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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない Y0928
管理番号 1337191 
審判番号 無効2016-890072 
総通号数 219 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-11-29 
確定日 2018-01-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5027047号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5027047号商標(以下「本件商標」という。)は,「グラップラー刃牙」の文字と「GRAPPLER BAKI」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,平成17年12月20日に登録出願,第9類「スロットマシン,パチンコ玉を使用するスロットマシン」及び第28類「ぱちんこ器具,その他の遊戯用器具」を指定商品として,平成18年11月20日に登録査定,平成19年2月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。
1 請求の利益について
請求人は,板垣恵介氏(筆名。本名「板垣博之」。以下「板垣氏」という。)を作者とする漫画「グラップラー刃牙」を掲載していた漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」の発行者であり,「グラップラー刃牙」をはじめとする「刃牙シリーズ」を掲載した漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」等の雑誌を発行するとともに,これらの漫画を「コミックス」として発行している会社である。そして,現在,請求人は,「刃牙シリーズ」に関し,漫画「グラップラー刃牙」の著作(権)者である板垣氏と契約を結び,著作権及び商標権の管理を委任され,請求人名義での商標権の取得を許諾されている。
さらに,請求人は,商標「グラップラー\刃牙」を第28類「スロットマシン,ぱちんこ器具,遊戯用器具,ビリヤード用具」を指定商品として商標登録出願中(商願2016-49509号)であり,現在,当該出願に関しては,本件商標と同一又は類似し,その指定商品も同一又は類似しているので,商標法第4条第1項第11号に該当するとの拒絶理由が通知されている。
したがって,請求人は利害関係人である。
2 請求の理由について
本件商標は,商標登録がされた後において,公序良俗違反(商標法第4条第1項第7号)に該当するものとなっているので,同法第46条第1項第6号に該当する。その理由は,以下のとおりである。
(1)「グラップラー刃牙」は,板垣氏を作者とする漫画であり,同漫画の主人公「範馬刃牙」の略称・愛称でもある。
「グラップラー刃牙」は,平成3年から請求人発行の「週刊少年チャンピオン」に掲載され,平成4年から「少年チャンピオンコミックス」として第1巻が刊行されて以来,現在までに全42巻が刊行され,新書版,完全版及びコンビニエンス向け廉価版の合計の発行部数は,約2,236万部であり,さらに,紙媒体以外にもOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)化及びテレビアニメ化がされている。
また,グラップラー刃牙及びその関係者を主人公とした板垣氏を作者とする漫画(コミックス)として,「グラップラー刃牙」のほかに,「バキ」(全31巻),「範馬刃牙」(全37巻),「刃牙道」(13巻続刊中),「バキ外伝疵面-スカーフェイス-」(全7巻),「バキ外伝創面-きずづら-」(全3巻)及び「バキ外伝拳神-けんじん-」等があり,一連で「刃牙シリーズ」を構成している。「刃牙シリーズ」の新書版,完全版及びコンビニエンス向け廉価版の合計の発行部数は,約6,328万部である。
なお,「グラップラー刃牙」の発行部数は,「漫画全巻ドットコム」の歴代発行部数ランキングによれば,5,000万部,ウィキペディア(Wikipedia)「グラップラー刃牙」のページによれば,6,000万部(甲6)との記載がある。
以上のことから,「グラップラー刃牙」及び「刃牙シリーズ」は,需要者及び取引者において著名であることは明白である。そして,板垣氏が「グラップラー刃牙」及び「刃牙シリーズ」の作者・著作者であることは周知であり,「グラップラー刃牙」及び「刃牙シリーズ」が板垣氏原作の漫画であることは周知である。
したがって,「グラップラー刃牙\GRAPPLER BAKI」の商標は板垣氏の知的財産であり,当該商標及びこれに類似する商標を使用し,商標権を取得できるのは,作家本人すなわち板垣氏又は同氏の許諾を受けた者のみである。
(2)本件商標の場合,たとえ,その登録出願時及び登録査定時には,その漫画の作家,著作者である板垣氏から,商標の出願,使用及び登録の許諾があったとしても,商標登録後,少なくとも現在は,それらの許諾がなくなっている。
ア 現在,板垣氏と被請求人との間には信頼関係はなく,板垣氏は,被請求人との各種関係を終了させるべく,まず,被請求人との窓口契約(著作物の第三者への利用許諾の窓口業務を委任する契約)の更新を拒絶した。
