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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z16
管理番号 1330243 
審判番号 取消2014-300300 
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-04-24 
確定日 2017-07-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第4283547号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4283547号商標(以下「本件商標」という。)は、「Crest」の欧文字を標準文字で表してなり、平成10年4月3日に登録出願、第16類「印刷物」を指定商品として、同11年6月11日に設定登録されたものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、平成26年5月16日である。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、その理由を要旨以下のように主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第34号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、審判請求前3年間にその指定商品について使用された事実を発見できなかったから、商標法第50条第1項の規定により、その登録を取り消すべきものである。

2 審判事件弁駁書における主張
(1)被請求人は、乙第1号証ないし乙第33号証(枝番を含む。以下、枝番の全てを引用するときは、枝番を省略して記載する場合がある。)を提出して、本件商標を「書籍」について、本件審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に日本国内において使用していることを立証しようとしている。
(2)被請求人が提出した乙各号証からは、被請求人が主張する使用商標A-1(別掲1)、使用商標A-2(別掲2)とした図形と文字の結合商標、使用商標B-1(別掲3)、使用商標B-2(別掲4)とした文字商標「新潮クレスト・ブックス」及び使用商標C(別掲5)とした文字商標「クレスト・ブックス」を使用していることがうかがえる。
しかしながら、これらの商標は、社会通念上登録商標と同一のものとはいえない。
(3)使用商標A-1及び使用商標A-2は、階段ピラミッド状にした各段に左から、「C」、「R」、「E」と下から上に配置され、「E」を頂点として右へ「E」、「S」、「T」と上から下に配置したもので、黒色の横帯に配された「BOOKS」の文字や下段に配された「Shinchosha」の文字は、そのまま読めるとしても使用商標A-1及び使用商標A-2を見ただけでは、階段状に配された文字が「CREST」のことだとは直ちに判別できないもので、「E」を頂点として右側が「EST」、左側が「ERC」からなる商標であるともいえ、本件商標「Crest」と一対一対応とはなっていない。
なぜなら、日本語の書き方として横書きだけでなく縦書きもあるが、縦書きの場合は上から下に書いて読む決まりになっており、使用商標A-1及び使用商標A-2の「C」、「R」、「E」のように下から上に読ませるのは特異な読ませ方になるからである。むしろ、使用商標A-1及び使用商標A-2は、図形の中に「C」、「R」、「E」、「S」、「T」の文字が混然一体となって溶け込んでいるもので、被請求人の主張するような「『登録商標(Crest)』に『図形』を付加したもの」とはいえない。
被請求人の提出した審決例(乙8)は、図形部分と文字部分と明らかに判別できるもので、文字部分の読み方に戸惑うものでもない。
なお、被請求人の主張するように登録商標に図形を付加したものであっても、必ず登録商標の使用と認められるものではないことは、審決例からも十分に裏付けられる(甲2、甲3)。
(4)使用商標B-1、使用商標B-2及び使用商標Cは、「新潮クレスト・ブックス」及び「クレスト・ブックス」であるが、登録商標に自他識別力を有しない商品名等の内容表示的語句を付加したものが、必ず登録商標の使用と認められるものではないことは、審決例からも十分に裏付けられる(甲4?甲8)。
以上を踏まえて、被請求人が使用商標B-1、使用商標B-2及び使用商標Cとした使用商標を見てみると、これらは文字商標「新潮クレスト・ブックス」及び「クレスト・ブックス」からなるもので、被請求人は、これらの構成のうち、「ブックス」の部分は商品の名称であると主張している。
しかしながら、「○○○ブックス」ないし「○○○BOOKS」のように「ブックス」ないし「BOOKS」の文字を含む商標を使用する場合は、「○○○」の部分だけでなく、「○○○ブックス」ないし「○○○BOOKS」と全体を一つの商標として商標登録出願して商標登録を受けている事実(甲9?甲20)や、実際の使用例でも「○○○ブックス」ないし「○○○BOOKS」の全体を括弧で括って「○○○ブックス」ないし「○○○BOOKS」の全体で一つの商標として認識されるような記載となっているものが多いという事実(甲21?甲23)から、出版業界では、「ブックス」ないし「BOOKS」は、他の語句と一体となって一つの商標を形作るものだという商取引の実状がある。
このことは、被請求人が一貫して、使用商標B-1、使用商標B-2及び使用商標Cを使用しているのみで、「Crest」単独での使用がみられないこと、また、乙第25号証の被請求人のウェブサイトにおいて被請求人自身、「クレスト」が商標であると認識しているならば、括弧で括る場合は「〈クレスト〉ブックス」となるべきところを、「〈新潮クレスト・ブックス〉」「〈クレスト・ブックス〉」のように「ブックス」も含む全体を括弧で括っていることから、「新潮クレスト・ブックス」「クレスト・ブックス」全体を一つの商標と認識して使用していることは明らかである。
したがって、使用商標B-1、使用商標B-2及び使用商標Cの使用をもって本件商標「Crest」の使用とはならない。
なお、「新潮クレスト」と「ブックス」の間、「クレスト」と「ブックス」の問に中黒があるが、これは外来熟語の単語の区切りに使うもので、通常略すことも多いものであるから、これをもって「新潮クレスト」と「ブックス」の間、「クレスト」と「ブックス」の間の一体感が消失するものではない(甲24)。
(5)同様に、被請求人の主張する使用商標A-1及び使用商標A-2についても、使用商標A-1及び使用商標A-2以外にみられる書籍の広告やホームページの記載から、図形と混然一体となった「C」、「R」、「E」、「S」、「T」の各文字が「CREST」であると認識されることが認められたとしても、図形とともに図形と結合した「BOOKS」と一体となった「CREST BOOKS」の全体が一つの結合商標であり、登録商標「Crest」と社会通念上同一のものと考えられる「CREST」に商品の名称の「BOOKS」を付加したものではないから、本件商標「Crest」の使用とはならない。

