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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20179616 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X0140
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X0140
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X0140
審判 全部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X0140
管理番号 1325013 
審判番号 無効2014-890019 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-03-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-03-27 
確定日 2017-02-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第5325691号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成26年10月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成26年(行ケ)第10268号、平成27年8月6日判決言渡)があったので、さらに審理の上、次のとおり審決する。 
結論 登録第5325691号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5325691号商標(以下「本件商標」という。)は、「オルガノサイエンス」の片仮名を標準文字で表してなり、平成20年4月28日に登録出願、第1類「芳香族有機化合物,脂肪族有機化合物,有機ハロゲン化物,アルコール類,フェノール類,エーテル類,アルデヒド類及びケトン類,有機酸及びその塩類,エステル類,窒素化合物,異節環状化合物,有機リン化合物,有機金属化合物,化学剤,原料プラスチック,有機半導体化合物,導電性有機化合物」及び第40類「有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」を指定商品及び指定役務として、同22年4月27日に登録審決、同年5月28日に設定登録されたものである。
そして、本件の登録は、その指定商品及び指定役務中、第1類「化学剤,原料プラスチック」について平成28年3月18日に、第40類「化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」について同年6月17日に、放棄の申請がされ、それぞれ、一部抹消の登録がされているものである。

第2 引用商標
請求人が引用する登録第1490119号商標(以下「引用商標」という。)は、「オルガノ」の片仮名を横書きしてなり、昭和51年4月5日に登録出願、第1類「化学品(他の類に属するものを除く)」を指定商品として同56年11月27日に設定登録され、その後、同57年7月26日に指定商品中「無機工業薬品,有機工業薬品,のりおよび接着剤」についての放棄による一部抹消の登録がされ、さらに、平成14年10月16日に指定商品を第1類「界面活性剤,化学剤」とする指定商品の書換登録がされ、また、3回にわたる商標権の存続期間の更新登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第138号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求人の事業について
請求人は、昭和21年に株式会社日本オルガノ商会として設立され、同41年に現商号である「オルガノ株式会社」に商号変更した。
そして、請求人は、総合水処理エンジニアリング企業として、用水製造や排水処理等の幅広い事業活動を行っており、電子産業、化学・素材産業、食品・飲料製造業、医薬品・化粧品・医療機器製造業、大学・研究所、病院・福祉施設、外食産業等、あらゆる産業にその事業活動は及び、水処理装置事業としては、主として各種製造業者向けの純水製造装置、超純水製造装置、排水処理装置、発電所向けの復水脱塩装置、官公需向けの上下水設備等の製造、納入、メンテナンスを実施している。特に、超純水は半導体や液晶の製造過程に欠かせないものであるが、請求人が製造販売する超純水製造装置は、水処理装置事業の主力商品であり、市場シェアの3割以上を占め、半導体や液晶等の電子産業は、請求人の主要顧客層を形成している(甲15の188頁・189頁,甲16?20)。
また、薬品事業としては、請求人は、水処理薬品、イオン交換樹脂、食品添加物等の化学品の製造、販売等を実施している(甲8?11,甲13,甲21)。
2 被請求人の事業について
一方、被請求人は、平成18年8月10日に「東海理化学産業有限会社」を現商号に変更し、移行したことにより設立された非上場の株式会社である。
被請求人は、試薬及び有機化学工業薬品の製造販売、有機化学工業薬品の輸入販売及び輸出、並びに、それらに附帯する一切の業務を事業目的としており、資本金は1500万円である(甲22)。帝国データバンクの調査によれば、被請求人において、2006年9月期の売上額は200万円、2008年9月期の売上額は5億6800万円、2010年12月決算期の売上額は9億円とされている(甲23)。
また、本件商標の拒絶理由通知に対する意見書(甲24)及び拒絶査定不服審判請求書(甲25)において、被請求人自ら「本出願人は、ウシオケミックス(商標登録第5238075号)株式会社を基盤として創られた会社です。・・・そして同社の新たな事業展開である有機半導体、有機EL材料等の研究開発及び製造販売の事業をより発展させるべく、同社とは分離して、本出願人であるオルガノサイエンス株式会社を創ったものであります。」と述べていること、被請求人が液晶関連の特許出願(甲26?29)を複数行っていることからも明らかなように、被請求人の製造、販売する試薬及び有機化学工業薬品の主たる需要者は、有機半導体材料、有機EL材料を取り扱う化学産業、有機半導体、有機EL等を使用する電子産業である。
3 「オルガノ」の著名性
請求人は、長い歴史を有し、年間の売上額も600億円を超える大企業なのであり、請求人の事業は、そのグループ全体において、水処理装置事業及び薬品事業を中核とし、化学工学、工業化学分野を多角的に事業展開しているものであり、請求人のハウスマークとなる「オルガノ」は、水や化学剤を必要とする製造業者、発電所、国の機関・自治体その他一般消費者等広汎な需要者の間で著名なものとなっているのである(甲30?132)。
各証拠の要旨については、以下のとおりである。
