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審決分類 |
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W43 |
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管理番号 | 1340339 |
審判番号 | 無効2017-890016 |
総通号数 | 222 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2018-06-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-02-28 |
確定日 | 2018-05-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5682558号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5682558号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成26年1月20日登録出願,同年5月30日に登録査定,第43類「飲食物の提供」を指定役務として,同年7月4日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録は無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第105号証を提出した。 1 はじめに (1)理由の要点 被請求人による本件商標の使用及び出願行為には,明らかに請求人の使用に係る商標に形成された信用や顧客吸引力を利用する目的があり,信義則に反するとともに公正な商取引秩序を乱すものであって,ひいては公の秩序を害するものである。 よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであり,同法第46条第1項第1号に基づき,その登録は無効とされるべきである。 (2)本案前における被請求人の主張について 請求人は,商標「Club ACQUA」に化体した業務上の信用を守るべく,商標出願を行うとともに(甲101),本件審判の請求前に,本件商標に対して,商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反して登録されたことを理由として無効審判(無効2015-890067号。以下「前事件」という。)を請求したが,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性が否定され,当該請求は成り立たない旨の審決がなされた(甲102)。 被請求人は,本件審判の請求は,前事件と同一の事実及び証拠に基づいて,請求人商標の周知性を主張してなされているものであるから,このような審判請求は,紛争の蒸し返しであって,訴訟経済に反することは明白であるから,商標法第56条第1項において準用する特許法第167条に規定により,成り立たない旨主張する。 しかしながら,前事件においては,本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反して登録されたことを主張したのに対し,本件審判においては,同項第7号に違反してされたことを主張しているのであって,両審判は,互いに異なる無効理由を主張しており,同一の無効理由に係る主張事実を指すものではない。 したがって,そもそも,両審判は同一の事実に基づくものではないから,被請求人の上記主張は失当である。 2 本件商標の登録出願前における請求人及び請求人商標について (1)請求人は,大阪市北区曽根崎に所在するホストクラブ「Club ACQUA」を経営する法人であって,「Club ACQUA」を立ち上げた芳晶せいじ氏(本名:池田正流氏。以下「芳晶氏」という。)が代表取締役である。 芳晶氏は,16歳でホストになり,20歳の時(平成9年)に大阪市都島区京橋にホストクラブ「Imitation Bar Pandemonium」をオープンした。平成10年3月に店名を「ACQUA」に変更,平成12年4月には店名を現在の「Club ACQUA」に変更した後,同年11月に現所在地に移転し,現在に至っている(甲3?9)。 請求人が使用している商標は,別掲2のとおり,左右対称になるように植物のつるをモチーフにした図形の間に,「Club」及び「ACQUA」(両端の「A」の文字は,「CQU」の文字の約2倍の高さで表されている。)の欧文字を上下二段に書した構成からなるもの(以下「請求人商標1」という。)と,「Club ACQUA」の欧文字を横書きした構成からなるもの(以下「請求人商標2」という。また,請求人商標1及び2をまとめていうときは,「請求人商標」という。)である(甲6)。 (2)「Club ACQUA」は,「笑いで女をキレイにする」という独特のコンセプトの下,楽しいトークで女性客の心をつかみ,関西No.1の規模と実力を誇るホストクラブにまで成長した。平成17年には,東京に進出し,歌舞伎町に「Club ACQUA」東京店をオープンし,東京・大阪合わせて約250人のホストが在籍する超人気店となり,また,「Club ACQUA」が成長していく過程で年収1億円を稼ぐカリスマホストとなった芳晶氏は,ホストクラブのほかに,大阪で炉端焼き屋を,東京でダイニングレストランを経営する青年実業家となった(甲7,8,10?14)。 (3)「Club ACQUA」の広告,宣伝については,テレビ,ラジオ,インターネット放送,インターネット動画共有サービスである「YouTube」,雑誌,新聞等のマスメディアを最大限に活用していることが挙げられる。芳晶氏はもとより,在籍するホストは,メディアからの出演要請,取材を積極的に受け入れ,バラエティー,ドラマ,CM,雑誌等に頻繁に登場していたほか,ホストクラブブームともあいまって,芳晶氏,「Club ACQUA」に在籍するホスト及び「Club ACQUA」を題材とした出版物,写真集,DVD,あるいは芳晶氏が著作した書籍は多数に上る(甲7,8,15?56)。 (4)また,平成18年には,業界ナンバーワンのホストクラブの経営者としてマスコミにも引っ張りだこの芳晶氏は,音楽グループ「ACQUA-E.P.」(正式名称:ACQUA Entertainment Project)を結成した。 当該音楽グループは,「Club ACQUA」のトップホスト8名から構成されたもので,そのデビューシングルは3万枚を売り上げ,オリコンシングルチャートに初登場で3位になった(甲57?64)。 (5)その他,「Club ACQUA」は,「Yukai Life」,「まんぞく関西」,「シティヘブン関西版」その他の関西圏の求人雑誌,風俗雑誌に継続して広告を掲載している(甲65?91)。 (6)上記したように,代表のカリスマホスト・芳晶氏を広告塔として,「Club ACQUA」は,関西のみならず東京のホストクラブの業界,需要者間において広く知られるに至り,更にマスメディアを通じて,全国的に一般大衆の間でも広く知られるに至っていたものである。 3 被請求人及び被請求人商標について (1)請求人は,平成17年11月に東京都新宿区歌舞伎町に「Club ACQUA」東京店をオープンしたが,東日本大震災の影響から,平成23年3月31日をもって同店を閉店した(甲8,92?94)。 (2)その後,「Club ACQUA」東京店でホストをしていた桐也けん氏(現在の渡辺けん氏)が,当時の従業員を集めて,請求人及び芳晶氏等には無断で,「Club ACQUA」という同じ名称のホストクラブを東京都新宿区歌舞伎町にオープンした。しかも,請求人商標と非常に紛らわしい本件商標を使用し,その上,「かつてホスト業界を震撼させた『ACQUA』が歌舞伎町に再降臨!!」のキャッチコピーを用いているほか,被請求人が経営する「Club ACQUA」の支配人である桐也かずや氏の平成27年1月17日のブログにおいては,「ACQUA復活」のタイトルの下,「皆様ACQUA復活だぞー」の記載があり,同じく被請求人が経営する「Club ACQUA」のスタッフであるMAX氏の同月25日のブログにおいては,「そうそうACQUA復活しまーす\(^O^)/え?ACQUA?そうです!あのホストCLUB ACQUAです」とコメントしているものであって(甲96?99),あたかも請求人が運営する「Club ACQUA」が歌舞伎町に復活したかのように欺いて営業していたものである。 (3)これに対し,被請求人は,「歌舞伎町に『Club ACQUA』が復活したことに嘘偽りはない。」及び「何人も欺くものではない。」と主張する。 しかしながら,(a) 「Club ACQUA」という同じ名称を用いて,(b) 請求人が使用していた商標と非常に紛らわしいロゴマーク(本件商標)を商標として使用し,(c) 同じ歌舞伎町に出店して,(d) 「かつてホスト業界を震撼させた『ACQUA』が歌舞伎町に再降臨!!」のキャッチコピーを用いれば,需要者は,請求人が歌舞伎町で経営していた「Club ACQUA」が復活し,同じサービスの提供が受けられるものと理解し,期待するのが自然である。ところが,実際には,請求人の経営する「Club ACQUA」の系列店ではなく,請求人が何らの関与もしていないホストクラブであるから,この点において,需要者を欺こうとしていることは明白である。 この点に関し,被請求人は,前事件において,本件商標の登録出願時及び登録査定時以降における請求人商標の周知性が認められていないことを理由に,被請求人の上記行為が,請求人と結び付いていたと認識されるものではない旨主張する。 しかしながら,請求人商標に周知性がなければ,需要者が,請求人が歌舞伎町で経営していた「Club ACQUA」と結び付けて認識することはない,と言い切れるものではない。一時期,隆盛を誇った請求人の「Club ACQUA」に化体した信用が,その東京店を閉鎖してから5年も経過していない間に,需要者の記憶から無くなるわけではなく,かつて同店でホストをしていた被請求人の代表者である渡辺けん(渡邊憲)氏(以下「渡辺氏」という。)がこの点について認識していたからこそ,「Club ACQUA」の再来を告げるキャッチコピーを用いて,自身が初めて出店するホストクラブを,請求人が経営していた「Club ACQUA」であるかのように需要者を欺き,請求人が経営していた「Club ACQUA」に化体していた信用にあやかろうとしていたことは明らかである。 特許庁の審決・異議決定においても,引用商標が商標法第4条第1項第10号に定める程の周知性を有していない場合であっても,同項第7号に違反して登録されたものと判断した事例(無効2011-890098号(甲104),平成10年異議第90668号(甲105))がある。 したがって,仮に,請求人商標が,商標法第4条第1項第10号に定める程の周知性を有していなかったとしても,直ちに,本件商標が同項第7号に該当しないということにはならない。 (4)渡辺氏が代表取締役社長を務める株式会社TSUMUGI CREATIVE JAPANが本件商標を登録していることも判明したことから,請求人は,渡辺氏に本件商標権の譲渡あるいは放棄について口頭で申入れを行い,話合いを持ったところ,渡辺氏からは,本件商標権を抹消登録すること,及び使用している商標を変更する旨の回答を得たが,その後,実行されることはなかった。 4 商標法第4条1項第7号該当性について (1)前事件の審決においては,請求人商標が,本件商標の登録出願時(平成26年1月20日)及び登録査定時(同年5月30日)において,請求人の業務に係る役務であることを表示するものとして,需要者の間に広く認識されているものとは認めらなかった。 しかしながら,芳晶氏及び請求人は,平成12年4月から現在に至るまで,約17年間もの長い間,請求人商標を継続して使用しているところ,東京・新宿の歌舞伎町においても,同17年から同23年までの約6年間にわたり請求人商標を使用していた。しかも,代表のカリスマホスト・芳晶氏を広告塔として,「Club ACQUA」は,平成19年をピークに,関西のみならず東京のホストクラブの業界,需要者間において広く知られるに至り,更にマスメディアを通じて,全国的に一般大衆の間でも広く知られるに至っていたものである。 「Club ACQUA」東京店でホストをしていた桐也けん氏(渡辺氏)は,当然ながら請求人が歌舞伎町で運営していた「Club ACQUA」の店名及びその周知性を認識していたのであり,その顧客吸引力を利用すべく,平成23年に閉店した請求人の「Club ACQUA」があった同じ歌舞伎町に,同じ「Club ACQUA」という店名のホストクラブを,請求人商標と非常に相紛らわしい商標を用いて設立したのである。 このことは,被請求人の「Club ACQUA」のホームページや,被請求人が経営する「Club ACQUA」の支配人である桐也かずや氏の平成27年1月17日のブログ,同じく被請求人が経営する「Club ACQUA」のスタッフであるMAX氏の同月25日のブログにおけるコメントからも明白である。 上記キャッチコピーは,平成26年及び同27年当時においても請求人商標の顧客吸引力,周知性が一定程度残存していたことを如実に物語るものである。 (2)請求人は,請求人商標をホストクラブ事業において約17年もの長い間使用しているものである。 他方,被請求人の使用に係る本件商標は,左右対称になるように植物のつるをモチーフにした図形の間に,「Club」及び「ACQUA」の欧文字を上下二段に横書きした構成からなるものである。 請求人商標1と本件商標は,共に,植物のつるをモチーフにした左右対称の図形を両端に配し,その間に,「Club」及び「ACQUA」の欧文字を上下二段に横書きした点で共通している。しかも,「ACQUA」の文字部分の両端の「A」の文字が,「CQU」の文字の約2倍の高さがあり,その高さに,上段の「Club」の文字の高さを併せている点においてさえ共通している。このことは,被請求人が,請求人商標を模倣していることの証である。 また,請求人商標と本件商標は,「クラブアクア」の称呼を共通にするものである。 そして,被請求人は,請求人の店舗が存在していた同じ歌舞伎町で,請求人と同じホストクラブの商標として本件商標を使用しているものである。 (3)商標法第4条第1項第7号の適用に関しては,「特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当すると解するのが相当である。」とされている(東京高裁平成16年(行ケ)第7号判決)。 上記したように,被請求人の行為には,明らかに請求人商標に形成された信用や顧客吸引力を利用する目的があり,信義則に反するとともに公正な商取引秩序を乱すものであって,ひいては公の秩序を害するものである。 (4)被請求人は,「請求人は請求人商標についての商標権を取得するための真摯な努力を怠っていたのであって,そうであるにもかかわらず,今更,被請求人の営業努力によって被請求人固有の業務上の信用が化体している本件商標の登録を無効にしようとする行為こそ,商道徳に反するものである」旨主張する。 しかしながら,被請求人は,自らが創作した商標を採択しようともせず,その代表者がホストとして勤務していた,請求人の経営に係るホストクラブと同じ店名,酷似したロゴマークを使用して同じ歌舞伎町にホストクラブを開き,しかも請求人が歌舞伎町で経営していたホストクラブ「Club ACQUA」の再来を告げるキャッチコピーを用いるといった行為からは,請求人の営業努力によって請求人商標に化体した業務上の信用を利用しようとする意図がくみ取れることはあっても,被請求人独自の営業努力といったものをくみ取ることはおよそできるものではない。むしろ,被請求人が本件商標を出願し商標権を取得した行為は,公正な商取引秩序を乱すおそれがあり,ひいては公の秩序を害するおそれがあるというべきである。 5 むすび 以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。 1 請求人の主張に対する認否及び被請求人の主張 (1)本件商標の登録出願前における請求人及び請求人商標について 請求人が,ホストクラブの店名を「ACQUA」に変更したのが平成10年3月という点,さらに,店名を「Club ACQUA」に変更したのが平成12年4月という点,及び「Club ACQUA」東京店閉店の真の理由が東日本大震災の影響であるという点は不知である。 請求人は,「Club ACQUA」が請求人の業務に係る役務を表示するものとして,需要者間において広く知られるに至り,全国的に,一般大衆の間でも広く知られるに至っていたと主張するが,これに対しては全面的に争う。