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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1320424 
異議申立番号 異議2016-900062 
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-16 
確定日 2016-10-14 
異議申立件数
事件の表示 登録第5813343号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5813343号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5813343号商標(以下「本件商標」という。)は,「Tone Rover」の欧文字を横書きしてなり,平成27年8月27日に登録出願,同年11月24日に登録査定がされ,第9類「イヤフォン,ワイヤレスヘッドフォン,スマートフォン,ヘッドフォン,テレビジョン受信機,音声受信機,音響又は映像の記録用・送信用又は再生用の機械器具,ウェアラブル携帯メディアプレーヤー,ウェアラブルオーディオ及び映像機器,携帯通信機器,アプリケーションソフトウェア,ウェアラブルスマートフォン,ウェアラブルコンピュータ,ウェアラブル携帯電話機,ワイヤレスヘッドセット,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」を指定商品として,同年12月11日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,登録異議の申立ての理由として引用する登録商標は,次のとおりの商標であり,いずれの商標権も現に有効に存続しているものである。
(以下,これらの商標を総称して「引用商標」という。)
(1)登録第1371800号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:別掲1のとおり
登録出願日:昭和46年6月28日
設定登録日:昭和54年2月22日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(2)登録第1371801号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:昭和46年6月28日
設定登録日:昭和54年2月22日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(3)登録第3100512号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成4年5月25日
設定登録日:平成7年11月30日
指定商品 :第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
(4)登録第4078003号商標(以下「引用商標4」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」
登録出願日:平成8年5月10日
設定登録日:平成9年10月31日
指定商品 :第9類に属する商標登録原簿に記載の商品
(5)登録第4085102号商標(以下「引用商標5」という。)
商標の構成:別掲3のとおり
登録出願日:平成8年5月9日
設定登録日:平成9年11月21日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(6)登録第4085104号商標(以下「引用商標6」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」
登録出願日:平成8年5月10日
設定登録日:平成9年11月21日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(7)登録第4675541号商標(以下「引用商標7」という。)
商標の構成:「LAND ROVER」(標準文字)
登録出願日:平成13年12月13日(優先権:2001年6月22日)
設定登録日:平成15年5月23日
指定商品 :第12類に属する商標登録原簿に記載の商品
(8)登録第975507号商標(以下「引用商標8」という。)
商標の構成:「RANGE ROVER」
登録出願日:昭和44年7月16日
設定登録日:昭和47年8月16日
指定商品 :第6類,第9類,第12類及び第19類に属する商標登録原簿に記載の商品
(9)登録第3045517号商標(以下「引用商標9」という。)
商標の構成:「RANGE ROVER」
登録出願日:平成4年5月25日
設定登録日:平成7年5月31日
指定商品 :第9類に属する商標登録原簿に記載の商品

3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第24号証を提出した。(以下「甲第○号証」の表示は,「甲○」と簡略する。)
(1)自動車ブランド「ROVER」の歴史・著名性
引用商標の構成中に含まれる「ROVER」の文字は,英国最大の国営自動車メーカーであった「The Rover Group plc」(以下「ローバー社」という。)及び同社製の自動車の名称を表すものとして広く知られている(甲11)。ローバー社は「自動車」等に商標「ROVER(ローバー)」をはじめ,小型乗用車である「ROVER MINI(ローバー・ミニ)」,1948年に発表された四輪駆動車「LAND ROVER(ランド・ローバー)」,1970年に発表された高級四輪駆動車「RANGE ROVER(レンジ・ローバー)」などを使用していた。
