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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W44
管理番号 1322391 
審判番号 無効2016-890007 
総通号数 205 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-03 
確定日 2016-11-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第5728022号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5728022号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5728022号商標(以下「本件商標」という。)は,「養命灸」の文字を標準文字により表してなり,平成26年8月27日に登録出願,第44類「きゅう,きゅうに関する情報の提供,きゅうに関する指導及び助言,健康管理に関する指導及び助言,健康相談,美容及びこれに関する情報の提供」を指定役務として,同年12月2日に登録査定,同年12月19日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第10号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標「養命灸」は,請求人がその商号として,また社標(商標)としてすでに永年にわたり使用を継続してきた結果,我が国における有名商標の一つとして公に認知されている「養命酒」(以下「引用商標」という。甲2)と類似しており,かつ極めて紛らわしい商標である。
しかも,引用商標は,請求人の薬用酒と同様に漢方に由来するお灸治療として通常行われている役務について使用されるのであるから,なおさら相互に出所の混同を生ずるおそれがあり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものである。
(1)本件商標の構成及び指定役務について
ア 本件商標は,漢字3文字による「養命灸」を横書きにしてなる文字商標であるが,その末尾の「灸」の語は,そもそも漢方に由来するものとして我が国でもすでに日常化しており,「お灸」または「やいと」ともいわれて,通常は神経痛,風邪又は骨折や筋肉痛などの症状を緩和させるために施される漢方に基づいた治療の普通名称として広く知られている(甲4の1,2)。
イ 本件商標の指定役務について,その内訳をみると,前記した漢方のお灸によって一般的に行われる健康の保持,治療,美容などのために施されている治療並びにこれに付随する相談サービスが具体的に列挙されている。
本件商標の指定役務は漢方に由来するものであることが明白であり,しかも商標中の「灸」の語の存在は,本件商標の基幹部分である「養命」を越えて自他商品・役務の出所や品質(Quality)を特定または識別するためには何等機能していないことも明白である。
よって,本件商標に接する一般の需要者,取引者にとってみれば,その基幹部分が「養命」であると認識するのが自然である。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 本件商標「養命灸」の構成が「養命」+「灸」であるところ,この構成はすでに永年にわたり使用されてきた請求人の周知・著名な商標「養命酒」,つまり「養命」+「酒」の構成と全く共通している。
これに加えて,本件商標もまた引用商標と共に漢方に由来して人々の健康保持に資する商品又は役務に関して使用されるのであるから,本件商標は既に先行する請求人の周知・著名な商標「養命酒」と極めて紛らわしく,かつ混同を生ずるおそれが強く懸念されるところである(甲3の1,2,甲5及び甲6)。
さらに,本件商標「養命灸」に接する需要者,取引者は必然的にその基幹部分(要部)を「養命」の部分にあると認識し,これを記憶すると考えるのが自然である。
いうまでもなく,「灸」の部分を単に指定役務を説明するにすぎない記述的な部分として認識するであろうことはむしろ当然である。
イ 過去の審査例において,「養命」を含む第三者の商標が請求人の周知・著名な商標「養命酒」又は「養命」の存在により拒絶されている事例は多数存在する。
一方,雑誌やインターネット上で「養命」の語を含む商標の第三者による使用を発見した場合には,それら第三者に対して直接警告状を送り,今後の使用を即刻中止すること,及び事後請求人の周知・著名な商標「養命酒」「養命」を尊重する旨約束する書面を取り,当事者間における合理的かつ円満な判断に基づく解決を行っているケースも多数あり,請求人としては,自社商標「養命酒」の基幹部分である「養命」の語の第三者による安易な模倣や無断使用,更には出願,登録などによって生ずる請求人商標の希釈化を防ぐため,あらゆる努力を続けているところである。
なお,通常の場合は,多くの模倣者が請求人の商標「養命酒」の著名性を認識しており,素直に自らの非を認め事件も円満に解決することができている。
「養命あか袋」(有限会社あか袋総本店)
「養命卵」(農事組合法人 香川ランチ)
「養命卵」(八田利春)
「九州山麓養命茶」「養命塩」(株式会社樽味屋)
