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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W12
審判 全部申立て  登録を維持 W12
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管理番号 1340385 
異議申立番号 異議2017-900293 
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2018-06-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-02 
確定日 2018-05-17 
異議申立件数
事件の表示 登録第5962270号商標の商標登録に対する登録異議の申立て(申立番号01及び02)について、次のとおり決定する。 
結論 登録第5962270号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5962270号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成28年12月8日に登録出願、第12類「自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,ベビーカー・乳母車並びにそれらの部品及び附属品,乗物用盗難警報器及びその他の乗物用盗難防止装置」を指定商品として、同29年6月23日に登録査定、同年7月7日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 登録異議申立人「ベントレー モータース リミテッド」(以下「申立人A」という。)の引用商標
申立人Aが、本件商標の登録異議の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するとして引用する商標は、以下の2件であり、いずれも登録商標として、現に有効に存続しているものである(以下、これらをまとめていうときは、「引用商標A」という。)。
(1)登録第1950255号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の態様 別掲2のとおり
指定商品 第7類、第9類、第11類、第12類及び第17類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(指定商品の書換登録 平成19年5月23日)
登録出願日 昭和59年4月25日
設定登録日 昭和62年4月30日
(2)登録第5680931号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の態様 別掲3のとおり
指定商品 第12類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
登録出願日 平成26年2月10日
設定登録日 平成26年6月27日
2 登録異議申立人「アストン マーチン ラゴンダ リミテッド」(以下「申立人B」という。)の引用商標
申立人Bが、本件商標の登録異議の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するとして引用する商標は、以下の6件であり、いずれも登録商標として、現に有効に存続しているものである(以下、これらをまとめていうときは、「引用商標B」という。)。
(1)登録第2016320号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の態様 別掲4
指定商品 第9類、第12類、第19類、第22類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(指定商品の書換登録 平成21年12月16日)
登録出願日 昭和59年2月17日
設定登録日 昭和63年1月26日
(2)国際登録第1143629号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の態様 別掲5のとおり
指定商品及び指定役務 第9類、第12類、第14類、第16類、第18類、第25類、第28類、第35類及び第37類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際登録日 2011年7月6日 現在、審査に継続中
(3)登録第5301711号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の態様 別掲6のとおり
指定商品及び指定役務 第3類、第6類から第9類まで、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類、第21類、第24類から第28類まで、第34類から第37類まで、第39類、第41類及び第43類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
登録出願日 平成21年3月2日