ローバー社は自転車・三輪自転車・バイクを作っていた会社(Starley Sutton Co.of Coventry)が起源である。「ROVER」の名前は,1884年製の三輪自転車の名に由来し,最初に乗用車の名称として「ROVER」の名前が用いられたのは1904年である。
「Starley Sutton Co.of Coventry」は,1906年に「Rover Co」(以下「ローバーカンパニー社」という。)となり,本格的に乗用車の生産を始めた。1948年には四輪駆動車を開発,発売し,「Land Rover」と名付けた。乗用車「Rover」は英国王室メンバーの私用車や,英国政府の閣僚・高級官僚の公用車としても用いられ,1964年には,初代ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いた(甲12)。
1967年に「Layland Motor Corp」と合併し,その後「Jaguar Rover Triumph」となった。1970年には、四輪駆動車「Land Rover」の発展形である高級四輪駆動車「Range Rover」が発売された。
1975年に国有化され,「British Layland Ltd」となった(甲13)。そして1976年には「ROVER 3500」がデビューして,1977年度のカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれているものである(甲14)。そこでは,乗用車部門が「Austin Rover」となり,四輪駆動車部門が「Land Rover」と呼ばれた。1986年に「The Rover Group plc」となり,乗用車部門を「Rover Cars」とし、日本の本田技研工業との共同開発車である「ROVER 800」がわが国や米国でも発売された(甲11)。
なお,ローバー社は,ランド・ローバーが「シリーズIII」まで製造されていた昭和53年(1978年)に,ランド・ローバー部門を子会社として再組織(ランドローバー社)し,その後,ランド・ローバー社は数度の変遷を経て経営母体が変わり,平成12年(2000年)にフォードモーター社の傘下に入った。その後,インドのタタモーターの傘下となり,「Jaguar Cars Limited」と統合され,現在は,申立人がこれを経営管理している。
わが国のメディアでもROVERブランド車の話題が取り上げられ(甲15ないし甲17),特に,「ローバー・ミニ」はわが国において人気となっており,全世界の販売台数の4割を占める程であった(甲18)。
このような事実から,「Rover」の日本国での周知著名性は,審決においても,認定されている(甲19)。
(2)「Land Rover」「Range Rover」の著名性について
「Land Rover(ランド・ローバー)」は,ローバーカンパニー社によって,1948年に最初に製造されたオフロード向け車両の名称である(甲20)。「Land Rover」は,第二次世界大戦中に使用された米国のジープにならって作られた四輪駆動車(4WD)であり,特に,最初に製造された同車は,農夫たちがその土地(land)をどこまでもくまなく進む(rove)ことができる,廉価で頑丈な乗り物を意図して設計され,販売開始から1年弱で同社の乗用車の売上を追い越すほどのヒット商品となった(甲21及び甲22)。
すなわち,「ランド・ローバー」は,4WDといえば軍用車両が常識であった時代に,これを民生用として改良,製造されたものであって,その後,多用途の4WDとして「Land Rover SERIES I」(ランド・ローバー・シリーズI)などが発売された。申立人の前身であるランド・ローバー社は,1948年以来,半世紀以上に亘り,卓越したオフロード性能と英国車伝統の優雅なスタイリングを併せ持つ四輪駆動車の開発を続けてきた。
「RANGE ROVER(レンジ・ローバー)」は,1970年,ローバーカンパニー社がオフロードの走破性に加えてセダンの快適さを追及して開発した四輪駆動車に使用された名前である。1972年には南北アメリカ大陸縦断,1974年にはサハラ砂漠横断を成功させるなどその高い構造性に加え,富裕者層をターゲットにした高級感あふれるインテリアを採用した,いわゆる「プレミアムSUV」の先駆けであり,「四駆のロールスロイス」とも称されている。
「Land Rover」のブランド名は,引用商標1,2または4(審決註:引用商標1,同2または同5の誤りと認める。)にあるように,「Land」の文字をやや左上に,「Rover」をやや右下にそれぞれ配し,各文字が独立して看取されるような独特の図案化を施したエンブレムが長年に渡って採択されてきたものであり,取引者,需要者にとっても馴染み深いものとなっている。
現在,「Land Rover」は,「Range Rover」を筆頭に,6つのラインで構成されており,その販売単価は,日本円にして千数百万円を下らず,4WDとしては異例の高級車として,取引者・需要者の間で認識されている。平成25年(2013年)の世界販売台数は348,338台であり,販売単位を考慮すると,その人気の高さが十分に窺い知ることができる。特に,「Land Rover」の周知著名性は,審決においても,認定されている(甲24)。
上記の事情を勘案すると,「ROVER」さらにその派生ブランドである「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」は,日本国において,遅くとも本件商標の出願時である平成27年8月27日において,申立人又はその前身であるローバー社の業務に係る商品(乗用車)を表すものとして取引者及び需要者の間で広く知られるに至っていたとみられ,現在も,その周知著名性は継続されている。