「養命の種」(株式会社ヘルスライフ)
「紅麹養命酢」(株式会社アベックス)(崎山酒造廠)
「鈴虫の養命水」(株式会社マルカン)
「養命発酵液」(旭製薬株式会社)
「養命茶」(芝電産業株式会社)
「養命健康茶」(有限会社カキモトコーポレーション)
上記の事案は,請求人商標「養命酒」「養命」が著名性を有し,歴史的にもユニークな造語として消費者の間で広く知られていることを示す証左と考えるものである。
ウ 上記事例の中で,昨年知財高裁の判決を得て解決を見た第三者名義の商標登録「養命茶」及び「養命青汁」についての認定,判断がこれまでのような他人による安易な模倣商標の使用に対する法的な解釈の指針になる。
この認定,判断の意味するところによれば,本件商標「養命灸」についてもそのまま妥当する判断であると考えるべきであり,「養命灸」もまた「養命茶」,「養命青汁」と同様にその基幹部分は共に「養命」(ヨウメイ)であると考えることができるので,本件商標「養命灸」もまた請求人の周知著名な商標「養命酒」と混同のおそれがあると判断されるべきであり,その指定役務もすべて前記したとおり漢方に由来するものであるから,一般需要者,取引者にとってみればなおさら請求人の「養命酒」と何等かの関係があるものと誤認されるおそれがあり,また本件商標の登録名義人は,請求人と何等かの密接な関係をもつグループ企業の一つであろうとも誤認されるおそれが濃厚である。
(3)請求人の商標「養命酒」,「養命」の著名性について
ア 商標「養命酒」,「養命」の採択及び使用について
「養命酒」,「養命」は,1602年(慶長7年)に請求人会社の創始者である塩沢宗閑が創造し,採択した商標であり,以来400年以上も使用され続けている我が国でも(また世界的にも)希少な商標の一つである。
そもそも,慶長年間のある大雪の晩,信州伊那の谷大草(現在の長野県上伊那郡中川村)の塩沢家当主で宗閑という人が,山の中で行き倒れていた旅の老人を助けたことが「養命酒」の起源である。
老人はその三年後に塩沢家を去るに際して,その恩に報いるために薬酒の製法を伝授したということであり,宗閑はその後「世の人々の健康のために尽そう」と手飼いの牛に跨って赤石山脈の奥深く分け入り,薬草を採取して薬酒を造りはじめ,慶長7年(1602年)にこれを「養命酒」と名付けた。
薬酒「養命酒」は薬効がすぐれているということで,伊那谷のみならず遠くの村でも知られるようになった。江戸幕府が開かれた時には徳川家康公に献上され,その後幕府の二代目将軍徳川秀忠公により「天下御免万病養命酒」として免許され,同時にその象徴として「飛龍」の紋章を授かり,これを使用することを許された。
なお,この由緒ある「飛龍」の紋章と「養命酒/YOUMEISHU」は共に特許庁編集にかかる「日本有名商標集(FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN)」の初版本から我が国における有名商標として掲載されている(甲3の1,2)。
イ 「養命酒」は,以下に紹介するような我が国の各種歴史的場面でも愛用されてきた。
例えば,忠臣蔵で名高い赤穂四十七士のひとりであった矢田五郎衛門の祖母が信州伊那の生まれであるところから,浪士達が江戸に潜伏中,「養命酒」を取り寄せ,一同が飲んで鋭気を養ったことが「信濃風土記」などの古書に記されている。
さらに,安永三年(今から約200年前)に刊行された小説「異国奇談和荘兵衛」や天明5年に作られた長唄「春昔由縁英」にも「養命酒」が取り上げられており,「養命酒」の名が古くから広く知られていたことが判る。
明治天皇が北陸ご巡幸の際には,天皇が松本市ご訪問のとき,塩沢家が造り続けてきた「養命酒」が推薦され,要請を受けて天覧に供される栄誉を受けた。
大正12年には塩沢家の家業である「養命酒」の製造,販売業務を会社組織に改めて継承され,全国に販路をひろげて行った。昭和5年頃から新聞,雑誌で広告活動を行うようになり,昭和27年(1952年)からは,はじめてのラジオによる広告を行う等して宣伝広告に努めた結果,商標「養命酒」の知名度は全国的な広がりと高まりを見せることとなり,同時に品質の良さが認められて,「養命酒」の売上は飛躍的に伸び,さらに昭和30年(1955年)には東京証券取引所に株式を上場するまでになった。
昭和31年(1956年)にはその出荷高が創業以来最高の2719Klを記録するに至っている。
「養命酒」が著名な商標として多くの人々に知られることになったテレビコマーシャルが昭和39年(1964年)に開始されたが,当時の提供番組はゴールデンタイムの高い視聴率を獲得している番組が多かったため視聴者も多く,請求人商標「養命酒」のテレビコマーシャルは全国民が知るところとなった。また,知名度のあるタレントをコマーシャルに起用することによって商品のイメージアップをも図ってきたことも事実である。
さらに,近年において,雑誌,新聞記事,一般著書に取り上げられた事例の一部として次のものを挙げることができる。
・帝国データバンク資料館・産業調査部著「100年続く企業」(230頁:老舗の創業年表,今も数多くの企業が歴史を刻む)では,請求人の社歴の長さについて,
・日本地域会社研究所著「日本の郷土産業」(187頁:独自の飲料,養命酒)では,商品「養命酒」の独自性について,
・「週刊ダイヤモンド」(59頁:400年の重み養命酒のツボは“濃さ”にあり)では,請求人の商品「養命酒」が400年もの間売れ続けていることについて
