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審決分類 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない X43
管理番号 1310848 
審判番号 無効2015-890011 
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-26 
確定日 2015-10-13 
事件の表示 上記当事者間の登録第5479674号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5479674号商標(以下,「本件商標」という。)は,「IL BAR」の欧文字と「イルバール」の片仮名とを上下二段に横書きしてなり,平成23年10月14日に登録出願され,第43類「飲食物の提供」を指定役務として,同24年2月23日に登録査定がなされ,同年3月16日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由の要旨を次のとおり述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第9号証(枝番を含む。)を提出している。
1 請求の理由
(1)本件商標の商標法第3条第1項第3号の該当性について
ア 本件商標の識別性について
本件商標を構成する「IL BAR(イルバール)」の文字が指定役務の質を表すものとして,飲食業界の分野で広く一般に用いられるものである場合には,本件商標は,広く一般的に使用される標章として特定人(商標権者)による独占適応性を欠くとともに,本件商標に接する需要者も,本件商標を単に役務の質を普通に用いられる方法で表示したものと認識するため,自他役務識別力を欠くとして,3号に違反して登録されたものであるといわざるを得ない(最高裁昭和53年(行ツ)第129号 同54年4月10日三小法廷判決 ワイキキ事件(甲2),東京高裁平成17年(行ケ)第10342号 同年6月9日判決 フラバン事件(甲3)参照)。
イ 飲食業界における「IL BAR(イル・バール)」の使用状況について
本件商標を構成する「IL(イル)」の文字は,イタリア語の定冠詞の一種であり(甲4),同じく「BAR(バール)」の文字は,「(イタリア式の)スナック。喫茶店」の意味合いを有するイタリア語(甲5の1,2)である。「BAR」の欧文字3字は,一般には「酒場」を意味する英語の「BAR(バー)」として知られているが,イタリア料理について用いられる場合には,カジュアルなスタイルで,軽食や喫茶,アルコール飲料などを提供するイタリア料理の店舗の種類である「BAR(バール)」として,飲食業界において広く一般に使用されているものである。
主としてイタリア料理を提供する飲食店が「IL BAR(イル・バール)」を店舗名に使用している事実を示すインターネット情報及び新聞記事情報(甲6の1?8)は次のとおりである。
(ア)ラ・テラッツァ イル・バール・ディ・オフィチーナ(LA TERRAZZA IL BAR di OFFICINA)(直近の書込み日:平成22年8月18日)(甲6の1)
(イ)ワイン&カジュアルイタリアンamaze(アメイズ)(IL BAR amaze)(オープン日:平成22年3月5日)(甲6の2)
(ウ)IL BAR IN SIEME(イルバール・インシエメ)(オープン日:平成21年9月1日)(甲6の3)
(エ)「イルバール・ディプント」(平成20年10月26日大阪読売新聞)(甲6の4)
(オ)イタリアンレストラン&バー「Il Ristorante&Il Bar(イル・レストランテ&イル・バール)」(オープン日:平成19年11月30日)(甲6の5)
(カ)「il BAR(イル・バール)」(平成18年4月3日産経新聞)(甲6の6)
(キ)イタリアン・バール「ムウムウ&イル・バール・セントラルバンコ」(オープン日:平成17年6月10日)(甲6の7)
(ク)イル バール モリコーネ(平成14年12月26日熊本日日新聞)(甲6の8)
請求人は,本件商標の登録査定時にオープンしていた「IL BAR(イル・バール)」が8店舗(「丸の内オアソ店」,「八重洲地下店」,「並木ハイボール店」,「田町店」,「京都駅店」,「大阪駅店」,「ウィング新橋店」,「関西国際空港エアロプラザ店」)であり,「PRONTO IL BAR(フロント・イル・バール)」が12店舗(「UDXアキバ・イチ店」,「神谷町店」,「札幌エスタ地下街店」,「霞が関ビル店」,「新宿野村ビル店」,「東京国際フォーラム店」,「大手町日本ビル店」,「八重洲さくら通り店」,「日本生命札幌ビル店」,「新橋烏森口店」,「ニッセイ池袋ビル店」,「梅三小路店」)であった。
