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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
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審判 全部申立て  登録を維持 W43
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審判 全部申立て  登録を維持 W43
管理番号 1356243 
異議申立番号 異議2018-900300 
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2019-11-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-10-15 
確定日 2019-09-30 
異議申立件数
事件の表示 登録第6065272号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6065272号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6065272号商標(以下「本件商標」という。)は、「ホテル オリエンタルエクスプレス」の片仮名を横書きで表してなり、第43類「宿泊施設の提供,飲食物の提供」を指定役務として、平成29年10月3日に登録出願され、同30年7月10日に登録査定、同月27日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する国際登録第1301176号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、2016年(平成28年)1月21日にFranceにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、同年2月17日に国際商標登録出願、「Temporary accommodation;hotel services」を含む第43類並びに第3類、第4類、第8類、第11類、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類、第21類、第24類、第25類、第27類ないし第30類、第34類、第35類、第39類、第41類及び第44類に属する国際商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成30年5月11日に日本国において設定登録されたものであり、現在、有効に存続しているものである。
2 申立人が、本件商標は商標法第4条第1項第15号、同第19号及び同第7号に該当するとして引用する商標は、「ORIENT EXPRESS」の欧文字(以下「引用商標2」という。)及び「オリエントエクスプレス」の片仮名(以下「引用商標3」という。)を横書きした構成からなるものであり、いずれも「鉄道による輸送」(以下「使用役務」という場合がある。)について、「ベルモンド リミテッド(Belmond Ltd.)」(以下「ベルモンド社」という。)が使用していると主張するものである。
上記の引用商標2及び引用商標3を、以下「引用各商標」という場合がある。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標はその指定役務について、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第19号及び同第7号に該当するから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号に関して
本件商標は、普通に用いられる書体の片仮名で「ホテル オリエンタルエクスプレス」と表された態様である。「ホテル」の語は、宿泊施設の普通名称であり、指定役務との関係で識別力がない、あるいは、弱いため、本件商標の要部は「オリエンタルエクスプレス」の部分である。当該要部からは、「オリエンタルエクスプレス」の称呼と、「東方の急行」、「東方の急行列車」、「東洋の急行」又は「東洋の急行列車」の観念が生ずる。
他方、引用商標1は、上段に「ORIENT EXPRESS」の各英単語の頭文字「O」と「E」を中黒で結合し、デザイン化した「O・E」ロゴが配され、下段に「ORIENT EXPRESS」の文字が配された態様である。上段と下段は視覚的に明瞭に分離され得るため、商標の類否判断において下段の「ORIENT EXPRESS」の文字が抽出され、比較される。引用商標1からは「オリエントエクスプレス」の称呼が生じ、「東の急行」、「東の急行列車」、「東洋の急行」又は「東洋の急行列車」の観念が生ずる。
