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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W1625
審判 全部申立て  登録を維持 W1625
管理番号 1329333 
異議申立番号 異議2016-900405 
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-21 
確定日 2017-06-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第5884391号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5884391号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5884391号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1に示すとおりの構成よりなり,2016年2月4日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張して,平成28年5月16日に登録出願,第16類「印刷されたものすなわちデカルコマニー用転写紙及び転写画及びステッカー,デカルコマニー用転写紙及び転写画,ステッカー,紙類,文房具類,印刷物」及び第25類「ニット製及び織物製シャツ,ニット製及び織物製パンツ・ショーツ,ジーンズ製の被服,セーター,ティーシャツ,ドレスシャツ,ドレスパンツ(礼装用ズボン),スカート,ブラウス,ドレス,スポーツシャツ,ポロシャツ,ビーチウェア,水泳着,下着,婦人の体型を整えるための下着,メリヤス下着・メリヤス靴下,ランジェリー,ラウンジウェア,運動競技用衣服,スウェットパンツ,レーシングパンツ,ウェットスーツ(潜水用のものを除く。),ジャケット,ベスト,コート,雨着,手袋,ソックス,スカーフ,ネクタイ,ネッカチーフ,寝間着,帽子,キャップ,バイザー,靴,サンダル,運動競技用履物,ブーツ,被服,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同年9月2日に登録査定,同月23日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が登録異議の申立ての理由において引用する商標は,以下の14件であり,本件異議申立後の平成29年4月14日に設定登録された商願2016-85423号(引用商標12)を含め,いずれも登録商標として現に有効に存続しているものである(以下,これら14件の商標をまとめていうときは「引用商標」という。)。
1 登録第5788675号(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成26年12月25日
設定登録日:平成27年8月28日
指定商品:第9類,第16類,第18類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
2 国際登録第1048069号(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
国際登録日:2010年6月28日
設定登録日:平成23(2011)年7月29日
指定商品:第9類,第16類,第18類及び第25類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品
3 登録第5689430号(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成26年3月11日
設定登録日:平成26年7月25日
指定商品:第16類及び第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
4 登録第5044896号(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲5のとおり
登録出願日:平成18年6月9日
設定登録日:平成19年5月11日
指定商品:第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
5 登録第5431413号(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲6のとおり
登録出願日:平成22年10月27日
設定登録日:平成23年8月12日
指定商品:第5類,第29類,第30類,第32類及び第33類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
6 登録第5057229号(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲7のとおり
登録出願日:平成18年6月9日
設定登録日:平成19年6月22日