などが紹介されている。
・柳下要司郎著による「老舗の教科書」“養命酒は何故400年売れ続けるのか”は,タイトルからもわかるように超長寿企業「養命酒」の秘密や長生きするビジネスモデルの作り方などを内容としたものであり,これが一冊の書籍として出版,発行されている(甲6)。
・養命酒400年記念誌(1602-2002)(106?111頁)では,養命酒が登場しましたとして,単行本,文庫本及び雑誌その他に分けて,小説,評論,娯楽記事等の中に「養命酒」が引用され,または登場していることを紹介している。ただし,この400年記念誌は一般に販売はされていないが,その中で個々に挙げられている単行本,文庫本等は勿論一般に販売されたものである(甲8の1,2)。
ウ 次に挙げるものは,学者によりまとめられた陳述書の写しである。
以前,マレーシアにおいて商標「養命酒」を盗用登録し,又は模倣使用した者に対して提起した訴訟事件の過程で提出した陳述書の原文である。
・東京教育大学名誉教授で文学博士鎌田正氏の「商標『養命酒』の独自性」と題する陳述書(甲9の1)
・京都教育大学教授青木五郎氏による「商標『養命酒』の独自性について」の陳述書(甲9の2)
・中国社会科学院哲学研究所教授膝穎氏の「商標『養命酒』に関する言語学的見解」の陳述書(甲9の3)
これらからも明らかなように,「養命酒」の語は,今からおよそ400余年前に請求人会社の創始者であった塩沢宗閑が,人々の虚弱な体を本来の健康な状態に導くことを目的とする薬用酒に関して自ら創造し,使用しはじめた商標であり,現在もなお一貫して使用され続けている請求人の永々と築きあげてきた信用(Goodwill)そのものであるということができる。
エ 請求人が調査会社に依嘱して行ったアンケート(日本全国を対象に消費者1083名から回答を得た)の結果によれば次のとおりであった(甲10の1,2)。
問1.あなたが「養命」を聞いてどのメーカーを最初に思い浮かべますか。最初に思い浮かぶメーカー名を一つだけお答えください。
この問いに対して,回答者の73.2%が「養命酒製造/養命酒」と回答している。その内訳は以下のとおりとなる。
養命酒 621人
養命酒製造 72人
養命酒製造株式会社 27人
薬用養命酒 19人
養命酒造 4人
養命酒株式会社 3人
問2.あなたが「養命」と聞いて何の商品を最初に思い浮かべますか。最初に思い浮かぶ商品名を一つだけお答えください。
この問いに対して,回答者の82%以上が「養命酒」と回答している。その内訳は以下のとおりとなる。
養命酒 822人
薬用養命酒 56人
ようめいしゅ 7人
このアンケート結果からも,消費者は「養命酒」の中で「養命」の部分から強い印象を受けており,「養命」と聞けば「養命酒」を思い出すことを明確に示している。
そして,本件商標「養命灸」を見聞きする需要者は,その構成中「養命」の部分から請求人の会社を思い浮かべ,本件商標を付した商品が請求人会社と何等かの関係があるものと誤認するであろう可能性が極めて高いことを示していると考えなければならない。
オ このように特異な造語である「養命」は,400年の永きにわたって商標「養命酒」として使用され,明治以来の頻繁なマスメディアによる広告を通じて一般に知られる著名な商標となったために,そのイメージにあやからんとすべく特に日常生活の分野における商品や役務について同一,擬似の語が商標として第三者に盗用,模倣される事態がたびたび発生している。
本件商標「養命灸」は,請求人の永年にわたる信用が化体されて広く認知されている商標「養命酒」の基幹部分,つまり「養命」の語を安易に自己の商標の基幹部分として使用するものであるから,結果として明らかに請求人の業務上の信用に便乗しようとするものであるといわざるを得ない。
したがって,本件商標「養命灸」を漢方に由来する指定役務に使用すれば,これに接する需要者は,その役務が「養命酒」として有名な請求人会社と何等かの関連を持っているものと誤認するおそれが大である。
このような請求人の地道な努力の結果,特許庁においても認められて,商標「養命酒」は,登録第836699号防護第1号?第7号及び登録第800892号防護第1号?第2号として防護標章としても登録されている。
(4)請求人の商標「養命酒」「養命」は,著名商標としてほぼ適切に保護されてきており,昨年初めてのケースとして知財高裁で審理を受ける機会を得,その認定,判断を受けたので,審判においても本件の適切な判断を希望する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第32号証を提出した。
1 請求人の主張の不当性
(1)請求人は,審判請求書において,「請求人商標『養命酒』『養命』が著名性を有し,歴史的にもユニークな造語として消費者の間で広く知られている」(4頁),「『養命酒』,『養命』は,1602年(慶長7年)に請求人会社の創始者である塩沢宗閑が創造し」(5頁),「このように特異な造語である『養命』は」(9頁),「請求人の商標『養命酒』『養命』は,前記したように著名商標としてほぼ適切に保護されてきており」(9頁)と記載している。
(2)被請求人は,「養命酒」という商標が著名商標であることについては争わない。
しかし,「養命」が著名商標であり,請求人の創始者によるユニークな造語であるとの主張に対しては争う。