本件商標の要部「オリエンタルエクスプレス」と引用商標1の下段の欧文字部分「ORIENT EXPRESS」を比較すると、外観については相違するが、称呼については類似し、観念については同一又は類似である。よって、両商標の類否を総合的に判断すると、本件商標と引用商標1は類似する。
指定役務については、本件商標の「宿泊施設の提供」と引用商標1の「Temporary accommodation; hotel services.(一時宿泊施設の提供,ホテルにおける宿泊施設の提供)」が互いに同一又は類似の関係にある。
2 商標法第4条第1項第15号に関して
引用各商標は、ヨーロッパを横断する国際寝台列車の名称として日本の需要者及び取引者に広く知られている。
本件商標中「ホテル」の部分は宿泊施設の普通名称であり、指定役務との関係で、識別力がない、あるいは弱いため、本件商標の要部は「オリエンタルエクスプレス」の部分である。
本件商標の要部と引用商標3は、文字のつづりについては、中間部の「タル」と「ト」の違いのみであるため、つづり及び称呼が近似しており、観念については略同一である。また、本件商標の要部と引用商標2についても、外観が異なるが、称呼が近似しており、観念も略同一である。よって、本件商標と引用各商標は、それぞれ類似性の程度が高いといえる。
さらに、本件商標の指定役務と引用各商標の使用役務は。役務の内容について関連性が強い。
したがって、本件商標がその指定役務に使用された場合、引用各商標に係る使用役務との間で役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
3 商標法第4条第1項第19号に関して
本件商標は、他人の業務に係る「鉄道による輸送」を表示するものとして日本国内及び/又は外国における需要者及び取引者の間に広く知られている引用各商標と類似の商標であって、不正の利益を得る目的をもって使用するものである。
4 商標法第4条第1項第7号に関して
引用各商標は、ヨーロッパを横断する国際寝台列車の名称として、日本国内及び/又は外国で広く知られているところ、引用各商標の正当な権利者及び使用者と何ら関係のない者が当該名称に類似する本件商標を使用・登録する行為は、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがある。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「ホテル オリエンタルエクスプレス」の片仮名を「ホテル」と「オリエンタルエクスプレス」の間に若干の間隔をとり、同書、同大に横一連に表してなるところ、外観上、いずれかの文字部分が、強調して表されているものではない。また、本件商標から生じる「ホテルオリエンタルエクスプレス」の称呼も、多少冗長であるとしても、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、「ホテル オリエンタルエクスプレス」を構成する各文字は、「オリエンタル」の文字が「東洋風の」の意味を有する語であり、「エクスプレス」の文字が「急行列車」の意味を有する語であったとしても、先頭に「西洋風の宿泊施設」を意味する「ホテル」の文字が付されていることから、これらの構成文字全体が一体となってホテルの名称を表したものと理解、認識され、「ホテル オリエンタルエクスプレス」というホテルの名称を認識させるものである。
してみれば、本件商標は、「ホテルオリエンタルエクスプレス」の称呼を生じ、「『ホテル オリエンタルエクスプレス』という名称のホテル」程の観念を生ずるものである。
(2)引用商標1
引用商標1は、別掲に示すとおり、図案化された「O・E」の文字を大きく表し、その下に「ORIENT EXPRESS」の欧文字をやや小さく横書きした構成からなるところ、上段の図案化された「O・E」のロゴ部分と下段の「ORIENT EXPRESS」の文字部分とは、視覚上分離して観察され得るものであるばかりでなく、これらを常に一体不可分のものとしてのみ観察しなければならない特段の事情も見いだし得ないものであるから、それぞれが独立して自他商品・役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。
そして、「ORIENT EXPRESS」の文字は、後述2のとおり、小説や映画等で採用され有名となったヨーロッパを横断するかつて存在した豪華国際寝台列車の名称として、我が国では「オリエント急行」として知られていることからすれば、引用商標1の「ORIENT EXPRESS」の文字部分は、「20世紀初頭に全盛期を迎えた頃の『オリエント急行』」の意味合いを理解させるものである。
そうすると、引用商標1は、下段の「ORIENT EXPRESS」の文字部分より、該文字に相応した「オリエントエクスプレス」の称呼及び「20世紀初頭に全盛期を迎えた頃の『オリエント急行』」の観念が生ずるものである。
(3)本件商標と引用商標1との類否
ア 外観について
