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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない X33
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X33
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X33
管理番号 1317138 
審判番号 無効2015-890002 
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-29 
確定日 2016-06-27 
事件の表示 上記当事者間の登録第5539445号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5539445号商標(以下「本件商標」という。)は、「純麦」の文字を標準文字で表してなり、平成23年6月7日に登録出願、第33類「仕込みに全て麦を使用した日本酒,仕込みに全て麦を使用した中国酒,麦焼酎を使用したチューハイ,麦焼酎を使用した梅酒」を指定商品として、同24年10月29日に登録査定、同年11月30日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして、本件商標の登録の無効の理由として引用する商標は、別掲に示すとおりの構成よりなり、「麦を原材料とした焼酎」(請求の趣旨による)に使用していると主張するものである。
そして、請求人は、別掲に示す筆書き風に横書きした商標について、請求の理由中において「本標章」、甲第2号証において「当標章」との用語を使用しているところ、以下、請求人が、本件商標の登録の無効の理由として引用する標章を、「引用商標」と置き換えていう。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第59号証を提出した。
1 審判請求書における主張
(1) 商標法第4条第1項第10号該当性
本件商標は、その出願時及び登録査定時前において請求人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く知られている標章「純麦」(「引用商標」)(甲2)と類似し、さらにその指定商品も互いに類似することから、商標法第4条第1項第10号に該当し、登録されるべきものではない。
ア 周知・著名性について
(ア)引用商標の使用について
a 請求人について
請求人は、明治27年10月20日に創業し、百年以上の歴史を誇る会社である(甲3)。請求人は、明治27年より大正10年まで清酒を製造し、大正10年より焼酎の製造を開始した。そして、請求人は、昭和29年11月に、合名会社に改組し、昭和50年4月には、株式会社に改組した。
請求人は、昭和56年9月に、設備を増強し、20,000石の体制を確立し、平成6年11月には、宮崎県北郷町に関連会社として、櫻の郷醸造合名会社(現 櫻の郷酒造株式会社)を創立した。合計すると、生産能力は、増強されて30,000石となった。
また、請求人は、環境対策のため、平成16年9月に、櫻の郷醸造合名会社(現 櫻の郷酒造株式会社)に隣接して産業廃棄物処理施設を完成させ、自社で廃棄物を処理している。
b 標章「純麦」の使用
焼酎は、第1に、元の原材料(多くの場合は米ないしは麦)へ麹菌を生やし、麹を作り、第2に、タンクや甕(かめ)に麹と水、酵母を加えて一次仕込みを行い、5日間ほど発酵させてもろみを造る(一次もろみ)。さらに、第3に、一次もろみの中へ主原料(掛原料)と水を加え2次仕込みを行い、8?10日間発酵させる(二次もろみ)。最後に、第4に、アルコールが生成された2次もろみを蒸留する。これらの工程を経て焼酎が製造される。
そして、前述第3の工程のときに投入した主原料が焼酎の冠表示ができる。
請求人は、前述第3の工程の際に投入する主原料として麦を使用し、かつ、主原料に麦を100%使用していることから、純粋な麦の焼酎を想起し、請求人の製造する焼酎に「純麦」という名称を付し、請求人は、昭和55年より引用商標を使用して焼酎の製造・販売を開始した。
c 国税局酒類鑑評会への出品
請求人は、引用商標を付した焼酎(以下「引用商標商品」という。)を酒類鑑評会に出品した。
甲第4号証は、昭和56年4月15日発行の宮崎日日新聞において、酒類鑑評会において引用商標商品が入賞したことが掲載されたものである。
甲第5号証は、平成17年4月20日発行の同新聞においても酒類鑑評会において引用商標商品が入賞したことが掲載されたものである。
甲第6号証は、平成18年4月19日発行の同新聞においても酒類鑑評会において引用商標商品が入賞したことが掲載されたものである。
引用商標商品は、高い品質を有しており、昭和62年4月16日、熊本国税局にて開催された昭和62年酒類鑑評会において、焼酎部門で優等賞を受賞した(甲7)。さらに、平成17年にも、熊本国税局において開催された酒類鑑評会において、焼酎部門で入賞した。
酒類鑑評会は、管内で製造された清酒及び本格しょうちゅうの品質評価等を行い、その結果に基づき特に優秀な酒類製造技術を有すると認められた酒類製造者及び杜氏等製造責任者を顕彰することにより、酒類製造技術基盤の強化及び酒類の品質向上を図り、もって酒類業の健全な発達に資することを目的とするものである(甲8)。
請求人が引用商標商品を出品した熊本国税局主催の酒類鑑評会は、熊本、大分、鹿児島、宮崎県の清酒及び焼酎の酒類製造者を対象に評価し、品質の高い商品は優秀賞等の表彰をする。その結果は、先に述べたとおり、新聞等で掲載され広く公表される。
酒類鑑評会は、受賞した商品は付加価値が高まるため、清酒及び焼酎業界における卸売業者等にとって売れ筋を見極める基準となるなど重要な大会である。
d 小括
このように、請求人は、本件商標の出願時及び登録査定時前に、引用商標を焼酎の名称として現在まで継続的に使用を続けている。
(イ)引用商標商品の販売本数・売上高について
a 引用商標商品の販売本数
請求人は、引用商標商品を昭和55年から現在にかけて継続して全国的に販売している。
甲第9号証は、請求人が得意先へ販売した平成15年での販売本数を示すものであり、販売先の都道府県は、請求人の会社の所在地である宮崎県のみではなく、神奈川県、岩手県、東京都、埼玉県、大阪府など複数地域に及んでいる。
b 引用商標商品の売上高
請求人は、引用商標商品を昭和55年から現在にかけて継続して販売し、全国への流通に進展した結果、引用商標商品の売上高も相当程度伸びてきている。
引用商標商品は、平成15年時点において、複数地域に対して販売本数89,118本の販売を行っており、その結果約6,330万円もの売り上げを上げている。
c 小括
このように、引用商標商品は、請求人の所在地である宮崎県のみにとどまらず、岩手県、埼玉県、山梨県、神奈川県、千葉県、大阪府、東京都など複数地域にわたって多数販売されている。その結果、引用商標は、複数地域において同種商品取扱業者が認識するようになり、周知・著名性を獲得しているものである。
また、これらの数字からも明らかなように、請求人は、昭和55年から引用商標商品を継続して販売することによって、89,118本もの商品を全国的に流通させており、請求人の焼酎の標章として使用されている引用商標は、請求人の業務に係る多大な業務上の信用を得ているものといえる。
(ウ)同業者、取引先、需要者等の証明書
a 取引先の証明書
甲第10号証ないし甲第37号証は、請求人の引用商標の使用、引用商標を使用した商品、及び引用商標の取引について、請求人の取引先が事実を証明する証拠資料である。
b 小括
以上の証明書から明らかなように、引用商標商品は、本件商標の出願時及び登録査定時以前から継続的に取引されており、引用商標は、請求人の標章として、及び請求人の業務に係る商品を表示するものとして、取引者及び需要者に広く認識されたものである。
c 過去の裁判例
過去の裁判例(東京高裁昭和58年6月16日、「DCC事件」、知財高裁平成20年5月29日判決)からしても、引用商標商品は、請求人の会社の所在地である宮崎県のみにとどまらず、岩手県、埼玉県、山梨県、神奈川県、千葉県、大阪府、東京都など複数地域にわたる同種商品取扱業者に広く認識されていることから、「需要者の間に広く知られた商標」であるといえる。
したがって、引用商標は、周知・著名性を有する標章である。
(エ)全国チェーン居酒屋での販売
a 引用商標商品を庄やグループにおいて提供
引用商標商品は、株式会社大庄(以下「大庄」という。)の「庄や」グループの居酒屋に提供されている。
甲第38号証は、1998年4月から全国の居酒屋「庄や」で使用していたメニューである。
甲第39号証は、2002年春夏に「庄や」で使用していたメニューである。このメニュー中にある焼酎部類の中で、引用商標商品が掲載されている。このことから引用商標商品が居酒屋「庄や」に提供されていたことが明らかである。
甲第40号証は、2004年ごろから全国の居酒屋「やる気茶屋」で使用していたメニューであり、甲第41号証は、2004年から2005年に「やる気茶屋」で使用されていたメニューである。このメニュー中にある焼酎部類の中で、引用商標商品が掲載されている。このことから引用商標商品が居酒屋「やる気茶屋」に提供されていたことが明らかである。
大庄は、東証一部上場を果たしている会社であり、外食産業の居酒屋部門においてトップクラスの売上額を誇っている(甲42)。大庄の経営する居酒屋「庄や」及び「やる気茶屋」は、前者が全国に335店舗展開し、後者は全国に94店舗展開し、庄やグループの飲食店合計は、全国に861店舗有している。そして、この「庄や」及び「やる気茶屋」等の庄やグループの店舗は、東京、埼玉、千葉、神奈川等関東地域一円のみならず、青森、静岡、愛知、高知、鹿児島等全国に展開されたものである。
b 小括
このことから、引用商標商品は、遅くとも1998年ころから「庄や」及び「やる気茶屋」の全国の店舗において提供されており、その結果、引用商標は、取引業者のみならず最終消費者においても、請求人の会社の標章として、及び、請求人の会社の業務に係る商品を表示するものとして認識されているといえる。
(オ)周知・著名性まとめ
以上に述べたように、引用商標は、その使用実績、引用商標商品の販売実績、取引業者の認識伏況、請求人の信用状況、また全国チェーン店での販売状況を鑑みると、請求人の会社の業務に係る商品を表示するものとして、酒類を取り扱う業界のみならず、最終消費者の間においても、本件商標の出願時及び登録査定時以前に広く認識されており、周知・著名性を十分に獲得していることは紛れもない事実である。
イ 本件商標と引用商標の類似性
本件商標と引用商標は、外観上、称呼上、観念上共通性が多いことは明白であり、また、差異があるとしても微差にすぎないことから、取引者及び一般需要者が本件商標と引用商標に接した場合は、区別することが容易でないといえる。
したがって、本件商標と引用商標は極めて類似性が高いものである。
ウ 指定商品の類似性について
本件商標の第33類「仕込みに全て麦を使用した日本酒,仕込みに全て麦を使用した中国酒,麦焼酎を使用したチューハイ,麦焼酎を使用した梅酒」と、引用商標の商品である焼酎は、共に酒類の商品であり、商品の原材料、品質、製造者等を共通にすることも多く、また、商品の取引系統を同じくする場合もあることから、本件商標と引用商標の商品に同一又は類似の商標を使用した場合、誤認、混同を生じるおそれがある。
したがって、本件商標と引用商標の商品は類似するものである。
エ 実際の当業者の認識
被請求人は、平成25年12月25日付けで、請求人に対し、引用商標の使用の停止又は中止の要望を通告してきた(甲43)。
本証拠資料によれば、「『純麦』につきましては、当社が商品区分第33類に商標登録第5539445号商標権を有しており、そのご使用は、当社の前期商標権の効力範囲内のものである・・・」と記載されている。
このことから、実際に、本件商標と引用商標は、日本酒、焼酎等アルコール類を提供しており、いわば請求人と同業者である被請求人に、商標及び商品について類似の商標であると認識されているものであることがわかる。
したがって、実際の当業者からみても本件商標と引用商標は類似している商標である。
オ 商標法第4条第1項第10号該当性まとめ
以上のとおり、引用商標は周知・著名性を有しており、また、本件商標と引用商標とは外観上、観念上、及び称呼上の観点から相紛らわしい類似の商標であるものとするのが相当であり、さらに本件商標の指定商品と引用商標の商品とが互いに類似するものであることは明らかである。また、実際に、当業者にとっても商標並びに商品について類似の商標であると認識されるものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第15号該当性について
上記(1)のとおり、引用商標は周知・著名性を有しており、また、本件商標の指定商品と引用商標が使用される商品「麦を使用した焼酎」とは、商品の販売場所、流通経路等が重複し、需要者の範囲が共通するため、これにより、本件商標と引用商標が互いに類似するものである点を考慮すれば、本件商標は、その出願時及び登録査定時において請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがある商標であることから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似の商標であって、被請求人は、引用商標を請求人が商標登録していないことを奇貨として、請求人に無断で抜け駆け的に登録出願し、その後、請求人に対して引用商標の使用の停止又は使用の中止の要望を突如通告してきたものであり、これは不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

2 弁駁書における主張
(1)被請求人の答弁に対する弁駁
被請求人は、請求人提出の甲各号証をもっては、周知・著名性を得ていたものではないから、請求人の主張は成り立たないものであると主張する。
しかしながら、審判請求書に記載したように、請求人は、(a)標章「純麦」(「引用商標」)(甲2)を、以下の4つの使用態様で付した焼酎(甲44?甲47)を、昭和55年から、現在にわたり、35年間使用し、(b)全国チェーンの居酒屋(甲38?甲40)に、引用商標を付した商品を遅くとも平成10年ころから販売し、(c)全国に店舗を展開する取引先(甲10)と、全国に営業所を有する大手商社(甲11、甲58)等に対して、引用商標を付した商品を販売していることが、これらの証拠から明らかである。したがって、引用商標は、本件商標の出願時に、需要者及び取引者に対して、請求人の出所に係る商品であると周知・著名性を得ていることは、明らかであり、被請求人の答弁は成り立たないものである。
上記を説明するにあたり、まず、引用商標の使用態様を明らかにし、そのうえで、被請求人の主張に反論する。
(2)引用商標について
ア 特定
被請求人は、引用商標の使用態様がいずれであるかの特定を求めていることから、以下のとおり説明する。
請求人らは、昭和55年から甲第2号証に示す「純麦」を毛筆書きしたロゴを、最初に、2種類の焼酎ラベルにて使用開始した。この2種類のラベルを付した焼酎を、甲第44号証(「720mlフロスト瓶」)、甲第45号証(「一升瓶」)に示す。甲第44号証の写真は、甲第11号証、甲第12号証、甲第30号証及び甲第38号証ないし甲第41号証に記載の焼酎と同一のものである。その後、昭和56年から、甲第46号証に示す「紙パック」の販売を開始した。また、甲第45号証のラベルは、現在、甲第47号証のラベルに変更され、使用されている。したがって、引用商標は、合計3種類の焼酎に使用された。甲第44号証ないし甲第47号証の写真は、いずれも、平成27年5月12日に、請求人の支配人により、撮影された。
これらの焼酎ラベルは、甲第2号証に示す「純麦」のロゴを縦書き、横書きや色彩の別はあるが、外観が同一であり、焼酎ラベルの大きさに対して、十分視認可能に示されているため、取引者及び需要者に十分識別可能であることは明白である。
イ 使用開始時期・使用期間
使用開始時期については、上記「720mlフロスト瓶」と「一升瓶」について、昭和55年に開始し、「紙パック」について、昭和56年に開始した。使用を開始したことを示す証拠として、甲第4号証に示すように、昭和56年4月15日の宮崎日日新聞にて、南九州で生産される酒類の鑑評会で、「純麦」が入賞していることから、「純麦」という焼酎が、遅くとも入賞の1年前である、昭和55年には、一般に販売を開始していることが当然に予想される。さらに、甲第12号証に示すように「宮崎県酒類販売株式会社」も、昭和57年4月から取引を行なっていることが証明されている。
使用期間については、昭和55年から現在までの35年間、継続して使用していることを、審判請求書で添付した証拠(甲4?甲42)が示すことは、明白であるが、これらの証拠に加えて、甲第48号証について説明する。甲第48号証は、「純麦」のロゴを示す焼酎ラベルを印刷した印刷会社「株式会社ハタノ」に対して、「商品名純麦のラベルをいつから納品していたか」に対する回答書と、このラベルの売上元帳一覧である。本回答では、株式会社ハタノは、1994年11月からの売上記録が残っていることの回答を得ている。さらに、売上元帳一覧によれば、1994年に、「純麦」のタックラベルを1万枚納品していることが証され(1ページ目)、1998年は、21,600枚(2ページ目)、1999年は、31,500組(3ページ目)を納品していることが証明されている。さらに、1998年から2014年10月まで(4ページ、5ページ)、継続して、請求人が、「株式会社ハタノ」から、「純麦」のロゴを示す焼酎ラベルを購入していることが明示されている。
ウ 使用地域について
使用地域については、全国チェーンの居酒屋(甲38?甲40)と、全国に102店舗を展開する取引先(甲10)と、全国に営業所を有する大手商社(「伊藤忠食品株式会社」:資本金49億円(甲11、甲58))に対して、販売していることから、日本全国に対して販売していることが明らかである。さらに、その他の酒店として、甲第9号証ないし甲第37号証の記載のとおり、請求人は、東京、茨城、兵庫、大阪、和歌山、岐阜、福井、京都、静岡、埼玉、宮崎、岐阜、大阪、岩手等に向けて販売している。
したがって、請求人は、一県のみならず、多数の都道府県において販売しているのであり、使用地域は、周知性の要件である地理的範囲を充足するものである。
エ 生産、証明もしくは譲渡の数量又は営業の規模について
答弁書(後記第4、2(7))において、被請求人は、昭和55年から平成15年までの累計の総販売数量が89,118本としているが、この数字は、平成15年(1月から12月)の、単年の総販売数量である。これを明確にすべく、甲第49号証として、請求人の平成15年の商品別売上一覧表を示す。これは、平成15年の銘柄別売上本数のうち「純麦」のロゴを有する焼酎のみを抜粋したものである。
この表中の売上容量を合計すると、75,781(リットル)である。これを被請求人の主張による平成15年度国税庁発行「酒税統計 8酒税」(乙1)の数値でみると、上記の販売量を、「宮崎県のしょうちゅう」の平成15年度の生産数量「95,389kl」で割ると、0.08%となる。
しかしながら、このような計算方法は、宮崎県における麦焼酎の生産数量を算出するという目的からずれており、妥当ではない。すなわち、「純麦」のロゴを有する焼酎のシェアを算出するにあたり、上記の「宮崎県のしょうちゅう」全体の生産数量を母数にすることは、芋、麦、コメ、そばといった複数酒類が存在する焼酎の生産数量をーつにまとめてしまった数字を用いているものである。甲第50号証ないし甲第52号証は、熊本国税庁が発行する「単式蒸留しょうちゅう製造業の概要」の各々平成23年度ないし平成25年度における「熊本、大分、宮崎、鹿児島の主原料別・県別の製成数量、集中度等」を示す表である。これによれば、宮崎県は、3年間の数量の合計が、375,821kl(124,168kl(平成23年)+118,510kl(平成24年)+133,143kl(平成25年))である。一方、「いも」を主原料とする焼酎の製造量は、268,786kl(87,448kl+82,490kl+98,848kl)であるため、「いも」を主原料とする焼酎が、3年間の平均で約71.5%を占めている。
一方、「麦」を主原料とする焼酎は、3年間の平均で26,586klである。
ここで、請求人が製造する「純麦」のロゴを有する焼酎は、「麦」を主原料とする焼酎の製造であることから、「宮崎県の麦しょうちゅう」の生産数量を母数とすることが適切であると考えられる。
しかし、平成15年時点での、上述の甲第50号証等に該当する、県別、主原料別の製成数量のデータを入手できなかったため、上記の平成15年度の請求人の生産数量に対する母数として用いることは、厳密には正確ではないが、参考までに算出してみる。上記の「麦」を主原料とする焼酎の近年3年間の宮崎県の製成数量の平均「26,586kl」を、母数とすると、シェアは、約0.29%(=75,781l÷26,586kl×100)となる。
オ 販売量と周知性との見解について
販売量、売り上げ量の大きさと周知性について一定の比例関係があることは認められるところである。
しかしながら、周知性が必ずしも販売量、売り上げ量だけで決定されるものでない。すなわち、全国に焼酎・清酒の銘柄は少なくとも千を超えて多数存在するのであり、販売量が少なくとも、メディア等の宣伝広告効果により、周知性を有している銘柄も相当数存在するのであり、その中には、限定販売のように、製法や原料の問題で多数生産されるものではなく、販売量は少ないものであっても、需要者及び取引者に周知性・著名性を有している銘柄は多数存在する。
例えば、甲第53号証は、インターネット検索(平成27年5月23日)にて、「焼酎 有名 ランキング」で、Google検索した結果である。この2位にランキングされている「全国焼酎ランキング」のホームページを甲第54号証に示す。この「全国焼酎ランキング」にて、7位は、宮崎県の焼酎「百年の孤独」であるが、この焼酎は、甲第55号証に示すように、ホームページ「ぐるなび食市場」において、本格焼酎「百年の孤独」が、「数量限定販売」されている。すなわち、数量が限定されているにもかかわらず、全国焼酎ランキングでは上位を占める。同様に、焼酎「佐藤」、「魔王」においても、甲第56号証に示すように、入手困難品、限定品であることが示されているが、上述のホームページにおける全国焼酎ランキングでは、1位、2位である。
すなわち、焼酎の場合、その対象層によって、多数の消費者に販売することが必ずしも目的とならず、限定品、レア物であることで、かえって、周知性、著名性を獲得する現実があり、売り上げの多寡がブランドの著名性とダイレクトに結びつくとは限らない。
とすれば、当該焼酎や清酒の売り上げ量や販売量の大きさや、焼酎・清酒の全体の売上や販売量のうちの割合(業界シェア)のみが、焼酎・清酒の銘柄が周知性を有するか否かと結びつくわけではなく、その他の原因、例えば、数量が限定されることでかえって、話題性を獲得し、取引者や需要者に周知になる場合が、商品との関係で生じ得る。したがって、周知性は、販売量を含め、結果的に、需要者に知られているか否かによって決されるものである。
この点につき、東京高等裁判所平成5年7月22日判決(甲57)は、周知性の要件につき、高収益レディスアパレル46社の婦人服の総売上高が年約4,628億円であるのに比して、一方のブランドの婦人服の売上高が年約2億円であったとしても、周知性を肯定する判断を示している。
この裁判例で問題となった売上高を比較すれば、0.04%にすぎないものであるが、それでも、この裁判例においては周知性が認められたものである。