請求人は,自己の主張を証明するため,甲第2号証,甲第3号証の1,甲第3号証の2,甲第5号証,甲第6号証,甲第8号証の1,及び甲第8号証の2を提示しているが,これら各号証に含まれる極めて多数の文献のいずれにも「養命」という商標は記載されていない。したがって,請求人の主張を裏付けるものは存在せず,請求人の主張は失当である。
(3)そもそも「養命」なる語は,後漢代に編纂されたと推定される中国最古の薬物学(本草学)の書物である「神農本草経」に出てくる熟語である(乙1,乙2)。
「神農本草経」では,365種の漢方薬(動・植・鉱物薬)を上薬・中薬・下薬の3ランクに分類し,この区分に関して,
「上薬は120種ある。君主の役目をする。養命薬,つまり生命を養う目的の薬で,毒性がない。だから長期服用してもよいし,そうすべきでもある。身体を軽くし,元気を益し,不老長寿の作用がある」
「中薬には120種がある。臣下の役目をする。養性薬,つまり体力を養う目的の薬で,使い方次第で無毒にも有毒にもなる。だから服用にあたっては注意が必要。病気を予防し,虚弱な身体を強壮にする作用がある」
「下薬には125種ある。佐使すなわち召使の役目をする。治療薬,つまり文字どおり病気の治療薬である。これは有毒であるから,長期間服用してはいけない。寒熱の邪気を除き,胸腹部にできたしこりを破壊し,病気を治す」
と規定している。
このように,「養命」という語は,「神農本草経」において「上薬」の効果を表す語として用いられている。
(4)この「養命」という語は,決して死語ではなく,インターネット全盛の現代においても,東洋医学に対する理解を深めたり,漢方薬や各種食品の特色を宣伝したりするためにWebサイトで広く使われている。
・薬学用語解説,公益社団法人日本薬学会「神農本草経」(乙3)
・ウィキペディア「神農本草経」(乙4)
・薬膳情報ネット 神農本草経は,(乙5)
・みつばちの詩工房 蜂ノ子(乙6)
・北海道斜里町産エゾウコギ(乙7)
・霊芝とは?霊芝 免疫力 信頼の霊芝(乙8)
・若美エリクサー NAGAIpro(乙9)
・田辺三菱製薬のヘルスケア製品サイト 不老長寿(乙10)
・漢方薬で健康スローライフ入門 上薬とは(乙11)
・常盤メディカルサービス 中常正(乙12)
・育毛ランキング 育毛の上薬,中薬,下薬(乙13)
・漢方専門薬局桂林 漢方通信 漢方へのこだわり(乙14)
・すこやか便り 漢方コラム(乙15)
・漢方高貴薬「牛黄」と「人参」(乙16)
・はとむぎ館 はとむぎの歴史(乙17)
・加美漢方薬局 牛黄(ごおう)(乙18)
(5)治療や健康維持に携わる施設等が「養命」の語を含む名称を使用している例も多々存在する。
・養命堂鍼灸整骨院(乙19)
・養命堂中国気功整体院(乙20)
・養命閣医院(乙21)
・漢方の養命庵 中野薬局(乙22)
・養命堂 漢方専門薬局 鍼灸治療院(乙23)
・株式会社養命(乙24)
・龍気養命堂(乙25)
・医療法人養命会 佐藤医院(乙26)
・整骨院養命門(乙27)
・養命製薬株式会社(乙28)
・銀座健康養命サロン 日月潭(乙29)
(6)請求人が提示した甲第3号証の2には「養命酒という名称については,漢方の著名な古典である『神農本草経』に『薬草は上薬・中薬・下薬の三段階に分けられる,上薬は君である,命を養うことを目的とする,長く用いてもさしつかえない,身体をじょうぶにし精神を安定させ,長生きを欲するものは,この上薬を用いよ』とあり,養命酒に合醸されている薬草がこの上薬を基礎としているところから,養命酒と名づけられたものであろうといわれている。」と記載されている。
また,甲第9号証の2の25には「中国に始まる本草学が,日本にも早くから伝来していたことは事実で,南朝梁の陶弘景(452?536)の『神農本草経集注』や唐の蘇敬の奉敕撰『新修本草』(659)をはじめとして,多くの本草書が渡来している。薬酒を創製するぐらいだから,宗閑もあるいはそうした本草書を読み,『神農本草経』の“上薬は…,命を養う云々”という言葉があるいは頭にあったかも知れない。
しかし,そこに用いられている『養命』の語は,当時は全くの死語となっていたものであり,況んや酒とは何の関係もない語である。しからば,かりに宗閑が『神農本草経』の『養命』の語を用いたとしても,死語となっていた『養命』の語と『酒』とを組み合わせて案出した『養命酒』の語は,まさしく宗閑の独創になるものであり,日本においても,中国においても前代未聞の固有名詞であることに違いはないのである。」と記載されている。
したがって,「養命」が請求人の創始者によるユニークな造語であるとの主張は,請求人が提出した甲第3号証の2,甲第9号証の2の記載内容と相違しており失当である。
(7)請求人は,「『養命』の語が日本並びに中国の辞書,特に一応権威ある辞書とされているものの中には掲載されていない」(9頁)と主張している。
しかし,町の小さな図書館である入新井図書館(大田区大森北1-10-14 大森複合施設ビル“Luz大森”内)においても,その開架書架に,「養命」の見出し語が掲載された次の辞書が並んでいる。
・「大漢和辞典巻十二」(平成8年1月10日 株式会社大修館書店発行 諸橋轍次著)(乙30)
・「字通」(1996年10月14日 株式会社平凡社発行 白川静著)(乙31)
したがって,請求人の前記主張は誤りである。
