ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09 |
---|---|
管理番号 | 1357769 |
審判番号 | 無効2018-890012 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2018-02-19 |
確定日 | 2019-11-15 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5957656号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第5957656号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5957656号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成28年11月4日に登録出願,第9類「トランジスター(電子部品),電池用充電器,三極管,半導体用シリコンウェハー,半導体,集積回路,セルスイッチ(電気用のもの),電気式測定機械器具,ICチップ,蓄電器」を指定商品として,平成29年5月25日に登録査定,同年6月23日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は,以下の2件であり,いずれも現に有効に存続しているものである(以下,これらをまとめて「引用商標」という。)。 1 登録第4774932号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成14年12月11日に登録出願,第7類,第9類,第16類,第37類及び第40類ないし第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同16年5月28日に設定登録されたものである。 2 登録第5312231号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲3のとおりの構成からなり,平成21年9月29日に登録出願,第7類,第9類,第16類,第37類及び第40類ないし第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同22年3月26日に設定登録されたものである。 第3 請求人の主張 請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第32号証(枝番号を含む。)を提出した。 1 無効の理由 本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当し,同法第46条第1項第1号の規定により無効にすべきものである。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標について 本件商標は,欧文字「REASUN」の文字と黒四角図形の内側に三角形を白抜きした図形及び「S」の文字からなり,そのうち語頭の「R」,第3文字目及び第4文字目の「AS」と第7文字目の「A」がそれぞれ図案化されている。そして,「R」の文字はデザイン上,他の文字よりもやや大きく表されている。 (2)引用商標について 引用商標は,赤色又は青色で表した欧文字「RENESAS」の文字からなり,そのうち語頭の「R」並びに第6文字目及び第7文字目の「AS」が図案化されている。本件商標と同様,「R」の文字は,デザイン上,他の文字よりもやや大きく表されている。 (3)本件商標と引用商標の類否 ア 商標全体の類否について 本件商標と引用商標とは欧文字の大文字7文字構成からなる点において共通している。さらに,当該欧文字のうち,「R」の文字のデザイン態様,「A」と「S」の文字においても共通している。そして,両商標を構成している文字7文字のうち,「R」,「E」,「A」,「S」,「N」及び「S」の6文字が共通するものである。 本件商標と引用商標の文字部分は,文字の配置の順番においてやや異なるところはあるが,語頭の2文字「RE」の態様が完全に一致している点,特徴的なモノグラムである「AS」の態様が完全に一致している点及び他の文字の書体が全て一致している点からすれば,両商標全体から受ける印象は極めて酷似するものであり,両商標に接する需要者をして,本件商標と引用商標とを混同し,見誤るおそれがあることを疑う余地はない。 特に,看者の注意を最も強く引く部分である語頭の「R」の文字の態様は,一般的に用いられているような書体ではなく,特徴的な図案化か施された請求人の独自の態様であり,両商標に接する需要者等に強い印象を与える部分である。 また,「R」の文字は他の語と比してやや大きく表されており,外観上,より一層,両商標が酷似した印象を与える。 