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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W0942
審判 全部申立て  登録を維持 W0942
審判 全部申立て  登録を維持 W0942
審判 全部申立て  登録を維持 W0942
審判 全部申立て  登録を維持 W0942
管理番号 1320405 
異議申立番号 異議2016-900019 
総通号数 203 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-01-26 
確定日 2016-09-26 
異議申立件数
事件の表示 登録第5802391号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5802391号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5802391号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成27年5月20日に登録出願、第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」を指定商品及び指定役務として、同年9月3日に登録査定、同年10月30日に設定登録されたものである。

2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が本件登録異議の申立てにおいて引用する商標は、以下の登録商標(以下、これらを総称する場合は「引用商標」という。)であって、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第4577279号商標(以下「引用商標1」という。)は、「MICHELIN」の欧文字を標準文字で表してなり、2000年12月22日にフランス共和国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成13年6月22日に登録出願、「電子手帳,デジタルカメラ」を含む第9類、第5類、第11類、第12類、第17類、第21類、第39類及び第42類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同14年6月14日に設定登録されたものである。
(2)登録第5174198号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、2007年6月8日にフランス共和国においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成19年12月10日に登録出願、「マウスパッド,USBメモリー,パーソナルコンピュータ用のメモリーモジュール拡張機器,データ処理用マウス,コンピュータ用のその他の器具及び周辺装置,電子応用機械器具及びその部品」を含む第9類、第21類、第25類及び第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同20年10月17日に設定登録されたものである。
(3)登録第5600152号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ミシュラン」の片仮名を標準文字で表してなり、平成23年6月28日に登録出願、「コンピュータプログラム,コンピュータソフトウェア,データベースでの検索・照会・質問用のコンピュータソフトウェア,道案内・住所・観光地・ホテル・宿泊施設・レストラン・飲食店に関する情報・助言をデータベースで検索・照会・質問するためのコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェア(記憶されたもの),電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」を含む第9類、「コンピュータソフトウェア・コンピュータデータベース用プログラムの設計・開発,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」を含む第42類、第35類、第37類ないし第39類、第41類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同25年7月19日に設定登録されたものである。
(4)登録第5620241号商標(以下「引用商標4」という。)は、「MICHELIN」の欧文字を書してなり、2011年4月21日に欧州特許庁においてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、平成23年6月29日に登録出願、「コンピュータプログラム,コンピュータソフトウェア,データベースでの検索・照会・質問用のコンピュータソフトウェア,道案内・住所・観光地・ホテル・宿泊施設・レストラン・飲食店に関する情報・助言をデータベースで検索・照会・質問するためのコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,コンピュータソフトウェア(記憶されたもの),電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」を含む第9類、「コンピュータソフトウェア・コンピュータデータベース用プログラムの設計・開発,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」を含む第42類、第35類、第37類ないし第39類、第41類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同25年10月4日に設定登録されたものである。