(1)甲第30号証ないし甲第79号証は、請求人の総合カタログ、個別商品カタログ類であり、これらによれば、請求人が本件商標の指定商品と類似の商品である多数の「化学品」等を取り扱っていること、また、同商品について商標「オルガノ」が実際に使用されていることが明らかとなる。
(2)甲第80号証ないし甲第83号証は、請求人が新聞紙上に掲載している題字広告(1面の新聞紙名の真下に表示される広告)の例を示す紙面であり、請求人は、昭和39年より現在に至るまで、定期的に題字広告を実施しており、ハウスマーク「オルガノ」の周知性向上に努めているものである。
(3)甲第84号証及び甲第85号証は、請求人及びその商品がテレビ東京のニュース番組、注目の企業を紹介する千葉テレビ番組において、取材され、放映されたものと同一内容のインターネット配信によるニュースのサイトページである。
(4)甲第86号証及び甲第87号証は、いずれも請求人が受賞した日本工業新聞産業広告賞受賞作品、日本産業広告賞受賞作品の抜粋写しであり、甲第88号証は請求人の広告賞入賞履歴一覧であり、甲第89号証ないし甲第91号証は、請求人が雑誌・新聞等において実際に行った広告の一例であるが、これらに照らしても、請求人が長きにわたり商標「オルガノ」の認知度の向上に努めていたことは明白である。
(5)前記カタログ類及び広告類には、「オルガノ」の文字からなる商標、「オルガノ株式会社」の文字からなる商標、及び、「オルガノ」の文字を下段の枠内に配置するとともに上段の枠内に横向きに描かれた1つの雫形と2つの丸形を配置した結合商標が使用されている。これらの商標は、化学剤、化学品、浄水装置、水処理装置の設計等を指定商品又は指定役務として商標登録されているものである。また、引用商標は「オルガノ」の文字からなり、「界面活性剤、化学剤」を指定商品とするものであるが、それ以外の請求人の登録商標の一部である甲第92号証ないし甲第98号証の商標は、いずれも「オルガノ」の文字を有する商標であり、これらの商標の使用を通じて、請求人のハウスマークとなる「オルガノ」が著名なものとなっている。
(6)甲第99号証ないし甲第127号証は、いずれも請求人が新聞、専門誌等の刊行物等に取り上げられた記事であり、請求人が様々なメディアにも数多く取り上げられていることが明らかになるほか、甲第128号証及び甲第129号証は、請求人が作成した書籍や情報誌等の刊行物の一部であり、請求人が自社の技術を刊行物として発行することにより、企業理解を促す活動も行ってきたことが明らかになる。
(7)甲第130号証ないし甲第132号証は、社団法人産業機械工業会主催の「第33回優秀環境装置表彰」において、請求人の電子部品洗浄用機能水製造装置が経済産業大臣賞を受賞したことを報道した記事であり、本件商標の登録出願前の、半導体や液晶等の電子部品産業における請求人の高い周知度を示すものである。
4 無効理由1(商標法第4条第1項第11号違反)について
(1)商標の類否
本件商標は、「オルガノサイエンス」の文字を横書きしてなり、「オルガノ」を含むから、外観及び称呼において引用商標と部分的に一致する。これを観念の点から観察すると、片仮名からなる「オルガノ」は、通常の日本人において、固有の観念を有する語であるとは認識されておらず(甲133)、一方、請求人の企業活動により「オルガノ」が請求人の商号の略称又はハウスマークとして著名であることは前記のとおりであるから、「オルガノ」からは、請求人の商号の略称又は商標という観念が当然に生じるものである。
これに対し、本件商標の構成中の「サイエンス」の文字は、「科学」等の意を有する英語「science」に由来する外来語として、一般的に日本人の間で広く定着している(甲134)。そのため、「サイエンス」の文字は、技術系の雑誌名(甲135)や技術系企業の商号中(甲136)に好んで使用されており、何らの出所識別機能を有さないことはいうまでもない。
したがって、「オルガノサイエンス」からは、請求人の商号の略称又はハウスマークという観念のみが生じるものであり、外観、称呼、観念等を総合して全体的に判断すれば、本件商標は引用商標と類似していることは明らかである。
(2)指定商品及び指定役務の類否
本件商標の指定商品のうち「芳香族有機化合物、脂肪族有機化合物、有機ハロゲン化物、アルコール類、フェノール類、エーテル類、アルデヒド類及びケトン類、有機酸及びその塩類、エステル類、窒素化合物、異節環状化合物、有機リン化合物、有機金属化合物及び化学剤」については、「類似商品・役務審査基準」の類似群コード「01A01」で示される「化学品」として列挙されている「10 芳香族、11 脂肪族、12 有機ハロゲン化物、13 アルコール類、14 フェノール類、15 エーテル類、16 アルデヒド類及びケトン類、17 有機酸及びその塩類、18 エステル類、19 窒素化合物、20 異節環状化合物、27 化学剤」に該当するものである。
また、同じく「有機半導体化合物及び導電性有機化合物」についても、化学品の一種であることから、類似群コード「01A01」で示される類似群に属するものである。
一方、引用商標の指定商品の「化学剤」は、類似群コード「01A01」で示される化学品として列挙されている「27 化学剤」に該当するものであり、両者は同一の類似群に属する同一又は類似の指定商品である。
本件商標の上記以外の指定商品である「原料プラスチック」については「化学剤」とは別の類似群に属するものの、化学剤と同じく工業上使用される化合物であるから、引用商標に係る指定商品との類似の判断において何ら消長を来すものではない。
したがって、本件商標に係る指定商品はいずれも、引用商標に係る指定商品と同一又は類似のものである。
次に、本件商標の指定役務「有機化合物・化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」は、まさに、各種化合物の受託製造に他ならず、化学剤を製造販売する事業者が行うことが一般的な役務であるため、引用商標の指定商品と類似することもまた明白である。
(3)小括
以上のとおり、本件商標は引用商標と類似し、本件商標の指定商品及び指定役務は引用商標の指定商品と同一又は類似するものであるため、本件商標は、商標法第4条第1項第11号により商標登録を受けることができないものである。
5 無効理由2(商標法第4条第1項第15号違反)について
(1)「オルガノ」の周知著名性
すでに主張立証したとおり、「オルガノ」は、請求人の商号の略称又はハウスマークとして需要者、取引者の間で、本件商標の登録出願時、登録時、及び現在において著名となるに至っている。
(2)「オルガノ」の創造性
「オルガノ」は、日本語の辞書には掲載されておらず(甲133)、「オルガノ」の片仮名は創造標章である。
確かに、「オルガノ」を英語表記した「organo」については、例えば、「organophosphate(有機リン酸エステル)」のように、他の化学物質名と連結して用いることにより「有機」という意味を表す語として特別に用いられることもあるが、「オルガノ」の文字が化学物質名と連結せずに他の用語と連結して用いられた場合、あるいは単独で用いられた場合には、それ自体何ら意味をなさない語である。