(8)請求人は,調査会社に依嘱して行ったアンケートの結果に基づいて,「養命」と聞けば「養命酒」や請求人の会社を思い浮かべる,と主張している。
しかし,そのアンケート調査がどのように実施されたのか,回答者はどのように選択されたか,質問票はどんなものであったか,などの具体的な内容が示されていないため,アンケート結果の客観性が疑われる。
請求人により提示された甲第10号証の1(ブランド健康診断)及び甲第10号証の2(ご自身に関するアンケート)を見る限りでは,「ブランド健康診断」の回答者を選択するために「ご自身に関するアンケート」が行われ,「ご自身に関するアンケート」の回答者1083人の中から83人を除いた1000人が「ブランド健康診断」のインターネット調査に参加したと推察される。
統計的な処理を重視するインターネット調査では,調査対象者が予め設定された回答項目の中から回答を選択する“クローズド・エンド・クエスチョン”と呼ばれる質問形式が多く用いられることが知られている。
「ご自身に関するアンケート」がクローズド・エンド・クエスチョンにより行われ,「問1.あなたが『養命』ときいて,どのメーカーを最初に思い浮かべますか。最初に思い浮かぶメーカー名を一つだけお答えください」及び「問2.あなたが『養命』ときいて,何の商品を最初に思い浮かべますか。最初に思い浮かぶ商品名を一つだけお答えください」の回答項目に養命酒や養命酒製造株式会社を連想させるものがあったとすれば,回答を誘導するものであり,調査結果は信頼できない。
また,「ブランド健康診断」の回答者に対し,事前に「ご自身に関するアンケート」の問1や問2の質問を発していたとしたら,養命酒や養命酒製造株式会社への回答を誘導するものであり,「ブランド健康診断」の結果も信頼できない。
(9)請求人は,「請求の理由」において,「養命」を含む商標が拒絶された過去の審査例を挙げている。
そこに挙げられている商標の指定商品は,いずれも口から身体に取り入れる商品であり,口から身体に取り入れる点で養命酒と類似している。
しかし,経口摂取しないものを指定商品とする商標は,それが「養命」の文字を含んでいても登録されている。
本件商標は,第44類きゅう施術等を指定役務としており,経口摂取する養命酒とは全く類似する点がない。
したがって,過去の審査例から見ても本件商標を無効にする理由は存在しない。
(10)請求人は,商標「養命茶」と請求人の商品である薬用酒「養命酒」との「混同のおそれ」について争われた平成27年(行ケ)10073号,及び,商標「養命青汁」と薬用酒「養命酒」との「混同のおそれ」について争われた平成27年(行ケ)10074号の判決の一部分を採り上げて自己に都合よく解釈している。
この判決では,「養命茶」の指定商品と,「養命酒」の商標を付して製造販売されている薬用酒とは,健康志向の飲料という点で共通すること,これらの商品は薬局やドラッグストアにおいて取り扱われる商品であること,等を挙げて,これらの商品は密接な関係を有しており,取引者・需要者は共通しており,商標「養命茶」をその指定商品に使用した場合,これに接した取引者・需要者は,商品の出所を誤認する,と認定している。
しかし,本件商標はきゅう施術等を指定役務としており,薬局やドラッグストアにおいて取り扱われる商品ではなく,請求人の業務に係る商品との共通性は存在しない。
また,本件商標の指定役務が関係する東洋医学分野では,乙第1号証?乙第29号証に示すように,「養命」という文字部分が出所識別標識として支配的な印象を与える,という事情もない。
そのため,本件商標をきゅう施術等の指定役務に使用しても,請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれは存在しない。
(11)なお,平成27年(行ケ)10073号判決は「平成24年8月に被告が実施した調査によれば,被告商品に対する一般需要者の認知率は95.5%であり,その著名性の程度は極めて高いものであったと認められる」として,甲第10号証の1のアンケート調査結果を鵜呑みにして議論を進めている。
しかし,このアンケート調査結果に客観性があるとはいえない。
2 むすび
以上のとおり,請求人の主張はことごとく失当であり,この無効審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 引用商標の著名性について
(1)請求人の提出に係る甲各号証によれば以下のことが認められる。
ア 甲第5号証は,「百年続く企業の条件」の表題の書籍の写しである。これには,「老舗の創業年表-いまも数多くの企業が歴史を刻む」の見出しのもと,企業名として「養命酒製造」,業種として「蒸留酒・混成酒製造」の記載,及び「1602/慶長7年」の記載がある。
イ 甲第6号証は,「老舗の教科書」を表題とする書籍の写しである。これは,その表紙に,「養命酒はなぜ四〇〇年売れ続けるのか」の記載があり,また,その目次に,「1章 企業・養命酒の『力』はどこにあるか」,その項目に,「『養命酒』という会社を採りあげる根拠」等の見出しがある商品の「養命酒」を題材としたビジネスモデルについての書籍である。
ウ 甲第8号証の1は,「養命酒 400年記念誌」(1602-2002)を表題とする書籍の写しである。
