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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W07
管理番号 1336229 
審判番号 無効2016-890061 
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-10-27 
確定日 2017-12-01 
事件の表示 上記当事者間の登録第5788076号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5788076号商標(以下「本件商標」という。)は、「PureCycle」の欧文字を標準文字で表してなり、平成27年2月4日に登録出願され、第7類「交流発電機,直流発電機」を指定商品として、同年5月14日に登録査定、同年8月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第8号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(1)請求人について
請求人である「南京天加空調設備有限公司(英名:NANJING TICA AIR-CCONDITIONINGCO.,LTD)は、1991年に設立された中国に本拠を置く法人である。現在、中国で4大空調設備会社に入るメーカーであり、全世界で70か所営業拠点を持ち、かつ、我が国においても、日本法人として「株式会社天加日本研究所」を設立している(甲2)。
(2)「PureCycle」商標について
アメリカ合衆国の発電機開発メーカーである「United Technologies Corporation(以下「UTC社」という。)は、自社開発した74℃の低温で地熱資源を電気に変換することができる設備であるモジュール式有機ランキンサイクル発電機について、商標「PureCycle」(以下「引用商標」という。)を使用し、2006年から地熱発電関連事業を展開していた。
請求人は、UTC社と2015年10月に契約を結び、UTC社が展開する地熱発電関連事業を買収した。この契約により、請求人とUTC社は、UTC社が所有していた全世界の特許権及び「PureCycle」を含む商標権に関する譲渡契約を結んでいる(甲4?甲6)。
(3)引用商標の周知性について
ア 引用商標の登録状況について
請求人は、日本以外の複数の国で、「発電機」等を指定商品とする引用商標を所有している。アメリカにおいては登録第3056380号(登録日 2006年1月31日)、欧州連合においては登録第005703764号(登録日 2008年1月30日)、スウェーデンにおいては登録第532374号(登録日 2016年5月27日)、香港においては登録第303633813号(登録日 2015年12月17日)、シンガポールにおいては登録第40201522266X号(登録日 2015年12月18日)、台湾においては登録第01785020号(登録日 2016年8月16日)を所有している(甲5)。
イ 「PureCycle」の使用実績について
アメリカ、欧州での使用実績があり、具体的には、2006年以降、アラスカのチェナ温泉(Chena Hot Springs)リゾートで3台のユニットが運転を開始し、2008年8月には、2台のユニットがニューメキシコ州で運転を開始している。また、我が国でも日本代理店における取扱いがある。
ウ 「PureCycle」の関連記事の掲載について
UTC社により、インターネット上に、英文での「PureCycle」に関連する記事が多数掲載されている(甲3の1?10)。
また、我が国では、独立行政法人産業技術総合研究所による記事「世界の地熱開発動向」で、UTC社の商品として「PureCycle」が取り上げられている(甲3の11)。
(4)本件商標と引用商標の類否
本件商標は、「PureCycle」の文字を標準文字で横書きにしてなる商標であり、引用商標と綴りを同じくするものである。このため、本件商標より生ずる称呼「ピュアサイクル」と引用商標より生ずる称呼は同一であり、また、外観・観念を共通にする同一又は類似の商標ということができる。また、本件商標の指定商品「交流発電機、直流発電機」と引用商標の使用商品「発電機」も互いに抵触するものである。
(5)不正の目的について
被請求人(商標権者)は、2008年12月に設立され、東京都港区に住所を有する法人であり、代表取締役社長CEOはトーマス・ジュフレ(Thomas Giuffre)氏である。