したがって、「オルガノ」の文字に接した需要者、取引者は、請求人のハウスマークである「オルガノ」を第一に想起するものであり、「オルガノ」の文字は、自他商品・役務の高い識別力を発揮する創造商標である。
(3)「オルガノサイエンス」と「オルガノ」の類否
甲第137号証は、日経テレコン21による企業情報検索結果一覧の打ち出しであるが、同サイトにて商号中に「サイエンス」の文字を含む法人を検索したところ、容易に約500社もの法人が発見された。かかる事実に照らしても、本件商標の指定商品・指定役務を取り扱う当業界においては、「サイエンス」の語は工業分野及び先端技術分野の業務を行う者の商号中に好んで採択されていることは明らかである。
したがって、本件商標において、自他識別力の乏しい「サイエンス」ではなく、周知著名性を獲得した創造標章である「オルガノ」の文字部分が要部となり、「オルガノ」の称呼が生じるものである。
よって、本件商標が引用商標と類似する商標であることは自明である。
(4)ハウスマークである「オルガノ」
「オルガノ」は、請求人の商号である「オルガノ株式会社」の略称であり、「オルガノ」の片仮名を横書きしてなる引用商標は、請求人が権利を有する登録商標である。すなわち、「オルガノ」は、請求人が使用するハウスマークである。
(5)請求人の多角経営
すでに述べたとおり、請求人は、化学工学及び工業化学分野の技術に秀でた企業であり、主として、総合水処理エンジニアリング会社として水処理装置事業と薬品事業を柱としつつ、その技術力を活かして、化学工学及び工業化学分野での広範な事業を行っており、工業薬品類の販売、水処理機器類の販売、食品素材・添加物、栄養補助食品等の開発・製造販売、工場排水処理設備の製造販売を行っている多数の子会社、孫会社を設立し、多角的に事業運営を行っている。そして、これら子会社、孫会社の殆どが、その商号中に「オルガノ」の文字を有している。
(6)商品間又は役務と商品の関連性
請求人は、水処理装置事業と薬品事業を主に行っている企業であるところ、水処理装置事業は、純水・超純水、上水などの用水製造装置、下排水処理装置、クロマト分離装置などの、プラントや機器を工学的に設計・製造・販売等する事業であり、化学工学の技術分野に属するものである。また、薬品事業は、工業的に化学品を製造・販売する事業であり、工業化学の技術分野に属するものである。このように、請求人は、化学に関する技術を活かした商品及び役務を提供している。
特に、薬品事業は、様々な化合物の混合物を薬品として製造・販売する事業であり、請求人の事業の4分の1程度を占めるものである。例えば、様々な有機化合物や無機化合物を含む、重金属固定剤、洗浄剤、除菌剤、消臭剤、消泡剤、非イオン性界面活性剤除去剤、高分子凝集剤、不純物除去剤、給水用防錆剤、過酸化水素分解剤、次亜塩素酸ナトリウム剤、燃料添加剤、ボイラ処理剤、防食剤、冷却水処理剤等を製造・販売している(甲33?76)。また、イオン交換樹脂や食品添加物を取り扱っている(甲78,79,甲8)。
一方、本件商標の指定商品及び指定役務は、様々な種類の有機化合物に係る商品と、その合成等に係る役務である。
このように、請求人の提供する商品又は役務と、本件商標の指定商品及び指定役務は、いずれも化学に関する技術を活かした商品及び役務である点で一致しており、特に、請求人の製造・販売する薬品は、本件商標の指定商品である様々な種類の有機化合物を混合することにより得られるものであるから、両者は密接不可分に関連している。
(7)需要者及び取引者の共通性について
請求人の事業の需要者、取引者は、用水製造や排水処理等の水処理プラント又は中・小型装置、水処理薬品等の化学剤等を必要とする各種製造業、サービス業、発電所、国の機関・自治体、一般消費者等であるのに対し、本件商標の指定商品の需要者は、指定商品である化合物を製品原料などとして必要とする各種製造業者である。そして、化合物を原料などとして必要としている製造業者は、水処理設備又は水処理装置、水処理用化学剤を必要とする製造業者でもある。
したがって、請求人の事業の需要者、取引者と、本件商標の需要者、取引者とは、その多くが共通する。
ここで、「混同のおそれ」を生じる可能性が高いことについて、具体的かつ詳細に補足説明しておく。
請求人にとって、半導体や液晶等の電子産業は、前記のとおり、超純水を大量に消費する重要な需要層である(甲15?20)。また、請求人は、化学工業に対しては、用水又は排水処理装置を提供するのみならず、イオン交換樹脂を、酸・塩基の固体触媒、電子材料の分離精製、電解液の精製といった用途にも提供しており(甲18)、電子材料メーカー等の化学産業は、水処理以外の事業においても需要層である。すなわち、電子産業及び電子材料産業は、請求人にとって重要顧客なのである。一方、本件商標の指定商品の主たる需要者もまた、すでに説明したとおり、有機半導体材料、有機EL材料を扱う化学産業、又は有機半導体材料や有機EL材料を使用する電子産業であることから、請求人の事業の重要需要者と本件商標の指定商品の主たる需要者は一致する。このような状況において、本件商標がその指定商品に使用された場合は、当該商品が請求人の系列会社の業務に係る商品であると誤認される可能性は極めて高いことはいうまでもない。
(8)小括
以上のように、「オルガノ」は、請求人のハウスマークとして周知・著名な創造商標であることから、本件商標においては「オルガノ」が要部となり、本件商標は引用商標と明らかに類似する。また、請求人の提供する商品と、本件商標の指定商品及び指定役務は、密接に関連するものであり、その需要者及び取引者の多くを共通にする。そして、請求人は多角経営をする企業であり、その子会社の多くが、グループ企業であることを示すべく、その商号中に「オルガノ」の文字を有している。
したがって、本件商標をその指定商品又は指定役務に使用する場合には、その需要者や取引者において、その商品又は役務が、請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると混同される可能性が極めて大きいものである。
実際、本件商標は、請求人が長年の事業の蓄積により「オルガノ」の商標に化体させた信用にフリーライドするものであり、かかる事態は「オルガノ」に化体した信用・顧客吸引力を容易に損ない、請求人の営業上の利益が害されるばかりでなく、需要者・取引者に商品・役務の誤認混同による多大な不利益を与えるものである。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当し、その登録を取り消されるべきものである。
6 答弁に対する弁駁
(1)請求人は、本件商標に係る拒絶査定不服審判(不服2009-12927)の審決(乙7:以下「審決」という。)及び本件商標に係る登録異議申立(異議2010-900264:以下「本件異議申立」という。)の異議決定(乙10:以下「異議決定」という。)を踏まえ、新たな証拠を追加しつつ、異議申立の理由とは異なる新たな無効理由を詳細に主張したものであり、本件商標の登録が無効であることは明らかである。
