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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効としない W25 審判 全部無効 称呼類似 無効としない W25 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W25 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W25 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W25 審判 全部無効 観念類似 無効としない W25 |
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管理番号 | 1338282 |
審判番号 | 無効2016-890079 |
総通号数 | 220 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2018-04-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-12-05 |
確定日 | 2018-02-13 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5517873号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5517873号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成からなり,平成24年3月12日に登録出願,同年8月3日に登録査定,第25類「被服,エプロン,靴下,手袋,ネクタイ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同年8月31日に設定登録されたものである。 第2 請求人が使用する標章及び引用商標 1 請求人が,商品「ティーシャツ」について使用する「Goodwear」の文字からなる標章(以下「使用標章」という。)。 2 登録第4660048号商標(以下「引用商標」という。)は,別掲2に示すとおりの構成からなり,平成14年3月8日に登録出願,第25類「米国製のスウェットパンツ,米国製のベスト,米国製のティーシャツ,米国製のスウェットシャツ,米国製のその他の被服,米国製のガーター,米国製の靴下止め,米国製のズボンつり,米国製のバンド,米国製のベルト,米国製の履物,米国製の仮装用衣服,米国製の運動用特殊衣服,米国製の運動用特殊靴」を指定商品として,同15年4月4日に設定登録され,同25年2月19日に商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第90号証を提出した。 1 請求の利益について 請求人は,日本で周知・著名な引用商標の保有者であるから,本件審判の請求をするにあたり,訴えの利益がある。 2 商標法第4条第1項第10号について 本件商標は,使用標章と類似し,指定商品は,使用標章が使用されている「ティーシャツ」に類似する。 使用標章は,「Good」と「wear」を結合した造語であり,本件商標の出願日前より,日本で周知・著名になっている。 本件商標は,「Goodwear」,「図形」から構成されているが,「Goodwear」の部分が大きく書されており,請求人の商標として周知・著名であるから,「Goodwear」の部分が要部になることは明らかである。 よって,本件商標と使用標章は,外観,観念,称呼,全体的印象が同じものであり,本件商標が指定商品に使用されると,商品の出所の混同の生ずる可能性は極めて高いので,両商標が類似することは明らかである。 本件商標の指定商品と使用標章の使用に係る商品「ティーシャツ」は,同一の営業主により製造又は販売されるものであるから,両商品が類似することは明らかである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。 3 商標法第4条第1項第11号について 引用商標の「Goodwear」は,「Good」と「wear」を結合した造語であり,本件商標の出願日前より,日本で周知著名になっている実情がある。 本件商標は,「Goodwear」,「図形」から構成されているが,「Goodwear」の部分が大きく書されており,請求人の商標として周知・著名であるから,「Goodwear」の部分が要部になることは明らかである。 よって,本件商標と引用商標は,外観,観念,称呼,全体的印象が同じものであり,本件商標が指定商品に使用されると,商品の出所の混同の生ずる可能性は極めて高いので,両商標が類似することは明らかである。 