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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W41
管理番号 1346131 
審判番号 取消2017-300253 
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-04-10 
確定日 2018-11-05 
事件の表示 上記当事者間の登録第5628687号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5628687号商標の指定役務中、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,スポーツ指導員の育成のための教育・研修,各種講座及びセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,娯楽情報の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,運動施設の提供」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5628687号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成25年5月29日に登録出願、第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの役務及び第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,スポーツ指導員の育成のための教育・研修,各種講座及びセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,娯楽情報の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,運動施設の提供,興行場の座席の手配,運動用具の貸与」を指定役務として、同年11月8日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録日は、平成29年4月25日であり、商標法第50条第2項に規定する「審判の請求の登録前3年以内」とは、同26年4月25日ないし同29年4月24日である(以下「要証期間」という場合がある。)。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判請求書、審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書等において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第4号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、本件商標の指定役務中、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,スポーツ指導員の育成のための教育・研修,各種講座及びセミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,娯楽情報の提供,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,運動施設の提供」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により、その登録は取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、同人が、要証期間に、本件商標を本件審判の請求に係る役務中、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」に使用しているとし、その使用に係る証拠として、乙第1号証ないし乙第16号証を提出している。
しかしながら、被請求人提出の証拠を確認したところ、本件商標は、単に被請求人が運営するバレーボールチーム自体を表す標章として使用されているのみであって、取引の対象となる商標法上の「役務」には使用されていないことから、当該証拠は、商標法第50条第2項における被請求人の使用を立証できるものではない(甲3)。
(2)被請求人は、乙第1号証ないし乙第16号証を提出することで、本件商標が、被請求人によって、本件審判の請求に係る役務中、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,技芸・スポーツ又は知識の教授、各種講座及びセミナーの企画・運営又は開催,娯楽情報の提供」(以下「本件役務」という場合がある。)について使用されていることを主張する。
しかしながら、被請求人提出の証拠において、本件役務についての要証期間の使用を確認することができないことは、以下のとおりである。
ア 乙第1号証は、被請求人の2016年度CSR報告書である。かかるCSR報告書からは、被請求人が運営するバレーボールのチーム名が「久光製薬スプリングス」であり、当該バレーボールチームが本件商標を標章としていることを確認できたとしても、本件商標の使用を直接的に示すものではない。
したがって、乙第1号証からは、本件商標の本件役務への使用を立証することはできない。
イ 乙第2号証ないし乙第7号証は、被請求人が運営するバレーボールチームの2013年優勝凱旋パレード又はその報告会に関する写真、ウェブサイト写し、ホームページ写し及び新聞記事写しである。かかる証拠からは、本件商標を確認できたとしても、単に被請求人が運営するバレーボールチームを示す標章にすぎず、市場において独立して取引の対象となる役務についての使用ではない。
すなわち、過去の裁判例(平成12年8月29日東京高裁平成11年(行ケ)第390号)及び特許庁編さんの工業所有権法逐条解説〔第20版〕において、商標法上の「役務」は「取引の対象(目的)」であることが必要と示されているところ、被請求人が使用する役務は、いずれも取引の対象となるものではなく、商標法上の「役務」には該当しない。
加えて、当該パレードの日は、要証期間外である。
したがって、乙第2号証ないし乙第7号証では、本件商標が商標法上の「役務」において使用されていることを立証できず、要証期間の使用も立証できない。
ウ 乙第8号証及び乙第9号証は、被請求人が運営するバレーボールチームの優勝記念で開催された2013年6月22日のバレーボール教室に関する写真及びホームページ写しである。かかる証拠からは、本件商標が被請求人が運営するバレーボールチームの標章であると確認できるものの、市場における取引の対象となる役務ではなく、かつ、その開催日は、要証期間外である。
したがって、乙第8号証及び乙第9号証では、本件商標が商標法上の「役務」において使用されていることを立証できず、要証期間の使用も立証できない。
エ 乙第10号証及び乙第11号証は、被請求人が運営するバレーボールチームについての情報を発信する冊子及びガイドブックである。乙第10号証は、その最終ページの右下に「平成25年(2013年)6月久光製薬(株)公報室発行」の記載を確認できるため、要証期間外の証拠である。また、乙第11号証は、2013/2014年のシーズン公式ガイドであるが、当該公式ガイドは試合日程を示したものであり、本件商標がファンクラブの標章として使用されているようであるが、本件役務において使用されていること、要証期間の使用であることを立証できるものではない。