このように,引用商標の外観上の特徴的な部分が完全に一致することが偶然に起こり得るとは到底考えることはできないから,両商標に離隔的に接する需要者等が,両商標を見誤り,これら商標が付された商品及び役務の出所について混同するおそれがあることは明らかである。 したがって,本件商標と引用商標とは,その構成文字が1文字相違し,また一部文字の順番に相違するところがあるとしても,両商標の特徴的な共通点に鑑みれば,これに接する需要者等は両商標から共通した印象を強く受け,両者が相紛れるものであることは明白である。 よって,両商標は,これらを時と所を異にして離隔的に観察された場合,需要者等をして両者を区別することは極めて困難であるほどに外観において酷似する類似の商標というべきである。 イ 語頭「R」について 上記アにおいて述べたように,語頭の「R」の文字だけは他の文字とは異なるデザインが施されており,やや大きく表されている。このように,語頭においてのみ独特のデザイン態様を施したのは,請求人の業務に係るものであると,看者に一見して強い印象を与えるためであり,一種の共通的ブランドと認識できるものである。 よって,語頭の「R」の文字のみも自他商品役務識別標識として機能するといえる。 したがって,本件商標と引用商標の文字部分において語頭「R」の文字を共通に有するため,同一又は類似の商品に使用された場合には,商品の出所につき混同を生ずるおそれがあることは明白であり,両商標は類似する。 (4)本件商標と引用商標の指定商品について 本件商標の指定商品は第9類「トランジスター(電子部品),電池用充電器,電気式測定機械器具,蓄電器」等であり,引用商標の指定商品は第9類「半導体検査装置・半導体試験装置及びその他の測定機械器具,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,蓄電器」等であって,本件商標は,引用商標の指定商品と同一又は類似の商品に使用するものである。 (5)小括 以上のとおり,本件商標と引用商標とは,時と所を異にして離隔的に観察した場合,需要者が両者を区別することは極めて困難であるほどに,外観において類似するものであり,たとえ称呼が異なるとしても外観が極めて近似することからすれば,両商標が類似する。 さらに,前述したように,商標を構成する文字態様が,語順を除いて全てが偶然にも一致するとは到底考えられない。むしろ,後述するように,被請求人は,請求人の独創的な引用商標を使用し,かつ周知となっていることを知りながら,本件商標について登録出願したものと考えられる。 したがって,本件商標と引用商標とは類似し,同一又は類似の商品において使用されるものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。 3 商標法第4条第1項第15号について (1)請求人による引用商標の使用 請求人は,世界有数の半導体製品の製造・販売事業者であり,その主要事業は半導体製品の研究,開発,デザイン,生産,販売及び関連サービスの提供である。 請求人は,平成22年4月1日から現在に至るまで,引用商標2と同一の商標を営業標識(いわゆるハウスマーク)として使用しており,このほかにも同一の文字デザインで白文字や黒文字でも使用している(甲7)。 また,後述のとおり,平成22年4月1日にNECエレクトロニクス株式会社(以下「NECエレクトロニクス」という。)に吸収合併されるまでは,請求人の前身である株式会社ルネサステクノロジが,引用商標1と同一の商標をハウスマークとして使用していた(甲8)。 さらに,エミュレータ等の開発ツールなど比較的サイズが大きい請求人の製品の表面には引用商標が表示されており(甲9),また,梱包資材やカタログなどの取引に用いる資材や書類等にも引用商標が表示されていることから(甲10,甲11),引用商標が半導体製品の取引者及び需要者の目に触れることは極めて多い。 (2)引用商標の独創性の程度 ア 引用商標の創作経緯 株式会社日立製作所(以下「日立製作所」という。)の半導体グループと三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)の半導体事業部とは,平成14年6月,共同で設立する新会社のため,アイデックス株式会社に対し,新社名及びブランド名称として使用するための名称開発及びデザインシステム開発を委託した(甲12)。 両社は,新会社の社名及びブランド名称について,両社のブランドイメージや目的等を踏まえ,「先進的なソリューションを提供し,半導体の復興に力を入れる」こと,すなわち「Renaissance Semiconductor for Advanced Solutions」の理念を表す作品にすることを合意し,これを受け,新社名として,かかる理念から「RENESAS」という名称が生まれた。 その上で,数ある「RENESAS」を表示するロゴの候補の中から,赤色の引用商標1がハウスマークとして採用されることとなり(甲13),平成15年4月1日に株式会社ルネサステクノロジ(以下「ルネサステクノロジ」という。)