これには,「養命酒が登場しました」の見出しのもと,「創製以来,長い歴史の中で着実に人々の生活に根を下ろしてきた養命酒。多くの人に親しまれ,愛されてきた養命酒の歴史はいろいろな本の中にも垣間見ることができます。小説の中に,評論の中に,そして雑誌の中に。1枚ずつのページの上に,養命酒やそれを取り巻く社会の様子が鮮明に描かれています。どんな本にどのように紹介されてきたのか。ほんの一部だけですが,紙上に描かれた養命酒の歴史をひもといてみましょう。」の記載とともに,書籍や雑誌等が「養命酒登場ページ/養命酒とのつながり」をもって紹介されている。
また,甲第8号証の2においては,「養命酒掲載本」として,各種書籍の表紙とその内容中に「養命酒」が記載されているページ等の写しが添付されている。
エ 甲第10号証の1は,「ブランド健康診断」を表題とする「【CPP自主調査】結果報告書」(2012.8)である。
これには,全国1,083人によるアンケートにおいて,「薬用養命酒」の認知率が,「よく知っている」「ある程度知っている」「名前は知っている」を併せて,95.5%の結果が出ている。
(2)以上の証拠及び請求人の主張によれば,慶長7年(1602年)から創始者である塩沢宗閑が,薬草を原料として薬酒の製造を開始し,これを「養命酒」と名付けたといえるところ,それ以降,請求人は,大正12年には塩沢家の家業である「養命酒」の製造,販売業務を会社組織に改めて継承し,全国に販路を広げて行った。また,新聞,雑誌で広告活動,ラジオによる広告を行う等して宣伝広告に努めた結果,商標「養命酒」の知名度は全国的な広がりと高まりを見せることとなり,同時に品質の良さが認められて,「養命酒」の売上は飛躍的に伸びた。
さらに,昭和39年(1964年)に開始されたテレビコマーシャルによって,「養命酒」は多くの人々に知られることになった。
そして,各種雑誌,著書等にも多数採りあげられ,その結果,高い知名度を獲得し,2012年8月の請求人が実施した全国1,083人によるアンケートにおいて,「薬用養命酒」の認知率が95.5%であり,その著名性の程度は,極めて高いものであったと認められる。
したがって,引用商標は,本件商標の登録出願時以前から,請求人の商品に使用されて,取引者,需要者の間において著名なものとなっていたことが認められる。
なお,被請求人は,引用商標の「養命酒」が著名商標であることについて争わないと述べている。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号に関して,「『混同を生ずるおそれ』の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべき」とされている(平成12年7月11日 最高裁第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)。
そこで,以下,かかる観点から,引用商標の周知著名性について検討する。
(2)引用商標
引用商標は,別掲のとおり,「養命酒」の漢字を横書きにしたややデザイン化された毛筆体から成るものであるところ,その構成は,一語一語が同じ大きさの同一書体である。そして,構成中の「酒」の文字は,普通名称としての酒(薬用のものを含む。)を表示するものとして認識されるものであって,この「酒」の部分は,自他商品の出所識別力は乏しく,出所識別標識として支配的な印象を与えるものではない。
また,構成中の「養命」の文字は,その漢字の意義から,「命を養う」との意味合いを生じさせるものであり(参考「大漢和辞典 巻十二」,乙30),「養命酒」が薬用酒の中でも極めて著名なブランドとして知られていることに照らすと,引用商標中の「養命」の部分は,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
そうすると,引用商標が,「養命酒」として著名であって,「養命」として著名性を獲得しているものでないとしても,引用商標が一連一体の「養命酒」(ヨウメイシュ)としてのみ観念されるとはいえず,「養命」部分を基幹部分として認識するものと認められる。
そうすれば,引用商標は,全体から生じる「ヨウメイシュ」の称呼のほかに,その構成中の「養命」の文字に相応して,「ヨウメイ」の称呼をも生じるものである。
(3)本件商標
本件商標は,「養命灸」の漢字を横書きした標準文字から成るものであるところ,その構成中の「灸」の文字は,指定役務である「きゅう,きゅうに関する情報の提供,きゅうに関する指導及び助言」等において使用される際には,単に,指定役務そのものか,その情報の提供等の質,内容を示すものと捉えられるのであるから,普通名称,あるいは,役務の質,内容を示すにすぎないものであって,自他役務の出所識別力は乏しく,出所識別標識として支配的な印象を与えるものではない。また,簡易迅速性を重んずる取引の実際においては,その役務に付された商標の一部分だけによって簡略に呼称,観念することがあるから,本件商標においても,「養命」部分を呼称,観念することもあり得るものである。
そうすると,本件商標は,「養命」の文字と役務の普通名称の文字によって構成されるものとして把握され,このような商標に接する取引者,需要者は,本件商標の全体をもって取引に資するほか,前半の「養命」の文字部分に着目することが少なくない。
そうすれば,本件商標は,全体から生じる「ヨウメイキュウ」の称呼のほかに,その構成中の「養命」の文字に相応して,「ヨウメイ」の称呼をも生じるものである。