オ 乙第12号証及びその原本としての乙第15号証並びに乙第13号証及びその原本としての乙第16号証は、被請求人の発行するカレンダー(以下、乙第15号証に係るカレンダーを「本件カレンダー1」といい、乙第16号証に係るカレンダーを「本件カレンダー2」といい、これらをまとめていうときは、「本件カレンダー」という。)である。本件カレンダーは、被請求人の企業としての沿革が最終ページに印刷されているところ、本件商標は、2012/2013年シーズンの被請求人が運営するバレーボールチームの公式戦5冠達成を示すために用いられている標章であり、本件役務を示す商標ではない。
したがって、本件カレンダーは、要証期間に、本件役務について本件商標が使用されたことを立証するものではない。
カ 被請求人は、「被請求人が運営するバレーボールチームの興行の運営・開催等に関する情報の提供、並びに当該バレーボールチームの興行の運営・開催等に関する広告物」についての本件商標の使用が、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」についての使用の範ちゅうに属する旨を主張するが、「バレーボールチーム」という団体と「バレーボール」という競技とでは概念が全く異なるから、被請求人の当該主張は、成り立たない。
また、被請求人は、昭和57年(行ケ)第67号判決(乙14)等において「二つの分類に属する二面性を有する商品」が認められていることを指摘しているが、仮に、本件カレンダーが「二つの分類に属する二面性を有する商品」であるとしても、これにより直ちに、当該カレンダーへの本件商標の使用が、本件役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」についての使用と認められるわけではない。
さらに、被請求人が主張する、本件カレンダーに係る「被請求人が運営するバレーボールチームの興行」の具体的内容は明らかでなく、当該カレンダーにおける本件商標の使用が、「被請求人が運営するバレーボールチームの興行の運営・開催等に関する情報の提供及び同チームの興行の運営・開催等に関する広告物」についての使用であることも認められない。
(3)上記のとおり、答弁書及び乙第1号証ないし乙第16号証によっては、本件商標が、要証期間に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって、本件審判の請求に係る役務の一について使用されていたことは立証されていない。
3 口頭審理陳述要領書
(1)乙第2号証ないし乙第11号証について
乙第2号証ないし乙第10号証は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用を見いだせないか、又は、要証期間外の使用を示すものである。
また、乙第11号証は、その作成日、配布日、配布先等が不明であって、要証期間の使用を示すものとは認められず、仮に、要証期間に配布されたものであったとしても、同号証に表示されている本件商標は、ファンクラブ会員の募集記事において使用されており、「バレーボールチームのファンクラブの企画・運営又は管理」(第35類)の指定役務についての本件商標の使用を示すにとどまる。
(2)乙第1号証、乙第14号証及び乙第17号証ないし乙第38号証について
被請求人提出の乙第1号証、乙第14号証及び乙第17号証ないし乙第38号証は、被請求人の要証期間における本件商標の使用を直接立証するものではない。
なお、乙第23号証ないし乙第31号証、乙第33号証及び乙第35号証ないし乙第38号証は、「バレーボールの興行」に関するものであるが、いずれの証拠からも本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用を見いだすことはできず、被請求人の要証期間における本件商標の使用を証明するものではない。
(3)被請求人の口頭審理陳述要領書に対する反論
被請求人提出の証拠を上記のように整理すると、要証期間における本件商標の使用を直接示すものとして検討を要するのは、本件カレンダーのみであるが、これによっても、被請求人が要証期間に本件審判の請求に係る役務について本件商標を使用していたことは認められない。
ア 被請求人は、自らが一般社団法人日本バレーボールリーグ機構(以下「Vリーグ機構」という。)の構成員であり、被請求人が運営するバレーボールチーム「久光製薬スプリングス」の「ホームタウン」を「佐賀県鳥栖市」及び「兵庫県神戸市」と定め、その「ホームタウン」で開催される「ホームゲーム」について、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」を行っている旨を主張し、本件カレンダーでは、被請求人の「ホームゲーム」の参加チームや試合結果が紹介されている旨を主張している。
しかし、本件カレンダーには、その最終ページに「久光製薬スプリングス」のメンバー紹介や年表が記載されているものの、被請求人の「ホームゲーム」の参加チームや試合結果が紹介されているとは認められない。すなわち、当該最終ページには、「久光スプリングス メンバー紹介」の記載、「久光製薬スプリングス年表」の記載があり、「久光製薬スプリングス」以外のバレーボールチームは紹介されていないことからして、参加チームの紹介というよりも、単に被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」の紹介とみるのが相当である。
また、上記年表には各種バレーボール大会での試合結果が「久光製薬スプリングス」の功績を讃えるように記載されているが、いずれが被請求人の「ホームゲーム」に当たるかは不明であるし、年表中の試合結果は、いずれも被請求人の「ホームタウン」(「佐賀県鳥栖市」及び「兵庫県神戸市」)とは特別な関係を認められない大会についてのものであり、「公式戦三冠達成!」及び「史上初の公式戦五冠を達成!」の記載を考慮すると、年表中の試合結果は、V・プレミアリーグ(日本の社会人バレーボール・Vリーグの1部リーグ)の公式試合や国際大会など、被請求人の「ホームゲーム」以外の大会のものと考えられる。
そして、乙第21号証のVリーグ機構規約(以下「規約」という。)中、「公式試合は、Vリーグ機構が主催(その名義において試合を開催すること、以下同じ)するのを原則とする。」の規定(第21条)及び「公式試合のうち、Vリーグ機構が主催する大会は、すべてVリーグ機構が主管(その責任と費用負担において試合を実施・運営すること、以下同じ)する。」の規定(第22条第1項)からして、V・プレミアリーグの公式試合は、被請求人ではなくVリーグ機構(他人)が企画・運営又は開催するものと認められる。また、規約第22条第2項及び第3項では、V・プレミアリーグの公式試合の主管権が「Vリーグ機構」の構成員(チーム)に委譲又は譲渡される場合が規定されているものの、被請求人の提出した証拠のいずれからもそのような事情を確認することはできない。
そうすると、本件カレンダー(乙15、乙16)に記載されている試合結果は、被請求人の「ホームゲーム」に関するものではなく、他人が企画・運営又は開催するバレーボール大会(公式試合や国際大会など)に関するものとみるのが相当であり、本件カレンダーには、他人の役務(バレーボールの興行の企画・運営又は開催)に関する情報が示されているのであって、被請求人の役務(バレーボールの興行の企画・運営又は開催)に関する情報は示されていない。
