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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない X161835
管理番号 1310779 
審判番号 取消2014-300881 
総通号数 195 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2016-03-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2016-01-12 
事件の表示 上記当事者間の登録第5440562号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5440562号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成23年3月3日に登録出願,第16類「紙類,文房具類」,第18類「かばん類,袋物」,第35類「織物及び寝具類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を含む第3類,第14類,第16類,第18類,第21類,第24類及び第35類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として,同23年9月22日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成26年11月19日である。
また,本件審判請求の登録前3年以内の期間である同23年11月19日から同26年11月18日までの期間を,以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は,商標法第50条第1項の規定により,本件商標の指定商品及び指定役務中,第16類「紙類,文房具類」,第18類「かばん類,袋物」,第35類「織物及び寝具類の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(以下「取消請求商品等」という場合がある。)について登録を取消す,審判費用は,被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書,弁駁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ,甲第1号証ないし甲第3号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品及び指定役務中,取消請求商品等について,過去3年以上にわたり,日本国内において,本件商標権者または使用権者のいずれもが,当該指定商品及び指定役務について本件商標と同一または同一と認められる態様で使用されたとする事実が発見できず,不使用の事実が明らかである。また,不使用について正当事由があるとは,認められない。
2 答弁に対する弁駁
(1)第16類について
被請求人は,本件商標に関し,二つの商品区分及び一つの役務区分の指定商品及び指定役務の取消が求められているのに対し,そのうちの第18類「かばん類」に関する指定商品についてのみ,その使用の証明を試みている。
「審判請求のてびき 改訂第5版 特許庁審判部編」の154頁,下から8?7行目に,合議体は,「複数の指定商品・役務に対して取消審判請求された場合は,指定商品・役務ごとに判断される。」と,明記されていることからも,取消を求められた「指定商品・役務」ごとに,その使用の証明をする必要がある。しかし,被請求人は,第16類の指定商品「紙類,文房具類」については,全くその使用の証明をしていない。
(2)第18類について
ア 乙号証について
(ア)乙第1号証ないし乙第3証及び乙第7号証にあらわされた「バッグ」には,本件商標が,見出されず,本件商標の使用を証明しているものということはできない。
被請求人は,乙第1号証,乙第2号証及び乙第3号証に掲載されている「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」と乙第7号証の写真とは,表面の柄が同一であるから,同じ「ハンドバッグ」であると主張しているが,表面の柄のみが同一であることをもって,乙第1号証,乙第2号証,乙第3号証及び乙第7号証の「バッグ」が各々同一のものであるとは,証明できず,承認できるものではない。
また,被請求人は,乙第7号証の説明で,「米国に所在するデザイン企画者との間で,『ハンドバッグ(クラッチバッグ)』の検品を行った際の電子メールの写しである。」とし,「2013年5月に,本件商標を留め金部に刻印した『ハンドバッグ(クラッチバッグ)』が我が国に輸入されており,」と,主張しているが,これが事実なら,被請求人が本件商標の使用として提出している「梅鉢紋」は,被請求人の本件商標ではなく,アメリカのデザイン企画者の商標であると認められる。少なくとも,その「梅鉢紋」は,「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の単なるデザインとして創作されたものであり,商標として,自他商品の識別機能を有するために,「バッグ」に付されたものではないといえる。
