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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y05
管理番号 1315765 
審判番号 取消2014-300121 
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-02-19 
確定日 2016-05-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4942833号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4942833号商標の指定商品中、第5類「薬剤(農薬に当たるものを除く)」についての登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4942833号商標(以下「本件商標」という。)は、「PITAVA」の欧文字を標準文字で表してなり、平成17年8月30日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同18年4月7日に設定登録され、その後、平成26年11月18日付けの商標権の分割により、指定商品を第5類「薬剤但し、ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤を除く」とする登録第4942833号の1商標と指定商品を第5類「ピタバスタチンカルシウムを含有する薬剤」とする登録第4942833号の2商標に分割されたものである。
そして、本件審判の請求の登録日は、平成26年3月10日である。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、審判事件弁駁書並びに平成26年11月28日付け及び同27年12月28日付け上申書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証(枝番号を含む)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁における主張
(1)被請求人の使用に係る標章「ピタバ」は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標とはいえない。
被請求人は、本件商標について、キョーリンリメディオ株式会社(以下「キョーリン」という。)に通常使用権を許諾しており、キョーリンが販売している医療用医薬品「ピタバスタチンCa錠1mg『杏林』」、「ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」(以下、これらをあわせて「キョーリン商品」という場合がある。)の製品パンフレット(乙3及び乙4)には、「ピタバ」の商標が明示された錠剤の写真が掲載されているとともに、「ピタバ」の商標が明示されたPTP包装の裏面写真が掲載されているとして、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていると主張する。
しかしながら、本件商標「PITAVA」には「ピタバ」、「ピタヴァ」、「パイタバ」などの複数の片仮名表示があり得るから、それぞれの片仮名に照応した称呼が生じ得る。また、仮に本件商標が被請求人採択に係る造語商標と理解されるとすれば、「PITAVA」からは特定の観念は生じ得ないから、片仮名「ピタバ」から生じる観念と対比するすべもなく、共通の観念を生じると認めることもできない(なお、本件商標からは「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称といった観念が生じるとすれば、乙第3号証及び乙第4号証における「ピタバ」の使用は自他商品識別標識としての使用とはいえない。(2)で詳述する。)。
したがって、本件商標とキョーリンが使用する標章「ピタバ」は社会通念上同一と認められる商標ということはできないから、乙各号証によっては本件商標と社会通念上同一の商標が使用された事実を認めることはできない。 (2)キョーリンの使用に係る標章「ピタバ」は自他商品識別標識としての使用とはいえないことについて
ア キョーリン商品における「ピタバ」の表示態様について確認すると、乙第3号証及び乙第4号証によれば、錠剤に「ピタバ/1/杏林」の刻印を、また、PTP包装上に「ピタバ/スタチンCa/『杏林』」の表示をしていることが認められる。
しかしながら、該「ピタバ」の表示は、以下に述べるとおり、これに接する取引者・需要者に有効成分である「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称と理解されるものであるから、これが自他商品識別標識(出所表示)として機能することはない。
イ キョーリン商品の取引の実情について
キョーリン商品は、処方せん医薬品(乙2)であり、薬事法第49条第1項によって、病院、診療所、薬局等への販売(授与を含む)する場合を除いては、医師等からの処方せんの交付を受けた者以外の者に対して、正当な理由なく販売を行ってはならない(甲4)。
