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審決分類 |
審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W25 審判 一部無効 外観類似 無効としない W25 審判 一部無効 観念類似 無効としない W25 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W25 審判 一部無効 称呼類似 無効としない W25 |
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管理番号 | 1334471 |
審判番号 | 無効2016-890071 |
総通号数 | 216 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2017-12-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-11-21 |
確定日 | 2017-10-16 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5561723号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5561723号商標(以下「本件商標」という。)は,「SOIL&RAIN」の文字を標準文字で表してなり,平成24年8月10日登録出願,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(『靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具』を除く。)」及び第24類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同25年1月30日に登録査定,同年3月1日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。 第2 引用商標 請求人が,本件商標の登録の無効の理由に引用する登録第4741380号商標(以下「引用商標」という。)は,「SOIL」の欧文字を標準文字で表してなり,平成15年2月12日登録出願,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として,同16年1月16日に設定登録され,その後,同25年9月10日に商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は,本件商標はその指定商品中,第25類「全指定商品」(以下「無効請求商品」という。)についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第265号証(枝番を含む。)を提出した。 なお,証拠において,全ての枝番を示す場合は,以下,枝番を省略する。 1 請求の理由 (1)引用商標の周知性 ア 引用商標のコンセプト・沿革 引用商標は,「土,大地」等の語義を持つ英語の「soil」からなり(甲7),請求人は,この「土,大地」からイメージされる天然素材に強くこだわり,天然素材を多く使用して,着心地がよく,そして,着回しのきく,ナチュラルテイストのアパレルブランドを展開すべく(甲8),旧商標権者から平成17年にその商標権を譲り受けたものである(甲4)。主にインドを生産拠点とし,素材と手作業ならではの風合いをデザインにも反映させ,流行に左右されることのない「独自の世界観によるエイジレス(不朽)な物作り」をブランドコンセプトとしてきた(甲8)。 そのプロダクトラインは,スカート,ジャケット,ワンピース等の被服(甲8)や靴類であり(甲9),主たるターゲット・需要者層は30代から50代の女性である。その商品は,請求人の直営店舗である「BUCOLIC&FROLIC」(甲9,甲10)や得意先の販売店舗(甲15)やオンラインショップ(一例として,甲77,甲78)にて販売され,引用商標は,主に,商品の織ネームや下げ札(甲8,甲10)等に使用されてきている。 これらの商品が,平成18年から今日に至るまで製造されてきたことを示す製造発注書(甲11)は,商社宛てのものであり,この発注書に基づき商社が海外(主にインド)へOEMを委託している。 イ 引用商標に係る商品の売上高 「SOIL」ブランドは,平成10年から製造販売が開始され(甲84),平成15年から平成18年までの5年間は,約5億円の売上高をあげ,平成19年以降は,甲第12号証に示す売上高を記録した。 平成21年以降,「SOIL」ブランド単独の売上は減少しているものの,これは「SOIL」ブランドの好調を受け,ハイクラスラインの派生ブランドである「maison de soil」の展開が平成21年に開始され,そちらに請求人会社のリソースとファンが分散したことによるものである。この派生ブランド「maison de soil」を合わせた売上実績は甲第12号証及び甲第13号証のとおりである。 なお,この派生ブランドは,本体である「SOIL」ブランドとコンセプトやプロダクトラインが基本的に共通しており(甲14),それぞれの販売が「SOIL」及び「maison de soil」ブランド総体でのブランドイメージ及び知名度を上げる効果を発揮してきている。 このように,年平均にすると約4億2千万円(小売ベース)を売り上げているものである。特に,本件商標の登録出願日である平成24年8月10日までの売上を見ても,実に約6年もの間,ほぼ4億円程度の売上,多い年には5億5千万円以上の売上を達成している(なお,特に売上の少ない平成22年はリーマンショック後のアパレル不況が我が国を襲った年である)。 ウ 引用商標の販売地域 「SOIL」ブランドの平成19年以降の販売詳細は,得意先(販売店)毎の売上明細書(甲15)のとおりであり,得意先とその所在地が記載されており,その記載から得意先(販売店)が多数であり,また,販売地域も日本全国にわたっている(甲16)。 エ 引用商標を付した商品の製造販売開始と広告宣伝 請求人は,平成18年から引用商標を付した商品の製造販売を開始しており,そのブランドは,得意先(販売店)の商品カタログ(甲17?甲24)にも掲載されてきている。 また,「SOIL」ブランドについては,その販売開始以降,様々な人気雑誌に広告が頻繁に掲載されている(甲25?甲71)。