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審決分類 |
審判 一部無効 称呼類似 無効としない W14 審判 一部無効 外観類似 無効としない W14 審判 一部無効 観念類似 無効としない W14 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W14 審判 一部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W14 |
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管理番号 | 1330230 |
審判番号 | 無効2016-890008 |
総通号数 | 212 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2017-08-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2016-02-08 |
確定日 | 2017-06-19 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5570684号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5570684号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり「mobus」(「o」の文字にはウムラウト記号が付されている。以下同じ。)の文字を表してなり、平成24年11月2日に登録出願、第14類「貴金属,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,宝石箱,身飾品,貴金属製靴飾り,時計」を指定商品として、同25年3月11日に登録査定され、同年3月29日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 請求人が引用する登録第1194262号商標(以下「引用商標」という。)は、「MOEBIUS」の文字を書してなり、昭和49年6月21日に登録出願、同51年4月12日に設定登録されたものであり、その商標権は第4類「燃料,時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油,その他の工業用油,工業用油脂,ろう」を指定商品として、現に有効に存続しているものである。 第3 請求人の主張 請求人は、本件商標の指定商品中「時計」についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第45号証を提出した。 1 請求の理由 本件商標の登録は、その指定商品中「時計」については商標法第4条第1項第11号、同第10号及び同第15号に違反してされたものであるから、商標法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。 2 具体的な理由 (1)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標と引用商標の類否 (ア)引用商標の表記ルーツは遅くとも1855年まで遡り、もともとそのドイツ語表記の「MOBIUS」(「O」の文字にはウムラウト記号、「I」の文字の上部にドット記号が付されている。以下同じ。)であった(甲4)。世界的な販売戦略のため、「MOBIUS」のドイツ語表記を対応する英語表記としたものが引用商標「MOEBIUS」である。つまり、「O(o)」(大文字、小文字のいずれにもウムラウト記号が付されている。)を英語表記すると「OE(oe)」である。 一方、本件商標の表記はドイツ語表記の「mobus」であり、このドイツ語表記を対応する英語表記にして表すと「moebus」である。 このようなドイツ語のウムラウトの文字を英文字へ書換えることは、例えばドイツ向けの銀行送金の際などに一般的にみられる手法である。これは、コンピュータにおいてウムラウト表記が可能か否かに拠るところであり、銀行送金のみならず、一般の取引の際においても行われ得る手法であることは容易に想像できることである。時計や時計用機械油の需要者・取引者はこのような表記に関する知識を有しており、文字商標の表記として「O(o)」と「OE(oe)」とが同一のものと認識することは明らかである。 仮に、本件商標を英語表記した場合、「moebus」となり、引用商標の「MOEBlUS」との差異は、小文字と大文字の違いはあるものの、両商標を全て小文字又は大文字とした場合、その相違は「B(b)」と「U(u)」の間の文字「I(i)」の有無のみである。その結果、両商標は外観において実質的に類似すると認められる。 逆に引用商標をドイツ語表記した場合、「MOBIUS」となり、本件商標の「mobus」と上記と同様の差異のみとなり、これらの表記であっても両商標は外観において実質的に類似すると認められる。 したがって、外観において本件商標と引用商標は類似する。 (イ)次に、商標の称呼について述べる。本件商標を構成する文字のうち「o」(ウムラウト記号が付されている。以下同じ。)は、上記のとおりドイツ語表記であり、オー・ウムラウトであると認識される。この文字「o(O)」(小文字、大文字のいずれにもウムラウト記号が付されている。)を英語表記した場合、上記のとおり「oe(OE)」となる。そしてその文字の発音は「o:」(「o」の文字にストローク記号が付されている。)となり、日本語で発音する場合、「オ」を発音する口の形で「エ」と発音する。しかしこの発音は、日本語で当てはまる音がない。 では、ドイツ語のオー・ウムラウトが本件商標及び引用商標の需要者にどのように発音されるかを考察する。 本審判の請求対象の指定商品は「時計」である。「時計産業」は、請求人の居所であるスイスにおいて、1574年に時計製造技術が伝えられて以来、スイスが世界最大の時計輸出国であることは明白な事実である(甲5)。そして、ドイツ語は、世界最大の時計輸出国であるスイスの公用語のひとつである。 してみると、スイスにおける長年の時計産業の発達から、「時計」を扱う日本の需要者においても商品名をドイツ語の発音にて発音し、取引にあたる場合も少なくないと考えられる。これは、例えば「医薬品」や「医薬機器業界」ではドイツ語が広く使用され、ドイツ語の発音にて商品名が発音され、取引されているのと同様であると考えられる。 しかし、たとえ取引の際ドイツ語が使用されるとしても、該当する日本語の発音がないため、日本の需要者が「オ」と「エ」の中間音を称呼するとは考えにくい。してみると日本の需要者は「オ」と「エ」の中間音をもって発音するよりも、「オ」又は「エ」もしくは「オエ」のいずれかの音をもって称呼すると考えられる。「o」(ウムラウト記号が付されている。)から「オ」又は「エ」の称呼が生じることは、過去の審決からも明らかである(甲6)。 