請求人が過去に請求した本件商標の前事件で,被請求人が主張しているとおり,また,当該審決において判断されているとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性は,ない。 ところで,本件審判と前事件との証拠を比較すると,前事件で提出され,本件審判で提出されなかった証拠は,「商標審査基準の解説」(前事件の甲84)と,「被請求人が経営するホストクラブ『Club ACQUA』のウェブサイト」(前事件の甲85)だけであり,それ以外の証拠は,本件審判にも同一のものが提出されている。特に,「Club ACQUA」が請求人の業務に係る役務を表示するものとして周知であるとする請求人の主張に関する証拠は,甲第7ないし第91号証であり,前事件において,同請求人の同様の主張に関する提出証拠と完全に同一である。 前事件の審決では,甲第7ないし第91号証から,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性は認められないと判断され,当該審決は既に確定している(甲102)。 また,後述するように,請求人による,本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたとする主張は,請求人商標が周知であり,顧客吸引力があったという主張に基づくものである。 すなわち,請求人は,前事件と同一の事実及び証拠に基づいて,請求人商標の周知性を主張し,本件審判を請求しているのである。このような審判請求は,正に,商標法第56条第1項で準用する特許法第167条が防止しようとしている紛争の蒸し返しであって,訴訟経済に反することは明白であるから,成り立たないことは明らかである。 (2)被請求人及び被請求人商標について 請求人は,被請求人が「あたかも請求人が運営する『Club ACQUA』が歌舞伎町に復活したかのように欺いて営業していたものである。」と主張するが,争う。 「欺く」とは,うそを言って相手に本当だと思わせることをいうが,過去に「Club ACQUA」というホストクラブが歌舞伎町に存在し,それが閉店して数年後,「Club ACQUA」というホストクラブが開店したのであるから,まず,この点において,歌舞伎町に「Club ACQUA」が復活したということに嘘偽りはない。 また,請求人の主張は,「Club ACQUA」という商標が,請求人と結びついていたことを前提とし,それ故,被請求人が「Club ACQUA」という名のホストクラブを開店することが,その営業主体を請求人と偽るものであるという趣旨であると解される。 しかし,前事件においても判断されているとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性は認められず,その後の,被請求人のホストクラブ「Club ACQUA」の開店時(平成27年1月)においても請求人商標の周知性は認められないから,「Club ACQUA」という商標が,請求人と結びついていたと認識されるはずがなく,それ故,被請求人の行為が,何人かを「欺く」ものでないことは明らかである。 また,請求人は,被請求人から,本件商標の登録を抹消すること及び使用している商標を変更する旨の回答を得たと主張しているが,この点に関しては否認する。請求人と被請求人との間で話合いを持ったことは認めるが,合意に至らず,交渉は決裂した。 (3)商標法第4条第1項第7号該当性について 東京高裁平成16年(行ケ)第7号判決が判示しているとおり,「商標法第4条第1項第7号は,公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある商標は,商標登録を受けることができない旨規定しているところ,同規定の趣旨からすれば,・・・特定の商標の使用者と一定の取引関係その他特別の関係にある者が,その関係を通じて知り得た相手方使用の当該商標を剽窃したと認めるべき事情があるなど,当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,その商標登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合も,この規定に該当すると解するのが相当である」ということは認める。 しかしながら,東京高裁平成14年(行ケ)第616号判決は,「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には,その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし,同号が『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』として,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,及び,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。」と判示している。 すなわち,上記判決の趣旨に照らせば,「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合」の判断に当たっては,商標法第4条第1項第7号の解釈が不当に拡大されることがあってはならない。 