これらは,請求人が雑誌社に商品を提供して雑誌に商品とブランドを掲載してもらう,いわゆるタイアップ広告と呼ばれるものが主であって,その雑誌のうち,請求人が調べた範囲で判明した各誌の発行部数は,「リンネル」約19万3千部(月刊),「FUDGE」約13万2千部(月刊),「InRed」約26万部(月刊),「ヌーコンフィー」約10万部(季刊),「ナチュリラ」約5万2千部(季刊),「天然生活」4万8千部(奇数月発行),「レタスクラブ」約25万2千部(月2回刊)である(甲72?甲75)。 なお,これらの雑誌には,引用商標のほか,それを片仮名で表した「ソイル」の商標も使用されている。商標「ソイル」はその称呼・観念が「SOIL」と同一であり,引用商標と社会通念上同一の商標であって,この「ソイル」商標の使用実績も引用商標の周知性を高める上で大きく寄与している。 また,これらの雑誌においては,引用商標や「ソイル」は比較的小さく表されているが,昨今のファッション雑誌においては,モデルの着ている服がどこのブランドかということを,このように控えめに表示することが広く一般的に行われている。雑誌の購入者(被服,靴類の需要者層と重なる)は,たとえ比較的小さな文字で表されたものであっても,その掲載商品とブランドとを興味をもって注意深く見,気に入った商品があれば,雑誌に掲載されたメーカーや販売店の連絡先へ問合せをして購入するのであり,引用商標と商標「ソイル」の記載(甲25?甲71)は,ブランドが大書された広告とそれほど変わらない広告効果を有し,引用商標の知名度の向上に貢献している。 オ 小括 引用商標に関する取引実情及び広告宣伝の状況は上記したとおりであり,本件商標の登録出願日まで約6年もの間,日本全国において大々的に販売,広告がされてきた。このことから,少なくとも,本件商標の登録出願日までには,我が国の被服,靴類の関連需要者(特に,若い女性)及び取引者の間で引用商標が広く知られるに至っていた。 (2)商標法第4条第1項第11号該当性について 上記した引用商標の周知性を前提に,以下のとおり,本件商標と引用商標との類否について述べる。 ア 引用商標の外観,称呼,観念 引用商標は,「SOIL」の欧文字からなり,その文字に相応して英語風に「ソイル」の称呼を生じ,「土,大地」の観念を生じる(甲7)。 イ 本件商標の外観,称呼,観念 本件商標は,「SOUL&RAIN」の欧文字及び記号からなり,その全体から構成文字に相応して英語風に「ソイルアンドレイン」という称呼及び「土と雨」のごとき観念を生じ得る。 これに加え,本件商標は,経験則上,語頭の「SOIL」の部分が目立ち,また,「&」の文字が「SOIL」と「RAIN」の部分を繋いでいることが一見して分かり,外観構成上「SOIL」の部分がやや目をひく。さらに,上記したように,請求人が平成18年以来,長年にわたって商品「被服」及び「靴類」につき使用してきた商標として引用商標が需要者・取引者の間で広く知られている取引実情をも考慮すると,本件商標の「SOIL」の部分は,需要者・取引者の目を特に強くひきつけるものである。よって,本件商標からは,「ソイル」の称呼及び「土,大地」の観念をも生じる。 ウ 本件商標と引用商標の比較 このように,本件商標と引用商標とは,本件商標の「SOIL」の部分が需要者等の注意を強くひきつけるという事情があるから,その外観と,「SOIL」から生ずる「ソイル」の称呼及び「土,大地」の観念が共通しているのであり,需要者・取引者にとって相紛らわしく類似する。 よって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても相紛らわしい類似の商標である。 エ 本件商標と引用商標の指定商品の類否について 本件商標の指定商品中,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」と引用商標の指定商品とは同一又は類似の商品である。 オ 小括 よって,本件商標は,登録出願日前の商標登録出願に係る他人の引用商標に類似する商標であって,その登録に係る指定商品に同一又は類似の商品について使用するものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第10号該当性について ア 上記(1)のとおり,引用商標は,遅くとも本件商標の登録出願日までには,我が国の「被服」及び「靴類」の関連需要者(特に,30代から50代の女性)及び取引者の間で広く知られるに至っていた。 また,本件商標と引用商標は,外観,称呼及び観念において相紛らわしく類似する。 さらに,本件商標の指定商品中,第25類の指定商品と,引用商標が使用されている「被服」や「靴類」とは同一又は類似の商品である。 イ 小括 よって,本件商標は,他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって,その商品と同一又は類似の商品に使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。 (4)商標法第4条第1項第15号該当性について ア 上記(1)のとおり,引用商標は,「被服」及び「靴類」について,関連需要者・取引者に広く知られるに至っている。 よって,比較的目立つ語頭に「SOIL」の文字を有し引用商標と紛らわしい本件商標は,その指定商品に使用された場合,少なくとも引用商標の使用されている「被服」や「靴類」と関連の深い第25類の指定商品に関し,その商品が他人の商品に係るものであると誤信され,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがある。 また,その商品が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であるかのように誤信されるおそれがあり,いわゆる広義の混同をも生じるおそれがある。 イ 最高裁判例において説示された判断基準 商標法第4条第1項第15号に該当するか否かの判断基準及び判断手法について,レールデュタン事件の最高裁判例に示された各基準に沿って以下のとおり論ずる。 (ア)出願商標とその他人の標章との類似性の程度 上記2のとおり,本件商標の語頭部の「SOIL」は,需要者等の目をひき,本件商標は引用商標と外観,称呼及び観念上において類似する。 (イ)その他人の標章の周知度 上記(1)のとおり,引用商標は,商品「被服」や「靴類」について,本件商標の登録出願前に長きにわたって使用され,その商品は日本全国に決して少なくない数が販売されているものであり,また,雑誌広告も頻繁にされているものであって,本件商標の登録出願前には既に関連需要者・取引者の間で広く知られていた。 (ウ)その他人の標章が造語よりなるものであるか,又は構成上顕著な特徴を有するものであるか 引用商標は,既存の英語からなるものではあるが,商品「被服」や「靴類」等のいわゆるアパレル商品との関連で使われることはありふれておらず,引用商標は,商標として十分な独自性を有する。 (エ)その他人の標章がハウスマークであるか 引用商標は,請求人のハウスマークではないが,上記(1)のとおり,レディース向けアパレルブランドとして成功を収めており,関連業界の経験則上,これを利用したスピンオフのマーケティング展開がなされても不思議ではない。事実,請求人の「maison de soil」という派生ブランドがあることは上記のとおりである。 (オ)企業における多角経営の可能性 多角経営というわけではないが,上記(1)のとおり,引用商標の成功を受けて,派生ブランド「maison de soil」が展開されている。 本件商標は,請求人が展開するそのような派生ブランドの一つとして,需要者・取引者に誤信されるおそれが高い。 (カ)商品間,役務間又は商品と役務間の関連性 上記(1)のとおり,本件商標の指定商品中,第25類の「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子」と,引用商標が使用されている「被服」とは同一又は類似の商品であり,その関連性は極めて高いことはいうまでもない。また,本件商標の指定商品中,第25類の商品「靴類(『靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具』を除く。)」も,引用商標が使用されている「靴類」と同一又は類似の商品であり,関連性が非常に高い。さらに,本件商標の指定商品中,第25類の商品「靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(『靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具』を除く。)」は,引用商標が使用されている「被服」と同様に,アパレルメーカーがプロデュースし販売する場合の多い商品であり,引用商標の使用されている「被服」との関連性も高い。 (キ)商品等の需要者の共通性その他取引の実情 a 商品の需要者の共通性 本件商標の第25類の指定商品「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子」と,引用商標の使用されている「被服」は,ほぼ同一の商品であり,その需要者が共通していることは明らかである。 また,本件商標の指定商品中,第25類の商品「靴類(『靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具』を除く。)」と,引用商標の使用されている「靴類」もほぼ同一の商品であり,その需要者が共通している。 さらに,本件商標の指定商品中,第25類の商品「靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(『靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具』を除く。)」と,引用商標の使用されている「被服」も,いわゆるアパレル商品として同じ販売店に置かれることが多く,引用商標の指定商品と需要者が共通している。事実,上記のように,引用商標のもとで,被服も靴類も同じ女性層に向けて請求人により販売がされている。 b その他取引の実情 インターネット上の検索エンジンであるGoogleで「SOIL」と「レディース」を検索語として検索をすると,請求人による引用商標が冒頭で多くヒットしてくる(甲77)。このことは,「SOIL」の語を使ったブランドが,請求人の製造販売に係るものであると需要者に理解されやすい状況にあることが示されている。 また,インターネット上のショッピングモールである楽天市場において「SOIL」を検索語として検索しても,請求人による引用商標がトップにヒットし,ヒット数も大部分を占める(甲78)。 他方,その楽天市場における検索結果の中に,本件商標が,請求人の引用商標のヒット結果に紛れ込んでくるものであり,各ブランドの販売主体(商品の出所)が非常に紛らわしい(甲78)。 実際,昨年頃から,本件商標の商品に接した需要者より,「SOIL&RAIN」ブランドに関する問合せや,「『SOIL』や『maison de soil』のシリーズで『SOIL&RAIN』というものが出たのか」などといった問合せを請求人が受けることがあり,現実の取引市場においても商品の出所混同が生じているところである。 また,本件商標権者のホームページ(甲79)や販促用フェイスブックページ(甲80)を見ても,請求人とブランドコンセプトが酷似しており,販売されている商品も,引用商標のそれと同じ風合いのもので,需要者等がこれらを同じ事業者,あるいは,何らかの関係のある事業者が販売する商品と誤認混同するおそれが高いといわざるをえない。 ウ 小括 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。 2 答弁書に対する弁駁 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 被請求人が請求人のブランドを不知であったとしている点について 請求人は,神戸に本社を置くものの,「SOIL」ブランドは従来から東京で販売されており,その旗艦店「BUCOLIC&FROLIC」を東京都渋谷区恵比寿南に持ち(甲8),そこでも「SOIL」ブランドを販売している。被請求人の本社は東京都千代田区神田須田町であり,この旗艦店からほんの10キロ程度しか離れておらず(甲81),商圏は共通している。このような中で,競合相手に敏感であるはずのアパレル企業が,同じ商圏の,それも一定程度以上に人気のあるブランドを「社員誰一人として」知らないということはあり得ないといわざるを得ない。なお,請求人の「SOIL」ブランドを取り扱うショップと被請求人の「SOIL&RAIN」ブランドを取り扱うショップは,一部の納入先が共通しており市場が共通している(甲79,甲82)。また,被請求人は「FUDGE」,「リンネル」といった雑誌にタイアップ広告をしており(甲80),これは請求人がタイアップ広告をしているのと同じ雑誌であり(甲25,甲27?29,甲35?37,甲42,甲44,甲47,甲48,甲53,甲59?61,甲65?70),両ブランドのターゲット層が共通している。 通常,アパレル企業は,ブランドの展開に先立ち市場調査を実施し,競合相手とそのブランドを幾分でも分析するとともに,先行する登録商標や出願商標の調査も実施するのが常である。請求人の「SOIL」ブランドも,被請求人の「SOIL&RAIN」ブランドも,インドの国名をうたい天然素材やナチュラル感をセールスポイントとした商品を展開している点においてコンセプトは酷似し(甲8,甲79,甲80,甲83),市場・商圏もバッティングしているところ,「SOIL」の語を共通にする既登録の先行ブランドがあったにもかかわらず,それに関し被請求人が何も知らなかったというのは業界関係者からすれば理解し難く,その主張には無理がある。