指定商品:第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
7 登録第5730813号(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:別掲8のとおり
登録出願日:平成24年11月5日(優先権主張 アメリカ合衆国 2012年10月5日)
設定登録日:平成27年1月9日
指定商品:第14類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
8 登録第5419513号(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:別掲9のとおり
登録出願日:平成23年1月27日(優先権主張 アメリカ合衆国 2010年7月27日)
設定登録日:平成23年6月17日
指定商品:第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
9 登録第5427070号(以下「引用商標9」という。)
商標の構成:別掲10のとおり
登録出願日:平成23年1月5日
設定登録日:平成23年7月22日
指定商品:第5類及び第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
10 登録第5844163号(以下「引用商標10」という。)
商標の構成:別掲11のとおり
登録出願日:平成27年8月11日
設定登録日:平成28年4月22日
指定商品:第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
11 登録第5868986号(以下「引用商標11」という。)
商標の構成:別掲12のとおり
登録出願日:平成28年2月4日
設定登録日:平成28年7月22日
指定商品:第33類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
12 商願2016-85423号(本件異議申立後に登録第5939477号として登録された。以下「引用商標12」という。)
商標の構成:別掲13のとおり
登録出願日:平成28年8月8日
設定登録日:平成29年4月14日
指定商品:第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
13 登録第5912248号(以下「引用商標13」という。)
商標の構成:別掲14のとおり
登録出願日:平成28年8月10日(優先権主張 アメリカ合衆国 2016年5月20日)
設定登録日:平成29年1月13日
指定商品:第32類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品
14 登録第5912249号(以下「引用商標14」という。)
商標の構成:別掲15のとおり
登録出願日:平成28年8月12日(優先権主張 アメリカ合衆国 2016年2月12日)
設定登録日:平成29年1月13日
指定商品及び指定役務:第25類及び第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第293号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 申立人の使用に係る商標の著名性
(1)申立人による商標の使用
申立人は,1930年代に創業した米国の飲料メーカーであり,2002年にエナジードリンクの新ブランド「MONSTER ENERGY」を創設し,米国で同年3月から広告宣伝を開始し,同年4月から製造販売を開始した(甲4,7,18,58)。
申立人の「MONSTER ENERGY」ブランドの各種エナジードリンク製品には,従来の清涼飲料製品の容器とは異なる黒色ベースのボトル缶にモンスター(Monster)の爪を形取ったロゴマーク(引用商標1,4,5及び11に示す図形。以下「爪の図柄」という。)と「MONSTER」のデザイン文字を太字で大きく目立つ態様で表示した野性味あふれる独特な雰囲気が経済・ビジネス界でも注目を浴び(甲56?58),男性若者層を中心にたちまち人気商品となった。
申立人の「MONSTER ENERGY」ブランドの各種エナジードリンクには,2002年の発売開始以降,現在までの長年にわたり継続して,爪の図柄が常に表示されている。
(2)広告・マーケティング及び販売促進活動
申立人は,2002年から現在まで,全世界における「MONSTER ENERGY」ブランドのエナジードリンクに関する広告,マーケティング及び販売促進活動費として総額30億米ドルを超える費用を支出した(甲58)。その販売促進活動の内容は,世界の有名アスリート・レーシングチーム及び競技会,アマチュア選手,音楽祭及びミュージシャン,米国ラスベガスの公共機関モノレールに対する支援活動(スポンサー提供),並びに販売店用什器及び備品の供給である(甲58)。そこでは,看板やユニフォーム,備品,ビデオクリップなどに,爪の図柄又はそれを含むロゴマークが表示されている。