以上のことから、本件商標と引用商標の称呼をそれぞれ認定すると、本件商標からは「モーブス、モブス、メーブス、メブス、モエーブス、モエブス」などの称呼が生じると考えられ、引用商標からは「モービウス、モエビウス、メービウス、メビウス」などの称呼が生じると考えられる。 本件商標及び引用商標は日本語表記ではなく、日本人にとって比較的なじみの高い英単語でもないことから、需要者によりその称呼が変わるという実体もあり、上記のような多数の称呼が発生することは明らかである。それを証左するものとしてインターネットにおける証拠が存在する(甲7?甲9)。 上記のことをふまえ、本件商標と引用商標の称呼を対比する。 本件商標が「モーブス」と称呼され、引用商標が「モービウス」と称呼された場合、その差異は「ブ」と「ビウ」の部分のある。「ブ」と「ビ」はそれぞれ「う行」と「い行」の発音であるものの、ともに「ば行」であり、かつ「濁音である」。さらに「ビウ」については濁音の後に母音の構成となっており、かつ語頭ではないことから、「ウ」の母音は単独で大きく発音されず、「ビ」の濁音の音に引きずられ「ビュ」に近い音となる。そのため、引用商標は「モービュス」と発音され得る。この場合、本件商標の称呼「モーブス」と引用商標の称呼「モービュス」はともに4音節となり、両者の相違は「ブ」と「ビュ」の部分である。「ブ」と「ビュ」はともに「は行」濁音であり、かつ「ビュ」は後ろの文字の「ユ」の「う行」母音の発音が引きずられることからともに「う行」の音として認識される可能性が極めて高いといえる。よって、本件商標の称呼「モーブス」と引用商標の称呼「モービュス」は、極めて近い称呼と認識されることから、両商標の称呼は類似すると認められる。 上記と同様に、他の称呼についてもみると、本願商標の称呼「メーブス」は引用商標の称呼「メービウス」と類似し、「メブス」は「メビウス」と類似する。これらの称呼も極めて近い称呼と認識されることから、両商標の称呼は類似すると認められる。 なお、台湾においては、本件商標とは同一ではないものの、引用商標と類似として、商標「Mobius」(「o」の文字の上部には、側面が接着した二つの円が描かれている。)が異議理由ありとして拒絶が決定している(甲10)。 イ 指定商品の類否 本件商標の指定商品中「時計」については、末端の販売においては一般の需要者・取引者が対象となるものの、取引の過程における需要者・取引者は「時計店」であると考えられる。一方、引用商標の指定商品中「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」も主な需要者・取引者は「時計店」である。特にアナログ時計についてはその構造上、「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」が不可欠なものであり、またそのメンテナンス、修理等は「時計販売店の専門家」が行うことが通常である(甲11?甲13)。両商標の指定商品は、その区分及び類似群コードは相違する。しかし、これらの商品が同時に、同一の場所で、同一の需要者・取引者により取引されるという事情があることからすると、これらの商品の需要者・取引者は共通し、実際の市場においては明らかに互いに類似する商品であると認められる。 ウ 小括 本件商標は、引用商標と外観が実質的に類似し、称呼も類似する。また、その指定商品も、実質的に市場において類似するものについて使用するものであると認められる。よって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第11号に違反してされたものである。 (2)商標法第4条第1項第10号について ア 本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標は、上記(1)で述べたとおり、その商標の外観は実質的に類似し、称呼も類似し、指定商品も市場において実質的に類似するものであると認められる。 イ 引用商標の周知性 引用商標は、1855年にドイツのハノーファー(ハノーバー)にてMoebius&Sohn社(以下「Moebius社」という。)が設立され、その社名の一部として「Moebius」の使用が開始されている(甲4)。当時は時計の製造メーカーとして発足したが、創設者のMoebius氏は牛脚油が時計の潤滑油として特別な性質を持つことを最初に認識した人物であり、以来、精密機械用油及び時計油の製造販売を2008年までの約150年もの長い年月にわたり行ってきた(甲4、甲14)。そして2008年1月10日に現商標権者に事業とともに商標権が譲渡され(甲15、甲16、甲20)、それ以降、商標権者が商標「Moebius」の付された商品を継続して販売している(甲17?甲19)。 現在、商標「Moebius」の付された商品は時計用オイル他、精密機械用オイル、グリース、基盤用オイル、腐食防止用オイルなどであり、ドイツのみならず、日本を含む世界中にて販売されている(甲21?甲28)。また、日本においては時計専門店ほか、商品の単体を楽天、アマゾンなどでも通信販売をしているため、全国的に販売されていることが認められる(甲29、甲30)。さらに、楽天に出店しているDOS時計工具店のウェブサイトには、「Moebiusの時計オイルは世界でもっとも愛用されているスイスの時計オイルメーカーです」との記載がある(甲31)。 さらに、請求人の商品に付された商標は、本国のスイスにおいて極めて高い名声を受けていることがスイスの時計工業会連盟によって証明されている(甲32)。 上記の他、イギリス時計協会や多数の時計専門団体、専門業者などが「moebius oil」を推薦している(甲33?甲36)。 このことからも引用商標「Moebius(MOEBIUS)」は、日本国内において周知であるのみならず、世界においても著名であることを示している。 以上のことから、引用商標は本件商標の査定時にすでに需要者の間に広く認識されている商標である。 ウ 小括 上記のとおり、本件商標は、引用商標とその外観は実質的に類似し、称呼も類似する商標であり、その指定商品も市場においては類似するものであると認められる。さらに、引用商標は被請求人以外の者の業務に係る商品を表示するものとして日本国内で周知であるのみならず、世界においても著名な商標であると認められる。すなわち、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標に類似する商標であって、その商品に類似する商品について使用するものである。よって、本件商標の登録は商標法第4条第1項第10号に違反してなされたものである。 (3)商標法第4条第1項第15号について 本来、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第10号に該当するが、万一、それらに該当しないとしても、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 ア 本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標は、上記(1)で述べたとおり、その商標の外観は実質的に類似し、称呼も類似し、指定商品も市場において実質的に類似するものであると認められる。 