また,全く同じ号の雑誌に両ブランドのタイアップ広告が掲載されており(甲69),本件無効審判請求書を見るまでは引用商標を知らなかったとの被請求人の主張は到底認めることができない。 イ 引用商標の周知性について (ア)被請求人が既存語の商標が周知となるためには特別長い年数使用されていなければならないと主張していると推測されることについて 被請求人は,引用商標が造語商標でなく,辞書に載っているような既存語からなる商標であるから簡単には周知商標として認めるべきでないと主張しているものと思われる。 しかしながら,商標が看者の目をひくかどうかは,商標を構成する語が既存語か造語かという点よりも,使用される商品との関係で商標を構成する語が特徴的かどうかという点が重要である。本件についていえば,引用商標を構成する「SOIL」は「土,大地」を意味し,商品「被服」等との関係では何ら商品の内容を記述するものでなく,ありふれて使用される語でもなく,造語商標と遜色ないほどに特徴的で看者の目をひくものであって,それが周知商標となるのに造語商標に比べ格別高いレベルの商標の使用が要求されていると考えるべき合理的な理由はない。 (イ)引用商標の周知商標であり続けていることについて a 引用商標「SOIL」の売上高に関し 被請求人は,引用商標「SOIL」が平成24年の段階で需要者の間に広く認識される商標となっていたのなら「SOIL」ブランドの売上高の低下を来すことはなかったと述べているが,既に述べたとおり,「SOIL」ブランド単体での売上高の減少は平成21年以降に派生ブランドである「maison de soil」の展開がされ,そちらに請求人会社のリソースとファンが分散したことによるものであり,「SOIL」ブランドとその派生ブランドの総体ではブランドの売上高は維持されており,派生ブランドの展開前に築きあげられた「SOIL」ブランドの周知性も維持されている。そして,この派生ブランドが「SOIL」ブランドの派生ブランドであることは,需要者や取引者に素直に認識され受け容れられており,これらが総体で周知性やブランドカを維持しているとの請求人の主張に別段の飛躍はない。 b 引用商標「SOIL」のブランド等が有名セレクトショップで人気商品であることについて 「SOIL」ブランドや「maison de soil」ブランドは,全国的に有名なセレクトショップである「JOURNAL STANDARD」(株式会社ベイクルーズ社の主力ブランド)や「URBAN RESEARCH DOORS」(株式会社アーバンリサーチの主力ブランド)においても販売されており,たとえば,「URBAN RESEARCH DOORS」のブログにもあるように,定番アイテムといえるほどの人気ブランドとして認識されている(甲86)。 その販売商品の中でも,「SOIL」は上記のとおり人気ブランドの一つであり,特に,「JOURNAL STANDARD」においては,2009年から2016年までの8年間に約3億5000万円の商品が販売されており,「maison de soil」も同時期で約1億3000万円の商品が販売されている(甲90,甲91)。 「SOIL」ブランド及び「maison de soil」ブランドは,「JOURNAL STANDARD」や「URBAN RESEARCH DOORS」の商品カタログにも頻繁に掲載されている。「JOURNAL STANDARD」の商品カタログには,平成10(1998)年以降,掲載されている。これらはいわばショップを1冊の本で表現したものである。「JOURNAL STANDARD」の商品カタログ(甲92)には,「SOIL」ブランドが巻頭の2頁を含む計7か所に掲載されており,これは異例の掲載数であって,「JOURNAL STANDARD」の取扱いアイテムの中で「SOIL」ブランドがかなり主力の人気ブランドであったことがうかがえる。 c 「SOIL」ブランドの兵庫県・大阪府の販売先と全国への販売について 被請求人は,引用商標「SOIL」ブランドの兵庫県や大阪府における販売先がそれぞれ5店舗で少ないと主張しているが,甲第15号証に表れた販売先は,必ずしも全ての店舗を網羅したものではなく,「SOIL」ブランドは,実際には,両府県合わせて29店舗に販売がされている(甲90,甲91)。その中でも,阪急・阪神百貨店は,関西では非常に人気のあるメジャーな百貨店であり,そこで販売されているということは,「SOIL」ブランドが相当程度,需要者から支持を得ていることの証左である。 また,被請求人は,今日ではインターネットの普及により,誰でもどこにいても簡単に商品を購入することができるから,販売地域が全国に散らばることは当然であると主張しているが,請求人の「SOIL」ブランドは全国各地のセレクトショップ・小売店に販売され,そこから最終消費者に販売されているのであり,被請求人のこの主張は,本件における具体的事情とは全く噛み合っておらず失当である。もちろん,請求人においても,自身のウェブサイトを通じて最終消費者への販売も行っているが,本件で着目されるべきは「SOIL」ブランドが全国各地のセレクトショップ・小売店を通じ長年販売されているという事実である。このように約20年もの長きにわたり全国各地から注文が絶えないということは,全国各地にブランドのファンがいるということであり,全国各地の取引者にブランドが支持されているということを意味する。 d 新規の引き合いについて 平成26(2014)年から平成29(2017)年までのホームページを通じた新規引き合いを抜粋した資料(甲93)から,請求人へ全国から頻繁に新規引き合いのオファーがあることが見て取れる。このことは,全国のアパレル関係の小売店にとって,請求人の製造販売する「SOIL」ブランドに魅力があることを示しており,全国的にもブランドが認知され人気の高いことがうかがえるものである。なお,請求人は,引き合いがあっても,既存取引先と地域的にバッティングしている場合には,新規取引を断ることも多く,インドで生産できる商品のキャパシティを急に増やすことができないという問題もあり,新規取引を断らざるをえないケースもあって,そのため売上高が伸びに欠けている部分は否定できない。しかし一方で,そのような取引先の厳選をしているお陰で,ブランドに一種の希少価値あるいは信頼感が出ており,それがブランドへの人気の一因にもなっている。 e 雑誌におけるタイアップ広告について 「SOIL」ブランドは,平成20(2008)年以降,頻繁に様々な人気雑誌に登場している(甲25?80,甲95?甲265)。 