また,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は,同一又は類似であり,同一の営業主により製造又は販売されるものであるから,両商品が類似することは明らかである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。 4 商標法第4条第1項第15号について (1)申立人の概要 申立人は,米国において1983年に創立された会社であり,現在,マサチューセッツ州に本社がある(甲51)。 創業当時は,Reebok等他社ブランドの被服を製造していたが,1987年頃から使用標章からなるティーシャツの販売を開始し,1990年4月13日からは,日本の米国ブランドを扱う大手商社,康貿易商事株式会社(Yasu Corporation)を通じて,該ティーシャツを日本でも販売するようになった(甲62,甲63)。 なお,この点につき,被請求人は,請求人が米国登録商標の申請時に提出した書類(乙8)において,アパレルのファーストユースが1989年5月1日となっており,齟齬が生じる旨述べているが,当該書類には州債取引又は外国との取引の日付を書く必要があるため,上記の日付となっているが,実際のティーシャツの販売は1987年頃である。 また,被請求人は,上記米国登録商標は,コンセント制度を利用して登録されたものであって,先使用に基づくものではない旨述べているが,コンセント(同意書)は,似た商標があった場合,当事者の合意と混同の可能性がないとの審査官の判断により採用されるものであり,各商標の最先使用日の認定とは関係がない。 (2)使用標章の独創性 申立人のハウスマークである使用標章は,「Good」と「wear」をすき間なく結合した造語であり,辞書に掲載されていない語である。 (3)使用標章の周知・著名性,名声,顧客吸引力 1983年の創立以来,請求人は,使用標章を使用しており,米国においても,1983年の先使用に基づき,登録が認められている(甲50)。 日本においても,「Goodwear及び図形」が登録されており,「Goodwear」も商標登録出願されている(甲33?甲35)。 使用標章の使用に係るティーシャツの2004年から2014年までの年間売上高,年間販売枚数,広告宣伝費は,2005年には,売上高9億7百万円,販売枚数21万9千枚,広告宣伝費132万円となっている(甲41)。また,2001年から2002年は,ファッション・ブランド年鑑2002にあるように,株式会社百又が使用標章の使用に係るティーシャツを扱っており,年間5億円の売り上げがあった(甲3)。 使用標章の使用に係るティーシャツの販売店は,三菱商事,豊田通商,ソーズカンパニー,スタンレーインターナショナルなどの大手企業である(甲39)。これらの企業と請求人が取引を行ったことを証明する証拠として2004年6月25日から2015年6月29日までのインボイス(甲64?甲85)を提出する。 また,使用標章の使用に係るティーシャツの小売店は,セレクトショップとして有名なシップス,オッシュマンズ,ユナイテッドアローズ,ビームス,伊勢丹,上野商店などである(甲40)。 現在販売店となっている株式会社ソーズカンパニーが,2010年1月1日から2012年12月31日までの3年間に,使用標章の使用に係るティーシャツを卸した販売店及び販売代理店の販売枚数は,3万1191枚,売上高は5897万円となっている。 使用標章の使用に係るティーシャツは,1993年3月17日の雑誌「ポパイ」等の雑誌に広告されている(甲1?甲32)。 以上より,使用標章は,本件商標の出願日前から現在に至るまで,請求人の商標として,日本において周知・著名であることは明らかである。 なお,被請求人が,自らが有するグッドウェアの掲載例として提出する乙第2号証ないし乙第7号証には,「Goodwear」(「Good」と「wear」を結合したもの)は使用されていない。 (4)商標の類似性 本件商標は,「Goodwear」,「図形」から構成されているが,「Goodwear」の部分が大きく書されており,請求人の商標として周知・著名であるから,「Goodwear」の部分が要部になることは明らかである。 よって,本件商標と使用標章は,外観,観念,称呼,全体的印象が同じものであり,両商標が類似することは明らかである。 (5)業務関連性 本件商標の指定商品と使用標章の使用に係るティーシャツは,いずれも人が身に着けるファッション関連商品であり,業務の関連性が深いことは明らかである。 (6)取引者又は需要者の共通性 本件商標の指定商品と使用標章の使用に係るティーシャツは,いずれも人が身に着けるファッション関連商品であり,両商品の取引者及び需要者は共通する。 (7)被請求人による本件商標の使用の態様 オンラインショップに掲載された,被請求人のティーシャツの広告(甲90)には,Goodwearの文字とともに,「Goodwear(グッドウェア)-1983年,アメリカはマサチューセッツ州のエセックスという町にて設立されました。他を圧倒するヘビーウェイトな生地にこだわってつくられています。」