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審決分類 審判 一部申立て  登録を取消(申立全部取消) W16
管理番号 1336363 
異議申立番号 異議2017-900179 
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2018-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-06-01 
確定日 2017-12-11 
異議申立件数
事件の表示 登録第5929242号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5929242号商標の指定商品中,第16類「印刷物」についての商標登録を取り消す。
理由 第1 本件商標
本件登録第5929242号商標(以下「本件商標」という。)は,「チバニアン」の片仮名を標準文字で表してなり,平成28年8月25日に登録出願,同29年1月10日に登録査定,第16類「紙類,文房具類,印刷物,書画」並びに第14類及び第28類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品として,同年3月3日に設定登録されたものである。

第2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標はその指定商品中,第16類「印刷物」について,商標法第3条第1項第3号,同項第6号及び同法第4条第1項第7号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第57号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)地質時代と「国際標準模式層断面とポイント」
地質時代とは,地球に地層が形成されてから現在までの時代をいい(岩波書店発行,広辞苑第六版),地質の観察・研究を行う上で最も優れた代表的な地層が,「国際標準模式層断面とポイント」(Global Boundary Stratotype Section and Point)(以下「GSSP」という。)に選定される。
(2)GSSP候補地としての「千葉セクション」
GSSPの候補地として千葉県市原市の養老川沿いで確認された地層(以下「千葉セクション」という。)が挙げられている。
「千葉セクション」の研究には,申立人である大学共同利用機関法人情報・システム研究機構に属する国立極地研究所をはじめ,国立大学法人茨城大学,国立大学法人千葉大学,独立行政法人国立科学博物館,国立大学法人島根大学,国立大学法人神戸大学,国立研究開発法人産業技術総合研究所,国立研究開発法人海洋研究開発機構,国立大学法人東京学芸大学,千葉県立中央博物館,滋賀県立琵琶湖博物館,国立大学法人九州大学及び国立大学法人信州大学など(以下「共同研究チーム」という。)が,共同で取り組んでいる。平成29年6月7日,共同研究チームは,国際地質科学連合(International Union of Geological Sciences: IUGS)の専門部会に「千葉セクション」に関する提案申請書を提出した(甲2,甲4)。
(3)「チバニアン」命名の経緯
GSSPに選定されると,その時代区分としてラテン語で命名され,「千葉セクション」は,共同研究チームにより正式名称を「チバニアン」と決定され(甲5,甲7),世の中に定着しつつある。
(4)「チバニアン」の識別力
以上よりすると,「チバニアン」の文字を印刷物に付したとしても,需要者は「チバニアンに関する印刷物である」と認識するにとどまり,当該文字はその著作物の内容を認識させるにすぎないことは明白であるから,商品の品質等を示すものとして,自他商品識別力を欠くものといわざるを得ない。
(5)「チバニアン」の独占適応性
「チバニアン」がGSSPに選定されれば,世界中の研究者が「チバニアン」に関する論文を執筆する。特に,日本語での論文においては「チバニアン」との表記が多く登場することが推測される。
よって,本件商標は,指定商品「印刷物」について,独占適応性を欠くというべきである。
(6)小括
以上よりすると,本件商標は,その指定商品「印刷物」について,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第1項第6号について
本件商標は,上記のとおり,独占適応性を欠くものであって,「チバニアン」を題号にするか否か,内容表示的に記載するか否かについて,商標権侵害をおそれながら定期刊行物を出版せねばならないとすれば,公正な取引を著しく阻害することは,想像に難くない。
したがって,本件商標は,たとえその指定商品中「定期刊行物」について商標法第3条第1項第3号に該当しないとしても,同項第6号に該当する。
3 商標法第4条第1項第7号について
本件商標の登録出願のタイミングを見れば,ニュースで取り上げられた「チバニアン」の語を先取り的に出願・登録し,利益の独占を図るものと容易に推察できる。
指定商品「印刷物」に限っていえば,「チバニアン」の語が一私人に独占されることにより,「チバニアン」に係る論文誌・学術誌等を出版する者は,商標的使用か否か,ひいては本件商標権の侵害に当たるかをおそれながらの出版を余儀なくされることとなる。
そして,ニュース等で取り上げられた言葉について,ただひとり利益を独占する目的で先取り的に行われた本件商標の登録出願の経緯は,社会的相当性を欠くものであって,本件商標を構成する言葉の公益性に照らしても,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものといえる。
したがって,本件商標は,公正な競業秩序を害するものであって,公序良俗に反するものというべきであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 当審における取消理由
当審において,本件商標権者に対して平成29年8月25日付けで通知した取消理由の内容は,要旨以下のとおりである。
本件商標は,「チバニアン」の片仮名を標準文字で表してなるものであるところ,これを本件商標権者が第16類「印刷物」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,公的機関に係る千葉セクション(国際標準模式層断面とポイント)に関する書籍,論文等であるかのごとく,誤認するおそれがあり,ひいては,商取引の秩序を乱し得るおそれがあり,また,社会公共の利益を害することになるものであって,公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。
したがって,本件商標は,その指定商品中の第16類「印刷物」について,商標法第4条第1項7号に該当する。