本件商標と引用商標1の外観については、両商標を全体として比較した場合には、片仮名と欧文字の文字種の相違及びロゴ部分の有無という明確な差異を有するものであるから、外観上、判然と区別し得るものである。
また、本件商標と、引用商標1の構成中「ORIENT EXPRESS」の文字部分を比較した場合には、文字数の相違及び片仮名と欧文字の文字種の相違という明確な差異を有するものであるから、外観上、判然と区別し得るものである。
イ 称呼について
本件商標から生ずる「ホテルオリエンタルエクスプレス」の称呼と、引用商標1から生ずる「オリエントエクスプレス」の称呼とは、「ホテル」の音の有無、中間部の「タル」と「ト」の音の差異等により、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
ウ 観念について
本件商標と引用商標1の観念については、本件商標は「『ホテル オリエンタルエクスプレス』という名称のホテル」の観念を生ずるのに対し、引用商標1は、「20世紀初頭に全盛期を迎えた頃の『オリエント急行』」の観念を生ずるものであるから、両者の観念は明確に相違するものであり、両者は、観念上、紛れるおそれはないものである。
類否判断について
以上によれば、本願商標と引用商標1とは、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれのない非類似の商標と判断するのが相当である。
オ 申立人の主張について
申立人は、本件商標中の「ホテル」は宿泊施設の普通名称であることから、指定役務との関係で識別力がないか、あるいは弱いため、本件商標の要部は「オリエンタルエクスプレス」の部分である。当該要部からは、「オリエンタルエクスプレス」の称呼と、「東方の急行」、「東方の急行列車」、「東洋の急行」又は「東洋の急行列車」の観念が生ずる旨主張している。
しかしながら、「宿泊施設の提供」の分野においては、「ホテルオークラ」や「ホテルニューオータニ」、あるいは、「ホテルヴィスキオ京都」(甲8-1)、「ホテルグランヴィア京都」(同)、「ホテルアソシア新横浜」(甲9-1)、「ホテル京阪」(甲16-3)のように、先頭に「ホテル」の語を有する名称が広く使用、採択されており、これらに接する取引者、需要者も「ホテル」の文字を含んだ構成文字全体を一体としてホテルの名称を表したものと理解、認識するというのが相当であって、本件商標のような「ホテル○○」の表示について、先頭の「ホテル」の文字を捨象し、それ以外の文字部分のみによって取引に当たることが一般的であるとはいい難いものである。
してみれば、本件商標にあっては、先頭の「ホテル」の文字は、殊更、分離することなくこれを一体のものとして捉えるものというべきであるから、本件商標と引用商標1との類否については、上記のとおり判断するのが相当であって、申立人の主張は採用できない。
(4)小括
以上より、本願商標と引用商標1とは非類似の商標であるから、役務の類否について判断するまでもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 引用各商標の周知・著名性について
(1)申立人が提出した甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 「ORIENT EXPRESS」の運行
(ア)「ORIENT EXPRESS」及びその片仮名表記「オリエントエクスプレス」は、ヨーロッパ大陸を横断する国際寝台列車の名称(以下「オリエントエクスプレス」という。)を表すものであり、我が国では「オリエント急行」の名称で知られている(甲4-8、甲4-45等)。
(イ)オリエントエクスプレスは、パリとコンスタンティノープル(現イスタンブール)を結んで、1883年に運行が開始されたものであり、当時アメリカで運行されていた、居住性が自慢のプルマン社の寝台列車から着想を得てワゴン・リ社が計画し、運行にこぎ着けたものである(甲4-45)。
オリエントエクスプレスは、当初のパリ-コンスタンティノープル間の他にも、アルプス山脈を貫くシンプロントンネル経由でローザンヌ?ミラノ間を走行する「シンプロン・オリエント・エクスプレス(Simplon Orient Express)」や、オーステンデ(ベルギー)-ウィーン間を走行する「オーステンデ・ウィーン・オリエント・エクスプレス(Oostende Wien Orient Express)」等、出発地や経由するルートを冠した様々な列車として運行されていた(甲4-45)。
(ウ)20世紀に入ると、オリエントエクスプレスは、豪華国際寝台列車として全盛期を迎え、アガサ・クリスティ著の小説「オリエント急行の殺人」(1934年)にも登場したが、二度の世界大戦中は運行を停止し、戦後、運行を再開したものの、航空機の台頭等により徐々に衰退し、1977年に、パリ-イスタンブール間のオリエントエクスプレスは廃止された。その後も、運行区間短縮が相次ぎ、パリ-ウィーン間にまで規模を縮小され、2007年には、ストラスブール-ウィーン間の運行となり、2009年、最終的にその運行を停止した(甲4-45)。