(5)国際登録第1254506号商標(以下「引用商標5」という。)は、「MICHELIN」の欧文字を書してなり、2014年7月24日にFranceにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、2014年(平成26年)12月10日に登録出願、「Devices for global positioning systems (GPS); software for navigation systems (GPS and/or satellite); software and software packages especially for the online calculation of road itineraries, route planning to follow in vehicles of all types and on foot; software and software packages especially for the management and provision of information relating to transport and traffic; software and software packages especially for the provision of tourist, travel and gastronomy information; software for systems for on-line assistance in the preparation and planning of travel, travel itineraries and tours; application development software; computer databases relating to road itineraries, transport and traffic, travel, tourism and gastronomy;」を含む第9類、第42類「Design, development and editing of software; development and maintenance of computer databases; Creation, development and maintenance of websites; provision of search engines enabling the procurement of information via a communication network」、第35類、第38類、第39類及び第41類に属する国際商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成28年1月22日に設定登録されたものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標について、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証を提出した。
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、「vichelin」の英文字、「美酒覧」の漢字及び「びしゅらん」の平仮名を横書きし、三段に併記して構成されるものであって、該構成文字に照応して「ビシュラン」の称呼を生じ、これに加えて、「美酒覧」の漢字における語頭の「美」の漢字が「ビ」又は「ミ」と音読みされることに鑑みれば、これに照応する「ミシュラン」の称呼をも生じる。
これに対して、引用商標は、「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名で構成されるから、構成文字に照応して「ミシュラン」の称呼が生じる。
すなわち、本件商標及び引用商標は、「ミシュラン」の称呼を生じるものである。
また、本件商標から生じる「ビシュラン」と引用商標から生じる「ミシュラン」の称呼とを対比すると、これら2つの称呼は、語頭の「ビ」と「ミ」の一音においてのみ相違し、この差異音は、いずれも両唇音が関与して調音される子音(b)又は(m)に母音(i)を伴うものであるから、全体の語調語感において相紛らわしいものである。
すなわち、本件商標から生じる「ビシュラン」の称呼と引用商標から生じる「ミシュラン」の称呼とは互いに類似するということができる。
なお、本件商標及び引用商標の称呼と同様に、語頭における「ビ」及び「ミ」の一音においてのみ相違する2つの商標が、称呼上類似すると認定されている審決(甲7)は、上記申立人の主張が妥当であることを裏付けるものである。
イ 指定商品(役務)の類否について
本件商標の指定商品(役務)中、第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」は、引用商標の指定商品及び指定役務に含まれる商品及び役務と同一又は類似するものである。
