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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効としない W10 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W10 審判 全部無効 称呼類似 無効としない W10 審判 全部無効 観念類似 無効としない W10 |
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管理番号 | 1337189 |
審判番号 | 無効2017-890015 |
総通号数 | 219 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2018-03-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2017-02-27 |
確定日 | 2018-01-22 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5903630号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5903630号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの態様よりなり、平成28年6月6日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同年11月21日に登録査定され、同年12月9日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下のとおりであり、現に有効に存続しているものである。 1 登録第4422102号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおりの態様よりなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年10月6日に設定登録され、その後、同22年10月26日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。 2 登録第4441402号商標(以下「引用商標2」という。)は、「アスリート」の片仮名を横書きしてなり、平成10年3月12日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同12年12月22日に設定登録され、その後、同23年1月11日に商標権存続期間の更新登録がされたものである。 3 登録第5134553号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ATHLETE」の欧文字を標準文字で表してなり、平成19年9月7日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同20年5月16日に設定登録されたものである。 4 登録第5134554号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲3のとおりの態様よりなり、平成19年9月7日に登録出願、第10類「医療用機械器具」を指定商品として、同20年5月16日に設定登録されたものである。 (引用商標1ないし4をまとめていうときは、以下、単に「引用商標」という。) 第3 請求人の主張 請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、審判請求書及び審判事件弁駁書において、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第65号証(枝番を含む。なお、枝番を有する証拠において、枝番の全てを引用する場合は、枝番の記載を省略する。)を提出した。 1 請求の理由 本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。 (1)商標法第4条第1項第10号について ア 請求人の商標の周知性について 請求人が使用をする商標のうち、「ATHLETE」、「アスリート」及びこれらを冠する商標(以下「使用商標」という。)は、請求人が製造販売する「ガイドワイヤー」の商標として、遅くとも平成19年2月には、周知性を獲得し、その後も、周知性が維持されているとの判断が,本件審判外の裁判及び審判において示されている(甲2?甲7、甲11?64号証)。 イ 本件商標と請求人の使用商標との類否 (ア)商標の類否 本件商標は、デザイン化された「JMA」の赤色の欧文字、「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の黒色の欧文字、及び、赤色の二つの円弧からなる図形要素からなる商標である。本件商標を構成する「JAPAN」の文字は「日本」等の意味を有し、「MEdiCAl」の文字は「医学の、医療の」等の意味を有し、また、「ATHlETE」の文字は「運動選手、競技者」等の意味を有する語として、一般的によく知られているものである。 そして、前記アの認定のとおり、本件商標の一部を構成する「ATHlETE」の部分は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得し、出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。 