なお,被請求人は,タイアップ広告はブランドが目をひくよう構成されていないから,特定ブランドを需要者に強くアピールすることはないと答弁書で述べている。しかしながら,雑誌広告には,雑誌の1頁を丸ごと使ったような個別広告と本件で示したようなタイアップ広告があるが,高額な個別広告をするのは今日では一部の有名ブランドがほとんどとなっており,大半のブランドはタイアップ広告を通じてブランドの広告・アピールをしている。タイアップ広告に当たり,広告料を支払うメーカーもあるが,請求人の場合は,基本的に,雑誌の編集者やスタイリストから「雑誌に掲載する商品を探しているので見せて欲しい」,「この商品を掲載したい」といった連絡を受け,それに対応して商品を無償で貸し出し,雑誌に掲載してもらうことがほとんどである。タイアップ広告は「編集者がセレクトした注目アイテム」という受け止め方が読者にされやすく好意的に受け容れやすいもので,明らかな広告ページよりも広告としての効果が高い。需要者はタイアップ広告の商品とブランドを大いに興味を持って見るのであり,タイアップ広告によって,知名度は確実に上がる。でなければ,アパレル企業がこれほど盛んにタイアップ広告をする理由がない。被請求人自身も,甲第80号証にあるように,「FUDGE」,「リンネル」といった雑誌に取り上げられたとアピールし(甲80),商品の宣伝にタイアップ広告を利用しており,この面でもタイアップ広告の需要者に対する訴求力が分かる。 請求人が運営する旗艦店も,上記の「BUCOLIC&FROLIC」に加え,平成29(2017)年3月には「maison de soil」という店舗が,一等地である東京丸の内の新丸ビル内にオープンしている(甲94)。 f 以上に述べたように,引用商標「SOIL」が長年にわたり全国各地のセレクトショップ及び小売店を通じ,また,インターネットを通じ販売され,雑誌広告も頻繁にされてきたもので,この請求人の長年の営業活動により,引用商標「SOIL」は被服及び靴類の需要者・取引者の間で広く認識されるようになった周知の商標であることに疑いはない。 (ウ)本件商標と引用商標の類否について 被請求人は,本件商標「SOIL&RAIN」全体から「雨降って地固まる」という観念が生ずると主張しているが,本件商標を構成する各語を解釈しても決してそのような全体的な観念は生じない。「SOIL」は「土,大地」,「&」は「と」,「RAIN」は「雨」であり,「SOIL&RAIN」からは「雨降って地固まる」のような一連の観念が生ずることはなく,「土と雨」という「土」と「雨」が並列的に続くような全体観念が生ずるのみである。本件商標「SOIL&RAIN」の「SOIL」と「RAIN」の意味合い上の結合は決して強いとはいえないものであり,「SOIL」が他人(請求人)の周知商標である場合には,需要者や取引者がこの部分に着目して「土,大地」と観念するところである。 取引実情にも目を向けると,乙第1号証にもあるように,被請求人は,本件商標を実際の取引においては「&」を極めて小さく表し,語頭の「SOIL」が目を惹きやすい構成態様で使用している。被請求人がこのような構成態様で本件商標を使用している取引実情からすると,需要者や取引者は「SOIL」部分に注意をひきつけられやすくなっており,さらに両商標の出所につき誤認混同を生じやすい状況にある。 3 むすび 以上述べたように,本件商標は,本件審判の請求に係る指定商品についての登録は,商標法第4条第1項第11号,同項第10号及び同項第15号に該当し,同法第46条第1項第1号に該当するから,その登録は無効とされるべきである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号について (1)引用商標の周知性 請求人は,引用商標が本件商標と類似であることを主張する論拠として,「引用商標は,遅くとも本件商標の登録出願日である平成24年8月10日までには,我が国の『被服』及び『靴類』の関連需要者(特に,30代から50代の女性)及び取引者の間で広く知られるに至っていたものと認められる。」と主張している。 しかしながら,引用商標の「SOIL」なるブランドは,本件無効審判の請求書を見るまでは被請求人の社員の誰一人として知らなかった。 第25類の商品はアパレル産業に属するもので,アパレル産業には無数と言ってよい程のブランドが氾濫しており,請求人においても甲第8号証に見られるように33ものブランドを有しており,引用商標は,そのうちの一つであって,請求人は,そのような引用商標が本件商標の登録出願日において周知であったと主張している。そこで,引用商標の周知性について,以下に意見を述べる。 ア 引用商標を付した商品の販売期間・売上高 特許庁において認定された周知・著名商標(特許情報プラットホームに掲載されている周知・著名商標)はそのほとんどが創造標章ないし普通名称の結合であって,引用商標のように単一の普通名称からなる周知・著名商標のいくつかを抜粋すると,例えば,イタリヤ:1971年,ギャップ:1969年,クロコダイル:1963年,コブラ:1973年(西暦は商品の販売開始年)等であって,単一の普通名称からなる商標で周知・著名となったものは,かなり古くから使用されていたものであり,そのうち最も新しい「セオリー」(平成9年販売開始)は,乙第2号証に示すとおり我が国で529もの店舗(2016年11月30日現在)を有する株式会社リンク・セオリー・ジャパンのブランドである。 引用商標は,平成18年から平成24年までの6年間の販売により周知となったとのことであるが,何の変哲もない普通名称の引用商標がたった6年間の販売で周知商標となったとはにわかに信じられない。しかも,甲第12号証によると,平成20年から平成24年の間に「SOIL」ブランドの売上高は3億600万円から1億4千7百万円まで年々低下し,平成27年には1億円を切る様相を呈している。この「SOIL」ブランドの売上高の低下は,引用商標のブランド力の無さを示すものである。 アパレル産業においては,ブランドは商品の命というべきものであって,ブランドが需要者の購買意欲を惹起し,ブランドが表象する品質やデザインといった信頼が需要者による継続的な購買につなげるものである。引用商標がもし平成24年の段階で需要者の間に広く認識される商標となっていたのなら,上記のような「SOIL」ブランドの売上高の低下を来すことはなかったはずである。 前掲の「セオリー」ブランドは,乙第2号証に示すとおり年間800億円の売上高を達成している。これと比較すると「SOIL」ブランドの売上高は年間1億4千7百万円という低さである。 以上のように,「SOIL」ブランドの販売実績は非常に短く,しかも売上高は低く年々低迷しているから,これらの事実を見る限り引用商標が周知商標であったとの請求人の主張は首肯できるものではない。 