請求人の「IL BAR(イル・バール)」の営業実績は,6店舗であった平成21年の売上高が約7.6億円,来客数が約137万人であったが,8店舗となった平成25年には,売上高が約18.7億円,来客数が約306万人となり,右肩上がりで実績を延ばしている(甲7の1)。
ウ 飲食業界における「IL(イル)」及び「BAR(バール)」の使用について
イタリア料理店においては,店舗の名称を構成する主体的な語の先頭に「IL(イル)」を付している例は多く見受けられる。また,「BAR(バール)」は,イタリア料理店の店舗名と合わせてあるいは店舗名の近傍に表示されて,その飲食店がカジュアルなスタイルのイタリア料理店であることを示す場合に多く用いられている。
「IL(イル)」と「BAR(バール)」を合わせて店舗名として使用している飲食店,又は「IL(イル)」を店舗名の一部に含み「BAR(バール)」を店舗の種類を表すものとして使用している飲食店の例は,次のとおりである。
(ア)トラットリア バール イル ポルトローネ(TRATTORIA BAR IL POLTRONE)(オープン日:平成23年3月9日)(甲8の1)
(イ)ENOTECA BAR IL MATTO(インターネットアーカイブ「WaybackMachine」に記録された日:平成23年1月30日)(甲8の2)
(ウ)イタリアンバール イル カドッチョ(オープン日:平成22年10月28日)(甲8の3)
(エ)トラットリア バール イルギオットーネ(IL GHIOTTONE)(インターネットアーカイブ「WaybackMachine」に記録された日:平成22年7月31日)(甲8の4)
(オ)イルメント(ITALIAN BAR IL MENTO)(オープン日:平成22年5月15日)(甲8の5)
(カ)イタリアンバール イル・ヴィゴーレ 六本木店(同店に関する書込み日:平成22年5月3日)(甲8の6)
(キ)Bar Il Circolo(バール))(同店に関する直近の書込み日:平成21年11月28日)(甲8の7)
(ク)イタリアンバール(il Giobatore)(同店に関する書込み日:平成21年8月3日)(甲8の8)
(ケ)bar il primario(バール イルプリマリオ)(オープン日:平成20年11月5日)(甲8の9)
(コ)Italian BAR イルソーレ(IL SOLE)(オープン日:平成19年9月19日)(甲8の10)
(サ)イタリアンバールIL ALBERTA(イル アルバータ)(オープン日:平成19年6月24日)(甲8の11)
以上の例より明らかなとおり,「IL(イル)」はイタリア料理店の店舗名を構成するものとして,「BAR(バール)」は当該飲食店の種類を表すものとして,ともに合わせて多く用いられているものである。そうとすれば,「IL(イル)」と「BAR(バール)」は,ともに,「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであり,また,両者が同時に使用される例も多く確認される状況に照らせば,「IL BAR(イル・バール)」は,広く一般的に使用される標章として特定人による独占適応性を欠くとともに,需要者も,単に役務の質を普通に用いられる方法で表示したものと認識するといわざるを得ないものである。
エ 小括
以上のとおり,本件商標は,その登録査定時において,主としてイタリア料理を提供する飲食店の店舗名として,飲食業界において広く一般に使用されていたものであり,これを普通に用いられる方法で表示したものにすぎないため,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標に該当する。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。
(2)審査実務例について
第42類の「イタリア料理の提供」を指定役務として出願され,上段に「Italian Cafe(「e」の上部にアクサンテギュが付加されている)」の欧文字,中段に「iLBAR」の欧文字及び下段に「イルバール」の片仮名を書してなる出願商標について,本件商標に接する需要者・取引者は「イタリア風の喫茶店」程度の意味合いを認識するにとどまり,これを本件指定役務に使用しても単に役務の内容・質を表示し,自他役務の識別標識としての機能を果たし得ず,商標法第3条第1項第3号に該当するとして,商標法第3条第1項第3号に該当するとの拒絶理由通知がなされた例がある(甲9)。
(3)結び
よって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項第1号の規定により,その登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は,結論同旨の審決を求め,答弁の理由を要旨次のとおり述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第20号証(枝番を含む。)を提出している。
2 答弁の理由要旨
(1)本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
本件商標を構成する「IL(イル)」の文字が,イタリア語の定冠詞の一種であり,「BAR(バール)」の文字が,「(イタリア式の)スナック。喫茶店」の意味合いを有するイタリア語であるとしても,これらを組み合わせた「IL BAR」及び「イルバール」の文字は,英語辞典,イタリア語辞典,広辞苑,カタカナ語辞典などに載っている言葉でもなく(乙1?4),本件指定役務の提供場所・質等を表すものとはいえないものである。
さらに,飲食業界の分野で広く一般に用いられているものでもない。特に,我が国でのイタリア語の普及度からすると,イタリア語は馴染みの少ない言語であると共に,イタリア語の定冠詞の語形は複雑で(乙2),英語の定冠詞の「the(ザ)」や,フランス語の定冠詞の一つである「La(ラ)」や「Le(ル)」のように1音で発音されるものではないこともあって,2音で発音される「IL」及び「イル」の文字を,本件商標に接する取引者,需要者は,イタリア語の定冠詞であると認識するというよりは,特定の意味を有しない一種の造語を表したものとして認識,把握するとみるのが妥当である。なお,インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」における「IL」の意味を調べても,イタリア語の定冠詞を示す記載はない(乙5)。
また,「BAR」あるいはその読みを表した片仮名の「バー」が,英語で親しまれた「酒場」を意味するものとして,認識されるとしても,「バール」は,「圧力の単位」,「棒状の釘抜き」や「かなてこ」を意味するものであり(乙3),本件指定役務との関係では,「バール」の語は,特定の意味を有するものではない。なお,「飲食物の提供」を指定役務とする登録商標「バール」は現在有効に存在している(乙6の1,2)
したがって,イタリア語の定冠詞として認識することのできない「IL」の欧文字と,酒場を意味することのある「BAR」の欧文字を組み合わせた「IL BAR」からなる本件商標に接する取引者,需要者は,その構成全体をもって一体不可分の特定の意味を有しない一種の造語を表したものとして認識,把握するとみるのが妥当である。
また,「広辞苑」(乙3)や「新明解国語辞典」(乙7)を初めとする各種の辞典に記載のない「イル」の片仮名と,上述したような意味合いを有する「バール」の片仮名とを組み合わせた「イルバール」も,辞書にはない言葉であるから,本件商標に接する取引者,需要者は,その構成全体をもって一体不可分の特定の意味を有しない一種の造語を表したものとして認識,把握するとみるのが妥当である。
してみれば,本件商標に接する取引者,需要者は,本件商標をその指定役務との関係においては,その構成に沿った「イルバール」の称呼が生ずる被請求人の創作にかかる一種の造語を表したものと認識・把握するとみるのが相当である。
加えて,本件商標が,本件指定役務においても,役務の質を表示するものとして,取引上普通に使用されている事実は一切見受けられない。
(2)甲各号証について
ア 請求人は,本件商標が,商標法第3条第1項第3号に該当する証拠として,甲第2号証ないし甲第9号証を提出しているが,いずれの証拠も「IL(イル)」と「BAR(バール)」を含む店舗があることを説明するだけで,「IL BAR」及び「イルバール」の文字が,指定役務の提供場所・質等を表すものであることを示す証拠はない。
請求人は,「IL BAR/イルバール」が,店舗名として使用している事実として,8件挙げているが(後述するように実際には5件),これだけの数で,主としてイタリア料理を提供する飲食店の店舗名として,飲食業界において広く一般に使用されているとはいうことはできない。また,いずれの店舗名も,店舗名の種類を表示するものとして使用しているというよりは,店舗名の一部に組み入れて識別標識(商標)として使用しているものであって,「IL BAR」あるいは「イルバール」のみを分離することができないもので,このような店舗名の使用をもってして「IL BAR/イルバール」が指定役務の提供の場所・質等を表すものとして取引上普通に使用されているとはいえない。