(2)審決及び異議決定の判断について
被請求人が依拠する審決及び異議決定の判断は、本件審判の請求における主張立証により覆されるべきものである。
ア 請求人は、「科学」という意味を有する「サイエンス」が「技術を有する企業である」という広い意味で、技術系企業の業態を表す語として使用されていると主張している。この点、甲第137号証が示すように、企業情報データベース「日経テレコン21」で検索しても、「サイエンス」の文字を含む法人が約500社も容易にヒットし、また、甲第136号証が示すように、周知な企業の名称に「サイエンス」の文字を付加した商号も多く存在しているから、「サイエンス」には、識別力がないため、「『サイエンス』の語が業種・業態又は商品の品質若しくは役務の質を表す語として広く使用されている事実は甲各号証によっては認められない」などという異議決定の認定判断には、理由がないというべきである。
イ 請求人の薬品事業について、その規模が大きいとはいえないなどとする異議決定の認定判断は、請求人の事業における薬品事業の割合が水処理事業と比較して相対的に見れば低いことのみに依拠しただけであり、請求人の薬品事業の規模が平成20年3月期の年間売上額で154億2000万円にも及ぶという絶対的な事実(甲10の11頁)を無視している。請求人における事業の売上高、需要の広汎性に照らせば、異議決定の判断は、明らかな事実誤認である。
ウ 異議決定では、「オルガノ」、「ORGANO」の各語が「器管、有機」の意味を有する既成語と認められもので独創性があるとはいえないと認定判断している。
しかし、請求人が本件審判の請求で提出した日本語辞書(甲133)には、「オルガノ」の語は掲載されておらず、「オルガノ」が識別性のない既成語であるということは到底できない。また、本件商標の指定商品・役務の需要者は、各種有機化合物を原料として必要とする製造業者であるが、それらの製造業者は工場の操業にあたり、水の使用と排水を必須とするので、同時に水処理事業の需要者である。
したがって、請求人の薬品事業のみならず水処理事業が大規模に行われていることによっても、「オルガノ」のハウスマークは、本件商標の指定商品・役務の需要者に周知、著名となっていることは自明であり、この「オルガノ」と識別性のない「サイエンス」を組み合わせた本件商標は、「オルガノ」と類似するものとして、商標法第4条第1項第11号により商標登録を受けることができない。
エ 次に被請求人は、商標法第4条第1項第15号の無効理由の反論として、異議決定を引用しているが、かかる異議決定の認定判断は、本件商標と引用商標とが別異の商標であることを前提としたものであり、その前提において誤謬がある。加えて、仮に「別異の商標」であるとしても、商品又は役務の出所の混同(広義の混同)を生ずるおそれがあるときは、商標法第4条第1項第15号に該当するものであり、異議決定の認定判断は、この点においても法解釈及び適用を誤るものである。
そして、商標法第4条第1項第15号の該当性の判断にあたっては、裁判例や審査基準で示されている判断基準を総合的に勘案して判断されるべきものであり、この点、被請求人からの反論は答弁書において見あたらないが、請求人は詳細に主張立証している。
オ 答弁書における被請求人の独自の主張については、いずれも理由がなく、被請求人の主観的な意見にすぎない。
被請求人が業とするとされる有機化合物の合成が、水処理装置事業や薬品事業との棲み分けができるとしても、本件商標の指定商品・役務と、請求人の事業が類似している場合には、出所の混同のおそれが生ずる。ましてや、本件商標の指定商品・役務と、請求人の事業に係る商品・役務が密接不可分に関連していることについては、本件審判の請求書で述べたとおりであるから、被請求人の反論は、全く的外れであり、理由がない。
また、被請求人が指摘する「日本国周知・著名商標」にリストアップされていないことをもって、「オルガノ」が周知・著名でないという結論が導かれるものでないことは論を俟たない。
さらに、被請求人の代理人が応用化学を専攻し、排水処理にも携わったことがあるとして、自身の経験談と主観に基づいて、オルガノ株式会社といえば「あの水処理の会社」と思い出すが、他の業界に携わっている人たちにとっては、周知、著名とはいえないと主張しているが、係る主張は、被請求人の単なる主観に基づく意見にすぎず、法的な反論には値しない。そして、本件商標の指定商品・役務の需要者は、各種有機化合物を原料として必要とする製造業者であり、被請求人代理人が応用化学の知見を有するとして「オルガノ」をよく知っていると自認することは、むしろ請求人の主張をサポートすることに他ならない。
7 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号又は同項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効にすべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証を提出している。
1 はじめに
(1)本件審判請求書と本件異議申立の登録異議申立書とを比較検討するに、その内容は、以下のように、大同小異である。
ア 本件異議申立の理由は商標法第4条第1項第10号、同項第11号及び同項第15号違反であるのに対し、本件審判の請求理由は同項第11号及び同項第15号違反であること。
イ 本件異議申立は、登録第1490119号商標のほか6件の請求人の登録商標を引用しているのに対し、本件審判では登録第1490119号商標のみを引用していること。
ウ 本件異議申立の各甲号証と本件審判の各甲号証では同じものも含まれていること、さらにその大部分は請求人の上記登録商標が周知又は著名であることを立証するための証拠であること。
エ 商標法第4条第1項第11号及び同項第15号を理由とする本件異議申立と本件審判の主張では、略同じような趣旨の記載がなされていること。
(2)そうすると、被請求人の答弁の理由は、これまでの本件に係る審決(乙7)や異議決定(乙10)に記載されていると思われ、本件異議申立の理由と本件審判の請求理由の内容を比較すると、いずれも「オルガノ」は、請求人の商号の略称等として周知著名であり、本件商標「オルガノサイエンス」から「オルガノ」の称呼や観念が生じ、本件商標と引用商標は類似しているとの主張であるので、本件審判の請求に対する答弁として、乙第7号証の審決及び乙第10号証の異議決定の一部を抜粋し、必要に応じてこれに補充して、答弁の理由にする。
2 無効理由1(商標法第4条第1項第11号違反)について
(1)審決には、以下のように記載されている(乙7)。
・・・本願商標を構成する「オルガノ」の語は、「有機(体)の」等の意味を有する英語「organo」の表音の片仮名表記と認められ、他の語と結びついて、連結形の言葉を作るものである(小学館ランダムハウス英和大辞典 株式会社小学館)。また、「サイエンス」の語は、「科学」等の意味を有する英語「science」の表音の片仮名表記と認められる(広辞苑第6版)。