また,商標法第4条第1項第7号は,同項第10号又は同項第19号のように,他人の商標の周知性を要する規定とは別個に設けられているのであるから,単に他人の商標の名声を冒用するに留まらない,著しい社会的不当性の存在が求められるのであり,かつ,同項第7号にいう公序良俗違反の事由は,公益的理由に基づくものであるから,当事者間の信義の問題を超えて,商標登録を対外的・画一的に無効にするほどの違法性が認められるか否かが重要視されなければならない。 上述のとおり,請求人商標の顧客吸引力が発揮される程度の周知性は,本件商標の登録出願時,登録査定時及びその後の被請求人のホストクラブ「Club ACQUA」の開店時においても認められないから,そもそも,冒用するに値する名声が存在せず,請求人商標の名声を被請求人が冒用しようとしたものではないことは明らかである。よって,他の事情を検討するまでもなく,本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反するものでないことは明白である。 なお,請求人は,被請求人のホームページにおけるキャッチコピー(「ACQUAが歌舞伎町に再降臨」等)が,請求人商標に周知性と顧客吸引力があったことの根拠であるとして主張している。しかし,証拠を伴わない推論にすぎず,キャッチコピーは,請求人商標に周知性と顧客吸引力があったことの直接的な証拠たり得ないため,請求人の主張が失当であることは明白である。 また,請求人は,本件商標の構成が請求人商標を模倣したものであるとか,「クラブアクア」の称呼を共通にするものであるとか,請求人の店舗が存在していた歌舞伎町において本件商標を使用していることとかを商標法第4条第1項第7号に違反する根拠として主張しているが,以下のとおり,どれも失当である。 商標法においては,上記判決も言及しているとおり,商標選択の自由を前提とした先願主義の原則が採用されている。 商標を選択するに当たり,他人の著作権等を侵害する場合は別として,どのような商標とするかは,自由である。この原則の下,被請求人は,自己のホストクラブの営業について,「Club ACQUA」の商標を安定して使用し得る地位を確保するための安全策として本件商標の登録出願をし,商標登録を得て,自己の業務に本件商標を現に使用しているのであって,この行為に著しい社会的不当性・違法性が認められるはずがない。また,歌舞伎町は,我が国で最大級の繁華街であり,ホストクラブも多く,出店場所として歌舞伎町を選択することに違法性があるはずがない。 一方で,請求人は,被請求人より早期に「Club ACQUA」の使用を開始したことや,請求人商標に周知性・顧客吸引力が認められると主張する。しかし,その商標についての商標権を取得するための真摯な努力を怠っていたのである。そうであるにもかかわらず,今更,被請求人の営業努力によって被請求人固有の業務上の信用が化体している本件商標の登録を無効にしようとする行為こそ,商道徳に反するものである。 ところで,先例を参酌すると,商標登録が商標法第4条第1項第7号に違反するものであるか否かを判断するに当たり,第1類型として,国際商道徳ないし信義に反するか否かを考慮したもの(東京高裁平成16年(行ケ)第219号判決,知財高裁平成17年(行ケ)第10668号判決),第2類型として,地方公共団体の施策等,公益的な施策に影響を与えるか否かを考慮したもの(東京高裁平成10年(行ケ)第18号判決,知財高裁平成26年(行ケ)第10247号判決),第3類型として,契約上その他の義務違反があるか否か,かつ,不当な利益を得る目的又は業務上の信用を横取りするなどの目的があるか否かを考慮したもの(知財高裁平成27年(行ケ)第10023号判決,知財高裁平成27年(行ケ)第10132号判決)がある。 本件商標が上記第1,第2類型に当たらないことは明らかであり,また,被請求人が本件商標を出願することに契約上その他の義務違反はなく,上述のとおり,本件商標の登録出願時,請求人商標に周知性があったとは認められないから,被請求人が何らかの不当な利益を得ようとし,あるいは,業務上の信用を横取りしようとした目的があるはずもなく,第3類型にも当たらない。 よって,先例に鑑みても,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものでないことは明らかである。 第5 当審の判断 1 本案前における被請求人の主張について (1)審決の確定効について 商標法第56条第1項が準用する特許法第167条は,「特許無効審判・・・の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨規定する。同条は,当事者(参加人を含む。)の提出に係る主張及び証拠等に基づいて判断をした審決が確定した場合には,当事者が同一事項に係る主張及び立証をすることにより,確定審決と矛盾する判断を求めることは許されず,また,審判体も確定審決と矛盾する判断をすることはできない旨を規定したものである。同条が設けられた趣旨は,(a)同一事項に係る主張及び証拠に基づく矛盾する複数の確定審決が発生することを防止すること,(b)無効審判請求等の濫用を防止すること,(c)権利者の被る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(d)紛争の一回的な解決を図ること等にあると解される。そうすると,無効審判請求においては,「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指すものと解するのが相当である(知財高裁平成25年(行ケ)第10226号平成26年3月13日判決)。 (2)被請求人は,既に確定している前事件の審決との関係から,本件審判の請求は,商標法第56条において準用する特許法第167条に規定により,成り立たない旨主張する。 しかしながら,前事件における無効理由は,本件商標が商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反してされた旨を主張するものであったのに対し,本件審判における無効理由は,同項第7号に違反してされた旨を主張するものであるから,同一の無効理由に係る主張事実に基づいて商標登録無効審判を請求したものでないことは明らかである。 したがって,本件審判の請求は,商標法第56条第1項で準用する特許法第167条の規定には該当しないから,被請求人の上記主張は採用できない。 そこで,本案に入り審理し,以下のとおり判断する。 2 請求人商標の周知性等について (1)証拠及び請求人の主張並びに職権調査によれば,以下の事実を認めることができる。 ア 請求人は,平成15年8月26日に,飲食店,バー,ナイトクラブ,ライブハウス及びパブの経営,その他の事業を目的として設立された会社であり,同18年3月23日に,大阪市北区曽根崎に所在する「Club ACQUA」の名称からなる社交飲食店として営業許可を受けた(甲3,4)。請求人の代表者である芳晶氏は,請求人会社を設立する前,遅くとも平成12年10月頃には,大阪市都島区東野田町でホストクラブ「クラブアクア」を経営し,その後,大阪市北区曽根崎(請求人が営業許可を受けた前記「Club ACQUA」の住所と同じである。)に移転し,遅くとも平成13年2月には店名を「Club ACQUA」として営業していた(甲40,65)。 イ 請求人は,平成17年11月,東京都新宿区歌舞伎町に「Club ACQUA」東京店を開店したが,平成23年3月,同店を閉店し,以降,請求人に係る「Club ACQUA」は,上記アの大阪店のみとなった(甲6,8,92,94)。 ウ 平成18年には,多くの雑誌などで請求人に係る「Club ACQUA」の店自体,あるいは同店のホスト及び芳晶氏に係る記事等で同店名が多数紹介された(甲18,22,24ほか)ものの,平成21年以降に同店に係る情報が新聞,雑誌等に掲載されたのは,平成23年までの3年間で従業員等の求人に関する広告9件(甲25?33)のみである。 エ 請求人の代表者である芳晶氏が著作した書籍「人とカネはこうして掴め! 夜王塾」(平成18年8月25日株式会社双葉社発行。甲7)及び「『一億欲しいか!』芳晶せいじの華麗な成り上がり人生」(平成18年4月10日辰巳出版株式会社発行。甲8)には,請求人に係る「Club ACQUA」に関する記載ないし写真において,請求人商標1(ただし,文字部分のみ)が使用された。 オ 請求人の代表者及び当時のホストらが,日本テレビ及びTBSテレビの番組等のメディアに取り上げられ,出演した。その際,請求人に係る「Club ACQUA」の店名も紹介された(推認されるものを含む。)が,その出演時期は,平成17年から平成19年までのものであり,平成18年が最も多い(甲43?56)。 カ 「ORICON STYLE」のウェブサイト(甲58)には,平成18年10月3日付けで「現役ホストグループ,AcQuA-E.P.がデビュー作で快挙!」の見出し下,「東京・大阪に店舗を構える日本No.1のホストクラブ『club AcquA』のトップホスト8名から構成されるバンド,AcQuA-E.P.のデビューシングル『禊-MISOGI-』が3.0万枚を売上げ,3位に初登場。」と記載がある。AcQuA-E.P.に関する記事は,雑誌「WHAT’s IN」(甲59?61)や同「ARENA37℃ SPECIAL」(甲62?64)にも掲載されたが,最新のもので平成19年9月の発行(甲64)である。 キ 請求人に係る「Club ACQUA」の従業員数は,大阪店及び東京店を併せて,平成19年1月頃に約250名(甲10)であり,平成19年6月頃は200名以上(甲85),平成20年7月頃は150名以上(甲91)及び平成21年4月頃は60名(甲25)であった。 ク 請求人商標2は,平成13年以降,店名として,求人広告などに継続して使用されていたこと(甲65ほか),請求人商標1も,平成22年3月以降,求人広告などに継続して使用されていたこと(甲27ほか)がうかがわれる。 ケ 請求人の店舗の売上額及び来店者数など具体的な営業実績を示す証拠の提出はなく,その主張もなされていない。 コ 請求人に係る「Club ACQUA」東京店でホストをしていた桐也けん氏(渡辺氏)は,自己が代表取締役を務める株式会社TSUMUGI CREATIVE JAPANの名義にて,上記第1のとおり,本件商標の商標登録を受けた後,請求人に係る「Club ACQUA」東京店の当時の従業員を集めて,平成27年1月,「Club ACQUA」という同じ名称のホストクラブを東京都新宿区歌舞伎町に開店し,本件商標を使用するとともに,「かつてホスト業界を震撼させた『ACQUA』が歌舞伎町に再降臨!!」のキャッチコピーを用いていたほか,同店舗の支配人である桐也かずや氏は,平成27年1月17日のブログにおいて,「ACQUA復活」のタイトルの下,「皆様ACQUA復活だぞー」と記載し,同じくスタッフであるMAX氏は,同月25日のブログにおいて,「そうそう来月ACQUA復活しまーす\(^O^)/え?!ACQUA?!そうです!あのホストCLUB ACQUAです」と記載した(甲95?100,請求人の主張,職権調査)。 