ウ したがって、本件商標と引用商標とは、称呼上、相紛れるおそれのある類似の商標であって、また、その指定商品及び指定役務のうち、第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」について、商標法第4条第1項第11号に違反する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 申立人について
申立人は、1863年に設立されたバルビエ=ドーブレ社を前身とする1889年に設立されたフランス国クレルモン=フェラン市に本店を有する世界最大手のタイヤメーカーである。申立人は、自動車、トラック、バス、オートバイ、飛行機、自転車等の輸送車両、建設機械、農業機械等のタイヤの製造・販売を主な事業分野として、日本を含む世界各国・地域に製造拠点をもち、現在、11万人を超える従業員を擁し、年間売上高はおよそ212億ユーロ(2015年)となっている(甲9、甲10)。
日本においては、1964年にタイヤ販売事業を開始し、1975年には日本ミシュランタイヤ株式会社が設立されて、事業分野は、タイヤの製造・販売・輸入・研究開発・試験・マーケティング等となっている(甲9)。
また、申立人は、レストラン・ホテルガイド、旅行ガイド、道路地図といった、いわゆる「ミシュランガイド」と呼ばれる欧州諸国を中心とする世界各地にスポットをあてたガイドブックシリーズを1900年から出版している。我が国においては、ミシュランガイド初の日本版として、「ミシュランガイド東京2008」が2007年11月に日本ミシュランタイヤ株式会社より刊行され、それに続いて、日本各国にスポットを当てた「ミシュランガイド」が次々に出版され、現在では、日本でもっとも権威あるガイドブックシリーズの1つとして広く認知されている(甲11)。
このように、申立人は、創業時以来の主力製品であるタイヤのメーカー及び権威あるガイドブックの出版元として世界中にその名が知られた著名企業である。そして、申立人は、日本においても、そのような主力製品を中心として様々な事業を展開しており、申立人の商号の略称に相当するハウスマークとして「MICHELIN」の英文字及び「ミシュラン」の片仮名で構成される標章について、多岐にわたる商品・役務について商標登録を有している。
イ 申立人商標について
(ア)申立人商標及びその独創性について
申立人は、引用商標を含み「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名のいずれかを構成要素に含む登録商標(以下、まとめて「申立人商標」という。)を多数保有している。
申立人商標を構成する「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名は、申立人の創立者であるアンドレ=ミシュラン及びエドゥアール=ミシュランのいわゆるミシュラン兄弟の名前に由来し、申立人自らの商号に係る、いわゆるハウスマークである。また、「MICHELIN」及び「ミシュラン」の文字は、いずれも国語辞典をはじめとする各種辞典の見出し語に掲載され、申立人を表すものとして広く一般に認識されている(甲12?甲14)。すなわち、申立人商標は、本来、特定の意味合いを有しない一種の造語であるのみならず、これに接する需要者及び取引者をして一見して申立人を想起させるほどに独創性が強い商標ということができる。
(イ)申立人商標の著名性について
申立人は、会社設立から100年以上の歴史を有し、世界でトップクラスのシェアを誇るタイヤ及び「ミシュランガイド」と呼ばれるガイドブックシリーズの分野においては、世界的な著名企業として知られている。申立人の商号の略称に相当するハウスマーク、すなわち、申立人商標は、申立人の商品・役務を表す標識として、商品及び役務の需要者及び取引者の間で広く認識されているものである。
申立人商標の著名性は、過去の不正競争防止法事件の判決において認定されていることから明らかである(甲15)。
また、申立人商標のいくつかは、外国ブランドの模倣商品の輸入、製造及び流通を阻止することを目的として刊行されている「外国ブランド権利者名簿」に掲載されており、このことは、申立人商標が著名商標であることを示唆するものである(甲16)。
以上のとおり、申立人商標は、本件商標の登録出願日以前から、申立人の商品・役務を表す標識として、商品及び役務の需要者及び取引者の間で広く認識された著名商標となっているものである。
ウ 本件商標及び申立人商標の類似性について
本件商標は、「vichelin」の英文字、「美酒覧」の漢字及び「びしゅらん」の平仮名を横書きし、三段に併記した態様で構成されるものである。すなわち、本件商標は、構成する英文字、片仮名及び漢字に照応して、「ミシュラン」及び「ビシュラン」の称呼を生じるものである。
これに対して、申立人商標は、「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名のみからなる又はそのような文字を構成中に含むものであって、該構成文字に照応して、「ミシュラン」の称呼が生じるものである。
したがって、本件商標と申立人商標とは、称呼上、極めて相紛らわしいものである。