イ 引用商標の周知性 引用商標の周知性及び著名性については上記(2)で述べたとおりである。 ウ 出所の混同 本件商標と引用商標の両指定商品は、上述のとおり本来類似であると認められる。しかし、仮に両指定商品が類似群コードの相違により非類似と判断されるとしても、上記のとおり両指定商品は需要者・取引者が共通することから、実際の市場においては出所の混同を生じるおそれがあるといわざるを得ない。 市場における取引の実情を除外し、類似群コードによる画一的な商品の類似の判断を行うことで、このような商品の出所の混同の生じる可能性のある商標が市場において共存することは、市場における取引で混乱を生じかねないのみならず、商標法第1条に規定する商標法の目的を果たしえない。 以上のことから引用商標は本件商標の査定時にすでに著名であり、本件商標がその指定商品に使用された場合、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標と認められる。 エ 小括 本件商標が指定商品の「時計」に使用された場合、本件商標は、その商品の需要者・取引者が請求人の業務に係る商品と混同をするおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものであるから、無効とすべきである。 (4)むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号及び同項第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきである。 3 答弁に対する弁駁 (1) 本件商標の称呼について ア 被請求人は、本件商標の称呼に関して答弁書で「我が国の時計の平均的な需要者にとっては、どのように発音したらいいか不明である。そのため、我が国の需要者は、目にすることの多い『o』、すなわち、『オ』の音を表す文字と同視し、本件商標全体も自然に英語風の『モーブス』と称呼するところである。」と主張する。 しかしながら、本件商標は、ドイツ人の「mobus」から採択された商標であり、ドイツでは一般需要者・取引者で「メーブス」と称呼されている商標であって、本国とは全く異なる「モーブス」とのみ称呼すると主張することに誤りがある。つづりで「o」(オーウムラウト)とわざわざ記載しているのは英語「o」とは異なることを意識して出願・登録された商標である。このことは「mobius」がメビウスとして紹介されていることからも「メブス」又は「メーブス」と称呼される。 イ 本件商標から発生する称呼が「モーブス」だけではなく、他の称呼も称呼し得ることは、独立行政法人工業所有権情報・研修館のデータベース上の参考称呼からも明らかである。 ウ 商標権者が開設していると思われる「mobus」に関するウェブサイトでは、会社名を「Mobus Offenhauser(「a」の文字にはウムラウト記号が付されている。以下同じ。), Schmidt, Wahl GbR」となっているが、ドメイン名は、「moebus.net」と「mobus」を英語表記に置きかえたものを使用している(甲37)。 かかる事実からしても「メーブス」と称呼するのが自然である。 「mobus」=「moebus」(英語表記)であるとすれば、引用商標とは、1字相違に過ぎず外観的にも類似していると見るべきである。 1996年1月1日に(株)自由国民社が発行した「カタカナ・外来語/略語辞典」(甲38)の「メビウスの帯」欄には、「メビウスの帯(←Mobius band(「o」の文字にはウムラウト記号が付されている。以下同じ。))・・・ドイツの数学者A.F.Mobiusの名から。」と掲載されている。 1973年10月1日に株式会社小学館から発行された「小学館ランダムハウス英和大辞典」(甲39)の「mobius」の欄には、「Mobius・・・.Au・gust Fer・di・nand・・・,メービウス(1790-1868):ドイツの数学者・天文学者.(またMoebius) Mobius strip・・・メービウスの帯[輪]・・・(またMobius band[loop])[1904. A.F.Mobiusの名にちなむ]」と掲載されている。 なお、現存する会社が「Mobus Offenhauser, Schmidt, Wahl GbR」と記載されているが、本件商標権者が「Mobus GbR」となっている事実に疑問が残る。もし名称変更されているなら、原簿上の名称も正しく変更されるべきである。 (2) 商標の外観の類否に関して 被請求人は、本件商標と引用商標とは相互に非類似の関係にあると答弁している。商標に関して「mobus」と「moebius」とを比較すればつづり的に2字相違するが、「o」に関して、英語表記に置き換える場合、「mobius」(メビウス)を「moebius」と英語表記に置きかえることが英語の辞書(甲39)に掲載されているように「moebus」と「moebius」の比較になる。 外観的には、第5字目の「i」の有無の相違であること、この結果、外観的に類似の関係にある。 (3) 被請求人の販売していると主張する「時計」について 被請求人は、答弁書において「被請求人は、それ以来、『mobus』ブランドの靴を製造販売し、その製品群は現在ではバッグ、被服、時計等に及んでいる。被請求人は、ドイツに止まらず、日本を含む世界的な販売をしており、」と主張している。 第18類及び第25類の指定商品に関しては、「Offenhauser,Marco」の名義でドイツ及び欧州共同体で商標登録されている(甲40)。しかしながら、欧州共同体商標意匠庁の商標検索データベースで検索しても第14類の指定商品に関して商標「mobus」が登録されている例は見当たらず(甲41)、このことから欧州で商標登録しない状況下で被請求人である商標権者が指定商品「時計」に販売しているという被請求人の主張には疑問が残る。 (4)被請求人が販売する「時計用合成油」について 指定商品「時計用合成油」は、第4類の中概念商品「工業用油」に属するものである。 その結果「類似商品役務審査基準」上は、第14類の指定商品「時計」とは非類似の関係にある。 しかし、「類似商品・役務審査基準」は、審査官が商品の審査を画一的に処理するための基準であって、指定商品の類似を定めたものではない。 特に「時計用合成油」は、時計の製造の際に使用する商品として及川商事から腕時計(メカ・クォーツ)の組立を行う林時計工業株式会社及び腕時計の製造を行うセイコーインスツルメント株式会社宛に配送されている。 したがって、腕時計にとって時計用油は、必須の部品として位置づけを有するものであり、商品の関連性は極めて高く「MOEBIUS」の商標は、ザ・スウォッチ・グループが製造販売している事実からも時計の類似商品に位置づけられるものである。