3 口頭審理陳述要領書における主張
(1)被請求人提出の口頭審理陳述要領書に対する反論
ア 被請求人は、乙号証としていくつもの判例や審決例を提出しているが、商標法第50条第1項の規定による、いわゆる不使用取消審判において争われるべきは、判例や審決例ではなく使用の事実であり、社会通念上の同一の範囲を拡大することは許されない。
イ 被請求人は、口頭審理陳述要領書において、新たに使用商標A-3(別掲6)及び使用商標D(別掲7)の使用を主張しているので、このことについて検討する。
(ア)使用商標A-3は、使用商標A-1と同じものの右側に、「新潮クレスト・ブックスは、海外の小説、ノンフィクションから、もっとも豊かな収穫を紹介するシリーズです。Crestとは、波頭、最高峰などの意。」という文章を配置したものである。
また、使用商標Dは、三段構成の各段が同じ長さからなるもので、上段に「SHINCHO」の文字、中段に上段の「SHINCHO」の文字よりも大きくまた若干縦長の「CREST」の文字、さらに下段に中段の「CREST」の文字と同じく上段の「SHINCHO」の文字よりも大きくまた若干縦長の「BOOKS」の文字を配した構成からなるものである。
(イ)使用商標A-3は、その左側構成部分は、逆Tの字型の黒色帯図形の縦帯と横帯が交差する両かどに灰色などで着色した正方形を配して階段ピラミッド状図形の中に文字を渾然一体にちりばめて配置した図形と文字の結合であるし、右側構成部分は、単なる文章の羅列であって商標を構成するものではない。
したがって、使用商標A-3は、欧文字「Crest」を左一連に書してなる本件商標の使用には当たらない。
使用商標Dは、三段構成の各段の長さを同じにするためか、7文字からなる上段の「SHINCHO」の文字に比し、共に5文字からなる中段の「CREST」の文字と下段の「BOOKS」の文字は、相当程度大きく(「SHINCHO」の文字の約144%)、また若干縦長の書体になっている。すなわち、上段の「SHINCHO」の文字と中下段の「CREST」「BOOKS」の文字とは大きさの違いと縦長か否かの違いが見られる。また、上段の「SHINCHO」が被請求人の著名な略称であることから、「SHINCHO」の「CREST BOOKS」といったふうに理解され認識されるものである。
したがって、使用商標Dの構成中から、中段の「CREST」のみ抽出して本件商標「Crest」の使用ということはできない。
ウ 被請求人が口頭審理陳述要領書において引用する平成27年(行ケ)第10032号審決取消請求事件(乙34)は、本件とは事案を異にするものであり、また、乙第35号証の平成18年(行ケ)第10225号審決取消請求事件(乙35)をそのまま本件に引用することはできない。
エ 被請求人の主張では、登録商標に「ブックス」や「BOOKS」などを添えることを前提に商標登録出願し、商標登録を受けているかのような誤解を与えかねず、本件商標「Crest」の使用であることを認めないと出版界が大パニックに陥るかのように錯覚させられるが、当然ながら、登録商標そのものそのまま使用している例が数多くある(甲26(乙47に対応)、甲27(乙48に対応)、乙49、乙53、甲28(乙55に対応)、甲29(乙56に対応)、甲30(乙57に対応)、甲31(乙58に対応)、甲32(乙61に対応)、甲33(乙62に対応)、甲34(乙67に対応))。
また、登録商標に「ブックス」や「BOOKS」などの文字を添える場合でも、両者を片仮名と欧文字で変化をつけたり(乙46、乙49、乙55、乙56、乙59、乙63、乙67)、登録商標の文字と「ブックス」や「BOOKS」の文字が同じ欧文字同士の場合であっても書体を明らかに変更して登録商標とそうでない部分とが明確に区別できるようにしているもの(乙48、乙60、乙64、乙65)もある。
(2)結論
以上述べたとおり、被請求人の提出した乙各号証からは、本件商標の使用を裏付けるものは何一つ提出されていない。