被請求人のホームページの「取扱製品」欄に、「280kWクラス ピュアサイクル(PureCycle)」の記載があるが、紹介映像を確認すると、商品には「UTC Power(UTC社の一部門を指す。)」のロゴが付されており、当該商品はUTC社の開発したものであることは明らかである。このことから、被請求人が、UTC社の「PureCycle」商品を販売する日本販売代理店の一つであることが窺える。
また、代表取締役社長CEOのトーマス・ジュフレ氏は、2009年2月25日から2009年2月27日付のUTC社とのメールのやり取りで、「PureCycle」商品の日本展開についてUTC社に問い合わせをした経緯がある(甲7)。
さらに、UTC社から請求人向けに宛てた2016年9月20日付声明書(甲8)においては、UTC社が2006年1月から「PureCycle」の商品を取扱い、2015年10月28日に全ての「PureCycle」に関連する事業を請求人に譲渡したこと及び被請求人が前記事実を知っていたことについて宣言している。
以上の事実を総合勘案すると、被請求人は、本件商標を、「PureCycle」が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止し若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したものであり、又は引用商標の顧客吸引力を希釈化若しくは便乗し不当な利益を得る目的のもとに出願し、権利を取得したものであることは明白であり、その登録には不正の目的があったというべきである。
2 答弁に対する弁駁の要旨
(1)被請求人とUTC社との関係について
被請求人は、UTC社の日本における代理店である旨を主張している。
そして、被請求人は、乙第1号証を示して「UTC社の子会社であるPratt&Whitney Power Systems社(以下「P&W社」という。)の日本におけるマーケティング活動をサポートする業務を行っている。」と主張している。
しかし、乙第1号証は、PW Power Systems,Inc.(以下「PWPS社」という。)の製品の説明会の資料や、PWPS社の製品の説明の資料にすぎず、被請求人がUTC社の代理店であることを示すものではない。
また、乙第1号証が、UTC社、P&W社および被請求人のロゴが併記しているとしても、このことから被請求人がUTC社の代理店であることを示すものではない。
さらに、被請求人は、乙第2号証を示して、「被請求人はUTC社の日本における代理店と記載されている。」と主張している。
しかし、乙第2号証は、国内市場における主なバイナリー発電機のメーカーと機種や、主な温泉発電機メーカー連絡先一覧が示されているのみであり、被請求人がUTC社の代理店であることを示すものではない。
したがって、被請求人が、UTC社の代理店であることを実質的に示す答弁がなされたとはいえない。
(2)被請求人が商標登録出願を行った経緯について
被請求人は、本件商標について商標登録出願をした経緯について種々主張している。
被請求人は、「被請求人に、請求人が主張するような不正の目的があれば、甲第7号証に示された2009年頃にでも商標登録出願を行っていたと考えるべきである。」、「日本において商標権を取得すべき者は、製品に対して品質保証を行うP&W社であると認識していたので、被請求人は商標登録出願を行っていない。」及び「このように、被請求人が日本において『PureCycle』商品の供給を継続する意思があることを把握しているにもかかわらず、日本における商標権の取得は行っていないのであるから、UTC社が日本において商標権取得の意思はないものと考えられた。」と主張している。
しかし、これらの主張は被請求人にとって都合の良い事実を並べたにすぎない。
乙第5号証と乙第6号証が示すように、「UTC社がP&W社を三菱重工に譲渡した。」という事実と、「知的財産はUTC社からライセンスされることになっており、在庫商品に対する製品保証はPWPS社から提供されることになっていた。」という事実に鑑みれば、知的財産に関する権利を有するのは、UTC社である。
つまり、仮に被請求人の主張のとおり、「被請求人が請求人とUTC社との交渉内容や、出願日以降の2015年10月に請求人がUTC社から在庫商品および商標権を譲り受ける契約が成立すること」を知らなかったとしても、2013年3月の時点で、「知的財産はUTC社からライセンスされることになって」いることを知っている以上、不正の目的があったといわざるをえない。
したがって、被請求人の「被請求人が商標登録出願を行った経緯」に記載している事項をもってしても、被請求人に不正の目的があったことを否定する実質的な答弁がなされたとはいえない。
(3)請求人における事実に反した説明について