イ 請求人がイタリア料理を提供する飲食店が「IL BAR(イル・バール)」を店舗名に使用している事実を示す例としてあげる(イ)「ワイン&カジュアルイタリアン amaze(アメイズ)(IL BAR amaze)」と(エ)「イルバール・ディプント」の2店舗は,現在,閉店しているもので,登録査定時において,存在していたのか不明である。また,(カ)「iL BAR(イル・バール)」及び(キ)「イタリアン・バール『ムクムク&イル・バール・セントラルバンコ』」は,住所が同じことから,同一店舗と考えられる。したがって,登録査定時に存在していたと考えられる店舗は5件であり,これをもって,飲食業界において広く一般に使用されているとは言えない。また,「バー」という店舗の種類を暗示させるとしても,各店舗名は,全体として造語として認識し,把握されるもので,「IL BAR/イルバール」のみを分離することができず,したがって,このような店舗名の使用をもってして「IL BAR/イルバール」が指定役務の提供の場所・質等を表すものとして使用されているとはいえない。
(3)請求人の「IL BAR(イルバール)」の使用について
請求人は,自ら,登録査定時において,「IL BAR(イルバール)」の店舗名として6件(請求書6頁には8件とあるが,登録査定時(平成24年2月23日)前のものは6件である),「PRONTO IL BAR(プロント・イル・バール)」の店舗名として12件あると主張しているが,実際に,その日に開店していたかどうかの証拠は何ら示されていないし,また仮に,開店に関して,請求人の主張が正しいとしても,後述するように,請求人は「IL BAR」を識別標識(商標)として認識した上で使用しており,指定役務の提供場所・質等(店舗の種類)を表すものとして使用していない。
また,請求人が「IL BAR」を使用しているという事実をもって,飲食業界の分野で広く一般に用いられているという事もできない。また,いずれの証拠をみても,片仮名の「イルバール」として使用している事実はない。
請求人が「IL BAR」を識別標識(商標)として認識した上で使用している例は次のとおりである。
請求人の使用するロゴマークや店舗の「IL BAR」の文字を大きく表示し(乙12の1?5),「IL BAR」を単独で表示し(乙13),また,請求人のホームページ「PRONTO」の「プロントコーポレーションのブランド紹介」のページで,「IL BAR(イルバール)」を識別標識(商標)として扱い(乙14),「Cafe&Bar/IL BAR」のように上段の「Cafe&Bar」という店舗名の種類を表す表示の下に「IL BAR」を表示させ「IL BAR(イルバール)」を識別標識(商標)として使用している(乙15)。また,請求人は,「『IL BAR(イルバール)』,シンプルなバールと名づけました。」と記載があるように,自ら,店舗名と認めている(乙16)。
(4)飲食業界における「IL(イル)」及び「BAR(バール)」の使用について
請求人は,「IL(イル)」と「BAR(バール)」を合わせて店舗名として使用している飲食店,又は「IL(イル)」を店舗名の一部に含み「BAR(バール)」の店舗の種類を表すものとして使用している飲食店の一例として(ア)?(サ)を挙げられているが,「IL BAR/イルバール」とは何ら関係なく,これをもって,「IL BAR/イルバール」が指定役務の提供場所・質等を表すものとは判断できない。
「IL(イル)」は,識別力がないということはできず,しかも,それを組み合わせたものも,識別力がないと判断することはできない。また,「IL BAR」又は「イルバール」の文字が,飲食業界において,一般に広く使用された事実もない。
(5)審査実務例について
請求人は,特許庁の審査実務として,過去に商標「iL BAR/イルバール」(指定役務「イタリア料理の提供」)は,識別力がないとして拒絶されたと主張しているが,その後,本件商標が登録されている審査実務の判断を無視し,このような過去の拒絶理由をもって識別力がないと断定することはできない。
(6)「食ベログ」や「Rettyグルメ」において,「IL BAR/イルバール」の文字が,店舗の種類を表すものとして使用されている事実はない(乙17,乙18)。
