1)であり,酒類販売場移転許可通知書(乙10)には,千葉県市川市市川南三丁目2384番1及び2384番3サンライズ鈴木102号から京都市北区紫竹東桃ノ本町8番への酒類販売場の移転を平成25年7月3日付けで上京税務署長がアピコラ社に許可した旨の記載があるが,上記移転許可前の千葉県市川市市川南三丁目の住所とアピコラ社の住所とは相違する。
(3)被請求人が「アピコラ社,ブランデーのカタログ,3ページ目」と称する書類(乙2)には,上段と下段の洋酒の写真中央部に「Palinca」,「Palinka」の文字,ルーマニア国の略図とおぼしき図形,「ROMANIA」の文字,白抜きで「ZETEA」の文字が表示されている。そして,「Palinca」と表示された商品と「Palinka」と表示された商品(以下「本件商品」という。)については,それぞれの説明文と容量,度数,原材料,原産国が同一であり,商品番号はそれぞれ「091」,「094」と記載があるが,作成者,作成時期,価格の記載はなく,作成部数,頒布先,頒布時期,頒布場所,頒布数は確認できない。
被請求人が「アピコラ社,ブランデーのカタログ,6ページ目」と称する書類(乙12)を提出した時期は,平成30年3月26日差出の答弁書を提出してから7か月後の当審からの審尋に対する同年10月28日差出の回答書においてであって,当該書類にはお問合せ先として「株式会社アピコラ」,担当者として本件商標権者の記載がある。
(4)アピコラ社京都に係る2015年(平成27年)5月23日付け納品書(乙8)には,「ご依頼いただきました商品を,つぎのとおりお届けいたします。」,商品番号「094」,商品名「パリンカ 700ml」,数量「1」,送料「¥650」,手数料「¥300」が記載され,住所として「京都府京都市北区紫竹東桃ノ本町8番 細井ビル3階」の記載がある。なお,当該納品書の納品先はマスキングされている。
(5)アピコラ社京都に係る2016年(平成28年)7月16日付け納品書(乙9)には,「ご依頼いただきました商品を,つぎのとおりお届けいたします。」,商品番号「094」,商品名「パリンカ」,数量「1」が記載され,住所として「京都府京都市北区紫竹東桃ノ本町8番 細井ビル3階」の記載がある。なお,当該納品書の納品先はマスキングされている。
(6)蒸留酒の定義,酒類,展示,標識及び地理的表示の保護に関する2008年1月15日の欧州議会及び欧州理事会規則(EC)No.110/2008に基づいて登録されている地理的表示(GI)のリスト(甲2)には,「フルーツスピリッツ」の項に「palinka」は,原産国としてハンガリーとオーストリアの一部が記載され,「palinca」は,原産国としてルーマニアが記載されている。
(7)ルーマニアの酒造会社であるZETEA社とアピコラ社が2011年(平成23年)8月23日に締結した契約書(乙14)には,「製造者(審決注:ZETEA社)は,購入者(審決注:アピコラ社)の要望により,アルコール分100%に相当する異なるアルコール分の果実の蒸留酒(tuica(ツイカ),palinca(パリンカ)など)を■リットルの量を提供することを約束する。」と記載され,契約期間は,「署名後1年であり,在庫がなくなるまで延長出来る。」と記載されている。
(8)2018年(平成30年)5月16日ないし17日に送信されたハンガリーのP弁護士とZETEA社社長との電子メール(甲8)には,「この商品には,ルーマニアに特化したTuica又はpalincaの地域名称を付していますが,ハンガリーに特化したpalinkaは付しておりません。・・・ZETEAとともにPalinkaの名称が使われているいかなる商品も,我々ZETEA社に属する商品ではありません。」の記載がある。
2 判断
上記1において認定した事実によれば,以下のとおり判断できる。
(1)本件商標権者とアピコラ社及びアピコラ社京都との関係について
上記1(1)によれば,本件商標権者はアピコラ社の代表取締役であることからすると,本件商標の使用許諾を示す契約書等の提出はないとしても,本件商標権者とアピコラ社には密接な業務上の繋がりが認められることから,本件商標権者は,アピコラ社に対して,本件商標の使用について,黙示の許諾を与えていたものと見て差し支えない。
