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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W18
審判 全部申立て  登録を維持 W18
審判 全部申立て  登録を維持 W18
審判 全部申立て  登録を維持 W18
審判 全部申立て  登録を維持 W18
管理番号 1329323 
異議申立番号 異議2016-900200 
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-07-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-26 
確定日 2017-05-08 
異議申立件数
事件の表示 登録第5844561号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5844561号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5844561号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成27年9月28日に登録出願,第18類「札入れ,通学用かばん,ハンドバッグ,旅行用トランク」を指定商品として,同28年2月17日に登録査定,同年4月22日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,登録異議の申立ての理由として引用する登録商標は,次のとおりの商標であり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
以下,これらの商標を総称して「引用商標」という。
(1)登録第1371800号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:昭和46年6月28日
設定登録日:昭和54年2月22日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(2)登録第1371801号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:昭和46年6月28日
設定登録日:昭和54年2月22日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(3)登録第4064176号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」
登録出願日:平成8年5月10日
設定登録日:平成9年10月3日
指定商品 :第14類に属する商標登録原簿に記載の商品
(4)登録第4085102号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成8年5月9日
設定登録日:平成9年11月21日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(5)登録第4085104号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」
登録出願日:平成8年5月10日
設定登録日:平成9年11月21日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(6)登録第4233269号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:別掲4のとおり
登録出願日:平成8年5月9日
設定登録日:平成11年1月22日
指定商品 :第18類に属する商標登録原簿に記載の商品
(7)登録第4263749号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」(標準文字)
登録出願日:平成9年9月19日
設定登録日:平成11年4月16日
指定商品 :第18類に属する商標登録原簿に記載の商品
(8)登録第4675541号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」(標準文字)
登録出願日:平成13年12月13日(優先権:2001年6月22日)
設定登録日:平成15年5月23日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(9)登録第975507号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の構成:「RANGE ROVER」
登録出願日:昭和44年7月16日
設定登録日:昭和47年8月16日
指定商品 :第6類,第9類,第12類及び第19類に属する商標登録原簿に記載の商品
(10)登録第5053024号商標(以下「引用商標10」という。)
商標の構成:「RANGE ROVER」(標準文字)
登録出願日:平成18年12月6日
設定登録日:平成19年6月8日
指定商品 :第18類に属する商標登録原簿に記載の商品