また,「食べログ」のホームページにおいて「イルバール」及び「ILBAR」を検索したところ,「イルバール」又は「ILBAR」を含む店舗は,80万件の店舗の登録がある中,請求人及び被請求人の店舗を除けば,わずか4店舗しなく,到底,飲食業界の分野で広く一般に用いられているとは言えない(乙19,乙20)。これら4店舗も,いずれも全体として造語として認識し,把握されるもので,「IL BAR/イルバール」のみを分離することができずこのような店舗名の使用をもって「IL BAR/イルバール」が指定役務の提供の場所・質等を表すものとして使用されているとはいえない。
そうすると,「IL BAR」,「イルバール」の文字は,十分に識別力があるものであり,また,本件商標の指定役務の提供の場所・質等を表すものとして取引上普通に使用されている事実はない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
(7)結び
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法の規定に違反してされたときに該当しないから,無効とすべきものでない。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては、当事者間に争いがなく、当審も、請求人は本件審判の請求人適格を有するものと判断するので、以下、本案に入って審理する。
1 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)本件商標の構成について
本件商標は,「IL BAR」の欧文字と「イルバール」の片仮名とを上下二段に横書きしてなるところ,「IL」の文字部分はイタリア語の定冠詞であり,「BAR」の文字部分は「(イタリア式の)スナック。喫茶店。」を意味するイタリア語であるほか,「バー,酒場」,「圧力の単位」や「かなてこ」を意味する英語である(甲5)。また,下段に表された「イルバール」の文字部分は,特定の意味合いを有する語として知られていないものであるが,上段の欧文字の読みを表すものとして無理なく認識されるものであるから,本件商標は,その構成文字に相応して「イルバール」と称呼されるものである。そして,「IL BAR」の欧文字については,我が国においてイタリア語は一般的に馴染みの薄い外国語であるから,これに接する我が国の取引者,需要者は,その片仮名表記から「イルバール」と称呼するとしても,その構成全体からは,特定の意味合いを有しない造語として理解するというのが相当である。
(2)「IL BAR」及び「イルバール」の文字の使用について
ア 甲第6号証の1ないし8について
(ア)「IL BAR」の欧文字ウェブサイト「ロケタッチグルメ」には,店名「ラ・テラッツァ イル・バール・ディ・オフィチーナ(LA TERRAZZA IL BAR di OFFICINA)」,住所 新宿区,ジャンル カフェ,ケーキ,パスタ,バー,ワインバーとして紹介され,平成22年8月18日付けクチコミが掲載されている(甲6の1)。
(イ)「食べログ」のウェブサイトには,店名「ワイン&カジュアルイタリアンamaze(IL BAR amaze)」が平成22年3月5日に中目黒にオープンしたことが紹介されているとともに,このお店は,現在閉店していること及び同23年9月22日の投稿の口コミに「7月に閉店してしまう・・・」の記載がある(甲6の2)。
(ウ)「サンゼロミニッツ」のウェブサイトには,店名「IL BAR IN SIEME(イルバール・インシエメ)」が平成21年9月1日にバーとして福岡県福岡市にオープンしたことが紹介されている(甲6の3)。
(エ)平成20年10月26日付け大阪読売新聞には,「写真=渡辺橋駅に併設された飲食店ゾーンのイタリアン・バール「イルバール・ディプント」。ランチタイムには行列ができる」の記載がある(甲6の4)。
(オ)「K STYLE」のウェブサイトには,「ブルガリ銀座タワー,2007年11月30日オープン」の見出しのもと,「2層の吹き抜けとなっている9階・10階にはイタリアンレストラン&バー『Il Ristorante & Il Bar(イル・レストランテ&イル・バール)』,11階にはルーフテラス『イタリアンガーデン』(4月1日から10月31日までオープン)が併設され,ラウンジ,レストラン&バー,ルーフテラスは『ブルガリホテル・ミラノ』『ブルガリリゾート・パリ』同様,ブルガリホテルズ&リゾーツが運営します。」の記載がある(甲6の5)。