また、万一類似商品に該当しないとしても「時計用潤滑油」と「時計」とは密接な関係にあることから、指定商品「時計」に「moebus」のドイツ語表記「mobus」を付して販売したときには商品の出所について混同を生じる恐れがあるといわざるを得ない。 (5)時計油の周知性について ア また商標「MOEBIUS」を付した商品(時計用油)は、甲第19号証及び甲第42号証に示すとおり、本件商標の出願日である平成24年11月2日より前の2012年1月ないし6月の6ヶ月の間、中島商会宛に、平成24年1月24日には、3,095スイスフラン、同年3月19日には、3,930スイスフラン、また及川商事宛に、同年3月6日には、16,225スイスフラン、同年6月5日には、8,795スイスフランと合計32,075スイスフラン(340万円)の売上げがあり、出願後においても継続して商品を中島商会又は及川商事に販売しており2012年11月以降も119,092スイスフラン(1,286万円)の売上げがある。 イ 本件商標(審決注:引用商標の誤記と思われる。)の海外における登録状況について 請求人は、海外商標調査データベースで、商標「moebius」、国際分類「04」で検索した結果の出力データ(甲43)、WIPOが提供するデータベースで商標「moebius」、国際分類「04」で検索した結果のリスト(甲44)及び当該調査結果で提示された国際登録第1120146号の詳細データ写し(甲45)に示すように、世界62ヶ国で商標「moebius」は、第4類の指定商品を指定して登録されている国際的商標である。 ウ 上述した事由により本件商標をその指定商品「時計」に使用した場合、日本及び諸外国で周知である他人の第4類の「時計用油」に使用される引用商標の商品の出所について混同を生じるおそれがあり、商標法第4条第1項第15号の規定に該当するものである。 (6)むすび 以上述べたように本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第46号証を提出した。 1 理由の要約 本件商標は引用商標と非類似であり、本件商標と引用商標の指定商品も非類似である。また、請求人が提出する書証によっては、本件商標の出願時及び登録査定時に、我が国において、引用商標が商品「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の需要者・取引者において周知著名であったとも到底認められない。そのため、本件商標の出願時及び登録査定時に、本件商標がその指定商品中「時計」に使用されても、引用商標に係る商品「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」との間で、請求人等の業務に係る商品であるとの出所混同を生じるおそれはなく、現在でもそのおそれは全くない。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第10号及び同第15号のいずれにも違反することなくその指定商品「時計」について登録されたものであり、本件商標は、商標法第46条第1項第1号に該当せず、その登録は指定商品中「時計」について一部無効にされるべきではない。 2 具体的理由 (1)商標法第4条第1項第11号の該当性について ア 商標の類否について (ア)外観について 本件商標と引用商標の類否を判断する上で比較すべきは互いが登録されている状態、すなわち、本件商標は「mobus」、引用商標は「MOEBIUS」という構成であって、これらは外観上明らかに異なっており、請求人のいう「実質的に外観において類似」するとは一体どういったことを指し示しているのか全く不明であり意味をなしていない。取引実情を勘案すべきと主張しているのだとしても、本件商標は「mobus」(あるいは、ウムラウト記号のない態様)以外では使用されておらず、また、引用商標も我が国で「MOEBIUS」のつづり以外では使用されていないことは、請求人の提出する各書証に照らしても明らかであり、引用商標「MOEBIUS」を「MOBIUS」(「O」の文字にはウムラウト記号が付されている。)と同視して本件商標との比較をすべき理由は何一つない。 本件商標「mobus」と引用商標「MOEBIUS」とは、その字数が2文字も異なり(本件商標にあっては5分の2が異なることになる)、また、つづりもその前半部において「o」と「OE」の違い、後半部において「bus」と「BIUS」という明らかな違いがあるから、需要者がこれを外観の点において紛らわしく感じ彼此混同することはありえないものである。 よって、本件商標と引用商標とは、外観上非類似である。 (イ)称呼について 称呼についていえば、時計産業との関連から一部の取引者により本件商標の「o」が「oe」と同視される余地を完全には否定できないものの、それでも本件商標の称呼は以下に述べるように「モーブス」であると考えるべきである。この称呼は、引用商標の称呼「モービウス」「モエビウス」「メビウス」「メイビス」「メービス」と全く相紛らわしいところがなく明確に区別でき非類似である。 a 本件商標の称呼の特定 (a)本件商標は「mobus」の5文字を横書きしてなり、そのうちの「o」(ウムラウト記号が付されている。)は、我が国の時計の平均的な需要者にとっては、どのように発音したらいいか不明である。そのため、我が国の需要者は、目にすることの多い「o」、すなわち、「オ」の音を表す文字と同視し、本件商標全体も自然に英語風の「モーブス」と称呼するところである。 本件商標の称呼を認定するにあたっては、商品「時計」の平均的な需要者、換言すると、商品「時計」の主たる需要者がどのような者であるかを基準にして考えるべきである。商品「時計」は究極的には最終消費者の嗜好を満たすために製造販売されるものであり、その宣伝広告も圧倒的に最終消費者へ向け行われているところであって、市場はそのような者を中心に据え形成されている。よって、一般の最終消費者こそが商品「時計」の主たる需要者と考えるべきである。 このような最終消費者は外国語の知識が決して高いといえない者も相当の割合で含まれており、大学で特別にドイツ語を習った者ならともかく、請求人が主張するように「『o』(ウムラウト記号が付されている。)が『オー・ウムラウト』であり通常の『オ』と異なる『オとエの中間的な音』を表す」といったことを知る者はそうはいない。最終消費者の多くは、「o」(ウムラウト記号が付されている。)を「『o』のようなもの」と認識するのにすぎないのであって、本件商標を「mobus」(ウムラウト記号は付されていない。)と同視できるつづりとして認識し、それを英語風に「モーブス」と称呼するところである。また、取引市場においては、簡易迅速性が尊ばれることを勘案すれば、本件商標の「o」(ウムラウト記号が付されている。)を馴染みのない英語以外の言語で正確にどう読むべきなのかについて最終消費者が深く考えるとは考えにくく、むしろ、直感的に英語風の「モーブス」と称呼すると考えるのが自然である。 