(イ)乙第4号証,乙第5号証,乙第6号証は,乙第1号証,乙第2号証,乙第3号証及び乙第7号証に表示された「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の留め金部の写真を提出しているが,この各号証写真の留め金部に表示されている「梅鉢紋」は,上記のとおり,被請求人の本件商標ではなく,かつ単なる商品上のデザインを表示するものでしかない。
イ 上記(ア)及び(イ)のとおり,本件商標を第18類「かばん類,袋物」に使用しているとはいえない。
(3)第35類について
上記(2)において述べた如く,本件商標が,第18類の指定商品「かばん類」の「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に使用されているとは,その提示されている乙各号証から認められないものであるから,当然本件商標は,第35類の指定役務「かばん類及び袋物の小売または卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」にも使用されているとはいえない。
また,その他の第35類の指定役務についても何ら本件商標の使用を証明していない。
3 口頭審理陳述要領書(平成27年7月17日付け)
(1)本件商標の使用の証明について
多区分にわたって取消審判を請求された場合,一商品区分(または役務区分,以下同じ)のみの商品(または役務,以下同じ)の使用を証明すれば,他の全ての商品区分の取消を免れるとするものとは解されない。
何故なら,商標法第50条第2項は,多区分一出願による商標登録を認めても,何ら改正されることなく,従前とおり運用されており,そうであれば,法文の「その請求に係る指定商品または指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り」は,同一区分内における請求商品と同一または類似の商品の使用を証明しない限り,その取消は免れないということであって,他の商品区分にまで,免れの効力が及ぶものではないと解すべきものである。
また,多区分一出願商標であっても,取消審判を請求する場合,各々の区分に対し各々取消審判を請求することができるのであり,その場合被請求人は,各々の区分で取消を求められた商品について,それと同一または類似する商品に付いて登録商標の使用を証明しなければ,その取消を免れない。
すなわち,我が国は,永らく「一区分一出願」制度を採用してきたが,商標法条約への加盟にともなって,一の願書で複数区分にわたる商標出願を認めることとした(多区分一出願)。これにともない,従来は区分毎にしか請求が認められなかった不使用取消審判においても,一の審判請求で多区分にわたる商標登録の取消審判の請求を認めることとなった。これは商標法条約のユーザフレンドリーの要請からであり,商標の実体的な取扱いを変える趣旨でないことは明らかである。
かかる多区分一出願制度の採用後においても,不使用取消審判に係る法律の規定は何ら改正などされておらず,従前は単に区分毎に取消審判を請求していた手続を,一の審判請求で複数区分に係る商標登録の取消が可能となった。取消審判を請求された同一区分に属する指定商品または指定役務のうちいずれかについて使用が証明されれば,同じ区分に属する指定商品または指定役務についての使用を証明しなくとも,商標登録全体の取消が免れる取り扱いを,多区分一出願制度の採用後に,他の区分の指定商品の使用状態を判断する必要がないと解して実態審理を大きく変えることを許容する根拠となるものではない。
ある日より,まったく異なる取扱いになるのであれば法律にその旨規定されるのであって,法定主義をとる我が国にあって,法律に何らの変更もなされていないのに,区分毎の複数の請求書で取消審判を請求したか,多区分にわたる商標登録の取消審判請求を一の請求書で請求したかによって審理の内容が大きく異なる取扱いをすることが認められないのは明らかである。
したがって,商標法第56条第2項のいうのは,一つ商品区分内で,複数の指定商品に付いて取消審判を請求した場合,個々の指定商品について取消審判を取下げることはできないといっているのであって,他の商品区分の指定商品について請求された取消審判まで取下げることができないといっているものではない。
(2)本件商標の使用に係る商品の同一性について
ア 被請求人は,乙第1号証ないし乙第7号証のハンドバッグ(クラッチバッグ)は,同一のものであると強く推認されると思料されると主張するのみで,証拠が全く示されていない。
イ 被請求人は,乙第1号証ないし乙第7号証のハンドバッグを,オープニングショーに出展したとして,乙第11号証及び乙第12号証(差換え,乙第21号証の1ないし3)を,誰が,何時,何処で写したのか全く証明がないまま証拠として提出している。