(カ)平成18年4月3日付け産経新聞大阪夕刊には,「近代建築で遊ぼう(1)生駒ビルヂング 大阪市中央区平野町/・・・株の街,北浜にほど近い大阪市中央区平野町。『生駒ビルヂング』は人をわくわくさせるような驚きに満ちている。・・・一階の片隅にカフェがあり,こちらは誰でも利用するることができる。『場所柄,ビジネスマンの方が多いですね』『il Bar』(イル・バール)のマネジャーの岡城武士さん(二七)は話す。・・・」の記載がある(甲6の6)。
(キ)「日本アセットマーケティング株式会社」のウェブサイトには,「PRニュース 2005年6月7日6月10日(金)T4B 1F『ムウムウコーヒー』リニューアルオープンのお知らせ/このたび『ムウムウコーヒー北浜店』は,新町トラルバンコとのコラボレーションにより,"バールの活気を日常に"をテーマに,イタリアン・バール『ムウムウ&イル・バール・セントラルバンコ』に生まれ変わります。手軽で日常的に使えるバールというスタイルを,生駒ビルヂングの重厚感溢れる空間と共にお楽しみください。/オープン 2005年6月10日(金)/住所 大阪市中央区平野町」の記載がある(甲6の7)。
(ク)平成14年12月26日付け熊本日日新聞には,「アット・ストリート/ランチはイタリアンデリのバイキング!/ベスト電器横に出来た『イル バール モリコーネ』は,イタリアンのお店。1Fは持ち帰りデリコ-ナー,2?4Fはカフェとレストランで,パスタやピザをはじめイタリアンがいっぱい。ワインも充実。ランチ(11時?15時)はデリバイキングとドリンク付きで,メーンにパスタかピザが選べて800円。・・・」の記載がある(甲6の8)。
イ 請求人による「IL BAR(イル・バール)」等の使用について
請求人は,本件商標の登録査定時である平成24年2月23日までに「IL BAR」と称する店舗を6店舗(「丸の内オアゾ店」,「八重洲地下店」,「並木ハイボール店」,「田町店」,「京都駅店」,「大阪駅店」),「PRONTO IL BAR」と称する店舗を12店舗(「UDXアキバ・イチ店」,「神谷町店」,「札幌エスタ地下街店」,「霞が関ビル店」,「新宿野村ビル店」,「東京国際フォーラム店」,「大手町日本ビル店」,「八重洲さくら通り店」,「日本生命札幌ビル店」,「新橋烏森口店」,「ニッセイ池袋ビル店」,「梅三小路店」)を開店している。
ウ 甲第8号証の1ないし11について
(ア)「食べログ」のウェブサイトには,「トラットリア バール イル ポルトローネ(TRATTORIA BAR IL POLTRONE)」及び「オープン日 2011年3月9日」の記載がある。(甲8の1)
(イ)インターネットアーカイブ「WaybackMachine」に平成23年1月30日付けで「ENOTECA BAR IL MATTO」が記録されている。(甲8の2)
(ウ)「食べログ」のウェブサイトには,「イタリアンバール イル カドッチョ(IL CADOCCIO)」及び「オープン日 2010年10月28日」の記載がある。(甲8の3)
(エ)インターネットアーカイブ「WaybackMachine」に平成22年7月31日付けで「trattoria bar IL GHIOTTONE トラットリア バール イルギオットーネ」が記録されている。(甲8の4)
(オ)「食べログ」のウェブサイトには,「イルメント(ITALIAN BAR IL MENTO)」及び「オープン日 2010年5月15日」の記載がある。(甲8の5)
(カ)「モサオの福岡うまぃ店」のウェブサイトには,2010年5月3日付けで「イタリアンバール イル・ヴィゴーレ 六本木店」の記載がある。(甲8の6)
(キ)「雪谷マップ」のウェブサイトには,「Bar Il Circolo(バール)」の記載があり,2009年11月28日に同店に関する直近の書込みがされている。(甲8の7)
(ク)「sasakichie.com」のウェブサイトには,「2009.08.03イタリアンバール/il Giobatore」の記載がある。(甲8の8)
(ケ)「街の話題なら、サンゼロミニッツ」のウェブサイトには,「bar il primario(バール イルプリマリオ)」及び「オープン日 2008年11月5日」の記載がある。(甲8の9)
(コ)「食べログ」のウェブサイトには,「Italian BAR/イルソーレ(IL SOLE)」及び「オープン日 2007年9月19日」の記載がある。(甲8の10)
(サ)「食べログ」のウェブサイトには,「イタリアンバール/IL ALBERTA(イル アルバータ)」及び「オープン日 2007年6月24日の記載がある。(甲8の11)
(3)認定事実について