このような爪の図柄を用いた世界の著名アスリート及びチームに対するスポンサー活動は,申立人自らが発信する情報のみならず,スポンサー提供を受けるアスリートたちが運営するホームページやブログ,有名経済ビジネス誌,一般の報道ニュース,スポーツファンのホームページなどを通じて,日本国内の一般消費者にも発信,紹介されている(甲34?45,52,53,56,57)。
(3)日本国内の販売実績,広告・マーケティング及び販売促進活動
日本国内では「MONSTER ENERGY」ブランドのエナジードリンクの販売は,アサヒ飲料株式会社を通じてなされており,2012年5月8日から,2種類のエナジードリンク「MONSTER ENERGY」及び「MONSTER KHAOS」の販売が開始された(甲5?7,12,14,58)。
当該商品は,その発売直後から日本国内でもたちまち人気商品となり,2012年9月時点で既に年間売上目標の100万箱を突破し(甲8,65?67),その後も好調に売上を伸ばして157万箱の売上を記録した(甲9,65?67)。
さらに,次々に新製品が発売され,現在まで6種の「MONSTER」ファミリー商標を付した申立人のエナジードリンクが国内で流通している(甲10,13,15,59?62,101?103,118)。
これらの商品は,日本全国のコンビニエンスストア,自動販売機,キオスク,スーパーマーケット,列車の売店,会員制スーパー,店舗,ゲームセンター,ドラッグストア及びホームセンター等のほか,通販サイトからも直接購入可能である(甲11?17,58,61,62,72)。
2012年5月の販売開始から2015年6月30日までに,申立人は国内で約2億3,600万缶の「MONSTER ENERGY」ブランドのエナジードリンクを販売した。上記期間の総販売額は1億7,500万米ドル以上,日本円で170億円以上である(甲58)。
また,国内発売直後から継続的にテレビコマーシャル放映,日本開催の多数のスポーツイベント等へのスポンサー提供,サンプル配布など含む大々的な宣伝広告活動が実施されている(甲58)。
(4)全世界の販売国・地域及び販売額
申立人は,現在までに全世界100以上の国及び地域で1種類以上の「MONSTER」ファミリー商標を使用して「MONSTER ENERGY」ブランドのエナジードリンクを販売し,又は販売中である。
申立人のエナジードリンクは,2002年(平成14年)に米国で販売開始以来,130億缶以上販売し,世界中で毎年30億缶以上を売上げ,全世界で総額240億米ドルを超える収益を上げており,全世界での小売販売額は毎年60億米ドルを超え,申立人の全売上額の92%以上を占める(甲58)。申立人の年間総販売額は,23.7億米ドル(2012年度),25.9億米ドル(2013年度),28.3億米ドル(2014年度)で,エナジードリンクの売上げは,年間総純売上に対して,それぞれ95.4%,95.6%,96.1%を占める。
申立人の「MONSTER ENERGY」ブランドは,販売量において,米国で最も売れ,また世界第2位のエナジードリンクである。申立人のエナジードリンクは,現在米国におけるエナジードリンク市場の36.8%のシェアを占め,その販売量において全世界で最も高成長を遂げた主要ブランドの地位を維持している。
(5)アパレル製品,ビデオゲーム製品等の販売
2002年から現在まで,申立人は爪の図柄及び「爪の図柄とMONSTER ENERGY」のロゴマークを付したアパレル製品等が,多数のライセンシーにより製造,販売されており,一般消費者の高い人気を獲得している。当該ライセンス商品は,現在,日本及びアジア全域,オーストラリア,米国,カナダを含む世界各地で販売中である(甲58)。爪の図柄及び「爪の図柄とMONSTER ENERGY」のロゴマークが付された被服,運動用特殊衣服,運動用ヘルメット,ステッカー,リュックサック等は,日本国内でも人気の高い商品であり,インターネットの通信販売業者により日本国内でも輸入販売されている(甲47,48,92,98,100)。
(6)その他,申立人は,経済界等からの数々の表彰を受けるとともに,ウェブサイト及びソーシャルメディアによる情報発信,商標登録によるブランド保護,国内における申立人商標のライセンス商品の販売や模倣品の水際取締り,スポーツイベント等やプロモーションキャンペーン等も行っている。
(7)以上の事実に照らせば,爪の図柄は,申立人の代表的商品出所識別標識として,本件商標の登録出願日前より,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,本国米国をはじめとする外国で広く認識されていただけにとどまらず,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,日本国内の需要者の間でも申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたことが明らかである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人が自己の業務に係る商品及び役務の出所識別標識として使用している爪の図柄は,モンスター(MONSTER)の硬く鋭く尖った爪を想起させる独創的な図案からなる創造標章である。