しかし,乙第11号証,乙第12号証,差換えの乙第21号証の1ないし3からも,本件商標が全く見えないか,本件商標であるか否か全く分からないものである。のみならず,これら証拠に表示されているハンドバッグと乙第1号証ないし乙第7号証に表示されているハンドバッグが同一の商品であるという証明が全くされていない。
株式会社ADEAMインターナショナル(以下,「ADEAMインターナショナル」という。)は,本件商標の通常使用者である,と主張しているが,被請求人の答弁書には,全く出てこず突然に現れた使用権者である。しかし,この使用権者は,その住所が不明で,何時から使用権が許諾されているのかも全く不明である。
不使用取消審判において,登録商標の使用行為が,商標法第2条第3項各号に定める「使用」の定義に該当しなければ,「登録商標の使用」とは認められないことは明らかであるが,仮に当該使用行為が同各号の「使用」に形式的に該当するとしても,商標の本質的機能,即ち,自他商品識別機能を発揮しない場合には,登録商標を使用したと認められない。商標法第50条第1項等における登録商標の「使用」というためには,商標法第2条第3項各号に定める「使用」の定義に形式的に該当することでは足りず,実質的に商標の機能を発揮する態様で使用されなければならない。
乙第1号証,乙第2号証等からは,本件商標の付されたバックがいずれかの需要者に販売されたことの証明はなされていない。
被請求人は,ADEAM 東京ミッドタウン店のオープニングに際して開催されたショーにおいて,モデルが所持していたハンドバッグに本件商標が付されていたと主張しているが,当該ハンドバッグは,モデルが着用しているファッションを引き立てるアクセサリーとして機能していると解され,モデルが所持しているのみの形態では,このハンドバッグが当該オープニングの際に店舗での販売対象であったか否かが不明であり,取引の対象であったとは確認できない。
そもそもオープニングショーにおいてモデルが所持しているハンドバッグが,一般に市販されている量産品であるとは確認できず,一品ものであると推察するのが自然である。
例えオープニングショーのモデルが所持しているハンドバッグに本件商標が付されていたとしても,その事実は本件商標を付した指定商品の取引の反復継続性に欠け,業としての使用の証明とはいえない。
エ 本件商標が商標の本質的機能を発揮した状態で「使用」されていなければ,「使用」とはいえない。
被請求人の提出した本件商標を表示したと称する「ハンドバッグ」については,価格が¥180,000円である旨の表示とともに,ハンドバッグ全体が表されている(乙1,乙2)。しかし,この「ハンドバッグ」の写真は,乙第3号証のようにハンドバッグの正面のデザインがかろうじて判別できるのみであり,当該ハンドバッグについて本件商標が自他商品識別標識として機能していること,即ち,本件商標が使用されたことは立証されていない。
(3)まとめ
以上から,被請求人の提出している乙各号証は,何ら本件商標がハンドバッグに使用されていることの証明にはならず,むしろ,商品ハンドバッグは,アメリカで作られたデザイン見本であることを証明し,かつ商品として日本に輸入されていないことを証明しているもので,本件商標が,商品ハンドバッグに使用されていることは,認められない。
4 平成27年8月21日付けの上申書
(1)本件商標の使用の証明について
被請求人は,登記簿謄本を提出し,被請求人と通常使用権者が,同一人であったとしても,請求人が,求めている本件商標が,「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に,使用されていたことの証明にならないことは,従前からの請求人の主張のとおりである。
この乙第22号証,乙第23号証,乙第24号証は,通常使用権者は,全く存在しなかったことを証明しているのみで,本件商標が,商品「ハンドバッグ(クラッチチバッグ)」に使用されていたことの証明にはなっていない。
また,乙第14号証の訂正として乙第25号証を提出しているが,この乙号証も,真実信用できない。何故なら,本件審判を請求された時点で,何を立証しなければならないかは,当然分かり切っていたことである。即ち,本件商標が,商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に付して使用されていることを,流通している商品の一つを写真に撮って提出すれば済むことである。
しかるに,現実に,本件商標が付された商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」が商品として流通しておらず,ファションショーに使用された見本品よりないため,それを,本件商標の使用の証明にしようとし提出し,それを維持するため,無理が生じ,この乙号証の訂正をしなければならない状況になったものと推測される。
さらに,乙第26号証及び乙第27号証は,単なる見積書であり,それによって,本件商標が,商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に付して使用されていたことの証明には全くならないものであるし,乙第28号証及び乙第29号証は,これまた単なるルックブックの表紙であって,本件商標の使用の証明には,全くならない。