3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申し立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第27号証を提出した。
(1)自動車ブランド「ROVER」の歴史・著名性
引用商標の構成中に含まれる「ROVER」の文字は,英国最大の国営自動車メーカーであった「The Rover Group plc」(以下「ローバー社」という。)及び同社製の自動車の名称を表すものとして広く知られている(甲13)。ローバー社は「自動車」等に商標「ROVER(ローバー)」をはじめ,小型乗用車である「ROVER MINI(ローバー・ミニ)」,1948年に発表された四輪駆動車「LAND ROVER(ランド・ローバー)」,1970年に発表された高級四輪駆動車「RANGE ROVER(レンジ・ローバー)」などを使用していた。
ローバー社は自転車・三輪自転車・バイクを作っていた会社(Starley & Sutton Co. of Coventry)が起源である。「ROVER」の名前は,1884年製の三輪自転車の名に由来し,最初に乗用車の名称として「ROVER」の名前が用いられたのは1904年である。
「Starley & Sutton Co. of Coventry」は,1906年に「Rover Co」(以下「ローバーカンパニー社」という。)となり,本格的に乗用車の生産を始めた。1948年には四輪駆動車を開発,発売し,「Land Rover」と名付けた。乗用車「Rover」は英国王室メンバーの私用車や,英国政府の閣僚・高級官僚の公用車としても用いられ,1964年には,初代ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いた(甲14)。
1967年に「Layland Motor Corp」と合併し,その後「Jaguar Rover Triumph」となった。1970年には,四輪駆動車「Land Rover」の発展形である高級四輪駆動車「Range Rover」が発売された。
1975年に国有化され,「British Layland Ltd」となった(甲15)。そして1976年には「ROVER 3500」がデビューして,1977年度のカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれている(甲16)。そこでは,乗用車部門が「Austin Rover」となり,四輪駆動車部門が「Land Rover」と呼ばれた。1986年に「The Rover Group plc」となり,乗用車部門を「Rover Cars」とし,そこでは,日本の本田技研工業との共同開発車である「ROVER 800」が我が国や米国でも発売された(甲13)。
なお,ローバー社は,ランド・ローバーが「シリーズ3」まで製造されていた昭和53年(1978年)に,ランド・ローバー部門を子会社として再組織(ランドローバー社)し,その後,ランド・ローバー社は数度の変遷を経て経営母体が変わり,平成12年(2000年)にフォードモーター社の傘下に入った。その後,インドのタタモーターの傘下となり,「Jaguar Cars Limited」と統合され,現在は,申立人がこれを経営管理している。
我が国のメディアでもROVERブランド車の話題が取り上げられ,新聞記事にも掲載されている(甲17?甲19)。特に,「ローバー・ミニ」は我が国において人気となっており,全世界の販売台数の4割を占めるほどであった(甲20)。
このような事実から,「Rover」の日本国での周知著名性は,過去の審決においても,認定されている(甲21)。
(2)「Land Rover」「Range Rover」の著名性について
「Land Rover(ランド・ローバー)」は,ローバーカンパニー社によって,1948年に最初に製造されたオフロード向け車両の名称である(甲22)。「Land Rover」は,第二次世界大戦中に使用された米国のジープにならって作られた四輪駆動車(4WD)であり,特に,最初に製造された同車は,農夫たちがその土地(land)をどこまでもくまなく進む(rove)ことができる,廉価で頑丈な乗り物を意図して設計され,販売開始から1年弱で同社の乗用車の売上を追い越すほどのヒット商品となった(甲23及び甲24)。
すなわち,ランド・ローバーは,4WDといえば軍用車両が常識であった時代に,これを民生用として改良,製造されたものであって,その後,多用途の4WDとして「Land Rover SERIES1」(ランド・ローバー・シリーズ1)などが発売された(甲25)。特に,国際的な評価を得た数少ない英国人カー・デザイナーであるDavid Bacheによって設計された「Land Rover 88?inch Hard Top」は,質実剛健の機能美の傑作といわれ,極めて高く評価されている(甲25)。