爪の図柄は,申立人が2002年から今日に至るまで継続して,全ての種類のエナジードリンク缶の正面に大きく顕著に表示して使用されていることに加えて,被服,運動用ヘルメット,文房具,かばん類などをはじめとする申立人の商標ライセンス商品にも爪の図柄が大きく目立つ態様で表示されている。
また,申立人のアスリートやレーシングチームへの支援活動や,プロモーション活動と関連して,ユニフォームやヘルメット,オートバイやレーシングカーの車体,スポーツ用具に貼付するステッカー,ロックミュージックコンサート,娯楽イベントにおいても,爪の図柄が大きく目立つ態様で表示されている。
このように,申立人の使用に係る爪の図柄は「MONSTER ENERGY」のブランド及び申立人会社を直観させる申立人の代表的出所識別標識となっており,本件商標の登録出願時及び登録査定時には,日本国内及び米国を含む多数の外国において申立人の業務に係る商品・役務を表示する代表的出所識別標識として需要者の間で広く認識されていた(甲2?293)。
(2)本件商標は,左上方向,下方向及び右上方向に向かいそれぞれ徐々に幅が狭く細く収れんして尖った先端部を有する細長い帯様図形を三つ又状に構成したもの(以下「三つ又状図形」という。)において,当該左上向き及び右上向きの帯様図形の先端部からそれぞれ下方向に向かい幅が狭く細く収れんして尖った下端部を有する輪郭がギザギザの鉤裂き状の長さが等しい帯様図形2本を左右対象に向かい合わせて並べ,これらよりもその間に位置する三つ又状図形を構成する下向きの帯様図形を幾分長くした図形から構成されるものである。当該構成全体は英文字の「M」の字形を想起連想させる。
他方,申立人の使用に係る爪の図柄は,左方向に尖った上端部から下方向に向かい徐々に幅が狭く細く収れんして尖った下端部を有する輪郭が細かいギザギザ状の帯様図形3本をおおむね互いに並行に均等間隔で並べ,そのうち,左右に位置するものを略等しい長さにし,これらよりもその間に位置するものを幾分長くした図形から構成されるものである。当該構成全体は申立人の代表的商品出所表示「MONSTER」の頭文字の「M」の字形を想起連想させる。
本件商標と申立人の使用に係る爪の図柄を比較すると,本件商標は,縦方向に細長い帯様図形3本を有する図形として看取され,それぞれが下方向に向かい幅が狭く細く収れんする尖った下端部を有する点,それらの上端部が横向きに尖って突起している点,当該帯様図形(左右2本)の輪郭が直線でなくギザギザの鉤裂き状である点,当該帯様図形3本が互いに平行かつ均等間隔で並べたものとして看取され,そのうち左右に位置するものは長さが等しく,かつ,これらよりも中央に位置するものが幾分長いものである点において,申立人の使用に係る爪の図柄の構成と共通又は極めて類似する特徴を有する。本件商標と申立人の爪の図柄の構成要素に共通する滑らかでないギザギザに尖がった輪郭,細く尖った先端に向かい徐々に収れんする縦方向に細長い3本の帯様図形,並びに横向きに尖った複数の小さな突起部の組み合わせは,硬質,強靭,鋭利,攻撃的といったイメージを想起させるものであり,その外観全体から看取される印象が近似し,極めて類似した図形として看者を印象づける。また,英文字の「M」の字形を想起連想させる点でも両者の図形印象は酷似する。
したがって,本件商標と申立人の使用に係る爪の図柄は,類似性の程度が高いことが明らかである。
本件商標の指定商品は,申立人の爪の図柄が現に使用され,需要者の人気を博しているTシャツ,帽子等の被服,運動用特殊衣服,運動用ヘルメット,ステッカー・ポスター・カレンダー(文房具類)等と同一又は類似の商品に使用されるものであり,それらの最終的な需要者は一般消費者を多く含むから,本件指定商品の通常の需要者の注意力の程度は高いものとはいえない。
申立人の使用に係る爪の図柄が独創性の高い創造標章であることに加えて,上記事柄を斟酌すれば,本件商標がその指定商品に使用された場合は,これに接した需要者は申立人がその商品及び役務の出所識別標識として使用している爪の図柄及び申立人会社を直観し,当該指定商品を申立人又は申立人と経済的若しくは組織的関係を有する者(例えば,申立人の商標ライセンシー)の取扱いに係るものであると誤信することにより,その出所について混同を生じるおそれが高い。
また,爪の図柄を容易に想起連想させる本件商標が使用された場合は,2002年から現在に至る申立人による継続的使用と営業努力によって申立人の商品役務の出所識別標識として広く認識されるに至っている爪の図柄の出所表示力が希釈化することが明らかであり,その獲得した信用力,顧客吸引力にフリーライドする行為といわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標が使用された場合,申立人の商品及び役務の出所識別標識として広く認識されている爪の図柄の出所表示力が希釈化するおそれが高いものであり,また,本件商標の使用は,申立人がこれらの商標について獲得した信用力,顧客吸引力にフリーライドするものといわざるを得ず,申立人に経済的及び精神的損害を与える。