イ 「平成27年(ヨ)第22043号仮処分命令申立事件決定」(甲17)から明らかなように,板垣氏は,同氏が著作権者又は原著作権者である著作物について,被請求人が行う翻案,複製,及び送信可能化等の行為の差し止めを求めて,同旨の決定を得ている。
ウ 「平成28年(ワ)第10264号著作権侵害差止等請求事件訴状」(甲18)から明らかなように,板垣氏は,被請求人に対して,現在,著作権侵害差止請求の訴えを東京地方裁判所に提起して,前記仮処分事件で認められた翻案,複製,及び送信可能化等の行為の差し止めを求めるとともに,「被告(被請求人)は原告(板垣氏)に対し,登録第5027047号の商標権の移転登録手続をせよ。」として,本件商標権の移転登録を請求している。
エ 被請求人は,件外商標「グラップラー刃牙\GRAPPLER BAKI」を平成27年5月18日に商標登録出願(商願2015-46673号)したが,同年10月27日付けで商標法第4条第1項第15号等に該当するとの拒絶理由に対して,「刃牙シリーズ」の作者・著作者である板垣氏から当該商標の出願及び登録を承諾する旨の承諾書を得られなかったことから,拒絶査定となっている。
オ 以上のとおり,被請求人(本件商標権者)は,板垣氏の許諾がないにもかかわらず,さらに,本件商標権の移転登録請求(返還請求)を求められているにもかかわらず,本件商標権者であり続けようとする行為は,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為であり,被請求人を権利者とする本件商標を認めておくことは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当である。
したがって,本件商標は,少なくとも現在は公序良俗に反するものであり,商標法第4条第1項第7号に該当し,商標法第46条第1項第6号の規定,いわゆる後発的無効理由により無効にされるべきものである。
3 被請求人の主張に対し
(1)請求人適格性について
被請求人は,請求人適格性について,請求人が板垣氏から管理全般ないし管理を委任されているかについて問題にしている。
しかしながら,請求人は,管理権を理由として利害関係を主張しているのではなく,本件商標の登録が無効であるにつき利害関係を有する旨を主張しているのであるから,被請求人の問題の立て方自体,失当である。
上記1のとおり,請求人の出願に係る件外商標は,本件商標を引用されて商標法第4条第1項第11号を理由とする拒絶理由通知がなされているのであるから,請求人は,利害関係人である。
(2)公序良俗違反の存在について
ア 被請求人は,本件は私的紛争であるから,訴訟の場において解決されるべきであり,板垣氏の許諾が後発的になくなったことを理由に,公序良俗違反を主張するのは失当である旨,また,板垣氏の許諾は,現在も存在する旨主張する。
イ(ア)本件商標は,専ら「グラップラー刃牙」及び「刃牙シリーズ」作品の一部商品化のために,板垣氏から株式会社フリーウィル(以下「フリーウィル」という。)に対して付与された平成14年9月24日付けの商品化の窓口契約に関する覚書(甲23。以下「窓口契約覚書」という。)に基づいて,フリーウィルが平成17年12月20日に商標登録出願し,平成19年2月23日に商標登録されたものである。その後,板垣氏の権利管理会社である有限会社いたがきぐみ(以下「いたがきぐみ」という。),請求人,被請求人及びフリーウィルの四者を当事者とする平成23年3月1日付けの四者契約(甲24。以下「四者契約」という。)によって,商品化の実施主体が被請求人となったことを受けて,専らこの商品化の実施のために,平成24年11月にフリーウィルから被請求人に商標権が移転されたものである。
したがって,フリーウィルによる本件商標の商標登録出願は,板垣氏の許諾に基づくものであり,被請求人への本件商標権の移転も,板垣氏から被請求人への許諾に基づくものであった。
(イ)しかしながら,四者契約は,いたがきぐみから被請求人に対する更新拒絶通知によって,平成27年2月28日に終了したのであるから,被請求人が本件商標権を保持している実質的な理由はなくなっている。
のみならず,四者契約の第6条第2項において,いたがきぐみ,請求人,被請求人及びフリーウィルは,「・・・商標登録をはじめとするいかなる権利の登録が存在しようとも,それらはすべて本著作権者(板垣氏を指す。)の権利として留保されていることを確認する。乙(請求人),丙(被請求人),及び丁(フリーウィル)は,自らの登録を理由に権利主張せず,甲(いたがきぐみ)の同意なしには,これを行使しない。また,乙,丙,及び丁は,甲の指示があったときには,たとえ同種の登録が自己の名義で行われていたとしても,他の当事者が無償でそれを利用することに予め同意する。」との合意をしている。
したがって,当事者間においては,本件商標は,登録商標としての効力が四者契約に不可分な関係に立つのみならず,いたがきぐみの意見によって商標権の権利行使が制約される。こうした効力は,そもそも商標登録のいかんに関わらず,板垣氏に留保されていることは,被請求人を含めた当事者が合意していることである。
よって,本件商標権は,板垣氏に移転すべきであることが,四者契約の当事者全員の意思というべきである。
四者契約が終了した現在においては,本件商標の効力は商標権者となっている被請求人の元においては,専ら先願主義の効力を残すことによって,商品化の実施の目的によって商標登録を不可欠とする請求人の登録を妨げる機能を発揮するものとなっている。これは商標権の本来の効力とは無縁な効力である。