なお、主たる需要者ではないが、商品「時計」の取引者についても念のため付言すると、取引者はドイツ語がよく登場する時計産業に深く関わっており、時計に対する知識が豊富なことから、「o」が「オー・ウムラウト」であり通常の「オ」と異なる「オとエの中間的な音」を表すものであることを知っているかもしれない。しかしながら他方で、これら取引者は、我が国の取引市場において、どの時計ブランドがどう称呼されているのかを熟知している。そのような取引者が、後述するような、本件商標が「モーブス」と称呼されている取引実情を無視して、あえてこれを「メーブス」と称呼するとは考えられないところである。 (b)請求人の主張について 請求人は、審決例(甲6)を挙げ、本件商標も「メーブス」と称呼されると主張している。しかしながら、この審決は商品「薬剤」等の分野に関するものであり、本件商標とは商品分野が異なるから、その主たる需要者や取引実情も自ずと異なり、本件商標の称呼を認定するにあたっては参考とならないものである。念のため付言するならば、クスリ業界における主たる需要者は、家庭薬の分野では最終消費者であるものの、医療薬の分野では医師や薬剤師等であり、ドイツ語に対する知識も商品「時計」の主たる需要者とは異なって比較的レベルが高い。 また、請求人は、証拠(甲7?甲9)を提出し、市場において、本件商標が「メーブス」と読まれているとの主張をしているが、これらの書証は、たまたまドイツ語の知識を持ち合わせた者が、市場で「モーブス」と読まれている被請求人の商品に出くわし、自身のブログ上でその読み方に疑問を投げかけているという内容のものであり、しかも、挙げられた例はほんの3件にすぎない。よって、これらの例を取引市場での本件商標の平均的な称呼を示したものと解するのは不適当である。 (c)被請求人の「mobus」ブランドに係る歴史・取引実情・称呼について 「mobus」ブランドは、1924年にベルリンにおいて、ドイツ人短距離競走のスターであったフリッツ・モーブスによって発足した。「mobus」ブランドは、主に履物を製造販売し、1936年のベルリンオリンピックにおいて、「mobus」ブランドの靴を履いたアスリートが多かったことからその評判が定着した。第二次世界大戦中は連合国の空襲により工場が破壊されてしまい業務停止に追い込まれたものの、1948年までには戦前に販売していた商品の全アイテムの販売を再開し、1952年ごろにはドイツにおける著名性は「puma」や「adidas」といった他ブランドに匹敵するものであった。人気は1960年代、70年代と続いたが、1980年代初頭の景気後退のあおりを受け、1982年には長い歴史を持つ「mobus」ブランドの製造販売が中止された。 そして、20年以上の休眠期間の後、2003年にフリッツ・モーブスの孫であるディエター・ウォールと同氏のパートナーであるヨッヒェン・シュミット及びマルコ・オフェンハウザーによって被請求人会社が設立され、「mobus」ブランドが再生を果たしたのである。 被請求人は、それ以来、「mobus」ブランドの靴を製造販売し、その製品群は現在ではバッグ、被服、時計等に及んでいる。被請求人は、ドイツに止まらず、日本を含む世界的な販売をしており、日本には、ドイツで会社が設立された年と同じ2003年の秋に進出を果たし、現在も日本在のライセンシーを通じ、「mobus」ブランドが日本市場において「モーブス」と称呼され販売されてきた(乙1?乙3)。 「mobus」ブランドは、2003年以降、現在に至るまで、ファッション分野で注目を集める繊研新聞、各種人気雑誌、インターネットブログ等に頻繁に採り上げられており(乙4?乙35)、同ブランドは、本件商標の出願日や遅くとも登録査定日までには、被請求人の業務に係る商品を表す商標として広く知られるようになっていた。 これらの新聞・雑誌・ブログを見ても分かるように、被請求人の「mobus」ブランドは、常に「モーブス」と称呼されているところである。 なお、「繊研新聞」は1日に約20万部発行されている、アパレル業界に大きな影響力のある日刊紙である。また各雑誌の毎月の発行部数は、「OCEANS」約7万2千部、「Safari」約14万部ないし20万部、「GoodsPress」約9万部、「Choki Choki」約20万部、「フットウェアプレス」約1万2千部、「FINEBOYS」約11万4千部、「Best Gear」約11万5千部、「Begin」15万6千部、「Men’s JOKER」15万部、「Gainer」11万4千部であり、いずれも人気雑誌である。 このように、「mobus」ブランドは、取引市場において一貫して「モーブス」と称呼されてきたところであり、取引実情からみても、これが「メーブス」のように異なる称呼がされる余地はないものである。 商品「時計」についても、このようなベースとなる靴、バッグ、被服の日本市場での成功に引き続き展開を始めたものであり、その知名度のもとで「mobus」ブランドの「時計」が様々なインターネット上の店舗等で販売されており(乙36?乙45)、またインターネットブログ等でも紹介されている(乙46)。 これらのサイトでは、本件商標と同一と認められる商標が表れており、そのすべてが「モーブス」と称されていることが分かる。また、その称呼と一緒に「mobus」とウムラウトを伴わず表されているものも多く見受けられ、需要者は「本件商標を『mobus』(審決注:ウムラウト記号は付されていない。)と同視できるつづりとして認識し、それを英語風に『モーブス』と称呼する」といった、被請求人の主張がここでも裏付けられている。 以上に述べたように、本件商標は「モーブス」としか称呼されないところである。 b 引用商標の称呼の特定 引用商標は、「MOEBIUS」の7文字を書してなり、そのつづり文字に相応して、「モービウス」や「モエビウス」といった称呼が生じる。また、その指定商品中「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の主たる需要者は、時計を製造・修理する時計メーカーや時計店において時計を修理する時計技師であり、これらの者は時計産業においてドイツ語が使われることをよく知っており、「OE」を「O」(ウムラウト記号が付されている。)と同視して「エ」と発音することもありえ、引用商標は「メビウス」とも称呼されうる。さらには、「メイビス」や「メービス」と称呼される可能性もあるかもしれない。 c 本件商標と引用商標の称呼の比較 引用商標の称呼のうち「モービウス」は、本件商標の称呼「モーブス」とは、語調語感が全く異なり、需要者がこれらを紛らわしく感じ混同することはない。両者はその中間において構成音や抑揚が全く異なるからである。 引用商標の称呼のうち「モエビウス」は、その第2音から第4音まで、つまり、その構成音の5分の3までもが本件商標の称呼「モーブス」とは異なり、本件商標から見れば半分以上の構成音が異なるものであって、需要者がこれらの称呼を紛らわしく感じ混同することはない。