被請求人は、「請求人は、証拠として提出した文書の記載に関する事実に反した説明を行うことによって、被請求人における不正の目的の存在を印象づける主張を行っているのである」と主張する。
しかし、上述のごとく知的財産に関する権利を有するのはUTC社であり、被請求人が主張するとおり請求人が、UTC社が所有する商標権を含む資産をUTC社から譲り受けている以上、被請求人に不正の目的があったといわざるをえない。
したがって、被請求人の「請求人における事実に反した説明について」に記載している事項をもってしても、被請求人に不正の目的があったことを否定する実質的な答弁がなされたとはいえない。
(4)被請求人における不正の目的の不存在について
被請求人は、「被請求人は、2008年12月の設立以来、UTC社及びP&W社との密なる協力関係の下で、日本におけるPureCycleブランド確立のために尽力してきた。」、及び「『PureCycle』商品を導入した発電プラントでは、UTC社の事実上の事業撤退に伴って運用に支障をきたすケースも発生していた。被請求人が設立以来培ってきたP&W社との信頼関係は、既存の『PureCycle』ユーザーに認識されており、2016年4月に既存のユーザーに対して『PureCycle』プラントを遠隔監視するサービスの提供を開始し、海外ではすでに顧客を獲得している」と主張する。
しかし、上述のごとく知的財産に関する権利を有するのはUTC社であり、被請求人が主張するとおり、請求人がUTC社が所有する商標権を含む資産をUTC社から譲り受けている以上、被請求人に不正の目的があったといわざるをえない。
したがって、被請求人の「被請求人における不正の目的の不存在について」に記載している事項をもってしても、被請求人に不正の目的があったことを否定する実質的な答弁がなされたとはいえない。
(5)引用商標が周知であることについて
引用商標の周知性については、審判請求書において主張したとおりである。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に周知な商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出している。
1 被請求人とUTC社との関係
請求人は、「被請求人が、本件商標『PureCycle』が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したものであり、又は引用商標の顧客吸引力を希釈化若しくは便乗し不当な利益を得る目的のもとに出願し、権利を取得したものであることは明白であり、その登録には不正の目的があったというべきである」と主張する。当該主張の裏付ける証拠として、甲第7号証を示して「『PureCycle』商品の日本展開についてUTC社に問い合わせをした経緯がある」と主張し、あたかも被請求人が権利者の国内参入を阻止あるいは代理店契約締結の強制を目論んでいたかのような主張を行っている。
しかし、甲第7号証は、そのような不正の目的よりも、むしろ、被請求人が外国の権利者であるUTC社との協力関係の下において、UTC社が国内参入するために助力していることを示すものである。請求人による、被請求人に不正の目的があったとの主張は、UTC社と被請求人との関係を理解できていないことに基づくものであり、極めて失当である。
事実、請求人の提出した甲第7号証にも示されているように、「PureCycle」商品を日本において販売するために必要なコンプライアンスに関する事項について確認を行うことによって、被請求人は、UTC社の日本国内に参入を実現するよう尽力してきた。
2012年6月には、UTC社の子会社であり、「PureCycle」事業を行っていたP&W社の日本におけるマーケティング活動をサポートする業務を行っている(乙1)。「PureCycle」商品の日本におけるマーケティング資料には、UTC社、P&W社及び被請求人のロゴが併記されており、日本における問い合わせ先は被請求人となっている。
このような日本における「PureCycle」ブランド形成にかかる尽力の結果、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が作成した「平成25年度 小規模地熱発電のうち温泉発電導入促進のための手引書」において、UTC社の「PureCycle」商品は、国内市場における主なバイナリー発電機の機種として紹介されており、被請求人はUTC社の日本における代理店として記載されている(乙2)。
2 被請求人が商標登録出願を行った経緯
UTC社またはP&W社が日本において「PureCycle」商標を取得していないことは、容易に調査可能であり、仮に、被請求人に、請求人が主張するような不正の目的があれば、甲第7号証に示された2009年頃にでも商標登録出願を行っていたと考えるべきである。