被請求人らは、引用商標商品の宮崎県の製造販売量が、0.008%にすぎないことを周知性がないことの理由としているが、上述のように、麦焼酎としての宮崎県での製造販売量のシェアは、0.29%(焼酎全体としては0.08%)と考えられ、また、この裁判例も判示するように、周知性の要件が、売上高の割合の問題によってのみ決せられるというのは誤りである。
引用商標「純麦」が、請求人にかかる焼酎として周知性を獲得していることを示す証拠として、インターネットでの検索結果を示す(甲59)。本検索を行なった、2015年6月1日現在、グーグル検索サービス(ユーザのログオフ状態)で「純麦 焼酎」という文字で検索すると、検索件数は54万6千件に及び、引用商標商品が、請求人の出所に係る焼酎として、検索結果で、1番として表記されていることはもとより、2番、3番、5番、6番、10番に表記される。これは、請求人が35年にわたり、広範囲にわたって引用商標商品の販売を続けた結果としてランキングされるものであり、引用商標が請求人の出所に係る商標として、周知性があることが明示されている。
カ 事典類への記載について
また、被請求人は、引用商標を付した商品が事典類に記載されていないと主張する。
しかしながら、これらの事典は、出版社への謝礼等の支払額に応じて記載されるものであり、著名・周知であるか否かと必ずしも関連しないものである。例えば、乙第4号証の3ページ目:索引ア行には、請求人の製造販売する焼酎「飫肥杉」が掲載されている。この掲載にあたり、請求人らは、これらの事典への掲載費用を考慮して、販売促進すべく製品名を事典に掲載しているにすぎないことを経験している。すなわち、これらの事典は、焼酎製造販売の商業的な販売促進の事情により掲載が決定されるにすぎないため、現実の著名・周知とは関連しない。
加えて、上述の甲第54号証に示す「全国焼酎ランキング」の上位10のブランドを、これらの事典にあてはめてみると、第1位「佐藤」、第2位「魔王」、第3位「島唄」は、乙第4号証の索引に掲載されておらず、乙第4号証には、第10位の「霧島」が掲載されているだけで他の1位から9位の焼酎は、全く掲載されていない。また、それぞれの索引によれば、乙第5号証においては、1位、2位、4位、6位、10位が掲載されていない。乙第6号証においては、1位、3位、4位、6位、7位、9位、10位が掲載されていない。
したがって、これらの事典は、出版社への謝礼等の支払額に応じて記載されるものであり、著名・周知であるか否かと必ずしも関連しないものであるから、この点に関しても被請求人の主張は誤りである。
キ 商標法第4条第1項第10号の「広く認識されている商標」への被請求人の主張に対して
答弁書(後記第4、2(2))において、被請求人は、甲第38号証の居酒屋メニューの表示が小さい旨を主張する。
しかし、請求人は当該メニューのみにより周知性を主張する趣旨ではなく、当該メニューを証拠として示すことで、甲第2号証の「純麦」のロゴを有する焼酎が全国的に販売されていることを示す趣旨で用いるものである。すなわち、「庄屋グループといった全国的に展開されるチェーン店のメニューに掲載されているということは、焼酎ボトルが全国チェーンの居酒屋に配備され、陳列され、取引者及び需要者が当該焼酎のボトルを視認することが当然予想できる。したがって、甲第38号証等に示すメニューに対する当該標章の画像サイズで、当該標章の周知性を議論することは失当である。
(3)小活
以上から、請求人は、(a)標章「純麦」を昭和55年から、現在にわたり、35年間使用し、(b)全国チェーンの居酒屋に引用商標を付した商品を遅くとも平成10年ころから販売し、(c)全国に店舗を展開する取引先と、全国に営業所を有する大手商社等に対して、引用商標を付した商品を販売していることが、これらの証拠から明らかである。
したがって、引用商標は、本件商標の出願時に、需要者及び取引者に対して、請求人の出所に係る商品であると周知・著名性を得ていることは、明らかであり、被請求人の答弁は成り立たないことは明白である。

3 全体のまとめ
以上に述べたとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものである。
したがって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号に基づいて、その登録は無効とされるべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第21号証を提出した。
1 請求人の主張に対する答弁
請求人は、本件商標登録出願前に、請求人の商標が周知著名性を有しており、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当すると主張し、甲第1号証ないし甲第43号証を提出した。
しかし、請求人提出の甲各号証をもってしては、請求人の主張する周知商標を証拠に基づいて確定することすら困難な上、請求人の所在地においてはおろか、隣接数県や、まして全国に周知されていた事実は全く伺い知ることができず、周知著名性を得ていたものではないから、請求人の主張は、いずれも成り立たないものである。

2 引用商標の周知性を否認する
(1)商標法第4条第1項第10号の「広く認識されている商標」
商標法第4条第1項第10号の「広く認識されている商標」というには、その商標が全国的あるいは相当的な広範囲において需要者又は取引者・需要者の多くの者に知られており、そのことがその者の業務上の信用の基礎となっている状態になければならず、そのためには当該商標が、どのような態様で、どの商品に、いつからどの地域に、どの程度販売され、どの程度の期間継続使用されたかによって、本件商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくとも、その同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきであるところ、請求人の提出の甲各号証によっては、以下のとおりその事実は伺い得ないものである。
(2)請求人の引用する請求理由の「引用商標」について
前述のとおり、当該商標が「広く認識されている商標」というには、全国的あるいは相当的広範囲において需要者又は取引者・需要者の多くの者に知られており、そのことがその者の業務上の信用の基礎となっている状態になければならず、そのためには当該商標が、実際にどのような態様で使用され周知性を獲得したのか、その使用態様の特定が重要である。
請求人は、請求理由において、添付の甲第2号証を「資料1当標章」と称して「純麦」の文字を横書きしたものを提出し「引用商標」としている。
しかし、この態様に係る標章は、請求人提出のどの証拠のどの商品に使用されたのか明らかにするところがなく、引用商標の実際の使用証拠の特定ができないものである。
もし、「引用商標」の使用に係る商品が、例えば、甲第11号証の「桜泉 麦焼酎 25度 フロスト瓶 720ml」(参考事項 商品の画像)の商品態様で使用しているものと仮定すれば、当該商品のボトルの正面に「SAKURA/IZUMI」の文字が右上がり二段書き大書された態様の左上隅に上記「SAKURA/IZUMI」の文字サイズより小さい文字で横書きしたものを指すことになるが、かかる使用態様のものは、一見しただけでは判読すら困難な表示態様での使用というべく、どこに表示されているのか見失うほどの小さな使用態様のものであり、この部分を捉えて、引用商標部分が周知されていたとは到底考えられず、これが例えば甲第38号証の居酒屋メニューに表示されていたというが、その画像は原寸でもボトル画像のサイズは高さ僅か2センチ程度しかなく、おそらく顧客は、虫眼鏡をもってその文字をくまなく探さないとどこに表示されているのか、また、表示文字すら判読できないほど小さいものであり、これでは主商標「SAKURA/IZUMI」は、認識できたとしても、「純麦」の文字を認識することは不可能な程度の表示態様で使用されたというべきであり、加えて、後述するとおりその販売量の些少なこととあわせみれば、「引用商標」が、実際に甲第2号証の態様で、その周知性を獲得していたとは到底認められないものである。
(3)「引用商標」の使用状況を示す証拠
「引用商標」が周知著名であるというには、使用状況を示す証拠が極めて重要であるが、請求人提出の甲各号証のうち「引用商標」を探すと、かろうじて甲第11号証、甲第12号証、甲第30号証(参考事項商品の画像)、甲第38号証ないし甲第40号証(居酒屋のメニューの写真)しか見当たらず、しかも、その前者甲第11号証、甲第12号証、甲第30号証(参考事項商品の画像)は、請求人が取引業者に証明を得るために、自ら予め証明内容を用意して印刷した参考事項商品画像のうちの一であり、後者甲第38ないし甲第40号証(居酒屋のメニューの写真)は、極小サイズで判読不能レベルの使用状況を示す証拠にすぎなく、これだけでは請求人が主張する昭和55年から現在まで使用した商品の使用状況を示す証拠とはいえない。
その上、後述のとおり請求人の主張する平成15年の販売数量の些少なこととあわせみれば、「引用商標」が周知性を得ていたとの事実は到底伺い得ないものである。
(4)鑑評会
請求人は、甲第4号証ないし甲第8号証を提出し、「引用商標」を付した焼酎を酒類鑑評会に出品し、昭和56年、平成17年、平成18年に入賞したとの記事を掲載した宮崎日日新聞を甲第4号証ないし甲第6号証として提出し、昭和62年の優等賞を受賞した賞状の写しを甲第7号証として提出している。
しかし、甲第8号証の鑑評会の状況写真をみてもわかるとおり、商品ラベルが分からないよう、別の容器に移し替えて審査されており、鑑評会等では通常このようにブラインド手法で酒質のみ審査が行われるため、商標や意匠は評価に影響しないものである。
したがって、入賞した酒の銘柄が実際にどのような態様で使用されているのかは、公表もされないし、入賞した酒が周知性を得たものとは限らず、入賞した出品酒の周知著名性とは関係がないものであり、請求人の入賞銘柄の商標が、「引用商標」であったのかどうかは特定できないのみならず、上記の新聞記事と賞状のみでは、単に当該年度に鑑評会に出品された酒が入賞ないし優秀賞を受賞したというだけで、「引用商標」を使用した焼酎が、昭和55年から現在まで継続して使用されたことを証するものでもない。
(5)商標審査基準
「引用商標」が、商標法第4条第1項第10号の「広く認識されている商標」というには、単に使用されているのみでは足りず、特許庁商標審査基準によれば、商標登録の要件(商標法第4条第1項第10号等)としての周知性は、以下のような事実を総合勘案して判断される。
すなわち、当該標章について、
ア 実際に使用している商標並びに商品又は役務が特定されること。
実際に使用している商標が確定して初めて、「引用商標」が特定されるべき重要事項であるところ、請求人の「引用商標」については、上記のとおり使用態様自体が不確定状態であり、「引用商標」を使用した商品について確たる証拠提出がなく、請求人は、漠然と毛筆横書きの「純麦」標章を「引用商標」と称してこれが周知著名というにすぎないものである。
これでは商標法第4条第1項第10号の「広く認識されている商標」の成立の大前提が欠如しているとしかいいようがない。
イ 使用開始時期が、明らかにされること。
請求人は、昭和55年から「引用商標」の使用を開始したと漠然と主張し、甲第4号証ないし甲第6号証の鑑評会入賞の新聞記事と甲第7号証の賞状を提出しているが、最も肝心な「引用商標」を、その開始から使用した事実を証する証拠の提出がない。
ウ 使用期間
請求人は、漠然と昭和55年から平成15年を経て、現在まで「引用商標」を継続的に使用を続けていると主張するが、どの商品をどの態様で、いつからいつまで使用したのか、あるいは、いないのか明らかにするところが全くない。
少なくとも、「引用商標」を、漠然と使用していると主張するのみでは足りず、また、スポット的にではなく、使用開始から現在まで主張する期間について使用事実は開始から現在まで継時的に証拠によって明らかにされなければならないことは当然である。
エ 使用地域
請求人は、請求人の所在地である宮崎県以外に神奈川県、岩手県、東京都、埼玉県、大阪府など複数地に及んでいると主張し、取引先の形式的証明書(甲10?甲37)を提出している。
しかし、平成15年度の販売数量をみただけでも、その数量は後述のとおり所在地の宮崎県のしょうちゅうの生産、販売(消費)、売上高に比したシェアが百分の数パーセントにも満たない些少なものであり、隣接数県はもとより、上記の他の都府県に販売された数量は、さらに極些少と容易に推察され、上記他の都府県の販売店舗数、販売店、全国の販売店舗数、販売店の多数の店舗のある営業地域(乙1、乙3)において、その程度の販売数量からみて全国的シェアどころか、地元宮崎県の商圏内、隣接数県の商圏内でのシェアも些少と推定され、請求人主張の販売地域において周知されたかどうか極めて疑わしい。
オ 生産、証明若しくは譲渡の数量又は営業の規模
請求人の主張する売上高、及び販売数量は、後で述べるとおり、所在地宮崎県のしょうちゅうの生産、販売数量に比して些少であり、隣接数県との比率は更に低いものとなり、請求人が販売する県外6都府県はおろか、全国の生産販売数量に比すれば、さらにパーセンテージが低いものであって、この程度の数量、規模をもってしては、業者の半数どころか、甲第10号証ないし甲第37号証の発行者における所在地都府県の他の同業者についてまで「引用商標」の認知力を掌握しているとは思われず、広く知られていることを認識しうるに足る数量ではない。
請求人の提出した証明書については、後で詳述する。
カ 広告宣伝の方法、回数及び内容
請求人は、引用商標の使用に係る商品について、わずか鑑評会の入賞新聞記事3点を提出するのみで、自ら積極的に広告宣伝を行った証拠を提出しておらず、宣伝による周知性の獲得もないといわなければならない。
(6)証明書(甲10?甲37)について
請求人は、同業者、取引者、需要者等の証明書として甲第10号証ないし甲第37号証を提出している。
しかし、これらの証明書は、
(a)証明文言やフォームが、数パターンに類型化されており、予め請求人が用意したフォーマットを送り、選択的に記名捺印させたものと思われる(証明書上部に記録されたFAXの痕跡から確認できるものあり。)。
(b)甲第10号証、甲第13号証ないし甲第29号証、甲第31号証ないし甲第37号証は、取扱い開始年月を証明者が記入できる様に空白を設けたフォーマットで、文章も全く同一の書面である。
(c)甲第11号証は、(参考事項 商品の画像)付きフォーマットのうち、画像1点が抹消され2点となっている。
(d)甲第12号証と甲第30号証は、(参考事項商品の画像)3点付き共通フォーマットである。(c)と(d)の対比において、甲第11号証の証明者において、画像が1点抹消されており、一応取扱い商品はチェックされたものと思われる。
(e)証明の日付が欠落しているものが多数ある(甲10?甲37、ただし、甲11、甲12を除く。)。
(f)証明内容の重要事項である取り扱い開始の年月が欠落しているものが多数ある(甲28、甲30?甲37)。
(g)記名のみで、署名又は押印がないものがある(甲29、甲35)。
(h)これらの証明を行った者は、請求人の酒を販売する酒店と思われるが、上記の如く、請求人が予め用意したフォーマットから依頼のままに記名押印し、書類の持つ意味や、標章、周知、使用等の書面の内容の詳細までを理解せずに押印している可能性が考えられる。
(i)国税庁発行「税務統計8酒税」(平成15年度(2003年度)(乙1)、同平成25年度(2013年度)(乙3))