イ 引用商標の広告宣伝と販売地域 請求人は,引用商標については,「その販売開始以降,様々な人気雑誌に広告が頻繁に掲載されている。」と主張している(甲25?甲71)。 しかしながら,それらの広告は全てタイアップ広告であり,タイアップ広告とは広告料の支払に代えて商品を提供して掲載してもらうものである。甲第25号証ないし甲第71号証に見られるように,モデルが身に付けている衣類や靴等にはかなり多くのブランドが用いられており,その中で「SOIL」は,特に目をひくように掲載されている訳ではない。すなわち,タイアップ広告は,モデルが身に付けている商品のいずれかに興味を持った需要者が,細かい文字で列記された複数のブランドの中から「SOIL」又は「ソイル」を探し出す程度の広告であり,週刊誌などに掲載される広告のように,商品提供元の企業名とともに特定ブランドを需要者に強くアピールするものではない。このように,請求人の広告における引用商標は,需要者の間で広く認識され得るようなものではない。 また,請求人の地元の兵庫県及び隣県の大阪府における「SOIL」ブランドの納入実績(甲15の6,2012年)を見ると,兵庫県及び大阪府においても「SOIL」ブランドの納入先はそれぞれ5社しかないことからすると,「SOIL」が兵庫県内及び大阪府の取引者において広く認識されていたとはいえない。 こうして見ると,「SOIL」ブランドの納入先は各都道府県において僅かであることが分かり,今日ではインターネットの普及により,誰でも何処にいても簡単に商品を購入することができるから,特に手頃な価格帯の商品を扱うアパレル産業の場合には,販売地域が全国に散らばることはいわば当然のことである。しかしながら,いずれの地域においても,「SOIL」ブランドを取り扱う取引者は極めて少なく,したがって,引用商標は,各地域においては勿論のこと全国的にも取引者において広く認識されていたとはいえない。 このように,引用商標は,需要者・取引者において広く認識されていたとはいえないから,後述するように引用商標が本件商標と類似であるとの請求人の主張は失当である。 (2)引用商標と本件商標との類否 引用商標は,「SOIL」の欧文字を標準文字で横書きしたものであり,「ソイル」との称呼を生じる。また,「SOIL」は,英語で「土壌」や「土」の意味である。 これに対して,本件商標は,「SOIL」,「&」及び「RAIN」の欧文字を標準文字でつなげて横書きしたものであり,「ソイルアンドレイン」との称呼を生じるものである。また,「SOIL&RAIN」は,土壌と雨の意味であり,その土壌と雨を結合した本件商標においては,「雨降って地固まる」との観念を生じさせる。 一つの普通名称からなる「SOIL」と,二つの普通名称を&でつなげた「SOIL&RAIN」とは,外観も称呼も異なっている。また,「SOIL」は,「土」という観念を生じさせるのに対して,本件商標は,「雨降って地固まる」との観念を生じさせるから観念においても引用商標と相違する。 したがって,引用商標は,本件商標と非類似である。 本件商標は,引用商標が存在しながら商標法第4条第1項第11号を引用されることなく登録査定され,他にも第25類では,「seed+soil」,「RICH SOIL」及び「Soil&Cotton」の登録商標が存在する。 以上のように,本件商標は,引用商標と外観,称呼及び観念において相違し,引用商標とは非類似である。仮に,引用商標が周知商標と認定されたとしても,本件商標は引用商標と外観,称呼及び観念において著しく相違するから引用商標とは非類似である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 2 商標法第4条第1項第10号について 商標法第4条第1項第10号は,基本的には未登録周知商標を保護して出所の混同を防止する規定である。引用商標は,前述のように,販売実績が短く売上高は僅かであり,広告では紙面において多数の他のブランドとの混在であり,しかも納入先は各地域において僅かであるから,需要者・取引者において特定の供給元のブランドとして広く認識されていたとはいえない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第15号について 本件商標は引用商標とは外観,称呼及び観念において異なり非類似であること,引用商標は需要者・取引者の間で広く認識されていたものではないこと,引用商標は普通名称そのものであり創造標章ではないこと,引用商標は請求人のハウスマークではないこと,請求人はアパレル産業専業であり多角経営の可能性は見受けられないことからすると,本件商標は,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標ではない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 4 結語 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項第10号及び同項第15号に該当しない。 第5 当審の判断 1 引用商標の周知著名性について (1)請求人提出の証拠及び請求人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。 ア 請求人は,遅くとも平成14年に「SOIL」ブランドに係る被服及び靴類の製造販売を開始し(甲84),平成17年に旧商標権者から引用商標の商標権を譲り受けた(甲4)。 請求人のホームページには,「BRAND LIST」として33種類のブランドが表示されており,その一である「SOIL」ブランドに関しては,主にインドを生産拠点とし,ナチュラルテイストのアイテムを展開し,流行に左右されることの無い独自の世界観でエイジレスな物作りを目指している旨記載されている(甲8)。 請求人の直営店舗や得意先の販売店舗やオンラインショップにおいて,請求人の取扱いに係るスカート,ジャケット,ワンピース等の被服や靴類が販売されているが,引用商標は,当該商品の織ネームに「styled by SOIL」や下げ札に「SOIL」等として使用されている(甲8,甲10,甲15,甲77,甲78)。 イ 請求人作成(平成28年8月4日)による「SOIL」ブランド売上高証明書(甲12)は,2007(平成19)年から2015(平成27)年までのもので,その売上高(小売)は,平成19年に4億8,100万円,同20年に5億5,600万円,同21年に4億4,000万円,同22年に2億8,200万円,同23年に2億5,300万円及び同24年に2億6,800万円となっており,同19年から本件商標の登録出願時までの売上高は,年々低下の傾向にある状況といえる。 