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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W30
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W30
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効としない W30
管理番号 1322454 
審判番号 無効2015-890075 
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-09-29 
確定日 2016-11-28 
事件の表示 上記当事者間の登録第5755420号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5755420号商標(以下「本件商標」という。)は,「ぎゅっと宇治抹茶」の文字を標準文字で表してなり,平成26年9月24日に登録出願,第30類「京都府宇治市産の抹茶を使用したゆであずき,京都府宇治市産の抹茶を使用したシェーク状のアイスクリーム,京都府宇治市産の抹茶を使用したシェーク状のシャーベット,京都府宇治市産の抹茶を使用したシェーク状のフローズンヨーグルト,京都府宇治市産の抹茶を使用したその他のフローズンヨーグルト,京都府宇治市産の抹茶を使用したプリン,京都府宇治市産の抹茶を使用したフルーツゼリー(菓子),京都府宇治市産の抹茶を使用したカップ入りゼリー(菓子),京都府宇治市産の抹茶を使用したムース菓子,京都府宇治市産の抹茶を使用したレアチーズケーキ,京都府宇治市産の抹茶を使用したパイ,京都府宇治市産の抹茶を使用したクッキー,京都府宇治市産の抹茶を使用したその他の菓子」を指定商品として,平成27年2月19日に登録査定,同年4月3日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1 本件商標
本件商標は,平仮名の「ぎゅっと」と漢字の「宇治抹茶」からなり,いずれの語も日本語として存在することから,一般需要者において,両文字は分離して認識される。そして,「ぎゅっと」は「(副)力をこめて,締めたり握ったりするさま。」(広辞苑第6版)という意味を持つ言葉であるが,後半部分の「宇治抹茶」とは何らの観念上のつながりもないから,本件商標を看取した一般需要者は,「ぎゅっと」の前半部分と「宇治抹茶」の後半部分をそれぞれ独立して認識するものと考えられる。
2 商標法第4条第1項第16号該当性について
(1)本件商標は,後半部分の「宇治抹茶」のみが独立して認識され,「宇治抹茶」は,菓子に添加される原材料として理解されることから,一般需要者は,本件商標が付された商品には「宇治抹茶」が使用されていると認識する。
「宇治抹茶」は,「宇治茶」の一種であり「宇治茶」に包含される。「宇治茶」は,商標登録第5050328号として登録された地域団体商標(以下「引用商標」という場合がある。)であり,その指定商品は「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」である。
(2)被請求人は,「宇治茶」が慣用商標であると主張するが,「宇治茶」は「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」という特定の品質を有する茶を意味する語であり,地域団体商標として商標登録されたことからも明らかなように,慣用商標ではない。
また,特定の品質を表すことが一般の需要者に認識されているからこそ,国内の産地別ランキングで「宇治茶」が品質においてトップの評価を受けるのである(「緑茶の産地ブランドに関する研究 調査研究報告書」,甲10)。
しかるに,本件商標の指定商品は,「京都府宇治市産の抹茶を使用したゆであずき」等,「京都府宇治市産の抹茶」を使用したものとなっている。これは,「宇治抹茶」の品質とは異なる。
したがって,本件商標は,「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」であり,商標法第4条第1項第16号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)「宇治抹茶」は,「宇治茶」の一種であり「宇治茶」に包含される。
「宇治茶」は,日本茶の最も有名なブランドであり,特に抹茶については,質,量ともに日本一の座を確保している。質に関しては,例えば,平成27年8月25日から28日までの4日間,静岡県で開催された第69回全国茶品評会において,京都府からの出品茶(すなわち「宇治茶」)が「てん茶」「かぶせ茶」の両部門で農林水産大臣賞,産地賞を獲得した(甲1)(「てん茶」は「抹茶」の原料であり,茶の種類としては「抹茶」と同義語である)。量に関しては,平成27年1月に,農林水産省が公表した「茶をめぐる情勢」(甲2)に示されるとおり,京都府は,「玉露」(「宇治玉露」)及び「抹茶」(「宇治抹茶」)の生産量において全国1位となっている。