上記証明業者を含む都道府県別業者数は、国税庁税務統計による平成15年都道府県別免許場数、宮崎県卸売業405場小売業1966場、全国計では、卸売業15,009場、小売業193,226場(乙1)、そして、証明書発行年の同平成24年度都道府県別免許場数は、宮崎県卸売業261場、小売業1747場、全国計では、卸売業11,490場、小売業181,106場(乙3)もあり、到底これら同業者の認識を代表するものとは思われず、宮崎県はおろか近県における周知性は伺えず、また、全国において請求人が示した業者の取り扱い量も推して知るべく些少であり、かつ、証明者の所在する都府県を代表する販売店でもなく、焼酎の銘柄何百とあるものの知名度を公平かつ的確に理解されているとはいい難く、これらの酒販店の所在地都府県地域ではほとんど知られていないに等しいといえるものである。
(j)そうすると、これらの証明書では、具体的にどのラベルのどの酒が年間何本その店で販売されたのかは一切明らかにするところがなく、上記のとおりその信憑性は、極めて低いものであって、販売内容に言及した証拠に値するものはそのうちのごく一部にすぎず、これらの証明書をもってしては未だ「引用商標」が周知されていたとはいえないものである。
(7)売上高、本数について
請求人によれば、「引用商標商品」(不明確)を、「昭和55年から現在にかけて継続して販売し、全国への流通に進展した結果、引用商標商品も相当程度伸びてきている。」と主張し、「表.平成15年時点での年間売上高」を示している。
この数字は、小括では「また、これらの数字からも明らかなように、請求人の会社は、昭和55年から引用商標商品を継続して販売することによって、89,118本もの商品を全国的に流通させており」とも主張しているが、これが昭和55年から平成15年までの累計の総販売量とすると、後述のとおり微量でしかない。
ともあれ請求人は、国税庁の単位のklで表していないので、仮に販売本数の合計89,118本の量を一本1.8lとしてこれを乗じて計算すると、160412.41≒160klであり、一本720mlを乗じて計算すると、64164.961≒64klとなり、おそらくこの中に納まる販売量と推定される。
そこで、この数字がどの程度の生産、販売、売上高になるのかを、平成15年度(2003年度)国税庁発行「酒税統計 8酒税」(乙1)の数値でみると、「都道府県別製成数量」(酒類の生産数量をいう)の「宮崎県のしょうちゅう」の生産数量は、「95,389kl」であり、1.8l換算の請求人の生産量160klは、宮崎県全体のしょうちゅうの生産量の0.16%、720ml換算の生産量64klでは、0.06%の生産量にしか相当しないものであり、全国計は923,297klと比すれば、前者比0.017%、後者比では0.007%に相当する量でしかない。
同国税庁販売(消費)量でみると、平成15年度宮崎県のしょうちゅうの販売量は、22,607klであり、前者比は160/22,607≒0.007(0.7%)、後者比は64/22,607≒0.0028(0.28%)しかなく、宮崎県の生産販売量だけみても、同県の生産販売量の1パーセントにも満たない微々たる量であって、隣接数県、全国の生産販売量に対する比率は、推して知るべく極めて少量であり、この数量をもって、宮崎県のみならず隣接数県で周知性を得ていたとは思われず、到底全国的に広く知られていたとは考えられない。
そして、請求人が示した販売量が仮に平成15年の単年の販売量とすると、おそらく最大の売上年度のものと推測されるが、他の年度はこれ以下と推定されるものであってみれば、到底、請求人の商品について「引用商標」が周知されていたといえない程度の数量であることは明らかである。
(8)売上金額について
請求人によれば、「引用商標商品」(不明確)を、「昭和55年から現在にかけて継続して販売し、全国への流通に進展した結果、引用商標商品も相当程度伸びてきている。」と主張し、「表.平成15年時点での年間売上金額」を示しており、合計6,330万0996円の売上を計上しているという。
しかし、2005年(平成17年)酒類食品統計月報(乙2)によれば、2003年度(03年4月ないし04年3月(平成15年度))の宮崎県の焼酎甲類乙類小計消費金額は、20,948百万円(209億4,800万円)であり、県内総売り上げ比でわずか0.47%にすぎず、他の年度はこれ以下と推定され、全国比では対755,629百万円(7,556億2,900万円)のわずか、0.008%にすぎないものであり、隣接数県の売り上げに比するまでもなく、到底この程度の売り上げでは、周知性はおろか著名性を獲得していたものとは思われないものである。
(9)DCC判決について
請求人が指摘する、上記裁判例では、コーヒー等の全国的に流通するものの名称は広島県シェア30パーセントだけでなく、隣接する山口県や岡山県等においても広く認識されている必要があるとされており、周知性を否定された判決である。
この判決の判断に照らしてみても、「引用商標商品」(不確定)は、宮崎県ですら製造数量・販売数量全体の1パーセントにも満たないものであり、隣接する南九州近県においてそれ以下、全国においては、微少ともいえるシェアであり、到底周知性のみならず、著名性を獲得していたとはいい難いものである。
(10)商標法第4条第1項第10号の趣旨
かかる全国的に流通する日常使用の一般的商品について、商標法第4条第1項第10号にいう「需要者の間に広く認識されている商標」といえるためには、それが未登録の商標でありながら、その使用事実に鑑み、後に出願される商標を排除し、また、需要者における誤認混同のおそれがないものとして、保護を受けるものであること及び今日における商品流通の実態及び広告、宣伝媒体の現況などを考慮するとき、本件商標の登録出願時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべきである立法の趣旨を、請求人の主張は、これを大きく逸脱するものである。
(11)居酒屋メニュー
上記でも述べたとおり、請求人が提出する甲第38号証ないし甲第41号証のメニューの態様では「純麦」の標章が小さすぎて視認すら困難であり、居酒屋メニューに掲載の酒がすべて周知著名というわけではなく、各銘柄の酒の認知度はすべて異なり、たとえ全国チェーンの居酒屋メニューに掲載されたことの一事をもって不確定な「引用商標」(甲2)が周知されていたとは到底いえないものである。
(12)周知著名な焼酎のみならずレアな焼酎までを紹介した事典類に掲載が見当たらない。
請求人の主張する「引用商標」を使用した商品(不確定)が、周知著名とすれば、少なくとも焼酎を紹介した事典・ガイドブックの類に掲載の一つや二つ紹介がなされていても不思議はないはずであるが、乙第4号証ないし乙第11号証の事典・ガイドブックは、著名なものから、販売量は少ない相当レアな焼酎として知られる焼酎を掲載して紹介もしているが、請求人の主張する「引用商標」を使用した焼酎は、これらのいずれの本にも見当たらない。

3 商標法第4条第1項第10号に該当しない
上記のとおり、請求人の「引用商標」は、使用態様が不明確又は極小の文字により一見して視認も困難な位置に表示して使用された態様の標章であり、周知性を獲得していたとは思われないこと上記いずれの点よりみても明らかなとおりであり、「引用商標」を付して販売したとする平成15年の販売量、売上高とも、宮崎県の焼酎の製造量、販売量、販売(消費)金額に比してみても、極々些少であって、県内の周知性すら伺い得ない程度のものが、隣接近県での周知性を獲得していたものとは到底認められないものである。
したがって、「引用商標」は、本件商標の登録出願時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくとも、その同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることは無いものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号には該当しないものである。

4 商標法第4条第1項第15号に該当しない