(3)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
本件商標は、「TONE ROVER」(審決註:異議申立書では、本件商標を大文字で表記しているが,「Tone Rover」の誤りと認める。以下同じ。)の欧文字を横書きしてなるところ,構成文字に相応して「トーンローバー」の称呼が生じるものである。ところで,本件商標の前半部をなす「Tone」と後半部の「Rover」は,その意味内容において馴染まれた熟語的意味合いを有しているなど,密接あるいは自然な牽連性は全くなく,その他両者を常に一体のものとして把握されなければならない格別の事情も見当たらない。むしろ,上記のとおり,「ROVER」の文字が申立人,及びその前身となる各企業が長年にわたって使用を継続し,わが国において申立人又はその前身であるローバー社の業務に周知著名なものになっているという取引の実情にかんがみれば,本件商標の構成にあって,これに接する取引者,需要者をして,「Rover」の部分こそが脳裏に印象付けられるのであり,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える部分である。
これに対して,本件商標前半の「Tone」の文字は「音の調子,音調,色調」を表す外来語「トーン」を表す英語であるところ,本件商標の指定商品は,「映像や音響などの再生・編集のためのソフトウェアや通信・電子応用機器」であって,音響や映像に深く関連する商品であることを考慮すれば,自他商品の識別機能がないか,比較的弱いものといわなければならない。
したがって,本件商標の文字部分のうち「Tone」の部分を除いた「Rover」の部分のみが自他商品の識別標識としての機能を果たす要部である。
イ 引用商標について
引用商標は,いずれも「LAND ROVER」あるいは「RANGE ROVER」の欧文字からなる商標であるところ,上記に述べたとおり,「ROVER」の文字が申立人及びその前身となる各企業が長年にわたって使用を継続し,わが国において申立人又はその前身であるローバー社の業務に周知著名なものになっているという取引の実情にかんがみれば,引用商標はその全体を以って把握されるのみならず,「ROVER」の文字が着目され,「ローバー」の称呼とともに,「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,またはその自動車」を想起,連想する。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標とを比較対照して観察すると,まず,本件商標は「Rover」の文字列を含んでいることが明らかであり,外観において少なくとも引用商標と類似している。また,本件商標のうち,「Rover」の部分が需要者に対し出所識別標識として強く支配的な印象を与える要部といえるのに対し,「Tone」の部分が本件商標の指定商品との関係で,商品の内容を表すものであって,自他商品の識別機能を有しないか比較的弱いことに照らすと,本件商標は「ローバー」の称呼も生じるものといえる。したがって,本件商標の称呼も,引用商標の称呼「ローバー」と類似する。また,観念においても,いずれも造語のようなものといえるものであるが,申立人の周知・著名商標を含んでいるところから,「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,またはその自動車」に関連する商品を想起,連想する点において,観念上も,引用商標と相当程度類似する。
エ 小活
以上を総合すると,本件商標と引用商標とは,彼此紛れるおそれの高い類似の商標であり,本件商標の指定商品のうち「アプリケーションソフトウェア,ウェアラブルコンピュータ,電子応用機械器具及びその部品」は,引用商標4,5,10(審決註:引用商標3,同4,同9の誤りと認める。)の指定商品と同一又は類似のものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号を判決(平成12年7月11日最高裁第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)の基準に照らして考察すると,本件商標に接した取引者・需要者は,本件商標を使用した商品が,あたかも申立人の業務にかかる商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生じるおそれがあることは,以下の理由から明らかである。
ア 引用商標の著名性,本件商標と引用商標との類似性について
上記(1)及び(2)で述べたとおり,「ROVER」,「Land Rover」及び「Range Rover」は周知・著名なものである。
イ 引用商標の独創性の程度
ローバーカンパニー社やローバー社が英国で最初に使用開始した,1904年又は1948年当時はもとより,日本国においても,引用商標の中で最も出願が早い引用商標1の出願当時(昭和46年6月28日),「ローバー」「ランド・ローバー」「レンジ・ローバー」を知る者にとっては周知・著名な商標であり,これらを知らない者にとっても,「ROVER」「Land Rover」「Range Rover」が当時の日本国でなじみの少ない外国語であったことは明らかである。
したがって,引用商標は,独創性にあふれた極めて斬新なものである。
ウ 商品間の関連性,取引者・需要者の共通性
本件商標の指定商品は通信機器,音響映像機器,コンピュータ等であるのに対して,引用商標が周知著名性を獲得した商品は,自動車ないし車両に関する商品である。近年の自動車には高度な通信機能,音響・映像機能,ソフトウェアを用いた車載コンピュータ機能が搭載されている事実にかんがみれば両商品の間には密接な関連性がある。また,両商標の商品の主たる需要者はいずれも一般消費者となるので高い共通性を有する。
エ 本件商標の指定商品の需要者において普通に払われる注意力その他取引の実情
両商標の商品の主たる需要者はいずれも一般消費者となり,決して高い注意力は期待できないものである。したがって,本件商標は,その構成中に「申立人又はその前身であるローバー社の会社名,またはその自動車」を想起,連想する「ROVER」を顕著に含んでなるので,出所混同を生じさせるおそれがある。
オ 審査基準
「Rover」を含む本件商標は,商標審査基準(〔改訂第12版〕十三の5)にいう「他人の著名な商標と他の文字又は図形を結合した商標」にあたるといえ,その外観構成がまとまりよく一体に表されていると否とにかかわらず,申立人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標として商標法第4条第1項第15号に該当するものと判断されるべきである。
カ 小活
上記のとおり,引用商標は、申立人の業務にかかる商品であることを表す周知著名商標であり、本件商標と引用商標は、高い類似性を有することに加えて、引用商標の独創性や本件商標の指定商品が、引用商標が周知著名性を獲得した商品と強い関連性を有するものであり、さらに、商標審査基準にかんがみれば、本件商標をその指定商品に使用した場合にはその商品が,あたかも申立人が取り扱う業務に係る商品であるかの如く認識され,その出所について混同を生じるおそれがあるから,商標法第4条第1項第15号に該当する。

4 当審の判断
(1)「ROVER」の著名性について
申立人の提出した証拠(各項の括弧内に掲記)及び同人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 辞典
(ア)英和商品名辞典(1990年,株式会社研究社発行:甲11)の「Rover」の項目(371頁)には,「英国最大の国営自動車メーカー(The Rover Group plc)同社製の乗用車,自転車,三輪自転車,バイクを造っていた会社が起源で,同社は1904年に乗用車を開発,Roverはもともと1884年製の三輪自転車の名,1906年にその会社はRover Co.となった,同社は1967年にLeyland Motor Corp.と合併,その後Jaguar Rover Triumph(British Leyland Motor Corp.の一部門)となった。1970年代には業績が悪化し,1975年に国有化され,British Leyland Ltd.となった,1977年にBL plcと社名変更,1986年より現在名に。現在同社はAustin RoverとLand Roverの二部門からなり,Rover名の乗用車は前者で生産されている,・・・」との記載がある。
(イ)英和ブランド名辞典(2011年8月31日,株式会社研究社発行:甲21)の「Land-Rover」の項目(235頁)には,「インドの自動車メーカーTata Motors傘下のJaguar Land Rover製の汎用四輪駆動乗用車。Jeepに似ているが,より大型。1948年にもともとの英国のメーカーRover Co.によって製造された最初の同車は,農夫達がその土地(land)をどこまでもくまなく行く(rove)ことができる,廉価で頑丈な乗り物を意図して設計された。」との記載がある。
(ウ)英和商品名辞典(1990年,株式会社研究社発行:甲22)の「Land-Rover」の項目(244頁)には,「英国最大の自動車メーカーThe Rover Group Land Rover部門製の汎用四輪駆動乗用車。Jeepに似ているが、より大型。1948年にもともとのメーカーRover Co.によって製造された最初の同車は,農夫達がその土地(land)をどこまでもくまなく行く(rove)ことのできる,廉価で頑丈な乗り物を意図して設計され,・・・」と記載されている。
イ 雑誌・新聞等
(ア)Car of the yearのウェブページ(甲12,甲14)には,「Rover 2000」が1964年度,及び,「Rover 3500」が1977年度のカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれているとの記載がある。
(イ)1991年9月13日付け朝日新聞(甲15)には,「英・ローバーグループの小型車発表」の見出しの下に,「ローバージャパン(本社・東京)は12日,英国の自動車メーカー,ローバーグループの小型乗用車『ローバー100シリーズ』を来年(92年)1月1日から国内で発売すると発表した。同シリーズは走りを重視した若者向けの『114GTi』と5ドアの『114GS』の2車種。・・・」との記載がある。
(ウ)1991年10月3日付け朝日新聞(甲16)には,「英ローバーへ支援を拡大 本田技研」の見出しの下に,「本田技研工業は2日,資本提携している英国ローバーグループへの支援を強化するための覚書に調印したと発表した。ローバーの新車開発を全面的に手助けするとともに,生産や資材調達での相互協力関係を強化する。・・・」との記載がある。
(エ)1990年10月20日付け東京読売新聞(甲17)には,「歴史的モデルスポーツ版の自動車『ミニクーパー』を発売/ローバージャパン」の見出しの下に,「ローバージャパンは,英国ローバーグループ製の『ローバーミニクーパー1・3』を,十一月二十二日から,全国六百台限定で発売する。・・・」との記載がある。