申立人の前身であるランド・ローバー社は,世界で唯一の四輪駆動車専門メーカーとしても知られた。「Land Rover」の名を冠されたモデルが初めて発売された1948年以来,半世紀以上にわたり,卓越したオフロード性能と英国車伝統の優雅なスタイリングを併せ持つ四輪駆動車の開発を続けてきた。エアバッグや四輪に作動するABS,エア・サスペンションを四輪駆動車に搭載したのも申立人が最初であった。現在も,高速道路から悪路の走破まで幅広く高い走行性能を持ち,イギリス軍の軍用車としても採用されている。また,「Land Rover」は,英国の元首相ウィンストン・チャーチルを始め,エリザベス女王の戴冠式にも使用されるなど英国王室にも愛用されてきた。現に,自動車としては唯一,王室御用達の証であるロイヤル・ワラントをエリザベス女王,故エリザベス皇太后,エジンバラ公,そしてチャールズ皇太子の4人の王族すべてから授かった由緒あるブランドである。
「Range Rover」(レンジ・ローバー)は,1970年,ローバーカンパニー社がオフロードの走破性に加えてセダンの快適さを追求して開発した四輪駆動車に使用された名前である。1972年には南北アメリカ大陸縦断,1974年にはサハラ砂漠横断を成功させるなどその高い構造性に加え,富裕層をターゲットにした高級感あふれるインテリアを採用した,いわゆる「プレミアムSUV」の先駆けであり,「四輪のロールスロイス」とも称されている。
「Land Rover」のブランド名は,引用商標1,4又は6にあるように,横長楕円形の輪郭の内側に,「Land」の文字をやや左上に,「Rover」をやや右下にそれぞれ配し,各文字が独立して看取されるような独特の図案化を施したブランドエンブレムが長年にわたって採択されてきたものであり,取引者,需要者にとっても馴染み深いものとなっている。
現在,「Land Rover」は,「Range Rover」を筆頭に,6つのラインで構成されており,その販売単価は,日本円にして千数百万円を下らず,4WDとしては異例の高級車として,取引者,需要者の間で認識されている。平成25年(2013年)の世界販売台数は348,338台であり,販売単位を考慮すると,その人気の高さが十分にうかがい知ることができる。特に,「Land Rover」の周知著名性は,過去の審決においても,認定されている(甲26)。
上記の事情を勘案すると,「ROVER」,さらにその派生ブランドである「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」は,日本国において,遅くとも本件商標の登録出願時において,申立人又はその前身であるローバー社の業務に係る商品(乗用車)を表すものとして取引者及び需要者の間で広く知られるに至っていたとみられ,現在も,その周知著名性は継続されている。
(3)本件商標と引用商標の類否について
本件商標は,別掲1のとおりの外観構成よりなり,青色の横長楕円形の輪郭の内部には,白抜した十字型の星を表した図形とともに,上段に「SKY」の文字,その下段に「ROVER」の文字が白抜き文字で表されてなる。
ところで,本件商標の文字部分に係る「SKY」と「ROVER」の各文字は,二段書きに表されている関係で視覚上,分離して看取される場合も少なくないとみられ,かつ,本件商標の文字部分の上段の「SKY」と後半部の「ROVER」は,その意味内容において,馴染まれた熟語的意味合いを有しているなど,密接あるいは自然な関連性は全くなく,その他両者を常に一体のものとして把握しなければならない格別の事情も見当たらない。
むしろ,上記(1)と(2)で述べたとおり,「ROVER」の文字が申立人,及びその前身となる各企業が長年にわたって使用を継続し,我が国において申立人又はその前身であるローバー社の業務に周知著名なものになっているという取引の実情に鑑みれば,本件商標の構成にあって,これに接する取引者,需要者をして,「ROVER」の部分こそが脳裏に印象付けられるのであり,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分である。
したがって,本件商標の文字部分のうち「ROVER」の部分が独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす場合も少なくないとみられる。
これに対して,引用商標は,いずれも「LAND ROVER(Land Rover)」,「RANGE ROVER」の欧文字からなる商標であるところ,上記(1)と(2)で述べたとおり,「ROVER」の文字が申立人,及びその前身となる各企業が長年にわたって使用を継続し,我が国において申立人又はその前身であるローバー社の業務に周知著名なものになっているという取引の実情に鑑みれば,引用商標は,その全体をもって把握されるのみならず,「ROVER」の文字が注目され,「ローバー」の称呼とともに,「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,またはその自動車」を想起,連想する。
そこで,本件商標と引用商標とを比較対照して観察すると,本件商標のうち,「ROVER」の部分が需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部といえるので,本件商標は「ローバー」の称呼も生じるものといえる。
したがって,本件商標の称呼も,引用商標の称呼「ローバー」と類似する。
