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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W03 審判 全部申立て 登録を維持 W03 審判 全部申立て 登録を維持 W03 審判 全部申立て 登録を維持 W03 |
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管理番号 | 1314561 |
異議申立番号 | 異議2015-900287 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-09-10 |
確定日 | 2016-04-22 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第5770882号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第5770882号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第5770882号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおり「PAO」の欧文字を書してなり,平成26年5月30日に登録出願され,第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」を指定商品として,同27年5月1日に登録査定,同年6月12日に設定登録されたものである。 2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,登録異議の申立ての理由において引用する登録商標は,以下の3件であり,いずれも現に有効に存続しているものである。 (1)登録第379100号商標(以下「引用商標1」という。)は,別掲2のとおり「パオン」の片仮名と「PAON」の欧文字を上下2段に書してなり,昭和23年1月22日に登録出願,第2類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として,同24年10月15日に設定登録され,その後,平成13年4月4日に指定商品を第2類「染料,顔料,塗装用・装飾用・印刷用又は美術用の金粉・銀粉,油絵の具,水彩絵の具,日本絵の具,媒染剤,塗料(色はく・切り粉・地の粉・砥の粉を除く。)及び第3類「口紅,頬紅,その他の化粧用顔料,化粧用染料,靴クリーム,靴墨」とする書換登録がされたものである。 (2)登録第873586号商標(以下「引用商標2」という。)は,別掲3のとおり「PAON」の欧文字を書してなり,昭和42年12月15日に登録出願,第4類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として,同45年9月24日に設定登録され,その後,平成22年11月17日に指定商品を第3類「歯磨き,化粧品,香料類」とする書換登録がされたものである。 (3)登録第1418115号商標(以下「引用商標3」という。)は,別掲4のとおり「PAON」の欧文字と「パオン」の片仮名を上下2段に書してなり,昭和51年4月12日に登録出願,第4類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として,同55年5月30日に設定登録され,その後,平成22年6月2日に指定商品を第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」とする書換登録がされたものである。 (以下,これらをまとめて「引用商標」という場合がある。) 3 登録異議の申立ての理由 申立人は,本件商標は商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するから,同法第43条の2第1号により,その登録は取り消されるべきであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第23号証を提出した。 (以下,「甲第○号証」の表示は,「甲○」と簡略する。) (1)引用商標の周知・著名性について ア 歴史 「パオン/PAON」は,申立人であるヘンケル・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシャフト・アウフ・アクティーン(以下「ヘンケル社」という。)のグループ企業であるシュワルツコフヘンケル株式会社の,染毛化粧品に係る主力ブランドである。 「パオン/PAON」に係る染毛化粧品の歴史は非常に古く,最初の商品が発売されてから来年で60年目を迎える超ロングセラー商品である(甲3,甲4)。1956年に山発産業株式会社(2000年にヘンケル社グループが買収)によりパオン第一号商品である「粉末染毛剤 パオン」の発売が開始され,業界初の一剤式粉末白髪染めとして大きな注目を集めた。なお,同商品は発売以来現在に至るまで販売が継続されており,その廉価かつ高い品質等により,白髪に悩む中高年の女性を中心に長年愛用され続けている超ロングセラー商品である。 このような「パオン/PAON」の高品質・安心が担保されているという確立したブランドイメージを背景として,「パオン/PAON」に係る種々のサブブランド商品がこれまでに発売されている(甲4,甲5)。このように「パオン/PAON」ブランドには,そのサブブランドも含めた長年にわたる継続的な使用によって,多大な業務上の信用が化体しているということができる。 