前述のとおり、「引用商標」は、本件商標の登録出願時において、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくとも、その同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることはなく、まして、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されていた事実は存しないから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号には該当しないものである。

5 商標法第4条第1項第19号に該当しない
(1)請求人の「引用商標」は、本件商標の登録出願時において、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくとも、その同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることはなく、まして、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されていた事実は存しない。
(2)請求人には商標登録を怠り商標登録制度を利用しなかった非がある。
我が国商標法は、登録主義を採用しており、商標を登録によって保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とするところ、請求人は、引用商標について商標登録を怠っていた一方で、「被請求人は、このように既に請求人が長年にわたり使用している引用商標を、請求人が商標登録していないことを奇貨として、請求人に無断で抜け駆け的に登録出願し、その後、請求人に対し、業務遂行上、引用商標を使用する場合に、被請求人の許諾が必要であるとして、使用の停止又は中止の要望を突如通告してきた」と主張し、本件審判請求に及ぶが、前述のとおり請求の根拠は乏しくその理由は成り立たない。
(3)本件商標は、被請求人(商標権者)及びその子会社である宝酒造株式会社が、本件の商標登録をなすについて、自己の研究の成果として芋麹、蕎麦麹の特許発明(乙12、乙13)に基づく原料全量焼酎の製造販売のため、多数の商標登録を行ったうちの一であり、正当に商標法制度に則り商標出願し登録を行ったものであり、当該商標権に基づく権利の行使は、商標法のもとでの通常の権利行使の範囲である。
(4)被請求人(商標権者)の出願「純麦」は、米・芋・そば・麦について、「全量●」「純●」「オール●」・・・など大量に出願した一貫で出願されたものである。
これは、独自開発した新技術により、米・麦等の従来技術で可能であった原料以外においても良質な麹を作れるようになったことから、こうした新技術を特許出願し(特許第4052420号(乙12)、特許第4371408号(乙13))これを活用した商品開発をおこなうとともに、当該商品のブランドを確立するために出願したものである。
被請求人(商標権者)及びその子会社である宝酒造株式会社では、掛け原料と同じ原料を使用した麹で仕込んだ乙類焼酎を開発しており、(一刻者、十割など)、さらに、こうした焼酎を各原料でシリーズ化し、一貫性のあるブランドを構築することにより、ブランド面から被請求人(商標権者)及びその子会社である宝酒造株式会社の焼酎の他社からの差異化を図るという目的のもとに、その一商標として、「純麦」の登録を行ったものであり、当該出願は、請求人の商標を冒認出願で取得したものではないし、その必要性も利点も全くない。
(5)被請求人(商標権者)は、被請求人(商標権者)側の考えとして「被請求人(商標権者)の登録商標についてこれを侵害する、使用をやめて欲しい」旨を伝えたが、合わせて請求人の考えも聞いており、一方的に通告したものではなく、通常の商標権の行使の範囲内にある行為である。
そしてまた、請求人からの返答を受けて、次善案として使用許諾契約締結も提案して(乙18、乙20)おり、特段の利益を得ることを想定していないのは明白である。
被請求人と請求人のやりとりは、乙第14号証(甲43と同じ。)ないし乙第21号証のとおりである。
(6)請求人は、被請求人からの使用許諾の提案をも無視し、商標制度に基づく商標登録に依らず、唯使用していたとの漠然とした主張を以って本件審判の請求に及んだものであり、その主張は成り立たない。
(7)したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しないものである。

6 結論
上述の如く、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当しないものであり、本件無効審判請求によって無効とされるべきでない。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
引用商標は、別掲のとおり「純麦」の文字を筆書き風に書してなるものであるところ、まず、その周知著名性について、以下検討する。
(1)事実認定
証拠並びに請求及び答弁の趣旨によれば以下の事実が認められる。
ア 鑑評会での入賞について
(ア)請求人の商品「純麦」が、昭和56年に行われた南九州4県の酒類の鑑評会において、しょうちゅうの部で入賞した(甲4)。
(イ)請求人の商品「純麦」が、平成17年に行われた熊本国税局管内4県の酒類の鑑評会において、本格焼酎の部で入賞した(甲5)。
(ウ)請求人の商品「純麦」が、平成18年に行われた熊本国税局管内4県の酒類の鑑評会において、本格焼酎の部で入賞したと推認できる(甲6、この号証は不鮮明であるから記事の詳細な内容は確認することができない。)。
(エ)請求人のしょうちゅう「純麦」が、昭和62年4月16日、熊本国税局にて開催された昭和62年酒類鑑評会において優等賞を受賞した(甲7)。
イ 引用商標が使用された商品の販売状況及び数量について
請求人は、引用商標を使用したラベルを付した焼酎として、「720mlフロスト瓶」(甲44)、「一升瓶」(甲45)及び「紙パック」(甲46)を提示している。
平成15年における「純麦フロスト720ml」の「得意先別商品売上」(甲9)には、得意先名として、神奈川県、岩手県、東京都、埼玉県、大阪府、山梨県及び宮崎県の住所と本数(合計6,108本)が記載されている。
さらに、請求人は、「引用商標商品は、平成15年時点において、複数地域に対して販売本数89,118本の販売を行っており、その結果約6,330万円もの売り上げを上げている。」と主張し、「商品別売上一覧表」(甲49)を提出した。
ウ 取引先による証明について
(ア)請求人の商品「麦焼酎」を取り扱っている取引事業者により、「本件商標登録出願前から『『純麦』商品』を取り扱い、『純麦』の商標は、取り扱い関係者及び消費者において周知されており、同業者であれば『純麦』の商標を焼酎に使用すると、請求人の製造、販売によるものであると推認されることは明らかである」旨の証明書が提出されている(甲10、甲13?甲29、甲31?甲37)。
なお、これらの証明書は、その全てに署名の日付が記入されておらず(「受領日」の日付は署名者が記載したものとは認められない。)、甲第29号証及び甲第35号証には署名者の捺印がなく、甲第28号証及び甲第31号証ないし甲第37号証には取扱い開始時期が記載されていない。
(イ)請求人の商品を取り扱っている取引事業者により、2001年3月から請求人の商品(焼酎の1800ml瓶に、毛筆により縦書きされた「純麦」との文字が表されたラベルが付されたもの、並びに焼酎の720ml瓶に、毛筆により横書きされた「純麦」の文字及び「SAKURA」「IZUMI」の欧文字が書されたラベルが付されたもの)を取り扱っている旨の平成26年9月29日付け証明書が提出されている(甲11)。
(ウ)請求人の商品を取り扱っている取引事業者により、昭和57年4月から請求人の商品(焼酎の1800ml瓶に、毛筆により縦書きされた「純麦」との文字が表されたラベルが付されたもの、同じく紙パックに毛筆により、縦書きされた「純麦」との文字が表されたラベルが付されたもの、並びに焼酎の720ml瓶に、毛筆により横書きされた「純麦」の文字及び「SAKURA」「IZUMI」の欧文字が書されたラベルが付されたもの)を取り扱っている旨の平成26年10月1日付け証明書が提出されている(甲12)。なお、同様の証明がされている甲第30号証には取り扱い開始日及び署名日が記入されていない。