(エ)オリエント・エクスプレス・ホテルズ社(Orient-Express Hotels Ltd.)は、1982年に、豪華列車の伝統を現代に呼び起こそうと、イギリス(ロンドン)-イタリア(ベニス)間で「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス(VSOE)」(以下「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」という。)の運行を開始し、2013年当時には定期的に運行していた(甲4-45)。
なお、申立人の主張によれば、オリエント・エクスプレス・ホテルズ社は、2017年7月に社名変更され、現在はベルモンド社である。
(オ)申立人の主張によれば、ベルモンド社は、申立人から「ORIENT EXPRESS」商標の使用許諾を得て、上記列車名称に「ORIENT EXPRESS」を使用している。
(カ)一方、「ノスタルジック・オリエントエクスプレス(NOE)」という名称の列車も存在し、当該列車はベルモンド社とは、別の運行主体により1981年から、チューリッヒ-イスタンブール間で運行されていた(甲4-8、甲4-40)。
(キ)さらに、申立人は、2015年以降は、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」以外に申立人が企画・運行する「オリエントエクスプレス」も存在すると主張している。
(ク)以上のことから、オリエントエクスプレスは、ヨーロッパを横断する豪華な国際寝台列車として、1883年にワゴン・リ社が、パリ-コンスタンティノープル(現イスタンブール)間で運行を開始し、その後、様々なルートで運行され、20世紀に入り全盛期となったが、その後衰退し、2009年頃までには、当初のオリエントエクスプレスはその運行を停止した。
その一方で、1981年以降、オリエント・エクスプレス・ホテルズ社及び別の運営主体により、ロンドン-ベニス間及びチューリッヒ-イスタンブール間で、オリエントエクスプレスの名称の下で新たに国際寝台列車の運行が開始され、2008年以降、オリエントエクスプレスは、ベルモンド社(その前身はオリエント・エクスプレス・ホテルズ社。)によりロンドン-イタリア間で運行されたものであり、2015年以降は、申立人により運行されるものも存在することがうかがわれる。
イ ベルモンド社と申立人に関して
(ア)「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」の運行主体は、ベルモンド社である(甲3-1?甲3-7)。
(イ)申立人は、2016年3月にフランス国鉄(SNCF)の子会社から、引用商標2及び引用商標3を含む「ORIENT EXPRESS」関連商標を承継したと主張し、現在、欧州、アジア、オセアニア、北米、中南米、中東、アフリカ諸国等において、商標「ORIENT EXPRESS」についての商標登録を有していると主張している(甲6-1?甲6-7)。
(ウ)申立人の主張によれば、申立人は、「ORIENT EXPRESS」商標の使用をベルモンド社に許諾している。
ウ 日本におけるオリエントエクスプレスの紹介
(ア)ベルモンド社は、自社ウェブサイト内に「豪華列車の旅」という日本語記事を設け、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」を紹介している(甲3-2?甲3-7)。
当該ウェブサイトのプリントアウトには、右下に「2019/01/11」等の記載があるものの、記事の掲載日は不明である。また、当該ホームページの閲覧者数や当該列車の乗車予約数、市場シェア等を示す具体的な記載はなく、引用各商標の使用を裏付ける客観的な証拠の提出もない。
(イ)日本の旅行業者が、ウェブサイトにおいて、日本人向けに日本語を用いて、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」への乗車を盛り込んだ旅行ツアーの紹介を行い、予約販売を行っている(甲3-9?甲3-11)。
当該ウェブサイトのプリントアウトには、右下に「2019/01/12」等の記載があるものの、記事の掲載日は不明である。また、当該旅行ツアーの申込数等、具体的な利用状況を示す具体的な記載はなく、引用各商標の使用を裏付ける客観的な証拠の提出もない。
エ 日本人向け雑誌、書籍等における記事
オリエントエクスプレスないしオリエント急行は、日本人向け雑誌、書籍等で紹介されている(甲4-1?甲4-57)。しかし、これらの記事中、ベルモンド社に関係する記載があるものは、3件程度である(甲4-45、甲4-46、甲4-53)。
オ オリエントエクスプレスを舞台にした小説及び映画