よって、キョーリン商品を任意に選択して購入することが可能なのは、病院、診療所、薬局等に限られるので、同商品は医薬品に関して高度な知識を有する医師、薬剤師などの専門家に提供されるまでの間に限って流通する商品ということができる。
ウ キョーリン商品の有効成分「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」について
「ピタバスタチン」(pitavastatin)は、世界保健機構(WHO:World Health Organization)が定める医薬品の国際一般名(International Nonproprietary Names,略称「INN」)として登録されており(甲5)、また「ピタバスタチンカルシウム」(pitavastatin calcium)は厚生労働省が定める医薬品一般的名称(Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals、略称「JAN」)として定められている(甲6)。
ここで、国際一般名とは、世界保健機関(WHO)が設定する、医薬品の非独占的・一般的名称であり(甲7)、また、医薬品一般的名称とは、厚生労働省の医薬品名称調査会が承認する医薬品の名称であって、医療用後発医薬品の販売名については、(ア)販売名の記載にあたっては、含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量、会社名(屋号等)を付すこと、(イ)申請品目が日本薬局方に収載されている場合は、原則として、一般的名称は日本薬局方に収載されている名称を用いること、とされている(甲8)。
そのため、キョーリンも同社が販売する後発医薬品「HMG-CoA還元酵素阻害剤」について、その販売名を有効成分に係る一般的名称に剤型、含量、会社名(屋号等)を付した「ピタバスタチンCa(カルシウム)錠1mg『杏林』」、「「ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」を使用している(乙1ないし乙5)。
以上のことから、「ピタバスタチン」又は「ピタバスタチンカルシウム」の語は医薬品において自他商品識別力を有しない普通名称であることが立証される。
エ 「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称として「ピタバ」の語が使用されていることについて
コレステロール低下薬としては「スタチン系」の薬が有名であり、例えばその中でも強力なストロングスタチン3種として、「ピタバスタチン」、「アトルバスタチン」、「ロスバスタチン」が存在するが、これらはそれぞれ「ピタバ」、「アトルバ」、「ロスバ」の語が略称として使用されている(甲9)。
そして、医療、医薬に関する文献において、「ピタバスタチン」は、「ピタバ」と略して使用されている事実がある。例えば、甲第10号証の文書中19頁(参考資料の8葉目)において「ピタバNP製剤」と記載され、「ピタバスタチン」は、「ピタバ」と略して使用されている。また、甲第11号証の2葉目に「ピタバ」、「ピタバナノ粒子」と記載され、「ピタバスタチン」は「ピタバ」と略して使用されている。
さらに、「アトルバスタチン」のことを「アトルバ」、「ロスバスタチン」のことを「ロスバ」と略して使用されているし(甲12ないし甲14)、実際の調剤薬局の現場においても、「アトルバスタチン」を「アトルバ」、「シンバスタチン」を「シンバ」、「プラバスタチン」を「プラバ」、「フルバスタチン」を「フルバ」、「ロスバスタチン」を「ロスバ」と略して使用されている事実がある(甲15)。
このように、スタチン系の成分として、「スタチン」という用語を除外した部分を略称として使用することは一般的に行われており、「ピタバ」は普通名称である「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称として一般に使用されていることが明らかである。
オ 製薬会社による「ピタバ」の表示の使用状況について
「ピタバ」の語は、「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」を有効成分とする後発医薬品の略称(有効成分の表示)として複数の製薬会社により実際に使用されている(甲16)。例えば、請求人であるMeijiSeikaファルマ株式会社や小林化工株式会社、テバ製薬株式会社、沢井製薬株式会社は、錠剤に印刷もしくは刻印する態様にて「ピタバ」を使用しているし、ニプロ株式会社や東和薬品株式会社は、外装シート上にて「ピタバスタチン」の文字列のうち「ピタバ」の文字部分のみを大きく表示する態様にて使用している。
