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審決分類 |
審判 一部無効 称呼類似 無効としない X09253841 審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X09253841 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X09253841 審判 一部無効 称呼類似 無効としない X09253841 審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X09253841 |
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管理番号 | 1329302 |
審判番号 | 無効2009-680003 |
総通号数 | 211 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2017-07-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2009-11-02 |
確定日 | 2010-12-03 |
事件の表示 | 上記当事者間の国際商標登録第0925383号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件国際登録第925383号商標(以下「本件商標」という。)は、「F1H2O」の欧文字及び数字を書してなり、2007年1月11日にスイス国においてした商標登録出願に基づき、パリ条約第4条による優先権を主張し、2007年3月28日を国際登録の日とし、第9類「Sunglasses and spectacles;spectacle frames,lenses and cases for sunglasses and optical apparatus;apparatus for recording,transmitting and reproducing sound or images;magnetic recording media,recording discs;data processing and computer apparatus and equipment,computers;video games,games for computers and microcomputers;game apparatus for computers and software,in particular computer games.」、第25類「Clothing,footwear,headgear.」、第38類「Broadcasting by radio and television,also on digital networks in particular services directly or indirectly linked to the Internet;telecommunications;electronic transmission of data,images and sound using computer terminals and computer networks,also via the Internet and websites.」及び第41類「Education,training;entertainment;sporting activities;direction,management,organization and execution of sporting competitions,shows,films,games provided online on a computer network.」を指定商品及び指定役務として、2009年(平成21年)4月24日に我が国において登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標中第38類についての登録は、これを無効とする、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第42号証を提出している。 1 請求の理由 (1)商標法第4条第1項第7号に関する主張 ア 「F1(エフワン)」は、世界各国で行われているモータースポーツの頂点に立つ自動車レースであり、1950年5月にスタートして以来、現在まで約40年にわたって継続的に開催されてきた(甲2、甲6、甲11等)。 このレースは、規格に従った「エフワン(F1)マシーン」によって争われる自動車レースであり、年間10数戦のレースが世界各地で行われ、その決勝成績に応じて与えられる得点の合計でドライバー世界チャンピオン及びコンストラクター世界チャンピオン(車のメーカー)が決められる。日本でも鈴鹿サーキット等を舞台に毎年開催されている(甲2、甲4、甲6、甲11)。 そして、このエフワンレースは、「F1」や「F-1」の文字で簡潔に表現され、また、それらの文字より、「エフワン」と称され、また、「グランプリ」と結合させた、「エフワングランプリ」とも称され、世界的に親しまれているものである(甲2?甲6。特に甲3及び甲5では、「エフワン」のカタカナ文字がF1を意味するとして説明されている。)。さらに、「Formula One」(フォーミュラーワン)と「One」の文字と結合させても使用されている。 イ この「F1/エフワン」に、日本からは、ホンダ、ヤマハ、ブリヂストン等々がエンジン、タイヤの供給をしてきた(甲5等)。また、日本人ドライバーとしては、中島悟、鈴木亜久里、片山右京らがよく知られている(甲6、甲11)。また、現在活躍している選手として、佐藤琢磨らがあり、各種メディアを通じて広く紹介・報道されている。 なお、このレースの模様は、わが国においては、株式会社フジテレビジョン(以下「フジテレビジョン」という。)を通じて放送されており、また、この「F1」(エフワン)レースに関する雑誌・書籍は、我が国においても枚挙にいとまがない(甲2?甲7はその一例。)。F1主催者が発行するF1情報等を掲載した公式の雑誌も存在する(甲7)。 さらに、本レースに関するビデオも多数販売されており(甲9、甲10)、また、この名称「F1(エフワン)」や「Grand Prix(グランプリ)」(特に甲12)を使用したTシャツ、帽子、ステッカー、マグカップ、キーホルダー等の商品化事業も活発に行われている。とくに、「家庭用テレビゲームおもちゃ」などについては、その商品化事業において大きな成功を収めている(甲9?甲11)。 ここで、請求人であるフォーミュラ ワン ライセンシング ビーブイ(旧名称 ギス ライセンシング ベスローテン フェンノートシャップ、甲11においてその意義を説明している。)は、F1(エフワン)に関する商標についての商品化事業を行う権限を、このレースの主催者である国際自動車連盟(Federation Internationale de Automobile 以下「FIA」という。)より付与されている(甲11)。甲第12号証は、上記甲第11号証の宣誓供述書に添付された証拠物件中、とくにF1マークについての世界的な商業的利用(ライセンス商品)を具体的に示す証拠の一例である。 ところで、この「F1」(エフワン)を統括するのは、世界各国の自動車連盟の連合体である上述の国際自動車連盟(FIA)である(甲2?甲4、甲11等)。 FIAは、その機能・役割にしたがって各種関連会社を組織しており、その関連法人である「Formula One Administration Limited」(以下「FOAL」という。)が、フォーミュラーワンに関する事業権をFIAより授権されており、さらに、請求人の「フォーミュラー ワン ライセンシング ビーブイ」が、フォーミュラ ワンに関する種々の商標を世界的に出願し登録・管理する権限を付与されている。「F1(エフワン)」にかかる多数の出願中の商標及び登録商標が、請求人によって所有されている(甲8はその一例。)。なお、我が国における登録商標の一例は、甲第8号証に示すとおりである。 請求人が所有する登録第4346060号に代表される引用商標(別掲(1)参照)は、このF1レースを象徴するものとして、公式に使用されている。たとえば、甲第7号証は、F1の公式雑誌であり、この商標が顕著に示されている。 「F1」、「エフワン」、「エフワングランプリ」、「Formula One(フォーミュラ ワン)」及び上記引用商標の周知・著名性については、特許庁においても顕著な事実であると思料するが、この自動車レースの世界的著名性を立証し、かつ、上述のFIA、請求人の関係及びその役割等を詳細に説明するため、請求人のイギリスにおける代理人であった事務弁護士ニコラス ダンカン コーチマンの宣誓供述書を提出する(甲11)。この宣誓供述書の原本には、同書中に述べられているように、証拠物件(NDC1?NDC16)が添付されているが、その分量は膨大であるため、その一部(ライセンス商品の実例)を、甲第12号証として添付し、残りのものについては、要求があれば提出する。このライセンス商品にも、上記引用商標が示されている。 さらに、これらライセンス商品の最新の具体例として、甲第25号証?甲第33号証を提出する。 甲第25号証?甲第28号証は、2007年及び2008年に開催されたF1日本選手権の会場で実際に販売されたライセンス商品及び売上高を示すリストである。帽子、被服(ジャンパー)、キーホルダー、かばん等々が販売されており、これら商品には、「F1」の商標が使用されていることが明白である。また、甲第29号証?甲第32号証は、F1日本選手権の模様を収録したビデオ(フジテレビジョン等製作)やコンピュータゲームである(そのパッケージの写真)。これらの商品も我が国で広く販売等されている。さらに、甲第33号証は、東京都港区六本木で開店されているF1公認のカフェ「エフワンピットストップカフェ六本木」のホームページの抽出物である。ここでも、上記各F1ライセンス商品が販売されている。 ウ 以上、詳述したとおり、「F1(エフワン)」の文字は、本件商標の国際登録日(平成19年3月28日)の50年以上前から開催されている世界的に著名な自動車レースを意味するものとして、各種メディアを通してわが国においても広く紹介され、著名なものとなっている。 エ しかして、本件商標は、「F1H2O」の文字からなり、「H2O」の言葉は、「水」を意味する化学式として、わが国で極めてよく知られ、使用され、親しまれている。他方、語頭の「F1」は、如上のとおり、フォーミュラ ワン(エフワン)カーレースを意味する言葉として、これもまた極めてよく知られている。 「F1」の文字と「H2O」の文字とは格別の意味のつながりはなく、また、語頭の文字「F1」は取引者・需要者に強い印象を与える。よって、その要部は、「F1」(エフワン)にあるといえ、「エフワンエイチツーオー」の全体的称呼とともに、「エフワン」の略称も容易に生じるものである。 このように、本件商標は、容易に、その「F1」の語頭の文字が要部であると認識でき、「F1/エフワン」の称呼及び観念を自然に生じさせるものである。 オ (ア)加えて、本件商標権者は、本件商標を、実際に、その態様を改変して、その指定役務である「コンピュータネットワーク上でオンラインにより提供されるスポーツ競技会・ショー・映画・ゲームの演出・管理・運営・及び実施」などの役務に使用している。すなわち、本件商標を使用したホームページを立ち上げて、そのホームページ上で、スポーツに関する情報・写真等々を提供している(甲34)。 この実際の使用態様からもわかるとおり、本件商標の後半部の「H2O」の「2」の数字をやや小さく描き、かつ、「O」の文字を図案化しており、その後半部が「H2O」が「水」を意味する化学式であることが一見して明らかであって、よって、語頭の「F1」の文字が上述の「F1レース」を意味するものと容易に分離認識できる。 このような使用は、誰がみても明らかに、世界的に著名な「F1レース」の信用を不当に商業的に利用しているものというべきである。 (イ)このような本件商標の使用にあたり、本件商標権者は、F1レースの統括団体であるFIA及びF1(エフワン)に関する商標等の使用・登録を含む事業権の管理を授権されている請求人らの許諾を得ているものでもない。 したがって、本件商標権者が、本件商標を使用・登録し、「F1(エフワン)」の文字を自己の商標として使用・登録しようとする行為は、「F1」、「Formula One」(エフワン、フォーミュラ ワン)のもつ人気・著名性・顧客吸引力を不当に商業的に利用しようとするフリーライド行為であって、正当な商慣習に反し、かつ、国際信義に反する行為でもある。 なお、請求人は、2007年9月29日付日本経済新聞紙上において、F1商標の周知著名性及びその無断使用について直ちに法的措置をとる旨広く警告・注意等を発した広告を行っている(甲24)。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当することは明らかである。 (2)商標法第4条第1項第19号に関する主張 上述のとおり、「F1/エフワン」は、世界的に著名な国際自動車レースの名称として、わが国において広く親しまれており、商標的にみれば、「国際的自動車レースの開催」についての著名なサービスマークとして機能している。 このような状況において、上記著名名称・商標と全く同一の称呼を生じさせる「F1」の文字を顕著に含み、これを要部とする本件商標を本来の権利者に無断で登録・出願する行為は、「F1/エフワン」、「Formula One(フォーミュラ ワン)」のもつ顧客吸引力を不当に利用しようとするものであり、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」を有するものであることが客観的に明らかというべきである。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にも該当するものである。 (3)商標法第4条第1項第10号及び同第15号に関する主張 ア 以上のとおり、「F1/エフワン」の名称は、国際的に著名な自動車レースを示す名称として、現実に使用され、各種雑誌等においても広く紹介され(例えば、甲2?甲6)、本件商標の国際登録日の2007年(平成19年)3月28日の相当以前より、わが国においても著名となっている。 イ また、上述のとおり、この「F1/エフワン」の文字を含む商標は、請求人によって、種々の商品について商品化ビジネスに利用され、日本を含む世界的に多数の使用許諾契約が結ばれている(甲11(特に同号証の項番39?47)、甲第12号証には、「キーホルダー、被服、帽子」等が示されている。)。そのうち、特に、「家庭用コンピュータゲームおもちゃ」(甲9、甲10)については、甲第11号証(その項番40)にも供述されているように、最も成功している許諾商品のひとつであり、「F1(エフワン)」や「Grand Prix」名称を付し、これをモチーフにした多数のものが世界的に相当の量の商品が、正当に使用許諾の下で販売されてきている。 我が国においては、上記のライセンス商品について、請求人の許諾の下、フジテレビジョンを通じて使用許諾がなされはじめ、この「F1」(エフワン)を内容とする家庭用等のコンピュータゲームの製造販売についての再許諾が我が国の多くの製造業者に許された。甲第9号証は、フジテレビジョン事業局によって作成された契約ソフトのタイトル及び価格、許諾期間(とくに本件商標出願日前のもの)、許諾を受けたメーカーの一覧表である。同第10号証は、それらゲームソフトのパッケージの一例である。これらのパッケージにも明瞭に「F1」及び「Grand Prix」の文字が示されており、かつ、「F1」は「エフワン」と称呼されていることは、甲第3号証や甲第5号証からも明らかである。 さらに、上記のとおり、「F1」の公式雑誌も存在し(甲7)、引用商標は、このF1レースを象徴する商標として使用されてきている。 さらに、2007年及び2008年に開催されたF1日本選手権の会場においても、帽子、被服(ジャンパー)、キーホルダー、かばん等々のライセンス商品が販売されており(甲25?甲28)、また、F1日本選手権の模様を収録したビデオ(フジテレビジョン等製作)やコンピュータゲームも我が国で広く販売等されている(甲29?甲32)。さらに、東京都港区六本木において、F1公認のカフェ「エフワンピットストップカフェ六本木」が開店・営業しており、ここでも、上記各F1ライセンス商品が販売されている(甲33)。 また、F1選手権の実際のレースが、フジテレビジョンを通じて、我が国でも放送されてきている。 ウ これに対して、本件商標は、容易に、「エフワン」と称呼できる「F1」のデザイン文字をその語頭に含むものであって、かつ、第38類の「ラジオ及びテレビジョンによる放送(デジタルネットワーク上の場合も含む。特に直接的又は間接的にインターネットへのリンクする役務上の場合も含む。),電気通信,コンピュータ端末及びコンピュータネットワークを利用することによる(インターネット及びウエブサイトを経由による場合も含む。)映像及び音響・データの電子送信」を指定役務とする。 このような、放送等役務において、実際に、本件商標を使用して、F1レース等や、そのレース結果などが放送される場合には、明らかに、その放送等は、F1レースの主催者等の許諾の下で放送等されているものと、取引者・需要者に誤認・混同させることは必定である。 加えて、本件商標権者は、如上のとおり、本件商標をその指定役務である「コンピュータネットワーク上でオンラインにより提供されるスポーツ競技会・ショー・映画・ゲームの演出・管理・運営及び実施」の役務に使用している。すなわち、本件商標を使用したホームページを立ち上げて、そのホームページ上で、スポーツに関する情報・写真等々を提供している。 以上のとおり、本件商標が、その指定商品や指定役務に使用されれば、その役務は、あたかも「F1(エフワン)」に関連するものであり、かつ、その主催者又はそれより許諾された関連企業の提供に係る役務(ライセンスされた役務のひとつ)であるかのごとく商品及び役務の出所について誤認・混同が生じることは明らかである。 よって、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同が生ずるおそれがある商標にほかならず、商標法第4条第1項第10号及び同第15号にも該当するものである。 なお、請求人は、本件商標権中、第9類、第25類及び第41類については、登録異議申立をし(異議2009-685009号)、残余の第38類について、本件審判を請求したものである。 エ なお、請求人は、「Formula 1」や「F1」の文字を含む商標、例えば、以下の商標について、登録異議申立をしてきている。これは、「F1」レースの信用を不当に利用しようとする者が後を絶たないためである。 (ア)商標「AREXONS- THE FORMULA 1 IN CAR CARE」(登録第4037941号 平成9年異議第90690号)は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第19号に該当することを理由に商標登録取消決定がされた(甲13)。 (イ)本件商標と同様に「F1」の文字を含む商標「F1速報」(登録第4176848号 平成10年異議第92199号)は、「本件商標は、その構成中に、『F1』の文字を有するところ、該文字よりは国際的な自動車レースとして著名な『フォーミュラ・1(エフワン)ワールドチャンピオンシップ』の名称を容易に想起しうるものである(中略)。してみれば、本件商標をその指定商品について使用するときは、あたかも前記FIA(国際自動車連盟)、FISA(国際自動車スポーツ連盟)又はこれらと関係のある者の製造販売に係る商品であるかのごとく、その商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものとみるのが相当である。さらに、このような商標を我が国で出願し、権利を取得しようとする行為は国際信義に反するものというべきであり、かつ、その行為には不正の目的があるものといわざるを得ない。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第15号及び同第19号に該当する」との取消理由により商標取消決定がされた(甲14)。 (ウ)商標「TACTICSFORMULA-1/タクティクスフォーミュラーワン」(登録第4183848号 平成10年異議第92284号)について、「FORMULA-1/フオーミュラーワン」の著名性を認めると共に、上記商標は商標法第4条第1項第15号に該当すると認定されている(甲15)。 (エ)本件商標と同様に「F1」の文字を含む「エフワン」と「F-1」を上下二段に結合させた商標(登録第4270498号 平成11年異議第91164号)ついて、登録取消決定がされたが、その理由の中で、「『F-1(エフワン)』は、自動車レースの開催、運営等の役務の商標としても、高い著名性を獲得しているものと認められる」と認定され、商標法第4条第1項第15号に該当すると判断されている(甲16)。 (オ)商標「PROLONG FORMULA ONE」(登録第4290958号 平成11年異議第91425号)について、取消決定を受けている(甲17)。 (カ)本件商標と同様に「F1」の文字を含む商標「F1ダービー」(登録第4406299号 異議2000-91141号)について、「本件商標は、その構成中に、国際自動車連盟が主催し、国際的に著名な自動車レース『FORMULA ONE』の著名な略称である『F1』の文字を有してなるものである」と認定されて、同商標が、商標法第4条第1項第15号及び同第7号に違反して登録されたものであると認定され、取消決定を受けている(甲18)。 (キ)商標「F1 Grand Prix Xpress」(登録第4512274号)について、取消決定を受けている(甲19)。 (ク)「F・1」のデザイン文字からなる商標(登録第4645150号)について、「F1(エフワン)は著名な略称」であると認定し、登録取消決定がされている(甲20)。 (ケ)商標「FlMAGAZINE」(登録第4663003号)について、「F1(エフワン)は、著名な国際的自動車レースを想起させるもの」と認定され、登録取消決定がされている(甲21)。 (コ)「F-1」の文字を含む商標(登録第4645207号)について、「『F-1』の文字部分は、チャンピオンフラッグの図形と相まって、自動車レースの『F-1(エフワン)』を容易に想起しうるものといえる」と認定され、登録取消決定がされている(甲22)。 (サ)「F-1」の文字を含む商標(登録第4890835号)について、登録取消決定がされている(甲23)。 オ これらの多数の取消決定の先例において、「エフワン(F1)」の文字は著名な「エフワンレース」を表象するもの(略称)として、それ自体、著名であると認定しており、商標法第4条第1項第15号を適用している。 かかる先例に照らしても、この国際的自動車レースの著名な略称と同一の「エフワン」の称呼を生じさせる「F1」文字を明らかに含み、かつ、それを要部とする本件商標は、「エフワンレース」に関連するもの、又は、その主催者及び請求人らの許諾を受けた者との観念を容易に想起させるものであり、同様に取り消されるべきである。 (4)商標法第4条第1項第11号に関する主張 請求人は、本件商標と同一ないし類似する指定商品・役務について、先願・先登録にかかる商標「F1/Formula 1」(登録第4119226号(第41類)、同第4361224号(第9類)、同第4346060号(第25類)、及び、国際登録第823226号、甲8)を有している。とくに、本件商標と同一の第38類の役務を指定役務とするものとして、登録第4313023号商標及び国際登録第823226号商標を所有している(甲8)。 上述のとおり、「エフワン」は、F1カーによる国際的自動車レース及びその専用車両を指称するものとして著名である。よって、当該引用各商標は、「エフワン」の著名性に照らして、「F1」の文字部分より容易に「エフワン」の称呼及び観念が生じる。 他方、本件商標「F1H2O」は、「F1」の文字を含み、また、「H2O」の言葉は、「水」を意味する化学式として、わが国で極めてよく知られ、使用され、親しまれている。 「F1」の文字と「H2O」の文字とは格別の意味のつながりはなく、また、語頭の文字は「F1」の文字は取引者・需要者に強い印象を与える。よって、その要部は、「F1」(エフワン)にあるといえ、「エフワンエイチツーオー」の全体的称呼とともに、「エフワン」の略称も容易に生じるものである。 よって、本件商標と上記引用商標とは、称呼・観念において同一ないし類似するものである。 よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号にも該当する。 (5)結語 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第19号、同第10号及び同第15号並びに同第11号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条の規定により無効とされるべきものである。 2 弁駁 (1)商標法第4条第1項第7号に関する主張 ア 被請求人は、「『F1』又は『エフワン』の語は、必ずしもFIAの主催する自動車レースを指すものではない」と主張する。しかしながら、広辞苑においても、「エフワン【F1】(Formula 1)」の用語が掲載されており、「国際自動車連盟が構造・重量・車輪・安定性などの細目を規定する競走用自動車の最上位級」であるとの明確な説明がある(甲35)。 また、例えば、英和辞典(小学館ランダムハウス英和大辞典 甲36)においても、「Formula One」の用語とともに、その略称が、「F1」であることが明示されている。 さらに、例えば、日刊スポーツ新聞社の提供するインターネットによるスポーツ情報記事においても、「F1-モータースポーツ」の項目が設けられ、請求人の主催する自動車レースを「F1」と称して、広く日本全国にわたって報道してきていることは明らかである(甲37)。また、インターネット検索エンジンGoogleにおいて、「F1」の文字で検索すれば、少なくとも上位10のウェブサイトは、すべて、「F1」自動車レースに関するものである(甲38)。 さらに、「F1」自動車レースは、「F1」レース主催者の許諾の下、フジテレビジョンを中心にそのレースの模様が日本全国に報道されている。同社のホームページにおいても、「F1日本グランプリ/2010鈴鹿」、「フジテレビ-F1GP 2010」、「F1公式サイト」等々のように、請求人らの主催する自動車レースを「F1」と称して報道してきていることは明らかである(甲39)。 このように、「F1」が、1950年5月にスタートして以来、現在まで約60年にもわたって継続的に請求人らによって開催されて来た国際的自動車レースを意味する商標として、我が国においても、広く認識されていることに疑いはない。 イ また、被請求人は、「『F1』の語が単なる記号・略号であって、品番・型番を表すことは、特許庁おいて商標『F1』にかかる出願が商標法第3条第1項各号に該当するとして商標登録を拒絶されていることからも明白である」と主張している。 如上のとおり、「F1」の語は、請求人の使用、ニュース、雑誌等々での継続的使用により、請求人らの主催・提供する国際的自動車レースを指称する商標として、周知・著名となったものである。乙第16号証の出願人らは、すべて、請求人ら「F1」レース主催者とは何ら関係のない者であり、正に、「F1」の信用をフリーライドしようとするものである。よって、上記の「F1」の使用による顕著性の獲得等の自らがこの商標を商標登録できる正当理由を何ら主張し得ない者による出願であって、拒絶されてしかるべきものである。 ウ さらに、「F1」の文字を含む商標登録例(乙17?乙30)を挙げて、この言葉が、記号・略称又は品番・型番として何人も自由に使用できるものと主張する。 しかしながら、これら登録例と本件商標とは全く事案を異にする。これら登録例は、すべて商品商標である。しかしながら、本件商標は、第38類の下記役務を指定役務とするものであって、ローマ字と数字の組み合わせが、商品に関して、品番・型番等として使用されることがあることは否定できないとしても、役務について、品番・型番として、使用・認識されることはありえない。 本願商標の第38類の指定役務は、「ラジオ及びテレビジョンによる放送(デジタルネットワーク上の場合も含む。特に直接的又は間接的にインターネットへのリンクする役務上の場合も含む。)、電気通信、コンピュータ端末及びコンピュータネットワークを利用することによる(インターネット及びウェブサイトを経由による場合も含む。)映像及び音響・データの電子送信」(特許庁仮訳)であり、ありとあらゆる内容の放送・通信を含むものである。 このような役務について、被請求人によって、「F1」の文字をその語頭に顕著に含む本件商標が使用されれば、上記「F1」の著名性に照らして、請求人ら「F1」主催者による、又は、その許諾の下にある「F1」レース等に関するテレビジョン放送、デジタルネットワーク上の放送等であるとその需要者に誤認混同を与えるおそれがあることは必定である。 エ さらに述べれば、本件商標は、「F1H2O」の文字からなり、「H2O」の言葉は、「水」を意味する化学式として、わが国で極めてよく知られ、使用され、親しまれている言葉である。語頭の「F1」の語と、「H2O」には何らの意味のつながりはない。すなわち、本件商標は、全体として、「F1」レースと関係のない一つのまとまった別異の観念を想起させる言葉では全くない。その意味でも、被請求人の主張する上記併存登録例とは全く事案を異にするものである。 この語に接する取引者・需要者は、容易に、本件商標は、「F1」と「H2O」からなる言葉であり、「F1」より、「F1」レースを、「H2O」より、「水」を想起することは明らかである。 オ また、被請求人は、甲第34号証に示されるとおり、本件商標の「H2O」の「2」をより小さく表示し、また、「O」をやや図案化した態様で使用している。このような使用方法は、明らかに、後半部の「H2O」が「水」を意味する化学式であると、より容易に看者に認識させるものであり、よって、語頭の「F1」は、それとは分離したものとして、また、語頭にあることとも相俟って、「H2O」とは分離したものとして認識されるものである。上記「F1」の著名性に照らせば、本件商標を看るものは、まず、「F1」の語頭の文字に着目し、これより、「F1」レースに関係するものと誤認させるおそれのあることは明らかである。これは、上記の長期にわたって世界的に開催されてきた「F1」レースの信用を不当に利用するものであることは明らかであり、国際商取引の慣習を害するものであり、国際信義に反する商標というべきである。 カ さらに、被請求人は、本件商標を使用して、ボートレースの情報等を現実に提供する(甲40)。かかる使用態様を看ても、「F1」の文字が、到底、型番・品番などと認識されるものでないことは明らかであって、本件商標は、「F1」と「H2O」を組み合わせた商標と容易に認識でき、「F1」の文字は、「F1」レースを容易に想起させ、当該被請求人による役務の提供は、「F1」レース主催者又はその許諾の下になされているかのごとく誤認させるものであることは明らかである。よって、本件商標の使用は、「F1」レースの信用、周知・著名性を不当に利用していることは明白というべきである。 (2)商標法第4条第1項第19号に関する主張 ア 上述のとおり、我が国での各種報道等を通じて、「F1」は、世界的に著名な国際自動車レースの名称として、わが国において広く親しまれている。これを、商標的にみれば、「国際的自動車レースの開催」についての著名な役務商標として機能している。 このような状況において、当該商標「F1」の文字を顕著に含み、これを要部とする本件商標を本来の権利者に無断で登録・出願する行為は、「F1」のもつ顧客吸引力を不当に利用しようとするものであり、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」を有するものであることが客観的に明らかというべきである。 イ 被請求人の実際の使用態様をみても(甲34及び甲40)、被請求人は、本件商標の後半部「H2O」を、「水」を意味する化学式であるとはっきりわかる態様で図案化して使用しており、かかる使用態様からみても、本件商標は、「F1」と「H2O」の組み合わせからなる商標であると明らかに認識でき、「F1」より、「F1」レースに関係するものと容易に誤認させるものである。 到底、語頭の「F1」が型番・品番を意味していると認識させるものではない。さらに、如上のとおり、本件商標の指定役務は、ありとあらゆる内容の放送・通信を含むものである。このような役務に使用される本件商標の「F1」の文字が、これら役務の型番・品番などと認識されるものでないことは明らかである。 (3)商標法第4条第1項第10号及び同第15号に関する主張 ア 被請求人は、「『F1』の文字のみで構成される商標は、皆無である。(中略)このことは、『F1』の文字には識別力が認められないことの証左である」などと主張する。 しかしながら、請求人が提出した証拠より、「F1」が「F1」レースを意味する役務商標として著名なものとなっていることは明らかである。 被請求人の提出した異議2006-90431号決定(乙33)においても、「構成中の「F1」の文字が著名な国際的自動車レースの名称の略称を表すもの」と認定する。 イ なお、この点付言すれば、商標法第4条第1項第10号の周知商標とは、「(同号の)立法趣旨には、商品の出所の混同を防止することが含まれることが明らかである。そして、この立法趣旨からみれば、主として、外国で商標として使用され、それが我が国において、価値のある商品、権威のある商品を表示する商標として、報道、引用された結果、我が国において『他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識され』るようになった商標と、我が国において商標として使用された結果『他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識され』るようになった商標とを区別して、前者の商標またはこれに類似する商標の登録を認めることによる出所の混同を容認する理由はない。」「さらに、『他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標』とは、我が国において、全国民的に認識されていることを必要とするものでなく、その商品の性質上、需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には、その需要者の間に広く認識されていれば、足りるものである。すなわち、その需要者において商品の出所の混同が生じてはならないからである。」(甲41東京高裁平成3年(行ケ)29号)。 「F1」の文字は、「F1」自動車レースの役務商標として、如上のとおり、各種新聞雑誌等で広く報道されており、上記判決の趣旨に照らしても、商標法第4条第1項第10号の「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」として保護されるべきである。 ウ さらに、請求人の「F1」の文字を図案化した商標(登録第4313023号)は、上記フジテレビジョン等の「F1」レースの放送では、その画面に表示されて、商標として使用されてもいる(甲42)。 このような状況で、「F1」の文字を顕著にその語頭に含む本件商標がその指定役務、特に、本件商標を使用して、F1レース等や、そのレース結果等が放送される場合には、明らかに、その放送等は、F1レースの主催者等の許諾の下で放送等されているものと、取引者・需要者に誤認・混同させることは必定である。 (4)商標法第4条第1項第11号に関する主張 本件商標の、「F1」の文字と「H2O」の文字とは格別の意味のつながりはなく一体的な造語ないし意味をもった言葉と認識できるものではない。そして、上述のとおり、「エフワン」は、F1カーによる国際的自動車レース及びその専用車両を指称するものとして著名である。よって、当該引用各商標は、「エフワン」の著名性に照らして、「F1」の文字部分より容易に「エフワン」の称呼及び観念が生じる。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第41号証を提出した。 1 請求人が審判請求書で引用する請求人商標は、甲第8号証に示される「F1/Formula 1(図形)」であるが、以下、これを「フォーミュラ図形」商標といい、答弁する。 2 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当しない理由 (1)請求人は、(a)「F1」又は「エフワン」は「エフワン(F1)マシーン」によって争われる自動車レースを指すこと、(b)請求人はこの自動車レースの主催者であるFIAから「F1(エフワン)」に関する商標についての商品化事業を行う権限、及び「フォーミュラ ワン」に関する種々の商標を世界的に出願し登録・管理する権限を付与されており、登録第4346060号に代表される登録商標を所有すること、(c)「F1」「エフワン」「エフワングランプリ」「Formula One(フオーミュラ ワン)」及び上記引用商標が周知・著名であること、(d)本件商標は「H2O」と「F1」とに分離認識でき、要部が「F1」であるから、本件商標全体から「エフワン」の称呼及び観念を生じること、等を主張し、これらをもって、本件商標が世界的に著名な「F1レース」の信用を不当に商業的に利用しており、公正な商慣習に反し、かつ国際的信義に反するために、商標法第4条第1項第7号に該当して無効であると主張する。 しかしながら、請求人の上記(a)ないし(d)の主張は失当である。以下、順にその理由を述べる。 (2)第1に、「F1」又は「エフワン」の語は必ずしもFIAの主催する自動車レースを指すものではない。 請求人は、甲第3号証?甲第5号証に「F1」の語が上記自動車レースの意として掲載されることを挙げるが、そもそも「F」は単に欧文字の6番目の文字に過ぎず、関数(function)、華氏(fahrenhiet)など「F」で始まる種々多様な単語の略語としても用いられる文字であることから(乙1、乙2)、特に数字と組み合わされた場合には、記号・略号や品番・型番を表わすのが通常である。したがって、「F1自動車レース」にかかる「F1」も、FIAの定める「規格(フォーミュラ)」1に従った自動車を指す略号にすぎない(乙3)。 「F1」が上記自動車レースではなく、それ以外のものを表す記号・略号、又は品番・型番として使用されている例は、あらゆる分野において枚挙に暇がない。以下にその一例を示す。 ・生物学において「交配・雑種第1代」を示す「F1」(乙1、乙2、乙4) ・戦闘機の品番を示す「ミラージュF1」「F1支援戦闘機」(乙5) ・文房具の品番を示す「F1スケッチアートスパイラル」「ぺんてるBG202-F1」(乙6) ・テレビの品番を示す「VIERA F1シリーズ」「BRAVIA F1シリーズ」(乙7) ・カメラの品番を示す「EX-F1」(乙8) ・CD-R/RWドライブの品番を示す「CRW-F1」(乙9) ・オートバイの品番を示す「ドゥカティF1シリーズ」(乙10) ・産業用機器の品番を示す「F1シリーズ」(乙11) ・家具の品番を示す「F1」(乙12) ・建材の品番を示す「F1」(乙13) ・地学分野において地球大気の層を示す「F1層」(乙14) ・マーケティング分野において20歳から34歳の女性層を示す「F1層」(乙15) 以上のように、「F1」は種々多様なものを示す略号・品番等として我が国で頻繁に使用されており、請求人が主張する「フォーミュラ ワン」なる自動車レースの略号としての使用もその一つに過ぎない。 (3)さらに、「F1」の語が単なる記号・略号であって品番・型番を表わすことは、特許庁において商標「F1」にかかる出願が商標法第3条第1項各号に該当するとして商標登録を拒絶されていることからも明白である(乙16)。 すなわち、欧文字1文字と数字とを組合せたに過ぎない「F1」なる語は商標として自他識別力を発揮するものではなく、記号・略号又は品番・型番として何人も自由に使用できるものである。 したがって、本件商標がその構成中に「F1」の文字を含むとしても、「F1」の文字自体が識別力を発揮しない以上、本件商標の登録及び使用が「不当」であるとは到底いうことができない。 請求人は、「F1」の文字を含む商標の商標権者がすべて請求人の業務にかかる自動車レースの「信用を不当に利用しようとする者」であるかのごとく主張するが、特許庁においては文字「F1」を含む多数の商標が登録されており、問題なく存続している。以下はその一例である。 ・「PECOLO F1」(第4類)(登録第2207119号)(乙17) ・「SIMD-F1」(第7類)(登録第4645119号)(乙18) ・「DASH F1(図形)」(第9類)(登録第2305751号)(乙19) ・「エフワンパイロット/F1PILOT」(第25類)(登録第2384607号)(乙20) ・「F1 TIME/エフワンタイム」(第9、14類)(登録第2462196号)(乙21) ・「PGM-F1(ロゴ)」(第6、9、12、13、19、22類)(登録第2544445号)(乙22) ・「F10(図形)」(第12類)(登録第2550449号)(乙23) ・「ベンザエフワン/ペンザF1/BENZA F1」(第1、2、3、4、5、8、9、10、16、19、21、30類)(登録第2572885号)(乙24) ・「F1 SONIC」(第7類)(登録第2713177号)(乙25) ・「CF1」(第7類)(登録第2722528号)(乙26) ・「サーキットF1くん」(第30類)(登録第3288038号)(乙27) ・「シールデーターF1/SHIELDATA-F1」(第9類)(登録第4096801号)(乙28) ・「F1PACK」(第9類)(登録第4109059号)(乙29) ・「元気の源F1パワー」(第5類)(登録第4797672号)(乙30) 上記の商標が商標法第4条第1項第7号違反として排除されることなく登録されている事実からも、商標の構成の一部に文字「F1」を含む商標の登録が公序良俗違反を理由として無効とされる理由はない。 (4)さらに、請求人は上記(b)において、請求人が「F1(エフワン)」及び「フォーミュラワン」に関する種々の商標について登録・管理・商品化事業を行う権限を有すると主張している。特許庁IPDLによれば請求人は我が国において百件余りの登録商標を所有するが(乙31)、そのほとんどは、甲第8号証に示されるフォーミュラ図形商標、登録第2256290号に代表されるロゴ化された「FIA」の文字に「FORMULA 1 WORLD CHAMPIONSHIP」が組み合わされた図形商標(以下「FIA図形商標」という。)、登録第2613309号に代表される「FORMULA 1」の文字又は「Formula 1」の文字からなる商標であり、「F1」の文字は「F1 World Championship」(登録第3110492号等)「FIA F1 World Championship」(登録第3287304号等)の一部に現れるのみであって、「F1」の文字のみで構成される商標は皆無である。 このことは、上記1(2)で述べたように、「F1」の文字には識別力が認められないことの証左である。 また、請求人は、甲第11号証において、請求人がFIAから「『F1(エフワン)』及び『フォーミュラ ワン』に関する種々の商標」についての管理を委任された旨を示すものの、「『F1(エフワン)』及び『フォーミュラワン』に関する種々の商標」とは、実際にはフォーミュラ図形商標及びロゴ化された「Formula 1」の商標である。その証左に、甲第12号証に示される多数のライセンス商品には、上記フォーミュラ図形商標または「GrandPrix」「Formula 1」の文字が付されたものはあるが、「F1」の文字のみが付されたものは皆無である。 このことは、甲第11号証において「F1(エフワン)」及び「フォーミュラワン」に関する種々の商標には「『F1』の文字を含む」とされているものの、上述のごとく「F1」の文字に識別力がないために商標権となり得なかったことを示すものである。 以上のように、請求人は文字「F1」について我が国において何らの権限を有する者でもなく、本件商標がその構成中に「F1」の文字を含むとしても、被請求人による本件商標の登録・使用について「不当」である旨を主張するのは失当である。 (5)請求人はまた、「F1」「エフワン」「エフワングランプリ」「Formula One(フォーミュラー ワン)」及びフォーミュラ図形商標が周知・著名であることを主張する。 しかしながら、甲第6号証や甲第7号証に示される雑誌の類はいずれも自動車レースに関心のある一部の読者層を対象に発行されたものであるから、自動車レースに関連する分野に限られた周知性を示すに過ぎない。また、甲第9号証及び甲第10号証は、「エフワンレース」関連のビデオ・ゲーム等の商品が、市場に流通する無数のビデオ・ゲーム関連商品のうち一定の割合を占めることを示すものであって、自動車レースやゲームに関心のない層に対する周知性を示すものではない。 しかるに、本件商標権にかかる第38類の指定役務「Broadcasting by radio and television,also on digital networks in particular services directly or indirectly linked to the Internet;telecommunications; electronic transmission of data,images and sound using computer terminals and computer networks,also via the Internet and websites」との関連においては、当該役務に関連する分野における需要者・取引者が自動車レースに関心を持つ必然性はなく、「F1」「エフワン」がかかる需要者・取引者に周知・著名であるとする理由はない。 また、たとえ「聞いたことがある」といった程度の一定の周知性を有する場合でも、「自動車レースのエフワングランプリ」「Formula One(フォーミュラ ワン)レース」として知られているのであり、「F1(エフワン)」の語は、単独で直ちに自動車レースを想起させるほど著名ではない。2(2)で述べたとおり、「F1」自体には識別力がなく、単なる記号や品番として一般に使用されているからである。 このことは、甲第9号証に示されたビデオのタイトルが「F-1 GRAND PRIX」「F-1 ワールドレーシング」など、「F1」の文字を他の語と組み合わせて「自動車レースのエフワングランプリ」の略号であることが明確であるよう使用したものであること、また甲第10号証に表された商標のほとんどがFIA図形商標であって、いくつかに見られる「F1」の文字は、他の図形や図形商標等と併用されることで「自動車レースのエフワングランプリ」の略号として使用されていることからも明らかである。 なお、請求人は、「F1」等が周知・著名であることを示すためとして、さらに甲第25号証?甲第33号証を提出しているが、甲第27号証?甲第30号証において各種ライセンス商品に付されているのはすべてフォーミュラ図形商標又は「Formula 1」なる商標であり、「F1」の文字が見られるものはこれらの商品が「フォーミュラワン自動車レース」に関連する商品であることを説明するために「フォーミュラワン」の略号として「F1」の文字を用いたに過ぎないと認められるものである。すなわち、これらの証拠は、フォーミュラ図形商標又は「Formula 1」なる商標の周知性を示そうとするものであって、「F1」の周知性を裏付けるものではない。 さらに、甲第31号証、甲第32号証及び甲第33号証には「F1」の文字を多少ロゴ化した標章やそれに「TM」(上半分のスペース 以下「〔TM〕」とする。)を付したもの、及び「F1〔TM〕」なる標章が認められるが、これらについては登録商標ではないことはいうまでもなく、識別力も発揮し得ないことから、常にフォーミュラ図形商標や「Grand Prix」「CAFE」の文字等と共に用いられており、独立した出所表示としては使用されておらず、何ら出所表示としての「F1」の周知性を裏付けるものではない。 なお、甲第25号証、甲第26号証は写真が著しく不鮮明であって、商標が付されているか否かも定かでないものが多く、何らの証拠ともならない。 (6)請求人は、「H2O」が「水」を意味する記号として知られていること、及び「F1」がエフワンレースを意味する言葉として知られていることを挙げ、本件商標が「H2O」と「F1」とに容易に分離認識できると主張している。 しかしながら、本件商標は、欧文字及び数字を組合せた「F1H2O」を標準文字にて横一列かつ同書同大等間隔に書してなる商標であり、外観上まとまりよく一体的に表されているから、その構成全体をもって一連不可分のものと見るのが自然である。そして本件商標からは、その構成に照応して、「エフイチエッチニオオ」「エフイチエイチニオオ」「エフワンエッチツーオオ」「エフワンエイチツーオオ」等の一連の称呼が生じ得ることは、特許庁IPDLにも示されているとおりである(乙32)。 