したがって、本件カレンダーにおける本件商標の表示は、「(被請求人が興行する)バレーボールの興行の企画・運営又は開催」についての商標法第2条第3項第8号の「使用」、「(被請求人が興行する)バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」についての同項第3号の「使用」のいずれにも当たらず、そのような「使用」に該当するとの被請求人の主張は失当である。
イ 「商標」とは、標章であって、業として役務を提供し又は証明する者がその役務について使用をするものであるところ(商標法第2条第1項柱書、同項第2号)、商標法がその商標を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発展に寄与し、併せて需要者の利益を保護することを目的とする(同法第1条)ものである以上、業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するものでない限り(同法第2条第1項第2号)、「商標の使用」(同法第2条第3項)には該当しないと解するのが相当であり、他人が業として提供し、又は証明する「役務」について商標を使用したとしても、当該商標は、自己の役務を他の役務から識別する出所識別標識としての機能を有しないため、「商標の使用」に該当するものではない(平成26年(行ケ)第10113号に同旨)。
この点、被請求人は、平成28年(行ケ)第10086号判決を引用して、不使用取消審判における「使用」は、必ずしも商標的使用態様である必要はない旨を主張するが、当該判決は、本件とは事案を異にし、被請求人の主張を裏付ける根拠とはなり得ない。そもそも、当該判決は、「当該商標がその指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用(商標法2条3項各号)されていれば足り」と判示しているものの、他人の役務についての「使用」が不使用取消審判における「使用」となることまでをも認めたものではない。
また、商標法第50条における「使用」は商標的使用であるとして判決が出された裁判例は多数存在し、例えば、平成27年(行ケ)第10057号、平成25年(行ケ)第10295号、平成25年(行ケ)第10294号、平成25年(行ケ)第10032号、平成25年(行ケ)第10031号、平成19年(行ケ)第10217号、平成15年(行ケ)第323号、平成13年(行ケ)第190号及び平成12年(行ケ)第109号等がある。
ウ 本件カレンダーは、被請求人の商品や役務を広く知らせるための広告媒体であって、他人が企画・運営又は開催する公式試合や国際大会などに関する情報を提供するために使用されるものではない。このことは、当該カレンダーの最終ページには被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」が紹介されており、それ以外のページでは被請求人の商品が表示されている一方、他人が企画・運営又は開催する公式試合等についての情報は極めて限定的にしか表示されていないことからして明らかである。
この点について、被請求人は、上記カレンダーが「被請求人以外の者が運営するバレーボールの興行の運営等に関する情報を提供するに当たりその提供を受ける者が利用する物」である旨を主張するが、当該カレンダーの構成からして、そのような役務を提供する目的で使用される物とは到底認められず、当該カレンダーにおける本件商標の表示が「(他者が興行する)バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」についての商標法第2条第3項第3号の「使用」に該当するとの被請求人の主張は、背理である。
(4)本件商標について
本件商標は、被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」が「バレーボール大会で優勝した際に用い」られる標章であり、当該「久光製薬スプリングス」について使用されるものであることは、本件商標の構成中に当該「久光製薬スプリングス」のチームロゴが含まれていることからも明らかである。
したがって、本件商標は、飽くまで上記「久光製薬スプリングス」を示す標章であって、本件審判の請求に係る指定役務について使用される商標ではない。
そして、本件商標は、本件カレンダーの最終ページにある年表中、「2012/13」シーズン(2012年から2013年にかけてのシーズン)の大会に関して、その5冠達成を示す態様で表示されており、仮に、当該表示がバレーボール大会についての使用であるとしても、それは要証期間外の大会についての使用であるから、被請求人が要証期間に本件審判の請求に係る指定役務について本件商標を使用していたことは認められない。
4 上申書(平成30年1月29日付け)
(1)被請求人は、本件カレンダーが、同人の依頼により作製され、頒布された事実を示すため、乙第39号証を提出している。そして、当該カレンダーの末尾に添付されたポスター(以下「本件ポスター」という場合がある。)が、「被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物」であり、また、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」であるとして、本件ポスターの頒布により、本件商標は、商標法第2条第3項第3号及び同項第8号の「使用」があったと主張する。
しかしながら、そもそも本件ポスターは、「被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物」ではなく、また、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供」について「業として」提供されている事実の立証が全くされていないことから、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」であるとも認められないことは、以下のとおりである。
ア 本件ポスターが「被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物」であるとの主張について
被請求人は、「Vリーグ機構」の社員(構成員)として、V.プレミアリーグの運営等を行っていると主張するが、「Vリーグ機構」と被請求人とは、一般社団法人とその社員(構成員)の関係にあるところ、両者は、法律上、別人格である。そのため、被請求人が「Vリーグ機構」の社員(構成員)として行う行為については、別人格である「Vリーグ機構」の行為と評価されるから、被請求人が「Vリーグ機構」の社員(構成員)としてV.プレミアリーグの運営等に参画していたとしても、これにより、被請求人がV.プレミアリーグを運営していたことにはならない。
また、被請求人は、上申書(平成29年12月8日付け)において、被請求人の運営する「ホームゲーム」は「V.プレミアリーグ」の試合の一部であることを主張するが、「V.プレミアリーグ」の試合の中でも、被請求人の運営する「ホームゲーム」と「Vリーグ機構」の運営する「公式試合」とは別物であるから、被請求人が「ホームゲーム」を運営している一事をもって、被請求人が「V.プレミアムリーグ」の「公式試合」まで運営しているとは認められない。
そうすると、本件ポスターに記載された試合結果のいずれが被請求人の「ホームゲーム」であるか不明であり、本件ポスターと「被請求人が運営するバレーボールの興行」との具体的な関係について何ら立証されていない以上、本件ポスターが、「被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物」であるとは認められない。
したがって、乙第39号証により、「被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物」の頒布が立証されたことにはならない。
イ 本件ポスターが「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」であるとの主張について
被請求人により「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供」が「業として」提供されている事実については、その立証が全くされていない。そのため、被請求人が、役務の提供として、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供」を行っていることは認められず、本件ポスターが「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」であるとも認められない。
また、本件商標は、本件カレンダーの末尾ページ(本件ポスター)のみに全体の1%も占めない大きさで付されており、単に当時の優勝標章としてチャンピオンになったことを告知するものであって、本件ポスターは、それ自体が切り離されて独立して取引されるものではないから、あくまでカレンダーの一部である。
そうすると、本件ポスターは、本件カレンダーと共通の目的に供されるところ、被請求人が自白するとおり、本件カレンダーは「被請求人の商品や役務を広く知らせるための広告」であり、本件ポスターも「被請求人の商品や役務を広く知らせるための広告」に供されるものと認められることから、本件ポスターは、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供」に供されるものではない。
したがって、乙第39号証により、「バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」の頒布が立証されたことにはならない。
(2)以上のとおり、乙第39号証によっても、本件カレンダーが被請求人による本件商標の使用を示すものとは認められず、そのほかに本件商標の使用を示す証拠も提出されていない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判請求の費用は請求人の負担とする、との審決を求める旨述べ、その理由を審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書等において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第39号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標の使用の事実
被請求人は、スポーツ支援を通じて、健全な社会の発展と人々の健康づくりを支援するため、事業の一環として、バレーボールチーム「久光製薬スプリングス」の運営、次世代スポーツ選手の支援活動、スポーツ競技会の支援活動を行っている(乙1)。
そして、本件商標は、被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」に係る興行に関する広告・広報活動や、これらに関する情報の提供について使用されているものである。
ア 本件商標について
本件商標は、2013年に被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」がシーズン5冠を達成した際に、被請求人が創作した商標である。そして、2013年以降、「久光製薬スプリングス」が優勝した際の凱旋パレードや報告会において、本件商標をシンボルとして使用している(乙2?乙7)。
また、優勝記念のバレーボール教室等においても、本件商標をシンボルとして使用している(乙8、乙9)。
さらに、「久光製薬スプリングス」のチーム状況や試合結果等の情報を配信する冊子や、「久光製薬スプリングス」の公式ガイドブックにおいても、本件商標をシンボルとして使用している(乙10、乙11)。
このように、本件商標は、2013年以降、被請求人により、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,技芸・スポーツ又は知識の教授,各種講座及びセミナーの企画・運営又は開催,娯楽の提供」において使用されているものである。
イ 本件商標の要証期間における使用について
(ア)被請求人の使用に係る商品1
被請求人は、毎年発行している「久光製薬カレンダー」において、本件商標を本件審判の請求に係る指定役務に使用しているところ、本件カレンダー1は2016年版、本件カレンダー2は2017年版であり、それぞれの最終ページに本件商標が表示されている。
したがって、本件商標を要証期間に使用していることは、明らかである。
そして、本件カレンダーは、被請求人の商品のCMキャラクターであるプロテニスプレイヤーやプロゴルファー及び「久光製薬スプリングス」の選手の写真だけでなく、「久光製薬スプリングス」やそのメンバーのプロフィールや戦績を紹介するものとなっている。
このように、本件カレンダーにおける本件商標の使用は、被請求人の事業の一つであるバレーボールチーム「久光製薬スプリングス」の興行の運営・開催等に関する情報の提供及び同チームの興行の運営・開催等に関する広告物に該当するものであって、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」の範ちゅうに属するものである。
(イ)被請求人の使用に係る商品2
被請求人は、自らが発行する冊子「日本一から世界へ」(乙10)において、本件商標を本件審判の請求に係る指定役務に使用している。
上記冊子は、「久光製薬スプリングス」の戦績やチームメンバーの紹介等がされているものであり、現在も継続して配布している。そして、本件商標は、当該冊子の表紙のほか、その1、3、5、8及び10ページに表示されている。
上記冊子における本件商標の使用は、被請求人の事業の一つであるバレーボールチーム「久光製薬スプリングス」の興行の運営・開催等に関する情報の提供及び同チームの興行の運営・開催等に関する広告物に該当するものであって、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」の範ちゅうに属するものである。
(ウ)本件カレンダーにおける本件商標の使用が本件審判の請求に係る指定役務についての使用であると認められることは、昭和57年(行ケ)第67号の判決(乙14)を始めとする多数の裁判例・審決例において「登録商標の使用されている当該商品の実質に則して、それが真に二つの分類に属する二面性を有する商品であれば、当該二つの分類に属する商品について登録商標が使用されているものと扱って差し支えないというべきである」と説示されているとおりであり、本件カレンダーは、他の商品又は役務にも使用されていると認識されることがあるとしても、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」の範ちゅうに属する使用と判断されるべきである。
ウ 本件商標の今後の使用予定
上述したように、被請求人は、本件商標について、被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」が今後優勝した場合においても、本件商標をその指定役務である「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供,娯楽情報の提供」のほか、パレード、所属選手によるバレーボール教室等で使用していくことを予定している。
(2)まとめ
以上のとおり、本件商標が要証期間に日本国内において被請求人により本件審判の請求に係る指定役務について使用されていたものとはいえないとする請求人の主張は、妥当ではない。
2 口頭審理陳述要領書
(1)特許庁の暫定的な見解に対して
特許庁による審理事項通知書中の「カ 使用役務について」によれば、被請求人が主張する役務は、具体的にどのような内容の役務を提供するものであるかが不明であるとのことである。
この点について、被請求人は、審判事件答弁書において、本件商標が、被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」に係る興行に関する広告やこれらに関する情報の提供について使用されている旨説明したが、被請求人は、当該バレーボールチームの運営に加えて、同チームが出場する「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」を行っているため、その事実について、新たな証拠を提出し、説明する。
ア 指定役務「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」を現実に行っていることについて
被請求人が運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」は、日本のバレーボール競技のトップリーグであるV・プレミアリーグに所属するバレーボールチームであるところ(乙17)、V・プレミアリーグの大会運営は、被請求人が作成したV・プレミアリーグの運営主体の概要(乙18)に示すとおり、次のように構成されている。
(ア)V・プレミアリーグは、Vリーグ機構により主催されているところ(Vリーグ機構定款(以下「定款」という。)第4条)(乙19)、所属するバレーボールチームの運営団体がVリーグ機構の社員として入社し、当該機構の構成員となり、V・プレミアリーグに参加している(定款第9条、Vリーグ機構オフィシャルサイト、規約第9条)(乙19?乙21)。
(イ)Vリーグ機構に所属するチーム(ここでいうチームとは、チームの運営団体をいう:定款第9条)(乙19)は、特定の市区町村を活動拠点「ホームタウン」として定めなければならず(規約第13条)(乙21)、Vリーグ機構では、当該「ホームタウン」で開催するゲームを「ホームゲーム」という。そして、チームは、この「ホームゲーム」について「主体性を持って、開催地都道府県バレーボール協会と連携・協力して、ホームゲームの企画・開催から事業収支までの総ての運営」を「主管」することが定められている(Vリーグ機構大会運営マニュアル12-3)(乙22)。
ここで、「主管」とは、規約第22条(乙21)において、「その責任と費用負担において試合を実施・運営すること」と定められているところ、被請求人は、自らが運営するバレーボールチームである「久光製薬スプリングス」のホームタウンを「佐賀県鳥栖市」及び「兵庫県神戸市」と定め、「ホームゲームの企画・開催から事業収支までの総ての運営」を「主管」している(乙23?乙31、乙33、乙35?乙38)。
(ウ)「興行」とは、大辞林第二版(乙32)によれば、「入場料を取って公開する芸能・スポーツ・見世物などの催し。また、その催しを行うこと。」と定義されるところ、上記V・プレミアリーグのバレーボール大会は、日本最大級の販売チケットサイトであるチケットぴあにより、そのチケットが販売されている(乙33)ことからも、入場料を取って公開するスポーツの催しであることが明らかである。
してみれば、「久光製薬スプリングス」の運営団体である被請求人は、「自己の責任と費用負担においてバレーボールの試合を実施・運営」しているから、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」を行っているものである。
(エ)本件カレンダーは、被請求人が企画・運営・開催するバレーボールの興行に係る参加チームや試合結果を紹介しており、本件カレンダーは、それぞれ約2万6000部作製され、被請求人によって、被請求人のほとんどの取引先や関係者のほか、日本各地の体育館やゴルフ場等の運動施設に頒布されている。
したがって、本件カレンダー及びその記載内容は、被請求人の商品や役務を広く知らせるための広告であり、特に、本件カレンダーの末尾に添付された本件ポスターは、被請求人が企画・運営・開催するバレーボールの興行を広く知らせるための広告である。そして、本件商標は、被請求人が運営等するバレーボールの興行の開催とそれらの試合結果に併記して表示されている。
してみれば、本件商標の上記「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」の役務についての使用は、商標法第2条第3項第8号(役務に関する広告に標章を付して頒布等する行為)に該当する。
イ 指定役務「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」を現実に行っていることについて
(ア)自己の運営等に係る「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」を行っていることについて
被請求人は、自らがバレーボールの興行の企画・運営又は開催を行っているところ、本件カレンダーには、被請求人が企画・運営又は開催するバレーボール大会の試合結果に関する情報が記載されている。
そうすると、本件カレンダーは、被請求人が企画・運営又は開催するバレーボール大会の試合結果に関する情報を提供するに当たりその提供を受ける者が利用する物である。
したがって、本件商標の上記「(自らが興行する)バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」の役務についての使用は、商標法第2条第3項第3号(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)に標章を付する行為)に該当する。
(イ)他者が運営する「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」を行っていることについて
本件カレンダーには、被請求人の運営等に係るV・プレミアリーグのバレーボール大会のほか、国体、天皇杯・皇后杯等、被請求人以外の者が運営するバレーボールの興行の試合結果に関する情報も記載されている。
そうすると、本件カレンダーは、被請求人以外の者が運営するバレーボールの興行の運営等に関する情報を提供するに当たりその提供を受ける者が利用する物である。
したがって、本件商標の上記「(他者が興行する)バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」の役務についての使用は、商標法第2条第3項第3号(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。)に標章を付する行為)に該当する。
(2)審判事件弁駁書に対する反論
ア 請求人は、本件商標について、「公式戦5冠達成を示すために用いられている標章であり、本件役務を示す商標ではない」と主張する。
しかしながら、本件商標は、公式戦5冠達成を示すためだけに用いている標章ではなく、あらゆるバレーボール大会で優勝したときに用いる標章であり、バレーボール大会の試合結果に関する情報と併記して表示されるものである。
してみれば、本件商標は、被請求人の企画・運営・開催に係るバレーボールの興行の広告に使用されており、また、上述のバレーボール大会の試合結果等の情報を提供するに当たりその提供を受ける者が利用する物に使用されている。
イ 請求人は、「バレーボールチーム」という団体と「バレーボール」という競技とでは、概念が全く異なり、被請求人の当該主張は成り立たないと主張する。
しかしながら、上記(1)で述べたように、被請求人は、「バレーボールチーム」の運営のほか、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」も行っている。
したがって、請求人の当該主張は、失当である。
ウ 請求人は、本件カレンダーに係る「被請求人が運営するバレーボールチームの興行」の具体的内容は明らかではなく、当該カレンダーにおける本件商標の使用が、「被請求人が運営するバレーボールチームの興行の運営・開催等に関する情報の提供及び同チームの興行の運営・開催等に関する広告物」についての使用であることも認められないと主張する。
しかしながら、上記主張についても、上記(1)で述べた内容から、被請求人による本件商標の使用に係る役務が明らかになり、その使用に係る役務は、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に情報の提供(審決注:口頭審理陳述要領書記載のとおり。)」の範ちゅうの役務である。
3 上申書(平成29年12月11日付け)
(1)被請求人の主張の要旨
ア 被請求人は、Vリーグ機構の社員(構成員)として、V.プレミアリーグの運営等を行っており(乙19?乙21)、特に、V.プレミアリーグの試合の一部である「ホームゲーム」については、被請求人が主体となって運営等を行っている(乙22)。
また、本件カレンダーの末尾に添付された本件ポスターは、被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物である。
したがって、上記本件ポスターにおける本件商標の使用は、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」についての商標法第2条第3項第8号の「使用」に該当する。
イ 被請求人は、自らが運営するバレーボールの興行のほか、他人が運営するバレーボールの興行について、情報の提供を行っている。
また、本件カレンダーの末尾に添付された本件ポスターは、バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物である。
したがって、上記ポスターにおける本件商標の使用は、本件審判の請求に係る指定役務中、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」についての商標法第2条第3項第3号の「使用」に該当する。
(2)請求人の口頭審理陳述要領書に対する反論の要旨
ア 「『久光製薬スプリングス』以外のバレーボールチームは紹介されていない」との主張への反論要旨
興行の広告を行う際、リーグの全チームの紹介や試合結果等、興行の全体を広告する場合もあるが、一部のチーム、自らのチームのみを紹介する広告をする場合もある。広告の方法・記載内容に形や決まりはなく、広告の方法には様々な方法があるから、「久光製薬スプリングス」以外のチームの紹介は、興行の広告の必須条件ではない。
イ 「カレンダーに記載されている試合結果のいずれが『ホームゲーム』に当たるか不明である」との主張への反論要旨
「ホームゲーム」は、「V.プレミアリーグ」の試合の一部であって、ホームチームが主体となって運営等を行う試合(ゲーム)が「ホームゲーム」である。このことは、「ホームゲーム開催要項」(乙24、乙27、乙29)、「佐賀県バレーボール協会のホームページ」(乙25、乙28、乙30)及び「ホームゲームのポスター」(乙26、乙31、乙35?乙38)に、「V.プレミアリーグ」における久光製薬スプリングスの「ホームゲーム」の記載があることからも明らかである。
上記ポスターやホームページにおいて「V.プレミアリーグ」と「ホームゲーム」とが併記されていることから、需要者においても、「ホームページ」が「V.プレミアリーグ」の試合の一部であることが十分に認識されている。
ウ 「他人が業として提供し又は証明する『役務』について商標を使用したとしても、当該商標は、自己の役務を他の役務から識別する出所識別標識としての機能を有しないため、『商標の使用』に該当するものではない」との主張に対する反論要旨
被請求人は、自らバレーボールの興行の運営等を行っており、これに関する情報の提供を行っているから、この請求人の主張は、失当である。
また、「興行の運営等に関する情報の提供」における「興行」とは、興行主体が誰であるかは関係がない。他人が運営する興行の運営等に関する情報であったとしても、自らが行う役務「情報の提供」に当たり、商標を使用すれば、それは「商標の使用」に当たる。
エ 「本件商標は、飽くまで被請求人が運営するバレーボールチームである『久光製薬スプリングス』を示す商標であって、本件審判の請求に係る指定役務について使用される商標ではない」との主張に対する反論要旨
商標法第50条の取消審判は、登録商標をその指定商品又は指定役務について要証期間に使用しているか否かが要件であり、当該登録商標がどのような意味合いをもつかは関係ない。
そして、商標法第50条所定の「使用」が指定商品又は指定役務について何らかの態様で使用されていれば足りることは、最近の判例が示すとおりである(乙34)。
4 上申書(平成30年1月15日付け)
(1)証拠とその説明
被請求人は、本件カレンダーが、被請求人の依頼により作製され、頒布されたことを証明する証明書を乙第39号証として提出する。
乙第39号証は、被請求人の依頼により、本件カレンダーを作製し、頒布した日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社による「カレンダー作製・頒布証明書」であるところ、本件カレンダー1は、26,759部作製され、そのうち、ゴルフ場及び体育館4,163施設に2015年12月21日に頒布されたものであり、本件カレンダー2は、25,811部作製され、そのうち、ゴルフ場及び体育館4,134施設に2016年12月19日頒布されたものであって、具体的な頒布先の一部は、乙第39号証の末尾に示したとおりである。
また、上記ゴルフ場及び体育館に頒布された以外のカレンダーは、日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社から被請求人に納品され、被請求人が、直接取引先や関係先へ頒布した。