また,文化庁が平成27年から認定を開始した日本遺産(甲3)の最初の18件の中に「京都府(宇治市,城陽市,八幡市,京田辺市,木津川市,宇治田原町,和束町,南山城村)」を対象地域とした「日本茶800年の歴史散歩」が含まれているが,その「ストーリーの概要」には次のように記載されている。
「お茶が中国から日本に伝えられて以降,京都・南山城は,お茶の生産技術を向上させ,茶の湯に使用される『抹茶』,今日広く飲まれている『煎茶』,高級茶として世界的に広く知られる『玉露』を生み出した。この地域は,約800年間にわたり最高級の多種多様なお茶を作り続け,日本の特徴的文化である茶道など,我が国の喫茶文化の展開を生産,製茶面からリードし,発展をとげてきた歴史と,その発展段階毎の景観を残しつつ今に伝える独特で美しい茶畑,茶問屋,茶まつりなどの代表例が優良な状態で揃って残っている唯一の場所である。」
これは正に「宇治茶」のことを指しているのであり,「日本茶800年の歴史散歩」は「宇治茶800年の歴史散歩」に他ならない。すなわち,「宇治茶」,特に「宇治抹茶」,「宇治煎茶」及び「宇治玉露」は,日本の歴史において常に日本茶を代表する茶としての地位を保ってきた。
(2)一般に,地域名と普通名称からなる地域商標を付した商品がある場合,一般需要者にとって,その地域名はもちろんその商品の産地として認識されるはずであるが,さらに,その地域にはその商品を生産する者の団体(生産者団体)が存在し,その生産者団体がその地域における当該商品の生産・出荷等を管理し,当該地域商標が付された商品の品質を管理しているであろうと考えるのが通常である。
引用商標「宇治茶」は,登録された地域団体商標であり,商標法第25条により,商標権者である京都府茶協同祖合の許諾がない限り,使用することができない。すなわち,「宇治抹茶」を含む「宇治茶」は,飲用に供される茶はもちろん,菓子等に添加される食品原材料としての茶であっても,京都府茶協同組合の管理の下にあり,このことは,地域団体商標として登録されたことからも,一般に広く知られていることである。
(3)一般需要者は,本件商標が付された商品(菓子)には「宇治抹茶」が原材料として使用されていると認識するものであり,本件商標が付された商品の原料の出所が京都府茶協同組合であると認識する。また,少なくとも,京都府茶協同組合がその「宇治抹茶」という名称の使用について許諾を与えているものと認識する。
したがって,本件商標は,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であり,商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)平成25年12月,「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。和食においては,「酒」(清酒)とともに日本茶がその相伴飲料として欠かせないものとなっている。したがって,日本茶は,今後,日本文化を代表するものの一つとして,様々な形で世界に送り出されてゆくことが期待されている。
また政府も,「お茶に関する伝統と文化が国民の生活に深く浸透し,国民の豊かで健康的な生活の実現に重要な役割を担うとともに,茶業が地域の産業として重要な地位を占めている中で,近年,生活様式の多様化その他のお茶をめぐる諸情勢の著しい変化が生じていることに鑑み,茶業及びお茶の文化の振興を図るため」(第1条目的),「お茶の振興に関する法律」(平成23年4月22日法律第21号)を制定し,お茶(日本茶)の振興のために様々な策を講じている。
お茶が中国から日本に伝えられて以降800年にわたり,このような日本茶を育ててきた京都・南山城地域の茶生産者は,たゆまぬ努力と創意工夫により「抹茶」,「煎茶」,「玉露」を生み出し,それらを「宇治茶」としてブランド化してきた。その結果,現在では,日本にとどまらず,世界においても「宇治茶」は代表的な日本茶として知られ,世界遺産への登録を目指すほどになっている(甲4)。
(2)このように「宇治茶」,「宇治抹茶」,「宇治煎茶」及び「宇治玉露」なる名称・商標は,京都・南山城地域の800年にわたる努力の結晶であり,貴重な知的財産の一つである。
現に,菓子業界は抹茶入り菓子,特に「宇治抹茶」入り菓子は空前のブームとなっている。例えば,ネスレ日本株式会社と株式会社伊藤久右衛門によるチョコレート菓子「ネスレ キットカット ミニ 伊藤久右衛門宇治抹茶」(甲5),株式会社明治と株式会社辻利一本店によるアイスクリーム「辻利 お濃い抹茶」(甲6),株式会社不二家と株式会社丸久小山園によるケーキ「宇治抹茶のケーキ」(甲7)などは,インターネット上で大々的に宣伝され,全国に広く知られている。これらは全て,引用商標の商標権者である京都府茶協同組合の組合員の出所に係る商品である宇治茶,宇治抹茶を原材料として使用したものであり,京都府茶協同組合がその知的財産を有効に活用している例である。
このような地域の重要な知的財産について,その地域とは無関係の一私企業が,昨今の「宇治茶」,「宇治抹茶」ブームに便乗して商標登録を得,その名称を独占しようとすることは,丁度,歴史上の人物の名称について平成21年に定められた「商標審査便覧42.107.04 歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて」に記載の「『歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願』と認められるものについては,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反するものであるとして,商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。」と同様の扱いがなされるべきである。
被請求人は「本件商標『ぎゅっと宇治抹茶』について独占権を取得したからといって,他者が『宇治抹茶』という語を使用できなくなるわけではなく」と述べているが,問題はその点ではなく,「歴史的な産物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し」,「利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」という点である。このような商標の登録が許されると,他の同様の「宇治抹茶」を含む商標の登録も許されることとなり,結果的に「歴史的な産物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」となる,ということであり,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反するものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
5 結語
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第16号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第13号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第16号該当性について
(1)請求人は,本件商標中の「宇治抹茶」は,本件商標を付した商品の原材料として理解され,かつ,「宇治抹茶」は,「宇治茶」の一種であり「宇治茶」に包含されるところ,本件商標の指定商品は,「宇治抹茶」の品質とは異なるため,本件商標は,商品の品質の誤認を生じるおそれがある商標である旨主張する。
しかしながら,「宇治茶」は,広辞苑によれば,「京都府宇治地方から産出する茶」(乙1)であり,特定の品質を有する茶を意味する語ではなく,慣用商標である。これは,請求人が商標「宇治茶」(引用商標)の出願審査過程において,「本件地域団体商標登録出願に係る商標は地域の名称として『宇治』を含んでいますが,この地域名『宇治』は,本願指定商品の加工法の発祥地を表しています」と述べていること(乙2),「この製法は260年以上前に宇治地域で発祥したものであり,以後,全国各地に伝わっていることがわかる」と述べ,その証左として「宇治茶製法の伝播」を挙げていること(乙3及び乙4),「宇治茶の仕上加工法は,『宇治茶製法』とも呼ばれ,その由来は元文3年(1738年)に宇治田原(現京都府宇治田原町)湯屋谷の永谷宗円(義弘・三之丞)により湯蒸製煎茶製法が発明されたことに遡ります。その後,宇治茶製法は全国に広まりましたが,茶は日本の各家庭において日常的に飲まれる飲料であることから,各地方の嗜好に応じてそれぞれ微妙に異なる変更が加えられました」(乙2)との記載からも明らかである。
すなわち,「宇治」とは茶の加工法の発祥地を表すにすぎず,「宇治茶」は,その製法が全国各地に伝わり,各地方において微妙に異なる変更が加えられているのであるから,特定の品質を有する茶を表す名称とはいえない。
したがって,仮に「宇治抹茶」が「宇治茶」に包含されるとしても,「宇治茶」が,特定の品質を有する茶を意味しないのであるから,「宇治抹茶」も特定の品質を有する茶を意味しない。「宇治抹茶」の語は一般に使用されており,特定の出所による特定の品質を表す語ではないことからも明らかである(乙6ないし乙9)。
(2)請求人によれば,「宇治茶」とは,「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」であるところ,宇治地域に由来する製法とは永谷宗円により発明された,湯蒸製煎茶製法に由来するものと理解される(乙2の2頁13行目から)。他方,緑茶には,碾茶(抹茶),玉露,煎茶などが含まれる(乙10の6頁)が,碾茶(抹茶)と玉露・煎茶とでは,仕上げ加工工程が全く異なる(乙10の11頁・12頁)。
そうすると,宇治地域由来の製法とは,煎茶の製法のみを指すのであり,「宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」とは煎茶に限定して理解するのが相当である。
したがって,「宇治茶」には「宇治抹茶」は含まれず,「宇治抹茶」が「宇治茶」に含まれることを前提とした請求人の主張は失当である。
(3)以上から,本件商標は,「品質の誤認を生ずるおそれがある商標」とはいえず,商標法第4条第1項第16号には該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)請求人は,「宇治茶」が日本茶の有名なブランドであること,地域団体商標として登録されていることから,一般に広く知られており,本件商標が付された商品の原料の出所が請求人であるか,請求人が「宇治抹茶」という名称の使用について許諾を与えているものと認識すると主張する。
しかしながら,前記のとおり,「宇治抹茶」は特定の出所を表す名称ではないこと,「宇治抹茶」は「宇治茶」ではないことから,一般需要者が本件商標が付された商品に接したとしても,その原料の出所が請求人であるという認識,又は請求人が「宇治抹茶」という名称の使用について許諾を与えているものとの認識が生じることはない。
(2)請求人は,「宇治茶」が有名なブランドであると主張するが,請求人が引用商標の出願審査過程において,「前記京都府茶業会議所が定めた『宇治茶』の定義を報道する平成16年4月24日付京都新聞記事である」の説明とともに提出した証拠(乙11)によれば,「宇治茶」の自主基準が設定されてから,たかだか11年であり,自主基準が設定されたときの認識も,「宇治茶は,山城地方産の茶,宇治周辺の茶工場や問屋を経由した茶などと解釈されて」いたのである。請求人は,各種の賞の受賞歴,生産量,生産の歴史等を根拠に「宇治茶」は有名ブランドであることを主張するが,自主基準を設定して以降,請求人が「宇治茶」の基準とともに「宇治茶」ブランドを普及している証左はない。請求人のホームページにおいて,「宇治茶」というキーワードで検索しても,乙第12号証に示される画面が表示されるのみであって,「宇治茶」の基準を普及しようとしていることはうかがえない。かろうじて,「宇治茶大好き」という冊子(乙10)2頁において,宇治茶ブランドの説明があるが,これも宇治茶の生産地の説明にとどまり,宇治茶ブランドを十分説明するものではない。
したがって,仮に「宇治茶」が有名であるとしても,特定の出所にかかる特定の品質を有する茶として有名なのではなく,生産地として有名であるにすぎない。
そもそも,請求人は,「緑茶の共同取引き,共同冷蔵保管,共同加工及び消費宣伝等の実施を通じて組合員の営業活動を推進し,もって京都府茶業の復興に寄与すること」を目的とする組合であるから(乙13),原料として茶を供給しているとの認識が生じる余地がない。また,請求人が保有している商標は「宇治茶」であり,後記のように,本件商標とは非類似であるから,請求人が商標を許諾しているとの認識も生じない。
(3)引用商標と本件商標との類否を比較する。
まず,称呼を比較すると,引用商標は「ウジチャ」と発音されるのに対し,本件商標は「ギュットウジマッチャ」と発音され,称呼において非類似である。
また,引用商標は漢字3文字からなるのに対し,本件商標は平仮名4文字及び漢字4文字からなり,外観において類似しない。
さらに,引用商標からは,「京都府・奈良県・滋賀県・三重県の4府県産茶を京都府内業者が京都府内において宇治地域に由来する製法により仕上加工した緑茶」という観念が生じるのに対し,本件商標は,「ぎゅっと」の部分が「力をこめて,締めたり握ったりするさま」を表すオノマトペであり,「宇治抹茶」の部分が「京都府宇治市産の抹茶」を意味する語であるから,これらを結合した場合は,特定の観念を生じない一種の造語であるといえる。
したがって,観念においても引用商標と本件商標とは類似しない。よって,引用商標と本件商標とは非類似の商標であり,互いに他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標とはいえない。
(4)以上から,本件商標は,「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」とはいえず,商標法第4条第1項第15号には該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)請求人は,「宇治茶」,「宇治抹茶」,「宇治煎茶」,「宇治玉露」なる名称・商標は,京都・南山城地域の800年にわたる努力の結晶であり,貴重な知的財産の一つであり,本件商標の使用は,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反すると主張する。
しかしながら,請求人が述べる「ネスレ キットカット ミニ 伊藤久右衛門宇治抹茶」,「辻利 お濃い抹茶」,「宇治抹茶のケーキ」の事例は,いずれも「宇治抹茶」又は「抹茶」の記載とともに,「伊藤久右衛門」,「辻利」,「丸久小山園」といった抹茶の出所が併記されており,「宇治抹茶」の記載よりも,その「宇治抹茶」の製造販売業者名が特別顕著性を有することをうかがわせるものであり,「宇治抹茶」の語に請求人が主張するような貴重な知的財産性を看取できない。
また,前記1のとおり,「宇治抹茶」は,特定の出所を表してはいないことを併せて考えれば,本件商標について独占権を取得したからといって,他者が「宇治抹茶」という語を使用できなくなるわけではなく,公正な競業秩序を害し,社会公共の利益に反するとは到底いえない。