また、本件商標及び申立人商標の構成文字に着目してみるに、本件商標を構成する「vichelin」の英文字及び申立人商標を構成する「MICHELIN」の英文字は、語頭の「v」及び「M」の一文字のみが異なり、また、本件商標を構成する「びしゅらん」の平片仮及び申立人商標を構成する「ミシュラン」の片仮名は、語頭の「び」及び「ミ」の一文字のみが異なることとなっている。
上記したとおり、申立人商標を構成する「MICHELIN」の英文字及び「ミシュラン」の片仮名は、申立人の創立者に由来する独創性が極めて強い商標である。すなわち、申立人を構成する「MICHELIN」の英文字は、フランス人の創立者に因み、日本人の間で馴染み親しまれているとはいい難いフランス語であるところ、本件商標を構成する英文字「vichelin」は、奇しくも、語頭「v」の一文字を除く全ての構成文字「ichelin」が完全に一致している。さらに、「vichelin」の英文字に相応する平仮名「びしゅらん」もまた、語頭「び」の一文字を除く全ての構成文字「しゅらん」が申立人商標「ミシュラン」の語頭「ミ」の一文字を除く全ての構成文字「シュラン」と完全に一致している。
このように、本来独創性が強く、需要者及び取引者の間で広く認識され、著名となった申立人商標と構成文字のほぼ全てが重複する文字で構成された本件商標が、申立人商標と無関係に採択されたと捉えるのは極めて不自然で、本件商標採択の背景に、申立人の著名商標の構成上の特徴に依拠した事実があったと考えるのが自然である。
すなわち、本件商標に係る商標権者が申立人商標の著名性にあやかって、そのような著名商標の顧客吸引力、名声及び信用力にフリーライドし、さらには、希釈化させ、あるいは、損なわせようとする不正の意図をもって本件商標を採択したと考えるのが相当である。
以上のとおり、本件商標と申立人商標とは、称呼上類似するにとどまらず、それらの構成の軌を一にし、本件商標がその指定商品(役務)について使用されたときには、申立人の業務に係る商品(役務)であるかのごとく、商品(役務)の出所について誤認混同を生じるおそれがあるほどに近似しているとみるのが相当である。
エ 本件商標の指定商品(役務)と申立人の業務に係る商品(役務)との類似性及び関連性について
本件商標に係る指定商品(役務)のうち、第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び第42類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」は、引用商標のいずれかの指定商品(役務)に類似するものである。また、第42類「電気計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」は、同類「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」と、役務の提供の手段や目的、役務の提供に関連する物品、需要者の範囲、業種、役務の被提供者等、多くの点において共通性を有し、極めて関連性が強いものである。
したがって、本件商標に係る商品・役務のいずれもが、申立人商標、特に引用商標に係る商品・役務と関連性が強い商品・役務というのが相当である。
オ 取引者及び需要者の注意力について
本件商標に係る指定商品(役務)は、上述のとおりであるところ、いわゆる、日用電化製品等、老若男女問わず一般人にとって身近で馴染み親しまれた商品もあれば、情報通信その他の専門性が強い分野で特殊な技能・知識を有する者を需要者とする商品及びそのような者が受ける役務も含まれる。すなわち、本件商標に係る商品・役務の取引者及び需要者は、いわゆる民生品の最終消費者たる一般人から、高度で専門的な知識を有するエキスパート(専門家)まで極めて幅広い範囲に及び、商品の選択や購入の際、あるいは、役務の提供を受ける際に払われる需要者及び取引者の注意力は、比較的高い者からそれほど高いとはいえない者まで様々であると考えられる。
これに加えて、申立人が創業時以来の主力製品であるタイヤ及びガイドブックという、一見すると全く異なる分野で高いブランド力を維持している事実は、企業経営の多角化が浸透、一般化している近年のビジネス形態と相まって、本件商標がその指定商品(役務)について使用されたときには、当該商標に接する商品・役務の取引者及び需要者は、申立人を想起し、申立人の業務に係る商品・役務若しくは申立人と経済的もしくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品・役務であるかのような印象を受ける蓋然性は高く、結果として、商品・役務の出所について誤認混同が生じるおそれが高いと考えられる。
カ 以上のとおり、本件商標は、引用商標を含む「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名で構成される申立人商標の業務に係る商品・役務と出所の混同を生じるおそれがあるため、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
ア 上記(2)イ(イ)のとおり、申立人商標は、本件商標の登録出願日前から、日本国内及び国外において、申立人の商品・役務を表す標識として、商品及び役務の需要者及び取引者の間で広く認識された著名な商標となっている。