加えて,四者契約の当事者の商標権に関する当初の合意に反するものであり,公序良俗に反するものといわざるを得ない。
このように,請求人の主張は,単に板垣氏の許諾の効力が後発的になくなったことを理由とするものではない。当初から被請求人も合意している板垣氏への商標権の帰属と,いたがきぐみの指示に従うという当初からの制約に基づき,今や実質的な商標権の行使ができない状態にあることを理由とするものである。
本件商標権が被請求人の名義のままであることを理由として,先願登録の効力によって請求人の商標登録出願が拒絶されることが,公序良俗違反の状態にあると主張しているのである。
(ウ)被請求人は,上記2(2)イの仮処分手続においては,和解金として15億円という法外な金額を要求しており,請求人が本件商標権を板垣氏に移転すべき要求をした場合には,今回もこれに近い金額を呈示する可能性が高い。
このような商標権の用いられ方は,商標法が本来予定していない用いられ方である。
このように,本件商標は,もはや商標の本来の目的である商標権者等の業務上の信用の維持や需要者の利益保護の目的で使用されていないばかりか,かえって被請求人自らの保身を図るための法外かつ不当な要求の手段となっている。
すなわち,被請求人による本件商標の登録の維持は,上述のとおり,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,社会公共の利益を害するものというべきであるといえる。
ウ 板垣氏の許諾は,現在では存在しない。
(ア)被請求人の「現在も商品を販売しているから,許諾はなお有効である。」との主張は,本末転倒の論理である。
「グラップラー刃牙」に関する二次利用についての四者契約は,平成27年2月28日に終了している。確かに被請求人は販売を継続しているが,被請求人が適法に販売をしているか否かについては争いがある。
(イ)被請求人は,「窓口契約には,更新拒絶により本件商標権に関する許諾が無効となる規定はない。」と主張する。
しかしながら,被請求人の主張する窓口契約は,四者契約第3条第1項に基づいて,平成23年3月1日に失効している。したがって,窓口契約における規定の存否を論じること自体,失当である。
(ウ)被請求人は,「そもそも,本件商標の登録と窓口契約とは別個の合意に基づくものである。」と主張する。
しかしながら,本件商標の登録と窓口契約とは,次のような関係に立つ。
第1に,本件商標の登録は,窓口契約と密接な関連をもって許諾されたものである。
つまり,窓口契約を前提に許諾がなされたものであり,商標登録出願だけが別個に許諾されたと解することは非常に不自然である。商標登録は,その使用があって初めて意味をなすものだからである。
加えて,四者契約においては,以下のことが確認されている。
a すべての窓口業務を請求人と被請求人が行う(四者契約第3条第2項)。
b 商標権は板垣博之の権利として留保される(四者契約第6条第2項)。
c 請求人,フリーウィル及び被請求人は,自らの登録を理由に権利を主張せず,いたがきぐみの同意なしには権利行使しない(同項)。
d いたがきぐみの指示があったときは,たとえ商標権の登録が自己の名義にて行われていても,他の当事者が無償でそれを利用できる(同項)。
そうすると,本件商標の登録は,窓口契約のみならず,四者契約とも密接な関連をもって許諾がされていた。
よって,被請求人の上記主張は,失当である。
第2に,本件商標に係る板垣氏の許諾は,四者契約の不更新により当然終了した。
請求人とフリーウィルとが平成12年9月22日に締結した,「グラップラー刃牙」に関するテレビ用アニメーション化及び商品化に係る契約書(以下「アニメ化契約」という。)(甲22)第3条(3)の条件に基づいて,フリーウィルは,平成17年頃に,請求人に対して,本件商標の登録をすることを求め,請求人は,その頃これを承諾した(以下「本件商標合意」という。)。
本件商標合意には,その期限をフリーウィルが本件商標に関する実体法上の権利を有している期間(つまり,フリーウィルがパチンコ,パチスロの窓口業務を行える期間)とするという,黙示の合意が含まれていた。
本件商標は,本件商標合意に基づいて出願され,その後,被請求人に移転されたものである。
アニメ化契約の終了後,四者契約が締結され,被請求人は,この四者契約に基づいて,請求外パチスロメーカーと商品化権使用許諾契約を締結した。
しかし,四者契約は,更新拒絶により,平成27年2月28日に期間が満了し,終了した。このため,被請求人は,商品化権使用許諾契約における窓口としての地位を失った。
被請求人は,パチンコ,パチスロの窓口業務を行える地位を失ったことにより,本件商標合意も終了した。よって,板垣氏の許諾は,終了した。
第3に,板垣氏の許諾は,遅くとも平成27年3月1日に存在しなくなっている。このことは,板垣氏の陳述書(甲26)によっても明白である。
(4)したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号(商標法第46条第1項第1号,同項第6号)の規定により無効にされるべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,主位的に本件審判の請求を却下する,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,予備的に結論同旨の審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 請求人適格(商標法第46条第2項)を有しないこと