ア 上記アの店舗数についてみるに,ア(イ)で述べた店名「ワイン&カジュアルイタリアンamaze(IL BAR amaze)」(甲6の2)は,平成23年7月に閉店していると認められ,また,ア(エ)で述べた店名「イルバールディプント」(甲6の4)は,乙第10号証によれば「このお店は休業期間が未確定,移転,閉店野事実確認が出来ないなど,店の運営状況の確認が出来ておらず,掲載保留しております。」と記載されていること及び最新の口コミについて訪問が平成21年11月,投稿が同年同月19日であることから,本件商標の登録査定時には営業をしていなかったと推認され,さらに請求人は甲第6号証の6及び7に示す店舗は異なる2つの店舗であるかのように述べているが,ア(カ)及び同(キ)で述べたとおりいずれも大阪市中央区平野町生駒ビルヂング内1階にあり,しかも「コーヒーの提供」をしている点も共通していることから,同一の店舗と推認されるものであるから,請求人が甲第6号証でイタリア料理店の店舗名中に「IL BAR」又は「イルバール」の文字が本件商標の登録査定時おいて使用されていたのは,ア(ア)の「ラ・テラッツァ イル・バール・ディ・オフィチーナ(LA TERRAZZA IL BAR di OFFICINA)」,ア(ウ)の「IL BAR INSIEME(イルバール・インシエメ)」,ア(オ)のイタリアンレストラン&バー「Il Ristorante & Il Bar(イル・レストランテ&イル・バール)」,ア(キ)の「ムウムウ&イル・バール・セントラルバンコ」及びア(ク)の「イル バール モリコーネ」の5店舗であると認められ,「IL BAR」又は「イルバール」の文字を使用した店舗数は,さほど多いとはいえないものである。
してみると,本件商標の登録査定時における「IL BAR」又は「イルバール」の文字の使用件数は,上記イに掲げた申立人の店舗の18件のほか5件であり,「IL BAR(イルバール)」が本件商標の登録査定時において,主としてイタリア料理を提供する飲食店の店舗名として,飲食業界において,広く一般に使用されていたとはいえないものである。
また,提出された証拠からは,イタリア料理店の店舗名中に含まれる「IL BAR」又は「イルバール」の文字が,飲食業界において役務の質を表すものとして認識されているとの事実も認めることができない。
イ 上記ウの店舗数についてみるに,「IL」若しくは「イル」又は「BAR」若しくは「バール」の文字を飲食店の店舗名として使用されている事実は認められるが,その使用に係る態様が,例えば,ウ(ア)の「トラットリア バール イル ポルトローネ(TRATTORIA BAR IL POLTRONE)」,ウ(サ)「イタリアンバール/IL ALBERTA(イル アルバータ)」など,「IL」と「BAR」のいずれかの使用若しくは,語順が逆であるなど,本件商標「IL BAR/イルバール」の使用とは相違するものであって,該文字についての商標法第3条第1項第3号の該当性を判断する資料としては適切なものでない。
(4)判断
以上の認定事実を総合すると,我が国においてイタリア語は,馴染みの薄い外国語であるから,「飲食物の提供」についての一般の需要者はイタリア語に由来する「IL BAR/イルバール」の語はもとより「IL BAR」及び「イルバール」の各語については,一般に慣れ親しんだものとはいい難いことから,特定の意味を有しない造語として理解すると解されること,イタリア料理店の店舗名中に「IL BAR」又は「イルバール」の文字が使用されていたのは,甲各号証によっては,5店舗が認められるにすぎないものであって,「IL BAR(イルバール)」が本件商標の登録査定時において,主としてイタリア料理を提供する飲食店の店舗名として,飲食業界において,広く一般に使用されていたとはいえないこと,その結果,「IL BAR(イルバール)」の文字が需要者によって指定役務の提供場所や質などを表すものとして認識されることはないと解されること,請求人の「IL BAR」の使用6件及び「PRONTO IL BAR」の使用12件については立証されていないが,仮にこれが事実であるとしても,全体としての使用件数が未だ少なく上述した理解に影響を及ぼすものではないこと,「IL」若しくは「イル」又は「BAR」若しくは「バール」の文字を飲食店の店舗名として使用していることが認められるが,これによって「IL BAR/イルバール」が指定役務の提供の場所や質などを表すものとして認識されることはない。