第4 本件商標権者の意見
審判長は,上記第3の取消理由を通知し,期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが,本件商標権者は,何ら意見を述べていない。

第5 当審の判断
1 申立人の提出に係る証拠及びその理由によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)申立人は,大学共同利用機関法人であって,申立人に属する国立極地研究所を含む国立大学,国立の博物館・研究所及び県立博物館等(共同研究チーム)が,千葉県市原市の養老川沿いで確認された地層(千葉セクション)の研究に取り組んでいること,千葉セクションは,約77万年前に起きた地球の最後の地磁気逆転を示す地層であること,これを,「千葉時代」を意味する「チバニアン(Chibanian)」と定めたこと,そして,千葉セクションは,地質年代の境界を代表する地層として「国際標準模式層断面とポイント」(GSSP)の候補となっており,平成29年6月7日,国際地質科学連合に申請されたこと(甲2,甲4,甲7?55)。
(2)「チバニアン」の名称は,「千葉時代」のラテン語訳であるが,共同研究チームの一員である国立極地研究所が複数の候補の中から選択した造語であること(甲5)。
(3)「千葉セクション」が国際地質科学連合においてGSSPとして承認された場合には,「チバニアン」と命名され,地質時代の一時代を特定する学術用語となり得ること(甲2,甲4,甲7?甲55)。
(4)上記(1)及び(3)の事実は,平成27年10月16日から本件商標の登録出願時までに,全国及び地方の新聞(甲7?10,甲15?19,甲23,甲24,甲33?40,甲42,甲45,甲46)及び平成28年3月28日のNHKのニュース(甲28?31)で報道され,また,ウェブサイトにおいても紹介(甲12?14,甲20?22,甲25?27,甲47,甲48)され,ウェブサイト上の辞書(甲32,甲41)においても時事用語として掲載されていること等からすれば,我が国において,「チバニアン」の文字は,「千葉セクション」の名称として,一定程度一般にも認識されていたこと。
(5)本件商標は,上記(4)の報道等の後である平成28年8月25日に,本件商標権者により登録出願されたものであること。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,上記第1のとおり,「チバニアン」の片仮名を標準文字で表してなるところ,「千葉セクション」の名称である当該文字は,上記1(2)のとおり,共同研究チームに係る造語であって,上記1(4)のとおり,本件商標の登録出願日前までに,「千葉セクション」が地質年代の境界を代表する地層(GSSP)の候補として国際機関に申請されることが数多く報道等されたことから,上記1(1)及び(3)の事実は,一般に広く知られていたものと認められる。
そして,「チバニアン」の名称の「千葉セクション」は,国立大学,国立の博物館・研究所等の公共機関による共同研究チームにより,GSSPの候補として国際機関に申請されるなど公益性が高いものであること,「千葉セクション」が,国際機関にGSSPとして承認された場合には,その名称である「チバニアン」の語は,地質時代の一時代を特定する学術用語となることが十分想定される。
そうすると,本件商標は,これを本件商標権者が第16類「印刷物」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,公的機関である共同研究チームに係る千葉セクション(GSSP)に関する書籍,論文等であるかのごとく,誤認するおそれがあり,ひいては,商取引の秩序を乱し得るおそれがあり,また,社会公共の利益を害することになるものであって,公の秩序を害するおそれがあるものというべきである。
したがって,本件商標は,その指定商品中の第16類「印刷物」について,商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 むすび
以上のとおり,本件商標は,その指定商品中「印刷物」について,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであるから,その他の登録異議の申立ての理由について判断するまでもなく,同法第43条の3第2項により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2017-11-01 
出願番号 商願2016-92900(T2016-92900) 
審決分類 T 1 652・ 22- Z (W16)
最終処分 取消  
前審関与審査官 高橋 謙司 
特許庁審判長 田中 亨子
特許庁審判官 平澤 芳行
早川 文宏
登録日 2017-03-03 
登録番号 商標登録第5929242号(T5929242) 
権利者 村山 彰
商標の称呼 チバニアン 
代理人 高松 俊雄 
代理人 須山 佐一 
代理人 南 敦 
代理人 高橋 俊一 
代理人 三好 秀和 

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