アガサ・クリスティによる推理小説「オリエント急行殺人事件」(1934年発表)の舞台は、イスタンブール発の「オリエント急行」である(甲5-1)。当該小説は2度映画化されており、日本でも1974年と2017年にそれぞれ劇場公開された(甲5-2、甲5-3)。
カ 外国における「ORIENT EXPRESS」商標の周知性
(ア)フランス国鉄(SNCF)は、2013年2月に、ボストンコンサルティンググループを通じて「Orient Express」の好感度調査を行い、その調査に「あなたは『オリエントエクスプレス』の名称を知っていますか?(Do you know the name Orient Express?)」という設問があり、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、ロシア、中国及び中東(アラブ首長国連邦及びサウジアラビア)において、計3,500人を対象に質問がなされた。その結果、全体で約70%の人が「Orient Express」の名称を知っており、ヨーロッパでは約90%の人が知っているというものであった(甲6-8)。
ただし、当該調査については、具体的な調査方法や調査内容は不明であり、また、「ORIENT EXPRESS」が特定の者の業務に係る「鉄道による輸送」を表示する商標として知られているかという点については示されていない。
(イ)申立人は、「ORIENT EXPRESS」商標の権利者(商標権の承継前後に関わらず)は、「オリエントエクスプレス」列車の展示や当該列車についてのイベントをヨーロッパ各国で行い、「ORIENT EXPRESS」ブランドの広告・宣伝に努めているとして、2014年の4月に、パリのアラブ世界研究所で開催された展示会や、2016年10月に、パリで開催された国際現代アート見本市に、オリエントエクスプレス関係の高級感や伝統等のイメージを体現させた作品(美術品や工芸品等)を出展した等と主張し、外国語のインターネット記事を提出している(甲6-9)。また、「ORIENT EXPRESS」商標が外国において周知性を獲得している事実を補強する証拠として、2件の訴訟について外国語のインターネット記事を提出している(甲6-14、甲6-15)。
(2)判断
上記(1)によれば、オリエントエクスプレスは、ヨーロッパを横断する豪華国際寝台列車の名称であり、オリエントエクスプレスの運行は、「鉄道による輸送」といえるものである。
しかしながら、オリエントエクスプレスは、上記(1)のとおり、1883年にワゴン・リ社により運行が開始され、アガサ・クリスティの著書「オリエント急行の殺人」(1934年)に採用されるなどして、その名称の知名度を得たものではあるが、パリ-コンスタンティノープル(現イスタンブール)間をはじめ、様々なルートで複数の主体によって運行されてきたものであり、たとえ、1982年から現在にかけて、ベルモンド社がロンドン-ベニス間でオリエントエクスプレスを運行しているとしても、「ORIENT EXPRESS」及び「オリエントエクスプレス」の文字からなる商標は、直ちに、ベルモンド社の運営に係る「鉄道による輸送」を表示するものとして知られているとはいえないものである。
そして、申立人が提出した甲各号証を検討しても、本件商標の登録出願時(平成29年10月3日)及び登録査定時(同30年7月10日)において、ベルモンド社が運行する「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」を利用した乗客数や市場シェア、ベルモンド社のウェブサイトの閲覧者数、当該列車を利用した旅行ツアーの申込数、広告宣伝の方法、期間、地域等に関する事実関係は必ずしも明らかではなく、提出された証拠によって、ベルモンド社の業務に係る役務について、取引者、需要者の間における引用各商標の周知・著名性を量的に判断することはできず、また、我が国の雑誌、書籍等にオリエントエクスプレスないしオリエント急行に関する記載が相当数あるとしても、ベルモンド社に結びつく記事は、数件にとどまっており、これらによって、同社の業務に係る役務について、引用各商標の周知・著名性を推認することはできない。
その他、「ORIENT EXPRESS」又は「オリエントエクスプレス」の名称が、我が国又は外国においてベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして取引者、需要者の間に広く認識されていたという事実を認め得る客観的な証拠は見いだせない。
(3)外国での周知・著名性に関する申立人の主張について
申立人は、「ORIENT EXPRESS」商標が外国において周知・著名性を獲得している証拠として、外国における宣伝広告活動や、2件の訴訟事件について、外国語によるインターネット記事を提出しているが、内容を把握できる翻訳文や、事実関係を確認できる客観的な証拠の提出はなく、どのような事実に基づいて、外国において周知・著名性が獲得されたか確認することはできず、これらの証拠をもってしては、引用各商標(特に引用商標2)がベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、外国において周知・著名性を獲得したことを認めることはできない。