2012年12月において、P&W社は、被請求人による日本における「PureCycle」商品の販売業務をサポートする意思を示している(乙3)。この時点においても、日本において商標権を取得すべき者は、製品に対して品質保証を行うP&W社であると認識していたので、被請求人は商標登録出願を行っていない。
2013年5月17日、UTC社は、P&W社を三菱重工株式会社(以下「三菱重工」という。)に譲渡した。P&W社は、商号をPW Power Systems,Inc(PWPS社)と変更され、三菱重工グループ企業として営業されている(乙4)。
UTC社には、製造済の在庫商品と特許権・商標権を含む知的財産のみが資産として残され、被請求人は、「PureCycle」商品の在庫購入を申し出て、条件に関する交渉を2013年3月からUTC社と開始した(乙5)。かかる交渉においてUTC社から提示されたタームシートの雛形では、知的財産はUTC社からライセンスされることになっており、在庫商品に対する製品保証はPWPS社から提供されることになっていた(乙6)。
UTC社は、三菱重工にP&W事業を譲渡した後は新規に「PureCycle」商品を製造しておらず、既存製品に対する保証業務も行っていないが、過去に販売された商品は中古市場で流通している。被請求人は、UTC社から在庫商品を購入する交渉を進めるとともに、中古市場での商品購入を試みることによって、日本市場に対して「PureCycle」商品を供給する努力を行った。その結果、2015年4月に米国企業から中古商品を購入する契約を締結するに至った(乙7)。
上述したように、UTC社は、2012年には日本における本格的なマーケティング活動を被請求人の助力の下に行い、P&W社を三菱重工に売却した後は、被請求人に対する在庫資産の売却に関する交渉を継続してきた。このように、被請求人が日本において「PureCycle」商品の供給を継続する意思があることを把握しているにもかかわらず、日本における商標権の取得は行っていないのであるから、UTC社が日本において商標権取得の意思はないものと考えられた。
そこで、乙第7号証に示した中古商品の買受について条件が固まってきた2015年2月に、被請求人は、日本におけるブランド保護および、悪意の第三者による「PureCycle」商標の取得を阻止することを目的として商標登録出願を行った。
かかる出願経緯において、請求人とUTC社との交渉内容や、出願日以降の2015年10月に請求人がUTC社から在庫商品および商標権を譲り受ける契約が成立することを、請求人と同様にUTC社から在庫商品の買い取り交渉を行っていた被請求人が知りえるはずがない。
3 請求人における事実に反した説明
請求人は、UTC社のIPカウンセルから取得した声明書(甲8)を参照し、「2015年10月28日に全ての『PureCycle』に関連する事業を請求人に譲渡したこと及び被請求人が前記事実を知っていたことについて宣言している」と主張する。
しかし、当該声明書においては、むしろ、2015年10月28日に請求人に対して事業を譲渡するまではUTC社が事業を保有していたことを声明するものであって、2015年10月28日の時点で被請求人が知りえたであろうとしている事実は、UTC社によって「PureCycle」事業が複数の国において行われていたという点にとどまる。
乙第1号証に示すように、被請求人は、UTC社およびP&W社の日本におけるマーケティング活動を協力して行ってきたのであるから、このような声明書を持ち出すまでもなく、「PureCycle」事業が複数の国において行われていたことは当然承知している。請求人は、被請求人における不正な目的の存在を印象付けるために、「2015年10月28日に全ての『PureCycle』に関連する事業を請求人に譲渡したこと及び被請求人が前記事実を知っていた」という、事実に反した説明を行っているように見受けられる。
請求人は、「UTC社と2015年10月に契約を結び、UTC社が展開する地熱発電関連事業を買収した」と主張する。しかしながら、乙第3号証に示すように、P&W社は三菱重工に買収され、現在はPWPS社として営業されている。また、乙第5号証に示すように、在庫の「PureCycle」商品に対する品質保証機能は、PWPS社から提供されるのであるから、請求人の主張は事実に反するものである。請求人が提出した甲第4号証の2は、請求人は、あくまでもUTC社が所有する商標権を含む資産を、UTC社から譲り受けた事実を示すものにすぎない。
このように、請求人は、証拠として提出した文書の記載に関する事実に反した説明を行うことによって、被請求人における不正の目的の存在を印象付ける主張を行っているのである。