請求人は,請求人適格の根拠として,漫画「グラップラー刃牙」の著作(権)者である板垣氏と契約を結び,著作権及び商標権の管理を委任され,請求人名義での商標権の取得を許諾されている旨主張しているが,何ら証拠のない主張である。
確かに,請求人名義で件外商標「グラップラー\刃牙」(登録第5814318号)を有しているようであるが,商標権の管理全般を委任されている根拠とはならない。
仮に,請求人が板垣氏の商標権の管理を委任されているとしても,請求人も主張しているとおり,板垣氏は,被請求人に対して,本件商標の移転登録手続を求めて民事訴訟を提起しており,これは本件商標が有効であることを前提とした請求である。本件商標が無効であることを求める本件審判の請求は,本件商標が有効であることを前提として民事訴訟を提起している板垣氏の意向と全く矛盾するものであり,委任の範囲を超える行為であって無効である。
以上より,請求人は,本件審判の請求をする適格を有しないので,その請求は却下されるべきである。
2 無効事由(商標法第46条第1項第6号及び同法第4条第1項第7号)がないこと
(1)請求人の主張は,必ずしも明確ではなく,一部不可解な内容を含むが,要するに,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,板垣氏の許諾があったことを前提としながら,商標登録後,当該許諾がなくなっていることを理由に,後発的な公序良俗違反を主張している。
しかしながら,同主張は,公序良俗について到底採用されない独自の解釈をしたものであり,主張自体失当である。
本件は,被請求人に帰属している本件商標についての私的紛争であり,前述のとおり,板垣氏は,被請求人に対して,本件商標の移転登録手続を求めて民事訴訟を提起している以上,当事者同士の私的な問題として同訴訟の場で解決されるべきものである。
(2)板垣氏の許諾が現在も有効であること
ア 請求人も認めているとおり,被請求人は,板垣氏の許諾を得て,本件商標の登録を受けたものである。同登録は,フィールズ株式会社から販売される商品であるスロットマシン・ぱちんこに本件商標を使用することを目的としているところ,第1弾の発売は平成26年3月,第2弾の発売は平成29年2月28日であり,現在も商品販売中であることから,当該許諾は現在もなお有効である。
なお,板垣氏は,当該許諾により,当然のことながら,第1弾及び第2弾ともに,相応のライセンス料を得ている。
イ 請求人は,板垣氏の許諾がなくなった理由として,(ア)被請求人との窓口契約が更新拒絶されたこと,(イ)被請求人に対する仮処分決定を得ていること,(ウ)被請求人に対して本件商標の移転登録請求等の提訴をしていること,(エ)被請求人の件外商標登録出願が拒絶査定となっていることを挙げるが,いずれも当該許諾がなくなった理由とならないことは明白である。
なぜならば,上記(ア)の窓口契約には,更新拒絶により本件商標の許諾が無効となるとする規定はない(そもそも,本件商標の登録は,同窓口契約とは別途個別合意に基づいてなされたものである。)。また,上記(イ)の仮処分決定は,単に映画の複製等を差し止めているだけであって,本件商標の許諾が無効となることを示したものではない。そして,上記(ウ)については,現在,訴訟係属中であって何ら判断が示されているわけではないので,やはり理由とはならない。
上記(ア)ないし(ウ)が,板垣氏と被請求人との信頼関係が破壊されていることの根拠となることから,当該許諾が失効したと解釈することは,それこそ公正な取引秩序を害する独自の解釈であり,到底許される解釈ではない。要するに,板垣氏の気分次第で,一方的に当該許諾を失効させて商標を無効化することができるという解釈であるからである。前述のとおり,本件商標の登録は,フィールズ株式会社から販売されるスロットマシン・ぱちんこという商品に,本件商標を使用することを目的としているのであり,それを前提に板垣氏が許諾し,相応のライセンス料を得ているのであって,同販売期間中に当該許諾が失効することはない。
上記(エ)については,新たな商標登録について許諾を得られなかっただけのことであり,これをもって,本件商標の許諾が失効することにならないことは明白である。

第4 当審の判断
1 本件審判の請求の利益について
本件審判の請求に関し,当事者間において利害関係の有無につき争いがあることから,まず,この点について判断する。
商標登録出願に係る商標が,当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標と同一又はこれに類似し,指定商品若しくは指定役務も同一又は類似するものとして,当該商標登録出願が拒絶され又は拒絶されるおそれがある場合,その商標登録出願は,上記他人の登録商標につき,商標登録の無効審判の請求をする法律上の利益があることは,明らかである。
しかるところ,請求人は,本件商標と類似する商標について件外登録出願(商願2016-49509号。甲15)をしていることが認められ,その登録出願に係る商標について,本件商標を引用した拒絶理由(商標法第4条第1項第11号)を通知され(甲16),当該商標登録出願は現在審査に継続していることが認められる。
そうすると,請求人が本件商標と類似する商標を登録出願し,拒絶の理由が通知されている以上,請求人は,本件審判の請求をすることについて法律上の利益を有するものといわなければならない。