また、上記(1)ア及び(2)ウのとおり、本件商標及び申立人商標は、称呼上類似するのに加え、構成する文字において共通点を有し、本件商標がその指定商品(役務)について使用されたときには、申立人の業務に係る商品(役務)であるかのごとく、商品(役務)の出所について誤認混同を生じるおそれがあるほどに近似するものである。
不正の目的について
上記(2)ウのとおり、本件商標は、申立人由来の独創性が強い申立人商標と、構成文字のほぼ全てが重複する文字で構成されたものである。このことからして、本件商標に係る商標権者が、申立人商標の著名性にあやかって、そのような著名商標の顧客吸引力、名声及び信用力にフリーライドし、さらには、希釈化させ、あるいは、損なわせようとする不正の意図をもって本件商標を採択したと考えるのは極めて合理的というべきである。
そのような本件商標に係る商標権者による不正の意図を示唆する事実として、商標権者のウェブサイトにおいて、本件商標を使用した商品及び役務について、「美酒覧は日本酒・焼酎・泡盛を簡単にレビューできるアプリです。飲んだお酒を複雑な操作をすることなしにシンプルにレビューすることができます。」と紹介されている(甲17)。すなわち、本件商標は、飲食物のうちの酒類とりわけ日本酒の分野に特化して、日本酒の各銘柄についてのレビュー(評価・格付け)を行う、いわゆるグルメガイドを提供するためのアプリ、すなわち、アプリケーションソフトウェアの名称として使用され、スマートフォン用のアプリは広く提供されている。
このアプリは、スマートフォン用の各種アプリに関するレビュー(評価・格付け)を行うサイトでもとりあげられ、需要者の間で大きな反響を呼んでいる。そのようなアプリのレビューサイトでは、本件商標に係るアプリの詳細として、「美酒覧は日本酒・焼酎・泡盛などのお酒を簡単にレビューできるアプリです。(中略)ミシュランガイドのように、あなただけのお酒ガイドブックを作りましょう!」という記載がある(甲18、甲19)。このことは、本件商標の商標権者が上述した、申立人が出版するガイドブックシリーズ「ミシュランガイド」、とりわけ飲食店のレビュー(評価・格付け)を内容とする「レストランガイド」の著名性にあやかり、同じく飲食物に関連するレビュー(評価・格付け)を内容とする、いわゆるグルメガイドとして、日本酒の分野に特化したレビュー(評価・格付け)を提供するアプリの名称に使用することを意図していたことを容易にうかがわせるものである。
すなわち、本件商標は、その商標権者が、申立人の著名商標の顧客吸引力、名声及び信用力にフリーライドし、さらには、希釈化させ、あるいは、損なわせようとする不正の意図をもって本件商標を採択し、同商標について登録出願を行ったことは明らかである。
ウ まとめ
以上のとおり、本件商標は、他人である申立人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者に広く認識されている申立人商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

4 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、大書した「美酒覧」の漢字の上下に、小さな文字で「vichelin」の欧文字及び「びしゅらん」の平仮名を配し、いずれもオレンジ色の文字からなり、まとまりよく一体に表示してなるものである。
本件商標の構成中「美酒覧」の漢字部分は、その中の「美酒」の文字が、「味のよい酒。うまざけ。」(広辞苑第六版)の意味を有し、「びしゅ」と読む語として広く一般的に知られているものであるから、本件商標の漢字部分からは、無理なく「ビシュラン」の称呼が生じる。
そして、該漢字部分の上下に表された欧文字及び平仮名は、「美酒覧」の文字の読みを欧文字「vichelin」及び平仮名「びしゅらん」で表したものと理解されるというのが相当であるから、本件商標は、「ビシュラン」の称呼のみを生じるものである。
また、「美酒覧」の文字は、一般の辞書等に掲載が認められないものであって、特定の意味合いを有しない一種の造語と理解されるというべきであるから、本件商標は、特定の観念を生じないものといえる。
イ 引用商標について
引用商標1は、「MICHELIN」の欧文字を標準文字で表してなり、引用商標2は、別掲2のとおり、図形と「MICHELIN」の欧文字との組み合わせからなり、引用商標3は、「ミシュラン」の片仮名を標準文字で表してなり、引用商標4及び引用商標5は、「MICHELIN」の欧文字を書してなるところ、「MICHELIN」の欧文字からは、英語風読みの「ミチェリン」又は仏語風読みの「ミシュラン」の称呼が生じ、「ミシュラン」の片仮名からは「ミシュラン」の称呼が生じ、「MICHELIN」及び「ミシュラン」の文字は、特定の意味を有しない造語といえるから、特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、上記アのとおり、漢字、平仮名及び欧文字をオレンジ色で三段に書してなるのに対し、引用商標は、上記イのとおり、欧文字又は片仮名あるいは図形と欧文字との組み合わせからなるから、両者は、その構成全体において、外観上、明らかに相違するものであり、相紛れるおそれはない。
また、本件商標と引用商標の称呼を比較すると、本件商標から生じる「ビシュラン」の称呼と引用商標から生じる「ミチェリン」の称呼は、4音中3音を異にするから、明らかに聴別できるものである。