さらに、請求人は、「請求人とUTC社は、UTC社が所有していた全世界の特許権及び『PureCycle』を含む商標権に関する譲渡契約を結んでいる」と、あたかも全世界における権利を取得したかのように主張する。しかし、甲第4号証の2によれば、「買主は、使用のフィールド外で、譲渡されたマークを使用してはならず、世界のどこでも、使用のフィールド以内を除くすべての場合に、譲渡されたマークを、(1)商標登録、(2)補助登録、(3)他のそのような登録、または、(4)このような譲渡された標章を使用する目的で登録を提出することの何れかのために登録するつもりはないことを表明、保証します。」と請求人は宣言しており、譲渡されたマークを特定する「APPENDIX A Assigned Trademark」に記載された商標権は米国商標のみである(甲4の2、第9条参照)。
請求人は、甲第4号証の2の翻訳文として当該「APPENDIX A Assigned Trademark」部分の日本語訳を提出せず、かかる限定を意図的に隠しているように見受けられる。
また、請求人は、2015年12月22日に、この宣言に反すると考えられる商標登録出願を行っている(乙8)。
4 被請求人における不正の目的の不存在
上述のとおり、被請求人は、2008年12月の設立以来、UTC社およびP&W社との密なる協力関係の下で、日本における「PureCycle」ブランド確立のために尽力してきた。UTC社が複数の国において「PureCycle」商品を提供してきた事実は当然理解しているし、UTC社が、2013年5月17日にP&W社を三菱重工に売却して事実上事業から撤退した後は、「PureCycle」商品を新規に製造することなく、在庫商品と知的財産の売却のみを行っていたことも把握している。
「PureCycle」商品を導入した発電プラントでは、UTC社の事実上の事業撤退に伴って運用に支障をきたすケースも発生していた。被請求人が設立以来培ってきたP&W社との信頼関係は、既存の「PureCycle」ユーザーに認識されており、2016年4月に既存のユーザーに対して「PureCycle」プラントを遠隔監視するサービスの提供を開始し、海外ではすでに顧客を獲得している(乙9)。
被請求人は、日本において、かつてP&W社が製造した「PureCycle」商品を中古市場から調達して販売する業務を継続して行っており、日本において「PureCycle」商標を所有し、ブランドを維持することは、被請求人の事業にとって重要な意義があるので、商標権の取得において不正の目的は一切ないことは明白である。
5 結論
したがって、「被請求人が、本件商標『PureCycle』が我が国で登録されていないことを奇貨として、高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの、又は外国の権利者の国内参入を阻止若しくは代理店契約締結を強制する目的で出願したものであり、又は引用商標の顧客吸引力を希釈化若しくは便乗し不当な利益を得る目的のもとに出願し、権利を取得したものであることは明白であり、その登録には不正の目的があったというべきである」との請求人の主張は失当である。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
請求人の主張及び提出の証拠によれば以下の事実が認められる。
(1)請求人について
請求人は、1991年に設立された中国に本拠を置く法人(空調設備会社)であり、日本においても「株式会社天加日本研究所」という法人を平成26年(2014年)11月19日に設立している(甲2)。
また、請求人は、アメリカの発電機開発メーカーであるUTC社と、本件商標の登録出願日より後の2015年10月に、UTC社の保有資産であるPureCycle発電機及びパーツの譲渡契約を締結し、米国で商標登録した「PureCycle」商標の商標権も同日に譲渡契約を締結している(甲4)。
(2)UTC社による引用商標の使用
ア 甲第3号証によれば、UTC社は、自社のホームページにおいてプレスリリース記事として以下の事項を掲載していた。
(ア)自社の地熱発電システム「PureCycle」が、R&D雑誌により、前年に開発された最先端技術100の1つに選ばれたことを2007年7月12日に掲載(甲3の2)。
(イ)UTC社の子会社であるUTC POWER社がナショナルエナジーリソーシーズオーガニゼーションからイノベーションアワードを受賞したこと、2006年からアラスカのチナ温泉リゾートで運転されて注目されていること、レーサーテクノロジーズ社がPureCycleのシステムを200個注文したこと等を2008年6月11日に掲載(甲3の6)。