引用商標の称呼のうち「メビウス」「メイビス」「メービス」も、その語尾音以外はすべて本件商標の称呼「モーブス」と異なり同様である。 すなわち、本件商標と引用商標は、その称呼を需要者が紛らわしく感じ混同することはないものであり、両者は称呼の点でも非類似の商標である。 よって、この点に関する請求人の主張も理由がなく失当である。 なお、請求人は、台湾における異議決定例(甲10)を提出しているが、これは我が国の登録商標である本件商標と引用商標の類否を判断する上で全く参考にならない。なぜならば、そもそもこの台湾の例では、出願商標の構成が本件商標のそれと全く異なるからであり、台湾と日本の需要者がある商標に接したときの称呼の仕方やその受けとめ方も同じとは到底いえないからである。 (ウ)観念について 本件商標も引用商標も、平均的な需要者にとっては意味内容の不明な造語として受け取られるのみでありそこから何の観念も生じない。よって、両商標の観念は比較しようもなく非類似である。 イ 指定商品の類否について 本件商標の指定商品中「時計」は、上述のとおり最終消費者が主たる需要者であり主に時計店で取引されるのに対し、引用商標の指定商品中「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の主たる需要者は、時計を製造・修理する時計メーカーや時計店において時計を修理する時計技師であり主にメーカーや商社から購入され取引される。 よって、これら商品が同一の需要者や同一の場所で取引されるため類似するとの請求人の主張も全く理由がなく失当である。 なお、請求人は、時計店で時計技師が「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」を使用することに言及しているが、このことが両商品の取引される場所が同一であることを示していることにはならない。なぜならば、商品「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の取引、すなわち、販売が最終消費者を対象にして時計店で行われることはなく、時計技師もこれを時計店で購入することはないからである。 また、両商品は、その用途、品質、原材料等においても異なるものである。 このように、両商品は、需要者の範囲、取引場所、用途、品質、原材料等において全く共通することのない非類似の商品である。 ウ 小括 以上に述べたように、本件商標が引用商標と類似であり、その指定商品中「時計」が引用商標の指定商品中「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」と類似するとの請求人の主張は失当であり、本件商標がその指定商品中の「時計」につき、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたとの請求人の主張は、何ら根拠がない。 (2)商標法第4条第1項第10号の該当性について 上記(1)で述べたとおり、本件商標と引用商標とは外観・称呼・観念のいずれにおいても非類似であり、指定商品同士も類似しないため、請求人によるこの主張も全く理由がないものである。 また、次のとおり、請求人が引用商標の周知著名性を立証するために提出する証拠(甲4?甲36)のみでは、本件商標の出願日・登録査定時の両方の時点における、引用商標の周知著名性を裏付ける上で充分とはいえず、引用商標の周知著名性は到底認められないものであり、請求人のこの点における主張も全く理由がないものである。 ア 引用商標の周知著名性について 甲第4号証、甲第14号証、甲第18号証、甲第20号証ないし甲第23号証、甲第25号証ないし甲第30号証、甲第34号証ないし甲第36号証は、いずれも本件商標の出願日より後に印刷されたものであり、少なくともこの出願日の時点での周知著名性を立証しているとはいえない。 よって、本件商標が、出願日・登録査定時の両方の時点で、本号に違反していたことを立証する書証としては不適当である(商標法第4条第3項)。 甲第19号証は、引用商標を付した商品が日本に販売された事実を立証しようとするもののようである。被請求人の手許にある副本では第1葉ないし第5葉と、第7葉ないし第11葉とが重複しているが、以下、その状態を前提として述べる。 第1葉ないし第3葉(7葉?9葉)は、インヴォイスの写しであるが、そこに記載されているのは、6種類の「MOEBIUS」に係る商品が各1つ記載されているにすぎない。第4葉及び第5葉(10葉、11葉)によれば、「及川商事」によって日本国内の会社に「時計油」が納品されたようであるが、それがどのようなメーカーの「時計油」であるのかは不明である。第6葉の日付は、本件商標の出願日より後であり、この書証はその出願日時点での引用商標の周知性を判断する上で参考にならない。第12葉ないし第15葉によれば、スウォッチグループの会社より日本の会社へ商品が納品されたようであるが、その数は決して大量でなく、これらのみによっては引用商標の周知性は認められない。また、第16葉ないし第27葉(最終葉)は、いずれも、本件商標の出願日より後であり、この書証はその出願日時点での引用商標の周知性を判断する上で参考にならない。 甲第24号証は日付が記載されておらず、本件商標の出願日前に発行されたものかは不明であり、また、そもそもこの書証は英語、フランス語及び中国語で記載されているのであって、我が国における商品の販売や広告に用いられたとは到底考えられず、引用商標の周知著名性の向上に役立ったとも認められないものである。甲第31号証も日付が記載されておらず、本件商標の出願日前に発行されたものかどうかは不明である。 甲第17号証は2012年の発行のようではあるが、本件商標の出願日前に発行されたものかは不明であり、また、この書証だけでは引用商標の周知著名性は到底認められない。 甲第15号証及び甲第16号証は、引用商標に係る事業の承継を示す書類にすぎず、引用商標の周知著名性とは直接関係がない。 甲第32号証は、スイス時計工業会連盟発行の2014年6月16日付の宣誓書とのことであるが、本件商標の出願日後に発行されたものであり、また、引用商標がいつごろから周知著名であったのかの言及もなく、この出願日時点での引用商標の周知著名性を立証しているとはいえない。そもそも、我が国における引用商標の周知著名性について、スイスの時計工業会連盟が知る由もなく、この書証中の「名声は、世界の多数の国において広がっている」との記載はどのような事実を元になされたのか全く不明であり信ぴょう性がない。さらに、スイス時計工業会連盟は、スイスの時計会社である請求人の利益を代表する団体であり、請求人の会社規模からしてこの団体に及ぼす影響は強いと推察されるところ、甲第32号証が公正な立場で発行されたかも疑問といわざるをえない。 甲第33号証は、イギリス時計協会発行の資料とのことであり2007年に発行されたもののようである。