つぎに、指定商品及び指定役務との関係について検討すると、「サイエンス」の文字(語)がもつ「科学」の意味合いは、「観察や実験など経験的手続きによって実証された法則的・体系的知識。」(広辞苑第6版 株式会社岩波書店)であるから、当該文字部分の自他商品・役務の識別標識としての機能は極めて低いということはできない。
そして、本願商標は、上記「オルガノ」及び「サイエンス」の片仮名文字を一連に表してなるが、親しまれた語とはいえないから、全体として特定の観念を有するものは認められないので、一体不可分の造語と認識されるというのが相当である。さらに、これより生じる「オルガノサイエンス」の称呼も、格別冗長でなく、殊更「オルガノ」と「サイエンス」とに分断しなければならない事情も見いだすことができないものである。
してみれば、本願商標は、「オルガノサイエンス」の全体をもって認識、理解され、「オルガノサイエンス」の称呼のみにより取引に資されるとみるのが相当である。
他方、引用商標は、それぞれ構成中の「ORGANO」「オルガノ」の文字部分に照応し、「オルガノ」の称呼が生じるものといえる。また、引用商標の観念についてみると、商標の類否判断の要素としての観念とは、多くの取引者、需要者がその商標自体から直ちに一定の意義を想起させるものであることを要するものというべきであるところ、引用商標は、我が国において親しまれた英語等とはいい難いから、特定の語義を有しない造語と理解されるものである。
そこで、本願から生じる「オルガノサイエンス」の称呼と引用商標から生じる「オルガノ」の称呼を比較すると、両者は構成音及び音数において明らかに相違するものであるから、それぞれ一連に称呼するときは、語調、語感を異にし、互いに聴別し得るものである。また、本願商標と引用商標とは、それぞれの外観において相違し、かつ、観念についても、いずれも特定の観念を生じないものであるから、比較することができない。
してみれば、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標といわざるを得ない。
したがって、本願商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとした原査定は、妥当でなく、取消しを免れない。
(2)異議決定では、以下のように判断されている(乙10)。
本件商標は、「オルガノサイエンス」の片仮名を標準文字で表した構成よりなるところ、その構成中の「オルガノ」の文字部分は「器官、有機」の意昧を有する英語「organo」の発音を片仮名表記したものであり、「サイエンス」の文字部分は「科学」の意昧を有する英語「science」の発音の片仮名表記及び前記意味を有する外来語であるが、これらの語が我が国において一連の熟語をなすものとしては知られておらず、また特定の意味を認識できないものであるから、意味を有しない造語というべきものであり、また、各文字は標準文字でまとまりよく表され、これより生ずる称呼も無理なく一気一連に称呼しうるものであるから、「オルガノサイエンス」のみの称呼を生じるというのが相当であり、特定の観念を生じないものである。
この点について、申立人は、本件商標の構成中の「サイエンス」の文字部分は本件商標の指定商品・指定役務との関係では商品の品質や役務の質を表し、本件商標の指定商品・指定役務を取り扱う当業界においては、「サイエンス」の語は業種、業態を表す用語であるから、自他商品・役務の識別標識としての機能が極めて乏しい語であるため、その構成中の「オルガノ」の文字部分から「オルガノ」の称呼を生ずる旨主張する。
しかしながら、本件商標に係る指定商品及び指定役務は化学品に関する商品又は役務であり、当業界において、業種・業態又は商品の品質若しくは役務の質を表す語として、「ケミカル」又は「化学」の語が広く使用されているとしても、「サイエンス」の語が業種・業態又は商品の品質若しくは役務の質を表す語として広く使用されている事実は甲各号証によっては認められないから、この点に関する申立人の主張は採用できない。
また、申立人は、「オルガノ」「ORGANO」の各文字は申立人の商号の略称並びに水処理装置事業及び薬品事業に使用する商標として本件商標の出願時にはすでに周知著名に至っていたものであるから、本件商標は、その構成中の「オルガノ」の文字部分から「オルガノ」の称呼を生ずる旨主張する。
しかしながら、甲各号証によれば、申立人の使用する「オルガノ」「ORGANO」の標章は、主たる水処理装置事業については、申立人の商号の略称及び商標として遅くとも本件商標の出願当時までには周知性を獲得していたものと認められるとしても、本件商標に係る指定商品及び指定役務の取引分野においては、申立人は薬品事業を行っているが、未だその事業規模が大きいとはいえず、「オルガノ」「ORGANO」の各語が「器官、有機」の意味を有する既成語と認められるもので独創性があるとはいえないものであり、未だ周知著名性を獲得しているとまでは認められないものであるから、この点に関する申立人の主張は採用できない。
他方、引用商標は、・・・その構成中には、「オルガノ」の片仮名又は「ORGANO」の欧文字を有するものであるから、いずれも[オルガノ]の称呼を生じ、また、これらの語が「器官、有機」の意味を有する既成語であるとしても、我が国においてさほど知られているということができないものであるから、意味を有しない造語というべきものであり、特定の観念を生じないものである。
そこで、本件商標の外観と引用商標の外観とを比較するに、両者は「サイエンス」の文字の有無、片仮名と欧文字又は文字と図形など構成上の顕著な差異を有するから、外観上互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
同じく、本件商標より生ずる「オルガノサイエンス」の称呼と引用商標より生ずる[オルガノ]の称呼とを比較するに、両者は「サイエンス」の構成音の顕著な差異を有するから、称呼上互いに相紛れるおそれのない非類似の商標である。
さらに、本件商標と引用商標とは、共に特定の観念は生じないものであるから、観念において比較することはできない。
してみれば、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しないものである。
(3)なお、本件異議申立において請求人は、「本件商標権者は、本件商標の査定不服審判請求書中において、『引用商標の商標権者は、一つの著名な会社であるが、その会社と、本出願人とは業務内容が異なり、本出願人は、その信用にただ乗りする意思もなく、また傷つける考えも皆無である。』と述べている。このことは、本件商標権者が自ら述べているように、当業界における異議申立人の商標『オルガノ』『ORGANO』の著名性を示す証左である。」と述べているが、被請求人は、上記審判請求書において「総合水処理エンジニアリング企業であるオルガノ株式会社の存在は当然承知しています。」と述べ、総合水処理エンジニアリング会社の1つとして当然承知であることをいったにすぎない。
