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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X22
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X22
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X22
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X22
管理番号 1345959 
審判番号 無効2016-890042 
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-07-06 
確定日 2018-10-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5478795号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5478795号商標(以下「本件商標」という。)は,「ハイパット」の片仮名及び「HIPAT」の欧文字を二段に横書きしてなり,平成23年9月22日に登録出願,第22類「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材,布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」を指定商品として,同24年1月23日に登録査定,同年3月16日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する商標は,商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」について使用する「ハイパット」の片仮名からなる標章(以下「引用商標」という。)である。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第94号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求理由
本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第7号又は同項第19号に該当するものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録は無効とすべきものである。
2 審判請求書における主張
(1) 商標法第4条第1項第10号について
ア 商標の類否について
本件商標は,「ハイパット」の片仮名と,「HIPAT」の欧文字とを二段に表してなり,一方,引用商標は,「ハイパット」の片仮名を横書きしてなるから,両商標は,「ハイパット」の称呼を生じる。
また,本件商標は,上下の文字列がそれぞれ一定の間隔をもって配置され,一部を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していないから,構成中,上段の「ハイパット」の文字を抽出して,引用商標と比較することは何ら不自然ではない。そして,本件商標の要部である「ハイパット」の文字部分と引用商標とは,外観において共通する。さらに,外観を共通にする以上,それらから生じる観念も共通のはずであるから,両商標は,観念も共通する。
なお,引用商標「ハイパット」は,請求人の主力商品であった卓上本棚の商標「ハイラック」と,あてぶとんを称呼するものとして当時引越・物流業界において認識されていた「パット」の文字とを結合した造語である(甲20,甲21)。
イ 商品の類否について
引用商標が使用される商品は,主に引越・物流業界で用いられる,包装用又は梱包用の「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」(以下「使用商品」という。)である(甲11?甲13他)。使用商品の用途は,引越時の家具等の梱包や包装,物流業における資材や荷物の梱包や包装等であり,その需要者は物流業者や引越業者であり,販売元は製造者自身,あるいは引越・物流用品の販売業者等である(甲8,甲13)。
そして,本件商標の指定商品中,「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材,布製包装用容器,わら製包装用容器」は,包装又は梱包を用途とし,需要者は,荷役作業の伴う物流業者や引越業者であり,販売元は,荷役作業用の包装用品又は梱包用品を取り扱う販売業者(引越用品販売業者を含む。)であって,上記商品と使用商品とは,商品の用途,需要者及び販売元が共通するから,同一又は類似の商品である。
また,本件商標のその他の指定商品についても,概して引越・物流関連用品であるから,使用商品とは需要者等が一致し,類似する。
詳述すれば,本件商標の指定商品中,「結束用ゴムバンド」及び「編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」は,資材や荷物等を結束するために引越・物流業界において日常的に用いられ,「日よけ」,「雨覆い,天幕,日覆い,よしず」は,資材や荷物,作業員への配慮の観点から,天候に応じて,引越・物流業界で用いられるものであるから,使用商品とは用途,需要者,販売元等が一致する。
さらに,「衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿」は,使用商品の中綿等の材料になるもの,あるいはそれを収納するカバー等であり,使用商品と取扱者等を共通にする。
なお,引越・物流業界においては,業者は,引越・物流関連商品のカタログ等を参考に商品を購入する慣習があるから,使用商品と他の引越・物流関連用品とを同列に観察すべきである(甲8,甲10?甲13)。
したがって,本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び要部の外観が共通する類似の商標であり,本件商標の指定商品と使用商品も同一又は類似である。
ウ 引用商標の周知性について
(ア)請求人による引用商標の使用経緯
引用商標は,請求人が使用商品について長年にわたり,継続的に使用した結果,本件商標の登録出願日及び登録査定日において,請求人の商品を示すものとして広く認識されていた。