カ 以上のようなキョーリン商品及び「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」を有効成分とする後発医薬品の取引の実情よりすれば、キョーリンによる錠剤への「ピタバ/1/杏林」の刻印中における「ピタバ」の文字やPTP包装上における「ピタバ/スタチンCa/『杏林』」の表示中における「ピタバ」の文字は、これに接する取引者・需要者に当該錠剤の有効成分である「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称であると容易に理解されるものであるから、これが自他商品識別標識(出所表示)として機能することはない。
そもそも、キョーリン商品は、流通過程においては外箱、内袋などに包装されているから、錠剤における「ピタバ/1/杏林」の表示、あるいはPTP包装上における「ピタバ/スタチンCa/『杏林』」の表示にキョーリン商品の取引者・需要者がいきなり接する場合は想定し難いものではあるが、医薬品に関して高度な知識を有する医師、薬剤師などの専門家にとっては、「ピタバ/1/杏林」、「ピタバ/スタチンCa/『杏林』」の表示中における「ピタバ」の文字は、有効成分「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称と明確に理解するものであること、本弁駁書で主張したことより明らかである。
そして、上記「イ キョーリン商品の取引の実情について」で述べたとおり、患者が服用する際には、すでにキョーリン商品の流通過程は終了しているから、患者自身が錠剤における「ピタバ/1/杏林」の表示、あるいはPTP包装上における「ピタバ/スタチンCa/『杏林』」の表示により商品を識別することはない。つまり、これらの表示は患者にとっては服用する際に、例えば誤飲防止のために、キョーリン商品の医薬品としての有効成分が「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」であることを確認するための意味を有するにすぎないものである。
キ ちなみに、被請求人の提出に係る乙第3号証の1葉目には、「point3 一錠毎に成分名と含量を表示」と記載されているから、キョーリン自身も錠剤における「ピタバ」の表示は、成分名の表示(有効成分「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称)と認識していることが立証される。ひいては、キョーリンは、「ピタバ」を自他商品識別標識(出所表示)と認識して使用しているものではないことも明らかであり、請求人の主張の正当性・客観性を担保する強力な証左である。
さらには、被請求人は、平成25年10月17日付けにて「ピタバ」を商標登録出願したが、特許庁が通知した拒絶理由は、「ピタバ」の文字は、「ピタバスタチンカルシウム」又は「ピタバスタチン」の略称として使用されているから、「ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする薬剤」に使用したときは、「ピタバスタチンカルシウムを有効成分とする商品」等の意味合いを理解させるにとどまり、単に商品の原材料、品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当し、前記以外の商品に使用するときは商品の品質に誤認を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第16号に該当するというものである(甲17)。
この拒絶理由通知における特許庁の判断も請求人の主張の正当性を裏付ける一証左である。
ク したがって、乙第3号証及び乙第4号証におけるキョーリンの使用に係る標章「ピタバ」は、自他商品識別標識としての使用ということはできず、被請求人提出に係る乙各号証によっては、いまだ「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」について本件商標の使用があったと認めることはできない。
3 平成26年11月28日付け上申書における主張
請求人の主張の正当性を立証するものとして、東京地裁平成26年(ワ)第768号判決(平成26年10月30日判決言渡)を甲第18号証として提出する。
同判決において、「キョーリンによる『ピタバ』の使用をもって同項にいう通常使用権者による本件商標又はこれと社会通念上同一と認められる商標の使用があるということはできないから、本件商標の商標登録は、不使用取消審判により取り消されるべきことが明らかであると考えられる。」と明確に判示されている。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人提出に係る乙各号証によっては、いまだ本件商標が本件審判請求の登録前に使用された事実は証明されない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、審判事件答弁書及び平成27年12月28日付け上申書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)本件商標は、その指定商品について、本件審判請求の登録前3年以内(以下「要証期間内」という。)に使用されていたものである。
(2)被請求人とキョーリンとの間で、2013年12月19日に締結された商標使用許諾契約書(乙1)から明らかなとおり、被請求人は本件商標について、キョーリンに通常使用権を許諾している。