(4)本件商標と引用商標の類否
そうすると,本件商標と引用商標とは,その基幹部分である「養命」において,外観上実質的に同一であり,称呼「ヨウメイ」においても同一の商標であるといえる。
そして,「養命」の観念においては,「養生」や「健康」を連想させる「命を養う」との観念が生ずるほか,後記(5)のとおり,請求人の商品の健康の維持や回復という目的に関連性のある指定役務に用いられた場合には,極めて著名な薬用酒である「養命酒」と同一又は緊密な関係にある営業主の業務に係る役務との観念も生ずるものと解される。
以上によれば,引用商標及び本件商標は,冒頭の2文字を上記のとおり基幹部分といえる「養命」が占めるものであり,末尾に漢字1文字が付されたものである点で,外観上の類似性がある。
また,称呼について,「ヨウメイ」部分の称呼が共通しており,末尾に付された語も「シュ」と「キュウ」もやや似た観があり,全体としても近似した印象を与える。
さらに,引用商標は「命を養う酒」,本件商標は「命を養う灸」という観念が生じ,両商標とも「命を養う」ものとのイメージで共通し,上記のとおり,極めて著名な引用商標の基幹部分を含んでいることから,本件商標について,「養命酒」と同一又は緊密な関係にある事業主の提供に係る「きゅう」に関連する役務といった観念が生じ,観念においても近似するといえる。
したがって,引用商標と本件商標は,外観において類似性があり,称呼において近似した印象を与えるものであって,観念においても近似するといえる。
(5)本件商標の指定役務と引用商標の請求人の商品との関係
本件商標の指定役務は,前記第1のとおり,「きゅう,きゅうに関する情報の提供,きゅうに関する指導及び助言」を含むものであり,他方,請求人の商品は,薬草等を原料とするいわゆる薬酒であり,いずれも健康の維持や回復を目的とする役務や商品であり,本件商標の指定役務と請求人の商品は,健康の維持という用途又は目的において関連性があるといえるものである。
また,双方の役務及び商品とも,昨今の健康志向ブームに伴って,健康維持に関心のある者を需要者層とするものであるから,本件商標の指定役務と請求人の商品とは健康に関連する役務と商品であるとの関係性を有するものである。
そして,これらの役務及び商品の需要者が,特別な専門的知識経験を有しない一般消費者であることからすると,当該役務及び商品を利用及び購入するに際して払われる注意力は,さほど高いものではない。
(6)本件商標の出所の混同のおそれについて
引用商標は,上記1のとおり,本件商標の登録出願前から,請求人の商品に使用されて,取引者,需要者の間において著名なものとなっており,それが本件商標の登録査定時においても継続しているものであり,商品の出所を識別する際に基幹部分として,取引者,需要者の注目を集めているのが「養命」の文字部分といえる。
そして,本件商標と引用商標は,いずれも「養命」の文字と役務及び商品の普通名称の文字によって構成されているものと把握されるものであって,しかも,役務及び商品の出所を識別する場合には,構成中の「養命」の文字部分に取引者,需要者が着目することが少なくないといえるものである。
さらに,本件商標の指定役務と引用商標の請求人の商品とは,上記(5)のとおり,その用途,目的,需要者等を共通にする場合が少なくない健康に関連するという役務と商品の関係性を有するといえるものである。
以上のとおり,本件商標は,引用商標の基幹部分である「養命」をその構成の一部に含むものであり,当該部分の自他役務識別機能が高いと認められる一方,「養命」部分の末尾に普通名称が付加されたにすぎないことに照らすと,前記のとおり,本件商標を健康に関連する指定役務に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,極めて高い著名性を有する「養命酒」の表示を連想し,「灸」という役務と合わせて用いられる「養命灸」とは,養命酒を想起させる役務として,請求人の出所に係るものと誤認するか,あるいは,当該役務が請求人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品及びサービス事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信され,役務の出所につき誤認を生じさせるものと認められる。
そうすると,本件商標は,商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たると解するのが相当である。
3 被請求人の主張について
(1)被請求人は,「そもそも『養命』なる語は,後漢代に編纂されたと推定される中国最古の薬物学(本草学)の書物である『神農本草経』に出てくる熟語(乙1,乙2)であって,『上薬』の効果を表す語として用いられている。そして,この『養命』という語は,決して死語ではなく,インターネット全盛の現代においても,東洋医学に対する理解を深めたり,漢方薬や各種食品の特色を宣伝したりするためにWebサイトで広く使われており,また,治療や健康維持に携わる施設等が『養命』の語を含む名称を使用している例も多々存在する。」旨を主張している。