したがって,本件商標は,社会一般道徳及び公正な取引秩序の維持を旨とする商標法の精神並びに国際信義に反するものであり,公の秩序を害するおそれがあるものといわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)申立人の使用に係る爪の図柄の周知性について
ア 証拠及び申立人の主張によれば,以下の事実が認められる。
(ア)申立人は,1930年代に創業した米国の飲料メーカーであり,エナジードリンクの新ブランド「MONSTER ENERGY」を創設し,2002年から米国において発売開始した(甲7,8,10)。申立人のエナジードリンク(以下「申立人商品」という。)は,日本において,2012年5月8日から発売開始され(甲7,8),それら商品の容器の側面には,飲料の種類により色彩が相違するものの,引用商標1,4,5及び11(別掲2,5,6及び12)の図形と構成上の特徴を共通にする爪の図柄が,顕著に表されている(甲5?8,10?17)。
(イ)申立人商品は,日本において,2012年5月の発売開始以降,2012年末までの約8か月で157万箱販売された(甲9)。
(ウ)申立人の最高経営責任者の宣誓供述書(甲58)によれば,申立人商品は,日本において,2012年5月の販売開始から2015年6月30日までの約3年間で,約2億3600万缶の販売,総販売額は1億7500万米ドル以上,日本円で170億円以上であるとされる。
(エ)当該供述書によれば,申立人は,広告,マーケティング及び販売促進活動のために,全世界では,2002年以来,30億米ドル以上を支出しているが,「モンスター社のマーケティング戦略は,従来の方法とは異なり,MONSTER商標及び爪の図柄を広めるための広告を,直接テレビやラジオで行わない」とされ,広告などは「世界中の競技選手,競技大会及びイベントへのスポンサー活動を通じて」行われている。ただし,日本では2012年5月及び6月に販売開始を支援するために,主要テレビ局のテレビ広告枠を購入し,視聴者にウェブサイトで更なる情報を得るように促す広告を行い,それに190万米ドル以上を支出したとされる。
(オ)申立人は,申立人商品の広告,マーケティング及び販売促進活動として,バイクレースや自動車レースなどのモータースポーツ(甲42の1,43?45,64,68?71,74,75,77,78,82,83,89,90,105?107,110,112,117,121,122,125,138?141,145?148,152?157,163,164,168,232,233,238,241,243,245,247),ロックミュージック(甲63,108,115,116,123,124,133,143,149,151,158,161,165,234,237,240,248,251),スノーボード(甲73,76,79,80,91,160,228,231),ビデオゲーム(甲87,88,142,144,166,167,226,227,242,244,246),サーフィン(甲81),格闘技(甲162),映画(甲229)などと関連したイベント,選手・アーティストのスポンサー活動若しくはそれらと関連した販売促進キャンペーン,又はその他の関連グッズなどを用いた販売促進キャンペーン(甲113,114,118?120,128,132,150,159,230,235,236,239,249,250)を,申立人商品に付されている爪の図柄を表示しつつ,実施した。
(カ)甲第129号証(アサヒ飲料株式会社のニュースリリース,2016年3月31日)によれば,申立人商品は,「ブランド力とファッション性で世界中の若者からの圧倒的な支持を背景に,急成長しているエナジードリンクです。」と紹介され,「エナジードリンク市場は,『モンスターエナジー』などの海外ブランドの浸透により,最近では10代,20代が『炭酸の刺激を楽しみたい』や『気分転換』を目的に飲用する傾向」との記載がある。
イ 上記アの認定事実によれば,申立人による爪の図柄は,2012年5月から日本においても販売されている申立人商品に係る容器に表示されており,その販売額は,約3年間(2012年5月?2015年6月)で約170億円以上とされ,その販売期間は発売から本件商標の登録出願時までは約4年間程度と長期にわたるものではないが,ある程度継続した販売実績があることがうかがえる。
しかし,申立人はテレビなどの一般的なメディアを通じた広告宣伝はそもそも行わない方針であることもあり,テレビCMは,2012年の発売当初の1か月程度の短期間で,その費用も約1億5千万円(190万ドル;80円/ドルで計算)程度のものであり,継続的に行われているスポンサー活動や販売促進キャンペーンも,日本における広告宣伝費は明らかではない。その主な広告宣伝も,主に比較的若い世代が集まるようなモータースポーツやスノーボード,ロックミュージックなどと関連した選手やアーティスト,イベントと関連するスポンサー活動やプロモーション活動である。また,エナジードリンク市場自体も,10代や20代の若者を中心とするものであり,申立人商品の主要な需要者層や,広告などを通じて申立人の爪の図柄を目にする需要者層の範囲も,自ずと若年層を中心としたものと理解することができる。