しかしながら,アピコラ社は,本件商標の通常使用権者であると推認することができるものの,酒類販売場移転許可通知書(乙10)に記載の「千葉県市川市市川南三丁目」の住所は,アピコラ社の住所とは相違するものであり,当該通知書は酒類販売場の移転を上京税務署長が許可した通知にすぎず,これをもってアピコラ社とアピコラ社京都が同一の法人であるとは認めることはできない。
したがって,アピコラ社京都は,本件商標の通常使用権者であることが確認できないから,通常使用権者であると認めることはできない。
(2)「Palinka」の文字について
上記1(6)によれば,「Palinka」の文字は,ハンガリー及びオーストリアの一部の地域で製造された蒸留酒にのみその使用が許されている地理的表示(GI)の翻訳表示であることが認められるから(甲2),ルーマニアで製造された蒸留酒について,その製造元は,「Palinka」の文字は使用できない。
(3)上記1(7)及び(8)によれば,アピコラ社と製造元であるZETEA社との契約は,果実の蒸留酒(tuica(ツイカ),palinca(パリンカ)など)について締結されたものであり,ハンガリーのP弁護士とZETEA社社長とのメールのやりとり(甲8)において,ZETEA社の社長は,「この商品には,ルーマニアに特化したTuica又はpalincaの地域名称を付していますが,ハンガリーに特化したpalinkaは付しておりません。ZETEAとともにPalinkaの名称が使われているいかなる商品も,我々ZETEA社に属する商品ではありません。」と回答していることを併せ考えると,ZETEA社は蒸留酒にPalinkaの名称を付した商品は製造しておらず,ZETEA社から輸入した本件商品を販売していると主張するアピコラ社は,原産国がルーマニアの蒸留酒を本件商品として販売していたかどうかは相当疑わしいといわざるを得ない。
(4)アピコラ社京都の取引について
ア 納品書について
納品書(乙8,乙9)は,アピコラ社京都の作成に係るものであって,被請求人が「ブランデーのカタログ」と称する書類(乙2)に掲載された商品番号と当該納品書の商品番号とが一致するとしても,納品先はマスキングしてあって,納品先の実在性及び納品先とアピコラ社京都との関係性は明らかでなく,かつ,当該納品書に係る取引を裏付ける納品先の発注書,受領書等,本件商標が付された商品が取引されたことを具体的かつ客観的に証する書面の提出もない。
また,納品書(乙8,乙9)には,いずれも「ご依頼いただきました商品を,つぎのとおりお届けいたします。」と記載されている。乙第8号証の納品書には,送料,手数料が記載されており,商品を届けているにもかかわらず,乙第9号証の納品書には,送料,手数料が記載されていないことは不自然といえる。
イ 社会通念上同一の商標といえるか否か
納品書(乙8,乙9)に記載の「パリンカ」は,上記1(6)によれば,「ハンガリー産の蒸留酒(palinka)と「ルーマニア産の蒸留酒(palinca)の観念が生じ,「パリンカ」の称呼を生じるものである。他方,本件商標は,「PALINKA」の文字を書してなるところ,これからは,「パリンカ」の称呼を生じ,「ハンガリー産の蒸留酒」の観念を生じるものである。
そうすると,本件商標と納品書に記載の「パリンカ」とは,称呼を同一とするものの,同一の観念を生ずるものとはいえないことから,納品書に記載の「パリンカ」は,本件商標と社会通念上同一の商標と認めることはできない。
以上のとおり,アピコラ社京都の取引については,商品名「パリンカ」に関するものであるとしても,アピコラ社京都が本件商標の通常使用権者であることが確認できないこと上記(1)のとおりであり,仮にアピコラ社京都は通常使用権者であったとしても,商品名「パリンカ」についての納品先の実在性及び納品先とアピコラ社京都との関係性は明らかでないこと,当該納品書に係る取引を裏付ける納品先の発注書,受領書等が提出されていないこと,納品書(乙9)には,送料,手数料の金額の記載がないことは不自然であること,本件商標と納品書に記載の「パリンカ」とは,社会通念上同一の商標とは認められないことを踏まえると,アピコラ社京都が要証期間内に本件商標が付された商品を納品先に販売したと認めることはできない。
(5)「アピコラ社,ブランデーのカタログ」と称する書類について
乙第2号証は,カタログの一部(3ページ目)を抜粋した写しと被請求人は主張しているが,ページ番号が確認できないばかりでなく,上段と下段の洋酒の写真中央部には,「Palinca」,「Palinka」の文字,ルーマニア国の略図とおぼしき図形,「ROMANIA」の文字,白抜きで「ZETEA」の文字が表示されているものの,「Palinca」と表示された商品と本件商品については,それぞれの説明文と容量,度数,原材料,原産国が同一であることから,中身が同一のものといえる。