そうすると、前述した各語の意味を考慮し、本件商標の指定商品「医療用機械器具」との関係を鑑みれば、本件商標からは、「ATHlETE」の部分からも称呼、観念が生じるということができる。そして、この「ATHlETE」部分は、請求人の使用商標のうち「ATHLETE」及び「アスリート」と同一の単語から成るものであり、両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、その外観を考慮しても、両者は類似する。 したがって、本件商標が「医療用機械器具」について使用されるときは、本件商標中の「ATHlETE」は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において、周知の請求人の使用商標との出所を誤認混同するおそれがある。 (イ)商品の類否 本件商標の指定商品は、第10類「医療用機械器具」であるところ、請求人が使用商標を付して周知性を獲得したのは、ガイドワイヤーであって、これが「医療用機械器具」に属するものであることは明らかであるから、両商標の商品は類似する。 (ウ)答弁に対する弁駁 a 被請求人は、「ATHLETE○○」という使用態様が識別標識として支配的であるにすぎないと主張する。 しかしながら、請求人の商標「ATHLETE」のように、周知性を獲得した商標は、強力な顧客吸引力を有しており、たとえ、ある文字列の一部であっても、その周知商標を構成する文字が含まれてしまうと、出所混同を生じてしまう。なお、この請求人の主張は、商標審査基準の第4条第1項第10号において、「4.本号でいう『需要者の間に広く認識された』他人の未登録商標と他の文字又は図形等とを結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものを含め、原則として、その未登録商標と類似するものとする。ただし、その未登録商標の部分が既成の語の一部となっているものその他著しく異なった外観、称呼又は観念を生ずることが明らかなものを除く。(例)該当例は、この基準第3の十(第4条第1項第11号)の6.(6)と同様である。」の記載からも、周知商標と結合した商標は、原則として周知商標と類似となるのである。 b 被請求人は、デザイン化された「JMA」の赤色の欧文字部分が本件商標の要部である旨主張する。仮にそうであるとするならば、自他商品識別力を発揮するのは、この「JMA」の部分であるのだから、この部分のみを商標として出願・登録すべきであった。 被請求人のウェブサイトによれば、被請求人は、カテーテル・ステント等の医療品を取り扱う総合卸売商社(甲65)であるのだから、請求人のガイドワイヤーを示す周知商標を知っていたはずである。 c 被請求人は、請求人が最判の判示内容を曲解していると主張する。 しかしながら、請求人の商標「ATHLETE」は、被請求人も認めているとおり、「ガイドワイヤー」について周知であるのだから、これが、前記最判で示された、類否判断の対象となる商標から一部を抽出して類否判断することを容認する特別な事情となることは明らかである。 そして、被請求人は、前記最判の判示内容を曲解し、これを前提として類否判断をしていることから、被請求人による類否判断の前提が間違っている。 ウ むすび 以上のとおり、本件商標は、請求人がガイドワイヤーに使用して周知性を獲得した使用商標と類似し、商品においても類似するから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標と請求人の引用商標との類否 (ア)商標の類否 前記(1)イ(ア)で述べたのと同様に、本件商標のうち「ATHlETE」の部分だけを、引用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものというべきであるから、本件商標からは、「ATHlETE」の部分からも称呼、観念が生じるということができる。 他方、引用商標からは「アスリート」の称呼が生じる。そして、引用商標からは、「運動選手、競技者」等の観念が生じる。 そうすると、本件商標のうち「ATHlETE」の部分は、引用商標と同一の「アスリート」という称呼が生じ、「運動選手、競技者」という同一の観念が生じるから、両者は類似する。 そして、本件商標が、医療用機械器具について使用されるときは、本件商標中の「ATHlETE」は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において、引用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。 よって、本件商標は、引用商標と類似するものである。 (イ)商品の類否 本件商標と引用商標の指定商品は、共に第10類「医療用機械器具」であって同一である。 (ウ)答弁に対する弁駁 上記(1)で述べたとおり、また、被請求人も認めているとおり、請求人の商標「ATHLETE」は周知であるので、類否判断の対象となる商標から一部を抽出して、両商標を類否判断することには何ら問題はなく、ここでの請求人の主張も、商標審査基準の第4条第1項第11号の記載からも裏付けられている。 イ むすび 以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似し、指定商品が同一であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)まとめ 以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当する。 