また、申立人はフランス国鉄(SNCF)が2013年2月に行った調査結果に基づき、外国における「ORIENT EXPRESS」商標の周知性を主張しているが、当該調査は、具体的な調査方法や調査内容が不明であり、その調査結果が客観的で公正なものかどうか不明である上、「ORIENT EXPRESS」商標が特定の者の業務に係る列車の商標として知られているかという点については明確に示されていないから、これをもって引用各商標(特に引用商標2)がベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、外国において周知・著名性を獲得したことを認めることはできない。
さらに、申立人は、2016年3月にフランス国鉄(SNCF)の子会社から、引用各商標を含む「ORIENT EXPRESS」関連商標を承継したと主張し、現在、欧州、アジア、オセアニア、北米、中南米、中東、アフリカ諸国等、において、商標「ORIENT EXPRESS」についての商標登録を有していると主張しているが、そもそも、「フランス国鉄(SNCF)の子会社」がどのような経緯で「ORIENT EXPRESS」関連商標の権利を取得し、管理してきたかは明らかでなく、また、その事実関係を示す客観的証拠の提出もないことから、直ちに引用各商標がフランスを含む外国において、ベルモンド社又は申立人の業務に係る役務を表示するものとして周知・著名性を獲得したことを認めることはできない。
また、諸外国での商標登録例は、引用各商標の周知・著名性を直接的に裏付けるものとはいえない。
そうすると、外国での周知・著名性に関する申立人のかかる主張については、いずれも採用することはできない。
(4)小括
以上のとおり、引用各商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用各商標の周知・著名性
引用各商標は、前記2(4)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、ベルモンド社の業務に係る役務を表示する商標として、我が国又は外国の需要者の間において、広く認識されていたものとは認めることはできないものである。
(2)本件商標と引用各商標の類似性の程度
本件商標は、「ホテル オリエンタルエクスプレス」の文字からなるところ、前記1(1)のとおり、「ホテルオリエンタルエクスプレス」の称呼を生じ、「『ホテル オリエンタルエクスプレス』という名称のホテル」の観念を生ずるものである。
引用各商標は、「ORIENT EXPRESS」又は「オリエントエクスプレス」の文字からなるところ、前記1(2)と同様に、「オリエントエクスプレス」の称呼及び「20世紀初頭に全盛期を迎えた頃の『オリエント急行』」との観念が生ずるものである。
そうすると、本件商標と引用各商標は、前記1(3)と同様に、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれのない非類似の商標であり、類似性の程度は高いとはいえない。
(3)役務の関連性、需要者の共通性
本件商標に係る指定役務「宿泊施設の提供,飲食物の提供」は、ホテルやレストランにおいて、宿泊や飲食のために提供される役務であるのに対し、引用各商標に係る使用役務である「鉄道による輸送」は、鉄道により人や貨物の輸送のために提供される役務であり、提供の手段、目的又は場所が一致するとはいえず、各事業者を規制する法律も「旅館業法」「食品衛生法」「鉄道事業法」等と異なるものであって、両者は互いに類似しない役務であり、役務の関連性が高いということはできない。
なお、需要者の共通性については、鉄道を利用する顧客が、ホテルで宿泊し、レスランで食事をとることもあることから、両者の需要者は、ある程度、共通するものである。
(4)企業における多角経営の可能性
鉄道事業会社の企業グループ内の企業や子会社によりホテル事業やレストラン事業が行われている事例が相当数みられる(甲7?甲19)ことから、鉄道事業者が、ホテル事業やレストラン事業を行う可能性は、ある程度、認められるものである。
(5)出所の混同のおそれ
上記(1)ないし(4)を総合して判断すれば、本件商標に係る指定役務と引用各商標に係る使用役務の需要者は、ある程度、共通するものであり、鉄道事業者が、ホテル事業やレストラン事業を行う可能性は認められるとしても、引用各商標は、ベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されていたとは認められないものであり、また、本件商標と引用各商標の類似性の程度や、本件商標に係る指定役務と引用各商標に係る使用役務との関連性は高いものではないことからすれば、本件商標に接する取引者、需要者が、ベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして引用各商標を連想又は想起するということはできない。