(3)「ピタバスタチンCa錠1mg/2mg『杏林』」の医薬品インタビューフォーム(乙2)から明らかなとおり、キョーリンは、2013年12月13日から当該医療用医薬品の販売を開始した。
キョーリンが、当該医療用医薬品の販売促進のために作成頒布した製品パンフレット(乙3及び乙4)には、「ピタバ」の商標が明示された錠剤の写真及び「ピタバ」の商標が明示されたPTP包装の裏面写真が掲載されている。また、当該医療用医薬品の添付文書の【組成・性状】の表中、外観の欄にも「ピタバ」の商標が明示されている。
そして、当該商標「ピタバ」と本件商標「PITAVA」が、商標法第50条第1項に規定の社会通念上同一の商標であることは明らかである。
してみれば、本件商標は、通常使用権者により、医療用医薬品自体はもとより、その包装及び広告にも使用されていた事実は極めて明らかで、何人もこれを否定することはできない。
2 平成27年12月28日付け上申書における主張
本件審判事件に関し、被請求人は、答弁書にて取り消しを免れるべき主張を十分に行っている。

第4 当審の判断
被請求人は、本件商標に係る通常使用権者であるキョーリンが、要証期間内に、「医療用医薬品」に、本件商標と社会通念上同一の商標の使用をしたと主張し、製品パンフレット(乙3及び乙4)には、「ピタバ」の商標が明示された錠剤及び「ピタバ」の商標が明示されたPTP包装の裏面が掲載され、当該医療用医薬品の添付文書の【組成・性状】の表中、外観の欄にも「ピタバ」の商標が明示されている旨述べているので、以下検討する。
1 被請求人提出の主張及び証拠によれば以下の事実が認められる。
(1)乙第1号証について
乙第1号証は、被請求人を甲、キョーリンを乙とする2013年12月19日付けの本件商標に関する「商標使用許諾契約書」であり、「第2条(許諾範囲)」に本件商標の許諾範囲について、「地域:日本全国」、「製品:医療用医薬品ピタバスタチンCa錠1mg『杏林』 ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」、「表示:錠剤への刻印表示『ピタバ』及びPTP包装表示『ピタバ』」、「期間:第9条に定める本契約の有効期間中」の記載があり、「第9条(有効期間)」に「本契約の有効期間は、平成25年12月13日より遡及して発効するものとし、乙が現在、在庫として保有している数量の本件商標を付した製品(以下「本製品在庫」という)の販売完了時迄とする。なお、乙は、甲に対し本製品在庫の販売完了がなされた場合速やかに、甲にその旨を通知するものとする。」の記載がある。
(2)乙第2号証について
乙第2号証は、2013年12月作成のキョーリン商品の医薬品インタビューフォームであり、上段に、「HMG-CoA還元酵素阻害剤」、「ピタバスタチンCa錠1mg 『杏林』」、「ピタバスタチンCa錠2mg 『杏林』」、「PITAVASTATIN Ca Tablets “KYORIN”」及び「(ピタバスタチンカルシウム錠)」の記載があり、下段に、「製剤の規制区分」の欄に「処方せん医薬品」、「規格・含量」の欄に「ピタバスタチンCa錠1mg 『杏林』:1錠中、ピタバスタチンカルシウム1mgを含有」及び「ピタバスタチンCa錠2mg 『杏林』:1錠中、ピタバスタチンカルシウム2mgを含有」、「一般名」の欄に「和名:ピタバスタチンカルシウム(JAN)」及び「洋名:Pitavastatin Calcium(JAN)」、「発売年月日:2013年12月13日」及び「製造販売元:キョーリンリメディオ株式会社」の記載がある。
(以下、「ピタバスタチンCa錠1mg『杏林』」を「キョーリン商品1」、「ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」を「キョーリン商品2」及び両方をあわせて「キョーリン商品」という場合がある。)
(3)乙第3号証について
ア 乙第3号証は、2013年12月作成のキョーリン製薬グループの製品パンフレットであるところ、その1葉目に、「キョーリン リメディオのジェネリック医薬品」の見出しで、「HMG-CoA還元酵素阻害剤」、「ピタバスタチンCa錠1mg/錠2mg『杏林』」、「PITAVASTATIN Ca Tablets “KYORIN”」の記載がある。
イ キョーリン商品1及びキョーリン商品2について、それぞれ14錠ずつPTPシートにパッケージされた商品の表面と裏面及び「1mg(実寸大)」及び「2mg(実寸大)」の記載とともに錠剤が表示されている。
そのうちのキョーリン商品1のPTPシートをみるに、表面の上部及び中央部に「ピタバスタチンCa錠」及び「1mg『杏林』」の文字が2段で記載され、14錠の各錠剤部分にはそれぞれ「ピタバスタチン」及び「Ca」の文字が2段で記載され、また、裏面の上部に「PITAVASTATIN」と「Ca 1mg」の文字が2段で記載され、その下に「ピタバ」、「スタチンCa」及び「『杏林』」の文字が3段で記載されている(「ピタバ」の文字は他の文字に比べ大きく表示されている。)。