したがって、上記証明書により、本件カレンダーは、要証期間に作製され、頒布されたものであることが立証される。
(2)本件商標の使用が、商標法第2条第3項第3号及び同項第8号に該当することについて
本件カレンダーの末尾に添付された本件ポスターは、被請求人が運営するバレーボールの興行に係る広告物であり、被請求人は、これを頒布したから、本件商標の使用は、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」についての商標法第2条第3項第8号の「使用」に該当する。
また、被請求人は、自らが運営するバレーボールの興行のほか、他人が運営するバレーボールの興行について情報の提供を行っており、本件カレンダーの末尾に添付された本件ポスターは、頒布を介して、バレーボールの興行の運営等に関する情報の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物となっている。
したがって、本件商標の使用は、本件審判の請求に係る指定役務中の「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」についての商標法第2条第3項第3号の「使用」に該当する。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標は、要証期間に、本件審判の請求に係る指定役務について、本件商標の権利者である商標権者により使用された。

第4 当審の判断
1 被請求人である本件商標の権利者(以下「本件商標権者」という。)の主張及び同人が提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件商標権者は、自己の社内バレーボールチームとして「久光製薬スプリングス」を擁しており(乙1)、当該バレーボールチームは、「2012/2013シーズン」に行われた「第67回国民体育大会(ぎふ清流国体)」(2012年10月5日?8日)、「平成24年度 天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権大会」(2012年12月14日?24日)、「2012/13 V.プレミアリーグ」(2012年11月17日?2013年4月13日)、「2013 日韓 V.LEAGUE TOP MATCH」(2013年4月21日)及び「第62回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」(2013年5月1日?6日)の全てで優勝し、史上初の5冠を達成した(乙2?乙10、乙12、乙13、乙15、乙16)。
本件商標は、上記5冠を達成した際に、本件商標権者が創作したものとされ、2013年6月22日に佐賀県鳥栖市で行われた当該5冠に係る凱旋パレード及び報告会においては、のぼりや横断幕等に別掲2に示す標章(以下「使用標章」という。)が用いられ、また、同日に開催された佐賀県内の8中学校を対象とするバレーボール教室においても同様に、看板や横断幕に使用標章が用いられたことがうかがえる(乙2?乙4、乙7?乙9)。
(2)本件商標権者は、2013年6月に、本件商標の表示がされた「久光スプリングス」の戦績やチームメンバーの紹介等を内容とする「日本一から世界へ」と題する冊子を発行し(乙10)、現在も継続して配布している旨を主張するところ、当該冊子の表紙等に、「史上初!五冠達成」の文字とともに、使用標章が表示されていることは認められるものの、当該冊子が、その発行後に誰に、いつ、どのように配布されているかの詳細は明らかでない。
(3)本件商標権者は、平成17年8月6日にVリーグ機構へ社員として入社し、チーム名を「久光製薬スプリングス」、ロゴマークを別掲3のとおりの標章(以下「チームロゴマーク」という。)として、当該機構が運営するV.プレミアムリーグ女子の公式試合へ参加している(乙17、乙19?乙21)。そして、本件商標権者は、当該機構のチームとして、自己のホームタウンを「佐賀県鳥栖市」及び「兵庫県神戸市」と定め、ホームタウンにおいて開催されるホームゲームについては、開催地の都道府県バレーボール協会と連携、協力して、企画及び開催から事業収支までの全ての運営を主管したことがうかがえる(乙11、乙21?乙31)。
また、本件商標権者は、「久光製薬スプリングス」について、上記ホームゲームを含むV.プレミアムリーグ女子の試合日程やファンクラブの会員募集に関する記載等がされた2013/14シーズン(試合日程:2013年11月30日?2014年4月12日)公式ガイド(乙11)及び2016/17シーズン(試合日程:2016年10月29日?2017年3月18日)公式ガイド(乙23)や、当該ホームゲームであって、2014/15シーズンに兵庫県で開催されたもの(2015年1月17日及び18日)に係るポスター(乙35)及び佐賀県で開催されたもの(2015年1月31日及び2月1日)に係るポスター(乙31)、2015/16シーズンに兵庫県で開催されたもの(2016年1月16日及び17日)に係るポスター(乙36)及び佐賀県で開催されたもの(2015年10月24日及び25日)に係るポスター(乙37)並びに2016/17シーズンに兵庫県で開催されたもの(2017年1月14日及び15日)に係るポスター(乙26)及び佐賀県で開催されたもの(2016年12月10日及び11日)に係るポスター(乙38)を作製したことがうかがえるところ、これらにおいて、チームロゴマークは、全てについて使用されているが、使用標章は、2013/14シーズン公式ガイド(乙11)についてのみ使用されている。
なお、「久光製薬スプリングス」が参加する2017/18シーズンのV.プレミアムリーグ女子の試合のチケットがチケット販売を仲介するウェブサイト(チケットぴあ)(乙33)において取り扱われていることがうかがえるところ、そこでは、「久光製薬スプリングス」を表彰する標章として、チームロゴマークが使用されている。
(4)本件商標権者は、2015年末に本件カレンダー1を、2016年末に本件カレンダー2を、それぞれ、約26,000部作製して、全国の約4,100のゴルフ場及び体育館へ頒布するとともに、余部については、取引先等へ頒布したとされる(乙39)。
本件カレンダーには、本件商標権者がCMキャラクターに起用しているプロテニスプレイヤー及びプロゴルファー並びに「久光製薬スプリングス」の選手の写真が、本件商標権者の製造、販売に係る医薬品等の写真とともに掲載されているほか、その末尾には、「久光製薬スプリングス」のメンバー紹介及び年表が記載されたポスター様のものが添付されており、当該ポスター様のものにおいて、メンバー紹介の欄には、監督や各選手のプロフィールが顔写真とともに掲載され、かつ、チームロゴマークが表示されており、また、年表欄には、バレーボール部の創部(1948年)、「久光製薬スプリングス」のチーム名決定(1994年)に続けて、2001/02シーズンから2014/15シーズンまで(本件カレンダー2については、2015/16シーズンまで)の間の主な戦績が記載されている(乙15、乙16)。