請求人は,1966年(昭和41年)8月に設立された株式会社である(甲20)。請求人は,1969年(昭和44年)頃より,引越・物流業界で用いられるキルティング製のあてぶとんの製造販売を行っていたが,1982年(昭和57年)頃,創業者が,伸縮自在のゴム素材を内包させた使用商品を完成させ,使用商品について特許も取得した(甲23,以下「請求人特許」という。)。
請求人は,1984年(昭和59年)頃より,使用商品に引用商標を付し,引越・物流業者等に販売を行った(甲20)。なお,請求人は,引用商標について,1998年(平成10年)に登録出願を行い,商標登録第4289045号として登録を受けている(甲22,以下「旧登録商標」という。)。引用商標を付した使用商品は,業界で好評を博し,現在に至るまで請求人の主力商品となっている。
(イ)引用商標を付した使用商品の販売実績について
請求人は,1984年(昭和59年)頃から毎年,自社の商品カタログ等を作成し(甲2,甲11?甲13),全国の引越・物流業者等に対して,引用商標を付した使用商品の販売を行っている。2005年(平成17年)から2015年(平成27年)の規格品10種の総販売実績(個数)は,総数14万5339個,年平均で約1万3000個(少ない年でも7818個,多い年では1万9653個)を記録している(甲14)。
また,引用商標を付した使用商品は,株式会社サカイ引越センター,日本通運株式会社等の業界大手の引越会社に対しても長年納品され,使用されており(甲15,甲16,甲40),また,中小規模の引越業者等にも利用されている(甲19)。
さらに,請求人は,使用商品を販売店を介して間接的にも販売している。販売店は,これを請求人の商品として,引越・物流業者向けの商品カタログ等に掲載し,販売を行っている(甲8,甲17,甲18,甲35)。また,請求人は,使用商品の特注品についても引用商標を付して販売している。
(ウ)広告宣伝について
請求人は,定期的にちらし等を頒布することにより,引用商標及び使用商品の広告宣伝を行っている(甲5,甲7)。また,物流業界紙等において,引用商標を付した使用商品を写真入りで紹介している(甲4,甲9)。さらに,引越業界団体の会合においても広告宣伝を行っている(甲41)。
(エ)取引の実情について
引用商標に係る使用商品は,梱包用の保護緩衝材として使用されるものであり,一般消費者よりむしろ,引越・物流業界等の特定の業界において,1984年(昭和59年)頃から現在に至るまで,長年にわたり用いられてきた商品である。
(オ)独占排他的な使用による周知性の獲得について
請求人の旧登録商標の商標権が存続していた平成21年まで,使用商品を含む,指定商品「布製包装用容器」と同一又は類似の商品について,請求人のみが商標「ハイパット」を排他的に使用することができたのであるから,引用商標は,この間に,請求人の商標として,十分な周知性の獲得を行ったことが容易に推認される。
なお,請求人は,使用商品の素材を布からポリエステルに変更した際に,指定商品を「ポリエステル製の生地とポリエステル製の中綿とゴムとを重ね合わせてキルティング縫製して伸縮自在にした包装用又は梱包用の筒状又は袋状又はシート状の保護緩衝剤」等とする商標登録(登録第5755455号)を受けている(甲25)。
また,請求人特許は,1982年(昭和57年)に出願を行い,2001年(平成13年)2月7日まで存続していたから,この期間中,請求人以外の第三者は,商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」について製造することすらできなかった。
(カ)請求人の商標「ハイパット」に係る商標権の消滅の経緯
請求人の旧登録商標は,2009年(平成21年)7月2日に存続期間が満了し,やむを得ない事情により,更新されることなく消滅した。請求人は,旧登録商標に係る商標登録出願を弁理士に委任し(甲22),商標権の更新手続を含む登録後の商標管理も当該弁理士に委任していた。しかしながら,商標権消滅の直後,当該弁理士の弁理士登録は,弁理士法第8条第10号(破産者で復権を得ないもの)を理由として抹消されている(甲24)。すなわち,当該弁理士は,商標の更新時期には既に実務を行っていなかった可能性が高く,請求人は,当該弁理士から何らの連絡も受けることができず,これにより商標権が消滅した。
エ 小括
以上のとおり,長年にわたる販売の実績,広告宣伝,独占排他的使用の事実,取引の実情等から,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,特に,引越・物流業界の需要者・取引者の間に広く認識されている。そして,本件商標は,引用商標と類似するものであって,使用商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標について
上述のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る使用商品を示すものとして,特に,引越・物流業界の需要者・取引者に広く認識されていた。
イ 商品間の関連性について
既に述べたとおり,使用商品と本件商標の指定商品の一部は,その需要者等の一致から,明らかに同一又は類似の商品であり,これらの商品について本件商標が使用されれば出所について混同が生じる。また,本件商標のその他の指定商品についても,本件商標が使用されれば,狭義又は広義の出所の混同が生じることとなる。
請求人は,自社のカタログ等(甲2,甲11?甲13)からも明らかなとおり,キルティング製品のみならず,引越・物流用品全般も販売し,また,消耗品・設備品を広く紹介する業界カタログ等も顧客に頒布している(甲10)。さらに,既述のとおり,請求人の使用商品は,販売店により,業界慣習に合わせて他の商品と共に掲載され,販売されている(甲8,甲35)。これらの事実に鑑みれば,本件商標が付された商品に接した引越・物流業界の需要者・取引者は,引越・物流と広く関連する商品全般,又はそのような商品と共にカタログに掲載されている商品全般について,請求人,又は請求人と何らかの関係がある者の業務に係る商品であると混同するおそれがある。
ウ 小括
したがって,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,特に引越・物流業界等の需要者に,請求人もしくは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品と混同を生じさせる商標であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第7号について
ア 引用商標が周知著名であり,創造商標であること
上述のとおり,引用商標は,使用商品について使用する商標として,特に,引越・物流業界の需要者・取引者の間に広く知られた商標であって,請求人が考案した造語である。
イ 被請求人が引用商標を詳しく知っていたこと
請求人は,少なくとも本件商標の登録出願前である2007年(平成19年)頃より,引用商標が付された使用商品を,一販売店である株式会社オカバに継続的に納品し,同社は,使用商品を,請求人の商標「ハイパット」に相当する商品であることを明示して販売していた(甲26?甲35)。なお,株式会社オカバは,被請求人と役員を共通にする関連会社である。したがって,被請求人は,本件商標の出願日には,引用商標が使用商品に使用されていることを詳しく知っていたことは明らかである。
ウ 被請求人と請求人とのやり取りについて
被請求人は,請求人の旧登録商標消滅後の不登録期間1年満了からわずか約1年後,当時,株式会社オカバと請求人との取引が継続していたにもかかわらず(甲26?甲31),請求人に無断で本件商標の登録出願を行い,登録された(甲1)。請求人は,当該登録の事実を2年程して知った。
一方,2014年(平成26年)11月頃,請求人は,被請求人及び株式会社オカバの関連会社である株式会社オカバマネジメントより,使用商品の特注品の製造に関する話を持ちかけられた。
請求人は,株式会社オカバマネジメントに対し,仮にそのような特注品の販売を行うのであれば,独自の商標を使用することを要求するとともに,同社の代表者との面会を求めた。しかし,同社は,これに取り合わず,面会はかなわなかったどころか,その後のメールにて,独自商標の使用を拒否するのみならず,逆に,請求人に対し,被請求人との業務提携を含む対案を持ちかけた(甲39)。
請求人は,取引を継続することを希望していなかったが,本件商標権が行使されれば,約30年にわたる請求人の事業に支障が生じること,商品納入を一方的に停止すれば業界評が懸念されることから,一販売店として,株式会社オカバとの取引をなおも継続している(甲36?甲38)。
エ 小括
被請求人は,引用商標が周知であることについて,役員を共通にする関連会社を通じて詳しく知っていたにもかかわらず,請求人の旧登録商標が更新時期を逸して消滅したことを奇貨とし,剽窃的に本件商標を登録出願した。
したがって,本件商標は,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に該当するというべきであり,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号について
ア 日本における引用商標の周知の程度について
上述のとおり,引用商標は,請求人の業務に係る使用商品を表示するものとして,日本国内の需要者・取引者,特に,引越・物流業界の需要者・取引者の間に広く知られている。
そして,引用商標の需要者・取引者には,業界大手の引越会社が含まれており,それらの営業範囲は全国に及んでいることから,引用商標は,殊更,引越業界においては,単なる周知商標にとどまらず,著名商標であるといっても過言ではない。
不正の目的について
被請求人は,引用商標が広く知られていることについて,関連会社を通じて詳しく知っていたにもかかわらず,旧登録商標が更新時期を逸して消滅していたことを奇貨とし,剽窃的に本件商標を登録出願した。
さらに,被請求人は,請求人に対し,株式会社オカバマネジメントとの業務提携を行うべきこと,及び岡葉流通グループへの参加を視野に入れるべきことを内容とするメールを送付しているのであるから,本件商標は,被請求人が,請求人に対し,商標権の存在を背景に,現状のメーカーと一販売店との関係を超えた提携関係を強要する不正の目的(例えば,請求人の製造販売する高品質な商品の販売を独占することや,商品の流通経路を制御することにより利益を得る目的,又は岡葉流通グループからの資本受け入れを強要し,傘下とすることで,商品の製造販売を一手に制御する目的等)をもって使用するものと考えられる。
ウ 小括
本件商標は,他人の業務に係る商品を表示するものとして,日本国内における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用するものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
3 弁駁書,上申書及び審尋に対する回答書における主張
(1)「引用商標の周知性」について
ア 被請求人は,旧登録商標に係る商標の指定商品が「布製包装用容器」であったから,請求人が「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」について,引用商標を独占排他的に使用した事実はなかった旨主張する。
しかしながら,使用商品は発売当初から長期間布製であり,包装を用途とし,家具に被せる袋であるから,「布製包装用容器」に該当する。なお,第三者は,少なくとも「布製包装用容器」に類似する商品について商標「ハイパット」を付すことはできなかったから,一定の牽制効果があった。
イ 被請求人は,本件商標に関する使用例を提出しているが,いずれも本件商標の登録出願日後の証拠であるから,本件商標の周知性の判断に影響を与えるものではない。また,被請求人は,本件商標の登録査定日の前後から,資金力を背景として急激に「ハイパット」の広告宣伝活動を行っている。
ウ 被請求人は,梱包用キルティング材製保護材は多くの同業者が製造販売し,請求人が業界で独占的に販売するものではなく,また,「サカイ引越センター」及び「日本通運」には,引用商標が使用商品に使用されていることが認識されていたとしても,他の業界大手に販売,使用されてはいないから,引越業界において周知であるとはいえないと主張する。
しかしながら,他の業者は,梱包用キルティング材製保護材について,引用商標とは異なる独自の商標,又は一般的な名称を使用しているから,引用商標は請求人のみにより長年使用されているものである。
また,請求人は,上記2社以外にも,アート引越センター,ヤマト運輸及び名鉄運輸等の業界大手と取引がある(甲44,甲49,甲50)。なお,日本通運,サカイ引越センター,アートコーポレーション及びヤマト運輸(ヤマトホームコンビニエンス)は,4社で市場の7割程度を占める(甲68,甲69)。請求人は,引用商標が請求人の製造・販売に係る使用商品に使用されていることが,少なくとも本件商標の登録出願日前より,引越業者に認識されていたことを示す確認書を提出する(甲67)。
エ 引用商標の周知性を補強する事実
請求人は,年間発行部数30万部を超えるプロツールのベストセラーカタログ「ものづくり大辞典 オレンジブック」に,2008年度から現在まで,引用商標を付した使用商品を継続的に掲載している(甲10,甲58?甲66)。また,請求人は,自社の商品カタログを,本件商標の登録出願日前に継続的に発行しており(甲11?甲13,甲53?甲57),1993年(平成5年)作成の請求人の会社案内にも,取扱商品として,キルティング製の「ハイパット」が掲載されている(甲52)。そして,2004年6月の足立区発行の請求人の紹介記事(甲70)には,請求人の先代社長(創業者)により考案された使用商品が,引越業界のあらゆる規模の企業に採用されたことが記載されている。
また,請求人は,少なくとも1996年(平成8年)6月から1998年(平成10年)4月までの間,継続して業界紙に,引用商標に係る使用商品に関する広告宣伝を掲載しており,これにより,請求人の製造・販売する使用商品が引越業者の間で好評であること,使用商品に関する改良等について業界紙を通じて告知・宣伝されていること,業界において「ハイパット」といえば請求人の使用商品を示すものとの認識が存在すること,及び,使用商品製造のための新工場設立の際に特集記事も掲載されたこと等が確認される(甲79?甲86)。
(2)「不正の目的」について
被請求人は,請求人によりあたかも商標「ハイパット」に関する種々の許諾があったかのごとく説明しているが,この主張は到底受け入れることはできない。
被請求人との取引の経緯に関する請求人の理解は以下のとおりである。すなわち,請求人は,自らの有する工場の近隣にあった被請求人のグループ会社の運営する倉庫を2002年9月頃より利用することとなった。その後,被請求人のグループ会社から営業先の紹介を受けるようになり,当該顧客向けに,使用商品を含む商品の販売を行った。そして,被請求人が,被請求人を仲介した販売を希望したことにより,製造・販売会社と一販売店との関係に至ったものである(甲74)。
一方,請求人は,2011年3月頃,中国肥城の工場で使用商品の廉価版を試験的に製作したところ,顧客から一定の評価を得たため,2011年秋頃,同工場において廉価版の追加生産を行うことを検討した(甲76)。この頃,被請求人は,取引関係の中でこの追加生産の話を知得し,2011年11月10日付で,請求人に対して,追加生産の際に,廉価版と同様の仕様で,被請求人向けの商品も合わせて生産することを依頼した(甲76の2)。このとき被請求人は,商品のタグには「株式会社オカバ」の表示と共に「ハイパット」の標章を付すことを強く要求した。被請求人からの要求に対し,請求人は,善意を基本として,1)旧登録商標の商標権が消滅していた事実を知らなかったこと,2)当時既に30年以上,使用商品を販売し周知となっていたことから,今更他社が引用商標を奪うような行為をすることは想定し難かったこと,3)被請求人が当該依頼のおよそ1ヵ月半前に本件商標の登録出願を行った事実を把握していなかったこと,4)中国側への発注の最終期限が近づいており時間的余裕が少なかったこと等から,「株式会社オカバ」を製造元でなく販売元として表記し,あくまで当該廉価版の商品に限るという理解のもと,「ハイパット」の標章を付した当該タグでの生産に同意したものである。
したがって,被請求人は,「ハイパット」のタグを付した商品(乙12)を,あたかも2005年当時から被請求人が販売していたかのように主張するが,当該タグは2011年末製造の廉価版に付されたタグである(乙15)。また,請求人が被請求人による「ハイパット」の使用について,全面的に同意したかのような主張も,正しくは,当該廉価版の販売に関するものであるから,失当である。また,本件商標登録出願に関する請求人の同意の意思は皆無であるが,仮に何らかの同意があったとしても,未登録周知商標について,第三者の権利取得は許されない。
被請求人は,本件商標の登録出願・登録手続は,他者による不正な使用から自らの商圏を保護するためになしたもので,不当な利益の取得を意図したものではない旨,また,「特許電子図書館」では「ハイパット」が発見されなかったから,第三者に使用された場合に対抗可能な商標権が存しないとの判断の下で手続を進めた旨主張しているが,引用商標が業界において広く認識されていたことは被請求人も十分に理解していたはずであり,また,被請求人が他者の不正な使用から自らの商圏を保護しようとするなら,まずは請求人に相談を行い,その上で商標による保護を希望するのであれば,請求人に商標登録出願を依頼するのが誠実かつ唯一の方法であるにもかかわらず,被請求人は,請求人に相談を行わないばかりか,請求人と連絡を取り合う中でも,秘密裏に本件商標の登録を行ったから,このような商標登録は剽窃的な権利取得といわざるを得ない。また,「特許電子図書館」で該当する商標が発見されなかったことをもって出願登録手続を正当化することはできない。
4 むすび
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第7号,及び同項第19号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により無効とすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標の類否について
本件商標は,片仮名と欧文字の上下二段併記の態様であるのに対し,引用商標は片仮名のみであるから,外観上異なる。
また,本件商標は,英語「high quality」(高品質)と,「pad」(詰め物・当て物)の組合せである「ハイパッド」を言い易く転じて「ハイパット」とした造語であり,また英語「high」の略語としての「hi」と,パットの欧文字表記「pat」を組み合わせて「HIPAT」とした造語であり,高品質の当て物なる意味を有する(乙1)。これに対し引用商標は,その主張によれば,組立式立体本棚ハイラックと,あてぶとんの意味として認識されていた「パット」を組み合わせた創造商標であるとし,特別な意味合いはないとなれば,本件商標と引用商標に共通する観念は生じない。
したがって,称呼上共通する点はあっても,外観,観念においては,これを凌駕する相違があるから,両商標は類似しない。
2 商品の類否
使用商品である「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」は,その商品名から推測するに「ふとん/布団」であり,現在の商品・役務区分における第24類「布団」の概念に属するものである。
これに対し,本件商標の指定商品中「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」は,搬送時における包装用又は梱包用の布製緩衝材であるから,寝具類の概念である布団に存するものではないが,各甲号証を参照すると,引用商標が「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」として,本件商標における上記指定商品と同様な用途で使用されている例があるから,その意味で同一又は類似商品であると考えられる。
また,本件商標のその他の指定商品は,使用商品である「梱包用キルティング材製保護材」とは,生産部門,販売部門,原材料及び品質,用途,需要者の範囲,完成品と部品との関係等のいずれにおいても共通しないから,総合的に考慮しても類似しない商品である。また,類似商品・役務審査基準においても類似の商品とされていない。
3 引用商標の周知性
請求人の証拠方法(甲2,甲4,甲20等)を検討するに,引用商標がその使用商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」に1984年(昭和59年)頃から使用されていたとしても,本件商標の登録出願日以前に周知ではなく,また本件商標の登録出願日以後の使用事実は採用できない。
請求人は,旧登録商標及び請求人特許を所有することで,独占排他的使用によって周知性を獲得したとしている。しかし,旧登録商標は,指定商品が布製包装用容器であり,請求人の使用に係る「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」とは同一又は類似の商品ではないから,使用商標の保護の観点からは全く意味がない。また,更新したとしても使用商品について有効に保護し得ないし,また,布製包装用容器に使用もされていないから,第三者による不使用商標取消審判の請求があれば取消しを免れなかったことは明らかである。なお,旧登録商標と新規の登録商標第5755455号とは態様が同一であっても,互いに無関係な異なる商標である。
なお,旧登録商標の更新手続ができなかった事情として代理人の弁理士登録抹消を理由とするも,自己の商標等の知的財産の管理は,本来,自己の責任においてなされるものであるから,請求人の主張は責任転嫁である。
また,請求人特許については,請求人の使用商品は,当該特許請求の範囲中の必須の構成要件(締着ベルト)を備えていないから,他社の同様な製品を排除するのはほとんど不可能であったことは明らかである。
4 商標法第4条第1項第10号について
本件商標と引用商標とが同一又は類似であるとしても,また,本件商標の指定商品中の「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」と,引用商標の使用商品である「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」とが同一又は類似であるとしても,本件商標の登録出願時において,引用商標が使用されていることは明らかであるが,広く知られているとはいえない。
なお,請求人は,「サカイ引越センター」,「日本通運」等の引越業界大手の業者に販売されていることで周知であると主張しているが,上記2社内では引用商標が認識されていると思われるものの,引用商標はその他の大手業者に販売,使用されてはいない。また,引越業務に携わることができる一般自動車運送事業者数は全国で5万7600者(2011年当時),引越業務に携わる業者は全国で約4136社,全国引越専門協同組合連合会の組合員会社数は175社,全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会の組合員数は約1万名いるところ(乙21),これらの引越業界の多くにまで全国的に周知であるとはいえない。
そして,この種の商品である梱包用キルティング材製保護材は被請求人を含め,数多くの業者が製造販売している(乙2?乙7)。しかも,請求人も,古くから同業者のこの種の商品の梱包用キルティング材製保護材の存在を認めており,業界で独占的に販売するものではないから,請求人が,引越業界の大手2社に販売することのみをもって,引用商標が引越業界において広く認識されているとはいえない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第15号について
引用商標が使用商品に使用されているとしても,本件商標の登録出願時において周知・著名ではないから,本件商標の指定商品のいずれに引用商標が使用されても,狭義あるいは広義の意味でも,出所の混同を生じない。
なお,本件商標の指定商品中の「布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」は,本件商標の指定商品中の「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」とは,商品の性格が全く異なり,商品相互間では通常の流通形態が懸絶しているから,類似しない商品である。したがって,引用商標が周知であったとしても,その商品の類似範囲を超えてまで著名でもないから,これらの商品に引用商標が使用されたとしても出所の混同は生じない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は,「ハイパット」の片仮名及び「HIPAT」の欧文字からなり,前述のとおり,「high quality」と「pad」との組合せから転じ,また,その欧文字を当てた「HIPAT」からなる造語であり,その意味合いは高品質の当て物を意味する。
したがって,その構成自体がきょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与える文字又は図形であったり,指定商品に使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反したり,他の法律によって使用等が禁止されていたり,特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反しているものではない。
また,本件商標の登録は,被請求人が自らこの種の梱包用キルティング材製保護材を販売するに際し,他者による不正な使用から自らの商圏を保護するためにしたものであり,不当な利益の取得を意図したものではない(乙18)。
被請求人は,以前から様々な梱包パットの名称を検討していた。その一例として,「エアーパット\AIRPAT」,「エコパット\ECOPAT」,「ニューパット\NEWPAT」等の被請求人の商標が,梱包材,保護材としての各種指定商品について登録されている。
また,これらの商標は,2012年から現在に至るまで,被請求人の取り扱いに係るこの種の梱包用キルティング材製保護材に付して使用され,販売されている(乙10,乙11,乙13)。なお,商品の製造・販売等は,被請求人のグループ会社である株式会社オカバ,あるいは株式会社オカバマネジメントが担当している。
ただ,被請求人がこの種の梱包用キルティング材製保護材製品の取り扱いを開始したのは,2005年頃に請求人から製造・販売等の相談を受けた際,被請求人の上記商品の企画開発についても請求人に相談をしたことによる。その当時,請求人は販路拡大を希望していたこともあり,いわゆるあてぶとんに,「ハイパット」のタグを,株式会社オカバの商品名として付して製造し,納入することで,被請求人による「ハイパット」の使用を承諾していた(乙12,乙15?乙17)。
請求人は,引用商標が創造商標であること,被請求人が引用商標を詳しく知っていたこと,被請求人と請求人とのやりとりにおいて公正な商標秩序を乱すような業務提携等の申し入れがあること,等によって,被請求人が剽窃的に本件商標権を取得したとする。
被請求人は,本件商標の登録出願に際し,「特許電子図書館」によって検索したが,請求人の商標「ハイパット」は発見されなかった。こうした状況から,本件商標が,被請求人が扱う商品について第三者に使用された場合,それに有効に対抗可能な商標権が存しないとの判断の下に,登録出願・登録手続を進めたものである。
この点に関し,請求人は,単に従前の旧登録商標が代理人事情によって更新手続を失念した,やむにやまれぬ事情があったとするが,責任転嫁にすぎない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
7 商標法第4条第1項第19号について
請求人は,引用商標の周知性,本件商標が「不正の目的」で登録出願されたことを主張するが,上記のように請求人がその保護を十分にしていなかったために,被請求人は自己の商圏の保護のために登録出願をしたのである。
また,上記したように引用商標は周知でもなく,創造商標であるとしても被請求人の意図する意味合いとは観念が異なり,請求人に対し不当な要求をする目的もない。
なお,被請求人が請求人に対し申し入れている業務提携等は,請求人に不当に不利益を与える意図はなく,両社の提携により共に利益となる方策を提案しているのである。
このように,被請求人は,不正な目的によって本件商標を得たものではなく,請求人に対して不当な要求しているのでもない。このことは,報告書(乙18)に記載のとおりである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
8 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第7号及び同項第19号に違反してされたものではない。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)請求人の主張及び提出した証拠によれば,以下のとおりである。
ア 引用商標の使用開始時期及び使用期間
請求人は,1966年(昭和41年)に設立されたキルティングの製造・加工メーカーであり,引用商標は,商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」(使用商品)に使用する商標である(甲20)。請求人は,1984年(昭和59年)以来,使用商品を製造し,引越業者及び運送業者に,梱包用品として販売している(甲20)。
イ 使用商品について
引用商標の使用商品である「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」は,主に引越業者が,搬送物の梱包のために使用する商品であることが認められる(甲53?甲57)。
ウ 使用数量
使用商品には,「規格品」と「特注品」の2種類があるところ,このうち10種の「規格品」については,2005年1月から本件商標の登録出願時である2011年9月までの販売実績(販売個数)は,約8万1000個であり,年間でみると,おおよそ1万個前後であることがうかがえる(甲14,甲90,甲91)。
また,「特注品」については,2005年12月には日通商事株式会社から計1万2000個の仮注文があったこと(甲43),2004年12月から翌年1月には,三井物産株式会社経由で,アート引越センターに計1671個出荷したこと(甲44),2009年1月には株式会社タナックスに620個納品したこと(甲48),また,本件商標登録後の実績ではあるが,2016年(平成28年)1月のサカイ引越センターへの販売実績(販売個数)については,約8500個であることがうかがえる(甲15)。
しかしながら,使用商品についての業界における具体的な市場占有率(シェア)は明らかにされていない。
そして,例えば甲第69号証によれば,引越業界における引越作業の取扱件数(平成27年度)について,サカイ引越センターが約80万件,日本通運が約50万件にのぼり,両者の推定マーケットシェアが併せて38%であることからすると,引越業界における引越作業の全体取扱件数は,年間300万件を優に超えるものと推定される。また,一般に,引越や物流の作業において家具等の搬送物を梱包する際には,使用商品のような梱包材のほかにも,プラスチック製の梱包材又は段ボール製の梱包材も普通に使用されるものである。
そうすると,上記の使用商品の販売個数は,引越業界における引越作業の取扱いに係る総件数からみれば,使用商品が繰り返し利用できる性質のものであることを考慮したとしても,直ちに多いものということはできない。