さらに、指定役務との関連を考慮しても「F1」の文字は識別力を有さないから、本件商標から「F1」の部分のみが取り出されて認識されることはあり得ない。また、請求人の述べる「水」の化学式は、水素原子の数を添え字で表して「H2O」(「2」は下半分のスペース)と表記されるのが一般的であり、「H2O」の表記からは直ちに「水」の観念は生じない。まして、指定役務と「H2O」「水」との関連も見いだせない以上、本件商標「F1H2O」に接した需要者・取引者が「H2O」の部分のみを「水」と認識して捨象し、「F1」の部分のみから「エフワン」の称呼及び自動車レースの観念を生じるとすることは、取引実情に照らして不自然な解釈であると言わざるを得ない。 また、たとえ無理に「F1」の部分を分断したとしても、上述のように「F1」の文字には識別力がないから、請求人がその使用を独占できる理由はなく、本件商標の登録・使用が「不当」であるとする請求人の主張には根拠がない。 (7)請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたことの根拠として「F1商標の周知著名性及びその無断使用について直ちに法的措置をとる」旨の日本経済新聞に掲載した広告(甲24)を挙げているが、該広告には「F1」の文字のみからなる商標は含まれていない。このことからも請求人が「F1」の文字について何らの権限も有しないことは明らかである。 なお、該広告には「これら商標の多くは日本及び世界各国で保護されています」との説明書きとともに「F1〔TM〕」なる標章が掲載されている。請求人は、文字「F1」の右肩に記号〔TM〕を付することによって「F1」の文字を自己のトレードマークとして表示しようと意図したものと考えられるが、登録商標である旨の表示ができないために〔TM〕を付さざるを得なかったことは、請求人が文字「F1」について権限を有しないことの証左である。 (8)小括 特許庁商標課編「商標審査基準第9版」によれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する商標として、「その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合」「指定商品又は指定役務ついて使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」「他の法律によってその使用が禁止されている商標」「特定の国若しくはその国民を侮辱する商標」「一般に国際信義に反する商標」が例示されている。 これを本件商標「F1H2O」についてみると、(1)ないし(5)に述べたように、本件商標をその指定役務について使用することが社会公共の利益、一般的道徳観念に反するものとすべき事実は認められず、他の法律によってその使用が禁止されているものでもなく、国際信義に反するものとも認められない。本件商標の構成文字は、矯激、卑狼、差別的な印象を与えるような文字からなるものでないことは明白であり、商標法第4条第1項第7号に該当して登録されたものではない。 3 本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当しない理由 (1)請求人は、「F1/エフワン」が著名なサービスマークとして機能しており、本件商標は「F1」の文字を顕著に含むと述べ、被請求人による本件商標の使用は「F1/エフワン」のもつ顧客吸引力を不当に利用しようとする「不正の目的」を有すると主張する。 (2)しかしながら、以下の理由により、請求人の上記主張は退けられるべきである。 上記2(2)で述べたように文字「F1」が自動車レースを示すとは限らないことから、「Formula 1(フォーミュラ ワン)」は請求人の業務にかかる自動車レースを示すものとして一定の知名度を有するとしても、「F1」の文字が著名であるとはいえない。また、「F1」単独で自他商品役務識別力を発揮するものではないので、そもそも商標となり得ないことから、「サービスマークとして機能している」という請求人の主張は認められるべきではない。すなわち、文字「F1」は、商標法第4条第1項第19号にいう「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」に該当しない。 また、上記2(6)に述べたように、本件商標は「F1H2O」一体として把握・認識されるため、「F1と同一又は類似の商標」には該当しない。請求人の所有にかかるフォーミュラ図形商標と比較した場合であっても、図案化された「F1」と「Formula 1」の文字との結合商標であるフォーミュラ図形商標と本件商標「F1H2O」とでは、称呼・観念・外観のいずれもが著しく異なり、全体として非類似であることは明白である。 さらに、「F1」の文字に識別力がない以上、顧客吸引力を発揮することもないので、本件商標の語頭部分に「F1」の文字が含まれるとしても、これをもって本件商標の使用が「不正の目的」を有するとする根拠はない。 したがって、請求人の主張は失当である。 4 本件商標が商標法第4条第1項第10号に該当しない理由 (1)請求人は、「F1/エフワン」について本件商標の出願前から「家庭用ゲームおもちゃ」等のライセンス商品が相当数販売されていて著名となっていたと述べ、被請求人が本件商標を第38類の指定役務等に使用すれば第4条第1項第10号に該当すると主張する。 (2)しかしながら、上記の主張は容認されるべきでない。 そもそも商標法第4条第1項第10号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」と同一類似の商標の登録を制限する規定であるところ、「F1」の文字が「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」とはなり得ないことは上述したとおりである。さらに請求人が「F1/エフワン」の著名性の根拠とする資料(甲2?甲7、甲9?甲12、甲25?甲33)については、2(5)で述べたとおり、すべてフォーミュラ図形商標又は「Formula 1」なる商標の周知性を示そうとするものであって、「F1/エフワン」の周知性を裏付けるものではない。その上、本件商標は「F1」ともフォーミュラ図形商標及び「Formula 1」とも類似するものではないから、請求人の商標法第4条第1項第10号にかかる主張はあらゆる観点から見て失当である。 5 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当しない理由 (1)請求人は、「F1/エフワン」が著名であるから、被請求人が本件商標を第38類の指定役務等に使用すれば役務の出所について混同を生じ、第4条第1項第15号に該当すると主張する。 (2)一般に、商標法第4条第1項第15号に規定する「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標」に該当するか否かの判断は、その他人の標章の周知度、独創性の程度、商標間の類似性の程度等を総合的に勘案して行われるところ、上記に述べたとおり、「F1」の文字には独創性が認められず、そのため請求人の業務にかかる標章として周知とはなり得ないことから、本件商標「F1H2O」から「F1/エフワン」が生じるとしなければならない理由はない。そうであれば、商標「F1H2O」が放送や電気通信といった役務について使用された場合に、需要者・取引者が直ちに「フォーミュラワン自動車レース」を想起するものではないから、その放送や電気通信が請求人らと何らかの関連があると誤認し、混同を生じることもない。 以上より、本件商標が商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものでないことは明らかである。 (3)なお、請求人は、他の商標に対する異議申立事件について言及しているが(甲13?甲23)、これらのうち「AREXON-THE FORMULA 1 IN CAR CARE」(平成9年異議第90690号)、「TACTICSFORMULA-1」(平成10年異議第92284号)及び「PROLONG FORMULA ONE」(平成11年異議第91425号)は請求人の商標「FORMULA-1」又は「FORMULA ONE」を含んだ商標であり、本件商標「F1H2O」と同列に論じることはできない。 また、「F1速報」(平成10年異議第92199号)「F1ダービー」(異議2000-91141)などの「F1」を含む商標について登録の取消決定がされたことから本件商標についても取消されるべき旨主張するが、これらの商標は「F1」を顕著な形で自己の商標において採択していることが明らかであり、本件商標とは事案が異なる。 請求人が異議申立を行った他の事件、例えば登録商標「F1SCENE」(登録第4963474号)についての異議申立事件(異議2006-90431号)においては、商標「F1SCENE」は(「同じ大きさ、同じ書体で外観上まとまりよく一体的に表わしてなるもの」と認定され、「たとえ構成中の「F1」の文字が著名な国際的自動車レースの名称の略称を表わすものであるとしても、かかる構成においては、全体で一体不可分のものと理解、認識される」と判断されている。その上で、「申立人及びFIA(国際自動車連盟)などのエフワン(F1)の名称あるいは役務商標としての使用の事実、著名度、使用許諾の実情等を考慮しても、本件商標と該「エフワン(F1)」の文字間に、誤認・混同を生ずる事由は見出せない」として商標法第4条第1項第7号、同第11号、同第15号及び同第19号いずれの該当性も否定され、維持決定がなされた(乙33)。 本件商標「F1H2O」は、各文字を同じ大きさ、同じ書体で外観上まとまりよく一体的に表わしてなる商標であるから、本件商標についても維持決定がなされるべきである。 この他、同様の理由により維持決定がなされた請求人による異議申立事件には以下のものがある。 ・「F1/MART(ロゴ)」(異議2009-900189)(乙34) ・「F1RACING/F1レーシング」(異議2000-90103)(乙35) ・「ΣF1」(異議2006-90073)(乙36) ・「F-ONEバーチャル」(異議2005-90592)(乙37) ・「F-ONEネットレース」(異議2005-90593)(乙38) ・「ARTA F1Project(図形)」(平成11年異議第91275号、平成11年異議第91290号、平成11年異議第91291号、平成11年異議第91292号)(乙39) ・「マックエフワン」(異議2004-90671)(乙40)。 (4)スイス国における高等裁判所判決について 請求人は、スイス国における被請求人の登録商標「F1H2O」(国際分類第9、25、38及び41類)についてスイス国商標局に2007年7月10日に異議申立を行い、これが却下されたことから、さらに2008年3月12日にスイス国連邦高等行政裁判所に上告したが、2009年3月31日に棄却判決が出され、確定している(乙41)。 上記判決における判決文によれば、異議申立の却下理由として、「F1H2O」の語頭部分は請求人の「F1」とは関連がないこと、また「H2O」部分があるために「F1」単独では視認されず、全体として化学式関連の構成と捉えられることから、「F1」は要部とはならず、両商標は混同を生じる程度に類似しないことが示されている。 また上告棄却判決では、スイスにおいて商標の類似は称呼・外観・観念の比較によって行われるところ、「F1H2O」と「F1」とでは語数が著しく異なるので直ちに判別できること、両商標の指定商品・役務が「水」とは関連しないため「H2O」は分断して認識されず、「F1H2O」は観念のない一連一体の造語として捉えられることから、需要者が本件商標を請求人と関連付けるとは考えられず、間接的にでも両商標が混同される危険性はほとんどないと判示されている。 以上のとおり、スイス国連邦高等行政裁判所の判断においても、「F1」と「F1H2O」は非類似であり、混同のおそれはない。 6 本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当しない理由 請求人登録商標を特定すると、いずれもフォーミュラ図形商標であるので、図案の構成及び英文字から「エフワン」「フォーミュラ ワン」の称呼を生じる。観念については、自動車の規格、またはフォーミュラ ワンの規格に従った自動車レースの観念を生じる。外観については、黒地の「F1」の文字と「F」「1」の間に白抜きで浮かび上がる「1」の図案とが強い印象を与える。 これに対し、本件商標を特定すると、本件商標「F1H2O」は一体不可分の商標であって、その構成に即して「エフイチエッチニオオ」「エフイチエイチニオオ」「エフワンエッチツーオオ」「エフワンエイチツーオオ」等の称呼が生じ、これらはいずれもよどみなく一連に称呼される。次に観念についてみると、本件商標を分断する特段の事情がないことから全体が一種の造語として捉えられ、特段の観念を生じない。外観については、アルファベット文字と数字が同書同大同間隔で書されてなる標準文字による商標であり、顕著な特徴を有さないものである。 以上のように、本件商標と請求人引用商標とを比較すると、称呼・外観が全く異なり、観念において比較できないから、互いに類似する商標ではない。 したがって、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するという請求人の主張は退けられるべきである。 7 結論 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号、同第19号のいずれにも該当するものではないから、本件無効審判は理由がない。 第4 当審の判断 1 「F1」について (1)請求人の提出した証拠によれば、以下の事実が認められる。 ア 国際自動車連盟「FIA」は、「Formula 1」による自動車レース「FIA Formula One World Championship」(以下「本件自動車レース」という。)を1950年に開催以来、継続して開催し、本件自動車レースは、年間10数戦が我が国を含め、世界各地で行われてきた(甲2?甲6、甲11ほか)。なお、「Formula 1」とは、レース専用車「フォーミュラマシン」の頂点に立つものを指称する語である(甲2?甲5)。また、モーターレースにおける大賞(グランプリ/GP/Grand Prix)は、それぞれのカテゴリーで最高の成績を修めたものに与えられ、四輪の場合は本件自動車レースで争われ(甲4)、本件自動車レースは、「フォーミュラーワングランプリ」と称されることもある(甲11)。 イ 本件自動車レースの模様は、我が国において、テレビ、新聞、雑誌等を通じて報道されるほか、当該レースのDVDの販売、書籍の発行が行われ、現代用語辞典等の辞典に掲載されていることが認められる(甲2?甲5、甲29?甲31、甲42)。 そして、これらの報道等において、本件自動車レースは、「エフワン」と略称され、「F1」及び「F-1」の略称を用いて表記されていることが認められる。 ウ 本件自動車レースに関して、FIAよりライセンスを受けたフジテレビジョン(事業局)は、1992年(平成4年)から1996年(平成8年)にかけて、ゲームソフト会社等とサブライセンス契約を行い、ゲームソフト等が販売された(甲9、甲10なお、当該商品に使用されている言語、通貨単位等から、提出されたパッケージの写し中、日本向けの商品は、ページ1Aの商品(同1Bの商品は、その裏面と認められる。)及びページ4Aの商品と認められる。)。これらの商品には、「F1 過激に挑戦」、「F-1ヒーローGB’92」などが図案化された「FIA FORMULA 1 WORLD CHAMPIONSHIP」の商標と共に記載されている。 エ FIAは、別掲(1)の構成よりなる標章(以下「フォーミュラ1標章」という。)を本件自動車レースのオフィシャルマークとし、オフィシャルマガジンに使用し(甲7)、また、該標章による商品化事業を行い(甲11)、帽子、Tシャツ、ステッカー、キーホルダー、バッグ、財布、ボールペン、ジャンパー等が販売された(甲12、甲25、甲27、甲28)。 フォーミュラ1標章は、我が国において、登録第4361224号をはじめとして、第4類、第9類、第12類、第14類、第16類、第18類、第21類、第25類、第28類?第30類、第32類?第36類、第38類、第39類、第41類及び第42類の商品又は役務を指定商品又は指定役務として登録されている(甲8)。 オ 2007年に我が国で行われた本件自動車レースに際して、本件自動車レースに関する事業権をFIAより授権しているFOALは、2007年(平成19年)9月29日付け日本経済新聞において、別掲(3)に掲げる標章について、無断使用に対して法的手続を行う旨の「謹告」をした(甲24)。 カ 「F-1」、「F1」は、本件自動車レース又は本件自動車レースに係る規格のマシン「Formula 1」の略称として書籍、辞書等に使用、掲載され(甲2?甲4、甲6、甲35?甲38)、ライセンス商品(ゲームソフト、DVD)中にも使用されている(甲9、甲10、甲30、甲31)。なお、いずれの場合もその内容やそのほかの記載から、本件自動車レースに関する商品であることが分かるものであり、また、「FIA FI 世界選手権」「F1日本グランプリ」のように一体的に使用されている場合もある。 また、カフェ「F1 PIT STOP CAFE」のウェブサイトに、同カフェについて「世界初のF1公認カフェレストラン」と紹介していることが認められる(甲33)が、これについても、該店舗が行うイベントの紹介内容は、本件自動車レースにかかるものであり、また、本件ウェブサイトの掲載時期は不明である。 (2)「F1」の文字は、欧文字の1文字「F」と数字の「1」からなる2字の組合せにすぎないものである。また、一般に欧文字1文字と数字を組み合わせて商品の品番、型式等を表す記号、符号などとして、日常一般に使用されていることは顕著な事実といえる。 被請求人の提出する乙号証によれば、欧文字「F」は、記号として用いられる場合もあるものであり(乙1、乙2)、「F1」は、「交配・雑種第1代」を意味する語、地球大気の層を示す語、マーケティング分野における20歳から34歳の女性層を示す語として使用され(乙1、乙2、乙4、乙14、乙15)、各種商品の品番等として使用されていることが認められる(乙5?乙13)。 (3)上記(1)及び(2)によれば、FIAの行う本件自動車レースは、我が国も含め広く知られていると認められ、また、該自動車レースは、その使用車種が「Formula 1」であることから、「Formula 1」若しくは、これを略した「F-1」及び「F1」の標章(以下これらを「F1標章」という。)も本件自動車レースの略称として、使用され、F1標章は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において一般に広く知られているものと認められる。 一方で、「F1」は、欧文字と数字のわずか2字の組合せであるから、極めて簡単かつありふれたものといえるものであり、また、欧文字1字「F」は、特定の意味合いの記号としても採択使用されるものであり、「F1」は、その意味合いに係る特定の種類を表す語として使用されるものであるほか、商品の品番等の符号等として使用され、そのような符号等であるとして認識されることも多いものと認められる。 2 商標法第4条第1項第15号について 本件商標は、「F1H2O」の欧文字及び数字を同書、同大、かつ、等間隔に外観上まとまりよく一体的に表してなるものであり、その構成上、欧文字3字と数字2字を組み合わせた5字よりなるところ、数字が第2番目と第4番目に配されてなるものであって、一見して構成全体が一つの造語として理解されるものというべきである。また、構成全体より生ずる「エフワンエッチツーオー」の称呼もよどみなく一連に称呼し得る。そうとすると、本件商標は、構成全体をもって一体不可分の商標として把握されるものと見るのが相当である。そして、本件商標は、何ら意味を有するものではなく、特定の観念は生じない。 請求人は、本件商標の構成後半にある「H2O」は、「水」を表す化学式として知られているものであって、前半の「F1」の文字と「H2O」は格別の意味のつながりはなく、F1標章が本件自動車レースを表すものとして知られていることから、本件商標の要部は「F1」にあると主張している。 しかしながら、化学式に使用される数字は、原子の数を表し、添え字として小さく標記されるところ、本件商標はそれぞれの字を同じ大きさで表してなるものであり、本件商標がその構成中に「H2O」を含むものであるとしても、この部分が「水」を表すものとして認識されるとはいえない。また、「F」及び「1」はそれぞれ欧文字及び数字の1字であるにすぎず、これらは日常頻繁に使用されるものであるから、「F」、「1」、「H」、「2」、「O」の字を全体が一体的に表されてなる本件商標において、「F1」の部分は、文字列の中に埋没して客観的に把握されないとみるのが相当である。 そうすると、本件商標は、構成全体が不可分一体の商標を表したと認識されるものであるから、その構成中の「F1」の部分のみが独立して把握、認識されるものではない。 してみれば、F1標章及び本件自動車レースが「エフワン」と称され、知られていること、及び本件審判請求に係る指定役務に係るテレビジョンによる放送やインターネットによる映像の送信は、自動車レースをはじめとするスポーツを内容とする放送を含むものであり、請求人の業務に係る自動車レースの開催とは自動車レースに興味を有する需要者を共通にするなどの関連性があることを考慮したとしても、本件商標をその指定役務に使用した場合にF1標章を想起、連想し、請求人又は請求人と営業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、役務の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。 3 商標法第4条第1項第7号及び同第19号について 本件商標とF1標章とは、互いに相紛れるおそれのない別異の商標というべきであり、また、前述のとおり、本件商標を本件審判請求に係る役務に使用しても役務の出所について混同を生ずるおそれもないから、本件商標について不正の目的をもって使用するものとは認められない。 請求人は、被請求人が実際に使用している商標が、本件商標の後半部の「H2O」の「2」を小さく描き、当該部分がより「水」の化学式であると認識させ「F1」の文字を分離認識させるものであり、このような商標の使用は、本件自動車レースの信用を不当に利用しているものであり、被請求人が本件商標を自己の商標として使用・登録しようとする行為は、「F1」、「Formula One」の持つ人気、著名性・顧客吸引力を不当に商業的に利用しようとするフリーライド行為であって、正当な商慣習に反し、かつ、国際信義に反する行為である、と主張しているが、請求人の挙げる被請求人の上記商標は、本件商標と別異の商標であるから、その使用の事実をもって、本件商標を出願し商標登録を受けることについて正当な商慣習に反し、国際信義に反する行為であるとまではいうことができない。 したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同第19号に違反してされたものとはいえない。 4 商標法第4条第1項第10号について 本件商標とF1標章は、前述のとおり、互いに相紛れるおそれがない非類似の商標と認められる。 加えて、F1標章に係る自動車レースの提供と、本件審判請求に係る本件商標の指定役務は、提供の目的、手段、場所が相違し、明らかに業種が異なる非類似の役務と認められる。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。 5 商標法第4条第1項第11号について 請求人は、別掲(2)に示す、登録第4313023号商標、国際登録第823226号商標、登録第4119226号商標、同第436224号商標、同第4346060号商標(以上「引用登録商標」という。)を引用し、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当すると主張しているので、以下、検討する。 本件商標は、前述のとおり、「F1H2O」の文字よりなり、これより「エフワンエッチツーオー」の称呼を生じ、格別の観念は生じないものである。 引用登録商標は、いずれもその構成は別掲(1)に示すとおり、「F」の文字様の図形及びその右に、細かな線が右方向に描いた2段の櫛状図形を同じ右傾斜に描いた一体的図形を上段に配し、下段に「Formula 1」の文字(数字)を配してなるものであるが、上段の図形からは、格別の称呼及び観念を生ずるものではなく、また、「Formula 1」の部分からは、「フォーミュラワン」の称呼及び自動車レースの自動車の規格としての「フォーミュラ1」の観念を生ずるものである。 そこで、本件商標と引用登録商標の類否について検討するに、両者の外観は明らかに区別できるものである。 また、本件商標から生ずる「エフワンエッチツーオー」の称呼と引用登録商標から生ずる「フォーミュラワン」の称呼は、何ら相紛れるおそれはないものである。 さらに、本件商標は、格別の観念を有しない造語であるから、両者は観念において比較すべくもないものである。 してみれば、本件商標と引用登録商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。 なお、本件商標の指定役務は、第1のとおりであり、引用登録商標の指定商品及び指定役務は、別掲(2)ア?オに記載のとおりであるところ、本件審判請求に係る本件商標の指定役務は、引用する登録第4313023号商標及び国際登録第823226号商標の指定役務とは、同一又は類似の役務と認められるが、他の引用する登録商標の指定商品又は指定役務とは類似しない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 6 まとめ 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同第10号、同第11号、同第15号及び同第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によって、本件審判請求に係る指定役務について、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
【別記】 (2)引用登録商標 ア 登録第4313023号商標 ・商標 別掲(1)記載のとおり ・指定役務 第38類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務 ・優先権主張 オーストリア国 1997年5月30日出願 ・登録出願日 平成9年9月22日 ・設定登録日 平成11年9月10日 イ 国際登録第823226号商標 ・商標 別掲(1)記載のとおり ・指定商品及び指定役務 第4類,第9類、第12類、第14類、第16類、第18類、第21類、第25類、第28類?第30類、第32類?第36類、第38類、第39類、第41類、及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務 ・優先権主張 ベネルクス商標庁及びベネルクス意匠庁 2003年7月11日 ・国際商標登録出願日 平成2003年(平成15年)9月5日 ・設定登録日 平成19年11月22日 ウ 登録第4119226号商標 ・商標 別掲(1)記載のとおり ・指定役務 第41類に属する商標登録原簿記載のとおりの役務 ・登録出願日 平成8年5月27日 ・設定登録日 平成10年2月27日 エ 登録第4361224号商標 ・商標 別掲(1)記載のとおり ・指定商品 第9類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品 ・登録出願日 平成8年5月27日 ・設定登録日 平成12年2月10日 オ 登録第4346060号商標 ・商標 別掲(1)記載のとおり ・指定商品 第25類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品 ・登録出願日 平成6年4月4日 ・設定登録日 平成11年12月17日 |
審理終結日 | 2010-06-29 |
結審通知日 | 2010-07-01 |
審決日 | 2010-07-30 |
審決分類 |
T
1
12・
22-
Y
(X09253841)
T 1 12・ 262- Y (X09253841) T 1 12・ 222- Y (X09253841) T 1 12・ 252- Y (X09253841) T 1 12・ 271- Y (X09253841) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 はるみ |
特許庁審判長 |
内山 進 |
特許庁審判官 |
板谷 玲子 瀧本 佐代子 |
登録日 | 2007-03-28 |
商標の称呼 | エフイチエッチニオオ、エフイチエイチニオオ、エフワンエッチツーオオ、エフワンエイチツーオオ |
代理人 | 向口 浩二 |
代理人 | 藤倉 大作 |
代理人 | 竹内 耕三 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 井滝 裕敬 |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 松尾 和子 |
代理人 | 深見 久郎 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 東谷 幸浩 |