また,観念においても,いずれも造語のようなものといえるが,申立人の周知・著名商標を含んでなるところから,「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,または,その自動車」に関連する商品を想起,連想する点において,観念上も引用商標と相当程度類似する。
さらに,本件商標は,「ROVER」の文字列を含んでいる点で外観上も類似するものがあり,特に,横長楕円形の輪郭の内側に「ROVER」の文字が顕著に表されている点において,申立人のエンブレムを表す,引用商標1,4及び6とは外観においても極めて相紛らわしい。
以上を総合すると,本件商標と引用商標とは,彼此紛れるおそれの高い類似の商標である。
(4)商標法第4条第1項第11号について
本件商標は,上記(3)に詳述したとおり,引用商標と類似する商標である。また,本件商標の指定商品のうち「札入れ,通学用かばん,ハンドバッグ,旅行用トランク」は,引用商標3,6,7及び10の指定商品と同一又は類似のものである。
よって,本件商標は,これらの引用商標との関係において,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(フリーライド)及び当該表示の希釈化(ダイリューション)を防止し,商標の自他商品識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものである。同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信させるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。そして,この場合,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,他人の表示の周知,著名性及び独創性の程度,当該商標と他人の表示との類似性の程度,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情に照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである(平成12年7月11日最高裁第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)。
かかる基準に照らして考察すると,本件商標に接した取引者,需要者は,本件商標を使用した商品が,あたかも申立人の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生じるおそれがあることは,以下の理由から明らかである。
ア 引用商標の著名性,本件商標と引用商標の類似性について
上記(1)及び(2)で述べたとおり,「ROVER」,「Land Rover」,「Range Rover」は,周知・著名なものである。そして,本件商標と引用商標は類似する。
イ 引用商標の独創性の程度
ローバーカンパニー社やローバー社が英国で最初に使用開始した,1904年又は1948年当時はもとより,日本国においても,引用商標の中で最も登録出願が早い引用商標1の登録出願当時,「ローバー」,「ランド・ローバー」,「レンジ・ローバー」を知る者にとっては周知・著名な商標であり,これらを知らない者にとっても,「ROVER」,「Land Rover」,「Range Rover」が,当時の日本国でなじみの少ない外国語であったことは明らかである。
したがって,引用商標は,独創性にあふれた極めて斬新なものである。
ウ 商品間の関連性,取引者・需要者の共通性
本件商標の指定商品は,札入れやかばん等のファッション関連商品であるのに対して,引用商標が周知著名性を獲得した商品は,自動車ないし車両に関する商品である。近年,申立人のような高級乗用自動車のメーカーが各社のブランドを用いた,ブランドイメージ向上,商品化事業の一環として,上質でファッション性の高い被服,履物やかばん類などの企画・販売が行われているが,申立人においてもこのような商品化事業を大々的に行っている(甲27)。そのため,両商品は同一の事業者により提供されることが多い点で密接な関連性があり,需要者も共通する。
エ 本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力,その他取引の実情
札入れ,かばん等のファッション関連商品の主たる需要者は,いずれも一般消費者となり,決して高い注意力は期待できない。したがって,本件商標は,その構成中に「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,またはその自動車」を想起,連想する「ROVER」を顕著に含んでなるので,出所混同を生じさせるおそれがあるといわざるを得ない。
オ 本件における特殊事情(第三者商標との混同のおそれ)
本件商標は,青色の横長楕円形の輪郭の内部には,「SKY」,「ROVER」の各文字とともに,十字型の星を表した図形がいくつか表されている。
このような,横長楕円形の輪郭の内部に十字型の星を表した図形は,「日本国周知・著名商標検索」に掲載されている富士重工業株式会社の所有に係る商標がある(甲12)。また,同社は,横長楕円形輪郭の内部を青色にし,白抜きした十字型の星をいくつか配したものを,ブランドエンブレムとして使用している。本件商標は,これら富士重工業株式会社の所有に係る商標とも外観上紛らわしい場合があるといわざるを得ない。