(ウ)オレゴン工業大学が「PureCycle」を取り付けていることを2009年5月4日に掲載(甲3の4)。
(エ)2010年にアジア市場で初めて「PureCycle」の注文を受けたことを2010年8月30日に掲載(甲3の10)。
(オ)2011年にオーストラリアのギンピーティンバー社から注文を受けたことを20011年1月19日に掲載(甲3の9)。
(カ)PWPS社がトルコの企業から3つの「PureCycle」の注文を受けたことを2011年1月28日に掲載(甲3の3、甲3の8)。
イ 他の記事
(ア)UTC Power社が2004年9月7日にビジネスワイヤを通じて追加排出なしで廃熱を再利用して発電を行う「PureCycle」を紹介した記事(甲3の1)。
(イ)articles.courant.comにおける「PureCycle」の紹介と、「PureCycle200」が最初の1年間で5百万ドルの収益を取得した旨の2004年8月29日の記事(甲3の7)。
(ウ)ニューメキシコ州に設置された「PureCycle」の性能について紹介するGreen Progressの記事(甲3の5、掲載時期は不明)
ウ 独立行政法人産業技術総合研究所による2000年から2009年の動向をまとめた「世界の地熱開発動向」資料において、米国の動向として、UTC社のリーフレットから「PureCycle Power System Model 280」が紹介されている(甲3の11 資料作成時期及び公表時期不明)
(3)請求人を登録権利者とする各国の「PureCycle」商標登録状況
甲第5号証によれば、請求人は、米国、欧州連合、スウェーデン、香港、シンガポール及び台湾において、「PureCycle」の文字からなる登録商標を保有していることが認められるが、登録商標を有することが直ちに「PureCycle」商標が周知であることを立証するものではない。
(4)以上の事実を総合すると、請求人が地熱発電機「PureCycle」等の資産を譲渡されたUTC社は、自身のホームページで2007年から2011年にかけて5回程度、第三者のニュースリリース記事において3回程度、地熱発電機「PureCycle」の機能や受注状況が紹介されているが、そのほとんどが、UTC社自身のホームページによる紹介であり、他社の3つの記事にしてもUTC社によるプレス発表内容を伝えるもの、掲載時期の不明なもの等であること、また、上記(2)及び(3)以外に「PureCycle」商標の具体的な使用状況、使用期間、販売数量、売上げ、シェア、広告宣伝の規模等の事実を示す証左の提出もないことから、請求人の提出する資料をもっては、引用商標が本件商標の出願日に既に、請求人又はUTC社の業務に係る商品であることを表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができない。
2 商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は,上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人又はUTC社の業務に係る商品であることを表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができない。
したがって、商標法第4条第1項第19号所定の他の要件について判断するまでもなく、本件商標は、同号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものではないから、その登録は、同法第43条の3第4項の規定により維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
審理終結日 2017-06-29 
結審通知日 2017-07-07 
審決日 2017-07-25 
出願番号 商願2015-14232(T2015-14232) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (W07)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大渕 敏雄 
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 冨澤 武志
今田 三男
登録日 2015-08-28 
登録番号 商標登録第5788076号(T5788076) 
商標の称呼 ピュアサイクル 
代理人 TRY国際特許業務法人 

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