また、キョーリン商品2のPTPシートにおける記載等についても、「1mg」を「2mg」とする以外は、キョーリン商品1と同様である。
さらに、錠剤には、キョーリン商品1について、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字及びキョーリン商品2について、「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が3段で記載されている。
ウ 乙第3号証の2葉目には、「Drug Information」の見出しで、「販売名」として、「和名」に「ピタバスタチンCa錠1mg『杏林』」及び「ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」の記載、「洋名」に「PITAVASTATIN Ca Tablets “KYORIN”」の記載、「販売開始」に「2013年12月」の記載、「【組成・性状】」として、「成分分量」に「ピタバスタチンカルシウム 1mg」及び「ピタバスタチンカルシウム 2mg」の記載、「外観」に2つの錠剤の図形が表示され、1つには、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字、もう1つには「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が3段で記載されている。
(4)乙第4号証について
乙第4号証は、2013年12月作成の「キョーリン製薬グループ」 の製品パンフレットであるところ、その1葉目に、「キョーリン リメディオのジェネリック医薬品 追補収載品目一覧」の見出しで、「HMG-CoA還元酵素阻害剤」及び「ピタバスタチンCa錠 1mg/2mg『杏林』」の記載とその右側に「先発品 リバロ錠 1mg/2mg」の記載があり、中央上段に、「1mg」と「2mg」の記載の下に、それぞれの錠剤が表示され、右側に、その錠剤が14錠ずつPTPシートにパッケージされた商品の表面と裏面が表示されている。
そのうちの「1mg」の錠剤には、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字、また、「2mg」の錠剤には、「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が3段で記載され、それぞれの錠剤の下に、「有効成分」として、「1錠中 ピタバスタチンカルシウム1mg」及び「1錠中 ピタバスタチンカルシウム2mg」の記載がある。
また、キョーリン商品1及びキョーリン商品2のPTPシートの記載等は、乙第3号証のPTPシートの記載と同様である。
(5)乙第5号証について
乙第5号証は、「ピタバスタチンCa錠1mg/錠2mg『杏林』」の添付文書であるところ、その1葉目に、「【組成・性状】」として、「成分分量」に「ピタバスタチンカルシウム 1mg」及び「ピタバスタチンカルシウム 2mg」の記載、「外観」に2つの錠剤の図形が表示され、1つには、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字、もう1つには「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が3段で記載されている。
2 請求人提出の主張及び証拠によれば以下の事実が認められる。
(1)甲第8号証は、平成17年9月22日付けの厚生労働省医薬食品局審査管理課長からの各都道府県衛生主幹部(局)長宛の「医療用後発医薬品の承認申請にあたっての販売名の命名に関する留意事項について」と題する通知であり、「1.一般名称を基本とした販売名を命名する際の取扱い」として、「(1)全般的事項」に「ア 販売名の記載にあたっては、含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付すこと。」及び「イ 申請品目が日本薬局方に収載されている場合は、原則として、一般的名称は日本薬局方に収載されている名称を用いること。」の記載、「(2)語幹に関する事項」に「ア 有効成分の一般名称については、その一般名称の全てを記載することを原則とするが、当該有効成分が塩、エステル及び水和物等の場合にあっては、これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと。また、他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては、塩、エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であること。」の記載がある。
(2)「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」の略称として「ピタバ」の語が使用されていることについて,例えば、次の記載がある。