しかしながら,被請求人の提出に係る証拠によっては,一般には,ほとんど知られていない書籍「神農本草経」に「養命」の説明があるにすぎず,また,東洋医学,漢方薬や各種食品に関するWebサイト等に,その内容の記述の一部に「養命薬」及び「養命」の文字が使用されている例を示しているものであるとしても,「養命」の文字についての説明がほとんどなく,かつ,極めて多くの証拠が示されているものでもなく,また,これらの例が,多くの人々に注目され,関心をかっているというような事情も見て取れないことからすると,さほど「養命」の言葉が被請求人の主張する意味合いを表すものとして一般に知られているというような事情にはないというべきである。
また,仮に,実際の取引の場において「養命」の文字を含む商標が使用されているとしても,それをもって直ちに商標法第4条第1項第15号該当性が否定されるわけではなく,そのことをもって本件商標について,商標法第4条第1項第15号の適用を阻却する理由とすることはできないものである
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
(2)被請求人は,「そのアンケート調査がどのように実施されたのか,回答者はどのように選択されたか,質問票はどんなものであったか,などの具体的な内容が示されていないため,アンケート結果の客観性が疑われる。」旨を主張している。
しかしながら,このアンケートの調査は,請求人が第三者である調査会社に依嘱して行ったものであり,その対象は,「薬用酒」の8ブランドについてであり,日本全国を対象に1,083名から回答を得た結果である(甲10)。
そして,「Q1.」の「あなたは,以下の商品について,どの程度御存じですか。それぞれの商品についてお答え下さい。」の質問は,アンケートの質問として,至極当然のもといえる。また,その結果としての「薬用養命酒」の認知率が95.5%との結果も首肯できるものである。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
(3)被請求人は,「請求人は,『請求の理由』において,『養命』を含む商標が拒絶された過去の審査例を挙げている。そこに挙げられている商標の指定商品は,いずれも口から身体に取り入れる商品であり,口から身体に取り入れる点で養命酒と類似している。しかし,経口摂取しないものを指定商品とする商標は,それが『養命』の文字を含んでいても登録されている。本件商標は,第44類きゅう施術等を指定役務としており,経口摂取する養命酒とは全く類似する点がない。したがって,過去の審査例から見ても本件商標を無効にする理由は存在しない。」,及び「本件商標はきゅう施術等を指定役務としており,薬局やドラッグストアにおいて取り扱われる商品では無く,請求人の業務に係る商品との共通性は存在しない。また,本件商標の指定役務が関係する東洋医学分野では,・・・『養命』という文字部分が出所識別標識として支配的な印象を与える,という事情もない。そのため,本件商標をきゅう施術等の指定役務に使用しても,請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれは存在しない。」旨を主張している。
しかしながら,本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとした理由は,本件商標と引用商標は,いずれも「養命」の文字と役務及び商品の普通名称の文字によって構成されているものと把握されるものであって,しかも,本件商標の指定役務と引用商標に係る請求人の商品とは,上記2(5)のとおり,その用途,目的,需要者等を共通にする場合が少なくない健康に関連するという役務と商品の関係性を有するといえるものであるから,本件商標をその指定役務に使用した場合,それに接する取引者,需要者は,本件商標があたかも,請求人等の業務に係る役務であるかのように誤認,混同し,その出所について混同を生ずるおそれがあると判断したものである。
なお,本件商標の指定役務が経口摂取すべきものではないこと,薬局等で取り扱われる商品でないこと等の事情は,上記判断を左右するものではない。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
4 むすび
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(引用商標)




審理終結日 2016-08-25 
結審通知日 2016-08-30 
審決日 2016-09-28 
出願番号 商願2014-72011(T2014-72011) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W44)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉田 聡一 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 井出 英一郎
中束 としえ
登録日 2014-12-19 
登録番号 商標登録第5728022号(T5728022) 
商標の称呼 ヨーメーキュー、ヨーメー 
代理人 大橋 公治 
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所 

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