サ 請求人は,本件商標に対して,商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反して登録されたことを理由として前事件を請求したが,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性が否定され,平成28年2月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決がなされ,同年4月4日,その審決は確定した(甲102,職権調査)。 (2)上記(1)認定の事実からすれば,請求人商標は,平成19年頃には請求人の業務に係るホストクラブの店名を表示するものとして,主に関西圏・関東圏を中心としたホストクラブの愛好者や興味のある者の間では,一定程度知られていたものと認めることができる。 しかしながら,平成21年以降の請求人商標に関する雑誌等への掲載状況は,上記(1)ウのとおり,従業員等の求人に係る広告9件が確認できるにとどまり,平成24年以降のものは見いだせない。 請求人の代表者及び当時のホストらのテレビ出演も,その出演時期が明確に特定できるのは,上記(1)オのとおり,平成17年から平成19年までの間であり,それ以降は見いだせない。 また,上記(1)カのとおり,請求人に係る「club AcquA」のトップホスト8名から構成される音楽グループ「AcQuA-E.P.」の情報についても,平成19年9月に発行された雑誌(甲64)以降の掲載は見いだせない。 さらに,請求人に係る「club AcquA」の従業員等の推移状況は,上記(1)キのとおりであって,年々減少傾向にあり,平成19年1月頃(約250名)に比べると,東京店を閉店する2年前である同21年4月頃(60名)であっても,その人数はおよそ4分の1以下に減っている。 加えて,請求人の営業実績(期間別の集客,売上,シェア等)を示す客観的な証左が確認できないことからすれば,請求人商標は,本件商標の登録出願時(平成26年1月20日)及び登録査定時(同年5月30日)において,請求人の業務に係るホストクラブの店名を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。 3 本件商標と請求人商標について (1)本件商標は,上記第1のとおり,左右対称になるように植物のつるをモチーフにした図形の間に,「Club」及び「ACQUA」の欧文字を上下二段に書してなるところ,その文字部分は,「ACQUA」の文字の両端の「A」の文字を他の文字の約2倍の高さに表し,その高さに合わせて「Club」の文字をまとまりよく中央に配した構成態様からなるものであるから,これより「クラブアクア」の称呼が生じるものである。 また,本件商標の文字部分のうち,「Club」の文字が「クラブ。同好会。ナイトクラブ。(会員制の)バー・娯楽場。」の意味を有する親しまれた英語(大修館書店発行「ジーニアス英和辞典第5版」,岩波書店発行「広辞苑第6版」)であるとしても,「ACQUA」の文字は,特定の意味を有する語として親しまれているものとは認められないから,文字部分全体から特定の観念は生じないというべきである。なお,本件商標の図形部分からも,特定の称呼及び観念は生じない。 (2)他方,請求人商標1は,別掲2のとおり,左右対称になるように植物のつるをモチーフにした図形の間に,「Club」及び「ACQUA」の欧文字を上下二段に書してなるところ,その文字部分は,「ACQUA」の文字の両端の「A」の文字を他の文字の約2倍の高さに表し,その高さに合わせて「Club」の文字をまとまりよく中央に配した構成態様からなるものであるから,これより「クラブアクア」の称呼が生じるものである。請求人商標1も,本件商標と同様の理由により,その文字部分全体から特定の観念は生じないというべきである。なお,請求人商標1の図形部分からも,特定の称呼及び観念は生じない。 また,請求人商標2は,「Club ACQUA」の欧文字からなるから,これより「クラブアクア」の称呼が生じるものである。請求人商標2も,本件商標と同様の理由により,特定の観念は生じないというべきである。 (3)そうすると,本件商標と請求人商標1は,共に,左右対称になるように植物のつるをモチーフにした図形の間に,「Club」及び「ACQUA」の欧文字を上下二段に書してなり,その文字部分も「ACQUA」の文字の両端の「A」の文字を他の文字の約2倍の高さに表し,その高さに合わせて「Club」の文字をまとまりよく中央に配するという全体的な構成としては,軌を一にするものであるから,植物のつるの描き方等に相違があるとしても,外観上の印象は,極めて類似するものと認められる。 本件商標と請求人商標2は,図形の有無や文字の配置等に差異を有することから,全体の外観は相違するものの,「Club」及び「ACQUA」の各文字部分については,つづりを共通にする。 本件商標と請求人商標は,いずれも「クラブアクア」の称呼が生じるから,称呼は同一である。 本件商標と請求人商標は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念については比較できない。 以上を総合して考察すれば,本件商標と請求人商標とは,相互に類似する商標であると認められる。 4 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には,その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし,同号が『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』として,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,及び,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである。」