ア 甲第9号証は、2010年3月15日付けNPO法人臨床応用化学の「Vascular Street」の見出しの記事であるところ、「強力なストロングスタチン3種(ピタバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチン)を同時に比較した研究で・・・アルトバに101例、ロスバに100例、ピタバに101例・・」の記載を始め、「ピタバスタチン」を「ピタバ」と省略して記載されている。
イ 甲第10号証は、「血管内皮細胞選択的ナノDDS技術開発を基盤とする・・・橋渡し研究(ピタバスタチン封入ナノ粒子製剤の研究開発)」の見出しの記事であり、「ピタバスタチン封入ナノ粒子製剤」、「ピタバNP製剤などの記載がある。
ウ 甲第11号証は、「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」の見出しの記事であり、「研究概要」として、「試験物の名称(略称)」に「ピタバスタチン封入PLGAナノ粒子(ピタバNP)製剤」の記載がある。
エ 甲第13号証には、「2012年6月22日薬科収載品一覧 2次後発もぞくぞくと発売(アトルバ、ドネペ、アムロ10mgなど)」の見出しの下、「アトルバスタチン錠5mg」の記載及び甲第14号証には、「ロスバ、アトルバ上回る傾向」の見出しの下、「ロスバスタチン40mg/日群およびアトルバスタチン80mg/日群・・・」の記載がある。
(3)甲第16号証は、請求人作成の「『ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)』を有効成分とする後発医薬品の一覧写真」であるところ、例えば、次の記載がある。
ア 請求人の錠剤には、「ピタバ」、「1」及び「明治」の文字が記載され、また、PTPシートには、表面の上部に「ピタバスタチンCa1mg『明治』」の文字、錠剤部分の上部に「ピタバスタチン」と「1mg]の文字が記載され、また、裏面の上部に「PITAVASTATIN Ca 1mg」の文字、その下に「ピタバスタチン」、「Ca 『明治』」及び「1mg」の文字が記載されている。
イ 「テバ製薬」の錠剤には、「ピタバ」、「1」及び「テバ」の文字が記載され、また、PTPシートには、表面の上部に「ピタバスタチン」、「カルシウム1mg 『テバ』」の文字が記載され、各錠剤部分の上部に「TV Pl 1」の文字と下部に「ピタバスタチン1mg」の文字か記載され、また、裏面の上部に「Pitavastatin Calcium」及び「1mg『TEVA』」の文字が記載され、その下に「ピタバスタチン カルシウム 『テバ』」の文字が記載されている。
ウ 「沢井製薬」の錠剤には、「SW」、「ピタバ」及び「1」の文字が記載され、また、PTPシートには、表面の上部に「ピタバスタチンCa 1mg『サワイ』」の文字、錠剤部分の上部に「ピタバスタチン」及び「Ca 1」の文字か記載され、また、裏面の上部に「Pitavastatin」の文字と「Calcium 1mg」の文字が記載されている。
3 上記1及び2で認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(1)キョーリン商品及びその成分表示について
ア キョーリンは、2013年12月13日に「ピタバスタチンCa錠1mg 『杏林』」及び「ピタバスタチンCa錠2mg 『杏林』」(キョーリン商品)の販売を開始した(乙2)。
イ キョーリン商品は、「HMG-CoA還元酵素阻害剤」であり、1錠中にピタバスタチンカルシウム1mg又は2mgを含有するものであり(乙2)、先発品を「リバロ錠 1mg/2mg」とするジェネリック医薬品(医療用後発医薬品)である(乙3及び乙4)。
ウ キョーリン商品の医薬品インタビューフォーム(乙2)には、「一般名」として、和名が「ピタバスタチンカルシウム(JAN)」及び洋名が「Pitavastatin Calcium(JAN)」と記載されているところ、「ピタバスタチンカルシウム(pitavastatin calcium)(JAN)」は、厚生労働省が定める医薬品一般的名称(Japanese Accepted Names for Pharmaceuticals,略称「JAN」)である(甲6)。
エ 上記2(1)のとおり、厚生労働省医薬食品局審査管理課長の通知によれば、(ア)医療用後発医薬品の販売名の記載について、含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付すこと、申請品目が日本薬局方に収載されている場合は、原則として、一般的名称は日本薬局方に収載されている名称を用いることとされており、また、(イ)語幹に関して、有効成分の一般名称については、その一般名称の全てを記載することを原則とするが、当該有効成分が塩、エステル及び水和物等の場合にあっては、これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと、及び他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては、塩、エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であることとされている(甲8)。
そうすると、キョーリン商品の販売名である「ピタバスタチンCa 錠 1mg/ 錠 2mg『杏林』」は、医療用後発医薬品の販売名に関する厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知に従って命名されたものであって、有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付したものであるといえ、「ピタバスタチンCa」及び「PITAVASTATIN Ca」の各文字部分は、医薬品において有効成分に係る一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」を表示するものといえる。
(2)キョーリン商品のPTPシートにおける「ピタバ」及び「スタチンCa」の表示について
乙第3号証及び乙第4号証には、販売名として、「ピタバスタチンCa錠1mg/錠2mg『杏林』」及び「ピタバスタチンCa錠1mg『杏林』」、「ピタバスタチンCa錠2mg『杏林』」の記載があることから、医薬品インタビューフォーム(乙2)に記載されたキョーリン商品が掲載されたパンフレットと認められる。
そして、該パンフレットにおいては、上述の厚生労働省医薬食品局審査管理課長通知に基づき、キョーリン商品1のPTPシートに、2段書きされた「ピタバスタチンCa錠」と「1mg『杏林』」の文字、「ピタバスタチン」と「Ca」の文字及び「PITAVASTATIN」と「Ca 1mg」の文字並びに3段書きされた「ピタバ」、「スタチンCa」、「『杏林』」の文字(「ピタバ」の文字は他の文字に比べ大きく表示されている。)が表示され、また、キョーリン商品2のPTPシートについても、「1mg」を「2mg」とする又は「1」を「2」とする以外は、キョーリン商品1と同様の記載及び表示がされている。
そうすると、これらの表示中の「ピタバスタチンCa」、「PITAVASTATIN Ca」の文字は、上記(1)のとおり、医薬品において有効成分に係る一般的名称である「ピタバスタチンカルシウム」を表示するものといえるから、PTPシートの表示中の「ピタバスタチン」と「Ca」の文字、「PITAVASTATIN」と「Ca」の文字、「ピタバ」と「スタチンCa」の文字は、いずれもそれぞれが一体のものとして、有効成分に係る一般的名称を表示したものと容易に認識されるといえるものである。
したがって、PTPシート中の3段書きされた「ピタバ」、「スタチンCa」、「『杏林』」の文字部分において、「ピタバ」の文字が他の文字に比べ大きく表示されているとしても、「ピタバ」の文字のみが着目され自他商品の識別標識として認識されるとはいえないことから、該「ピタバ」の表示をもって商標の使用をしたということはできない。
(3)キョーリン商品の錠剤における「ピタバ」の表示について
ア 乙第3号証のパンフレットに表示された錠剤に、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字又は「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が表示され、また、乙第4号証のパンフレットに表示された錠剤に、「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字又は「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が表示され、「有効成分」として「1錠中 ピタバスタチンカルシウム1mg」及び「1錠中 ピタバスタチンカルシウム2mg」と記載されている。
そして、乙第3号証のパンフレット及び乙第5号証の添付文書において「【組成・性状】」として、「外観」に表示された錠剤に、いずれも「ピタバ」、「1」及び「杏林」の文字及び「ピタバ」、「2」及び「杏林」の文字が表示され、「成分分量」に「ピタバスタチンカルシウム 1mg」及び「ピタバスタチンカルシウム 2mg」と記載されている。
イ 上記2(2)のとおり、医療、医薬に関する文献等において、強力なストロングスタチン3種として、「ピタバスタチン」、「アトルバスタチン」、「ロスバスタチン」について、それぞれ「ピタバ」、「アトルバ」、「ロスバ」の語が略称として使用されていたり(甲9)、「ピタバスタチン」が「ピタバ」と略して使用されていたり(甲10、甲11)、さらに、「アトルバスタチン」のことを「アトルバ」(甲13、甲14)、「ロスバスタチン」のことを「ロスバ」(甲14)と略して使用されていたりする実情があることからすると、スタチン系の成分として、「スタチン」という用語を除外した部分を略称として使用することは一般的に行われており、「ピタバ」の語は、医薬品の一般名称である「ピタバスタチン」の略称として、一般に使用されているといえるものである。