(オ)1998年10月1日付け東京読売新聞には,「[Theブランド]ローバー 伝統が支える快適空間」の見出しの下に,「百年余りの伝統を誇る自動車王国イギリス。その歴史を飾る名車の数々が,7日かに横浜市の『パシフィコ横浜』で始まる『ブリティッシュ・モーターショー』に勢ぞろいする。中でも,英国最大の自動車メーカー。ローバーグループの『ローバー』は,気品に満ちた“ブリティッシュ・サルーン”の神髄と言える。・・・」との記載がある。
(カ)「AUTOCAR Vol.137」(2014年10月,株式会社ACJマガジンズ発行:甲23)の「Land Rover All Lineup ランドローバー・オールラインナップ」の項目(36頁)には,「ランドローバーのモデルチェンジは6つのラインで構成されている。頂上に位置するのは,言うまでもなくレンジローバーだ。・・・」との記載がある。そして,「LAND ROVER」及び「RENGE ROVER」の各種の車種が掲載されている。
ウ その他
(ア)申立人は,「Land Rover」は,「Renge Rover」を筆頭に,6つのラインで構成され,その販売単価は,日本円にして千数百万円を下らず,4WDとして異例の高級車として取引者,需要者に認識され,平成25年(2013年)の世界販売台数が348,338台であり,販売単価を考慮すると,その人気の高さが十分に窺い知ることができる旨主張している。
(イ)審決において,「ROVER」及び「LAND ROVER」の文字が著名であると認められていると主張している(甲19,甲24)。
上記において認定した事実によれば,「Rover」の文字が,1884年製の三輪自転車の名を起源とするものであって,かつて英国最大の国営自動車メーカー(The Rover Group plc)であった社名の一部として使用されていたこと、また、現在、申立人が該企業を傘下におき、派生したブランドを経営管理していること、また,我が国において,申立人の製造・販売する商品「自動車」において「Land Rover(ランドローバー)」及び「Range Rover(レンジローバー)」が車種名を表示するものとして一定程度知られていたことは,推認ないし確認することができる。
しかしながら,申立人は,引用商標の構成中の「ROVER」の文字部分が申立人の業務に係る商品「自動車」を表すものとして周知・著名性を獲得していると主張し,その根拠として提出する証拠は,「Rover」及び「Land Rover」の意味や申立人会社の変遷が記載された辞典,申立人の製造・販売する自動車の発売等を報じた1990年,1991年及び1998年掲載の4回の新聞,「Land Rover」及び「Range Rover」の広告宣伝の自動車専門誌(1誌)並びに申立人のWebサイトのわずかな証拠に止まり,上記証拠の大半が申立人の「Land Rover」及び「Range Rover」と称する商品「自動車」に係るものであって,証拠に表された標章のほとんどは「Land Rover」の文字や「Range Rover」の文字が看者の目を引く態様で使用されているものである。
そして,2013年の世界販売台数が348,338台であると主張するところ,「ROVER」,「Land Rover」及び「Range Rover」の文字のみの商標が使用された商品「自動車」については,その販売実績や,広告実績における使用実態は必ずしも明らかとはいえないし,これが,我が国において如何なる規模に当たるかも定かではなく,その販売実績をもって市場比率(シェア)等の把握をすることができない。
さらに,「ROVER」の文字が,申立人の業務に係る商品「自動車」を表すものとして知られている事実を示す証拠の提出はないし,「ROVER」の文字単独で使用されていることを認めるに足りる証拠もないから,「ROVER(ローバー)」についての著名性の程度を推し量ることができない。
そうすると,申立人が提出した証拠のみをもってしては,引用商標を構成する「LAND ROVER」及び「RANGE ROVER」の文字が,本件商標の登録出願時に申立人の業務に係る商品「自動車」の車種名を表示する商標として,自動車業界及びその需要者(自動車愛好家)の間で一定程度知られていることは認め得るとしても,「ROVER」の文字が,申立人の業務に係る商品「自動車」を指し示すものとして,本件商標の登録出願日前より,我が国の一般の需要者の間に広く認識されるに至っていたとまでは認めることができない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標
本件商標は,前記1のとおり,「Tone Rover」の欧文字を横書きしてなるところ,「Tone」と「Rover」の2つの単語の間に空白部分がわずかに設けられているが,その構成文字は,それぞれ,同じ書体,同じ大きさで,全体として外観の構成がまとまりよく表されており,また,これより生じる「トーンローバー」の称呼も長音を含めて7音という簡潔な音構成であって,よどみなく一連に称呼することができるものである。
この点に関し,申立人は,本件商標の構成中の「Rover」の部分が,申立人の業務(ブランド)として周知著名な「ROVER」を連想させる語として強く支配的な印象を与えると共に,「Tone」の文字部分が識別機能を有しないか弱いことから,「Rover」の文字部分が要部として抽出される旨主張している。