第4 被請求人の主張 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第10号について (1)請求人の取引実情について 請求人は、医療機器の輸入、製造及び販売を主な事業とする株式会社であり、循環器系分野の医療機器を取り扱っている(甲5?甲6)。 また、請求人は、多種にわたる循環器系分野の医療機器のうち、「ガイドワイヤー」について、「ATHLETE」、「アスリート」という商標を付して、少なくとも平成7年頃から現在に至るまで継続して使用している(甲7、甲11、甲35?54)。 一方で、請求人は、現在及び過去において、「ガイドワイヤー」を除く他の医療機器について、「ATHLETE」、「アスリート」という商標を使用している事実は認められない。 なお、以下、請求人が使用する商標「ATHLETE」、「アスリート」については、英文表記又はカタカナ表記のみを記した場合、特に注記しない限り、文字種が異なる双方の商標を含むものとする。 請求人は、請求人が取り扱うガイドワイヤーについて、「ATHLETE」という商標を使用しており、現在は、それぞれの特徴を持たせた商品ごとに、「ATHLETE PremiumF2」、「ATHLETE PremiumS2」、「ATHLETE Passista」、「ATHLETE JOKER」、「ATHLETE Wizard 78」、「ATHLETE Wizard」、「ATHLETE ell SLENDER 0.010”」(乙1?乙8)などの商品名を使用している。 このように、請求人は、ガイドワイヤー全体として「ATHLETE」、「アスリート」というメインブランドを使用すると共に、個々の商品についてはサブブランドを併用しており、「ATHLETE」+「サブブランド名」という使用態様を採用している。 請求人が当該使用態様に至った経緯としては、ガイドワイヤーに「ATHLETE」のみからなる商品名を用いていた(甲7-1)ものの、2001年ごろから自社製造するにあたり、新製品の「アスリートGT」に置き換えられたという経緯がある(乙9)。 すなわち、請求人は、「ATHLETE」と商標を用いたガイドワイヤーについて販売を開始し、その後、「アスリートPLUS」、「アスリートell」「アスリートGT」など、次々と「ATHLETE○○」という商品を上市している(甲7、甲39、甲41、甲43、甲45、甲47、甲49、甲51、甲53、乙1、乙5?7、乙9)。 このように、請求人は、「ATHLETE○○」として広く商品展開を行なっているものの、一方で「ATHLETE」のみからなる商品名は、長らく使用されていない。 (2)請求人の商標の周知性について 上記のとおり、請求人は「ガイドワイヤー」について、「ATHLETE」、「アスリート」という商標を永年にわたり継続して使用している事実は認められる。請求人の当該商標の継続使用の結果、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者は、「ATHLETE」という商標を使用している「ガイドワイヤー」は、請求人の製品であることを広く認識していると認められる。 すなわち、請求人は、「ATHLETE」というメインブランドをガイドワイヤーに継続して使用し続けた結果、当該「ATHLETE」は、請求人のガイドワイヤーを示すものとして周知性を確保したと考えられる。 そして、その周知された商標は、実際の取引において使用されている「ATHLETE」というガイドワイヤー全般に使用するブランド名、および「メインブランド名」である「ATHLETE」に続いて用いられる「サブブランド名」である。 これらの商標を継続して使用した結果、冒頭に「ATHLETE」を付し、それに続いて任意の文字列が付された態様について周知性を確保し、「ATHLETE○○」として認識されているものと解される。 以上のとおりであるから、当該請求人のガイドワイヤー一般を示す「ATHLETE」シリーズは、冒頭に「ATHLETE」を付し、連続してサブブランドとして他の文字列を付加したものが具体的商品に使用されている商品名であり、この「ATHLETE○○」という使用態様が識別標識として支配的であるにすぎない。 一方、「ATHLETE」を冠しない態様、具体例として、末尾に「ATHLETE」を付した形態については使用実績がないことから、識別標識としての支配力は大きくないものと解すべきである。 すなわち、請求人のガイドワイヤーを示すものとしての「ATHLETE」シリーズは、実際の取引実情を考慮すると、冒頭の「ATHLETE」にサブブランド名を付した「ATHLETE○○」という使用態様が広く認識されていると解すべきである。言い換えれば、「ATHLETE」という字句を含みさえすれば、その商標に含まれるその他の部分の構成がどのようなものであろうと、また、「ATHLETE」の文字列の配置位置がどこであろうと周知である、とは認めることはできない。 (3)本件商標と請求人の使用商標との類否 ア 本件商標について 本件商標は、別掲1に示すように、デザイン化された「JMA」の赤色の欧文字、「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の黒色の欧文字、及び、赤色の2つの円弧からなる図形要素からなる商標である。 「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」のうち、「JAPAN」は「日本」などの意味を、「MEdiCAl」は「医学の、医療の」などの意味を、また、「ATHlETE」は「運動選手、競技者」などの意味を有する語として一般的によく知られているものである。 しかし、本件商標の構成態様からみれば、「JMA」の部分が占める割合が顕著に大きく、当該部分を際立たせるように円弧が設けられているから、「JMA」の部分が見る者の注意を引くことは明らかである。また、「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の部分は、上記「JMA」の部分に割付表記され、かつ、各単語の筆頭文字である「J」、「M」、「A」の文字が若干大きく表記されていることから、イニシャル表記された「JMA」の原文を示すものとして認識される。 さらに、「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の部分は、各単語の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されており、特定の単語のみを際立たせるような構成ではない。 本件商標の上記構成に鑑みれば、本件商標は、「JMA/JAPAN MEdiCAl ATHlETE」と分離され、そのうち、「JMA」の部分を要部と解するべきである。そして、他の部分の「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」はイニシャル表記された「JMA」の原文を示すものであり、各単語の大きさ及び書体の構成からみて、一体としてとらえられ、「ATHlETE」の文字部分だけが独立して見る者の注意を引くように構成されているということはできない。 イ 結合商標における一部抽出の可否について 結合商標において、一部を抽出して類否判断することについて、請求人が示した最判(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁参照)は、「複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないと解するのが相当である」というものであり(最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)結合商標における一部抽出による類否判断を積極的に許容するものではない。 すなわち、上記最判は、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、原則として全体観察をすべきであり、一部を抽出して類否判断するには、特別な事情が必要であることを判示している。 この点において、「商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである。」とし、積極的な一部抽出を求める請求人の主張は、上記最判の判示内容を曲解するものである。 ウ 商標の類否判断 上述のとおり、結合商標における一部抽出の可否について、(a)原則として認められない(構成全体に基づく類否判断を行う)、(b)各構成部分を分離して観察することが取引上不自然なほど不可分的に結合していない場合には、構成部分の一部抽出が許容されるとする。そして、一部抽出が許容される構成部分としては、どの部分でもよいのではなく、(c)出所識別機能としての印象を与える構成部分、もしくは(d)出所識別標識としての称呼、観念が生じない部分を除いた構成部分を基準として判断するものと解すべきである。 この観点から、本件商標の構成を検討すると、本件商標は、上記のとおり、「JMA/JAPAN MEdiCAl ATHlETE」と分離され、そのうち、最も大きく表記されている「JMA」の部分が出所識別機能としての印象を与える構成部分である。そして、その他の部分である「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の部分は、各単語の筆頭文字である「J」、「M」、「A」の文字が若干大きく表記されており、イニシャル表記された「JMA」の原文を示すものとして認識される。また、各単語の大きさ及び書体は同一であって、その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されている。 以上の点を考慮すると、出所識別機能としての印象が小さい「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」に含まれ、さらにその文字列を構成する1つの単語にすぎない「ATHlETE」の文字部分だけが独立して見る者の注意を引くように構成されているということはできないから、本件商標の構成上、「ATHlETE」の文字部分だけを抽出して類否判断することは適当ではない。 よって、引用商標との類似判断は、全体としての「JMA/JAPAN MEdiCAl ATHlETE」又は、一部抽出が可能であるとしても、見る者の注意を引く「JMA」の部分で行なうことが相当である。 したがって、請求人の使用商標と本件商標とは、称呼、外観、観念共に共通するものではなく、両商標は非類似である。 なお、請求人の使用商標が周知・著名であるとの実際の取引実情に鑑み、本件商標から「ATHlETE」の文字部分だけを抽出することの是非について検討する。請求人の主張は、上記のとおり、本件商標の「ATHlETE」の部分は識別標識として支配的な印象を与えるから、当該部分のみを抽出して類否判断すべきであるというものである。 しかし、請求人の「ATHLETE」シリーズは、上記のとおり、冒頭の「ATHLETE」にサブブランド名を付した「ATHLETE○○」に限って広く認識されていると解すべきである。 