そして、上記年表の欄中、2006/07シーズンには、「2006/07 V.プレミアリーグ女子」、「2007日韓V.LEAGUE TOP MATCH」及び「第56回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会」の全てで優勝したことを示すべく、戦績を表す文字と異なる金色の文字で「公式戦三冠を達成!」が記載されており、また、2012/2013シーズンには、上記(1)において述べた史上初の5冠を達成したことを示すべく、同様の金色の文字で「史上初の公式戦五冠を達成!」が記載され、かつ、その左側に使用標章が表示されている。
なお、本件商標権者は、本件商標について、公式戦5冠達成を示すためだけに用いている標章ではなく、あらゆるバレーボール大会で優勝したときに用いる標章である旨を主張するが、上記年表の欄の記載によれば、例えば、当該5冠を達成した2012/13シーズン後の2013/14シーズンにおける「2013/14 V.プレミアリーグ」や、2014/15シーズンにおける「平成26年度 天皇杯・皇后杯全日本バレーボール選手権大会」において、「久光製薬スプリングス」が優勝したことがうかがえるが、これらの優勝に当たり、本件商標が用いられたことを認めるに足る事実は見いだせない。
2 上記1において認定した事実によれば、本件商標の使用についての当審の判断は、以下のとおりである。
(1)本件商標権者が本件商標を使用しているとして提出した乙各号証においては、専ら使用標章が使用されており、本件商標と同一の商標の使用は見いだせない。
(2)本件商標権者は、自己の社内バレーボールチーム「久光製薬スプリングス」の5冠達成に関連して、2013年6月22日に佐賀県鳥栖市で開催されたバレーボール教室において、使用標章を使用したが、その使用は、要証期間外にされたものであり、また、同月に発行した冊子「日本一から世界へ」については、要証期間の使用標章の使用が不明である。
(3)本件商標権者は、「久光製薬スプリングス」をVリーグ機構が運営するV.プレミアムリーグ女子の公式試合へ参加させており、その試合日程に関する記載等がされた「久光製薬スプリングス」の公式ガイドを遅くとも2013/14シーズン以降に作製しているといえ、また、その試合のうち、ホームゲームについては、開催地の都道府県バレーボール協会と連携、協力して、その企画及び開催などといった運営を主管していて、そのホームゲーム開催に係るポスターを遅くとも2014/15シーズン以降に作製しているといえるものの、これらの公式ガイド及びポスターにおいては、「久光製薬スプリングス」を表彰する標章として、専らチームロゴマークが使用されており、また、使用標章が使用されている2013/14シーズンの公式ガイドは、その記載内容に照らせば、要証期間外のものである。
(4)本件商標権者は、要証期間に、使用標章の表示がある本件カレンダーを作製し、ゴルフ場及び体育館のほか、取引先等へ頒布したが、本件カレンダーは、その体裁及び内容によれば、本件商標権者の製造、販売に係る医薬品等を広告するとともに、本件商標権者が「久光製薬スプリングス」と称する女子バレーボールチームを擁していることを紹介するためのものとみるのが相当である。
すなわち、本件カレンダーは、そのカレンダー表示の一部において、「久光製薬スプリングス」の選手の写真が、本件商標権者の製造、販売に係る医薬品等の写真とともに掲載され、かつ、そのカレンダーの末尾に「久光製薬スプリングス」のメンバー紹介及び年表が掲載されたポスター様のものが添付されているものであり、当該ポスター様のものには、「久光製薬スプリングス」の監督や各選手のプロフィール並びに創部及びチーム名決定の時期や主な戦績についての記載があるにとどまることから、本件カレンダーに接する者は、その体裁及び内容から、本件商標権者が「久光製薬スプリングス」と称する女子バレーボールチームを擁しており、創部以後、近年において相当程度の戦績を挙げていることまでは看取、把握し得るといえるものの、それをもって、例えば、上記(3)において述べた本件商標権者の作製に係る公式ガイドやポスターのように、「バレーボールの興行の企画・運営又は開催」の役務についての広告物や「バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」の役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物として看取、把握し得るとはいい難い。
なお、上記ポスター様のものにおいては、チームロゴマークが「久光製薬スプリングス」を表彰する標章と認識され得る態様で用いられているほか、その年表の欄中に使用標章が表示されているが、その表示は、2012/13シーズンの戦績に関し、「史上初の公式戦五冠達成」の金色の文字とともになされている上、使用標章の構成中に「2012/13 SEASON」の文字が含まれていることに鑑みれば、使用標章は、「久光製薬スプリングス」が挙げた戦績のうち、「史上初の公式戦五冠達成」という特に優れたものであることを表彰する標章として看取、把握されるにとどまるとみるのが相当である。
3 まとめ
以上によれば、被請求人である本件商標権者は、要証期間に、第41類「バレーボールの興行の企画・運営又は開催,バレーボールの興行の企画・運営又は開催に関する情報の提供」について、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。以下同じ。)を使用したものと認めることができない。
その他、被請求人の主張及び同人提出に係る乙各号証を総合してみても、本件商標が、要証期間に、本件審判の請求に係る指定役務について使用されていたことを認めるに足る事実は見いだせない。
してみれば、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定役務についての本件商標の使用をしていることを証明していない。
また、被請求人は、本件審判の請求に係る指定役務について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、その指定役務中、「結論掲記の指定役務」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。。
別掲 別掲1
本件商標(色彩は原本参照。)



別掲2
使用標章(色彩は乙第15号証参照)



別掲3
チームロゴマーク(色彩は乙第15号証参照)




審理終結日 2018-09-05 
結審通知日 2018-09-10 
審決日 2018-09-26 
出願番号 商願2013-40810(T2013-40810) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 高橋 謙司 
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 中束 としえ
田中 敬規
登録日 2013-11-08 
登録番号 商標登録第5628687号(T5628687) 
商標の称呼 ヒサミツスプリングスチャンピオンズ、ヒサミツスプリングス、ヒサミツ、スプリングス、チャンピオンズ 
代理人 佐藤 英二 
代理人 工藤 莞司 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 黒川 朋也 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 

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