が設立された。 さらに,平成22年4月1日には,ルネサステクノロジを消滅会社,NECエレクトロニクスを存続会社とする吸収合併によって社名がルネサスエレクトロニクス株式会社(請求人)に変更されたが,そのハウスマークにはルネサステクノロジが従前から使用していた引用商標の色彩を青色に変更したものが使用されることとなった(甲8)。 イ 独創性 引用商標のうち語頭「R」,「A」及び「S」の文字は,上記理念を図案化しているほか,引用商標を全体として見ても,匠の高品質,アクティブ,スピード感,しなやかさ,グローバル(日本発世界),ユビキタスの担い手としての先進性,エンターテイメント性を表しているのであり,引用商標は独創性の高い商標であるといえる(甲13,甲14)。 (3)周知・著名性 ア 請求人の周知・著名性 請求人は,東証一部上場企業であって,車載半導体の分野では世界3位のシェアを有する世界有数の半導体メーカーである(甲15)。 請求人は,日本を代表する電機メーカーの半導体部門の統合再編の結果生じた会社であって,その設立経緯や,NECエレクトロニクスとの合併は新聞,雑誌,テレビ等で大きく報道された。 また,請求人は,請求人の知名度と社会的信用を高めるべく,技術者向けインターネットサイトに継続的に広告を掲載するなどしている(甲16)。 さらに,半導体は日本の産業の基幹部分である電子部品産業の中枢であり,請求人の製造販売する半導体製品は,自動車メーカー,家電メー力一等にとってなくてはならないものであって,社会の注目度も極めて高く,請求人を取り扱った記事が掲載されている新聞や雑誌も多く発行されている(甲17?甲22)。 請求人による半導体関連製品の平成26年度の売上は約7533億円,平成27年度の売上は約6756億円,また,平成28年(4月から12月)の売上は約4572億円,さらに,平成29年の売上については約7644億円と,極めて高い売上高を記録している(甲23)。 イ 引用商標の使用態様 上記(2)で述べたとおり,引用商標は請求人のハウスマークであって,請求人のエミュレータ等の開発ツールなど比較的サイズが大きい製品の表面に表示されており(甲9),梱包資材やカタログなどの取引に用いる資材や書類等にも表示されている(甲10,甲11)。 また,請求人は,第三者の展示会やイベントに請求人のブースを出展し,請求人自身がイベントを開催するなどしており,同展示会やイベントにおいて引用商標を使用している。たとえば,平成29年4月には,2000名の来場者を得た大規模な自社プライベートイベント「Renesas DevCon Japan 2017」を開催しているが,同イベントにおいても,引用商標が使用されている(甲24)。 ウ 小括 以上のとおり,請求人は世界有数の半導体メーカーとして高い売上高を有し,市場において認知され,周知・著名性を獲得していた。そして,請求人が半導体メーカーとしての周知性・著名性を獲得するのに伴って,請求人のハウスマークとして多くの製品,取引資材,取引書類等や展示会及びイベントのブースにおいて使用されている引用商標も,指定商品の取引者及び需要者において周知性を獲得するに至ったものである。 (4)引用商標と本件商標との類似性 上記2(3)で述べたとおり,引用商標と本件商標の類似性が認められる。 (5)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との間の性質,用途又は目的における関連性の程度 本件商標の指定商品は,「トランジスター(電子部品),電池用充電器,三極管,半導体用シリコンウェハー,半導体,集積回路,セルスイッチ(電気用のもの),電気式測定機械器具,ICチップ,蓄電器」である(甲1)。これに対して,請求人は,引用商標を使用して,LSI(大規模集積回路)を含むIC(集積回路)等の半導体製品やトランジスターを製造販売している。 したがって,本件商標の指定商品との関連性は極めて高い。 (6)商品等の取引者及び需要者の共通性 請求人の主たる事業は,自動車,産業機械,OA機器やICT機器等の電機製品に使用される半導体製品の製造販売である。 したがって,請求人の製品の取引者及び需要者は,このような電気機器やその電子機器に使用される素材や電子部品等を製造又は販売する事業者である。 一方,本件商標の指定商品は,「トランジスター(電子部品),電池用充電器,三極管,半導体用シリコンウェハー,半導体,集積回路,セルスイッチ(電気用のもの),電気式測定機械器具,ICチップ,蓄電器」であって,電機製品及び電子部品に使用される製品であり,その取引者及び需要者は電子部品・機器等の製造又は販売を行う事業者となる。 したがって,請求人が引用商標を使用する商品と本件商標の指定商品の取引者及び需要者は共通している。 (7)小括 このように,引用商標は,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,周知性を獲得しており,これに類似する本件商標がその指定商品に使用された場合には,当該商品が,請求人との間で緊密な営業上の関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがあり,引用商標の有する顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライト) やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じ兼ねない。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 4 商標法第4条第1項第19号について (1)引用商標の周知性 上記のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,日本のみならず,外国の半導体業界の需要者において広く認識されている。 (2)本件商標と引用商標との類似性 本件商標と引用商標には,上記2(3)で述べたとおり,本件商標と引用商標とは,語頭の2文字「RE」の態様が完全に一致し,特徴的なモノグラムである「AS」の態様が完全に一致し,さらに,他の文字の書体が全て一致していることからすれば,被請求人が本件商標の使用によって,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力に不正に便乗しようとする意図は明らかである。 なお,本件商標のうち,図案化されている第7文字目の黒四角図形の内側に三角形を白抜きした「A」にあたる図形のデザインは,米国の半導体メーカーである「Analog Devices Inc.」のハウスマーク(甲25)を左90度に回転させた図形に酷似しており,被請求人には同社の信用,名声,顧客吸引力にも便乗しようとする意図も伺える。 (3)不正の目的による使用 請求人は,平成15年以来,中国において,瑞▲薩▼電子(中国)有限公司(ルネサスエレクトロニクス中国社)をはじめとする子会社を設立し,引用商標を使用して半導体製品を製造販売し,また,広告宣伝をしており,中国においても引用商標は周知・著名な商標となっている。 これに対し,被請求人が代表を務める「広東瑞森半導体科技有限公司」(以下「被請求人会社」という。)は,平成25年11月15日に中国において「広東晟日半導体科技有限公司」という名称で設立された,半導体製品等を製造販売する会社であるところ(甲26,甲27),同社では,本件商標と同一の商標をそのハウスマークとして,自社の製品等を紹介するウェブサイト(甲28),パンフレット(甲29)並びに展示会のブース(甲30)等で使用していた。 請求人は,平成29年7月18日に中国において登録されていた本件商標と同様の商標(以下「本件中国商標」という。)の登録商標無効宣告申請を行い(甲31),さらに,請求人は,被請求人会社を相手方として,平成29年8月10日,中国の東莞市第一民法院に対し,中国での本件中国商標の使用の差止め及び損害賠償を求めて提訴した(甲32)。 ところが,平成29年8月15日,被請求人会社は,会社名を現在の社名である「広東瑞森半導体科技有限公司」へと変更し,被請求人がその法定代表人に就任した。「RENESAS」の中国語表記である「瑞▲薩▼」は,「RENESAS」と対応する造語であるところ,被請求人会社の社名に含まれる「瑞森」は「瑞▲薩▼」と文字の構成と呼称が類似しており,被請求人会社はその社名をことさらに請求人と類似する名称に変更したものといえる。 このように,中国において,被請求人は,被請求人会社をして,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力に便乗する不正の目的をもって,本件商標と同一の商標の使用し,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力等を毀損させている。 (4)小括 このように,引用商標に周知性が認められ,かつ,本件商標が引用商標と類似していること(特に同一の文字デザインが使用されていること)に加え,本件商標と同一の商標が,被請求人会社によって不正の目的をもって使用されている。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 5 商標法第4条第1項第7号について 上記3(3)のとおり,請求人は,世界有数の半導体メーカーであり,引用商標は請求人のハウスマークとして需要者において広く認識されている。 また,上記2(3)のとおり,本件商標は引用商標と類似している。特に,引用商標を構成する文字デザインは,請求人が独自に開発した独創的なデザインであるところ,本件商標においてこの文字デザインと同一の文字デザインが使用されている。 さらに,上記(3)のとおり,被請求人会社は本件商標を半導体製品に使用している。 