4 平成28年2月26日付け上申書における主張
(1)被請求人の平成28年2月12日付け提出の上申書に対する認否
被請求人が主張する乙号証において、被請求人が主張する標章が記載されている事実及び発行日、印刷年月、頒布期間とおぼしき数字が記載されている事実については認め、その余については不知ないし争う。
(2)被請求人の平成28年2月12日付け提出の上申書に対する反論
被請求人は、上申書の中で、乙第27号証ないし乙第33号証において、被請求人のいう「使用商標A-1、使用商標A-2、使用商標A-3、使用商標B-1、使用商標B-2、使用商標C、使用商標D」を「商品に標章を付する」行為、「商品の包装に標章を付する」行為、「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布」する行為のいずれかに使用しているから登録商標を使用していると主張するが、本件審判の対象となっている登録商標は、欧文字「Crest」を左一連に書してなるものであって、使用商標とは社会通念上も異なるものであるから、たとえ要証期間内の使用であっても登録商標の使用には当たらない。
(3)結論
被請求人の提出した乙各号証からは、本件商標「Crest」と社会通念上同一の商標の使用を裏付けるものは何一つ提出されていない。
よって、本件については、請求の趣旨どおり、商標法第50条第1項の規定により登録第4283547号の商標の登録を取り消す、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求める次第である。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、その理由を要旨以下のように主張し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第70号証(枝番を含む。)を提出した。
1 審判事件答弁書における主張
(1)商標の「使用」について
商標法第50条第1項は、条文中の括弧書きにより、「・・・書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標・・・」を使用していても、それは「登録商標の使用」の範囲に含まれる旨を規定している。
そこで、これまでの特許庁における不使用取消審判の審決例を検討して、具体的に「登録商標の使用」の範囲について明確にしておくこととする。
ア 欧文字の商標につき、登録商標と使用商標とでは大文字・小文字の相違があっても、「登録商標の使用」となる(乙6、乙7、乙12、乙18、乙20)
イ 使用商標が「『登録商標』に『商品の名称』を付加したもの」であっても、「登録商標の使用」となる(乙2?乙5、乙9、乙10、乙12?乙15、乙17、乙19)。
ウ 登録商標が欧文字の文字商標であり、使用商標が片仮名の文字商標であっても、称呼・観念が同一の場合には「登録商標の使用」となる(乙1、乙4、乙11、乙16、乙18、乙19)。
エ 登録商標が欧文字の文字商標であって、使用商標が「『登録商標』に『図形』を付加したもの」であっても、文字部分と図形部分とを常に一体のものとしてみなければならない特段の理由がない限り、「登録商標の使用」となる(乙8、乙21)。
オ 登録商標が文字商標であり、使用商標が「『登録商標』に『当該登録商標を使用している者の名称の略称』を付加したもの」であっても、「登録商標の使用」となる(乙10)。
(2)被請求人の「使用商標」の態様について
ア 本件商標は、標準文字にて「Crest」と記載した文字商標であるところ、被請求人が使用している商標の態様は、大別して、別掲1ないし別掲5に示すとおりである。
「使用商標A-1」及び「使用商標A-2」については、その図形部分中「鼠色の正方形」の部分が青色・桃色・橙色等に着色されて使用される場合がある。
また、「使用商標B-1」及び「使用商標B-2」並びに「使用商標C」については、使用商標として示した文字体以外の他の文字体(明朝体、創英体、ゴシック体等の各バリエーション)を用いて使用される場合がある。
なお、「BOOKS」、「ブックス」とは、「『本、書籍』(複数形)」を意味する基本的な英語の単語とその片仮名書きであり(乙23、乙24)、使用している商品「書籍」それ自体を意味しているものである。
イ 「使用商標A-1」及び「使用商標A-2」について
(ア)上記(1)アに示したとおり、欧文字の商標の場合、大文字・小文字の相違があっても「登録商標の使用」となるのであり、上記(1)エに示したとおり、使用商標が「『登録商標』に『図形』を付加したもの」であっても、文字部分と図形部分とを常に一体のものとしてみなければならない特段の理由がない限り「登録商標の使用」となるのであり、さらに、上記(1)イに示したとおり、「『登録商標』に『商品の名称』を付加したもの」であっても「登録商標の使用」となるのであるから、文字部分と図形部分とを常に一体のものとしてみなければならない特段の理由がなく、かつ、商品「書籍」に使用されている「使用商標A-1」は本件商標の使用となる。
(イ)上記(ア)と上記(1)オに示したとおり、「『登録商標』に『当該登録商標を使用している者の名称の略称』を付加したもの」であっても「登録商標の使用」となるのであるから、文字部分と図形部分とを常に一体のものとしてみなければならない特段の理由がなく、商品「書籍」に使用されていて、かつ、使用者である被請求人の名称の略称「Shinchosha」を付した「使用商標A-2」は本件商標の使用となる。
ウ 「使用商標B-1」及び「使用商標B-2」について
「使用商標B-1」は、横書きの「新潮クレスト・ブックス」であり、「使用商標B-2」は、縦書きの「新潮クレスト・ブックス」であるところ、「クレスト」と「Crest」は、称呼「クレスト」、観念「とさか、波がしら等」が同一となっている(乙23、乙24)から、上記(1)ウに示したとおり、使用商標が片仮名による「クレスト」であっても「登録商標の使用」となり、上記(1)イに示したとおり、商品の名称である「・ブックス」が付加されていても「登録商標の使用」となり、上記(1)オに示したとおり、「新潮〔登録商標を使用している者の名称の略称〕」が付加されたもの」であっても「登録商標の使用」となるから、「使用商標B-1」も「使用商標B-2」も本件商標の使用となる。
エ 「使用商標C」について
「使用商標C」は、横書きの「クレスト・ブックス」であるところ、「クレスト」と「Crest」は、称呼「クレスト」、観念「とさか、波がしら等」が同一となっている(乙23、乙24)から、上記(1)ウに示したとおり、使用商標が片仮名による「クレスト」であっても「登録商標の使用」となり、上記(1)イに示したとおり、商品の名称である「・ブックス」が付加されていても「登録商標の使用」となるから、「使用商標C」は本件商標の使用となる。
(3)具体的な使用状況・使用時期について
ア 被請求人は、雑誌・文庫本・新書・その他の書籍を発行・販売している、我が国において最も著名な出版社のうちの一社である。被請求人は、1998年以降現在に至るまで、「新潮クレスト・ブックス」又は「クレスト・ブックス」のシリーズ名のもとに、海外の文学(小説、自伝、エッセイ、ノンフィクション等ジャンルを問わない)の優れた作品につき、翻訳本を出版して販売してきている。該翻訳本のシリーズの出版・販売が開始された1998年は、本件商標の商標登録願が出願された年に該当する。したがって、本件商標は、本件商標が登録された1999年6月11日以降現在に至るまで、該翻訳本の「書籍」のシリーズを表し商品「書籍」の出所を表示するものとして使用され続けてきている。
イ 被請求人のホームページからの抜粋(乙25、乙26)を示す。
「使用商標A-2」、「使用商標B-1」及び「使用商標C」が使用されていること、「新潮クレスト・ブックス」が1998年に生まれた海外の優れた文学作品を紹介する翻訳本のシリーズであることが判明し(乙25)、毎年、該翻訳本の「書籍」のシリーズである「新潮クレスト・ブックス」の発刊が続いてきていることが判明する(乙26)。
ウ 具体的に、「新潮クレスト・ブックス」の実物について、3例程を提示する(ただし、厚い書籍を現物のまま証拠として提出するのは妥当ではないから、書籍現物を写真撮影してカラーコピーとしたり、電子複写機により必要頁をコピーしたりする方法をとった)。
(ア)アリス・マンロー著「小説のように」(乙27の1は、書籍現物を撮影した写真。乙27の2は、内表紙と奥付のコピー。乙27の3は、書籍に付してある帯の実物)であるが、「使用商標A-1」、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」が付されている(「小説のように」は、乙26の3枚目下から4番目、乙30、乙31、乙32の2の末尾のリスト、乙33の2の末尾のリストに掲載があるので、参照されたい。乙27の1では書籍のカバー記載の値段が判読しずらいが、乙26等には値段が明確に記載されている)。
なお、奥付から、「使用商標A-1」、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」が2013年10月25日の時点で使用されていたことが判明する。
(イ)ジュリアン・バーンズ著「終わりの感覚」(乙28の1は、書籍現物を撮影した写真。乙28の2は、内表紙と奥付のコピー。乙28の3は書籍に付してある帯の実物)であるが、「使用商標A-1」、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」が付されている(「終わりの感覚」は、乙26の2枚目上から4番目、乙31に掲載があるので参照されたい。乙28の1では書籍のカバー記載の値段が判読しずらいが、乙26等には値段が明確に記載されている)。
なお、奥付から、「使用商標A-1」、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」が2013年8月20日の時点で使用されていたことが判明する。
(ウ)松家仁之編 短編小説ベスト・セレクション「美しい子ども」(乙29)は、奥付から、「使用商標A-1」、「使用商標A-2」、「使用商標B-1」及び「使用商標B-2」が2013年8月20日の時点で使用されていたことが判明する。
エ 宣伝広告
(ア)被請求人は、他の出版社と同様に、被請求人が発行する書籍にチラシを挟み込んで、被請求人が発行する書籍の宣伝広告を行っているところ、「新潮クレスト・ブックス」の書籍についても、かかるチラシを書籍に挟み込んで宣伝広告を行っているので、かかるチラシの現物を証拠として提出する(乙30、乙31)。かかるチラシには、「使用商標A-1」及び「使用商標B-1」(乙30)、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」(乙31)が付されている。
かかるチラシの表紙下端には、当該チラシが印刷された年月が記載されていて、2012年9月(乙30)と2013年8月(乙31)であることが判明し、それぞれ、2012年9月から約1年間(乙30)2013年8月から約1年間(乙31)、挟み込みチラシとして用いられたことが判明するので、「使用商標A-1」及び「使用商標B-1」、「使用商標A-2」及び「使用商標B-1」がこれらの期間において商品「書籍」の宣伝広告に使用されていたことが判明する。
(イ)被請求人は、他の出版社と同様に、被請求人が発行する書籍の小冊子を作成の上、書店の店頭にて無料で頒布して、被請求人が発行する書籍の宣伝広告を行っているところ、「新潮クレスト・ブックス」の書籍についても、かかる小冊子を作成して書店の店頭にて無料頒布していた。
かかる小冊子については、将来の宣伝広告活動の参考資料としてごく少数部が被請求人の手元に残存しているにすぎないので、小冊子の現物を写真撮影し、そのカラーコピーと電子複写機にて作成した全頁のコピーとを証拠として提出する(乙32の1、乙32の2、乙33の1、乙33の2)。
小冊子の表紙に記載された「2011-2012」及び「2012-2013」の表示から、かかる小冊子が頒布されていた時期が判明し、「使用商標A-1」、「使用商標B-1」、「使用商標B-2」が「2011年から2012年にかけて」及び「2012年から2013年にかけて」、「使用商標C」が「2011年から2012年にかけて」、商品「書籍」の宣伝広告に使用されていたことが判明する。
(4)むすび
上記(1)ないし(3)に述べたとおり、本件商標は過去3年間のうちに我が国において商品「書籍」に関して使用されている。