したがって,本件審判の請求は,その請求を不適当なものとして却下することはできない。
以下,本案に入って審理する。
2 商標法第4条第1項第7号該当性(後発的無効事由)について
(1)商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」について,不登録事由としているところ,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とは,当該商標の構成に,非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字,図形等を含む場合のほか,そうでない場合であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,法律によって禁止されていたり,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反していたり,特定の国若しくはその国民を侮辱したり,国際信義に反することになるなど特段の事情が存在するときには,当該商標は商標法第4条第1項第7号に該当すると解すべき余地がある。そして,商標法第46条第1項第5号(審決注:同号は,平成26年の法律改正により,同項第6号として改正された。)は,商標登録がされた後,当該登録商標が同法第4条第1項第7号に掲げる商標に該当するものとなったことを登録無効事由として規定しているところ,商標登録後であっても,当該商標を指定商品又は指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反するなどの特段の事情が生じた場合には,当該商標は同法第4条第1項第7号に該当すると解すべき余地があるといえる(平成24年(行ケ)第10070号 知的財産高等裁判所平成24年11月15日判決)。
このように,商標法第4条第1項第7号は,本来,「商標の構成に着目した公序良俗違反」であるが,このような場合ばかりではなく,「主体に着目した公序良俗違反」として適用される例がなくはない。しかし,出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際しては,商標法第4条第1項各号で商標登録を受けることのできない要件を個別的に定めていること,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになる特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである(平成19年(行ケ)第10391号及び同第10392号 知的財産高等裁判所平成20年6月26日判決)。
(2)事実認定
証拠及び当事者の主張並びに職権調査によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件に係る当事者
(ア)請求人は,漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」の発行者であり,漫画「グラップラー刃牙」及びそのシリーズを同漫画雑誌等で掲載し,コミックスとして発行している会社(出版社)である(甲3?12,18,24,26)。
(イ)被請求人は,アニメーションの企画,制作及び販売を業とする会社であり,平成24年9月12日にフリーウィルから本件商標権を特定承継した者である(甲2,18)。
(ウ)板垣氏は,漫画「グラップラー刃牙」及び同シリーズ漫画の原作者(漫画家)であり,同漫画の著作者である(甲3,4,6?13等)。
(エ)いたがきぐみは,板垣氏の著作権の管理・許諾業務を行っている会社であり,その実質的な経営者は,板垣氏である(甲18,24,26)。
(オ)フリーウィルは,アニメーションの企画,制作及び販売等を業とする会社であって,平成13年に漫画「グラップラー刃牙」をTVアニメ化した著作者であり,本件商標に係る商標登録出願人かつ前商標権者である(甲2,18,22,24,26)。
イ 「グラップラー刃牙」について
「グラップラー刃牙」は,板垣氏原作による格闘漫画(同漫画タイトル)であり,同漫画は,請求人が発行する漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」に連載され,コミックスとしても全42巻が発行されたほか,「刃牙シリーズ」作品として,「バキ」(全31巻),「範馬刃牙」(全37巻),「刃牙道」,「バキ外伝 疵面-スカーフェイス-」,「バキ外伝 創面」,「バキ外伝 拳刃」と題するコミックスが発行された。また,同漫画を原作として,平成6年にオリジナル・ビデオ・アニメーション化,平成13年にTVアニメ化(全48話)もなされた(甲3,4,6?12,18,乙2)。
請求人に係る「発行部数証明書」(甲5)によれば,請求人発行の刃牙シリーズの平成28年10月4日現在の発行部数は,「グラップラー刃牙」が約2,236万部,「バキ」が約1,996万部,「範馬刃牙」が約1,680万部,「刃牙道」が約416万部であり,シリーズ累計で約6,328万部である。
なお,発行部数に関しては,Wikipedia(甲6)によると,平成26年時点で累計6,000万部,漫画全巻ドットコム(平成28年9月23日印刷。甲13)によると,5,000万部との記載もある。
ウ 「グラップラー刃牙」に係る契約関連
(ア)アニメ化契約
板垣氏の了承の下(甲26),平成12年9月22日,当時「グラップラー刃牙」を含む「刃牙シリーズ」作品の二次的利用の窓口業務(著作物の第三者への利用許諾の窓口の業務)を担当していた請求人は,フリーウィルと,同作品のTVアニメ化及び商品化についての契約(アニメ化契約)を締結し(甲22),フリーウィルは,「グラップラー刃牙」に関するTVアニメを制作した(甲6)。なお,漫画業界では,単行本を発行する出版社が,アニメ化などの窓口となって契約を締結する商慣習があるため,板垣氏もこれに従った(甲26)。
アニメ化契約第3条(3)には,フリーウィルは,請求人の許諾なしに「グラップラー刃牙」を含む「刃牙シリーズ」作品に関する知的所有権(商標権を含む。)の登録をすることができない旨,及びアニメ化契約が満了あるいは解除になったときは,フリーウィルの名義で登録されているすべての当該知的所有権(商標権を含む。)を無償で請求人に移転する手続を速やかに行う旨の記載がある。
(イ)窓口契約覚書
板垣氏は,平成14年9月24日,「グラップラー刃牙」を含む「刃牙シリーズ」作品の商品化に関して,フリーウィルを著作権代行者とする窓口契約覚書(甲23)を,フリーウィルと請求人との間で締結させた(甲26)。
(ウ)フリーウィルから被請求人への業務移行
平成19年にフリーウィルの創業者が逮捕(後に不起訴処分)されたこともあり,当該創業者は,被請求人の会社をつくり,フリーウィルが行っていた「グラップラー刃牙」関連の業務をすべて被請求人に移管した(甲26)。
(エ)四者契約
a 四者契約の締結
平成23年3月1日,いたがきぐみ(甲),請求人(乙),被請求人(丙)及びフリーウィル(丁)の四者を当事者として,「グラップラー刃牙」,「バキ」,「範馬刃牙」等の二次的利用にかかわる窓口契約に関する四者契約(甲24)を締結した(甲26)。これにより,請求人及びフリーウィルは,従前の窓口契約覚書を合意解除し,それに付随する合意事項・了解事項はすべて失効することが確認され(四者契約第3条第1項),全当事者は,今後,新たな著作物の二次的利用のすべての窓口業務を,請求人及び被請求人がそれぞれ行うことが確認された(四者契約第3条第2項)。
四者契約第6条第2項には,「乙,丙,及び丁は,・・・本著作物の利用にかかわる権利については,商標権登録をはじめとするいかなる権利の登録が存在しようとも,それらはすべて本著作権者の権利として留保されることを確認する。乙,丙,及び丁は,自らの登録を理由に権利を主張せず,甲の同意なしには,これを行使しない。また,乙,丙,及び丁は,甲の指示があったときは,たとえ同種の登録が自己の名義で行われていたとしても,他の当事者が無償でそれを利用することに予め同意する。」との記載がある。
なお,四者契約第10条には,契約終了後の措置についての規定があるところ,そこには本件商標権の帰属に関する定めはない。
b 本件商標権の移転
四者契約によって,「グラップラー刃牙」を含む「刃牙シリーズ」作品に係る商品化の実施主体が被請求人となったことを受けて,平成24年9月12日受付で,特定承継による本件商標権の移転登録がされた結果,被請求人が本件商標権者となったが,このことは板垣氏も同意していた(請求人の主張,甲2)。
c 四者契約の終了
板垣氏は,信頼関係のもつれから,被請求人との取引をすべて終わらせることにし(甲26),平成26年8月21日,いたがきぐみは,四者契約第8条第2項に基づき,書面をもって同契約を更新しない旨を被請求人に通知した(甲25)。これにより,四者契約は,平成27年2月28日,契約の有効期間満了により終了した。
なお,四者契約第10条第1項には,本契約終了時に,被請求人と二次的利用者との間の許諾契約が有効に存続している案件については,その許諾契約の有効期間に限り,被請求人が,引き続き,二次的利用の窓口を継続することができる旨定められている。
エ 本件商標の登録の経緯
本件商標は,上記第1のとおり,「グラップラー刃牙」の文字と「GRAPPLER BAKI」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり,第9類「スロットマシン,パチンコ玉を使用するスロットマシン」及び第28類「ぱちんこ器具,その他の遊戯用器具」を指定商品として,平成17年12月20日に登録出願されたが,平成18年5月18日,当該出願の審査において,本件商標は板垣氏原作の格闘技漫画と理解させるから,その出所について誤認・混同を生ぜしめるおそれがあるものであって,公正な商取引の秩序,ひいては公の秩序を害するおそれがあるとして,商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)に該当する旨の拒絶理由の通知がされたことから,本件商標の出願人であるフリーウィルは,板垣氏の記名押印がなされた同年8月21日付けの証明書(承諾書)を提出した。その結果,本件商標は,当該拒絶理由が解消となり,同年11月20日付けで登録査定,同19年2月23日に設定登録を受けた(職権調査)。
なお,上記証明書(承諾書)には,「私,板垣恵介(本名板垣博之)は,漫画作品『グラップラー刃牙』の原作者であるところ,東京都港区(略)に所在する株式会社フリーウィルは,私の漫画作品に係る各種事業を管理運営している法人であって,同法人が,標記出願商標(審決注:本件商標)の登録を同法人名義で受けることにつき,異議なく同意していることを証明します。」との記載がある(職権調査)。