被請求人は,通常使用権者が「PALINKA」及び「PALINCA」の商標を使用した洋酒について,同一商品をローマ字表記のみが異なる名前で販売していることを認めているところ,顧客の要望によって商品のデザイン及びパッケージを自社で行い,名称及び商品番号がそれぞれ「Palinca 091」と「Palinka 094」という異なる2種類の商品が存在することについて,合理的な説明がなく,具体的な証左もないことから,同一の商品について2種類の商品名が存在することは極めて不自然といえる。
そして,「アピコラ社,ブランデーのカタログ」と称する書類(乙2)には,その作成時期,商品の価格の記載はなく,また,その作成部数,頒布先,頒布時期,頒布場所,頒布数も明らかでない。しかも,商品カタログであるならば,問合せ先,担当者,電話番号が記載された書類も同時に提出することに,格別な困難が伴うとも考えにくいところ,平成30年9月12日付けの当審からの審尋に対する同年10月28日差出の回答書において,乙第12号証として当該カタログの最終ページの写しと称する,問合せ先,担当者,電話番号が記載された書面を提出するが,当該書類と乙第2号証の書類の関係も疑わしいものといわざるを得ない。
以上よりすると,「アピコラ社,ブランデーのカタログ」と称する書類は,その作成時期が不明で,商品の価格の掲載もなく,頒布の事実が確認できないこと,同一の商品について2種類の商品名が存在することは極めて不自然であること,しかも,被請求人はこのような提出が容易で,本件商標の立証に効果的と思われる証拠を,遅れて提出したことは不自然といえることを総合的に判断すると,当該書類(乙2,乙12)は商品カタログの体をなしているとはいえず,要証期間内に作成され,頒布されたものとは認めることができない。
そうすると,当該書類(乙2,乙12)は,商標の広告的使用を目的とした商品カタログと認めることはできないから,商標法第2条第3項第8号所定の「取引書類」には該当しない。
したがって,本件商標権者(又はその使用権者)が,日本国内において,商品に本件商標を付した又は取引書類に本件商標を付して頒布したとは認めることはできない。
(6)小括
以上(1)ないし(5)のとおり,被請求人が提出した証拠によっては,アピコラ社京都が本件商標の通常使用権者であることを認めることができないばかりか,要証期間内に,本件審判の請求に係る指定商品について,本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の商標法第2条第3項各号にいう使用があったことを認めるに足る事実を見いだせない。
3 むすび
以上のとおりであるから,被請求人は,要証期間内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについての本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認められない。
また,被請求人は,本件審判の請求に係る指定商品について,本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品について,商標法第50条の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2020-02-20 
結審通知日 2020-02-25 
審決日 2020-03-10 
出願番号 商願2010-938(T2010-938) 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (X33)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小田 明 
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 平澤 芳行
大森 友子
登録日 2010-09-03 
登録番号 商標登録第5350318号(T5350318) 
商標の称呼 パリンカ 
代理人 竹中 陽輔 
代理人 達野 大輔 
代理人 山頭 めぐみ 

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