次に、本件商標から生じる「ビシュラン」の称呼と引用商標から生じる「ミシュラン」の称呼は、称呼における識別上重要な要素を占める語頭において「ビ」と「ミ」の音の差異を有するものであって、全体としても4音という比較的短い音構成からなるものであることを併せ考慮すれば、この差異音が両称呼に与える影響は決して小さいものとはいえないから、それぞれを一連に称呼するときは、互いに聞き誤るおそれはないものというのが相当である。
さらに、本件商標と引用商標は、特定の観念を生じないものであるから、観念において、相紛れるおそれはない。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
エ 申立人は、「ミ」と「ビ」の1音においてのみ相違する商標が称呼上類似すると判断した審決例(甲7)を挙げるが、該審決例は、本件とは、全体の文字構成及び構成音等が相違するから、事案を異にするというべきであり、また、本件においては、本件商標と引用商標との類否のみを判断すれば足りるものであるから、過去の審決例が存在することにより、本件商標と引用商標の類否判断が左右されるものではない。
オ まとめ
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似するとはいえない商標であるから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 申立人の使用商標について
申立人は、上記3(2)イ(ア)のとおり、申立人商標は、引用商標を含み、「MICHELIN」の英文字又は「ミシュラン」の片仮名のいずれかを構成要素に含む登録商標であるとし、その登録商標を特定していないが、申立人の主張全体から、申立人の使用商標は、「MICHELIN」又は「ミシュラン」の文字からなる商標(以下「申立人使用商標」という。)として、以下取り扱うこととする。
イ 申立人使用商標の周知著名性について
(ア)申立人の提出に係る証拠によれば以下の事実が認められる。
申立人は、1863年に設立された後、自動車、トラック、バス、オートバイ、飛行機、自転車等の輸送車両、建設機械、農業機械等のタイヤの製造・販売を主な事業分野とするフランスのタイヤメーカーであって、日本においては、1964年にタイヤ販売事業を開始し、1975年には日本ミシュランタイヤ株式会社が設立され、日本を含む世界各国・地域に製造拠点をもち、年間売上高はおよそ212億ユーロ(2015年)となっている(甲9、甲10)。
また、申立人は、レストラン・ホテルガイド、旅行ガイド、道路地図といった、いわゆる「ミシュランガイド」と呼ばれる欧州諸国を中心とする世界各地にスポットをあてたガイドブックシリーズを1900年から出版している。我が国においては、ミシュランガイド初の日本版として、「ミシュランガイド東京2008」が2007年11月に日本ミシュランタイヤ株式会社より刊行され、それに続いて、日本各地にスポットを当てた「ミシュランガイド」が次々に出版されている(甲11)。
そして、広辞苑には、「ミシュラン[Michelin]」が「ヨーロッパのホテルやレストランの案内書。星の数で格付けし、三つ星が最高。フランスのタイヤ会社ミシュランが毎年発行。」と掲載され、他の辞書にも同様の内容が掲載されている(甲12?甲14)。
(イ)以上によれば、申立人は、創業時(1863年)以来のタイヤのメーカーであって、1900年から出版しているホテル・レストランを星の数で格付けするガイドブックの出版元として知られており、申立人使用商標が申立人の業務に係る「タイヤ及びホテル・レストランを星の数で格付けするガイドブック」(以下「申立人商品」という場合がある。)を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているものと認められる。
なお、申立人は、申立人商標、特に引用商標が申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして著名性を獲得していた旨主張するが、引用商標がその全ての指定商品及び指定役務を表示するものとして、本件商標の登録出願日前より、著名性を獲得していた事実を認めるに足りる証拠の提出はない。
ウ 本件商標と申立人使用商標の類似性の程度
本件商標は、上記(1)アのとおりの構成からなり、「ビシュラン」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
他方、申立人使用商標は、「MICHELIN」又は「ミシュラン」の文字からなる商標であって、申立人の業務に係る申立人商品を表示するものとして、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されているものと認められるものであるから、「ミシュラン」の称呼が生じ、「申立人商品のブランドとしてのミシュラン」の観念を生じるものといえる。
そこで、本件商標と申立人使用商標を比較すると、本件商標は、上記(1)アのとおり、漢字、平仮名及び欧文字をオレンジ色で三段に書してなるのに対し、申立人使用商標は、「MICHELIN」又は「ミシュラン」の文字からなる商標であるから、両者は、その構成全体において、外観上、明らかに相違するものであり、相紛れるおそれはない。