オ 板垣氏と被請求人との訴訟事件
(ア)平成28年2月3日,東京地方裁判所(民事第40部)は,債権者を板垣氏,債務者を被請求人とする,グラップラー刃牙に関する著作権仮処分命令申立事件(平成27年(ヨ)第22043号)について,「1 債務者は,債務者自ら又は第三者をして,別紙映画目録記載の映画を,複製し,公衆送信し,又は送信可能な状態においてはならない。2 債務者は,別紙著作物目録記載の著作物を,複製し,または翻案してはならない。3 債務者は,別紙画像目録記載(1)ないし(66)の各画像を,公衆送信し,又は送信可能な状態においてはならない。4 申立費用は債務者の負担とする。」と決定した(甲17)。
(イ)板垣氏は,平成28年3月30日付けで東京地方裁判所に,原告を板垣氏,被告を被請求人として,グラップラー刃牙に関する著作権侵害差止等請求事件を提訴した。その請求の趣旨は,「1 被告は,別紙著作物目録記載の著作物を,自ら,または第三者をして,翻案,譲渡,及び送信可能化してはならない。2 被告は,別紙映画目録記載の映画を,自ら,または第三者をして,複製,頒布,翻案,及び送信可能化してはならない。3 被告は原告に対し,別紙商標目録記載の商標権の移転登録手続きをせよ。4 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めている(甲18)。
なお,上記提訴に係る「別紙商標目録記載の商標権」とは,本件商標権のことであり,アニメ化契約第3条(3)に基づき,本件商標権の移転登録を求めている。
(3)判断
上記(2)認定の事実によれば,以下のとおり認めることができる。
ア 「グラップラー刃牙」について
「グラップラー刃牙」は,板垣氏原作による格闘漫画(同漫画タイトル)であり,同漫画は,請求人が発行する漫画雑誌「週刊少年チャンピオン」に連載され,その後,コミックス化され,全42巻が発行されたほか,グラップラー刃牙から派生した関連漫画もコミックスとして発行された。平成28年10月4日現在における「刃牙シリーズ」作品の発行部数は,シリーズ累計で約6千万部を超えている。また,平成13年に,同漫画を原作とするTVアニメ化(全48話)もなされており,その製作は,アニメーション製作会社であるフリーウィルによってなされた。
イ 「グラップラー刃牙」に係る契約関連
板垣氏は,「グラップラー刃牙」を含む「刃牙シリーズ」作品の二次的利用の窓口業務に関しては,当初,出版社である請求人にこれを行わせていたが,平成14年9月24日,窓口契約覚書(甲23)をフリーウィルと請求人との間で締結させ,窓口業務をフリーウィルに行わせることにした(なお,平成19年以降に,フリーウィルが行っていた「グラップラー刃牙」関連の窓口業務は,被請求人にすべて移管された。)。
しかし,平成23年3月1日,いたがきぐみ,請求人,被請求人及びフリーウィルの四者間による四者契約(甲24)を締結し,これにより,従前の窓口契約覚書(甲23)は合意解除され,かつ,窓口契約覚書に付随して取り交わした合意事項・了解事項もすべて失効となり,この日以降,窓口業務担当は,請求人及び被請求人の両者が行うことになった。
その後,信頼関係のもつれから,板垣氏は,被請求人との取引をすべて終わらせることにし,平成26年8月21日,板垣氏が実質的に経営するいたがきぐみを介して,四者契約第8条第2項に基づき,書面をもって四者契約を更新しない旨を被請求人に通知し,これにより,四者契約は,平成27年2月28日,契約の有効期間満了により終了となり,被請求人は,一部の例外を除き,窓口業務担当から外された。
ウ 本件商標権について
本件商標は,フリーウィルにより,登録出願され(平成17年12月20日),板垣氏の承諾の下,同会社名義で設定登録され(同19年2月23日),同24年9月12日受付で,特定承継による本件商標権の移転登録がなされた結果,被請求人が本件商標権者となったが,この点についても板垣氏は同意していた。
エ 板垣氏と被請求人とのその後の関係
板垣氏は,グラップラー刃牙に関する著作権仮処分命令申立事件(東京地裁平成27年(ヨ)第22043号)について,被請求人が行う翻案,複製及び送信可能等の行為の差し止めを求め,平成28年2月3日,同旨の決定を受けたほか,同年3月30日,板垣氏は,被請求人に対し,グラップラー刃牙に関する著作権侵害差止等請求の訴えを東京地方裁判所に提起し,その請求の趣旨の一として,アニメ化契約第3条(3)に基づき,被請求人から板垣氏に対し,本件商標権の移転登録手続も行うよう求めており,現在,請求人と被請求人は,本件以外でも係争がある。
オ 本件商標は,その商標登録後に商標法第4条第1項第7号に該当するものとなったか否か
以上のとおり,本件商標は,その登録出願,設定登録及び被請求人への移転登録も,板垣氏の承諾の下で行われたもので,それぞれの手続の有効性に関して,両当事者に争いはない。
四者契約には,被請求人は,自らの商標登録を,いたがきぐみの同意なしには行使しない旨,また,いたがきぐみの指示があったときは,他の契約当事者が無償でそれを利用することを予め同意する旨の条項(四者契約第6条第2項)があったが,被請求人が,本件商標と関連して,上記条項に反する具体的な行為をなしたことを具体的に示す証拠は提出されていない。
その後,平成27年2月28日に,四者契約は有効期間満了により終了したため,上記条項も含めて契約は失効しているばかりか,四者契約には契約終了後の本件商標権の帰属に関する明示の定めはなく,四者契約以外にその帰属を具体的に定めた何らかの合意があったことも,提出された証拠からはうかがい知ることはできない。