2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)「社会通念上同一の商標」に関する知的財産高等裁判所の判決について
ア 請求人が提出した、知的財産高等裁判所・平成25年(行ケ)第10164号審決取消請求事件(「パールフィルター」事件)判決(甲25)は、事案を異にし、本件の参考判決とはならない。
イ 知的財産高等裁判所・平成27年(行ケ)第10032号審決取消請求事件(「ヨーロピアン コーヒー」事件)判決(乙34)は、(a)商標法50条不使用登録商標取消審判の制度趣旨は、「不使用登録商標を徒に許容することにより、他者の商標選択の範囲を不当に狭めるとの弊害が生じることを防止する」にあること、(b)「商品それ自体の名称」にすぎないものは「自他商品識別機能が全くない」こと、(c)「登録商標」と「商品それ自体の名称」を併せた標章の使用は「社会通念上同一の商標の使用である」こと、(d)「登録商標」と「商品それ自体の名称」を併せた標章は、「取引者・需要者が、これを一連一体のものと認識・把握するとしても、『社会通念上同一の商標』の使用である」こと、という重要な4点を判示している。
ウ 「・・・BOOKS」や「・・・ブックス」は、商品「書籍」それ自体を意味する語であるだけではなく、出版業界において「一連の『書籍』群を示す共通標章」のうちの一つとして慣行上広く用いられている。
知的財産高等裁判所・平成18年(行ケ)第10225号審決取消請求事件(「LAB/SERIES/FOR MEN」事件)判決(乙35)は、(a)「連続」、「続きもの」、「シリーズもの」の意味に認識される語は、それ自体としては、自他商品識別機能が微弱であること、(b)ある商品の取引業界で、一つのブランド名で複数の該商品のラインナップを「あるシリーズものを示す語」を付して総称することが広く行われている場合、「『ある言葉』と『該シリーズものを示す語』」は、「該言葉」の「シリーズ(一連の該商品群)」との観念を生じさせ、構成中の「該言葉」の部分か独立して自他商品の識別機能を有していると認められるから、使用標章「『該言葉』と『該シリーズものを示す語』」は、登録商標「該言葉」と社会通念上同一と認められる商標であること、という重要な2点を判示している。
(2)特許庁の審決例について
ア 請求人は、特許庁の審決例として、審判事件弁駁書で5件の審決例を指摘しているが、いずれも事案を異にし、本件の参考とはならない。
イ 本件と同様の案件として、まず、「ある登録商標」を「ある商品」に関し、使用標章「『当該登録商標』と『当該商品の商品名称』」と用いていた場合に、使用標章が「社会通念上同一」なのか、につき判断した審決例は、審判事件答弁書で12件の審決を指摘しているが、いずれも「社会通念上同一」との判断を下している(乙2?乙5、乙9、乙10、乙12?乙15、乙17、乙19)。
被請求人は、これらに加え、9件の審決例を指摘する(乙36?乙44)。
ウ 本件と同様の案件として、「ある登録商標」を「ある商品」に関し、使用標章「『当該登録商標』と『シリーズものを意味する語』」と用いていた案件で、使用標章が「社会通念上同一」なのか、を判断した審決例を指摘する(乙45)。
(3)出版業界の商取引の実状(商慣習・社会通念)について、及び「審判事件弁駁書」に対する反論
ア 請求人は、(a)「○○○ブックス」、「○○○BOOKS」と商標登録して「○○○ブックス」、「○○○BOOKS」と使用しているものがあること、(b)未登録のまま商標を使用している例でも「○○○ブックス」、「○○○BOOKS」と使用しているものがあることを根拠として、「・・・出版業界では、『ブックス』ないし『BOOKS』は、他の語句と一体となって一つの商標を形作るものだという商取引の実状がある」との結論を導いているが、これは、早計である。
イ 商品「書籍」と商標登録の関係を述べると、出版業界では、各「書籍」の作品毎に別々の商標を付すことは行っていない。
著作権法には「出版権」の専有の規定もあり、(著作権が切れた有名な作品でない限り)同一作品「書籍」が複数の出版社から出版されることはまず有り得ないので、商品「書籍」の各作品毎であれば別段商標を付さずとも「題号と著者名」によって同時に出版社(出所)が特定されてしまうし、商品「書籍」では作品毎にまちまちな商標を付していては、需要者は商標から出版社(出所)を判別することが困難になってしまう上に、毎年膨大な冊数出版される商品「書籍」毎に個別の商標をいちいち登録していては、コストがかかりすぎるからである。
したがって、商品「書籍」に関し商標登録をする場合は、(a)出版社の「全ての『書籍』に用いる標章」(出版社の名称の略称や出版社の社章図形など)であるか、(b)ある一定のジャンルに属する「一連の『書籍』群を示す共通標章」であるか、のいずれかに、事実上限定されることとなる。
ウ 被請求人の調査結果の多数の例(乙46?乙69)が示すとおり、登録商標が「○○○」で使用標章「○○○ブックス」や「○○○BOOKS」と用いている例が多数存在しており、かかる使用も商取引の実状(商慣習・社会通念)である。
エ 「ある登録商標」を「ある商品」に関して使用標章「『当該登録商標』と『当該商品の商品名称』」として使用していた場合、「使用標章『「当該登録商標」と「当該商品の商品名称」』は一連一体であって登録商標とは別物」との反論が出たときは、特許庁審判部は、需要者が認識する当該使用標章の周囲のキャッチフレーズ・語句・写真等がどうであるかから、需要者が、「『登録商標』と『使用商品の商品名称』」と受け取るのか「一連一体の別商標」と受け取るのか、を判定しているのである(乙9、乙14、乙15)。
オ 上記エの判断基準、すなわち使用標章の周囲のキャッチフレーズ・語句・写真等がどうであるか、を検討し、需要者が使用商標をどの様に受け取るのか、乙第25号証以下を、検討する。
(ア)乙第25号証及び乙第26号証は、「被請求人のホームページ」であるが、乙第25号証は、冒頭に「新潮クレスト・ブックスは、海外の、小説、自伝、エッセイなど/ジャンルを問わず、もっとも優れた豊かな作品を紹介するシリーズです。」、「・・・一九九八年に生まれたシリーズです」との紹介文があり、続いて、書籍の表紙の写真とブックデザインの話が掲載されており、「・・・シリーズデザインとしての統一部分は本の背表紙と裏表紙だけにし・・・」などの造本や装丁やカバーデザインの話と複数の書籍の表紙・背表紙の写真があり、「・・・小説はもちろん・・・ノンフィクション作品も含まれる・・・」とシリーズものの「書籍」に収録されるジャンルの話が続いている。
また、乙第26号証も「被請求人のホームページ」であるが、多数の商品「書籍」につき各書籍の題号・表紙写真・著者名・訳者名・「書籍(単行本)」との記述・発売日・定価が列記されている。
これらの周囲事情があるので、需要者は、「使用標章のうち『ブックス』、『BOOKS』は、商品が『書籍』である旨の表示」「使用標章のうち『ブックス』、『BOOKS』は、『書籍のシリーズもの』の意味の表示」と受け取るのである。
(イ)乙第27号証の1は「書籍」の写真、乙第27号証の2は当該書籍の中表紙と奥付の電子複写、乙第27号証の3は当該書籍の腰帯の実物で、「・・・コーヒーという商品にコーヒーという標章を付し(ている)・・・」のと同様に「シリーズものの『書籍』そのものに『・・・ブックス』『・・・BOOKS』との使用標章を付している」のであるから、需要者は、当然、「使用標章のうち『ブックス』『BOOKS』は、商品が『書籍』である旨の表示」「使用標章のうち『ブックス』『BOOKS』は、『書籍のシリーズもの』の意味の表示」と受け取るのである。
特に、乙第27号証の3には、「使用商標A-3」が掲示されており、これには「新潮クレスト・ブックスは、海外の小説、ノンフィクションから、/もっとも豊かな収穫を紹介するシリーズです。Crestとは、波頭、最高峰などの意味。」との文章があり、需要者は「『BOOKS』『ブックス』は商品である『小説、ノンフィクション等書籍』を表し『書籍のシリーズもの』を表す表示であって、わざわざ意味が記載されている『Crest』及びこれに相応する片仮名『クレスト』が商標(自他商品識別標識)である」と了解するのである。