すなわち、請求人がガイドワイヤーについて使用する「ATHLETE」が、請求人のガイドワイヤーを示すものとして広く周知性を有しているとしても、実際の取引実情に鑑みれば、取引者にサブブランドを付した形態として認識されているから、「ATHLETE」が冒頭に付された「ATHLETE○○」をもって類否判断が行われるべきである。 対比する両商標の取引の実情を踏まえると、末尾に「ATHlETE」が付されている本件商標と、「ATHLETE」が冒頭に付され、これに続いて任意のサブブランドを付した「ATHLETE○○」とは、「ATHlETE」(「ATHLETE」)が付された位置が異なる。よって、両商標の外観、観念、称呼などによって取引者に与える印象、記憶、連想などの取引実情を踏まえつつ全体に考察すると、対比する両商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても、取引者において明らかに識別されるものであり、商品の出所混同を生じるおそれはない。 したがって、両商標は非類似である。 (4)小括 以上のとおり、本件商標は、請求人の使用商標と非類似であるから、商標法第4条第1項第10号に該当するものではない。 2 商標法第4条第1項第11号について 上記1(3)ウで説明したとおり、本件商標のうち、「ATHlETE」の文字部分だけを抽出して、引用商標と類否判断することには理由がない。 引用商標との類似判断は、全体としての「JMA/JAPAN MEdiCAl ATHLlETE」又は、一部抽出が可能であるとしても、見る者の注意を引く「JMA」の部分で行なうことが相当である。 したがって、引用商標と本件商標とは、称呼、外観、観念共に共通するものではなく、両商標は、非類似である。 以上のとおり、本件商標は、引用商標と非類似であるから、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 3 むすび 以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当するものではない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係を有することについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。 1 使用商標の周知性 (1)請求人の提出に係る証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 請求人は、医療用機器の輸入、製造並びに国内販売を主な事業内容として1981年2月に設立された会社であり、循環器系分野の医療用機器を提供しており、心臓ペースメーカやEPカテーテル等のほか、ガイドワイヤーを取り扱っている(甲5、甲6)。 イ ガイドワイヤーとは、PCI(経皮的冠動脈形成術)と呼ばれる心臓カテーテル治療に用いられる医療機器である。PCIとは、腕や脚の血管からガイドワイヤーを心臓まで引き通して、そのガイドワイヤーをガイドとしてバルーンカテーテルを心臓の冠動脈まで押し込み、バルーンを膨らますことで冠動脈の塞栓等を解消する手術方法である。ガイドワイヤーは、薬事法上、製造販売には独立行政法人医薬品医療機器総合機構への申請及び厚生労働大臣の承認が必要な医療機器であり、PCIを行う病院に直接販売する方法と、販売代理店経由で販売する方法とがある。請求人は、全国に26か所の営業拠点を有し、販売代理店経由を含め、PCIを行う病院に対し、製品の紹介・販売・サポートを行っており、全国に亘る大学の付属病院等を主要な納入先としている(甲2、甲3、甲5、甲6)。 ウ 請求人は、引用商標のほか、「ATHLETEPLUS」、「アスリートマジック/ATHLETEMAGIC」、「アスリートジーティ/ATHLETEGT」、「ATHLETEEEL/アスリートイール」等の「ATHLETE」又は「アスリート」の文字を冠した構成からなる21件の商標について、指定商品を第10類「医療用機械器具」として登録を受けている(甲34)。 エ 請求人は、平成7年頃から、ガイドワイヤーに引用商標を始め、「ATHLETEPLUS」、「ATHLETE eel」、「ATHLETE GT」、「ATHLETE Wizard」、「アスリートプラス」、「アスリート スレンダー」、「アスリート GT」、「アスリート WIZARD」等、「ATHLETE」又は「アスリート」を冠した商標を付し、これを「ATHLETE」、「アスリート」シリーズとして製造販売しており、平成7年以降継続して、これら商品についてのカタログ、保険償還価格表等を発行している(甲7、甲11、甲35?甲54)。 オ 株式会社矢野経済研究所の調査資料や、株式会社アールアンドディ作成の「医療機器・用品年鑑」の年度ごとの市場分析によれば、請求人は、ガイドワイヤーの販売本数で、平成8年から平成12年まで約15%ないし25%のシェアを占めていた。その後、独占販売契約の打ち切りによる自社製品への切り替えのため、平成13年は販売本数が減少したが、平成14年以降平成19年まで約5%ないし8%のシェアを占め、その後も平成24年に至るまで約5%ないし7%のシェアを占めてきた。請求人は、平成8年以降、平成13年を除き、ガイドワイヤーの販売本数で、毎年上位5位以内にランキングされている。上記調査資料においても、請求人が「ATHLETE」、「アスリート」シリーズのガイドワイヤーを展開していることが記載されている(甲12?甲24、甲55?甲61)。 カ 使用商標を付した請求人のガイドワイヤーは、平成13年日本心血管カテーテル治療学会等の学会誌に掲載されたのをはじめ、学会予稿集や医学雑誌に多数回掲載されている(甲25?