との記述があり,使用標章の使用に係るティーシャツと混同させるものである。 (8)出所の混同 本件商標が指定商品に使用された場合には,当該商品が請求人の商品に係るものであると誤信させるおそれ(狭義の混同),又は,当該商品が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(広義の混同)があることは明らかであり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 5 商標法第4条第1項第19号について 本件商標と使用標章は,外観,観念,称呼,全体的印象が同じものであり,両商標が類似することは明らかである。 使用標章が,本件商標の出願日前より,日本国内で周知・著名であったことは,上記より明らかである。 また,使用標章は,本件商標の出願日前より,米国においても周知・著名であったことは明らかである。米国における使用標章に係る売上高,米国におけるティーシャツの販売枚数,米国における広告費は甲第43号証のとおりであり,1999年の米国における売上高は3億6300万円,販売枚数は60万枚,広告費は110万円となっている。 使用標章の使用に係るティーシャツのカタログが米国において頒布され(甲51?甲54,甲86),雑誌「Impressions」,「SCREENPLAY」,「EMB」にも掲載され(甲57?甲61),1984年4月16日の有名なボストンマラソンのチラシにも使用されている(甲55)。 このような,著名で,かつ,辞書に掲載されていない造語からなる使用標章と同一又は類似する商標を出願し,登録することは,使用標章の著名性,名声,顧客吸引力にただ乗りし,また,使用標章の出所識別力を稀釈化するものであり,不正の目的があったことは明らかである。請求人の実際に使用している「Goodwear」の図案部分と本件商標の図案部分が似ていることからも(甲36),本件商標権者に不正の目的があったことは明らかである。 なお,被請求人は,平成26年ないし平成27年中頃は,請求人のティーシャツの襟ネームには引用商標のみが付され,被請求人のティーシャツには襟ネーム・下札に本件商標が付されていたため,市場での棲み分けができていた旨述べているが,この期間においても,本件商標の使用者と引用商標の使用者との間で出所の混同が生じていたものである。 本件商標は,日本及び米国で周知・著名となっている請求人の使用標章と類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)をもって使用するものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当する。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。 1 以下のとおり,請求人が指摘する無効理由はいずれも成り立たない。 (1)商標法第4条第1項第10号について 請求人は,「使用標章は日本で周知・著名である」と繰り返すのみで,提出の書証は散漫かつ根拠を欠くものがほとんどであり,さらには,立証意図すら判然としないものも多数ある。したがって,請求人は,形式的に同証明に必要な客観的証拠すら提示していないから,本号についての請求人主張は成り立たない。 (2)商標法第4条第1項第11号について 本件商標が,引用商標に類似すると主張しているが,これまで「グッドウェア」を含む商標に関しての登録審査・拒絶理由通知・異議申立て・取消審判の請求等で,特許庁及び知財高裁が一貫して示してきた類否判定基準に照らし,請求人主張が成り立たないことは明らかである。 仮に,請求人の主張を受け入れるとするなら,引用商標の登録出願時において,一連のグッドウェア商標群の前所有者サクラインターナショナル(株)は3件の先登録商標を保有していたのだから,引用商標の登録自体が無効であったという事態となる。 (3)商標法第4条第1項第15号について 上記(1)と同様に,請求人の主張が成り立たないことは明らかである。 (4)商標法第4条第1項第19号について 本号該当要件において,少なくとも「日本国内若しくは外国における引用商標の周知・著名性」及び「本件商標の不正使用目的」を満たしていないから,本号についての請求人主張は成り立たない。 2 請求人の虚偽主張・事実誤認誘導 (1)請求人は製造業でもアパレル業でもないこと 請求人は,自らの業務がアパレル・製造業であるかのごとく表現するが,請求人の職種は,日本のアパレルの商品企画に基づき同製品を米国の工場で生産するための現地での生産仲介業(いわゆる,「振屋」)である。このような下請け品の生産コーディネートの事案では,注文者が希望するブランドがあればそれを付すが,特にない場合には,コーディネータが適当なラベルを付す(その際重要なことは,ブランド名ではなく,輸出入の通関業務で関税率を決定するために必須の原産地表示・素材表示であり,市場で販売するために必須の洗濯表示である)。