かかる事情を鑑みれば,本件商標が引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得るために登録された商標であることは明らかであって,その登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある。 そうすれば,本件商標の登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ないような場合にあたる。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,請求人の主張に対して何ら答弁していない。 第5 当審の判断 1 商標法第4条第1項第15号該当性について (1)引用商標の著名性について ア 請求人提出の証拠及び同人の主張によれば,次の事実が認められる。 (ア)請求人は,平成15年4月1日に日立製作所の半導体グループ及び三菱電機の半導体事業部が統合して設立され,その設立時に引用商標1を使用開始し,同22年4月1日にNECエレクトロニクスと合併することで成立した新会社においても,引用商標2が使用され現在に至るまで,引用商標は,請求人のハウスマークとして使用されている(甲7?甲11,甲24)。 (イ)2017年(平成29年)4月3日公開のエレクトロニクス技術情報サイト「EE Times Japan」のウェブサイト(甲15)には,「2016年の車載半導体市場,NXPが首位を維持」の見出しの下,「車載用ICランキング」の表の「2015年の市場シェア」の項目において,「3位 ルネサス エレクトロニクス 9.3%」の記載がある。 (ウ)平成27年8月25日発行の雑誌「経済界 2045.9.8 No.1076」(甲18)の42ページには,「ルネサス反転攻勢へ/新体制の滑り出し順調」の見出しの下,「2016年3月期の第1四半期決算は,・・・営業利益は324億円,営業利益率は18%で,前年同期比,前期比,予想比をすべて上回り,利益面の改善がうかがえ・・・第2四半期には売上高が1847億円となる見込みで,5四半期ぶりに前期比増となる。」の記載とともに,記者会見の画像に引用商標が表示されている。 また,平成28年10月4日発行の雑誌「経済界 2016.10.18 No.1076」(甲19)の60ページには,「米半導体メーカー買収で攻めに転じるルネサス」の見出しの下,「かつてトップだった車載用半導体は,競合が積極的なM&Aを進めたこともあり,現在,蘭NXPセミコンダクターズ,独インフィニオンテクノロジーズに続く3位となっている。」の記載がある。 さらに,平成28年12月26日発行の雑誌「週刊ダイヤモンド」(甲20)の98ページには,「世界規模の大再編時代に突入/ルネサスは荒波を乗り切れるか」の見出しの下,「いまや世界で戦える日本の半導体企業は,・・・車載用マイコンが強いルネサスエレクトロニクスの3社に絞られた」の記載があり,同ページに「世界で大再編の風」の見出しの下,「世界半導体売上高ランキング(2016年(平成28年)予想)の表では,「17位 ルネサスエレクトロニクス 売上高57.5(億ドル)」の記載がある。 (エ)請求人による半導体関連製品の平成26年度の売上は約7533億円,平成27年度の売上は約6756億円,平成28年(4月から12月)の売上は約4572億円,平成29年の売上は約7644億円と高い売上高を記録している(甲18,甲22,甲23)。 (オ)請求人は,「Renesas DevCon Japan」を2014年(平成26年)から2017年(平成29年)まで「ザ・プリンスパークタワー東京」等で毎年開催し,そのイベントのポスターに引用商標が表示され,そのイベントに使用されているデモカーの側面及びボンネット部分に引用商標が表示されている(甲24)。 イ 上記アから,以下のことが判断できる 請求人は,引用商標を自己の業務に係る商品「車載用半導体」について使用し,車載半導体の分野では世界第3位で9.3%のシェア(2015年(平成27年))を有するものであり,半導体関連製品の平成26年ないし平成29年の売上高は、約4000億円から8000億円を記録するとともに,毎年イベントを開催する等を考慮すると,引用商標は,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,請求人の業務に係る商品「車載用半導体」を表示するものとして,取引者,需要者間に広く認識されていたものとみるのが相当である。 (2) 本件商標と引用商標との類否について ア 本件商標 (ア)本件商標は,別掲1のとおり,以下の構成よりなるものである。 a 本件商標の語頭の「RE」の文字部分(以下「本件商標RE文字部分」という。)は,「R」の文字が左側下部の正方形の図形とその上部から半円弧を描きながらその正方形の右側に近接するところで大きく右斜め下に漢字のはらいのように長く伸びた線により表されたものであり,当該線上にやや丸みを帯びた「E」の文字を配してなるものである。 