請求人は、これをもってこの協会により「moebius oil」が推薦されていると述べているが、甲第33号証のどの記載がその推薦につながる記載なのか全く明らかにしていない。被請求人が見たところでは、この資料は単に実用に耐える時計用の潤滑油を紹介しただけのものである。さらにいえば、この資料は英語であり、我が国の需要者がこの資料に接しているかも疑問である。 上述したように、本件商標の出願日・登録査定時の時点における引用商標の周知著名性は、請求人が提出した書証によっては到底認められず、また、請求人は、その他に引用商標に係る「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の譲渡数量、売上高、広告宣伝の方法・回数・内容等を何ら明らかにしておらず、引用商標が周知著名であったとする請求人の主張も全く理由がない。 イ 小括 以上に述べたように、本件商標が、周知商標である引用商標と類似であり、その指定商品中の「時計」が引用商標の指定商品中の「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」と類似するとの主張は失当であり、本件商標がその指定商品中の「時計」につき、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたとの請求人の主張も、何ら根拠がない。 (3)商標法第4条第1項第15号の該当性について 上記(2)において述べたとおり、請求人が引用商標の周知著名性を立証するために提出する証拠(甲4?甲36)のみでは、引用商標の周知著名性は到底認められず、請求人のこの点における主張は全く理由がないものである。 また、本件商標の指定商品「時計」と引用商標の指定商品「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」とは、その主たる需要者は、前者が一般の最終消費者であるのに対し、後者が時計の技師であり、需要者層が全く異なる。また、前者が時計メーカーから仲買商を経て小売店で販売されるのに対し、後者は精密機械用合成油の製造販売者から、時計のメーカーや時計の修理工場、時計店の修理コーナーへ販売されるものであり、その流通経路も甚だ異なるものである。 よって、上述のごとく商標同士が非類似であることも相まって、請求人が本件商標をその指定商品中の「時計」に使用しても、これに接する需要者に引用商標を連想・想起させることはなく、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。 したがって、この点についての請求人の主張も何ら根拠がなく失当であり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反することを理由として、その指定商品中の「時計」につき登録は無効にされるべきではない。 (4)むすび 以上述べたように、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第10号及び同項第15号のいずれにも違反せず登録されたものと認められるから、その指定商品中「時計」についての登録は同法第46条第1項第1号によって無効にされるべきでない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。 1 引用商標の周知性について (1)請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、次の事実を認めることができる。 ア 請求人は、スイスに所在する企業であり、1855年以降、現在まで継続して(買収前の事業者による業務を含む。)、商標「MOEBIUS」のもと、オイル、グリースなどの商品(以下「請求人商品」という。)の製造販売を行っている(甲14、甲21、甲32)。 イ 2013年には、請求人の英語のホームページに、商品の写真とともに「moebius」の文字と水滴状の図形からなる標章が表示されていた(甲14、甲21)。 ウ 請求人は、少なくとも2012年1月ないし2014年12月に「MOEBIUS LUBURICANTS」という商品を、東京在の「NAKAJIMA SHOKAI」及び「OIKAWA SYOJI」に販売したことが窺える(甲19)。 エ 請求人商品は、我が国において、「メイビス(MOEBIUS)」、若しくは、「MOEBIUS(メービス)」などと表示して、2013年10月に楽天市場及びAmazonの通販サイトにおいて、複数の店舗によって販売されていた(甲29?甲31)。 オ しかしながら、我が国(及び外国)における請求人商品の販売量、販売額など販売実績や広告回数、内容など広告宣伝の実績を示す主張及び証左は見いだせない。 (2)上記(1)の事実からすれば、請求人商品は、我が国において遅くとも2012年(平成24年)頃から販売されていたことが窺えるとしても、我が国における請求人商品の販売実績や広告宣伝の実績を示す証左はないから、引用商標「MOEBIOUS」は、本件商標の登録出願の日前ないし登録査定時において、他人(請求人)の業務に係る商品(請求人商品)であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。 2 商標法第4条第1項第11号について (1)本件商標と引用商標の類否について ア 本件商標は、上記第1のとおり「mobus」の文字からなり、該文字が我が国で親しまれた語とはいえないから、該文字を英語風読みした「モーブス」及びドイツ語風読みした「メーブス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものとみるのが相当である。 イ 引用商標は、上記第2のとおり「MOEBIUS」の文字からなり、ローマ字読み又は英語読みに倣って、「モエビウス」、「モエビアス」及び「モービアス」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものとみるのが相当である。 ウ そこで、本件商標と引用商標の類否を検討すると、両者は、外観において、欧文字と小文字の差異、5文字と7文字という構成文字数の差異、2文字目の「o(O)」のウムラウト記号の有無など明らかな差異を有するから、相紛れるおそれのないものである。 次に、称呼についてみると、まず、本件商標から生じる「モーブス」及び「メーブス」と引用商標から生じる「モエビウス」、「モエビアス」及び「モービアス」の称呼を比較すると、両者はその構成音及び構成音数に明らかな差異を有するものであるから、両者をそれぞれ一連に称呼しても、かれこれ聞き誤るおそれのないものと判断するのが相当である。 なお、引用商標の称呼については、前記1ア(エ)のとおり、楽天市場等の通販サイトにおいて「メービス」若しくは「メイビス」と記載されている。