そうすると,申立人のブランドエンブレムに係る引用商標1,4及び6と,富士重工業株式会社のブランドエンブレムに共通する「横長楕円形の輪郭」の内部に,申立人の周知,著名商標「ROVER」と富士重工業株式会社の周知,著名商標である十字型の星を共に表す本件商標にあっては,これを申立人とは何ら関係がない本件商標の商標権者が使用した場合,申立人との関係で,何らかの経済的関係の存在を想起させるおそれがあるばかりでなく,申立人と富士重工業株式会社との間にも何らかの経済的関係の存在を想起させるおそれがあるといわざるを得ず,市場に混乱をきたす蓋然性が極めて高いというべきである。
カ まとめ
上記のとおり,引用商標は,申立人の業務に係る商品であることを表す周知著名な商標であり,かかる周知著名性は,申立人又はその前身となった各企業による永年の企業活動によって獲得したものである。かかる点から,本件商標と引用商標は,高い類似性を有することに加えて,引用商標が独創的であること,本件商標の指定商品と引用商標が周知著名性を獲得した商品とは強い関連性を有する点,第三者企業の商標と紛らわしい点に鑑みれば,本件商標をその指定商品に使用した場合には,その商品が,あたかも申立人(又は第三者企業)が取り扱う業務に係る商品であるかのごとく認識され,その出所について混同を生じるおそれがあることは明白である。
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第7号について
上記のように,引用商標は,申立人の業務に係る商品であることを表す周知著名な商標であり,かかる周知著名性は,申立人らの永年の企業活動によって獲得したものである。
他方,前記構成に係る本件商標は,富士重工業株式会社の商標における特徴的図形である,十字型の星図形と組み合わせてなるものである。日本及び世界各国の自動車メーカーは,他の自動車メーカーとの技術競争,販売競争を繰り広げ,独自に発展してきたものであるが,商品価値の向上を通じて,ブランド価値の向上,ひいては企業価値の向上を図ってきたものである。そのブランド価値・企業価値の象徴たるエンブレムに使用される文字や図形を無断で使用されること(さらに他社のエンブレムと結合されること)は,その名声,名誉を傷つけるおそれがあるばかりでなく,公正な取引秩序を乱し,社会公共の利益に反し,ひいては公序良俗を害する行為というべきである。
以上より,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

4 当審の判断
(1)「ROVER」,「LAND ROVER」,「RANGE ROVER」の著名性について
ア 申立人が周知著名性を主張する商標「ROVER」は,現在は申立人が事業を引き継ぐ,自動車メーカー又はそのメーカー製の乗用車の名称である(甲13)。1964年には「Rover 2000」が,1977年には「Rover 3500」が,ヨーロッパ7か国の「CAR OF THE YEAR」を受賞した(甲14,16)。
イ 我が国においては,1990年10月20日付けの東京読売新聞に「ローバーミニクーパー1.3」の発売が(甲19),1991年9月13日付けの朝日新聞に小型乗用車「ローバー100シリーズ」の発売が(甲17),1998年10月1日付けの東京読売新聞には横浜市の「パシフィコ横浜」で開催される「ブリティッシュモーターショー」に「ローバー」も出展することが掲載されている(甲20)。
ウ 自動車雑誌「AUTOCAR Vol.137」(2014年10月1日,株式会社ACJマガジンズ発行)において,「特集」として「Land Rover」に関する記事が掲載され,「JAGUAR LAND ROVER AUTOMOTIVE PCL・・・2013年世界販売台数:348,338台(ランドローバー)」の記載,「・・・そしてローバーは叩き売られた。価値を・・・られたランドローバーについてはフォードが手・・・けたが,残りのローバー乗用車部門は中国資本・・・弄されて,今や事実上,それは地上から消滅し・・・同然である」の記載があり,ランドローバーのオールラインナップである6つのモデルとして,レンジローバー,レンジローバー・スポーツ,ディスカバリー,ディフェンダー,フリーランダー,イヴォークが挙げられている(甲25)。
エ 英和商品名辞典(1990年,株式会社研究社発行)に「ROVER」及び「Land?Rover」の項目があり(甲13,甲24),英和ブランド名辞典(2011年8月31日,株式会社研究社発行)には「Land-Rover」の項目がある(甲23)。
オ インターネット上の記事に,「英国デザインの45年-ランドローバー」の見出しの下,「レンジローバー」について,1970年当時,世界初のラグジュアリーSUVであり,以後45年にわたり業界をリードし続けてきたことが掲載されている(甲22)。
カ インターネット上の「THE LAND ROVER COLLECTION/2016」のカタログにおいて,引用商標1を表示したTシャツやバッジなどが掲載されている(甲27)。