以上のとおり,本件商標は,その登録出願,設定登録及び被請求人への移転登録に関して特段問題はなく,四者契約の有効であった期間内に,被請求人が当事者間の契約に反し,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反するような具体的な行為をなしたことを示す証拠はない。加えて,四者契約終了後は,四者契約と関連した条項は失効するばかりでなく,四者契約以外に,本件商標を所有することが当事者間の契約や合意に反することを具体的に示す証拠はないから,本件商標は,被請求人がその登録を所有している事実だけをもって,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反する状態になっているものとはいえない。
請求人は,四者契約の終了(平成27年2月28日)により,被請求人が本件商標を保持する実質的な理由はなくなり,被請求人が本件商標を保持し続けることは四者契約の当事者の当初の合意に反するものでもあり,このような状態により実質的に商標権の行使ができない状態にあり,請求人の商標登録出願も本件商標により拒絶されるなど,商標法の本来の目的に反する,公序良俗に反する状況になっている旨を主張する。
しかしながら,上記のとおり,本件商標の登録出願及び設定登録からその後の移転登録まで,いずれも板垣氏の許諾の下でなされてきたのであり,四者契約終了後の本件商標の帰属を明示又は黙示に定めた具体的な証拠はないから,後発的に板垣氏の意思により,本件商標の登録を許容できなくなったというだけでは,直ちに本件商標の登録を維持することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳的観念に反するなど,公序良俗を害するおそれが生じる事態になったとはいい難い。本来,本件商標権の帰属等については当事者間の契約に基づき定めるべきで,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,このような理由で商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域まで拡大解釈して商標登録を排除することは,商標登録の法的安定性を著しく損なうことになる。
なお,請求人は,被請求人が,仮処分手続(上記(2)オ(ア))において,和解金として15億円という法外な金額を要求したと主張しているが,その事実及びその和解金の要求に当たり,本件商標権がその交渉材料として利用されたことを認めるに足りる証拠はなく,また,被請求人が,板垣氏,いたがきぐみ及び請求人に対し,本件商標権に基づき,本件商標の使用の中止を求めたり,権利侵害である旨の警告をしたとの主張立証はない。さらに,四者契約の終了後,被請求人(本件商標権者)ないし使用権者が,本件商標をその指定商品について使用した結果,第三者に不当な被害を与えたとの主張立証もない。
以上を総合して判断するならば,本件商標は,その商標登録がされた後において,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものになったとは認めることができないから,商標法第4条第1項第7号には該当しない。
(4)請求人のその余の主張について
請求人は,平成29年4月3日差出の上申書及び同年5月23日付け審判事件弁駁書において,本件商標は商標法第46条第1項第1号による同法第4条第1項第7号にも該当するとして,追加主張を行っている。
しかしながら,上記追加主張は,本件審判の請求の理由につき実質的に要旨を変更するものであるから,商標法第56条第1項において準用する特許法第131条の2第1項の規定により認めることができない。
したがって,本件審判の当初の請求理由である本件商標の商標法第46条第1項第6号による同法第4条第1項第7号該当性のみを判断することとした。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標は,その商標登録がされた後において,商標法第4条第1項第7号に該当するものとなったものとは認められないから,同法第46条第1項第6号の規定により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-08-30 
結審通知日 2017-09-05 
審決日 2017-12-15 
出願番号 商願2005-123211(T2005-123211) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (Y0928)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石塚 利恵加園 英明 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田村 正明
阿曾 裕樹
登録日 2007-02-23 
登録番号 商標登録第5027047号(T5027047) 
商標の称呼 グラップラーバキ、グラップラージンガ、グラップラー、バキ、ジンガ 
代理人 亀井 弘泰 
代理人 高橋 直 
代理人 村上 博 
代理人 樋口 盛之助 
代理人 北村 行夫 

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