b 本件商標の3及び4文字目の「AS」の文字部分(以下「本件商標AS文字部分」という)。は,「A」の文字の右斜め下に向かって伸びる線と「S」の文字の下部の横線を結合し,当該「S」の文字の下部の横線を「A」の文字部分の中央下部部分にまで伸ばした構成よりなるものであり,一体的に表されているものである。 c 本件商標の5及び6文字目は,「UN」の文字を配されているところ,「N」の文字(以下「本件商標N文字部分」という。)は左右の縦線に比べて右斜め下に向かって伸びる線をやや太く表したものである。 d 本件商標の7文字目は,黒塗り四角形の内側に白抜きの正三角形を表した図形が配されている。 e 本件商標の語尾の「S」の文字部分(以下「本件商標S文字部分」という。)は,上下の線を直線で表したものである。 f 本件商標は,被請求人会社のパンフレット(甲29)における被請求人会社のウェブアドレス及びメールアドレスによれば,全体として「REASUNOS」の文字を図案化したものというのが相当である。 (イ)上記(ア)よりすると,本件商標は,全体として「REASUNOS」の文字を図案化したものであって,当該文字は辞書等に掲載されていない語であるから,特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものである。 そして,特定の意味合いを有さない欧文字からなる造語にあっては,我が国において親しまれた外国語である英語読み又はローマ字読みに倣って,称呼されるとみるのが一般的であるところ,本件商標は,その構成文字に照らして,ローマ字読みで称呼されるものとみるのが自然であるから,「レアスノス」の称呼が生じるとみるのが相当である。 したがって,本件商標からは,「レアスノス」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 イ 引用商標 (ア)引用商標は,別掲2及び別掲3のとおり,以下の構成よりなるものである。 a 引用商標の語頭の「RE」の文字部分(以下「引用商標RE文字部分」という。)は,「R」の文字が左側下部の正方形の図形とその上部から半円弧を描きながらその正方形の右側に近接するところで大きく右斜め下に漢字のはらいのように長く伸びた線により表されたものであり,当該線上にやや丸みを帯びた「E」の文字を配してなるものである。 b 引用商標の3文字目の「N」の文字部分(以下「引用商標N文字部分」という。)は,「N」の文字は左右の縦線に比べて右斜め下に向かって伸びる線をやや太く表したものである。 c 引用商標の4文字目の「E」の文字部分は,上記aの「E」の文字と同様に,やや丸みを帯びている。 d 引用商標の5文字目の「S」の文字部分(以下「引用商標S文字部分」という。)は,上下の線を直線で表したものである。 e 引用商標の6及び7文字目の「AS」の文字部分(以下「引用商標AS文字部分」という)。は,「A」の文字の右斜め下に向かって伸びる線と「S」の文字の下部の横線を結合し,当該「S」の文字の下部の横線を「A」の文字部分の中央下部部分にまで伸ばした構成よりなるものであり,一体的に表されているものである。 (イ)上記(ア)よりすると,引用商標は,全体として「RENESAS」の文字を図案化したものであって,当該文字は辞書等に掲載されていない語であるから,特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として認識されるものである。 そして,特定の意味合いを有さない欧文字からなる造語にあっては,我が国において親しまれた外国語である英語読み又はローマ字読みに倣って,称呼されるとみるのが一般的であるところ,引用商標は,その構成文字に照らして,ローマ字読みで称呼されるものとみるのが自然であるから,「ルネサス」又は「レネサス」の称呼が生じるとみるのが相当である。 したがって,引用商標からは,「ルネサス」又は「レネサス」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 ウ 本件商標と引用商標との類似性の程度 本件商標と引用商標とは,上記ア及びイのとおりの構成態様からなるところ,本件商標と引用商標を比較すると,外観において,視覚上最も注意が向けられる語頭において,本件商標RE文字部分と引用商標RE文字部分が極めて特徴的な同一の字形が用いられており,配されている文字の順序は異なるものの,本件商標AS文字部分と引用商標AS文字部分,本件商標N文字部分と引用商標N文字部分,及び本件商標S文字部分と引用商標S文字部分が特徴的な同一の字形を使用していることからすると,両商標は,極めて近似した印象を与えるものである。 