設定登録日 平成22年2月12日
(4)登録第2016321号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の態様 別掲7のとおり
指定商品 第9類、第12類、第19類及び第22類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品(指定商品の書換登録 平成21年12月16日)
登録出願日 昭和59年2月17日
設定登録日 昭和63年1月26日
(5)登録第5301712号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の態様 別掲8のとおり
指定商品及び指定役務 第3類、第6類から第9類まで、第12類、第14類、第16類、第18類、第20類、第21類、第24類から第28類まで、第34類から第37類まで、第39類、第41類及び第43類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
登録出願日 平成21年3月2日
設定登録日 平成22年2月12日
(6)国際登録第1266208号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の態様 別掲9のとおり
指定商品及び指定役務 第12類及び第37類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務
国際登録日 2014年7月22日 現在、審査に継続中

第3 登録異議の申立ての理由
1 申立人Aの申立ての理由(申立番号01)
申立人Aは、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号及び同第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号該当
ア 本件商標について
本件商標は、翼を模した図形であり、具体的には、(a)中央に「円形部」が設けられるとともに、(b)円形部の左右両側には翼が配され、(c)左右の各翼は、細長の羽が複数重なった「風切羽」と、風切羽上方中央寄りに設けられた帯状の「雨覆」と、中央に向かってS字状に湾曲する「羽基部」とから構成され、(d)円形部下方には短い羽が複数重なった「尾羽」が設けられていて、(e)各構成が結合することにより、上側外形線が直線状で、下側外形線が緩い円弧状の全体形状を有する翼図形となっている。
イ 引用商標Aについて
引用商標Aは、翼を模した図形であり、具体的には、(a)中央に「円形部」が設けられるとともに、(b)円形部の左右両側には翼が配され、(c)左右の各翼は、細長の羽が複数重なった「風切羽」と、風切羽上方中央寄りに設けられた帯状の「雨覆」と、中央に向かってS字状に湾曲する「羽基部」とから構成され、(d)円形部下方には短い羽が複数重なった「尾羽」が設けられていて、(e)各構成が結合することにより、上側外形線が直線状で、下側外形線が緩い円弧状の全体形状を有する翼図形となっている。
ウ 本件商標と引用商標Aの類否
本件商標と引用商標Aとを対比すると、本件商標と引用商標Aはいずれも翼を模した図形からなる点で共通する。加えて、直線状の上側外形線と緩い円弧状の下側外形線とからなる全体形状において共通するとともに、これを形成する(a)から(d)までのいずれの構成においても共通している。
「翼を模した図形」といっても、その表現・描写の仕方は無数にあるが(甲5)、多種多様な図形が存在する中、本件商標と引用商標Aとは、縦横比率において差異はあるが、その差はわずかにすぎず、全体形状及びその構成が偶然の一致ともいい難いほど酷似していることから、外観上全体として近似した印象を与える。
特に自動車やその他の乗物及びこれに関連する商品にあっては、商標の細部を間近から観察するというより、商品に付された図形商標の外形でもって商品の出所を認識する場面も多いことから、需要者が本件商標と引用商標Aのわずかな差異を認識することは非常に困難であり、本件商標と引用商標Aは、視覚を通じて認識する外観の全体的印象が極めて近似したものとして認識される。
また、本件商標と引用商標Aとは「翼」の観念を共通にする。
よって、本件商標と引用商標Aとは、観念上及び外観においても互いに類似する商標であり、その指定商品において、抵触するものである。
エ まとめ
以上のとおり、本件商標は、引用商標Aに類似するものであり、その指定商品・指定役務においても抵触するものであることから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第10号及び同法第4条第1項第15号該当
ア 引用商標Aが広く知れ渡っている事実
申立人Aは、1919年8月にロンドンに設立された自動車メーカーであり、1920年代から1930年代にかけてル・マン24時間レースで5回の優勝を飾った快挙を契機として、世界中で広く知られ、現在では、イギリス元首の公務専用車として使用される程の性能性・信頼性を備え、世界有数の高級車ブランドとなっている(甲6、甲8)。