このように,申立人商品の販売期間は比較的短く,幅広い需要者層が目にする機会の多い一般的なメディアを通じた広告宣伝の実績は乏しいもので,広告宣伝などを通じた爪の図柄の露出も,比較的若年層に向けた活動を通じて行われていることから,申立人商品と関連して使用されている爪の図柄は,本件商標の登録出願日前までには,その取引者や若い世代を中心とした需要者の間では,ある程度知られていたものということができても,幅広い需要者層を有する清涼飲料の分野一般においては,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されるに至っていたとまでは認めることができない。
(2)本件商標と爪の図柄の類似性について
ア 本件商標について
本件商標は,別掲1のとおり,下端に向けて先細の先端部の尖った太線を中心として左右対称に,その中心部の線上端より上部から,大きく2回切り返しをする輪郭がギザギサの鉤裂き状の太線を,中心部の線の下端には至らない程度に下方向に伸ばし,それら3本の縦線を,中心部の線上端から左右の線上端に向けて,斜め上方向に延びた太線で繋いでなる図形よりなるところ,構成全体をもって特異性のある図形商標を表したと認識されるとみるのが相当であり,これより特定の称呼及び観念は生じないものである。
イ 爪の図柄について
申立人商品に係る爪の図柄は,いずれも,その構成中に,左向きに短く尖らせた上端から,下向きに幅が徐々に細くなる不規則な凹凸状の輪郭を有する鉤裂き状の帯様図形を3本縦方向に平行に配置してなり,このうち中央のそれは,左右のそれよりやや長めに描かれている図形を有してなるものであるところ,構成全体をもって独創性のある図形商標を表したと認識されるとみるのが相当であり,これより特定の称呼及び観念は生じないものである。
ウ 本件商標と爪の図柄との類否について
本件商標と爪の図柄とは,(a)その構成中に3本の縦線を有し,(b)その縦線の全部又は一部が鉤裂き状であり,(c)3本の縦線のうち中央の線が左右の線よりも下方向に延びている点で共通するとしても,(d)本件商標は3本の縦線のみにより構成されるのではなく,3本の縦線を左右対称の斜線で繋げてなるという構成上の大きな差異があり,(e)鉤裂き状の部分も,本件商標は左右の縦線のみにあるのに対し,爪の図形は3本の縦線の全てにあり,(f)鉤裂き状の程度についても,本件商標は大きく2回切り返しをするような荒いものであるのに対し,爪の図柄は,特段の大きな切り返しなく,小さな凹凸状のギザギザが連続して細かくなされているという差異を有する。
そうすると,両者は,上記の(a)から(c)のような抽象的な共通点を有するとしても,上記の(d)から(f)に挙げるような構成態様及び鉤裂き状部分の特徴において明らかに相違するものであり,かつ,構成全体としてもそれぞれから受ける印象も顕著に異なるため,両者を時と処を異にして離隔的に観察した場合であっても,外観上,十分に区別し得るもので,互いに紛れるおそれはないというべきである。
請求人は,両者から英文字の「M」の字形を想起連想させる点で共通する旨主張するが,上記ア及びイのとおり,いずれも特異性,独創性のある図形よりなるものであり,特定の文字を表してなるものと直ちに理解することはできない。仮に両者にモチーフとした文字があるとするならば,本件商標は,欧文字の大文字「M」をモチーフとした可能性があるとしても,爪の図柄は,先端が細く尖った図形の右端から下向きに幅が徐々に細くなる鉤裂き状の帯様図形を3本縦方向に平行に配置していることから,欧文字の小文字「m」をモチーフとした可能性があるといえる程度のものである。そうすると,両者は,仮にモチーフとした文字があるとしても,欧文字「M(m)」の大文字と小文字の相違があり,加えて上記のとおりの外観上の印象が顕著に異なるものであるから,外観上,誤認,混同することは考え難い。
したがって,本件商標と爪の図柄とは,外観において顕著に相違し,かつ,称呼及び観念においては比較することができないから,両者を全体的に考察すれば,互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきであり,誤認,混同することは考え難いというべきである
(3)商品の関連性
申立人商品(エナジードリンク)は,清涼飲料の一種であり,申立人のライセンス契約の下,ライセンシーを通じてTシャツやフード付き上着などが製造,販売され(甲58),日本国内においても,爪の図柄が付されたTシャツ,フード付き上着,ジャケット,帽子,ステッカーが販売されている(甲47,48,100)。