(2)請求人は,歴史上の人物の名称と同様の扱いがなされるべきであると主張するが,歴史上の人物の名称に独占権が設定された場合には,その人物名が使用できないことによって公共政策の遂行が阻害され,公共的利益が損なわれる可能性があるのに対し,本件商標に独占権が設定されたからといって,「宇治茶」や「宇治抹茶」の語の使用が排除されるわけではない。
してみれば,本件商標の使用が公共的利益を損なう結果になることはなく,「公共的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした」とする主観的要件も満たさない。よって,請求人の主張は失当である。
(3)したがって,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」とはいえず,商標法第4条第1項第7号には該当しない。
4 むすび
上記事実にかんがみ,本件商標がその指定商品において登録が無効となるものでない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第16号該当性について
(1)商標法第4条第1項第16号は,商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標については,公益に反するとの趣旨から,商標登録を受けることができない旨規定されているところ,「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すもの」と解され,実際に商標を使用した商品がどのような品質を有しているかは,商標法第4条第1項第16号該当性の有無に影響を及ぼすものではないと解されている(知財高裁平成20年(行ケ)第10086号 同年11月27日判決参照)。
(2)本件商標は,前記第1のとおり,「ぎゅっと宇治抹茶」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成中の「ぎゅっと」の文字部分は,「力をこめて,締めたり握ったりするさま。」を意味する語であり,また,「宇治」の文字部分は,「京都府南部の市。宇治川の谷口に位置し,茶の名産地。」を意味する語であり,「抹茶」の文字部分は,「茶の新芽を採り,蒸した後,そのまま乾燥してできた葉茶を臼で碾ひいて粉末にしたもの。」を意味する語(いずれも,広辞苑第6版)として,一般に親しまれているものである。
そうすると,本件商標の構成中の「宇治抹茶」の文字部分は,その指定商品の主たる一般消費者に,「京都府宇治市産の抹茶」程の意味を表したと認識されるものである。
また,飲食料品業界では,「宇治抹茶」が原材料として使用された抹茶入り菓子や抹茶入り飲料が流通している実情(乙6ないし9)に照らせば,本件商標に接する需要者は,「宇治抹茶」の文字部分を商品の原材料を表したと容易に理解するものといえる。
そして,本件商標の指定商品は,前記第1のとおり,いずれも「京都府宇治市産の抹茶を使用した商品」に限定されているものであるから,本件商標は,これを,その指定商品について使用しても,同商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なることはなく,同商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,「ぎゅっと宇治抹茶」の文字を標準文字で表してなるところ,全体として特定の意味合いを有しない一種の造語として把握されるものであって,特定の観念は生じないというのが相当である。
そして,本件商標の構成中の「宇治抹茶」の文字部分は,前記1のとおり,本件指定商品との関係では,商品の原材料を表示するにすぎず,「京都府宇治市産の抹茶」程の意味を表したものと認識されるものであるから,その構成文字全体から生じる「ギュットウジマッチャ」の称呼のほか,独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす「ぎゅっと」の文字部分から,単に「ギュット」の称呼及び「力をこめて,締めたり握ったりするさま。」の観念をも生じるものである。
(2)引用商標
引用商標の「宇治茶」は,「京都府宇治地方から産出する茶。室町時代から茶道で賞美。」(広辞苑第6版)を意味し,また,「緑茶の産地ブランドに関する研究 調査研究報告書」(甲10)において,「静岡」,「京都(宇治)」,「鹿児島」,「福岡(八女)」,「埼玉(狭山)」の5つの茶の産地の中で,「京都(宇治)」が地域ブランドイメージがもっとも高い産地であり,高級・高価なイメージで支持を受けていることが報告されていることなどから,「宇治茶」は,京都府宇治地方で生産される茶を示す語として古くから知られているものといえる。
そうすると,引用商標は,「ウジチャ」の称呼を生じ,「京都府宇治地方から産出する茶」の観念を生じるものである。
また,「宇治茶」は,請求人が構成員に使用させる商標として,地域団体商標登録(登録第5050328号)されているものであるから,その商標権者である請求人又はその構成員の業務に係る商品を表示する商標として,少なくとも,その産地・加工地である京都府及びその隣接府県に及ぶ程度の需要者の間に広く認識されていたものといえる。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標は,「ぎゅっと宇治抹茶」の文字を標準文字で表してなり,引用商標は,「宇治茶」の文字を表してなるものであるから,その構成文字の差異により,外観上互いに紛れるおそれはないものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「ギュットウジマッチャ」又は「ギュット」の称呼と引用商標から生じる「ウジチャ」の称呼とは,構成音及び構成音数に明らかな差異を有するものであるから,全体の語感,語調が相違し,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念においては,本件商標の「ぎゅっと宇治抹茶」からは,特定の観念は生じないものであり,自他商品の識別機能を有する「ぎゅっと」の文字部分より「力をこめて,締めたり握ったりするさま。」の観念を生じるものであるのに対し,引用商標は,「京都府宇治地方から産出する茶」の観念が生じるものであるから,観念において,両者は明確に相違し,相紛れるおそれがないものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点についても,相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
(4)出所の混同
上記(2)のとおり,「宇治茶」の文字よりなる引用商標が,商標権者である請求人又はその構成員の業務に係る商品を表示する商標として,京都府及びその隣接府県で知られているとしても,上記(3)のとおり,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であって,別異のものである。
そして,本件商標の構成中の「宇治抹茶」の文字部分は,その商品の原材料として認識されるものである。
そうすると,本件商標は,これをその指定商品について使用しても,これに接する取引者,需要者が,引用商標「宇治茶」を想起又は連想し,該商品が請求人又は同人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認し,商品の出所について混同を生じさせるおそれはないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第7号該当性について
請求人は,「地域の重要な知的財産について,その地域とは無関係の一私企業が商標登録を得ることは,『歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し,その遂行を阻害し,公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら,利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願』と認められるものについては,公正な競業秩序を害するものであって,社会公共の利益に反するものであるとして,商標法第4条第1項第7号に該当するものとする。と同様の扱いがなされるべきである」旨主張している。
しかしながら,上記2(4)のとおり,本件商標中の「宇治抹茶」の文字は,指定商品の原材料を表示していると認識されるものであり,他方,「宇治抹茶」を使用した公益的な施策等が行われている事実は見あたらず,請求人は,「宇治抹茶」の文字を有する本件商標をその指定商品について使用することが,公正な競業秩序を害し,公序良俗に反するものとすべき証左を提出していない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第16号に違反してされたものではないから,同法第46条第1項により,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-09-26 
結審通知日 2016-09-29 
審決日 2016-10-18 
出願番号 商願2014-80401(T2014-80401) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W30)
T 1 11・ 271- Y (W30)
T 1 11・ 272- Y (W30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 守屋 友宏 
特許庁審判長 青木 博文
特許庁審判官 田中 亨子
平澤 芳行
登録日 2015-04-03 
登録番号 商標登録第5755420号(T5755420) 
商標の称呼 ギュットウジマッチャ、ギュット、ウジマッチャ、ウジチャ 
代理人 特許業務法人京都国際特許事務所 

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