したがって,そのラベルに付された商標は,あくまでも,発注者(日本のアパレル)の出所を示すものであって,コーディネータの役務を示すものではない。つまり,このようなケースでの「商標の使用者」は,商品を企画し生産の発注をした日本のアパレルであって,請求人などではない。 (2)「Goodwear」は請求人により独創された単語などではないこと 「good wear」,「goodwear」の単語は,20世紀初頭に作られた造語で,コストパフォーマンスのある良質な製品を表現するのに使われたもので,「Powerhouse」,「Lee」,「Hercules」等の1920年代・30年代のワークウェアカンパニーが,自社の製品を表現するのに好んでこの言葉を使用した。また,「GOODWEAR」を社名に冠する著名な米軍納品メーカーや,該語をブランド名として使用するアパレルは,1920年代から米国に存在していたのだから,「Goodwear」は,請求人による独創的な造語などではない。 (3)「Goodwear」は日本で周知・著名でないこと 請求人は,「引用商標は日本で周知・著名である」と繰り返し,誓約書やファッション・ブランド年鑑等の信憑性の低い資料を提示するのみで,売上数の根拠たる書証を提出していない。審決時の周知・著名性の判断に必須の直近(2016年)の売上数に至っては言及すらしていない。請求人自身が販売しているのなら,また,「引用商標は日本で周知・著名である」ことを証明する気であれば,売上を立証するに十分なインボイス等の書証を出すことができるはずである。 また,宣伝広告に関しても,通販カタログ掲載を除けば,請求人が日本で販売を開始したとする1990年から現在までの約26年間で,認識できる掲載は5件(甲1,甲4,甲7,甲10及び甲32)のみである。 他方,被請求人が有するグッドウェアは,1998年より2002年の5年間でも,21件にも上る(乙2?乙7)。 以上のとおり,請求人が提出した売上数・売上金額・宣伝費等には,何ら根拠もなく,仮に,同販売数が真実であったとしても,周知・著名と評価するに値しない低い数字であり,また,広告宣伝も,とても周知・著名とは評価できない。 (4)「Goodwear」は米国で無名商標であること 「Goodwear」は,米国では,無名商標である。また,請求人提出の「2004年ないし2015年の日本での売上数」と「同期間の米国での売上数」が全く同一であるというのも不思議である。仮に米国内販売(請求人→米国企業)と間接輸出(米国企業→日本企業)を,ダブルカウントしているのであれば,同期間の米国での売上がゼロであることを自ら立証していることになる。 (5)米国での被服に関する先使用権発生時期についての虚偽主張 請求人は「1987年頃から引用商標『Goodwear』のみからなるティーシャツの販売を開始し」と述べているが,請求人が米国商標登録第2452350号の申請時に米国特許商標庁に提出した資料(乙8)によれば,アパレルのファーストユースは,1989年5月1日となっており,請求人主張に食い違いが生じている。 (6)登録商標獲得の経緯についての事実誤認誘導 請求人は,「1983年の先使用に基づき,米国商標登録第2452350号として登録が認められている」(甲50)と述べているが,真実は,以下のとおりである。 米国特許商標庁の提供情報(乙9)によれば,請求人の米国での「GOODWEAR」商標の登録申請は,他者の先登録商標「GOOD WEARING」と「誤認混同をきたす程類似する」という理由で拒絶査定されたが,査定後,請求人は,上記他者へ取消審判請求を仕掛ける等の戦略を用いて,コンセント制度に基づく「二者間合意書」を取付け,申請から2年半の時間をかけて登録された。請求人の米国登録商標は,先使用に基づき登録されたのではなく,コンセント制度を利用しての先登録商標の所有権者との「合意書」に基づき登録されたのである。また,このやり取りからもわかるように,請求人は,米国で商標権侵害を犯し続けていたにもかかわらず,上記他者より損害賠償請求も提訴されていないという事実は,請求人のブランドでの販売数がほぼゼロに近い無名ブランドであることの証左でもある。 (7)以上のとおり,請求人の主張には数多くの虚偽があり,また,事実誤認を誘導する発言が散見されるゆえ,主張自体(請求人の宣誓書等の提出証拠も含む)非常に信憑性が薄いものである。 3 請求人の商標使用における違法行為・不正行為 平成26年から平成27年中頃は,請求人のティーシャツの襟ネームには引用商標のみが付され,被請求人のティーシャツには襟ネーム・下札に本件商標が付されていたため,市場での棲み分けができ取引者・需要者間に出所混同は生じていなかった。ところが,平成27年中頃から平成28年末頃には,請求人のティーシャツの襟ネームには「使用標章+(R)」(「(R)」は○の中に「R」の文字を配してなる。以下同じ。)が付され,下札に使用標章が付されるようになった。 この結果,本件商標と引用商標が類似する(請求人主張)ため,取引者・需要者間に出所混同が生じていると推認される。 