日本自動車輸入組合のウェブサイト上に掲載された輸入車リストでも、ベントレー(BENTLEY)が、ドイツのBMWやAudi、イタリアのFerrari、スウェーデンのVOLVO等と同様、世界的有名自動車ブランドであることが容易に理解できる(甲9)。
そして、引用商標Aは、申立人Aのハウスマークでありエンブレムでもあり(甲7)、申立人Aの全ての自動車に使用され、他の高級車・自動車メーカー同様、申立人Aの自動車を示す商標として自動車の最も目立つ箇所に取り付けられて使用されている(甲10)。これにより、「引用商標Aのエンブレム=申立人Aの自動車」と直ちに認識できるほどに、引用商標Aは取引者・需要者において広く浸透するに至っている。
イ 本件商標と引用商標Aの類否
本件商標と引用商標Aとを対比すると、上記(1)ウのとおり、翼の全体形状及びこれを形成する各構成が酷似していることから、本件商標と引用商標Aとが類似することは明らかである。
よって、本件商標は、申立人Aの業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品又はこれに類似する商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
ウ 出所の混同
本件商標がその指定商品について使用された場合には、それがあたかも申立人Aに係る商品であると、もしくは、申立人Aと経済的・組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品であると、取引者・需要者において、誤認混同を生じる蓋然性が非常に高いものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 申立人Bの申立ての理由(申立番号02)
申立人Bは、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、本件商標登録出願日(平成28年12月8日)よりも前の商標登録出願にかかる、申立人B所有の商標に類似するものであり、本件商標の指定商品は、第12類の「自動車並びにその部品及び附属品等」であることから、英国の高級スポーツカーの製造者である申立人Bが所有する引用商標Bとも、その指定商品において抵触しているものである。
ア 本件商標と引用商標Bは外観類似である。
申立人B所有の引用商標Bは、その外観として両翼を広げた形状の標章を一貫して使用しており、アストンマーチンのウイングマークとして広く知られており、エジプトの黄金虫の仲間であってスカラベ(Scarab)の羽がモチーフのデザインである。引用商標Bにおける両翼を広げた形状の標章は、細部においては時代と共に形を変えてきているものの、印象的な複数の羽根若しくは羽根の区切り部分が中心から放射状に延長されており、最も上端部には標章の中心から両側にほぼ水平方向に延長される羽根の区分を有しており、その角度が下向きになるほど徐々に短くなるような複数の羽根の区分を有している。
標章の中心の位置には、「ASTON MARTIN」や「LAGONDA」のような社名の一部が文字で配置されることもあるが、最も特徴的な部分は羽根のモチーフであり、中心から放射状に延長され、水平方向に延長される羽根の区分は長く、垂直方向下向きに延長される羽根の区分は最も短く、その間は角度と共に徐々に長さが変化する羽根の区分を有する。水平方向に延長する羽根とその近辺の羽根の区分は、垂直方向下向きに延長される羽根の区分に比べて十分長い比率で形成され、全体的には片翼で11?13個程度の羽根の区分を平たい逆三角形の如き輪郭に収めるように構成している。
一方、本件商標は、その外観として、両翼を広げた形状であり、同じように水平方向の羽根の区分が長く、下向きとなるに従って徐々に短くなるような羽根の区分を有する。また、その羽根の区分の輪郭が形成する全体な形状は、片翼が13個の羽根の区分からなる平たい逆三角形の形状であり、個々の羽根の区分から受ける印象や全体の輪郭については、近似しているといわざるを得ず、対比観察により見比べてみて初めて微細な差異を認識する程度となっており、商標として使用した場合には十分に混同を生じるものと思慮する。
イ 指定商品の「自動車」については、特に短時間で遠目に把握される標章についての印象を十分に考慮すべきである。
指定商品との関係では、「自動車」であればカタログを見て販売や購入をするだけではなく、実際に公道上見かけたときに、その自動車の製造元を識別する際にも、エンブレムが機能することは良くあることである。例えば、すれ違いで見た場合に、どこのメーカーかを判断する際に、羽のマークなのか、牛のマークなのか、馬のマークなのかは、極めて重要なことであり、このすれ違いで見るような極めて短時間の識別形態では、本件商標の中心に存在すると思われるMや78、86の英数字などは識別力を発揮するようには全く機能せず、全体としての印象、しかも短時間で遠目に把握される印象が重要である。
一般に、エンブレムは自動車のフロントグリルの中央部分や、ボンネットの上端部、トランクリッドの中央部などに配置されることが多く、申立人Bの商標については、最新モデルではフロントグリルの上のボンネット最先端部に配置されている。