これより、仮に、引用商標から「メービス」若しくは「メイビス」の称呼を生じるとした場合、これらの称呼と本件商標から生ずる「モーブス」及び「メーブス」の称呼とを比較すると、引用商標の「メービス」及び「メイビス」と本件商標の「モーブス」とは、語頭から第3音目までの「メービ」及び「メイビ」と「モーブ」の音の明らかな差異を有するものであり、また、引用商標の「メービス」及び「メイビス」と本件商標の「メーブス」の称呼とは、3音目における「ビ」と「ブ」又は中間の「イビ」と長音の後の「ブ」の音の差異を有するものであり、いずれも4音という短い音数にあっては、それらの差異は大きいものといえるから、それぞれを一連に称呼するときは、全体の語感、語調が相違し、相紛れるおそれはないものというのが相当である。 さらに、観念においては、両商標は共に特定の観念を生じないものであるから、相紛れるおそれのないものである。 そして、他に本件商標と引用商標が類似するというべき事情も見いだせない。 エ なお、請求人は、本件商標を英語表記に書き換えた場合、又は、引用商標をドイツ語表記に書き換えた場合に本件商標と引用商標が外観において類似する旨主張しているが、本件商標及び引用商標の構成はそれぞれ上記第1及び第2のとおり「mobus」及び「MOEBIUS」の文字からなるものであり、両商標の類否はかかる構成態様に基づき検討すべきであって、これらを他の表記に書き換えて比較すべき理由はないから、かかる主張は採用できない。 また、請求人は、引用商標から「モービウス」の称呼が生じ、該称呼は「モービュス」と発音され得るとしたうえで、該「モービュス」の称呼と本件商標の称呼「モーブス」とが類似する旨主張しているが、仮に引用商標から「モービウス」の称呼が生じるとしても、それが「モービュス」と発音(称呼)されるというべき証左はなく、かつ、引用商標からは上記イのとおり「モエビウス」、「モエビアス」及び「モービアス」と発音されるのが自然であるから、請求人のかかる主張はその前提において理由がない。 オ してみれば、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標といわなければならない。 (2)指定商品の類否について 本件商標の指定商品中「時計」と引用商標の指定商品中「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」について検討すると、確かに、請求人が主張するように時計の販売店において時計の修理を行うことは少なくないといえる(甲11?甲13)ものの、「時計」の需要者は広く一般の需要者であるのに対し、「時計用・時計部品用・その他の精密機械用合成油」の需要者は時計や精密機械を修理等する専門家であり、両者の需要者は異なり、また両者の生産部門、販売部門、原材料、品質、用途も異にすること明らかであるから、両者は非類似の商品というのが相当である。 また、他に本件請求に係る指定商品「時計」と引用商標の指定商品とが類似するというべき事情は見いだせない。 してみれば、本件請求に係る指定商品「時計」と引用商標の指定商品とは非類似のものといわなければならない。 (3)小括 以上のとおり、本件商標と引用商標は非類似の商標であって、請求に係る指定商品「時計」と引用商標の指定商品は非類似の商品であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するといえない。 3 商標法第4条第1項第10号について 上記1のとおり、引用商標は請求人の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記2(1)のとおり本件商標と引用商標は外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であり、さらに上記2(2)のとおり請求に係る指定商品「時計」と引用商標の指定商品とは非類似の商品である。 そうすると、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当するものといえない。 なお、請求人は、同人が請求人商品に使用する商標「Moebius」との関係で本件商標が本号に該当すると主張していると解したとしても、上記と同様の理由により、本件商標は本号に該当するものといえない。 4 商標法第4条第1項第15号について 上記1のとおり、引用商標は請求人の業務に係る商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであり、上記2(1)のとおり本件商標と引用商標は外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標であって、別異の商標というべきものであり、さらに上記2(2)のとおり請求に係る指定商品「時計」と引用商標の指定商品とは需要者、生産部門、販売部門、原材料、品質、用途を異にするものである。 そうすると、本件商標は、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起するものということはできない。 してみれば、本件商標は、商標権者がこれを請求に係る指定商品「時計」について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その商品が他人(請求人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものといえない。 なお、請求人は、同人が請求人商品に使用する商標「Moebius」との関係で本件商標が本号に該当すると主張していると解したとしても、上記と同様の理由により、本件商標は本号に該当するものといえない。 5 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえないから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきでない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(本件商標) |
審理終結日 | 2017-01-18 |
結審通知日 | 2017-01-23 |
審決日 | 2017-02-08 |
出願番号 | 商願2012-89235(T2012-89235) |
審決分類 |
T
1
12・
261-
Y
(W14)
T 1 12・ 271- Y (W14) T 1 12・ 263- Y (W14) T 1 12・ 262- Y (W14) T 1 12・ 25- Y (W14) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 浜岸 愛 |
特許庁審判長 |
今田 三男 |
特許庁審判官 |
田中 幸一 小松 里美 |
登録日 | 2013-03-29 |
登録番号 | 商標登録第5570684号(T5570684) |
商標の称呼 | モーバス、モーブス、ムーブス、モブス |
代理人 | 特許業務法人あい特許事務所 |
代理人 | 山川 茂樹 |
代理人 | 山川 政樹 |