(2)本件商標の使用に係る商品の同一性について
被請求人は,乙第1号証及び乙第2号証掲載の「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」は,被請求人の商品である旨主張するため,乙第30号証を提出しているが,この乙第30号証のメールでは,「クラッチバッグ180,000円」となっており,乙第1号証及び乙第2号証では,単に「バッグ」とのみ表示され,これらから乙第30号証の記載の「クラッチバッグ」と乙第1号証及び乙第2号証掲示の「バッグ」が,同一のもので有るということはできない。
何故なら,乙第30号証は,文章のみで,写真がなく,確認できないのみならず,価格の同一は,必ず商品同一を証明するものではないからである。
また,乙第1号証及び乙第2号証の「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に被請求人が,本件商標を付したものであると述べているが,この主張は,乙第7号証のやりとりの事実と矛盾するものであり,信憑性に疑問が有る。
(3)陳述書について
被請求人は,乙第14号証及び乙第25号証の証拠能力に疑義ないと思料するとされているが,この陳述書の陳述人は,被請求人の社員(被雇用者)であるとすれば,この陳述人は,被請求人を代表する者ではなく,単なる被雇用者であって(事実被請求人提出の乙第22号証ないし乙第24号証の登記簿謄本には,全く陳述者の氏名の記載はない),個人として陳述しているのであるから,陳述書に社印でなく,個人印を押印するのが自然である。
事実,被請求人は,乙第31号証の陳述書の陳述者の押印には,社印でなく,代表取締役の印を使用し,その正当性を担保しているのに,乙第14号証及び乙第25号証に於いては,印に依って,その正当性を担保していない。
また,乙第14号証及び乙第25号証は,事実上本件商標が,当該商品に使用されていることを示しているものではないので,本件商標の使用事実の証明にはならない。
(4)請求人のその他の主張
商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」(以下,単にバッグという。)が,真実被請求人の商品であるか否か疑問である。乙第7号証の遣り取りを見ると,この商品バッグは,アメリカから送付されている。即ちアメリカで製造されたものであって,日本で製造されたものでないことを如実に示している。そうであれば,当該バッグに,日本の登録商標が使用されているとするのは無理があり,それは単にデザインとして使用されていると見るのが自然であり,また,当該バッグが,日本の一般取引者・需要者の目に全く触れず,日本国内にその様なバッグが流通しているかどうかも疑問である。
また,被請求人が,本件商標を使用していると主張するバッグが,日本で製造し販売されているのか,その証明が全くない。輸入品であれば,輸入した証明書がある筈であるが,その証明書の添付もない。
乙第7号証からして,単にショーに使用するため,見本品として仕入れたものであると考えられる。
(5)まとめ
これらのことからして,被請求人が,本件商標を,商品バッグ使用しているとは考えられず,また,その様な商品が,日本国内市場に流通していたとは,考えられず,本件商標は,当該商品には使用されていないといわざる得ない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を答弁書,口頭審理陳述要領書及び上申書において要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第31号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は,その指定商品中「かばん類」について,本件審判請求の予告登録前3年以内に日本国内において,被請求人により使用されている。
この使用の事実を,乙第1号証ないし乙第7号証により明らかにする。
(1)雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」2013年(平成25年)8月号(ハースト婦人画報社,2013年6月28日発行)(乙1)の79頁,及び雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」2013年(平成25年)12月号(ハースト婦人画報社,2013年10月28日発行)(乙2)の134頁には,被請求人の本件商標の使用に係る商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」が掲載されている。
(2)乙第3号証ないし乙第6号証は,上記(1)の商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」を撮影したものであり,本件商標が商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の止め金部に刻印されている(乙6)。