また、本件審判の甲第26号証ないし甲第29号証の被請求人の特許出願等に示すように、被請求人は、有機化合物の合成を主業務とする企業であって、請求人が自ら述べている「オルガノ株式会社は総合水処理エンジニアリング会社であり主として水処理装置事業と薬品事業を行なっている」企業との棲み分けは明瞭にできる。それは、前述の異議決定における「しかしながら、甲各号証によれば、申立人の使用する『オルガノ』『ORGANO』の標章は、主たる水処理装置事業については、申立人の商号の略称及び商標として遅くとも本件商標の出願当時までには周知性を獲得していたものと認められるとしても、本件商標に係る指定商品及び指定役務の取引分野においては、申立人は薬品事業を行っているが、未だその事業規模が大きいとはいえず、『オルガノ』『ORGANO』の各語が『器官、有機』の意味を有する既成語と認められるもので独創性があるとはいえないものであり、未だ周知著名性を獲得しているとまでは認められないものであるから、この点に関する申立人の主張は採用できない。」との判断からも明らかである。
3 無効理由2(商標法第4条第1項第15号違反)について
(1)請求人は、本件審判において本件商標の商標法第4条第1項第15号による登録無効も主張しているが、本件異議申立においても同項第15号による登録取消を主張しており、その趣旨は略同じであるので、本件審判の該主張に対しても、前述と同様、被請求人は、以下のように、異議決定を抜粋し答弁の理由とする。
「本件商標と引用商標とは、上述したとおり、別異の商標というべきものであるから、引用商標が水処理装置事業などについて周知性を獲得していたとしても、商品又は役務の出所の混同を生じさせるおそれがないものである。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。」
(2)本件異議申立においては、証拠方法の大部分は請求人のカタログ、新聞広告等であり、本件審判の引用商標を含む請求人の各登録商標が、周知又は著名であることを立証するためのものである。また、本件審判の証拠方法の大部分も異議申立と同様に、請求人のカタログ、新聞広告等であり、引用商標が、周知又は著名であることを立証するためのものである。本件異議申立の証拠方法と本件審判の証拠方法とが同一であるものも見かけられる。これらは、カタログ等水処理に関する記事が多く、新聞の「オルガノ」の広告記事では、その脇に総合水処理、半導体の水等の語句が記載され、水処理に関係するものが多い。
また、本件異議申立の甲第15号証(「日本有名商標集」AIPPI・JAPAN発行)に関し、日本有名商標集に掲載された場合の効果等について一般社団法人日本国際知的財産保護協会に電話にて問い合わせたところ(平成26年5月9日)、「(掲載されている商標は、)日本国内の会社の商標登録されていることを条件とし、同協会の委員により決められるもので、外国の特許庁や税関に配ったことがある。参考資料であり法的効果はない。特許庁のIPDLにて掲載されている周知著名商標とは関係ない。」との回答であった。なお、日本有名商標集が本件審判の甲号証となっているか否かは不明である。
(3)前述のように、特許電子図書館(IPDL)の商標検索中の「10 日本国周知著名商標」により、「オルガノ」を検索したところ、「オルガン」はあるが、「オルガノ」は見当たらない(乙11)。
4 まとめ
本件商標については、請求人から本件異議申立がされたが、登録維持の決定がされた。その約3年後に本件審判の請求がされ、請求の理由として本件異議申立と略同じ内容が記載されていた。被請求人としては、答弁書において、答弁の理由を作成するまでもなく、これまでの審決(乙7)及び異議決定(乙10)において被請求人が答弁すべき理由が述べられており、この一部を抜粋し、答弁の理由とすることが、適切であり、かつ、理解されやすいと考え、上記のように述べたものである。
なお、被請求人代理人は、応用化学を専攻し、水質第一種公害防止管理者の資格も有し、実務として廃水処理にも携わった経験があり、オルガノ株式会社といえば、「あの水処理の会社」と思い出すが、他の業界、例えば、機械、電気、更に広くいえば漁業、農業に携わっている者にとっては、周知、著名とはいえないのではないかとも考えられる。
被請求人は、会社の方針により宣伝広告等はしていないが、口コミにより、国内の企業、大学等から有機合成の方法や有機合成品の高純度化の方法等についての問合せが多くあり、この分野においては高度の技術を有していると自負している。有機合成の「オルガノサイエンス」として、日本国内はもとより世界的にも有名になっていくように日々努力を重ねている。

第5 当審の判断
1 引用商標及び使用商標の周知著名性について
(1)請求人は、昭和21年に株式会社日本オルガノ商会として設立され、同41年に現商号である「オルガノ株式会社」に商号変更した。請求人は、純水製造装置、超純水製造装置、排水処理装置、発電所向けの復水脱塩装置、官公需向けの上下水設備等の製造、納入、メンテナンスといった水処理装置事業と、水処理薬品、イオン交換樹脂、食品添加物等の製造、販売といった薬品事業を主に行っており(甲7,8)、本件商標の登録出願時(平成20年)には資本金が約82億円に達し、該期の売上高は735億9200万円(そのうち、水処理装置事業が581億7200万円、薬品事業が154億2000万円)に及ぶ(甲10)。特に、超純水製造装置は、水処理事業の主力商品であり、市場シェアの3割以上を占める(甲15)。また、請求人は、多数の子会社、孫会社を有しており、これら子会社、孫会社のほとんどがその商号中に「オルガノ」の文字を含んでいる(甲7)。
(2)請求人発行にかかる総合カタログ及び個別商品カタログには、いずれの表紙にも、図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章が表示されている(甲30?79)。そして、かかる図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字とは、常に不可分一体のものとして認識し把握されるべき格段の理由は見いだし難いから、それぞれが独立して出所識別標識としての機能を果たし得るものといえる。
(3)昭和39年から現在に至るまで50年以上にわたり、新聞の題字広告(1面の新聞紙名の真下に表示される広告)として「オルガノ」の文字からなる使用商標が、「総合水処理・イオン交換装置」、「純水装置・排水処理装置」、「水の高度処理全システム」、「すべての水は資源」、「水のプラントメーカー」、「水のトータルエンジニアリング」、「工場の節水支援 排水処理・水リサイクル技術」、「心と技で水の価値を創造する」等の語句とともに定期的に掲載されており、近年では朝日新聞、読売新聞及び日本経済新聞の3紙に掲載されている(甲80?83)。
(4)図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示した請求人の企業広告が、昭和51年頃から平成24年頃まで、日本経済新聞、朝日新聞等に不定期に掲載されているが、これらは、請求人の薬品事業やその製造販売に係る薬品に限定された広告ではなく、請求人の水処理関連技術、装置ないしシステムや、請求人の事業全体を抽象的に広告したものと認められる(甲89?91)。そして、請求人の広告は、日本工業新聞広告大賞(日本工業新聞)、日本産業広告賞(日刊工業新聞)を度々受賞している(甲86,87)。
(5)請求人については、各種雑誌、新聞等の記事に取り上げられ、多くは「オルガノ」として紹介され、中には、図形と「ORGANO」又は「オルガノ」の文字との組合せからなる標章を表示した広告が共に掲載されているものもある(甲99?127)。これらは主に、請求人の水処理関連事業ないし装置に言及したものであるが、超純水の製造には薬剤が使用される場合があるとされ(甲106)、また、大手水処理メーカーとして請求人と並び称される栗田工業が、超純水システムを販売した顧客とメンテナンスや薬品販売で長期関係を築くと紹介される(甲114)など、水処理事業には薬品販売が伴うものであると認識されていたものと認められる。その他、2007年に社団法人日本産業機械工業会主催の「第33回優秀環境装置表彰」において、請求人の電子部品洗浄用機能水製造装置が経済産業大臣賞を受賞し、そのことが新聞報道された(甲130?132)。
(6)以上より、請求人は、「オルガノ」と略称されて水処理装置事業の分野において広く知られており、また、使用商標は、純水製造装置、超純水製造装置、排水処理装置等の商品を含む水処理関連事業について使用する請求人の商標として、本件商標の登録出願時には既に、取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録審決時においても継続していたものといえる。
また、請求人の事業は水処理関連事業であるが、これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認められ、引用商標についても、本件商標の登録審決時において、その指定商品「界面活性剤,化学剤」を示すものとして相当程度周知となっていたことが認められる。
2 無効理由1(商標法第4条第1項第11号該当性)について
(1)上記のとおり、引用商標「オルガノ」は、本件商標の登録審決時において、相当程度周知であったものと認められる。
(2)本件商標「オルガノサイエンス」は、「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められるところ、その全体は、9字9音とやや冗長であること、後半の「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること、前半の「オルガノ」は、「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの、本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていない(甲133)など、「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないことが認められ、さらに、上述のような引用商標の周知性からすれば、本件商標のうち「オルガノ」部分は、その指定商品及び指定役務の取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ、他方、「サイエンス」は、一般に知られている「科学」を意味し、指定商品である化合物、薬品との関係で、出所識別標識としての称呼、観念が生じにくいと認められる(最高裁平成19年(行ヒ)第223号平成20年9月8日第二小法廷判決参照)。したがって、本件商標については、前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである。
(3)本件商標の要部「オルガノ」と、引用商標とは、外観において類似し、称呼を共通にし、一般には十分浸透しているとはいえないものの、いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって、両者は、類似していると認められる。
(4)本件商標の指定商品と、引用商標の指定商品とは、いずれも「化学剤」を含んでいる点で共通している。
(5)以上のとおり、本件商標と引用商標とは類似し、両商標の指定商品中にはいずれも「化学剤」を含んでいることから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
3 無効理由2(商標法第4条第1項第15号違反)について
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標も含まれるものであり、そして、「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号平成12年7月11日第三小法廷判決参照)。
これに従い、本件商標の指定商品及び指定役務中、上記2のとおり本件商標が商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものと判断した「化学剤」以外の指定商品及び指定役務について、以下検討する。
(1)使用商標の周知著名性
上記1(6)のとおり、使用商標「オルガノ」は、本件商標の登録出願時及び登録審決時において、請求人及び請求人の事業ないし商品・役務を示すものとして需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
(2)使用商標の独創性の程度
「オルガノ」を「有機」の意味で使用することがあるとしても、本件商標の登録出願時に「有機」の意味での使用が一般に浸透していたとは認められない。また、「オルガノ」の片仮名は、日本語の辞書には掲載されていない(甲133)。
そうすると、「オルガノ」の文字は、独創性の程度が低いとまではいえないものである。
(3)請求人の多角経営
請求人は、総合水処理エンジニアリング会社として水処理装置事業と薬品事業を主として行っており、さらに、工業薬品類の販売、水処理機器類の販売、食品素材・添加物、栄養補助食品等の開発・製造販売、工場排水処理設備の製造販売を行っている多数の子会社、孫会社を設立し、多角的に事業運営を行っていることが認められる(甲7?13)。
(4)商品間又は役務と商品の関連性
請求人は、水処理装置事業と薬品事業を主に行っている企業であるところ、薬品事業は、様々な化合物の混合物を薬品として製造・販売する事業であり、様々な有機化合物や無機化合物を含む、重金属固定剤、洗浄剤、除菌剤、消臭剤、消泡剤、非イオン性界面活性剤除去剤、高分子凝集剤、不純物除去剤、給水用防錆剤、過酸化水素分解剤、次亜塩素酸ナトリウム剤、燃料添加剤、ボイラ処理剤、防食剤、冷却水処理剤等を製造・販売していること(甲33?76)、また、イオン交換樹脂や食品添加剤を取り扱っていること(甲78,79,甲8)が認められる。