しかし,このような申立人固有の実情があるとしても,清涼飲料の一種であるエナジードリンクと,本件商標の指定商品第16類ないし第25類に属する紙類,文房具類,印刷物や,被服,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴などとは,一般的には,その商品の性質,用途又は目的において直接的な関連性もなく,その商品の製造者や販売者,需要者層も,重複又は密接に関連しているものとはいえず,それらの密接な関連性を示す具体的な証拠は,申立人から提出されていない。
(4)出所の混同について
申立人の商標である爪の図柄は,上記(2)イのとおり,独創的な図形よりなるものの,上記(1)のとおり,申立人商品を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,若い世代を中心とした需要者の間ではある程度知られていたとしても,その周知性は限定的であり,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていた商標とはいえない。
そして,なにより本件商標は,上記(2)ウのとおり,爪の図柄とは,外観上の印象が顕著に異なる非類似の商標であり,上記(3)のとおり,その指定商品と申立人商品も,その商品の性質,用途,目的又は取引者若しくは需要者の関連性や共通性は見い出し難いことから,爪の図柄を付した申立人の関連商品が,本件商標の指定商品と共通する分野において販売されている実情があるとしても,本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,本件商標に接する取引者,需要者が,申立人の使用に係る爪の図柄又は引用商標ないしは申立人を連想又は想起するようなことは考え難い。
そのため,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,その取引者,需要者をして,当該商品が申立人の商品に係るものであると誤信させるおそれがある商標でもなく,当該商品が申立人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信させるおそれがあるものとはいえず,申立人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標ではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,上記1(2)アのとおり,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激又は他人に不快な印象を与えるような図形ではないところ,その商標登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合等,その出願経緯などに公序良俗に反するおそれがあることを具体的に示す証拠の提出もない。
申立人は,本件商標の使用は,申立人の使用に係る爪の図柄に関連して獲得した信用力,顧客吸引力にフリーライドするもので,これを登録することは商標法の精神及び国際信義に反するため,公の秩序を害するおそれがある旨を主張するが,これは専ら申立人の利益を害するか否かという私的領域に関する主張であるため,商標法第4条第1項第7号の適用がそぐわないものであるばかりでなく,上記1(4)のとおり,本件商標は申立人の業務に係る商品と混同を生じさせるおそれのある商標とはいえず,その登録が公序良俗を害する理由を見いだすことができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号及び同項第15号に違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(引用商標1)



別掲3(引用商標2)



別掲4(引用商標3)



別掲5(引用商標4)



別掲6(引用商標5)



別掲7(引用商標6)



別掲8(引用商標7)



別掲9(引用商標8)



別掲10(引用商標9)



別掲11(引用商標10)(色彩は原本参照)



別掲12(引用商標11)(色彩は原本参照)



別掲13(引用商標12)(色彩は原本参照)



別掲14(引用商標13)



別掲15(引用商標14)




異議決定日 2017-05-31 
出願番号 商願2016-52690(T2016-52690) 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W1625)
T 1 651・ 271- Y (W1625)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 啓之 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田村 正明
阿曾 裕樹
登録日 2016-09-23 
登録番号 商標登録第5884391号(T5884391) 
権利者 エムアイエム リミテッド ライアビリティ カンパニー
代理人 川口 嘉之 
代理人 古井 かや子 
代理人 土野 史隆 
代理人 香原 修也 
代理人 藤田 雅彦 
代理人 柳田 征史 

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