(ウ)乙第28号証の1ないし3、乙第29号証の1及び乙第29号証の2並びに乙第29号証の3に関する検討は、乙第27号証の1ないし3に関する上述の検討と同じになるので、繰り返しては述べない。
(エ)乙第30号証及び乙第31号証は、商品「書籍」のチラシであり、「新潮クレスト・ブックスは、海外の小説、ノンフィクションから、/もっとも豊かな収穫を紹介するシリーズです。Crestとは、波頭、最高峰などの意味。」との文章があり、需要者は「『BOOKS』『ブックス』は商品である『小説、ノンフィクション等書籍』を表し『書籍のシリーズもの』を表す表示であり、わざわざ意味が記載されている『Crest』及びこれに相応する片仮名『クレスト』が商標(自他商品識別標識)である」と了解するのである。
また、積み上げられた書籍の写真や書籍の表紙の写真もあり、各書籍の題号・著者名・訳者名・定価・短い書籍の内容紹介文や著者の紹介文もあり、かかる周囲事情があるにもかかわらず、「使用標章のうちの『ブックス』『BOOKS』は、商品が『書籍』である旨の表示」、「使用標章のうちの『ブックス』『BOOKS』は、『書籍のシリーズもの』の意味の表示」と受け取らない需要者は存在しないはずである。
(オ)乙第32号証及び乙第33号証は、商品「書籍」の宣伝広告の小冊子であって、作家へのインタビュー記事・書評家の記事・文学者の書評・小説家の書評・各種賞を受賞した作家の紹介記事と並んで各書籍の題号・著者名・訳者名・定価・書籍の表紙の写真・短い書籍の内容もあり、かかる周囲事情があるにもかかわらず、「使用標章のうちの『ブックス』『BOOKS』は、商品が『書籍』である旨の表示」、「使用標章のうち『ブックス』『BOOKS』は、『書籍のシリーズもの』の意味の表示」と受け取らない需要者は存在しないはずである。
(4)商品「書籍」の需要者の注意能力について
商標の異同に対する需要者の注意能力は、各商品の需要者を具体的に考慮して判断するのが相当である。
商品「書籍」は、街中の書店で一般大衆向け・一般消費者向けに日常茶飯に販売されている商品であり、商品「書籍」の需要者は一般大衆・一般消費者なのである。問題となっている被請求人の翻訳書籍シリーズにしても、外国文学が好きな人であれば中学生・高校生でも購入して読むであろうという代物である。商品「書籍」の需要者が商標の異同に関し払う注意の能力は、一般大衆・一般消費者を基準にして一般大衆・一般消費者が民需品を購入するときと同等と判断すべきである。
(5)使用商標の追加
ア 「使用商標A-3」及び「使用商標D」を追加する。「使用商標A-3」は、乙第27号証の3、乙第28号証の3及び乙第29号証の3に使用されており、「使用商標D」は、乙第31号証に使用されている。
イ 「使用商標A-3」は「新潮クレスト・ブックスは、海外の小説、ノンフィクションから、/もっとも豊かな収穫を紹介するシリーズです。Crestとは、波頭、最高峰などの意味。」との文章を伴うものであり、需要者は「『BOOKS』『ブックス』は商品である『小説、ノンフィクション等書籍』を表し『書籍のシリーズもの』を表す表示であって、わざわざ意味が記載されている『Crest』及びこれに相応する片仮名『クレスト』が商標(自他商品識別標識)である」と了解する。
また、需要者は、段々状に記載された「CREST」の文字を「波頭、最高峰などの意味の『Crest』」と認識し、請求人が主張する「『EST』と『ERC』からなる商標」などと認識する余地はない。
ウ 「使用商標D」は、上記(1)の知的財産高等裁判所の判決例2件(「ヨーロピアン コーヒー」事件、乙34)、(「LAB/SERIES/FOR MEN」事件、乙35)との対比が容易なため追加した。
(ア)判決(乙35)によれば、「『CREST』/『BOOKS』」は、「CREST」の「シリーズ(一連の当該商品群)」との観念を生じさせ、構成中の「CREST」の部分が独立して自他商品の識別機能を有していると認められるから、使用標章「『CREST』/『BOOKS』」は、登録商標「Crest」と社会通念上同一と認められる商標である、となるはずである。
(イ)判決(乙34)によれば、使用商標Dにつき、取引者及び需要者は「CREST/BOOKS」の二段書き標章を一連一体のものと認識し、把握するとしても、書籍という商品にBOOKSという標章を付しても自他商品識別機能はないのであるから、「CREST/BOOKS」の二段書き標章の使用は、社会通念上、「Crest」商標の使用と同視することができるものである、となるはずである。
(6)使用商標A-1及び使用商標A-2について
ア 使用商標A-1と使用商標A-2とは、標章の下部に「Shinchosha」の文字の有無の差があるが、これは「使用者の名称の略称」であり、これの有無は影響を及ぼさない(「使用者の名称の略称」を付しても商標の使用となることは乙10、乙39の審決例のとおりである)。よって、使用商標A-1と使用商標A-2とをまとめて論じることとする。
(ア)これら使用商標の「CREST」と「BOOKS」が一体なものか否かについては、(a)「CREST」は黒で記されており、他方、「BOOKS」は白で記されている、という色彩上の差異があること、(b)「CREST」は図形の外側に記載されており、他方、「BOOKS」は図形内部に取り込まれている、という構成上の差異があること、(c)「CREST」は段々状に記載されており、他方、「BOOKS」は横一行一連に記載されている、という表記上の差異があること、を勘案すれば、「CREST」と「BOOKS」とが一体とは考えられない。
(イ)仮に一体であると仮定したとしても、「商品それ自体の名称」にすぎないものは「自他商品識別機能が全くない」し、「『連続』『続きもの』『シリーズもの』の意味に認識される語は自他商品識別機能は微弱で、『他の言葉』に伴われて使用されれば、『当該言葉の商品』の『一連の商品群』の意味」となるから、使用商標A-1及び使用商標A-2は、「CREST」と「BOOKS」とが一体であると仮定した場合であっても、本件商標「Crest」の使用となる。
(ウ)使用商標A-3も使用していることからすれば、需要者は、段々状に記載された「CREST」の文字を「波頭、最高峰などの意味の『Crest』」と認識するのであり、請求人が主張する「『EST』と『ERC』からなる商標」などと認識する余地はない。
(7)使用商標B-1及び使用商標B-2並びに使用商標Cについて
ア 使用商標B-1と使用商標B-2との差異は、横書きか縦書きかの差異であり、この差異は問題とはならない。
イ 使用商標B-1及び使用商標B-2と使用商標Cとの差異は、標章の冒頭に「新潮」の文字が有るか無いかであり、これは「使用者の名称の略称」であるので、これの有無は影響を及ぼさない。
よって、使用商標B-1、使用商標B-2、使用商標Cは、まとめて論じることとする。
ウ 被請求人は、使用商標B-1、使用商標B-2、使用商標Cを「『商品そのものの名称』を付加した標章」、「一連の書籍群を示す共通標章」として使用しているが、後者は、登録商標「○○○」を「○○○ブックス」や「○○○BOOKS」と用いて「一の書籍群を示す共通標章」として使用しているという商取引の実状(商慣習・社会通念)に合致させ、他社の例(乙46?乙69)と同様に使用している。
エ 被請求人は、「『クレスト』がより分離されて認識され、把握される」ように、ひと工夫をしている。すなわち、中黒を「クレスト」と「ブックス」の間に配置しているのである。「中黒」の存在は、その前後の語句について「視覚上分離して看取される」という効果がある(乙14の審判例参照)。
請求人は、「・・・中黒があるが、これは・・・単語の区切りに使うもので、通常略すことも多いものであるから・・・」と述べるが、使用商標B-1、使用商標B-2、使用商標Cは、いずれも、中黒をきっちりと書いていて、略すことがないから、請求人のこの主張は無意味である。
(8)むすび
以上をまとめると、出版業界には、登録商標「○○○」を「○○○ブックス」、「○○○BOOKS」と使用する商取引の実状(商慣習・社会通念)が存在しており、被請求人はかかる商取引の実状(商慣習・社会通念)に合致して使用しているのであるから、使用商標は、いずれも商標法第50条第1項「かっこ書き」にいう「社会通念上同一」の商標である。