キ 上記アないしカによれば,「ROVER」と称される自動車メーカー又は自動車がかつて存在し,その自動車は2回にわたりヨーロッパ7か国の「CAR OF THE YEAR」を受賞し,我が国においても1990年代に販売,紹介され,「ブリティッシュモーターショー」にも出展されていたことが確認できる。しかし,2014年の雑誌記事によれば,会社の買収などを経て,事実上「ローバー」は消滅したことも示唆されており,その時点におけるランドローバーの6つのモデルの中に「ROVER」の名称の自動車は確認できない。
そして,申立人は,販売台数について,平成25年(2013年)の世界販売台数は,348,338台(甲25)とするが,車種毎の内訳は明らかではない。
また,一部の引用商標を表示したTシャツやバッジなどが販売されているとしても,それらの販売実績等を示す証拠は提出されていない。
その他,申立人の提出に係る証拠をみても,「ROVER」,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」に係る営業規模,広告宣伝の方法,回数,内容等を具体的に把握することができない。
そうすると,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の名称の自動車が我が国においても販売されていること,比較的高価な自動車であることから,少なくとも自動車に詳しい需要者の間においては,ある程度知られているとしても,「ROVER」,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の欧文字は,本件商標の出願時及び登録査定時において,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,我が国において広く知られていたものと認めることはできない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は,別掲1のとおり,青色の横長楕円形輪郭の内部に白抜きにした十字型の星を表した図形とともに,上段に「SKY」の文字を,その下段に「ROVER」の文字とを白抜きでまとまりよく表してなるところ,「SKY」及び「ROVER」の文字は段を異にするものの,楕円形輪郭の中に,同じ文字種,書体及び大きさで表され,視覚上まとまりよい印象を与えるものである。
そして,本件商標の構成中「ROVER」の文字部分は,その構成中において特に目を引く要素もなく,上記(1)キのとおり,我が国において周知,著名な商標でもないため,本件商標に接する需要者,取引者は,その構成文字全体よりなる一体の商標と認識するものであり,これより「スカイローバー」の称呼を生じ,特に親しまれた語でもないため特定の観念は生じない。
イ 引用商標
引用商標1,2,4及び6は,横長の楕円形の枠内に「LAND」及び「ROVER」の欧文字を上下二段に表し,両文字部分は「Z」状の線図形により語尾と語頭を繋げるように表してなるところ,その文字部分は中央部に顕著に書されているため,一見して目を引くものであり,上段と下段の文字部分は,同一の書体,大きさで,語尾と語頭を繋ぐ線図形により連結してなる印象を強く受けることもあいまって,当該文字部分は一連の語を表記してなるものと容易に理解することができる。かかる構成からなるこれら引用商標からは,その文字部分に相応して「ランドローバー」の称呼が生じ,特段親しまれた語でもないため特定の観念は生じない。
引用商標3,5,7及び8は,「LAND ROVER」の文字を横書きしてなるところ,これらの構成文字は,同一の書体,大きさで,連続して連結されているため,全体として一連の語を表記してなるものと容易に理解することができ,これより「ランドローバー」の称呼を生じ,特段親しまれた語でもないため特定の観念は生じない。
引用商標9及び10は,「RANGE ROVER」の文字を横書きしてなるところ,これらの構成文字は,同一の書体,大きさで,連続して連結されているため,全体として一連の語を表記してなるものと容易に理解することができ,これより「レンジローバー」の称呼を生じ,特段親しまれた語でもないため特定の観念は生じない。
なお,申立人は,引用商標中「ROVER」の文字部分は,申立人又はその前身の業務に係る商品を表すものとして広く知られているため,当該文字部分が引用商標の要部である旨を主張するが,上記(1)キのとおり,「ROVER」の商標は申立人又はその業務に係る商品を示すものとして我が国において周知,著名ということはできないし,引用商標は,上記のとおり,いずれもまとまった構成よりなるため,「ROVER」の文字部分にのみ着目して取引される場合は想定し難く,その主張は採用できない。
ウ 本件商標と引用商標の類否
本件商標と引用商標の外観を比較すると,両商標は「ROVER」の文字を有する点で共通点はあるものの,全体の構成文字は明らかに相違するものであるから,外観においては明瞭に区別し得る。称呼については,本件商標から生じる「スカイローバー」の称呼と,引用商標から生じる「ランドローバー」又は「レンジローバー」の称呼とは,語尾における「ローバー」の音を共通にするものの,語頭3音は明らかに相違するものであるため,その音構成の差異により称呼上明確に聴別し得るものである。さらに,観念においては,本件商標及び引用商標からは特定の観念を生じるとはいえないため,類似するとはいえない。