また,特注品について,引越業界の大手企業を含む取引先と,大口の取引がなされたことは見受けられるが,それぞれ単発の取引にとどまり,継続して取引されていた事実は見いだせない。
エ 広告宣伝
(ア)請求人は,引用商標を付した使用商品について,請求人発行の自社カタログ(1999年?2011年,甲11?甲13,甲53?甲57),業界カタログ(2008年?2011年発刊「モノづくり大辞典 オレンジブック」甲10,甲58?甲61),ちらし(甲5,甲7),業界紙(1977年「日刊物流ニッポン縮刷版」甲6,2005年3月25日「日刊運輸新聞」甲9),業界雑誌(1985年「トラック経営」甲4,1996年?1998年「引越情報」甲79?甲86),引越業界の大会において配布されたパンフレット(甲41)等において広告宣伝を行っている旨主張する。
しかしながら,これらの証拠においては,引用商標が使用商品とともに表示されていることは確認できるものの,自社カタログ,引越業界大会のパンフレット,ちらし,業界紙及び業界雑誌については,配布(発行)部数,配布先等が明らかでない。
また,業界カタログ「オレンジブック」については,例えば2013年版の同カタログには,20万を超える膨大な数の商品が掲載されている(甲62)ことからすれば,使用商品は,他の多数の商品の内のごく一部の商品にすぎない。
(イ)請求人は,引越業界大手の発行する冊子において,引用商標が使用商品とともに掲載されている旨主張し,冊子の発行者による,掲載商品が請求人の商品である旨の確認書を併せて提出している(甲16,甲40,甲77,甲78)。
これらの証拠においては,引用商標とともに使用商品とおぼしき写真が掲載されているものの,請求人に係る商品であることを確認することができず,また,冊子の発行者による確認書が提出されているとしても,当該冊子に接する需要者が,直ちに請求人に係る商品であると認識できるとはいい難い。
(ウ)その他,提出された証拠からは,引用商標について継続して広告宣伝された事実を見いだすことはできない。
したがって,これらの広告宣伝の証拠をもって,引用商標が本件商標の登録出願時及び登録査定時において,周知性を獲得していたということはできない。
オ 事業者の確認書
請求人は,引用商標が請求人に係る使用商品に使用されていることを,本件商標の登録出願日前から認識していた旨を示す,引越業者の確認書を提出する(甲67)。
しかしながら,当該確認書は,「私は,『ハイパット』というマークが,株式会社アサヒのキルティング製梱包用具について使用されているマークであると,平成23年9月22日以前より認識していた」等の同じ内容が印刷された書面に,確認者が署名・捺印する形式のものであって,確認者がいかなる具体的な事実をもって,上記確認内容について証することができたのか定かではなく,また,その内容を裏付ける客観的な資料も提出されていないから,当該確認書をもって,引用商標が,請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったことを認めることはできない。
(2)以上によれば,請求人は,本件商標の登録出願日以前から,請求人の業務に係る商品「伸縮自在なキルティング製あてぶとん」に引用商標を使用していたことは認められるものの,提出された各証拠によっては,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品であることを表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類否
本件商標は,上記第1のとおり,「ハイパット」の片仮名及び「HIPAT」の欧文字を二段に横書きしてなるところ,上段及び下段の両文字は辞書等に掲載がみられないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語とみるのが相当であり,かつ,上段の片仮名は,下段の欧文字の読みを特定したものといえることからすれば,本件商標は,「ハイパット」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
一方,引用商標は,上記第2のとおり,「ハイパット」の片仮名を書してなるところ,これより「ハイパット」の称呼を生じ,該文字は,辞書等に掲載がみられないものであるから,特定の観念を生じないものである。
本件商標と引用商標を比較するに,本件商標の構成中,上段に顕著に表された「ハイパット」の片仮名と引用商標とは,その文字構成を共通にするものであり,外観上近似した印象を与えるものである。また,両者はともに「ハイパット」の称呼を生じるものであり,ともに特定の観念を生じないものである。
してみれば,本件商標と引用商標とは,観念において比較できないとしても,外観において近似し,共通の称呼を生じるものであるから,これらを総合して判断すれば,両者は類似の商標である。
(2)商品の類否
請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,引用商標の使用商品である「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」は,主に引越業者が,搬送物の梱包のために使用する,生地をキルティング縫製した,伸縮自在の筒状の商品であることが認められる(甲53?甲57)。
そして,本件商標の請求に係る指定商品中「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」は,被請求人の提出に係る証拠によれば,引越業界において物品の搬送の際に用いられる,キルティング縫製された,伸縮自在な布製の筒状梱包用品であることが認められる(乙10,乙13)。
そうすると,両商品は,共に,引越業者が物品の搬送の際,搬送物の梱包のために用いる,キルティング縫製された生地からなる伸縮自在の商品であるから,商品の原材料及び品質,用途,需要者を共通にするものであり,同一又は類似の商品というのが相当である。
他方,本件商標の請求に係る指定商品中,上記以外の「布製包装用容器,わら製包装用容器,結束用ゴムバンド,日よけ,雨覆い,天幕,日覆い,よしず,衣服綿,ハンモック,布団袋,布団綿,編みひも,真田ひも,のり付けひも,よりひも,綱類」は,引越業界においてのみ用いられる商品ではなく,引用商標の使用商品とは,その品質,用途及び需要者が必ずしも一致しないものであるから,類似する商品ということはできない。
(3)引用商標の周知性
引用商標は,上記1のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の取扱いに係る商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていると認めることはできない。
(4)したがって,本件商標は,引用商標と類似し,かつ,請求に係る指定商品と引用商標の使用商品が同一又は類似する場合があるとしても,引用商標が周知性を有しないものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は,引用商標と類似するものであるとしても,上記1のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の取扱いに係る商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものであるから,被請求人がこれを,本件商標の請求に係る指定商品について使用しても,取引者・需要者において,その商品が請求人あるいは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものとはいえない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標は,上記2のとおり,引用商標と類似する商標であって,その指定商品中「荷役作業時の被搬送物を覆う被搬送用の包装又は梱包用の伸縮自在なシート状又は筒状の布製緩衝材」は,引用商標の指定商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」と類似するものである。
しかしながら,上記1のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることができない。
また,請求人が提出した証拠からは,被請求人が不正の目的で本件商標を使用するものと認めるに足る具体的事実は見いだすことができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。そして,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成14年(行ケ)第616号,平成19年(行ケ)第10391号)。
(2)これを本件についてみるに,請求人は,上記1のとおり,1966年(昭和41年)に設立されたキルティングの製造・加工メーカーであり,1984年(昭和59年)以来,使用商品を製造していること,請求人は,2007年(平成19年頃)から,被請求人の関連会社に対し,引用商標を付した使用商品を納品していたこと(甲26?甲35),上記2のとおり,本件商標と引用商標とが類似するものであることからすると,被請求人は,本件商標の登録出願前に引用商標の存在を知っており,その登録を受けた後も引き続き請求人から使用商品を納入していた状況がうかがえる。
しかしながら,上記1のとおり,引用商標が,請求人の業務に係る商品「伸縮自在なキルティング製の筒状あてぶとん」を表示するものとして,本件商標の登録出願時において,我が国における取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認められないものである。
また,請求人と被請求人の間で,あらかじめ,引用商標の使用に関し何らかの契約を締結していた事実も確認できない。
そして,被請求人が,本件商標登録後に,請求人に対して業務提携を提案するメールを送付したことは認められるものの,これをもって,具体的に,本件商標の取得を契機として,請求人との交渉の場において有利な立場に立つために利用したことを裏付ける証拠をあげているとまではいえない。加えて,請求人の主張及び甲第36号証ないし甲第38号証によれば,請求人は,上記のメールを受け取った後も,被請求人との取引を継続している。
なお,請求人は,旧登録商標が代理人事情によりやむを得ず更新を行うことができず,消滅したことを奇貨として,被請求人が剽窃的に本件商標を出願,登録した旨主張するが,本来,商標権の管理は自身で行うべきものであって,代理人事情をもってやむを得ないとするのは適当でなく,旧登録商標の消滅後も,改めて商標登録出願をする機会は十分にあったというべきであって,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき事情を見いだすこともできない。
(3)以上のことからすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するとはいえない。
してみると,被請求人が,引用商標と類似する本件商標の登録出願をし,登録を受ける行為が「公の秩序又は善良の風俗を害する」という公益に反する事情に該当するものということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,請求に係る指定商品について,商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号のいずれの規定にも違反してされたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-09-22 
結審通知日 2017-09-27 
審決日 2017-10-31 
出願番号 商願2011-68188(T2011-68188) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (X22)
T 1 11・ 25- Y (X22)
T 1 11・ 222- Y (X22)
T 1 11・ 271- Y (X22)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 野口 智代岩本 和雄 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 小林 裕子
平澤 芳行
登録日 2012-03-16 
登録番号 商標登録第5478795号(T5478795) 
商標の称呼 ハイパット、パット、ピイエイテイ 
代理人 飯塚 健 
代理人 飯塚 信市 
代理人 中村 政美 
代理人 原田 寛 

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