そうすると、本件商標は、商標権者がこれを指定役務について使用しても、取引者、需要者が、引用各商標を連想又は想起することはなく、その役務が他人(ベルモンド社)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
(6)小括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
引用各商標は、前記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の需要者の間で、ベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されていたと認めることはできないものである。
そして、本件商標と引用各商標とは、前記3(2)のとおり、類似しない、別異のものであるから、本件商標が商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くことは明らかである。
また、申立人が提出した証拠からは、本件商標が、引用各商標の顧客吸引力や信頼にただ乗りし、不正の利益を得ることや他人に損害を与えること等、不正の目的をもって使用するものであることを認めるに足りる証左は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、引用各商標が周知・著名な商標であることを前提に、「正当な権利者及び使用者と何ら関係のない者が当該名称に類似する本件商標を使用・登録する行為は、公正な取引秩序を乱し、国際信義に反するものであるから、公の秩序を害するおそれがある。」旨主張しているが、前記2のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国又は外国の需要者の間で、ベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして、広く認識されていたと認めることはできないものである。
そして、申立人からは、他に、商標権者が、本件商標を不正の目的をもって出願したと認め得る証拠の提出はないから、本件商標の登録出願が、引用各商標による信用・利益を不正に得る意図で行われた剽窃的なものということはできず、上記のとおり、引用各商標がベルモンド社の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていると認めることもできないから、本件商標は、引用各商標の周知性に化体した信用、名声及び顧客吸引力へのただ乗りをするものであるということはできない。
また、申立人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすこともできない。
さらに、本件商標を、その申立役務について使用することが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するということもできず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、本件商標の構成自体が、非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第19号及び同第7号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲 引用商標1(国際登録第1301176号商標)


異議決定日 2019-09-20 
出願番号 商願2017-131438(T2017-131438) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W43)
T 1 651・ 262- Y (W43)
T 1 651・ 261- Y (W43)
T 1 651・ 22- Y (W43)
T 1 651・ 271- Y (W43)
T 1 651・ 222- Y (W43)
最終処分 維持  
前審関与審査官 蛭川 一治 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 鈴木 雅也
冨澤 美加
登録日 2018-07-27 
登録番号 商標登録第6065272号(T6065272) 
権利者 株式会社ホテルマネージメントジャパン
商標の称呼 ホテルオリエンタルエクスプレス、オリエンタルエクスプレス 
代理人 桶野 清香 
代理人 桶野 育司 
代理人 田中 克郎 
代理人 石田 昌彦 
代理人 森本 久実 
代理人 遠藤 祐吾 
代理人 稲葉 良幸 

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