そうすると,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
エ 小括
以上のとおり,本件商標は,引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標と引用商標の指定商品についての類否を検討するまでもなく,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標の構成中「ROVER」,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の欧文字は,上記(1)キのとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人の業務に係る自動車を表示するものとして,我が国において広く認識されていたものと認めることはできない。
そして,本件商標と引用商標とは,上記(2)ウに記載のとおり,非類似の商標であって,別異のものと認められる。
また,本件商標の指定商品と,引用商標が使用される商品「自動車」とは,一般的に,同一の事業主により製造,販売されているような商品ではなく,価格帯も,その流通経路も大きく異なるものであるため,両商品の間に密接な関連性があるものということはできない。
そうすると,本件商標権者が本件商標をその指定商品について使用をした場合,これに接する需要者が,引用商標を連想,想起し,申立人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるかと誤認し,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
本件商標は,別掲1のとおりの構成からなるものであるから,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激又は他人に不快な印象を与えるようなものではないことは明らかである。
そして,上記(1)キのとおり,引用商標の構成中「ROVER」,「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の欧文字は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人の業務に係る自動車を表示するものとして,我が国において広く認識されていたものと認めることはできない。
申立人は,本件商標は引用商標と第三者の自動車メーカーの商標を組み合わせてなるものであり,このようなブランド価値,企業価値の象徴たるブランドエンブレムに使用される文字や図形を無断で使用されること,さらに他社のブランドエンブレムと結合されることは,その名声,名誉を傷つけるばかりでなく,公正な取引秩序を乱し,社会公共の利益に反し,公序良俗を害する行為である旨を主張する。
しかしながら,本件商標と引用商標とは,上記(2)ウに記載のとおり,いずれも非類似の商標であって,また,申立人が主張する第三者の自動車メーカーの商標(甲12)と本件商標の図形部分とは,いずれも楕円形のなかに複数の星型が描かれているものの,その表現方法が明確に異なるものであるから,かかる者の商標を使用したものということができない。
その他,申立人が提出した全証拠を勘案しても,本件商標をその指定商品に使用することが,公正な取引秩序を乱し,社会公共の利益に反するものとすべき具体的事情などは見いだすことができない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(5)まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号に違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標:色彩については原本を参照)


別掲2(引用商標1)



別掲3(引用商標2)



別掲4(引用商標4及び6)



異議決定日 2017-04-25 
出願番号 商願2015-93332(T2015-93332) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W18)
T 1 651・ 261- Y (W18)
T 1 651・ 22- Y (W18)
T 1 651・ 262- Y (W18)
T 1 651・ 271- Y (W18)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 智晴松田 訓子 
特許庁審判長 田中 亨子
特許庁審判官 阿曾 裕樹
田村 正明
登録日 2016-04-22 
登録番号 商標登録第5844561号(T5844561) 
権利者 頼 偉浤
商標の称呼 スカイローバー、スカイ、エスケイワイ、ローバー 
復代理人 石田 昌彦 
復代理人 右馬埜 大地 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 田中 克郎 

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