次に,称呼においては,本件商標は,「レアスノス」の称呼を生じ,引用商標は,「ルネサス」又は「レネサス」の称呼を生ずるところ,本件商標は,5音であり,引用商標は4音であり,共通する音は,末尾の「ス」の音のみであるから,称呼上,明瞭に聴別できるものである。 さらに,観念においては,共に特定の観念を有しないから,観念上,比較することができない。 したがって,本件商標と引用商標とは,観念において比較できず,称呼において異なるとしても,外観において極めて近似した商標であるから,両商標の類似性の程度は相当高いものといえる。 (3)引用商標の独創性について 引用商標は,上記第2のとおりであり,引用商標は,辞書に掲載のない語であって,その構成全体をもって一体不可分の造語を表したものと認識されるとみるのが相当であり,また,その極めて特徴的な字形であるから,その構成全体は,特徴的で独創的な商標である。 (4)本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との関連性 本件商標の指定商品は,第9類「トランジスター(電子部品),電池用充電器,三極管,半導体用シリコンウェハー,半導体,集積回路,セルスイッチ(電気用のもの),電気式測定機械器具,ICチップ,蓄電器」であって,電機製品及び電子部品に使用される製品であり,その取引者及び需要者は電子部品・機器等の製造又は販売を行う事業者といえる。 これに対して,請求人は,引用商標を使用して「車載用半導体」を製造販売しているものであって,その取引者及び需要者は,自動車用の電気機器や電子機器に使用される電子部品等を製造又は販売する事業者といえる。 したがって,本件商標の指定商品は,請求人の業務に係る商品「車載用半導体」を含むものであって,その使用目的,用途及び需要者の範囲において共通するところがあり,相互に重複又は密接に関連するものと認められる。 (5)本件商標と引用商標の混同を生ずるおそれについて 以上のとおり,引用商標は請求人の業務に係る商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時ないし登録査定時において,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認められるものであること,本件商標と引用商標とは,その外観上,極めて近似した特徴的な字形の文字からなるものであるから,両者の類似性の程度は相当高いものと認められること,引用商標はその構成全体をもって一体不可分の造語を表したものと認識されるとみるのが相当であり,また,その極めて特徴的な字形であるから,その構成全体は,特徴的で独創的な商標であること,本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品「車載用半導体」は,取引者,需要者も共通していることを考慮すれば,被請求人が引用商標の存在を承知の上で,それと極めて近似した商標を登録出願したものであり,引用商標の周知性へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や稀釈化(いわゆるダイリューション)を意図していたものといわざるを得ない。 そうすると,本件商標をその指定商品について使用した場合には,これに接する取引者,需要者をして,引用商標あるいは請求人を連想,想起させ,その商品が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 2 まとめ 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に該当するものであり,その余の無効理由は,該当しないものであって,同法第4条第1項に違反してされたものというべきであるから,同法第46条第1項第1号の規定に基づき,無効とすべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本願商標) 別掲2(引用商標1:色彩については,原本参照。) 別掲3(引用商標2:色彩については,原本参照。) |
審理終結日 | 2019-06-17 |
結審通知日 | 2019-06-19 |
審決日 | 2019-07-08 |
出願番号 | 商願2016-122601(T2016-122601) |
審決分類 |
T
1
11・
272-
Z
(W09)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 森山 啓 |
特許庁審判長 |
早川 文宏 |
特許庁審判官 |
平澤 芳行 榎本 政実 |
登録日 | 2017-06-23 |
登録番号 | 商標登録第5957656号(T5957656) |
商標の称呼 | レアスナス |
代理人 | 小勝 有紀 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 田中 克郎 |
代理人 | 石田 昌彦 |
代理人 | 中山 惇子 |
代理人 | 波田野 晴朗 |