そして,例えば,株式会社リンク・セオリー・ジャパンのホームページ(乙2)には,「セオリー事業全体では2016年8月末の店舗数は530店舗,売上高は800億円規模となっています。」との記載があり,これを参考にしてみると,アパレル産業における「SOIL」ブランドの売上高は,「maison de soil」ブランドの売上高を含めたとしても,多いときでも6億円に満たないものであって(甲12,甲13),当該業界においては決して多いものとはいい難い。 ウ 「SOIL」ブランドに関する得意先(販売店)毎の売上明細書(甲15)及び得意先(販売店)への納品書写し(甲16)は,2007(平成19)年から2012(平成24)年間のもので日本全国において「SOIL」ブランドの得意先(販売店)があり,実際に取引があったことが認められる。 エ 得意先(販売店)の商品カタログ(甲17?甲24)は,2006年から2009年のものであり,「SOIL」ブランドの被服等が掲載されているものの,これらの商品カタログの頒布部数は明らかでない。 オ 本件商標の登録出願前において発行された雑誌については,モデルが着用している被服及び靴類の説明欄に小さく「SOIL」又は「ソイル」として掲載されているところ,当該雑誌は,平成20年,同22年ないし同24年発行の「リンネル」(甲25,甲29,甲35?甲37,甲47,甲48,甲95,甲104,甲105,甲122,甲144),同21年,同23年及び同24年発行の「ヌーコンフィー」(甲26,甲33,甲34,甲96,甲121,甲134),同21年発行及び同22年発行の「FUDGE」(甲27,甲28),同21年及び同23年発行の「大人で可愛いナチュラル服」(甲30,甲38,甲98),同23年発行の「InRed」(甲31)及び「JORNAL STANDARD 2011」(甲32,甲92,甲115),同23年発行及び同24年発行の「クシュフル」(甲39,甲116,甲141,甲142)及び「ナチュリラ」(甲40,甲46,甲118),同22年発行の「イエッテ」(甲106),「オレンジページ」(甲107)及び「天然生活」(甲110),同23年発行の「PS」(甲111),「GINZA」(甲112)及び「いつものアウトドア」(甲114)と認められ,他の雑誌は,本件商標の登録出願後の発行のもの又は請求人に係る「maison de soil」若しくは「メソンドソイル」ブランドに係るものと認められる。 そして,「maison de soil」及び「メソンドソイル」のブランドの表示は,たとえ「maison」が「会社又は店などの意。特にオートクチュールの店(高級衣装店)のことをメゾン・ド・クチュールという。」(甲85)としても,当該ブランドの表示は,雑誌上においてまとまりよく表され,一体的に看取されるものであり,さらに,当該ブランドが「SOIL」又は「ソイル」と略称されている事実は認めることができない。 そうすると,本件商標の登録出願前において,「SOIL」ブランドの商品が雑誌に掲載された回数は,「ソイル」の使用を含めても平成20年から平成24年の間に多くても40回程度と認められ,当該雑誌の発行部数(甲72?甲75)が相当数のものであったとしても,その掲載回数はさほど多いものとはいえない。 (2)以上によれば,請求人は,遅くとも平成14年に「SOIL」ブランドに係る被服及び靴類の製造販売を開始し,平成17年に旧商標権者から引用商標の商標権を譲り受け,請求人の業務に係る被服及び靴類に引用商標を付して,請求人の直営店舗や得意先店舗やオンラインショップにおいて日本全国を対象にして販売していたことが認められる。 しかしながら,平成15年から本件商標の登録出願時までの売上高は,決して多いものとはいえず,また,本件商標の登録出願時において,雑誌における広告はモデルが着用している被服及び靴類の説明欄に小さく「SOIL」又は「ソイル」として掲載されているにすぎないものであり,当該広告の掲載された回数もさほど多いものとはいえないから,これらをもって,引用商標が請求人の業務に係る被服及び靴類を表示するものとして,日本国内の需要者に広く知られていたとはいい難い。 したがって,請求人提出の甲各号証により,引用商標が,本件商標の登録出願時に請求人の業務に係る被服及び靴類を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。 (3)請求人は,「SOIL」ブランドの商品が全国的に有名なセレクトショップである「JOURNAL STANDARD」(株式会社ベイクルーズ社の主力ブランド)の人気ブランドの一つであり(甲86?88),「JOURNAL STANDARD」の商品カタログには,平成10(1998)年以降掲載され,2009年から2016年までの8年間に約3億5000万円の商品が販売されている旨,また,「SOIL」ブランドの商品が兵庫県及び大阪府の29店舗に販売がされ(甲90),その中には,関西では非常に人気のある阪急・阪神百貨店が含まれているから,「SOIL」ブランドが相当程度,需要者から支持を得ている旨主張する。 しかしながら,「SOIL」ブランドが,上記セレクトショップの商品カタログに掲載され,2009年から2016年までの8年間にそれ相当の売上げがあるとしても,本件商標の登録出願(平成24(2012)年8月10日)前の売上げについては明らかにしておらず,また,上記8年間の売上げについても,上記セレクトショップ全体の売上げのうち,どの程度の割合を占めているのかも明らかでない。しかも,上記8年間の約3億5000万円の売上げは,年平均すると約4,400万円程度にすぎずないものである。そして,請求人が,「SOIL」ブランドが「JOURNAL STANDARD」の商品カタログに掲載されているとして,証拠として挙げる2011(平成23)年版のカタログ(甲92)についても,「SOIL」(ただし,誌面上の表記はいずれも「ソイル」の片仮名)ブランドの商品が7か所掲載されているものの,当該カタログは64頁からなるものであって,各頁には他のブランドに係る商品も多数掲載されていることから,当該事実をもって,「SOIL」ブランドの商品が「JOURNAL STANDARD」の主力商品として我が国の取引者,需要者の間に広く認識されているものとは認めることができない。 さらに,「SOIL」ブランドの商品が,兵庫県及び大阪府の29店舗に販売され,その中に阪急・阪神百貨店が含まれているとしても,そもそも,百貨店では他のブランド商品も多数取り扱っているから,当該百貨店の取扱いをもって,「SOIL」ブランドが相当程度,需要者から支持を得ており,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されているものと認めることもできない。 