次に、本件商標から生じる「ビシュラン」の称呼と申立人使用商標から生じる「ミシュラン」の称呼を比較すると、称呼における識別上重要な要素を占める語頭において「ビ」と「ミ」の音の差異を有するものであって、全体としても4音という比較的短い音構成からなるものであることを併せ考慮すれば、この差異音が両称呼に与える影響は決して小さいものとはいえない。してみると、「ビシュラン」と「ミシュラン」の称呼は、それぞれを一連に称呼するときは、互いに聞き誤るおそれはないものというのが相当である。 さらに、本件商標は、特定の観念を生じないものであり、申立人使用商標は、「申立人商品のブランドとしてのミシュラン」の観念を生じるものであるから、両者は、観念において、相紛れるおそれはない。
したがって、本件商標と申立人使用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点においても互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
エ 商品の関連性
本件商標の指定商品及び指定役務は、上記1のとおり、「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,電子計算機の貸与,電子計算機用プログラムの提供」であって、申立人商品である「タイヤ及びホテル・レストランを星の数で格付けするガイドブック」とは、生産・販売部門、原材料、用途等が相違するというべきであり、関連性があるとはいい難い。
オ 出所の混同
以上からすると、申立人使用商標が申立人商品を表示するものとして周知性を獲得していたとしても、本件商標と申立人使用商標とは、非類似の商標であって、本件商標の指定商品及び指定役務は、申立人商品との関連性も有しないものであるから、本件商標に接する取引者、需要者が、申立人使用商標を想起又は連想することはないというのが相当である。
してみれば、本件商標は、これをその指定商品及び指定役務に使用しても、その取引者、需要者をして、該商品及び役務が申立人又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのように、商品及び役務
の出所について混同を生じさせるおそれがある商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
上記(2)イのとおり、申立人使用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る「タイヤ及びホテル・レストランを星の数で格付けするガイドブック」を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されていたものであるが、上記(2)ウのとおり、本件商標と申立人使用商標は、非類似の商標である。
また、申立人は、本件商標は、これが、グルメガイドを提供するためのアプリケーションソフトウェアに使用され、アプリの詳細として「ミシュランガイドのように、あなただけのガイドブックを作りましょう!」という記載(甲18、甲19)があることから、申立人使用商標の著名性にフリーライドし、希釈化させ、不正の意図をもって登録出願された旨主張しているが、本件商標は、飲んだ日本酒・焼酎・泡盛を簡単にレビューするためのアプリケーションソフトウェアに使用するもの(甲19)であって、該アプリケーションソフトウェアの使用者に対して、グルメガイドを提供する目的で使用するものとは認められず、「ミシュランガイドのように・・・」の表現は、その表現中に「ミシュランガイド」の文字を有することの適否は措くとして、わかりやすいように具体的にアプリケーションソフトウェアを説明したものといえ、これのみをもって不正の目的があったと認めるには足りない。
そうすると、本件商標は、本件商標をその指定商品及び指定役務に使用しても、申立人使用商標の出所表示機能の希釈化又はその名声及び信用力にフリーライドするものとはいえないし、また、不正の目的をもって使用することを意図して登録出願したものということもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反してされたものではないから、商標法第43条の3第4項の規定に基づき、維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標)(色彩は原本参照。)


別掲2(引用商標2)


異議決定日 2016-09-15 
出願番号 商願2015-51756(T2015-51756) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W0942)
T 1 651・ 261- Y (W0942)
T 1 651・ 271- Y (W0942)
T 1 651・ 222- Y (W0942)
T 1 651・ 262- Y (W0942)
最終処分 維持  
前審関与審査官 大渕 敏雄 
特許庁審判長 大森 健司
特許庁審判官 原田 信彦
土井 敬子
登録日 2015-10-30 
登録番号 商標登録第5802391号(T5802391) 
権利者 株式会社E-Times Technologies
商標の称呼 ビシュラン、ビシュリン、ミシュラン 
代理人 矢崎 和彦 
代理人 宮嶋 学 
代理人 柏 延之 
代理人 高田 泰彦 
代理人 永井 浩之 
代理人 佐藤 泰和 
代理人 本宮 照久 
代理人 今岡 智紀 
代理人 中村 行孝 
代理人 朝倉 悟 

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