このように,請求人商標群と被請求人商標群は,称呼「グッドウェア」を同一とするも市場での棲み分けができていたにもかかわらず,請求人自ら市場での混乱を創出すべく,平成27年中頃には,「使用標章+(R)」を襟ネームに使用し,同時に,引用商標と併用使用することにより,取引者・需要者に現実の出所混同を生起させたという事実は,商標法の精神を冒涜する暴挙といわざるを得ない。 本件審判の請求の根拠としている商標法第4条第1項第11号を除いた同項第10号,同項第15号及び同項第19号に関しては,少なくとも「審決時の周知・著名性」を要件としているところ,たとえ使用標章が審決時において周知・著名性を獲得していると仮定しても,その獲得過程で不正があることは明らかであるから,その周知・著名性が認定されることはない。したがって,この点からだけでも,商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号の理由は認められない。 第5 当審の判断 1 本件審判の請求の利益について 請求人は,引用商標の商標権者であり,本件審判を請求することについて利益がある旨主張しているのに対し,被請求人はこれについて争っておらず,かつ,請求人が本件審判を請求することについて利益があるものと認められるので,以下,本件について検討する。 2 使用標章の周知性について (1)請求人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。 ア 使用している商標並びに商品について 請求人は,ティーシャツに,使用標章を付し,その包装用袋には,引用商標を表示している(甲36)。 イ 使用開始時期,使用期間,使用地域について 請求人の主張によれば,米国マサチューセッツ州所在の請求人は,1987年頃から,使用標章を付したティーシャツ(以下「請求人商品」という。)の販売を開始し(甲51),1990年(平成4年)4月13日からは,日本でも販売するようになった(甲62,甲63)。 ウ 譲渡の数量又は営業の規模について (ア)請求人の最高経営責任者は,宣誓書において,請求人商品について,日本(2004年から2015年)及び米国(1989年から2015年)における売上高,販売枚数,広告費を陳述した(甲42,甲43)。 (イ)販売店である株式会社ソーズカンパニーの代表取締役は,宣誓書において,請求人商品を,2010年1月1日から2012年12月31日までに自社を通じて扱った販売店及び販売代理店名(52店)と,当該販売店及び販売代理店における当該期間の売上枚数及び売上高が,3万1191枚,5897万7152円であることを証明した(甲41)。 (ウ)我が国の通販カタログである「HD/The Heavy Duty Catalog(ザ・ヘビーデューティ・カタログ)」には,2004年から2016年に(甲5,甲6,甲8,甲9及び甲11?甲25),「BOGARD」には,2011年,2012年,2015年及び2016年に(甲26?甲29),「GentlyStyle」には,2013年に(甲30),「男のシャツコレクション」には,2016年に(甲31),請求人商品の販売に関する情報が掲載されているが,このうち使用標章が使用されているものは,商品「ティーシャツ」の紹介に表示されているもの(甲4,甲7及び甲32),及び商品「ティーシャツ」の襟タグに表示されているもの(甲5,甲6,甲11,甲15及び甲32)等,わずかにすぎない。 また,上記通販カタログにおいて,引用商標が,商品「ティーシャツ」の紹介に表示されている(甲5,甲6,甲8?甲22,甲24,甲26,甲27及び甲31)ものの,これらが大きく目立つように表示されたものは見当たらない。 (エ)請求人は,我が国において,販売店や小売店を有している(甲38?甲40)。 (オ)使用標章を表示した請求人の「COMMERCIAL INVOICE」によれば,請求人は,商品「ティーシャツ」等について,2004年6月から2015年7月にかけて,日本の事業者との間で取引をした(甲64?甲85)。 エ 広告宣伝の方法,回数及び内容について 我が国で発行されている雑誌「popeye」(1993年(平成5年),甲1),「モノ・マガジン」(2004年(同16年),甲4)及び「The Whole U.S.A Catalog」(2008年(同20年),甲32)に,請求人商品等に関する情報が掲載され,「Men’sJOKER」(2005年(同17年)及び2006年(同18年),甲7及び甲10)に,引用商標の表示の下,ティーシャツ等に関する情報が掲載された。 オ 日本の事業者は,使用標章が商品「ティーシャツ,衣服」について使用され,請求人の商標として日本で周知・著名となっている旨の証明書を提出した(甲44?甲47)。 カ 請求人のウェブサイト,チラシ,商品カタログ,1990年,1991年及び1996年頃の雑誌において,請求人や請求人の商品等が紹介された(甲51?甲61)。 (2)以上によれば,請求人商品は,我が国で発行されている雑誌において少なくとも1993年には掲載され,2004年以降,通販カタログ等で紹介され,また,販売店,販売代理店でも販売されていたことがうかがえる。 しかしながら,株式会社ソーズカンパニーの代表取締役は,請求人の商品を取り扱う店は全国で52店舗,2010年1月1日から2012年12月31日までの売上総数は約3万枚,売上総金額は約5900万円である旨を宣誓するにすぎない。 また,雑誌に掲載された回数は少なく,請求人の最高経営責任者は,2004年ないし2015年の日本における売上高,販売数及び広告費用について宣誓するが,これを裏付ける具体的な証拠の提出はない。 さらに,米国においては,少なくとも1990年頃から,請求人商品が雑誌等において紹介されていた事実がうかがえ,請求人の最高経営責任者は,米国における1989年ないし2015年の売上高,販売枚数,広告費を陳述するが,そこに記載された事実を客観的に裏付ける資料は,何ら示されておらず,米国における量的規模(営業規模や広告実積等の市場シェア)を客観的かつ具体的に把握することもできない。 そうすると,請求人が提出した証拠によっては,使用標章が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品「ティーシャツ」を表示するものとして,我が国及び米国の需要者の間に広く認識されていたものということはできない。 なお,使用標章が請求人の業務に係る商品(ティーシャツ,衣服)を表示するものとして日本で周知であることなどを事業者が証明しているが,これらの証明書は,予め記載された定型文書に事業者が一部必要事項を書き加えた上で,記名押印等をしたものであって,使用標章が請求人の業務に係る商品を表示するものとして取引者,需要者に広く認識されていたとする根拠等が明らかにされていない。 3 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 本件商標は,別掲1に示すとおり,「Goodwear」の欧文字を横書きし,その外側に,該文字を籠文字風に縁取りし,当該縁取りにつなげて,右端には六角形を表してなるものである。 そして,本件商標の構成中の「Goodwear」の欧文字部分からは,「グッドウェア」の称呼を生じるものの,該文字部分は,「Good」及び「wear」がそれぞれ「良い」,「衣服,着用」等の意味を有する親しまれた英語であって,「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に認識させるものであるから,その指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能が弱いものである。 (2)引用商標 引用商標は,別掲2に示すとおり,「AMERICAN BRAND」及び「Established 1983」の文字を上下に有する円形の内側に,アメリカの国旗をイメージさせる円形図形を配し,さらに,上記二重の円形の中央を横切るように,文字全体に金色の輪郭線を有する,赤色でやや大きめに表された「Goodwear」の欧文字を配してなるものである。 そして,当該「AMERICAN BRAND」及び「Established 1983」の文字は,それぞれ「アメリカのブランド」,「1983年設立」であることを意味するもので,自他商品の識別標識としての機能を有しないものであり,また,「Goodwear」の欧文字部分からは,「グッドウェア」の称呼を生じるものの,該文字部分は,「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に認識させるものであるから,その指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能が弱いものである。 なお,請求人は,「Goodwear」(使用標章)は,請求人の商品(ティーシャツ)に使用した結果,取引者,需要者にとって識別性を有する商標(要部)となったと主張するが,上記2で述べたとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品「ティーシャツ」を表示するものとして,我が国及び米国の取引者,需要者の間において広く認識されていたものということはできない。 (3)本件商標と引用商標との類否 本件商標と引用商標とを比較するに,本件商標は,別掲1のとおり,「Goodwear」の欧文字の外側に,籠文字風の縁取り及び六角形を表してなるものであるのに対し,引用商標は,別掲2に示すとおり,「Goodwear」,「AMERICAN BRAND」及び「Established 1983」の文字と,アメリカの国旗をイメージさせる円形図形等からなる構成であるから,外観上,顕著な差異を有し,相紛れるおそれはない。 そして,両商標は,「グッドウェア」の称呼及び「良い被服(着るもの)」程の観念を生じる点で共通するものの,「Goodwear」の欧文字部分は,それぞれの指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能が弱いものであることは,上記(1)及び(2)のとおりであるから,両商標の類否判断に資することはできない。 