3 平成28年2月12日付け上申書における主張
被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用を主張しているところであるが、商標法第2条第3項の「使用」に該当する旨を、以下に明確にする。
(1)「商品又は商品の包装に標章を付する」について
ア 乙第27号証について
(ア)乙第27号証の1及び2は、被請求人の商品「書籍(アリス・マンロー著『小説のように』)」の写真のカラーコピー及び同書籍の内表紙と奥付頁の白黒コピーであるが、商品「書籍」の内表紙及び奥付頁に「使用商標A-2」を付しており、「商品に標章を付する」に該当する。
(イ)乙第27号証の3は、同書籍の「帯」の実物であるが、「使用商標A-2、使用商標A-3、使用商標B-1」を付している。
書籍の帯であるが、商品の「包装」の場合は、需要者は、大多数の場合は購入後「包装」は捨ててしまうのであるが(例えば、Tシャツを包装している透明なビニール袋は、購入後は捨ててしまう)、書籍の帯の場合は、需要者は、購入後も書籍に帯を付した状態で所持し続けるから、書籍の帯は「商品の包装」ではなくして「商品(の一部)」と思われるから、「商品に標章を付する」に該当するものと思料する。
なお、書籍の帯について、「『商品』に標章を付する」に該当しないと判断される場合に備えて、予備的に「商品の包装に標章を付する」に該当する旨主張する。
(ウ)乙第27号証の2の奥付頁には「2刷/2013年10月25日」との記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
イ 乙第28号証について
(ア)乙第28号証の1及び2は、被請求人の商品「書籍(ジュリアン・バーンズ著『終わりの感覚』)」の写真のカラーコピー及び同書籍の内表紙と奥付頁の白黒コピーであるが、商品「書籍」の内表紙及び奥付頁に「使用商標A-2」を付しており、「商品に標章を付する」に該当する。
(イ)乙第28号証の3は、同書籍の「帯」の実物であるが、「使用商標A-2、使用商標A-3、使用商標B-1」を付している。
書籍の帯であるが、上述と同様に「商品の包装」ではなくして「商品(の一部)」と思われるから、「商品に標章を付する」に該当するものと思料する。
なお、予備的に「商品の包装に標章を付する」に該当する旨主張する。
(ウ)乙第28号証の2の奥付頁には「4刷/2013年8月20日」との記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
ウ 乙第29号証について
(ア)乙第29号証の1及び2は、被請求人の商品「書籍(アンソニー・ドーア他著。・短編小説集『美しい子ども』)」の写真のカラーコピー及び同書籍の内表紙と奥付頁の白黒コピーであるが、商品「書籍」の内表紙及び奥付頁に「使用商標A-2、使用商標B-1」を付しており、「商品に標章を付する」に該当する。
(イ)乙第29号証の3は、同書籍の「帯」の実物であるが、「使用商標A-2、使用商標A-3、使用商標B-1、使用商標B-2」を付している。
書籍の帯であるが、上述と同様に「商品の包装」ではなくして「商品(の一部)」と思われるから、「商品に標章を付する」に該当するものと思料する。
なお、予備的に「商品の包装に標章を付する」に該当する旨主張する。
(ウ)乙第29号証の2の奥付頁には「発行/2013年8月25日」との記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
(2)「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布〔する〕」について
ア 乙第30号証について
(ア)乙第30号証は、被請求人が書籍に挟み込んで頒布していた商品「書籍」に関する広告のチラシの実物であるが、これには「使用商標A-1、使用商標B-1」が付されており、これは「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布〔する〕」に該当する。
(イ)乙第30号証には、上部に「2012」との記載があり、右下の隅に小さく「2012.9」との印刷年月の記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
イ 乙第31号証について
(ア)乙第31号証は、被請求人が書籍に挟み込んで頒布していた商品「書籍」に関する広告のチラシの実物であるが、これには「使用商標A-2、使用商標B-1、使用商標D」が付されており、これは「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して・・・頒布〔する〕」に該当する。
(イ)乙第31号証には、上部に「創刊15周年」や「SINCE1998」との記載があり、右下の隅に小さく「2013.8」との印刷年月の記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
ウ 乙第32号証について
(ア)乙第32号証の1及び2は、被請求人が書店の店頭で頒布していた小冊子の写真のカラーコピー及び同小冊子の全頁の白黒コピーであるが、これには「使用商標A-1、使用商標B-1、使用商標B-2」が付されており、これは「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して頒布〔する〕」に該当する。
また、「使用商標C」は、これのみ単独では使用されていないが、乙第32号証の1及び2の小冊子において宣伝の文章中に「使用商標C」が用いられており、これも「広告・・・に標章を付〔する〕」に該当すると思料する。
(イ)乙第32号証には、表紙上部に「2011-2012」との頒布期間の記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
エ 乙第33号証について
(ア)乙第33号証の1及び2は、被請求人が書店の店頭で頒布していた小冊子の写真のカラーコピー及び同小冊子の全頁の白黒コピーであるが、これには「使用商標A-1、使用商標B-1、使用商標B-2」が付されており、これは「商品・・・に関する広告・・・に標章を付して頒布〔する〕」に該当する。
(イ)乙第33号証には、表紙上部に「2012-2013」との頒布期間の記載があり、要証期間内の使用であることが判明する。
(3)むすび
以上のとおり、被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、要証期間内に、使用している。