ウ 上記2(1)のとおり、厚生労働省医薬食品局の通知によれば、(ア)医療用後発医薬品の販売名の記載について、含有する有効成分に係る一般的名称に剤型、含量及び会社名(屋号等)を付すこと、また、(イ)語幹に関して、有効成分の一般名称については、その一般名称の全てを記載することを原則とするが、当該有効成分が塩、エステル及び水和物等の場合にあっては、これらに関する記載を元素記号等を用いた略号等で記載して差し支えないこと、及び他の製剤との混同を招かないと判断される場合にあっては、塩、エステル及び水和物等に関する記載を省略することが可能であることとされており(甲8)、上記2(3)のとおり、被請求人以外の者が販売する「ピタバスタチンカルシウム」を有効成分とする医薬品の錠剤面に、例えば、請求人の錠剤には、「ピタバ」、「1」及び「明治」の文字が記載され、「テバ製薬」の錠剤には、「ピタバ」、「1」及び「テバ」の文字が記載され、「沢井製薬」の錠剤には、「SW」、「ピタバ」及び「1」の文字が記載されている(甲16)ことからすれば、各製薬会社の錠剤面の表示は、「有効成分」、「含量」及び「会社名」の組み合わせからなるものであって、その表示中の「ピタバ」の文字は、有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」のその塩に関する部分(カルシウム)と「スタチン」の記載を省略したものと認められる。
エ 上記アのとおり、キョーリン商品のパンフレットに表示された錠剤とともに成分として「ピタバスタチンカルシウム」の記載があること、また、上記イ及びウのような「ピタバスタチン(ピタバスタチンカルシウム)」を有効成分とする後発医薬品の取引の実情よりすれば、キョーリン商品の錠剤における「ピタバ」、「1」及び「杏林」の表示中の「ピタバ」の文字は、これに接する取引者・需要者に当該錠剤の有効成分である「ピタバスタチンカルシウム」の略称を表示したものと容易に理解されるといえる。
オ したがって、錠剤における「ピタバ」の表示は、いずれも自他商品の識別標識として認識されるものとはいえないことから、該「ピタバ」の表示をもって商標の使用をしたということはできない。
(4)以上のことからすると、キョーリンは、2013年12月13日に医療用医薬品である「HMG-CoA還元酵素阻害剤」の販売を開始したといえるものの、キョーリンが本件商標(社会通念上同一の商標を含む)を商品の識別標識として医療用医薬品に使用したということができない。
(5)本件商標の使用権者について
被請求人は、本件商標について、2013年12月19に締結された商標使用許諾契約書(乙1)により、キョーリンに平成25年12月13日から在庫として保有している数量の本件商標を付した製品の販売完了時迄の間、使用を許諾しているといえるから、キョーリンは、キョーリン商品の販売を開始した平成25年12月13日時点において、本件商標の通常使用権者であるといえる。
(6)まとめ
以上のとおり、本件商標の通常使用権者であるキョーリンは、要証期間内である2013年12月13日に医療用医薬品である「HMG-CoA還元酵素阻害剤」の販売を開始したといえるものの、被請求人が提出した証拠によっては、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用したということができない。
その他、本件商標が要証期間内に、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって、請求に係る指定商品について使用されたことを証明する証拠の提出はない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが請求に係る指定商品について、本件商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)の使用をしたことを証明したということはできず、また、被請求人は、本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中、「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」について、商標法第50条第1項の規定に基づき取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2016-03-04 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-31 
出願番号 商願2005-81018(T2005-81018) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y05)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松浦 裕紀子 
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 土井 敬子
原田 信彦
登録日 2006-04-07 
登録番号 商標登録第4942833号(T4942833) 
代理人 岸田 正行 
代理人 保崎 明弘 
代理人 見澤 茂樹 
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所 
代理人 和田 光子 
代理人 水野 勝文 
代理人 櫻井 裕之 

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