したがって,本件商標と引用商標とは,非類似の商標というのが相当であるから,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似であるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第10号該当性について 本件商標は,その構成中に「Goodwear」(使用標章)の欧文字を含むものである。 しかしながら,使用標章は,上記2のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品「ティーシャツ」を表示するものとして,我が国及び米国の取引者,需要者の間において広く認識されていたものということができない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第15号該当性について 本件商標は,その構成中に「Goodwear」(使用標章)の欧文字を含むものである。 しかしながら,使用標章は,上記2のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の商品「ティーシャツ」を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものということができない。 そうすると,本件商標は,これを本件商標権者がその指定商品に使用しても,取引者,需要者に,請求人の使用標章を連想又は想起させることはなく,当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあったとはいえないものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 なお,甲第90号証は,「ZOZOTOWN」のウェブサイトに掲載された,ショップ「WEGO」が取り扱うブランド「Goodwear」の別注ポケットティーシャツの販売に関する情報であって,「WEGO×Goodwear」の表示の下,「-Goodwear(グッドウェア)-1983年,アメリカはマサチューセッツ州のエセックスという町にて設立されました。」と記載されているものの,当該商品が,被請求人の取扱いに係る商品であるかは明確でなく,また,上記記載をもって,直ちに請求人の業務に係る商品「ティーシャツ」と混同を生じさせるおそれがあるものということはできない。 6 商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標は,その構成中に「Goodwear」(使用標章)の欧文字を含むものである。 しかしながら,使用標章は,上記2のとおり,我が国はもとより,米国における取引者及び需要者の間に広く認識されていたものということができない。 そうすると,本件商標は,商標法第4条第1項第19号該当性の前提を欠くものといわなければならない。 そして,請求人は,「使用標章と同一又は類似する商標を出願し,登録することは,使用標章の著名性,名声,顧客吸引力にただ乗りし,また,使用標章の出所識別力を稀釈化するものであり,不正の目的があったことは明らかである。」旨主張するが,請求人が提出した証拠からは,本件商標権者が,請求人が主張する不正の目的があったことを認めるに足る具体的事実を見いだすことができない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 7 まとめ 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第11号,同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標。色彩は原本を参照されたい。) |
審理終結日 | 2017-09-08 |
結審通知日 | 2017-09-13 |
審決日 | 2017-10-03 |
出願番号 | 商願2012-22538(T2012-22538) |
審決分類 |
T
1
11・
222-
Y
(W25)
T 1 11・ 271- Y (W25) T 1 11・ 261- Y (W25) T 1 11・ 262- Y (W25) T 1 11・ 263- Y (W25) T 1 11・ 25- Y (W25) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浜岸 愛 |
特許庁審判長 |
田中 亨子 |
特許庁審判官 |
小林 裕子 平澤 芳行 |
登録日 | 2012-08-31 |
登録番号 | 商標登録第5517873号(T5517873) |
商標の称呼 | グッドウエア、グッド |
代理人 | 青木 博通 |
代理人 | 中田 和博 |
代理人 | 柳生 征男 |