(東京高裁平成14年(行ケ)第616号同15年5月8日判決。乙1)。 (2)ア 上記2(1)ア及びイ認定の事実によれば,請求人の代表者である芳晶氏は,請求人会社を設立する前,遅くとも平成12年10月頃には,大阪市都島区東野田町でホストクラブ「クラブアクア」を経営し,その後,大阪市北区曽根崎に移転し,遅くとも同13年2月には店名を「Club ACQUA」として営業していたものであって,同18年3月23日に,請求人が同店の営業許可を受けたことから,同店の経営主体は請求人に変わったこと,さらに,平成17年11月に,東京都新宿区歌舞伎町に「Club ACQUA」東京店を開店したものの,平成23年3月に同店を閉店し,以降,上記大阪店のみを営業してきたことが認められる。 そうすると,請求人の代表者である芳晶氏及び請求人は,遅くとも平成13年2月以降,請求人商標2については自己の業務に使用していたものと推認できるから,本件商標の出願日(平成26年1月20日)に至るまでの約13年もの間,自らが請求人商標について商標登録出願する機会が十分あったにもかかわらず,長期間にわたり当該出願を怠っていたものであると,まずは指摘できる。 イ そして,上記2(2)認定のとおり,請求人商標は,本件商標の登録出願時(平成26年1月20日)及び登録査定時(同年5月30日)においては,請求人の業務に係るホストクラブの店名を表示するものとして,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができないものである。 ウ 以上のような状況の下,上記2(1)コ認定の事実によれば,請求人に係る「Club ACQUA」東京店でホストをしていた桐也けん氏(渡辺氏)は,自己が代表取締役を務める株式会社TSUMUGI CREATIVE JAPANの名義にて,本件商標の商標登録を受けた後,請求人に係る「Club ACQUA」東京店の当時の従業員を集めて,平成27年1月,「Club ACQUA」という同じ名称のホストクラブを東京都新宿区歌舞伎町に開店したのであるから,渡辺氏だけでなく,そのような従業員で構成される同店の広告等において,本件商標を使用するとともに,「かつてホスト業界を震撼させた『ACQUA』が歌舞伎町に再降臨!!」のキャッチコピーを用い,また,当時も従業員であった者がブログにおいてこれに類する宣伝行為をしたとしても,それだけでは,直ちに需要者も欺かれたとは思わないものと解される。 また,他に,被請求人が,本件商標と関連して,需要者に対し明らかに欺く行為をしたとか,請求人に係るホストクラブの営業を妨害し,金銭的要求をするなどの行為があったと認めるに足りる証拠もない。 なお,請求人に係る「Club ACQUA」の過去の一時期における現象を摘示したにすぎない当該行為をもって,本件商標の登録出願時及び登録査定時において請求人商標が周知性を有することが根拠付けられるものでもない。 エ さらに,上記2(1)サ認定のとおり,請求人は,本件商標に対して,商標法第4条第1項第10号及び同項第19号に違反して登録されたことを理由として前事件を請求したが,本件商標の登録出願時及び登録査定時における請求人商標の周知性が否定され,平成28年2月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」旨の審決がなされ,同年4月4日,その審決が確定しているものである。 オ もとより,本件商標は,その構成自体が矯激,卑わい,差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字及び図形からなるものではなく,また,本件商標をその指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し又は社会の一般的道徳観念に反するものでもない。 カ したがって,被請求人が本件商標を登録出願し商標権を取得した行為が著しく社会的妥当性を欠き,その登録を容認することが商標法の目的に反するということはできず,本件全証拠によっても本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する商標であったと評価すべき事情を認めることはできない。 5 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(請求人商標1) |
審理終結日 | 2018-03-08 |
結審通知日 | 2018-03-13 |
審決日 | 2018-03-30 |
出願番号 | 商願2014-6623(T2014-6623) |
審決分類 |
T
1
11・
22-
Y
(W43)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 日向野 浩志 |
特許庁審判長 |
田中 亨子 |
特許庁審判官 |
田村 正明 平澤 芳行 |
登録日 | 2014-07-04 |
登録番号 | 商標登録第5682558号(T5682558) |
商標の称呼 | クラブアクア、クラブアククア、アクア、アククア |
代理人 | 小出 俊實 |
代理人 | 吉田 親司 |
代理人 | 亀卦川 巧 |
代理人 | 木下 洋平 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 幡 茂良 |
代理人 | 橋本 良樹 |