イ 販売額・マーケットシェア・販売にかかる地理的範囲 「パオン/PAON」ブランドに係る染毛化粧品の販売額及びマーケットシェアは,当該資料(甲6)が示すように,同ブランドに係る商品は毎年コンスタントに20?30億円程度の高い販売額を維持している。また,染毛化粧品におけるマーケットシェアについても,数多くの商品が乱立する当該市場において,継続して概ね3?4%台の高いシェアを占めている。 地理的な販売規模についてみても,同ブランドに係る商品の販売網は,2015年度の納品先リスト(甲7)に示すように,全都道府県を隈なくカバーすると共に,極めて多くの小売業者と取引が行われており,同ブランドに係る商品は全国の主要スーパーやドラッグストア等において容易に入手可能になっている。 このように,「パオン/PAON」ブランドに係る染毛化粧品は,全国展開されると共に,毎年着実な販売実績を上げつつ一定のマーケットシェアを誇っており,市場において確固たる地位を築いているものである。 ウ 宣伝・広告活動 「パオン/PAON」ブランドに係る染毛化粧品は,そのブランド価値の維持及び更なる認知度の向上を図るべく,多額の費用をかけて継続的に積極的な宣伝・広告活動も行われてきている(甲8)。過去の雑誌・新聞広告の一部についてやや時代の古いものを中心にまとめた資料(甲9),過去のテレビCMの一部について,その映像をまとめた資料(甲10)に示すように,おおむね毎年4?5億円規模の多額の費用が宣伝・広告活動に投資されており,そのブランド力の維持・向上にいかに力が注がれてきたかが分かる。 近年では,「パオン/PAON」のサブブランドの1つである「パオン ディオーサ」は,歌手・女優の松田聖子を2008年秋以降イメージキャラクターとして起用し,主として40歳前後の中年女性をターゲットとした白髪用ヘアカラー剤である。 また,同様に「パオン/PAON」のサブブランドの1つである,男性をターゲットとした染毛化粧品「パオン メンパーフェクト」(2015年9月7日発売)の広告活動として,シュワルツコフヘンケル株式会社は,2015年9月28,29日にプロモーションイベントを実施した(甲16)。 エ 各国における登録例 ヘンケル社グループは,「パオン/PAON」ブランドにかかる染毛化粧品を日本国内のみならず海外にも展開しており,当該ブランドを日本国外でも保護すべく世界各国で商標権を取得している(甲17)。このように,ヘンケル社グループは,世界各国においても,染毛化粧品「パオン/PAON」のブランド価値の維持・管理に努めているものである。 オ 以上述べたように,「パオン/PAON」ブランドは,長年に渡る継続的かつ全国的な使用や,多額の費用を投じての大々的な宣伝広告活動により,染毛化粧品の市場において確固たる地位を築いているのであって,同ブランドには多大な業務上の信用が化体しているといえ,同商品分野において高い周知・著名性を獲得しているものである。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 本件商標と引用商標の外観・称呼・観念について (ア)本件商標と引用商標の外観についてみるに,本件商標は,欧文字「PAO」をやや丸みを帯びた書体で書してなるものの,該書体は通常の欧文字に比してそれほど顕著な特徴をもつものではなく,ありふれた書体の域を出るものではない。 一方,引用商標1及び同3は片仮名「パオン」と欧文字「PAON」を2段に書してなり,引用商標2は欧文字「PAON」をやや太字のゴシック調に書してなるものであって,いずれも通常の書体で書されている。 このように,本件商標と引用商標は,共に通常の書体の域を出ない,ありふれた欧文字又は片仮名で横書きしたものにすぎず,いずれも外観において特段強い印象を与えるものではない。 (イ)本件商標と引用商標の称呼についてみるに,本件商標から生じる自然称呼「パオ」と引用商標から生じる称呼「パオン」とを比較すると,両者は,商標の識別において重要な語頭音「パオ」を共通にし,異なるところは語尾における「ン」の有無のみである。そして,当該差異音「ン」は,それ自体極めて弱い鼻音であって,かつ一般に聴取され難い語尾に位置している。このことから,該差異音の有無が称呼全体に及ぼす影響は決して大きいとはいえず,両者をそれぞれ一連に称呼する場合には,語調,語感が近似し,互いを聴別することが困難であると判断するのが相当である。 なお,特許庁の過去の審決においても,比較的称呼音数が短く,かつ語尾音における「ン」の有無においてのみ相違する商標同士が,互いに類似すると判断されているものが存在する。このような審決に鑑みても,本件商標と引用商標は類似するものと判断するのが妥当であると考える。 (ウ)本件商標と引用商標の観念についてみるに,引用商標は商品開発の過程で生み出された造語ではあるものの,長年の使用の結果,「パオン」=「染毛化粧品」のイメージが取引者・需要者間で生まれ,その結果引用商標からは「(引用商標権利者のブランドとしての)パオン(PAON)」の観念が生じるものと思われる。一方,本件商標「PAO」も造語と推察されるが,上記のとおり引用商標と称呼が類似することから,同じく「(引用商標権利者のブランドとしての)パオン(PAON)」の観念を想起させる場合もあるものと考えられる。 なお,本件商標の称呼音数は2,引用商標の称呼音数は3と称呼が短く,これより称呼が長い場合と比較した際には,語尾の「ン」の有無が及ぼす影響は幾分大きいこと自体は否定するものではない。