してみると,本件商標は,これをその指定役務に使用しても指定役務の提供場所や質などを表すものとして認識されることはなく,自他役務の識別標識として機能するものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当しない。
2 請求人の主張について
なお,請求人は,過去の審査例において,「ilBAR/イルバール」の文字を含む商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして拒絶された例がある(甲9)旨主張するが,商標出願についての審査は各案件毎に事案に応じてなされるべきであり,また請求人が挙げる事案はその構成中の上段に「Italian Cafe(「e」の上にはアクセント記号が付されている。)」の文字が含まれ,本件商標とは構成が異なるものであって事案を異にするものであるから,本件事案が常に先例と同じ結論になるとは限らないものである。
3 請求人は,審理終結通知後に平成27年7月17日付け弁駁書を提出し,証拠方法として甲第10号証ないし甲第15号証を提出している。そして上記弁駁書において,以下の主張をしている。
(1)「飲食物の提供」との関係において,「BAR/バール」が「(イタリア式の)スナック。喫茶店」の意味合いとして認識される以上,本件商標の「IL BAR/イルバール」からは,「BAR/バール」の部分に照応して,「(イタリア式の)スナック。喫茶店」の意味合いを有するイタリア語「BAR」(バール)としての観念が生じることは明白である,として平成16年6月9日審決(不服2000-9994)を引用している(甲11の1)。
(2)本件商標の登録査定時(平成24年2月23日)において,本件商標が現実に飲食店の店舗名に,すなわち「飲食物の提供」について自由に使用されている事実(甲2ないし甲9)がある以上,これを「取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲する商標」,「特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でない商標」と考えることに疑義を差し挟む余地はなく,本件商標が「飲食物の提供」の役務の質を表すものとして,飲食業界において広く一般に使用されており,自他役務識別力がない,として平成13年10月2日審決(不服2000-14819)(甲11の2),平成16年1月21日審決(不服2002-611)(甲11の3)を引用している。
(3)「IL BAR/イルバール」や「BAR/バール」が,本件商標の査定時(平成24年2月23日)において,「飲食物の提供」について役務の質を表すものとして使用されている取引の実情があり, しかもそれが現在も継続しており,今後,さらに一般化するであろうことが容易に想定される状況にあっては,本件商標の登録維持を図ろうとする被請求人の主張こそが,取引秩序を乱し,ひいては消費者の利益を阻害するものというべきである。
そこで検討するに,上記弁駁書で主張する事項は,審判請求書でも主張してきた事項であり,また,新たな証拠についても,英語の定冠詞「the」についてのもの等,本件商標と事案を異にするものといえる。
したがって,上記弁駁書の内容によって前記判断に影響を与えるものとみることはできないことから,審理再開の必要は認めないものとする。

4 結論
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第3号に該当するものでないから,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきものでない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-07-01 
結審通知日 2015-07-03 
審決日 2015-09-01 
出願番号 商願2011-73668(T2011-73668) 
審決分類 T 1 11・ 13- Y (X43)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 金子 尚人
榎本 政実
登録日 2012-03-16 
登録番号 商標登録第5479674号(T5479674) 
商標の称呼 イルバール、イルバー 
代理人 田中 克郎 
代理人 中村 勝彦 
代理人 澤木 紀一 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 稲葉 良幸 
代理人 阪田 至彦 

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