他方、本件商標の指定商品及び指定役務は、様々な種類の有機化合物に係る商品と、その合成等に係る役務である。
そうすると、請求人に係る商品又は役務と、本件商標の指定商品及び指定役務は、いずれも化学に関する技術を活かした商品及び役務である点で一致しており、特に、請求人の製造・販売する薬品は、本件商標の指定商品である様々な種類の有機化合物を混合することにより得られるものであるから、両者は密接不可分に関連しているといえる。
(5)需要者及び取引者の共通性
請求人の事業の需要者、取引者は、用水製造や排水処理等の水処理プラント又は中・小型装置、水処理薬品等の化学剤等を必要とする各種製造業、サービス業、発電所、国の機関・自治体、一般消費者等であるのに対し、本件商標の指定商品の需要者は、指定商品である化合物を製品原料などとして必要とする各種製造業者である。そして、化合物を原料などとして必要としている製造業者は、水処理設備又は水処理装置、水処理用化学剤を必要とする製造業者でもある。
したがって、請求人の事業の需要者、取引者と、本件商標の需要者、取引者とは、その多くが共通しているといえる。
(6)本件商標と使用商標との類似性の程度
本件商標「オルガノサイエンス」と使用商標「オルガノ」とは、本件商標「オルガノサイエンス」は、「オルガノ」の片仮名と「サイエンス」の片仮名の結合商標と認められるところ、上記1(1)ないし(3)において、本件商標と引用商標とについて認定、判断したと同様に、本件商標のうち「オルガノ」の文字部分は、その指定商品及び指定役務の取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ、他方、「サイエンス」の文字は、一般に知られている「科学」を意味し、指定商品であり、役務の合成や加工対象である化合物、薬品との関係で、出所識別標識としての称呼、観念が生じにくいと認められ、本件商標については、前半の「オルガノ」の文字部分がその要部と解すべきである。
そうすると、本件商標の要部「オルガノ」の文字と、使用商標とは、外観において類似し、称呼を共通にし、一般には十分浸透しているとはいえないものの、いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。
したがって、両者は、類似していると認められる。
(7)小括
以上のように、「オルガノ」の文字は、請求人のハウスマークとして周知・著名な創造商標であることから、本件商標においては「オルガノ」の文字部分が要部となり、本件商標は使用商標と明らかに類似する。また、請求人は多角経営をする企業であり、その提供する商品と、本件商標の指定商品及び指定役務は、密接に関連するものであり、その需要者及び取引者の多くを共通にする。
そうすると、本件商標をその指定商品及び指定役務中の「化学剤」以外の指定商品及び指定役務について使用する場合には、その需要者や取引者において、その商品又は役務が、請求人又はこれらと経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生じさせるおそれがある。
したがって、本件商標は、その指定商品及び指定役務中の「化学剤」以外の指定商品及び指定役務について、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
4 被請求人の主張について
被請求人は、平成28年2月12日付け、同年3月19日付け及び同年6月18日付けの答弁書において、(a)引用商標の指定商品において「無機工業薬品、有機工業薬品、のり及び接着剤」が放棄されており、請求人の主張は自ら放棄した範囲の指定商品について権利主張をしているものであること、(b)本件商標の指定商品及び指定役務中、第1類「化学剤,原料プラスチック」及び第40類「化学剤・原料プラスチックの合成及び加工処理」を放棄したことにより、引用商標の指定商品と本件商標の指定商品・役務とが重複するものではないことから、本件商標と引用商標とは、狭義・広義の出所の混同のおそれが生じようがない旨主張している。
そこで、(a)に係る主張についてみるに、引用商標の商標権は、その商標登録原簿によれば、前記第2のとおり、設定登録後、確かに昭和57年7月26日に指定商品中「無機工業薬品,有機工業薬品,のりおよび接着剤」についての放棄による一部抹消の登録がされている。しかしながら、該商標権は、その後、平成14年10月16日に指定商品を第1類「界面活性剤,化学剤」とする指定商品の書換登録がされ、その範囲において、現に有効に存続しているものである。そうすると、請求人の主張が放棄した範囲の指定商品に基づいて権利主張をしているとはいえない。
次に、(b)に係る主張についてみるに、本件商標の商標権は、その商標登録原簿によれば、前記第1のとおり、平成22年5月28日に設定登録されたものであり、その後、その指定商品及び指定役務中、第1類「化学剤,原料プラスチック」について平成28年3月18日に、第40類「化学品・原料プラスチックの合成及び加工処理」について同年6月17日に、放棄の申請がされ、それぞれ、一部抹消の登録がされているものであるところ、商標法第46条第1項の商標登録無効審判は、当該商標登録が有効か無効かが争われるものであり、本件商標の設定登録後に、本件商標の商標権において一部抹消の登録がされたとしても、商標権の放棄による効果は、遡及効ではなく抹消登録されてから将来に向けて生ずると解されるから、本件の審理に何らの影響も及ぼさない。
したがって、被請求人の上記主張は、いずれも採用することはできない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効にすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-06-24 
結審通知日 2016-06-29 
審決日 2016-07-20 
出願番号 商願2008-33155(T2008-33155) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X0140)
T 1 11・ 262- Z (X0140)
T 1 11・ 261- Z (X0140)
T 1 11・ 263- Z (X0140)
最終処分 成立  
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 堀内 仁子
酒井 福造
登録日 2010-05-28 
登録番号 商標登録第5325691号(T5325691) 
商標の称呼 オルガノサイエンス、オルガノ 
代理人 山本 健男 
代理人 安國 忠彦 
代理人 久米川 正光 
代理人 永島 孝明 
代理人 若山 俊輔 

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