しかしながら,実際の取引においては,「パオ」と「パオン」が単独で称呼されることはむしろ珍しく,例えば「パオ10個」,「パオン10個」,「パオください」「パオンください」といった一連の文の中で「パオ」,「パオン」が称呼されることが多いのであって,語尾音「ン」の有無の相違のみでは十分聞き誤るおそれがあると考えるのが妥当である。 イ 取引者・需要者,取引の実情について 「パオン/PAON」ブランドに係る染毛化粧品は,安価な価格で販売されている一般家庭向け商品であって,その取引者には一般の大手ドラッグストアや量販店等,化粧品にさほど精通していない者も含まれる。また,「パオン/PAON」は戦後間もないころに発売されたロングセラーの染毛化粧品であって,そのサブブランドを含めた商品のラインナップには白髪染めが多く存在しており,需要者として聴力が低下してくることも多い中高年者に愛用者(リピーター)が多いという事情がある。また,中高年者は一般的には情報技術にそれほど精通していない人も多く存在し,そのためインターネット等ではなく店頭や電話等での取引も未だに頻繁になされているという実際の取引実情がある。 ウ 本件商標と引用商標の類否について 本件商標と引用商標は,外観は特段の強い印象を与えるものではないから比較できないものの,少なくとも称呼において類似し,かつ「(引用商標権利者のブランドとしての)パオン(PAON)」という共通した観念を想起させることもあると考えられる。さらに,染毛化粧品の分野では,取引者には専門性がさほど高くない者が多く含まれ,また,一般に聞き誤りが多いとされる中高年の需要者が多く,取引者・需要者の注意力が必ずしも高い商品分野とはいえない。これに加え,対面や電話口での取引がいまだに多いという取引の実情もある。さらに,引用商標の高い周知・著名性ともあいまって,両者は相紛れるおそれがあると考えるのが妥当であり,類似の商標と判断するのが相当である。 本件商標の指定商品「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」は,引用商標1の指定商品「口紅,頬紅,その他の化粧用顔料,化粧用染料」,引用商標2の指定商品「歯磨き,化粧品,香料類」及び引用商標3の指定商品「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類」のいずれかと類似群コードを同じくするものであり,両者は同一又は類似の商品関係にあるものである。 このように,本件商標は,引用商標に類似するものであり,商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 (3)商標法第4条第1項第15号について 引用商標は,染毛化粧品の分野で高い著名性を獲得しているのであって,当該分野の取引者・需要者において広く知られるに至っている。 染毛化粧品が本件商標の指定商品である,化粧品に包含されることは自明であり,両者は生産部門や販売部門が一致し,需要者の範囲も一致するものである。また,染毛化粧品を含む化粧品と,本件商標の他の指定商品である「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」(薫料には「芳香剤」が含まれると考えられる)とは,同一事業者・同一グループ企業によって開発・製造・販売されることも多く(甲22,甲23),また,例えばドラッグストアなどの専門店といった同一の場所で販売される傾向があり,両者はその性質上極めて近似した商品であるということできる。 このように,引用商標の著名性や商品の近似性に鑑みれば,本件商標が申立に係る商品に使用された場合,取引者・需要者が申立人の業務に係る商品,もしくは申立人の経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であると誤認されるおそれがあると考えられることから,本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 (4)結び 以上述べたとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するため,商標登録を受けることができないものであることから,本件商標は同法第43条の2第1号の規定により,その登録が取り消されるべきものである。 3 当審の判断 (1)「パオン」及び「PAON」の文字からなる商標の著名性について ア 申立人の提出した証拠によれば,以下の事実が認められる。 (ア)甲3は,シュワルツコフヘンケル株式会社のホームページの写しであるところ,会社情報の商品年表において,1956年に一剤式粉末白髪染め「パオン 黒色」が発売され,その後「パオン デラックスヘアダイ(1960年)」,「パオン ローヤル(1962年)」,「パオン シャンプーカラー(1972年)」,「パオン トリートメントカラー(1977年)」,「パオン クリームカラー(1985年)」,「パオン カラースプレー(1986年)」,「パオン タッチネス(1987年)」,「パオン セブンエイト(1988年)」,「パオン 早染めヘアカラー(1999年)」,「パオン エッセンスリッチ(2002年)」,「パオン クイックリタッチ(2003年)」,「Mr.