(3)乙第7号証は,2013年5月11日から同年同月14日までの間に被請求人と,米国に所在するデザイン企画者との間で,「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の検品を行った際の電子メールの写しである。
乙第7号証の4/5頁には,検品の対象として,本件商標が刻印された「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の写真が添付されている。
(4)乙第7号証に添付されている写真と,乙第1号証,乙第2号証及び乙第3号証に掲載されている「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」は,その表面の柄が同一であることから,本件商標が刻印された「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」が2013年6月及び10月に雑誌に掲載されていることは明らかである。
(5)したがって,本件商標が「かばん類」について,本件審判請求の予告登録前3年以内に,日本国内において被請求人が使用していることは明らかである。
2 口頭審理陳述要領書(平成27年7月3日付け)
(1)商標法第50条の規定による取消審判について,本来的には審判請求の受益者である審判請求人が商標の不使用の事実について挙証責任を負うべきところ,現行法では当該事実の証明の困難性に鑑みて挙証責任の転換が図られており,他方,商標権者における挙証責任が過大となるのを回避すべく,請求人においては請求対象となる指定商品または指定役務を限定して審判請求することが求められている。
そして,上記の制度趣旨から,商標権者等が請求対象の指定商品または指定役務のいずれかについて登録商標の使用していること証明することにより取消を免れることとし(商標法第50条第2項柱書),指定商品または指定役務ごとに審判請求を取り下げることはできないとすることで(商標法第56条第2項),不使用取消審判の請求が全体として一つの事件を構成することを明らかにしている。
したがって,請求対象の指定商品または指定役務のうち,第18類「かばん類」に属する「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」について本件商標を使用していることから,請求に係る指定商品及び指定役務について取り消されるべきではない。
(2)本件商標の使用に係る商品の同一性について
乙第1号証ないし乙第7号証中のハンドバッグ(クラッチバッグ)の表面には,起毛の極めて特徴的かつ独創的なデザインが立体的に施されており,被請求人の調査した限りにおいて同様のデザインが施されたかばん類は他にない。
したがって,乙1号証ないし乙第7号証中のハンドバッグ(クラッチバッグ)は何れも同一仕様のハンドバッグ(クラッチバッグ)であることが少なくとも強く推認されるものである。
そして,乙第4号証ないし乙第6号証の写真においてハンドバッグ(クラッチバッグ)の留め金部に本件商標が刻印されていることは明瞭であり,乙第1号証,乙第2号証(雑誌掲載商品)及び乙第7号証(被請求人・デザイン企画者間のメール写し)中のクラッチバッグの留め金部を見ると,陰影または凹凸があることを確認することができる。
この点,乙第1号証及び乙第2号証の雑誌掲載商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」の留め金部に本件商標が刻印されており,また,乙第3号証ないし乙第6号証の写真中の「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」と同一仕様の商品であることいついては,陳述書の項目1及び2(乙14)のとおりである。
また,陳述書の項目6(乙14)のとおり,乙8号証ないし乙第10号証は,乙第7号証におけるメールに添付された画像中,「IMG_6827.JPG」,「IMG_6836.JPG」及び「IMG_6856.JPG」の各拡大画像であり,本件商標を明瞭に確認することができる。
以上述べたことを総合的に勘案すると,乙第1号証ないし乙第7号証中のハンドバッグ(クラッチバッグ)は全て同一仕様の商品であることが少なくとも強く推認され,乙第1号証及び乙第2号証(雑誌掲載商品),乙3号証(ハンドバッグ(クラッチバッグ)を正面から撮影した写真)及び乙第7号証(被請求人・デザイン企画者間のメール写し)のハンドバッグ(クラッチバッグ)の留め金部には,何れにも乙第4号証ないし乙第6号証中のハンドバッグ(クラッチバッグ)と同様に本件商標が刻印されていると考えるのが自然である。
(3)本件商標の使用に係る商品「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」のショーヘの出展について
乙第11号証及び乙第12号証の写真は,本件商標の通常使用権者であるADEAMインターナショナルが,東京都港区赤坂に所在する複合商業施設「東京ミッドタウン」に出店した際のオープニングショー(乙13の1及び乙13の2)において撮影された写真である。