第4 当審の判断
1 本件商標
本件商標は、上記第1のとおり、「Crest」の欧文字を標準文字で表してなり、第16類「印刷物」を指定商品とするものである。

2 使用商標
被請求人が商品「書籍」に使用していると主張する商標は、別掲のとおりの使用商標A-1ないし使用商標A-3、使用商標B-1、使用商標B-2、使用商標C及び使用商標Dである。

3 被請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を要証期間内に、商品「書籍」に使用していると主張しているところ、提出された証拠及び被請求人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(1)乙第28号証について
ア 乙第28号証の1は、題号を「終わりの感覚」とする書籍の写真(全体、中表紙、奥付等)であり、帯の背表紙に相当する部分並びに中表紙及び奥付の下部には、使用商標A-2の表示がある。
イ 乙第28号証の2は、題号を「終わりの感覚」とする書籍の中表紙と奥付の写しであり、それぞれの下部には、使用商標A-2の表示がある。
また、奥付には、「発行 2012年12月20日」、「4刷 2013年8月20日」及び「発行所 株式会社新潮社・・・東京都新宿区矢来町71」の記載がある。
ウ 乙第28号証の3は、題号を「終わりの感覚」とする書籍に付される帯であり、背表紙に相当する部分には、使用商標A-2の表示がある。
(2)乙第31号証について
ア 乙第31号証は、書籍に挟み込んで頒布される書籍の広告チラシである。その表紙には、「新潮クレスト・ブックス」及び「SHINCHO」の表示があり、「好評既刊」として、題号を「終わりの感覚」とする書籍(乙28)などの新潮社発行の書籍が紹介されている。
イ 乙第31号証の表紙上部には、使用商標A-2(ただし、構成中「Shinchosha」の文字は、「SHINCHOSHA」と表示されている。)の表示があり、表紙下部には、チラシの印刷年月と認められる「2013.8」の表示がある。

4 判断
(1)本件商標について
本件商標は、「Crest」の欧文字を標準文字で表してなるところ、「crest」の文字は、「波頭」の意味を有する英語であるから、本件商標は、「クレスト」の称呼及び「波頭」の観念を生じるものである。
(2)使用商標A-2について
ア 乙第28号証の書籍の中表紙、奥付及び書籍に付される帯の背表紙に相当する部分には、使用商標A-2が表示されており、また、乙第31号証のチラシの表紙にも、使用商標A-2が表示されている。
イ 使用商標A-2は、別掲2のとおり、逆Tの字型の黒色帯図形の縦帯と横帯が接する両脇に着色又は線で表した正方形を配して階段ピラミッド状にした各段の上部に左から、「C」、「R」、「E」、「S」、「T」の文字を配し、さらに、黒色の横帯に白抜きで「BOOKS」の文字を配し、その下段に「Shinchosha」の文字を配してなるものである。
ウ 被請求人は、我が国において著名な出版社といえるから、使用商標A-2の構成中、「Shinchosha(SHINCHOSHA)」の文字部分は、被請求人の名称の略称をローマ字表記したと認識されるものである。
エ 使用商標A-2の構成中、黒色の横帯に白抜きで表示された「BOOKS」の文字は、「本、書籍(複数形)」の意味を有する英語であるから、該文字部分は、商品が「書籍」であることを表示するにすぎないものである。
オ 使用商標A-2の構成中、階段ピラミッド状の各段上部に左から、「C」、「R」、「E」、「S」、「T」の文字を配してなる部分は、その他の構成部分に表示された「Shinchosha(SHINCHOSHA)」及び「BOOKS」の文字が、いずれも左横書きであることと相まって、左から順にみるのが自然であるから、「CREST」の文字を階段ピラミッド状に配したものと把握、理解させるものである。そして、「CREST」の文字は、「クレスト」の称呼及び「波頭」の観念を生じるものである。
カ 以上のとおり、使用商標A-2の構成中、「BOOKS」の文字は、商品が「書籍」であることを表示するにすぎないものであり、また、「Shinchosha(SHINCHOSHA)」の文字部分は、被請求人の名称の略称のローマ字表記であることから、階段ピラミッド状に配された「CREST」の文字部分と「BOOKS」の文字を含む図形部分及び被請求人の名称の略称表記部分とが分離され、把握されることからすると、「CREST」の文字部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を発揮する部分といえる。
そうすると、「CREST」の文字と本件商標とは、大文字と小文字に差異があるものの、綴りは同一であり、また、「クレスト」の称呼及び「波頭」の観念も同一であるから、使用商標A-2は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標というのが相当である。
(3)使用時期及び使用行為について
ア 乙第28号証の書籍は、その奥付に表示された「発行所 株式会社新潮社・・・東京都新宿区矢来町71」、「発行 2012年12月20日」、「4刷 2013年8月20日」の記載から、被請求人が2013年8月20日付けで印刷・発行したものであるから、使用商標A-2が被請求人によって、2013年(平成25年)8月頃に、該書籍及び帯に付されたと認められ、これは、商標法第2条第3項第1号にいう「商品又は商品の包装に標章を付する行為」に該当する行為である。
イ 乙第31号証のチラシは、書籍に挟み込んで頒布される書籍の広告チラシであり、その表紙には、「新潮クレスト・ブックス」及び「SHINCHOSHA」の表示があり、被請求人が発行した書籍が紹介されているから、被請求人が自社の商品の広告として印刷したものである。そして、このようなチラシは、印刷が済み次第、速やかに頒布するものといえるから、該チラシは、被請求人によって、その印刷年月と認められる2013年(平成25年)8月頃には、頒布されたと推認され、これは、商標法第2条第3項第8号にいう「商品の広告に標章を付して頒布する行為」に該当する行為である。
(4)使用商品について
乙第28号証の「書籍」は、本件商標の指定商品「印刷物」に含まれる商品である。
(5)小括
上記(1)ないし(4)のとおり、本件商標の商標権者は、本件商標と社会通念上同一の商標を要証期間内である2013年(平成25年)8月頃に本件審判の取消請求に係る指定商品「印刷物」に含まれる「書籍」について使用したというのが相当である。

5 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が取消請求に係る指定商品「印刷物」に含まれる商品「書籍」について、本件商標(社会通念上同一の商標を含む。)の使用をしていたことを証明したものというべきである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定に基づき、請求に係る指定商品についての登録を取り消すべき限りではない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(使用商標A-1)


別掲2(使用商標A-2)


別掲3(使用商標B-1)


別掲4(使用商標B-2)


別掲5(使用商標C)


別掲6(使用商標A-3)


別掲7(使用商標D)




審理終結日 2016-10-28 
結審通知日 2016-11-01 
審決日 2016-11-15 
出願番号 商願平10-27561 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (Z16)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 光治 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 1999-06-11 
登録番号 商標登録第4283547号(T4283547) 
商標の称呼 クレスト 
代理人 浜田 治雄 
代理人 吉村 仁 

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