パオン メンズコレクション(2003年)」,「パオン クイックカラー(2004年)」,「パオン シルキープラス(2005年)」,「パオン センシティ(2006年)」,「パオン 白髪かくしマスカラ(2006年)」,「パオン ディオーサ(2008年)」,「パオン ディオーサ ミルキータイプ(2009年)」,「パオン ディオーサ 髪の美容液(2010年)」,「パオン ディオーサ ワンプッシュ泡タイプ(2011年)」,「パオン ディオーサ 髪のコンシーラー(2011年)」,「パオン ディオーサ クリーム リニューアル(2012年)」,「パオン エッセンスリッチ クリームタイプ/乳液タイプ リニューアル(2012年)」,「パオン メンパーフェクト(2015年)」が発売されたと記載されている。 そして,これらの商品の写真は不鮮明ではあるものの,商品の容器又は商品パッケージに「パオン」の表示が認められるものは,「パオン 黒色(1956年)」,「パオン デラックスヘアダイ(1960年)」,「パオン シャンプーカラー(1972年)」,「パオン クリームカラー(1985年)」,「パオン カラースプレー(1986年)」,「パオン タッチネス(1987年)」,「パオン セブンエイト(1988年)」,「パオン 早染めヘアカラー(1999年)」,「パオン エッセンスリッチ(2002年)」,「パオン クイックリタッチ(2003年)」,「パオン クイックカラー(2004年)」,「パオン シルキープラス(2005年)」,「パオン センシティ(2006年)」,「パオン 白髪かくしマスカラ(2006年)」,「パオン ディオーサ(2008年)」,「パオン ディオーサ ミルキータイプ(2009年)」,「パオン ディオーサ 髪の美容液(2010年)」,「パオン ディオーサ ワンプッシュ泡タイプ(2011年)」,「パオン ディオーサ 髪のコンシーラー(2011年)」,「パオン ディオーサ クリーム リニューアル(2012年)」,「パオン エッセンスリッチ クリームタイプ/乳液タイプ リニューアル(2012年)」,「パオン メンパーフェクト(2015年)」であり,「PAON」の表示が認められるものは,「パオン 黒色(1956年)」,「パオン デラックスヘアダイ(1960年)」,「パオン トリートメントカラー(1977)」である。 また,甲4は,フリー百科事典「ウィキペディア」の写しであるところ,上記発売商品の名称が記載されている。 (イ)甲5は,シュワルツコフヘンケル株式会社のホームページの写しであるところ,商品情報において,2015年11月29日現在販売しているパオンシリーズの商品が掲載されている。そして,「粉末染毛剤 パオン」については,商品パッケージに「パオン」及び「PAON」の表示があるが,それ以外の商品パッケージには「パオン」の表示のみがあり,「PAON」の表示は見当たらない。 (ウ)甲6は,「『パオン/PAON』ブランドに係る商品の販売額とマーケットシェアの推移(2002-2014年)」であるところ,毎年約20?30億円程度の販売額で,ヘアカラー剤全体の販売額の約3?4%のシェアとの記載があり,甲7は,「『パオン/PAON』ブランドに係る商品に係る納入先リスト(2015年度)」であるところ,該リストに日本全国のドラッグストア等の記載があり,また,甲8は,「『パオン/PAON』商品に係る広告費の推移(2005-2013年)」であるところ,毎年約4?5億円規模の広告費との記載がある。 (エ)甲9は,「パオン/PAON」商品に係る雑誌・新聞広告の写しであるところ,1980年?1993年発行の雑誌・新聞において,商品パッケージの写真とともに「パオン」及び「PAON」の表示が記載されている。 (オ)甲10?甲16は,「パオン/PAON」商品に係るTV広告(甲10),TV紹介(甲14),報道関係向け資料(甲11?甲13,甲15),デジタルニュース記事(甲16)の写しであるところ,2004年及び2012年のTV広告では,「パオン」の表示はあるが,「PAON」の表示は見当たらない。また,TV紹介,報道関係向け資料,デジタルニュース記事も同様に,「パオン」の表示はあるが,「PAON」の表示は見当たらない。 イ 以上によれば,シュワルツコフヘンケル株式会社(買収前の山発産業株式会社(1956?1999年)及びヘンケルライオンコスメティックス株式会社(2000?2004年)の使用時期を含む。)が,1956年から,白髪染め染毛剤の製造・販売を行い,パオンシリーズとして,各種用途の染毛剤を製造・販売している事実は認めることができる。 しかしながら,具体的な商標の使用状況についてみると,「パオン」の文字からなる商標は2015年頃まで,申立人の商品を表示する商標として継続して使用していたことは認められるものの,「PAON」の文字からなる商標は1993年頃までの使用が認められるにすぎず,それ以降継続して使用された事実を把握することができない(なお,甲5において,2015年11月29日の情報として,「粉末染毛剤 パオン」の商品パッケージに「PAON」の表示があるが,これのみをもって「PAON」の文字からなる商標の継続使用を直ちに認めることはできない。)。 また,日本国内での「パオン/PAON」ブランドの商品販売額は,2002?2014年で約20?30億円,マーケットシェアが約3%?4%(甲6),日本国内の広告費が2005?2013年で約4億?5億円(甲8),さらに,日本全国のドラックストア等に納品(甲7)しているという記載があるが、その事実のみでは,「PAON」の文字を使用した商品に関する宣伝広告における使用実態は必ずしも明らかとはいえないし,取引実績なども具体的に把握することができず,著名性の程度を推し量ることができない。 以上を総合勘案すると,申立人が「パオンシリーズ」として1956年から,白髪染め等の染毛剤を製造・販売しており,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,「パオン」の文字からなる商標が,申立人の商品を表示するものとして,ある程度知られていたものといえるものの,「PAON」の文字からなる商標が独立して需要者の間で広く認識されていたものとまでは認めることはできない。 (2)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標及び引用商標 本件商標は,別掲1のとおり,やや横長に丸みを帯びた「PAO」の欧文字を書してなるところ,該文字は,辞書等に載録のないものであり,一種の造語として認識されるというのが相当であるから,本件商標からは,その構成文字全体に相応して「パオ」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 他方,引用商標1は,別掲2のとおり,「パオン」の片仮名と「PAON」の欧文字を上下2段に書してなり,引用商標3は,別掲4のとおり,「PAON」の欧文字と「パオン」の片仮名を上下2段に書してなるところ,その構成各文字は,それぞれ同じ書体,同じ大きさをもって,等間隔に視覚上まとまりよく一体的に表されてるものであり,上段及び下段の片仮名は,下段及び上段の欧文字の読みを特定したものと理解されるものといえる。 また,引用商標2は,別掲3のとおり,太字で表された「PAON」の欧文字を書してなるものである。 そして,「パオン」及び「PAON」の文字は,辞書等に載録のないものであり,一種の造語として認識されるというのが相当であるから,引用商標は,その構成文字全体に相応して「パオン」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。 イ 本件商標と引用商標との類否 本件商標と引用商標1及び同3とは,その全体の構成態様が異なるものであって,また,本件商標と引用商標1及び同3の欧文字部分並びに引用商標2とは,文字及び字数を異にするものであるから,外観上互いに区別し得るものである。 次に,本件商標から生じる「パオ」の称呼と引用商標から生じる「パオン」の称呼とを比較すると,両者は,「パ」と「オ」の音を共通にし,語尾における「ン」の音の有無という差異を有するところ,該差異音が2音又は3音という短い音構成からなる両称呼全体に与える影響は決して小さいものとはいえず,両者をそれぞれ一連に称呼するときは,語調・語感が異なり,聴別し得るものと判断するのが相当である。 また,本件商標及び引用商標は,共に特定の観念を生じないものであるから,観念上,両商標を比較することができないものである。 してみれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても,互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。 ウ 小活 以上のとおり,本件商標は,引用商標と非類似の商標であるから,商標法第4条第1項第11号に該当しない。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性について 上記(2)のとおり,本件商標と引用商標とは非類似の商標であって,別異のものであり,また,上記(1)のとおり,「パオン」の文字からなる商標が,申立人の商品を表示すものとしてある程度知られているとしても,「PAON」の文字からなる商標は,需要者間に広く認識されているものとはいえないものである。 かかる事情の下において,「PAO」の文字からなる本件商標をその指定商品について使用した場合には,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品との関係を考慮したとしても,これに接する需要者が引用商標ないしは申立人を連想,想起するようなことはないというべきであり,当該商品を申立人の業務に係る商品,あるいは,同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信するとは認められないから,本件商標の出願時及び査定時において,商品の出所について混同を生じるおそれはないものと判断するのが相当である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (4)まとめ 以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反して登録されたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標) 別掲2(引用商標1) 別掲3(引用商標2) 別掲4(引用商標3) |
異議決定日 | 2016-04-14 |
出願番号 | 商願2014-44165(T2014-44165) |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W03)
T 1 651・ 262- Y (W03) T 1 651・ 263- Y (W03) T 1 651・ 271- Y (W03) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 海老名 友子、赤星 直昭 |
特許庁審判長 |
大森 健司 |
特許庁審判官 |
土井 敬子 原田 信彦 |
登録日 | 2015-06-12 |
登録番号 | 商標登録第5770882号(T5770882) |
権利者 | 株式会社 MTG |
商標の称呼 | パオ、ピイエイオオ |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |