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審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない X16
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X16
管理番号 1311931 
審判番号 無効2014-890101 
総通号数 196 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-04-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-12-18 
確定日 2016-02-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第5394136号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5394136号商標(以下「本件商標」という。)は,「津山さくら」の文字を標準文字で表してなり,平成22年11月11日に登録出願,同23年2月2日に登録査定,第16類「紙製包装用容器,文房具類,印刷物,書画,写真,写真立て」を指定商品として,同月25日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を審判請求書及び審判事件弁駁書において要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第154号証及び参考資料1ないし参考資料8を提出した。
1 請求の理由の要点
「サクラ」は,請求人を指す著名な略称であり(甲1ないし甲137),本件商標は,当該著名な略称「サクラ」(平仮名/片仮名程度の違いは社会通念上同一)を含むものであるから商標法第4条第1項第8号に該当し,かつ,請求人の業務に係る商品(文房具類)と混同を生じるおそれもあるから,同項第15号に該当する。
(1)略称「サクラ」の著名性について
ア 甲第1号証ないし甲第100号証に関して
(ア)各種業界紙での記事の見出し及びその本文中並びにぺんてる株式会社のウェブサイトにおいて,「株式会社サクラクレパス」が「サクラ」と略称されている。
このように,請求人以外の者によって,請求人を指して頻繁に「サクラ」と略称されている。
しかも,「オフィスマガジン」,「旬刊ステイショナー」,「CLIPS」,「関西文具時報」は,新聞であって,新聞は読者に対して様々な情報(ニュース)を提供するものであり,略称「サクラ」を用いていることは,「サクラ」と略称しても,これが請求人を指すということが読者にわかるからである。
(イ)「サクラ」の文字は,「(花木の)桜」の意味も認識され得る。
しかしながら,新聞記事の見出しにおいて「サクラ」と略称されているということは,「サクラ」といえば「株式会社サクラクレパス」を指す,ということが読者(看者)に認識されているからに他ならない。
また,ぺんてる株式会社のウェブサイトについても,「株式会社サクラクレパス」を指して「サクラ」と記載されているのは,看者がそのように認識するからに他ならない。
(ウ)以上のとおり,新聞記事の見出しやインターネットサイト等に略称「サクラ」が用いられていることから,読者や閲覧者が,「サクラ」とは請求人を指すと認識していることがわかり,この事実から明確なように,「サクラ」は,請求人の著名な略称である。
イ 甲第101号証ないし甲第139号証に関して
(ア)請求人の商品カタログは,文房具類等の取引者等に広く頒布され,カタログの表紙において,請求人が「サクラ」,「SAKURA」と略称して表示されている。これを取引者等は目にしており,「サクラ」が請求人の略称であると認識している。
(イ)カタログには多くの文房具類等が掲載されており,その商品や包装に「SAKURA」や「サクラ」との表示があり,これら文房具類等は,実際に多く販売されている(甲130,甲131,甲133ないし甲137)。
したがって,当該文房具類を購入した一般の消費者も,その商品や包装に表示された「SAKURA」や「サクラ」を目にするので,この一般消費者にも略称「サクラ」が浸透している。
(ウ)カタログ,商品や包装に表示された「サクラ」や「SAKURA」は,遅くとも昭和46(1971)年1月10日から使用され,本件商標の登録出願の平成22(2010)年11月11日まで,また,登録査定の平成23(2011)年2月2日までの約40年の間,その使用が継続されている(甲101ないし甲132)。
(エ)このように,長期にわたり,「SAKURA」や「サクラ」との表示のあるカタログが頒布され,また商品が販売されているので,「サクラ」が請求人の略称であることが,取引者・需要者,また一般消費者に十分認識されている。
(オ)甲第138号証及び甲第139号証にも,請求人に関し,その特色が記載され,甲第140号証によれば,請求人は国内水性ボールペン市場メーカーシェアで4位,国内油性マーカー市場メーカーシェアで2位,国内水性マーカー市場メーカーシェアで4位となっている。
ウ 地域について
ぺんてる株式会社は,その販売網が日本全国に及んでおり,同社のウェブページの発信及び新聞「オフィスマガジン」や「旬刊ステイショナー」の頒布先が日本全国に及ぶものである(参考資料1,4及び5)。
請求人のカタログからわかるように,請求人の販売網は日本全国に及んでおり,請求人が国内において業界の雄として地位を有し,日本全国において文房具類を多く販売している。
したがって,請求人を指す略称「サクラ」は,日本全国に知られている。
エ 時期について
証拠のうち甲第1号証ないし甲第65号証,甲第67号証ないし甲第137号証は,本件商標が登録出願された平成22年11月11日よりも前に発行された刊行物である。また,本件商標の登録査定は,出願日から約2.7か月後にされており,出願時の認識がこのわずかな期間に消えたとは考えられない。
したがって,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,「サクラ」が請求人を指し示すと認識されている。
(2)商標法第4条第1項第8号の「著名な略称」について
ア 平成16年(行ヒ)第343号の最高裁判決(平成17年7月22日)の前提となる事実関係は,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者が学生等であり,問題の商標はこの学生等の間では広く認識されておらず,教育関係者を始めとする知識人の間でよく知られているということである。
この事実関係の下,判示されたことは,「常に,本件商標の指定役務の需要者である学生等のみを基準とすることは相当でなく,教育関係者を始めとする知識人の間でよく知られているのであるから,本件商標は8号に該当する可能性がある(無効理由がある可能性がある)」ということである。
最高裁判決の「常に,問題とされた商標の指定商品又は指定役務の需要者のみを基準とすることは相当でなく,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断されるべき」とは,「原則として問題商品需要者を基準とするが,この基準だけで全ての出願(商標登録)が判断されるものではない。たとえ問題商品需要者において著名性を獲得していなくても,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているのであれば,8号に該当すると解釈される」といっている。
すなわち「全ての出願(商標登録)について画一的に問題商品需要者を基準として判断するのではない。必ずしも問題商品需要者に周知でなくても,8号に該当する場合があり得る」といっているのである。
判決文で「常に」と記載されていることからも,「全出願(全商標登録)について,その略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準とする」ものではないことが理解できる。
イ 商標審査基準〔改訂第8版〕等(甲152ないし甲154)の第4条第1項第8号の解説等において,「3.本号でいう『著名』の程度の判断については,商品又は役務との関係を考慮するものとする。」とあり,商品/役務との関係を考慮することが前提なのであり,この前提である指定商品/役務の取引者・需要者において,略称が著名かどうかを判断し,著名であれば8号の「著名な略称」に該当することとなる。
ウ 上述のとおり,文具業界において「サクラ」が請求人を指し示すと認識されており,すなわち,略称「サクラ」が請求人を指し示すものと受け入れられている。このように受け入れられている業界(「文房具類」の取引者・需要者)において当然に,人格的利益を保護すべきである。
(3)商標法第4条第1項第8号について
ア 平仮名/片仮名の差異について
本件商標は,「津山さくら」の文字を標準文字で表したものであり,本件商標が平仮名で「さくら」であるのに対し,著名な略称「サクラ」は片仮名であり,平仮名/片仮名程度の違いは社会通念上同一である。
したがって,表示としての平仮名/片仮名の差異は,人格権保護の規定から見て異なっているとはいえず,同一である。
なお,「SAKURA」も請求人を指す略称として認識されているので,称呼が同じである「さくら」は,「サクラ」,「SAKURA」と同一である。
イ 本件商標に含まれる文字について
本件商標が,他人の略称等を含む商標に該当するかどうかを判断するに当たっては,その部分が他人の略称等として客観的に把握されることを要すると解される。
ここで,本件商標は,漢字と平仮名で表されたものであり,この漢字部分と平仮名部分とで分断して把握されると解するのが自然であり,本件商標には「さくら」が含まれ,請求人を指し示す著名な略称「サクラ」(上述のとおり,平仮名/片仮名程度の違いは社会通念上同一)を含む。
略称「サクラ」には,文具業界,また一般消費者において,特定人(請求人)を認識させる機能がある。
したがって,請求人の人格権を保護すべきであり,特に略称「サクラ」が請求人を指すと認識されている文具業界における保護の要請は高く,また一般消費者においても請求人を指すと認識されている。
仮に,平仮名と片仮名の違いで,他人の著名な略称が含まれていないとすれば,人格的利益の保護を蔑にすることになって,平仮名と片仮名の違いは取るに足らないものであり,「さくら」を見て,その文字種よりもその意味するところの「サクラ」が頭の中に入るものである。
したがって,本件商標は,他人の著名な略称「サクラ」を含む。
ウ 承諾について
本件商標権者は,請求人の承諾を受けていない。よって,商標法第4条第1項第8号の括弧書きの摘用はない。
エ 結び
以上述べたとおり,本件商標は,他人(請求人)の著名な略称を含むものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標と請求人の「サクラ」との混同について
前述のように文房具類等の商品分野において,「サクラ」は,請求人を指すことが取引者・需要者の間に広く認識され,「サクラ」,「SAKURA」は,請求人のハウスマークである。
したがって,文房具類及びこれらに関連する商品や近しい商品の分野において,「○○サクラ」或いは「サクラ○○」,または「○○さくら」或いは「さくら○○」等との商標が付されていると,取引者・需要者は,請求人の支店等と考えるか,または少なくとも請求人の子会社や系列会社等の,何らかの関係のある会社であると誤認し,その商品の出所について混同するおそれがある。
特に本件商標の「津山」は地名であり,「津山にある請求人の関連会社である」と取引者・需要者に誤認させるおそれがある。
したがって,少なくとも本件商標の指定商品「文房具類」において,本件商標は,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある。
なお,被請求人は,乙第7号証を挙げ,「本件商標『津山さくら』もまた,これに接する者,とくに津山市に縁の者においては,鶴山公園に代表される城下町津山に咲く桜の木や桜の花を観念させるのであるし,・・・まさに日本全国,土地土地によって連想される桜の観念もまた異なっていることの証左である。」と述べている。
しかし,まず商標権は日本全国に及ぶものであるから,津山市に縁の者の観念や感覚に特化して判断されるものではない。
加えて,仮に土地土地によって連想される花木の桜の観念が異なるとしても,このことと,花木の桜の観念を離れて文房具類で著名な商標「サクラ」との混同を生じることとは別である。
したがって,乙第7号証の1ないし5の商標登録とは異なり,本件商標は,他人(請求人)の業務に係る商品(文房具類)と混同を生ずるおそれがある。
イ 結び
以上述べたとおり,本件商標は,その指定商品「文房具類」の分野において,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)乙第3号証及び乙第4号証の信憑性について
甲第141号証は,請求人の平成25-26年(2013-2014年)のカタログの抜粋であるが,その会社概要にあるように,請求人グループ売上高は252億円(2011年度実績)であるが,一方,乙第4号証の「文具業界売上ランキング(平成25-26年)」における第22位のキング工業は52億円である。
また,甲第130号証,甲第131号証及び甲第141号証のカタログの会社概要にあるように,請求人の従業員数(グループ計)は約1,200人であるが,一方,被請求人の示した「業界動向SEARCH.COM」のサイトにおける「文具業界従業員数ランキング(平成25-26年)」(甲142)には,第23位として170人のリヒトラブが示されており,年度が違うとはいえ,これより多い請求人がこの第23位以内に入っていない。
したがって,そもそも「業界動向SEARCH.COM」のサイトにおいて,文具業界ランキングをつける際の母集団に請求人を入れていないと解され,このようなランキングを根拠とした被請求人の主張は失当である。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第7号証を提出した。
1 本件商標について
本件商標は,標準文字にて「津山さくら」と横書きされてなる商標であって,その構成は,同じ書体,同じ大きさ,等間隔をもって外観上一体的に表されているものであり,その構成に応じて生ずる「ツヤマサクラ」の称呼も冗長ではなく,無理なく一気一連に称呼し得るものである。
そして,本件商標に対して請求人が申し立てた異議の決定(異議2011-900197)に示されているとおり,「津山」は「岡山県北東部,津山盆地の中央にある市」を意味する語であるところ,この津山市は,西日本有数の桜の名所として知られている鶴山公園を有しており,その鶴山公園の桜は同市のシンボル的要素となっているから,本件商標は,その構成全体から「津山市の桜」の観念を生ずるとみるのが自然である。
なお,津山市の鶴山公園における桜の木や桜の花は,「津山さくら」と称されることはない。
2 請求人の「サクラ」について
請求人が引用している他社ウェブサイトをはじめ「オフィスマガジン」,「旬刊ステイショナー」,「CLIPS」,「関西文具時報」は,全て請求人と同じ文房具業界にあって,専らその業界人のみを対象読者とする業界専門新聞紙や業界専門雑誌であるから,請求人の他に「サクラ」等をその名称の一部に含む会社が業界内に存在しない以上,これら専門新聞紙において「サクラ」と記載するだけで請求人を指称することは自明である。
そして,これら業界専門新聞紙等に掲載される記事は,対象読者たる業界人が欲している業界各社の動向やその商品等に関する情報なのであるから,記事の見出しなどに記載された「サクラ」が「(花木の)桜」を意味しないことは,明らかである。
また,請求人の商品カタログ等において「サクラ」や「SAKURA」が使用されているのは,単に請求人の主たる商品商標が「サクラ」や「SAKURA」であるからにすぎないし,簡略表示しているからといって,直ちに一般需要者までもが「サクラ」や「SAKURA」が請求人の略称であると認識できることを意味するわけではない。
インターネットに開示された文具業界情報「業界動向SEARCH.COM」(乙3)によると,請求人は,売上高&シェアランキング上位10社に及ばず,売上高,経常利益及び純利益のいずれについても文具業界上位22位に及ばない(乙4)。
3 商標法第4条第1項第8号該当性について
「サクラ」は,請求人の著名な略称には該当しないものであるが,請求人提出の書証において使用する商標は,全て「サクラ」又は「SAKURA」のみであって,「さくら」が使用されている例は僅か一件も見当たらないのであるから,「さくら」の平仮名表記が請求人の略称に該当しないことは明らかである。
とりわけ,請求人も自認しているように,「さくら」,「サクラ」,「SAKURA」の語は,「(花木の)桜」に通じているところ,この「桜」は,他の植物とは一線を画す存在として我が国国民に広く愛されている存在であるし,請求人が所有する登録商標のほかにも,各種商品や役務について「桜」のほか「さくら」,「サクラ」,「SAKURA」のみからなる文字商標の登録例は多数存在している(乙5)。
しかるに,我が国国民においては,漢字表記「桜」のほか片仮名表記「サクラ」,英文字表記「SAKURA」,そして平仮名表記「さくら」それぞれの違いについては,十分に注意を払って峻別することができると考えられるから,「平仮名\片仮名程度の違いは社会通念上同一」であるとし,「称呼が同じである『さくら』は,『サクラ』,『SAKURA』と同一である」とする請求人の主張は,妥当でない。
「サクラ」はもとより,平仮名表記「さくら」をもって請求人の略称と理解されるには,この「さくら」の言葉から連想される,以上のような国民的認識を超えるだけの高い著名性を獲得していることが求められる。
なお,請求人は,最高裁判決(平成16年(行ヒ)第343号,平成17年7月22日判決,乙6)を引用して主張するが,前記最高裁判決は,人格権保護を目的とする商標法第4条第1項第8号は,あらゆる現存の者の承諾を必要とするのであれば,当該規定による保護範囲が広がりすぎ,商標権の取得が過度に妨げられるため妥当ではないから,他人の人格権の毀損が客観的に認められる場合にかぎり適用されるべきである。そして,略称の著名性につき,これを指定商品等の需要者のみを基準として判断するのは妥当ではなく,指定商品等の需要者の範囲を超えても,その商標が登録されることによって人格権の毀損が客観的に認められる場合は,当該商標に本規定を適用すべきと解されるところである。
しかし,前述したように「サクラ」等の本来的な語義に由来する我が国国民の認識に照らせば,わずかに文房具業界の同業者間において,「サクラ」が請求人名称の略称として使用されている事実をもって,「サクラ」が請求人の略称として,請求人を指し示すものとして一般に受け入れられていたものと認めることはできない。
まして,請求人の略称として用いられた事実すら認められない「さくら」については,尚更のことである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものではない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
仮に,請求人の主たる商品である描画材料・筆記具類における限り,「サクラ」や「SAKURA」が請求人の略称として認識されることがあり得るとしても,本件商標を付した商品が,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれはない。
すなわち,そもそも「さくら」,「サクラ」,「SAKURA」の語は,「(花木の)桜」に通じるところ,この「桜」は,日本人にとって広く親しまれているものであるから,「さくら」,「サクラ」,「SAKURA」は,いずれもきわめて独創性に乏しいといえる。
そして,本件商標もまた,これに接する者,とくに津山市に縁の者においては,鶴山公園に代表される城下町津山に咲く桜の木や桜の花を観念させる。
そうとすると,外観上一体的に表され,その構成全体から「津山市の桜」の観念を生じるとともに,「ツヤマサクラ」の称呼のみを生ずる本件商標は,「サクラ」とは十分に区別し得る別異の商標というべきであるから,本件商標をその指定商品に使用しても,これに接する需要者,取引者をして「サクラ」を連想させ又は想起させるとはいえないものであって,結局のところ,その商品の出所について請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。

第4 当審の判断
1 「サクラ」及び「SAKURA」の周知性について
請求人が提出した証拠によれば,請求人は,大正10年に創業した描画材料や文房具類の製造・販売を行うメーカーであり,請求人のグループ売上高は,2007年度,271億円,2008年度,277億円であること,大阪,東京,札幌,仙台,名古屋,広島,九州に事業所及び大阪工場を有するほか,関連会社は15社である(甲130,甲131)。また,本件商標の登録出願前に発行された,文房具・事務用品の業界紙である「オフィスマガジン」,「旬刊ステイショナー」,「CLIPS」,「関西文具時報」の新聞の記事の見出しには,請求人を表す「(株)サクラクレパス」,「サクラクレパス」等の記載とともに,「サクラ」の片仮名が使用されているものであり(甲2ないし甲100,甲130),ぺんてる株式会社のウェブサイト(甲1)には,「サクラ社のクーピーペンシル・・・」の記載がある。
そして,本件商標の登録出願前に発行された文房具類を掲載した請求人の製品カタログ「サクラ製品のごあんない」(昭和46(1971)年),「サクラ製品のご案内」(1981年ないし1983年),「サクラ総合カタログ」(1984年ないし1993年),「COLLECTION」(1995年ないし2008年),「幼保用品総合カタログ」(2010年),「2009 COLLECTION」(2009年)及び「2010 COLLECTION」(2010年)には,その表紙及び裏表紙,又は背表紙に,桜の花がモチーフであるものとして看取し得る図形とその下に「SAKURA」の欧文字からなる請求人の社章,及び背表紙に「サクラ」の片仮名が表示されているところ(甲101ないし甲132),製品カタログに掲載された各種の文房具類には,請求人の社章,「SAKURA」の欧文字又は「サクラ」の片仮名が表示されていることから(甲101,甲130及び甲131),その製品の購入者は,それらの表示を商品の出所表示標識として理解するといえる。なお,上記製品カタログにおいて,請求人は,請求人自身を表示する場合,「株式会社サクラクレパス」又は「サクラクレパス」と記載している(甲130の22頁ないし41頁,411頁,416頁等)。
以上によれば,請求人は,1971年頃から,「SAKURA」及び「サクラ」の文字(以下「引用商標」という。)を,請求人の業務に係る文房具類に継続して表示してきたことが認められることから,需要者は,引用商標を請求人の商品の出所を表示するものとして認識するとみるのが相当であり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る「文房具類」を表す商標として,その需要者の間に広く認識されていたものと認められる。
そして,文房具や事務用品に関連する複数の業界紙において,請求人を示す「(株)サクラクレパス」,「サクラクレパス」の記載とともに,「サクラ」の片仮名がその略称として用いられていることを認めることができるところ,これらの業界紙は,その内容からすれば,文房具類の取引者向けの新聞等であるから,広く一般に購読される新聞ということはできないものであり,請求人が提出した証拠からは,「サクラ」の片仮名が,文房具類の取引者においては,請求人の略称として認識されているとしても,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国の「文房具類」の一般の需要者の間において,広く認識されているものと認めることができない。
なお,「さくら」の平仮名は,「サクラ製品のごあんない」(昭和46年1月10日現在,乙101)において,カラーインキ,こどもペン及び接着剤に表示されていることを認めることができるが,他に,使用されている証拠は見当たらない。
2 商標法第4条第1項第8号該当性について
(1)本件商標は,「津山さくら」の文字を標準文字で表してなり,該文字は,外観上まとまりよく一体的に表わされ,その構成全体から生ずる「ツヤマサクラ」の称呼も,無理なく一連に称呼できるものである。