しかしながら,本件商標は,その構成中の「Tone」の文字が,「音色。音調。」(株式会社岩波書店発行 広辞苑第六版)」を意味する語として知られているとしても,本件指定商品との関係において,直ちに該文字が商品の品質等を表示するために普通に用いられている事実も認められないし,他に本件商標から上記文字部分を捨象して考察しなければならない理由も見出すことができない。
そうすると,かかる構成において、本件商標は,「Tone Rover」の欧文字が不可分一体のものとして認識,把握されるとみるのが相当であるから,申立人の主張は採用することができない。
したがって,本件商標は,構成文字全体が不可分一体のものであり,「トーンローバー」の一連の称呼のみを生じ,親しまれた既成の観念を有しない一種の造語からなるものとして認識し把握されるというのが自然である。
イ 引用商標
引用商標は,前記2に示したとおりの構成からなるところ,引用商標1?3及び同5は,「LAND ROVER」の欧文字を顕著に含むものであり,その構成文字部分に相応して「ランドローバー」の称呼を生じ,「(申立人の)製造・販売する自動車としての車種名」の観念を生じるものである。
また,引用商標4及び同6?9は,「LAND ROVER」又は「RANGE ROVER」の欧文字からなるものであり,その構成文字に相応して,「ランドローバー」又は「レンジローバー」の称呼を生じ,「(申立人の)製造・販売する自動車としての車種名」の観念を生じるものである。
申立人は,引用商標の構成中「ROVER」の文字が周知著名であるから,要部は「ROVER」といえる旨主張するが,前記のとおり,「ROVER」の周知性は認められないばかりでなく,引用商標は,申立人の業務に係る商品「自動車」の車種名を指し示すものとして一連一体の構成からなる商標とみるのが相当であるから,その構成文字に相応して,「ランドローバー」又は「レンジローバー」の一連の称呼のみを生じ,上記の観念を生じるものとして認識し把握されるというのが自然である。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とを対比するに,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照らし,外観においては,判然と区別し得る差異を有するものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「トーンローバー」の称呼と引用商標から生じる「ランドローバー」及び「レンジローバー」の称呼とは,語頭の「トーン」と「ランド」及び「レンジ」という顕著な差異により,それぞれを一連に称呼するときは,全体の語調,語感が著しく相違し,明瞭に区別することができるものである。
さらに,観念においては,本件商標は,親しまれた既成の観念を有しないものであるから,本件商標と引用商標とを比較することはできず,相紛れるおそれはない。
してみれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。
エ 小括
以上のとおり,本件商標は,引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標の指定商品が引用商標3,同4及び同9の指定商品と同一又は類似のものであるとしても,商標法第4条第1項第11号に該当するということはできない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
前記(1)のとおり,「ROVER」の文字は,需要者の間において広く知られていたものとは認めることができないものである。また,本件商標は,上記(2)のとおり,引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
そうとすれば,本件商標をその指定商品について使用した場合に,これに接する取引者,需要者が引用商標ないしは申立人を連想,想起するようなことはないというべきである。
したがって,本件商標は,申立人又は申立人と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く,その出所について混同を生じるおそれはないものと判断するのが相当である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。
(4)まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきでものである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(引用商標1)

別掲2(引用商標2)

別掲3(引用商標3)


異議決定日 2016-10-03 
出願番号 商願2015-82417(T2015-82417) 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W09)
T 1 651・ 271- Y (W09)
T 1 651・ 263- Y (W09)
T 1 651・ 262- Y (W09)
最終処分 維持  
前審関与審査官 箕輪 秀人久木田 俊 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 田中 幸一
真鍋 伸行
登録日 2015-12-11 
登録番号 商標登録第5813343号(T5813343) 
権利者 エルジー エレクトロニクス インコーポレイティド
商標の称呼 トーンローバー 
代理人 稲葉 良幸 
復代理人 石田 昌彦 
代理人 青木 篤 
復代理人 右馬埜 大地 
代理人 田中 克郎 
代理人 田島 壽 

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