エ 引用商標の使用について
(ア)「1998年4月?」の記載がある「くつろぎの星 庄や」の「おしながき」には、「桜泉 純麦」と縦書きされた表示の商品「焼酎」が掲載されている(甲38)。
(イ)「2002年春夏」の「くつろぎの星 庄や」の「おいしい旬」には、「桜泉 純麦」と縦書きされた表示の商品「焼酎」が掲載されている(甲39)。
(ウ)2004年のものと推認される、「やるき茶屋」のDrink Menuには、「桜泉 純麦」と縦書きされた表示の商品「焼酎」が掲載されている(甲40、甲41)。
(2)引用商標の周知性について
ア 引用商標が使用されている商品
引用商標が使用されている商品は、「麦を原材料とした焼酎」(甲44?甲46)であるが、本件商標の登録出願前に引用商標又は「純麦」の文字を使用した商標が使用されている商品を示したものは、甲第11号証、甲第12号証及び甲第30号証の取引先による証明書並びに甲第38号証ないし甲第41号証の居酒屋のメニューにとどまるものである。
イ 取引先による証明書について
請求人が引用商標が周知であるとして提出した取引先による証明書(甲10?甲37)についてみると、証明日の記載がないなど書証として不完全なものも含め、あらかじめ請求人が用意した用紙に署名者が取引開始時期や氏名を記載したものと推認され、署名者がどのような事実をもって、甲第2号証に示された引用商標の周知性を証明しているのか判然とせず、各証明の内容は客観性に欠けるものというべきであって、証拠としての信用性は低いといわざるを得ないものである。
ウ 引用商標の使用期間
請求人は、昭和55年から引用商標を使用して「麦を原材料とした焼酎」を継続して販売してきた旨主張しているところ、これについては、鑑評会での入賞(甲4、昭和56年)や請求人と被請求人とのやりとりに関する証拠(乙14?乙21)などを総合すれば、請求人は、昭和55年から継続して引用商標を使用して「麦を原材料とした焼酎」を継続して販売してきたことが認められる。
エ 引用商標の使用地域
引用商標を使用した商品は、おおむね日本全国で販売されている(甲9?甲40)。
オ 宣伝広告の程度
請求人は、引用商標を使用した商品についての宣伝広告の実績を示す証拠は提出していない。
カ 販売数量
上記(1)イで示したように、請求人が主張する平成15年の引用商標商品の販売本数89,118本との数値について、仮にそれがすべて1.8l瓶のものであるとしても、160,412lであり、これは、平成15年度の宮崎県の販売量(22,607kl)の1パーセントにも満たないものである(乙1及び答弁の趣旨)。
また、請求人が主張する「麦」を主原料とする焼酎の近年3年間の宮崎県の製成数量の平均「26,586kl」を、母数としても、請求人の生産数量75,781lのシェアは、約0.29%である。
さらに、請求人は、「焼酎の場合、その対象層によって、多数の消費者に販売することが必ずしも目的とならず、限定品、レア物であることで、かえって、周知性、著名性を獲得する現実があり、売り上げの多寡がブランドの著名性とダイレクトに結びつくとは限らない。」と主張するが、引用商標を使用した商品が「限定品、レア物である」などを示す証拠は提出していないから、該主張について検討することができない。
キ 小活
以上によれば、甲第2号証に示された引用商標は、昭和55年から「麦を原材料とした焼酎」に継続使用されているとしても、その周知性を証明する取引先による証明書は証拠として信用性が低く、引用商標が使用された地域に関しても極めて限られた証拠しか提出されておらず、請求人による宣伝広告の程度も明らかではない。
さらに、引用商標が使用された「麦を原材料とした焼酎」の販売量については、仮に平成15年の請求人主張の販売本数が事実であるとしても、それは決して多いとはいえず、平成15年以外の年における取引量、シェアは明らかではない。
してみれば、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「麦を原材料とした焼酎」を表示するものとして、取引者及び需要者の間に広く認識されて、周知著名となっていたということはできないものである。

2 商標法第4条第1項第10号について
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「麦を原材料とした焼酎」を表示するものとして、取引者及び需要者の間に広く認識されていたということができないから、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第15号について
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「麦を原材料とした焼酎」を表示するものとして周知著名性を獲得していたということができないから、本件商標を被請求人がその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者が、該商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように連想、想起することはなく、請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

4 商標法第4条第1項第19号について
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品「麦を原材料とした焼酎」を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されていたということができないものである。
そして、請求人は、本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当するとして甲第43号証を提出しているが、同号証は被請求人(商標権者)による、商標法に基づく通常の警告行為といえるものであって、これが違法性がある行為とはいえず、かつ、乙第14号証ないし乙第21号証の請求人と被請求人との一連のやりとりに照らせば、被請求人は解決の一案として使用許諾契約又は権利不行使契約の締結を提案しており、被請求人が不正の利益を得ることや請求人に損害を加えることを目的とするなどの、不正の目的をもって本件商標を使用するといえる事情も認められないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当しないから、同法第46条第1項により、無効とすることはできないものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別掲】 引用商標




審理終結日 2016-04-26 
結審通知日 2016-05-02 
審決日 2016-05-16 
出願番号 商願2011-39246(T2011-39246) 
審決分類 T 1 11・ 222- Y (X33)
T 1 11・ 271- Y (X33)
T 1 11・ 25- Y (X33)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大渕 敏雄安達 輝幸北口 雄基 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 原田 信彦
大森 健司
登録日 2012-11-30 
登録番号 商標登録第5539445号(T5539445) 
商標の称呼 ジュンムギ、ジュンバク 
代理人 小木 智彦 
代理人 特許業務法人みのり特許事務所 
代理人 長友 慶徳 

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