2 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標について 本件商標は,上記第1のとおり,「SOIL&RAIN」の文字を標準文字により表してなるところ,同書,同大,同間隔で外観上まとまりよく表されており,その構成中の「SOIL」の文字部分のみが,格別に看者の注意をひく態様のものとはいえない。 また,本件商標の構成文字全体から生ずると認められる「ソイルアンドレイン」又は「ソイルレイン」の称呼も,よどみなく称呼し得るものといえる。 さらに,本件商標を構成する「SOIL&RAIN」の文字は,辞書等に掲載が認められないものであるとしても,その構成文字中,「SOIL」及び「RAIN」は,それぞれ「土」及び「雨」の意味を有する英語として親しまれているといえるから,全体の構成文字から「土と雨」程の観念を生じるというべきである。 以上のことに加え,上記1(2)のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時において,請求人の業務に係る被服及び靴類を表示するものとして,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認められないのであるから,本件商標は,その構成中の「SOIL」の文字部分のみが需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとは認めることができない。 したがって,本件商標は,構成全体をもって,一体不可分の商標を表したものと認識されるといえるから,構成文字全体に相応して,「ソイルアンドレイン」又は「ソイルレイン」の称呼を生ずるものであって,「土と雨」程の観念を生じるということができる。 (2)引用商標について 上記第2のとおり,引用商標は,「SOIL」の欧文字からなるものであるから,その構成文字に相応して,「ソイル」の称呼及び「土」の観念が生じること明らかである。 (3)本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標の構成は,それぞれ,上記(1)及び(2)のとおりであるところ,本件商標が「SOIL&RAIN」の文字で構成されているのに対して,引用商標は,「SOIL」の欧文字により構成されていることから,本件商標と引用商標とは,「&RAIN」の文字の有無において明らかに相違し,外観上,明確に区別し得るものである。 次に,称呼については,本件商標は,「ソイルアンドレイン」又は「ソイルレイン」の称呼が生じ,また,引用商標は,「ソイル」の称呼が生ずるものであるから,両者は,「アンドレイン」又は「レイン」の音の有無において明らかに相違し,称呼上,明らかに聴別し得るものである。 さらに,観念については,本件商標は,「土と雨」の観念が生じ,引用商標は,「土」の観念が生じるから,全体として観念において類似するとはいえない。 そうすると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても,相紛れるおそれがない非類似の商標というべきである。 したがって,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であるから,たとえ,その指定商品が同一又は類似のものであったとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 3 商標法第4条第1項第10号及び同項第15号該当性について 本件商標と引用商標とは,上記2(3)のとおり,相紛れるおそれがない非類似の商標である。 そして,引用商標は,上記1(2)のとおり,本件商標の登録出願時において,請求人の業務に係る被服及び靴類を表示するものとして取引者,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることができない。 してみれば,本件商標は,商標権者がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しない。 4 請求人の主張について 請求人は,その他取引の実情として,インターネット上において,請求人による引用商標が冒頭で多くヒットし(甲77),ショッピングモールである楽天市場において「SOIL」を検索しても,請求人による引用商標がトップにヒットし,ヒット数も大部分を占める(甲78)ところ,その楽天市場における検索結果の中に,本件商標が,請求人の引用商標のヒット結果に紛れ込み,各ブランドの販売主体(商品の出所)が非常に紛らわしく(甲78),また,本件商標のブランドコンセプトが酷似し,販売されている商品も引用商標と同じ風合いであって(甲79,甲80),昨年ごろから,本件商標の商品に接した需要者より,「SOIL&RAIN」ブランドに関する問合せを受けることがあり,現実の取引市場においても商品の出所混同が生じているところであると主張している。 しかしながら,当該インターネットの状況(甲77,甲78)は,2016年7月25日出力のものであるから,本件商標の登録出願時及び登録査定時の状況でないことは明らかであり,また,需要者からの問い合わせにおいても,昨年のこととの主張のみで具体的な証拠の提出もないから,採用することができない。 5 むすび 以上のとおり,本件商標は,本件審判の請求に係る指定商品について,商標法第4条第1項第11号,同項第10号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,その登録を無効とすることはできない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-08-17 |
結審通知日 | 2017-08-22 |
審決日 | 2017-09-04 |
出願番号 | 商願2012-65405(T2012-65405) |
審決分類 |
T
1
12・
262-
Y
(W25)
T 1 12・ 263- Y (W25) T 1 12・ 261- Y (W25) T 1 12・ 25- Y (W25) T 1 12・ 271- Y (W25) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浜岸 愛 |
特許庁審判長 |
早川 文宏 |
特許庁審判官 |
小林 裕子 田村 正明 |
登録日 | 2013-03-01 |
登録番号 | 商標登録第5561723号(T5561723) |
商標の称呼 | ソイルアンドレイン、ソイルレイン |
代理人 | 末成 幹生 |
代理人 | 特許業務法人あい特許事務所 |