甲32、甲62?甲64)。 (2)ところで、商標法第4条第1項第10号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」については、我が国において、全国民的に認識されていることを必要とするものではなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば足りるものである(甲2)。 そして、ガイドワイヤーは、上記ア(イ)のとおり、一般に市販されている商品ではなく、特定の医療関係者に販売元から直接又は問屋を通して売買されるものであって、その需要者は、医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に限定されると認められる。 (3)以上を総合すると、使用商標は、本件商標の登録出願時には既に、請求人の業務に係る商品「ガイドワイヤー」について使用する商標として、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。 2 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について (1)商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかも、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。 しかるところ、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において、その構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、原則として許されない。他方、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも、許されるものである(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)(甲2)。 (2)本件商標 ア 本件商標は、別掲1のとおり、「JMA」の文字を赤色で大きく書し、その下段に、該「JMA」の文字の1/3から1/4ほどの大きさで「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字を黒色で書し、さらに、「JMA」の「J」の下部先端から「A」の上部先端にかけて、赤色の2つの円弧が「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字を囲むように配された態様からなる商標であるところ、構成中の2つの文字部分は、その色彩及び構成態様において明らかな相違があり、両文字部分は、外観上分離して観察されるものである。 次に、「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字部分は、全体が特徴的なデザインで統一され、一体的に表されていること、該文字部分より生じる「ジャパンメディカルアスリート」の称呼も一連に称呼しがたいほど冗長ともいえない。 そうすると、本件商標からは、構成文字全体から生じる「ジェイエムエイジャパンメディカルアスリート」の称呼のほか、「JMA」の文字部分から「ジェイエムエイ」の称呼及び「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字部分から「ジャパンメディカルアスリート」の一連の称呼のみが生じ、特定の観念は生じないというべきである。 イ 請求人は、本件商標の一部を構成する「ATHlETE」の文字部分は、需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し、請求人の商品を示すものとして周知性を獲得した請求人の使用商標と類似するものであるから、当該文字部分が出所識別標識として強く支配的な印象を与え、その結果、本件商標からは、「ATHlETE」の部分からも称呼、観念が生じると主張する。 しかしながら、本件商標の構成中、「ATHlETE」の文字が含まれる「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字部分は、全体が特徴的なデザインで統一され、一体的に表されていること、本件商標の構成全体から見れば、上段の赤色で大きく顕著に書された「JMA」の文字が、下段の黒色で1/3から1/4程の大きさで書された「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」の文字部分を構成する「JAPAN」、「MEdiCAl」及び「ATHlETE」の頭文字であることから、上段の文字が下段の文字の略語、あるいは下段の文字が上段の文字の原文の関係にある事を認識できること、構成中の図形要素である円弧が、「JMA」の文字と共に赤色で「JAPAN MEdiCAl ATHlETE」文字部分を囲むように配されていること、さらに「ATHlETE」の文字は「運動選手、競技者」等の意味を有する平易な語として日常的に使用されている英語であることから、その語自体の独創性は比較的高くないものと認められることからすれば、本件商標の構成にあっては「ATHlETE」の文字部分のみを、本件商標の構成より分離して観察することは取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる。 (3)使用商標 請求人の使用商標は、その構成文字に相応して「アスリート」の称呼及び「運動選手、競技者」の観念を生じること明らかである。 (4)本件商標と使用商標の類否 本件商標と請求人の使用商標とを比較すると、外観については、その構成文字数、文字種、図形要素等の差異により明らかに異なるものである。 次に、称呼についてみるに、本件商標から生じる「ジェイエムエイジャパンメディカルアスリート」、「ジェイエムエイ」及び「ジャパンメディカルアスリート」の称呼と使用商標から生じる「アスリート」とでは、構成音、構成音数共に明らかに異なる。 観念については、本件商標からは特定の観念が生じないのに対し、使用商標からは「運動選手、競技者」の観念が生ずるのであるから、両商標は観念によって相紛れるおそれはない。 以上より、本件商標と使用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 (5)本件商標の指定商品と請求人の使用商標における商品「ガイドワイヤー」の類否 本件商標の指定商品の「医療機械器具」と、請求人の使用商標が使用された商品である「ガイドワイヤー」とは同一又は類似する商品である。 (6)小括 したがって、請求人の使用商標が「ガイドワイヤー」に使用して周知性を獲得し、本件商標の指定商品と請求人の使用商標における「ガイドワイヤー」とが類似する商品であったとしても、本件商標と請求人の使用商標とは外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 3 本件商標の商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標と引用商標について 本件商標は別掲1のとおりの構成よりなるところ、上記1(2)イのとおり、本件商標からは、「ジェイエムエイジャパンメディカルアスリート」、「ジェイエムエイ」及び「ジャパンメディカルアスリート」の一連の称呼のみが生じ、特定の観念は生じない。 他方、引用商標1は、別掲2のとおり、その冒頭の文字「Λ」が「A」の文字から横棒を除外した形状となっているところ、英語の成語中の「A」の文字を「Λ」とロゴ化することが一般に広く行われていることからすれば、引用商標1も該「Λ」が「A」を表し、全体として「ATHLETE」の文字を表したものと容易に看取されることから、その構成文字に相応して「アスリート」の称呼を生じ、「運動選手、競技者」の観念を生じるものといえる。 引用商標2及び3は、それぞれの構成文字に相応して「アスリート」の称呼及び「運動選手、競技者」等の観念を生ずること明らかである。 引用商標4は、別掲3のとおり、その冒頭部分がかなり図案化されているものの、「A」を装飾したものとして認識し把握されることも少なくなく、全体をもって「ATHLETE」の文字を表したものとして看取されることから、「アスリート」の称呼及び「運動選手、競技者」の観念を生じるものというのが相当である。 そうすると、引用商標は、いずれもその構成文字から「アスリート」の称呼及び「運動選手、競技者」の観念を生じるものである。 (2)本件商標及び引用商標との類否 本件商標と引用商標とを比較すると、外観については、その構成文字数、文字種、図形要素等の差異により明らかに異なるものである。 次に、称呼についてみるに、本件商標から生じる「ジェイエムエイジャパンメディカルアスリート」、「ジェイエムエイ」及び「ジャパンメディカルアスリート」の称呼と引用商標から生じる「アスリート」とでは、構成音、構成音数共に明らかに異なる。 観念については、本件商標からは特定の観念が生じないのに対し、引用商標からは「運動選手、競技者」の観念が生ずるのであるから、両商標は観念によって相紛れるおそれはない。 以上より、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。 (3)小括 したがって、本件商標は、その指定商品と引用商標の指定商品とが同一又は類似であったとしても、本件商標と引用商標とは類似しないものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 4 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号及び同項第11号のいずれの規定にも違反して登録されたものと認めることはできないから、同法第46条第1項第1項の規定により、無効とすべきものではない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 (本件商標)色彩は原本を参照のこと。 別掲2 (引用商標1) 別掲3 (引用商標4) |
審理終結日 | 2017-11-27 |
結審通知日 | 2017-12-01 |
審決日 | 2017-12-12 |
出願番号 | 商願2016-61074(T2016-61074) |
審決分類 |
T
1
11・
263-
Y
(W10)
T 1 11・ 261- Y (W10) T 1 11・ 25- Y (W10) T 1 11・ 262- Y (W10) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 豊田 純一 |
特許庁審判長 |
今田 三男 |
特許庁審判官 |
田中 幸一 冨澤 武志 |
登録日 | 2016-12-09 |
登録番号 | 商標登録第5903630号(T5903630) |
商標の称呼 | ジェイエムエイ、ジャパンメディカルアスリート、メディカルアスリート、アスリート |
代理人 | 猪狩 充 |
代理人 | 中塚 雅也 |