そして,本件商標の構成中の「津山」の文字部分は,「岡山県北東部,津山盆地の中央にある市」(「広辞苑第六版」株式会社岩波書店発行)の意味を有する語であり,また,後半の「さくら」の平仮名は,我が国において広く親しまれた「桜」を想起させるとみるのが自然であるから,本件商標は,その構成文字全体から「津山市の桜」程の意味合いを認識させるものであり,その構成全体をもって,一体不可分のものと認識,把握されるものというべきである。
また,前記1に記載のとおり,請求人提出に係る証拠によっては,「サクラ」の文字は,請求人を指し示すものとして一般に受け入れられている「著名な略称」ということはできないものであり,かつ,本件商標は,その構成中に「さくら」の文字を有するとしても,該文字は,上記のとおり,我が国において広く親しまれた「桜」を認識するものであるから,本件商標の構成中の「さくら」の文字部分は,これに接する者に,請求人を想起・連想させるものということができない。
したがって,本件商標は,他人の著名な略称を含む商標とはいえず,商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(2)請求人は,「著名な略称『サクラ』は片仮名であり,平仮名/片仮名程度の違いは社会通念上同一である。」及び「『SAKURA』も請求人を指す略称として認識されているので,称呼が同じである『さくら』は,『サクラ』,『SAKURA』と同一である。」旨主張する。
しかしながら,前記1のとおり,「サクラ」は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の著名な略称と認めることができないものである。
そして,「さくら」が「サクラ」,「SAKURA」と社会通念上同一であるとしても,「サクラ」が請求人の著名な略称とは認められない以上,「さくら」の平仮名が請求人の著名な略称であるということはできない。
よって,請求人の主張は,採用することができない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は,「津山さくら」の文字を標準文字で表してなるところ,前記2(1)のとおり,その構成全体として一体不可分のものとして認識させるから,該全体文字から,「ツヤマサクラ」の称呼を生じ,「津山市の桜」程の観念を生ずるものである。
他方,引用商標は,「SAKURA」又は「サクラ」の文字からなり,これらからは,「サクラ」の称呼を生じ,我が国において広く親しまれている「桜」の観念を生ずるものである。
そして,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照らし,視覚上,十分区別することができるものであるから,外観において相紛れるおそれはなく,本件商標から生じる「ツヤマサクラ」と,引用商標から生じる「サクラ」の称呼とは,語頭における「ツヤマ」の音の有無において明らかな差異を有するものであるから,十分に聴別することができるものである。また,本件商標は「津山市の桜」の観念を生じるのに対し,引用商標は「桜」の観念を生じるものであるから,観念上,相紛れるおそれはないものである。
そうとすれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点からみても十分に区別することができる非類似の商標であって,別異の商標というべきである。
そして,引用商標は,前記1のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国において,請求人の業務に係る「文房具類」を表示する商標として,その商品の需要者の間に広く認識されていたとしても,本件商標と引用商標とは,上記のとおり,別異の商標というべきであるから,本件商標権者が,本件商標を,その指定商品に使用しても,これに接する取引者,需要者が,請求人の引用商標を連想又は想起することはなく,その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第8号及び同項第15号に違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項により,無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-11-27 
結審通知日 2015-12-03 
審決日 2015-12-25 
出願番号 商願2010-87953(T2010-87953) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (X16)
T 1 11・ 271- Y (X16)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 堀内 仁子
特許庁審判官 田中 亨子
田村 正明
登録日 2011-02-25 
登録番号 商標登録第5394136号(T5394136) 
商標の称呼 ツヤマサクラ、サクラ 
代理人 森 寿夫 

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