本件商標をそのような配置で自動車に使用した場合には、その中央部分のリーフかギヤのように見える部分は遠目では識別性がなく、全体としての羽根の印象が短時間で遠目に把握されるのであって、近似する外観を有するがゆえに、商標として使用した際には本件商標と引用商標Bの間で混同を生じることになる。
ウ 上述のように、指定商品として第12類の「自動車」について考えた場合には、その実情から、短時間で遠目に把握される標章についての印象を十分に考慮すべきであり、標章部分の些事に捉われずに、全体としての輪郭や特徴部分に重点があり、本件商標と引用商標Bは、共通して両翼を広げた略逆三角形の輪郭形状を有し、同様の羽根の区分を配列した商標であり、本件商標は引用商標Bと類似であり、商標法第4条第1項第11号により拒絶されるべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標Bは広く知られた商標である。
申立人Bは、英国の自動車製造会社であり、製品としての高級スポーツカーは英国のみならず日本を含めた全世界で販売されている。申立人Bの年間売り上げ高は、593.5ミリオンポンド(2016)(=約8,800億円)であり、従業員数は約1,850人であって、全世界には150以上の取引代理店が6つの大陸の50以上の国であり、世界的な自動車ブランドを形成している。申立人Bには、100年を越える沿革があり、その設立は1913年、ロバート・バムフォード(Robert Bamford)とライオネル・マーティン(Lionel Martin)がズボロフスキー伯爵の援助のもと「バムフォード・アンド・マーティン」社を設立したものが始まりとされ、英国バッキンガムシャーの村アストン・クリントン(Aston Clinton)で行われたレースで成功を収めたことから、アストンマーティンのブランド名が誕生した。特に申立人Bの名声を証拠付けるものとして、著名な映画007シリーズの主役ジェームズボンドが乗るボンドカーとして申立人Bのほとんどの主力車種が登場しており、申立人Bの活動は英国の自動車産業の一翼、更には英国の文化・歴史を担っているということができる。
申立人Bの沿革については、日本でも数多くの自動車関連書籍、雑誌などで紹介されており、インターネットにより閲覧可能なウェブサイトにも数多く紹介されている(甲8、甲9)。また、申立人Bは、グローバルウェブサイト(https://global.astonmartin.com/en-us)を有し、また申立人Bの沿革や歴史を紹介する動画(YouTube)がビデオ紹介ページ(http://www.astonmartin.com/en/live/videos)に数多く埋め込まれており、そのスクリーンショット画像(甲10)からも申立人Bが著名な英国の自動車メーカーであることが明白である。
一世紀以上の年月にわたって優れた自動車を生産し続けた申立人Bは、一貫してウイングバッチを使用してきており、多少の細部での変更はあるものの、第二次世界大戦前の1932年よりスカラベの羽がモチーフのデザインを採用し、現在に至っている(甲11)。すなわち、日本を代表するトヨタ自動車株式会社の設立(1937年)よりも5年早く、過去80年以上の年月にわたり、スカラベの羽がモチーフのデザインのバッチを使用し続けており、高級スポーツカー故にその台数は大衆車に比べて多くないものの、申立人Bの商標が広く知られていることは万人の周知の事実である。
イ 申立人Bのウイングバッチを取り込んだデザインの本件商標は、その細部で異なる部分があって仮に類似するとは断定できないとしても、自動車分野で使用する場合には出所の混同を生ずるおそれがある。
本件商標の指定商品は、自動車を含む商品群を指定するものであり、その標章部分は、申立人Bが長年にわたり使用し信用を蓄積させてきた商標に類似する羽根を伴っている。具体的には、羽部分の区分線の流れる方向が極めて類似しており、全体の輪郭も同じような形状であり、対比観察ではなく分離観察で、特に短時間で判断する場合には、区別がつかないということができ、本件商標を自動車に使用した場合には、申立人Bの商標と誤認する可能性が高く、出所の混同を生ずるおそれがある。
ウ 上述のように、申立人Bの引用商標Bは広く知られている商標であり、本件商標と引用商標Bは、共に両翼を広げた略逆三角形の輪郭形状を有し、同様の羽根の区分を配列している。したがって、本件商標を自動車に使用した場合には、申立人Bの商標と誤認する可能性が高く、出所の混同を生ずるおそれがあることから、商標法第4条第1項第15号により拒絶されるべきである。
(3)商標法第4条第1項第19号について
本件商標をその商標権者が使用することは、商標を媒介とした長年の使用による申立人Bの業務上の信用を毀損する行為である。
申立人Bの引用商標Bは、日本国内において全国的に知られており、あるいは英国を含む複数の国で著名な商標であることは前述のとおりである。また、スカラベの羽のモチーフのデザインが「構成上顕著な特徴」に該当する。具体的には、羽部分の区分線の流れる方向が極めて類似しており、全体の輪郭も同じような平たい逆三角形形状であることを再掲する。本件商標の商標権者は、遊技機メーカーと、ウルトラマンシリーズ等で知られた独立系映像製作会社と憶測されるが、自動車の製造や販売という意味での自動車産業に携わってきた実績は殆どないとものと推測され、申立人Bの自動車産業分野における業務上の信用が蓄積された商標に似たデザインを意図的に採用し、それを遊技機分野ではなく、自動車産業分野に使用するとは、申立人Bの引用商標Bの有する業務上の信用にただ乗りしようとする意図が推認されるといわざるを得ない。
このような商標による申立人Bの業務上の信用を毀損する行為は、商標登録という形で保護されるべきでなく、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、中央に二重の円図形を設け、該円図形の左右両側に、細長の羽根が複数重なった風切羽と、風切羽上方中央寄りに帯状の雨覆と、該円図形中央に向かってS字状に湾曲する翼上面と、該円図形下方に尾羽とおぼしき複数枚重なった短い羽根を配した構成からなり、全体として上側外形線が直線状で、下側外形線が円弧上の左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものである。
そして、中央の円図形は、その外側と内側の円の間に鎖状の模様施し、内側の円の中に数字の78及び86を付した勾玉状図形を太極図風に配してなるものであるところ、これらの構成要素は、それぞれがバランスよく結合しており、その構成全体がまとまりある一体のものとして認識されるとみるのが相当である。
また、本件商標は、特定の称呼や意味合いが生じるものとして一般に知られているような事情も認められない。
してみれば、本件商標は、円図形の左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものの、その構成全体及びその構成中の数字のいずれからも自他商品、役務の識別標識としての称呼及び観念は生じないものである。
(2)引用商標Aについて
引用商標1及び引用商標2は、別掲2及び別掲3のとおり、全体を灰色で着色したか否かの差異以外は、ほぼ同一図形であり、中央に円的な図形と、黒色の円図形の内側に白抜きで「B」の文字を配した部分の左右両側に、細長の羽根が複数重なった風切羽と、風切羽上方中央寄りに帯状の雨覆と、黒色の円図形中央に向かってS字状に湾曲する翼上面と、黒色の円図形下方に短い羽根が複数枚重なった尾羽を配した構成からなり、全体として、大きな円図形を背景とし、上側外形線の中央がやや円弧上で、下側外形線の中央が半円でその左右に円弧上に広げた羽及びその下方にやや円弧状に広げた尾羽をモチーフとする図形として看取され得るものである。
そして、これらの構成要素は、それぞれがバランスよく結合しており、その構成全体がまとまりある一体のものとして認識されるとみるのが相当である。
また、引用商標Aは、我が国においては、「英国製の高級車(メーカー)であるベントレーのエンブレム」として、少なくとも自動車に相当程度の関心がある者の間ではある程度知られている図形といい得るものである。
してみれば、引用商標Aは、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され、その構成全体及びその構成中の文字のいずれからも特定の称呼を生じず、「(英国製高級車(メーカ)としての)ベントレーのエンブレム」の観念を生じるものといえる。
(3)引用商標Bについて
ア 引用商標3は、別掲4のとおり、「ASTON MARTIN」の欧文字を配した横長長方形(以下「長方形図形」という。)と、これに接して上辺部を中程に凹部のある横直線、下辺部を下方に湾曲させた多角線とし、その内側に長方形図形に接するように下方に湾曲させた弧線を配し、かつ、長方形図形を中心に多数の細線を放射状に配した構成からなり、全体として、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものである。
そして、これらの構成要素は、それぞれがバランスよく結合しており、その構成全体がまとまりある一体のものとして認識されるとみるのが相当である。
また、引用商標3の構成中の「ASTON MARTIN」の欧文字は、我が国においては、「英国製の高級スポーツカー(メーカー)」として、少なくとも自動車に相当程度の関心がある者の間では知られているといい得るものである。
してみれば、引用商標3は、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され、その構成中の「ASTON MARTIN」の欧文字部分に相応して、「アストンマーチン」の称呼及び「(英国製の高級スポーツカー(メーカー)としての)アストンマーチンのエンブレム」の観念を生じるものである。
イ 引用商標4は、別掲5のとおり、引用商標3とは、「ASTON MARTIN」の文字の有無の差異以外は、ほぼ同一図形であるから、引用商標4は、引用商標3と同様に全体として、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものである。
してみれば、引用商標4は、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものの、その構成全体から特定の称呼及び観念は生じないものといえる。
ウ 引用商標5は、別掲6のとおり、上辺部を中程に円弧上のある横直線で左右の先端部が突起状になり、下辺部を下方に湾曲させた多角線とし、かつ、その内側に多数の細線を表した構成からなり、全体として、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものであって、さらに、該図形の内側中央部の上辺に近接する位置に白抜きで「LAGONDA」の欧文字を配した黒色の横長長方形状に楕円形を組み合わせた図形を結合してなるものである。
そして、これらの構成要素は、それぞれがバランス良くに結合しており、その構成全体がまとまりある一体のものとして認識されるとみるのが相当である。
してみれば、引用商標5は、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され、その構成中の「LAGONDA」の欧文字部分に相応して、「ラゴンダ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
エ 引用商標6は、別掲7のとおり、引用商標5とは、放射状の線の数、中央部の「LAGONDA」の欧文字が黒字で書されている差異を有するものの、ほぼ同様の図形であることから、引用商標6は、引用商標5と同様に、全体として、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものである。
してみれば、引用商標6は、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され、その構成中の「LAGONDA」の欧文字部分に相応して、「ラゴンダ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
オ 引用商標7及び引用商標8は、別掲8及び別掲9のとおり、引用商標5とは、放射状の線の数、中央部の「LAGONDA」の欧文字の有無の差異を有するものの、ほぼ同様の図形であることから、全体として、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され得るものであ。
してみれば、引用商標7及び引用商標8は、左右に広げた羽をモチーフとする図形として看取され、その構成全体から特定の称呼及び観念は生じないものといえる。
(4)本件商標と引用商標Aとの類否
本件商標と引用商標Aとは、それぞれ上記(1)及び(2)において述べたとおりの構成態様からなるものであるところ、両商標は、その全体が左右に広げた羽をモチーフとする図形という点においては共通するものの、その構成中にある数字及び欧文字や該数字及び欧文字の周囲にある図形並びにその配置等において容易に区別し得る差異が存するものであるから、外観上、相紛れるおそれはない。
また、本件商標及び引用商標Aは特定の称呼を生じないものであるから、称呼において比較することができない。
さらに、本件商標は特定の観念を生じないものであるが、引用商標Aは「英国製高級車(メーカ)としての)ベントレーのエンブレム」の観念を生じるものであるから、観念上、相紛れるおそれはない。
これより、本件商標と引用商標Aとは、その外観、称呼及び観念を総合的に勘案すれば、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(5)本件商標と引用商標Bとの類否
ア 外観について
本件商標と引用商標Bとは、それぞれ上記(1)及び(3)において述べたとおりの構成態様からなるものであるところ、両商標は、その全体が左右に広げた羽をモチーフとする図形という点においては共通するものの、その構成中にある数字及び欧文字や該数字及び欧文字の周囲にある図形並びにその配置等において容易に区別し得る差異が存するものであるから、本件商標と引用商標Bとは、外観上、相紛れるおそれはない。
イ 称呼について
本件商標は特定の称呼を生じないのに対し、引用商標3、引用商標5及び引用商標6は「アストンマーチン」及び「ラゴンダ」の称呼を生じるものであるから、両商標は、称呼上、相紛れるおそれはない。
また、引用商標4、引用商標7及び引用商標8は、特定の称呼を生じないものであるから、称呼において比較することができない。
ウ 観念について
本件商標は特定の観念を生じることのないものであるのに対し、引用商標3は「(英国製高級スポーツカー(メーカー)としての)アストンマーチンのエンブレム」の観念を生じるものであるから、両商標は、観念上、相紛れるおそれはない。
また、引用商標4から引用商標8までは、特定の観念を生じないものであるから、観念において比較することができない。
エ これより、本件商標と引用商標Bとは、上記アないしウを総合的に勘案すれば、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(6)申立人Bの主張
申立人Bは、「指定商品『自動車』との関係では、カタログを見て販売や購入をするだけではなく、実際に公道上見かけたときに、その自動車の製造元を識別する際にも、エンブレムが機能することは良くあることであり、例えば、すれ違いで見るような極めて短時間の識別形態では、中央部分のリーフかギヤのように見える部分は遠目では識別性がなく、全体としての羽根の印象が短時間で遠目に把握されるのであって、近似する外観を有するが故に、商標として使用した際には本件商標と引用商標Bの間で混同を生じる。」旨を主張する。
しかしながら、商品「自動車」は、比較的高額な商品であること、申立人Bの同業他社である申立人Aの商標も羽根をモチーフとした図形が使用されていることが知られており、また、商品である「自動車」は、高額な商品であって、購入者の嗜好が強く求められるものであるから、その取引者、需要者は、商品の購入及び商品の出所の判断に際しては十分な注意力をもって取引にあたるというべきである。
そして、本件商標と引用商標Bとは、上記(5)のとおり、互いに非類似の商標である。
よって、申立人Bの上記主張は、採用することができない。
(7)小括
以上によれば、本件商標と引用商標A及び引用商標Bとは、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第10号及び同第15号該当性について
(1)引用商標Aの周知性について
申立人Aの提出に係る証拠及び主張によれば、以下の事実が認められる。
ア インターネットウェブサイトの、フリー百科事典「ウィキペディア」における「ベントレー」の記事中には、「ベントレーは、イギリスの高級車・スポーツメーカー、ブランドである。1998年以降はドイツ・フォルクスワーゲングループ傘下となり、同グループのフォルクスワーゲン部門に属する。」「1929年8月ウォルター・オーウェン・ベントレーによって、ベントレー・モーターズをロンドンのクリックルウッドに設立。」「2002年にエリザベス2世即位50周年祝賀記念としてベントレー・ステートリムジンがイギリス自動車業界より進呈され、以後エリザベス2世女王の公務専用車として使用されている。」との記載があり、「ベントレーのオーナメント」と題した写真には、車体に引用商標2の表示が確認できる(甲6)。
また、同ウェブサイトの「高級車」の記事中には、主な高級車ブランドとして、イギリスで「ロールスロイス」「ベントレー」「アストンマーチン」「ジャガー」等が挙げられている(甲8)。
イ 日本自動車輸入組合のウェブサイトには、ベントレーのエンブレムの由来として、「ベントレー社の創始者、ウォルター・オーウェン・ベントレーの頭文字Bに翼をあしらったエンブレムである『ウィンドB』は、1920年代から1930年代にかけて、ルマンレースにおいて5度の優勝という快挙をベントレーボーイズ達によって成し遂げて以来、高性能なオーナードライバーズカーの象徴として今も脈々と引き継がれています。」の記事と引用商標2の商標が表示されている(甲7)。
ウ 申立人Aのウェブサイトであるところ、引用商標2が申立人Aの業務に係る商品「自動車」のボンネット上のエンブレム、ハンドルのホーンボタン及びシート(座席)のヘッドレスト部分に表示されていることが確認できる。
エ 以上認定した事実によれば、引用商標2は、申立人Aが自社の製造・販売する自動車の商標として、1920年代から継続的に使用してきた結果、本件商標の登録出願時には、自動車業界の取引者のみならず、自動車に相当程度の関心がある需要者の間にある程度知られていたことが推認できる。
また、提出された証拠からは、引用商標1が、その指定商品について使用されている事実は確認できないことから、これが、需要者の間に申立人Aの業務に係る商品を表すものとして、広く認識されていたものとは認められない。
(2)引用商標Bの周知性について
申立人Bの提出に係る証拠び主張によれば、以下の事実が認められる。
ア 「アストンマーティン100年のヘリテージ」と題したインターネットのウェブサイトには、「昨2013年、ブランド誕生から100周年というメモリヤルイヤーを迎えたアストンマーティン。ライオネル・マーティンとその友人、ロバート・バムフォードの2人によってイギリスで創業したこの世界屈指のスポーツカーブランドは、今日も多くの自動車ファンを虜にする。」との記載、また、「レースに勝つことが最大の目的だった」として、「F1を始め、レースカーやスポーツカー作りにかけて、今も英国は世界のトップクラスに位置している。なかでも伝統的なスポーツカーメーカーといえば、1913年に創業した『アストンマーティン』だろう。レースが大好きな青年、ライオネル・マーティンと、友人のロバート・バムフォードが設立した会社で、アストンヒルという峠道でさかんにヒルクライムレースをおこなっていたため、社名もアストンマーティンとしたのだった。」と記載されている(甲8)。
また、「DICTIONARY」題したインターネットのウェブサイトには、「アストンマーティン」についてとして、「1913年、イギリスの小さな村・アストンでライオネル・マーティン含む数名の人物によって創業されたメーカー創業から現在に至るまで一貫して製造工程の大半を職人による手作業で行っている。現在はフォードの傘下。それ以前は大手自動車メーカーに属することはなく、数多くのオーナー間を転々とした時代もあった。映画『007』シリーズのボンドカーとしても有名。職人の手で作られるアストンマーティンのファンは長く大切に乗用する傾向にあり、旧車のレストアもメーカーが請け負い、維持を行う。そのため、販売した車の大半が実働可能な状態で現存している珍しいブランドである。生産台数が少なく、希少価値が高いことから、『DB6』『DBS』など、プレミアが付いている車種も多い。」との記載がある(甲9)。
イ 申立人Bのウェブサイトのスクリーンショットには、「Aston Martin-100Years of Power、Beauty、Soul」と題して、自動車と引用商標3の商標が表示されている(甲10)。
また、申立人Bの1921年以降の使用したエンブレムが表示され、1932年からは引用商標3とほぼ同じ態様のエンブレムが表示されている(甲11)。
ウ 以上認定した事実によれば、引用商標3は、申立人Bが自社の製造・販売する自動車の商標として、1932年以降、継続的に使用してきた結果、本件商標の登録出願時には、自動車業界の取引者のみならず、自動車に相当程度の関心のある需要者の間にある程度知られていたものと推認できる。
また、引用商標4から引用商標8までについては、提出された証拠からは、使用の事実が見当たらないことから、これらが、需要者の間に申立人Bの業務に係る商品を表すものとして、広く認識されていたものとは認められない。
(3)小括
引用商標2及び引用商標3は、本件商標の登録出願時において、それぞれ申立人A及び申立人Bの業務に係る商品「自動車」を表示する商標として、自動車の取引者、需要者の間にある程度知られていたと推認できるものである。
しかしながら、上記1のとおり、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは互いに紛れるおそれのない非類似の商標であって、十分に区別し得る別異の商標というべきものであり、ほかに商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとすべき特段の事情も見いだし得ない。
そして、引用商標1及び引用商標4から引用商標8までは、これらが需要者の間に、申立人A及び申立人Bの業務に係る商品を表すものとして、広く知られたものとは認められないものである。
してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。
また、本件商標をその指定商品について使用しても、これに接する取引者、需要者が、該商品について、申立人A及び同B又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
してみれば、本件商標は、同法第4条第1項第15号に該当するものではない。
3 商標法第4条第1項第19号該当性について
申立人Bは、本件商標と引用商標Bが類似することを前提に、本件商標が引用商標Bの有する周知・著名性に便乗し不正の利益を得る目的が認められる旨主張しているが、本件商標と引用商標Bとが非類似の商標である事は上記1(5)のとおりである。
そして、申立人Bが提出した甲各号証を総合してみても、本件商標権者が、申立人Bに係る引用商標Bの信用にただ乗り(フリーライド)する意図など、それらを毀損させるものというべき事実は見出し難いばかりでなく、他に、本件商標が不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって本件商標の使用をするものと認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標1)


別掲3(引用商標2)


別掲4(引用商標3)


別掲5(引用商標4)


別掲6(引用商標5)


別掲7(引用商標6)


別掲8(引用商標7)


別掲9(引用商標8)


異議決定日 2018-05-08 
出願番号 商願2016-138400(T2016-138400) 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W12)
T 1 651・ 262- Y (W12)
T 1 651・ 222- Y (W12)
T 1 651・ 271- Y (W12)
T 1 651・ 263- Y (W12)
T 1 651・ 25- Y (W12)
最終処分 維持  
前審関与審査官 内藤 順子 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
田中 幸一
登録日 2017-07-07 
登録番号 商標登録第5962270号(T5962270) 
権利者 フィールズ株式会社 株式会社円谷プロダクション
商標の称呼 エムシチジューハチハチジューロク、エムナナジューハチハチジューロク、エムシチハチハチロク、エムナナハチハチロク、エムシチジューハチ、エムナナジューハチ、エムシチハチ、エムナナハチ 
代理人 佐藤 勝 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 

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