写真中においてランウェイ上のモデルが当該ハンドバッグ(クラッチバッグ)を所持しており,やや不明瞭ではあるものの留め金部の刻印,及び乙第12号証中においては当該ハンドバッグ(クラッチバッグ)表面上の特徴的な模様を確認することができる。
また,ADEAMインターナショナルが本件商標の通常使用権者であり,当該ショーを開催していること,また,乙第11号証及び乙第12号証の写真が当該通常使用権者の作品を着用したモデルの写真であり,且つ,当該モデルの持つハンドバッグ(クラッチバッグ)は,乙第1号証ないし乙第7号証のハンドバッグ(クラッチバッグ)と同一仕様の商品である(乙14の項目5,7及び8)。
他方,乙第1号証掲載の商品中,項目8に記載のハンドバック(クラッチバッグ)及び乙第2号証の掲載のハンドバッグ(クラッチバッグ)に関連して記載されている「アディアム/アディアム インターナショナル」は,上記通常使用権者の別称であり,両者は同一人である(乙14の項目4)。
参考までに,「アディアム」は,被請求人の展開するブランドの一つである「ADEAM」をカタカナで表記したものであり,被請求人は,当該文字に関連して商標登録第5361629号(乙15),同第5445335号(乙16),同第5468220号(乙17),同第5660378号(乙18),同第5660380号(乙19),同第5660680号(乙20)を所有していることを附言する。
したがって,通常使用権者が要証期間中に本件商標を審判請求対象の指定商品中「かばん類」(第18類)について使用していたことは明白である。
(4)商標としての使用について
本件商標は,ハンドバッグ(クラッチバッグ)の一部(留め金部)に刻印されており,商品全体に大きく顕著に表示されているともいえず,本件商標についてハンドバッグ(クラッチバッグ)自体のデザインとはいえない。
また,例えば,商品全体に商標が大きく表示されている場合のように,商標の意匠的使用が同時に商標の識別機能としての使用を構成することがあることは,往々にしてあり得るところであり,仮に本件商標のハンドバッグ(クラッチバッグ)についての使用が,請求人の主張するように意匠的な使用であるとしても,画一的に商標の自他商品識別機能を否定する要素とはなり得ない。
この点について,ルイ・ヴィトン事件(大阪地判昭和62年3月18日無体集19巻1号66頁)では,「被告は,被告のなした本件標章(一),(二)の使用は,意匠としての使用であるから商標権の侵害とはならないと主張するようであるけれども,商標と意匠とは,排他的,択一的な関係にあるものではなくして,意匠となりうる模様等であっても,それが自他識別機能を有する標章として使用されている限り,商標としての使用がなされているというべきところ,前期甲第五,第一五号証によれば,原告及び被告は本件標章(一),(二)をその商品に自他識別機能を有する標章として使用していることが明らかであるから,被告の本件標章(一),(二)の使用は商標としての使用として商標権の侵害となるのであり,被告の前掲主張は理由がない。」(下線は,被請求人による。)と認定されており,また,HEAVEN事件(東京地判平成2年1月29日取消集(15)437頁)では,「被告は,本件商標を商標として使用しているものではない旨主張しているが,本件商標はアンダーシャツの胸部中央等に大きく附されていても,その使用形態に照らし,出所表示機能を有するものであるから,商標として使用されているのである。」(下線は,被請求人による。)と認定されていることからも明らかである。
したがって,ハンドバッグ(クラッチバッグ)についての本件商標の使用は,そもそも意匠的な使用とはいえず,また,仮に意匠的な使用に該当するとしても,なお自他商品識別機能を発揮し得るものである。
4 平成27年8月7日付けの上申書
(1)本件商標の使用主体について
被請求人は,本件商標の使用主体について,これまで,大要,下記の4点の内容を主張してきた。
ア 乙第1号証及び乙第2号証の雑誌記事中,「アディアム/アディアム インターナショナル」は,被請求人のグループ会社である「ADEAMインターナショナル」の別称で,両者が同一であること,
イ 被請求人はADEAMインターナショナルに対して通常使用権を許諾していること,
ウ ADEAMインターナショナルが2013年4月24日に東京都港区赤坂に所在する複合商業施設「東京ミッドタウン」において新店舗のオープニングショーを開催したこと,
エ 当該ショーにおいて,モデルは,乙第11号証,乙第12号証,乙第21号証の1及び乙第21号証の2のとおり,ADEAMインターナショナルが出展した,乙第1号証ないし乙第7号証のハンドバッグ(クラッチバッグ)を所持していること。
しかしながら,その後の被請求人による確認作業により,下記の事実が判明した。
ADEAMインターナショナルは,被請求人の関連会社である,「株式会社フォクシーインベストメントコーポレーション」として,平成12年6月1日に設立登記され,平成23年9月29日に「株式会社ADEAMインターナショナル」へと商号が変更・登記された。その後,平成24年9月4日付けで被請求人に合併し,解散し(乙22),さらに,平成25年11月18日付けで再度,設立登記され,現在もなお,存続している(乙23)。
すなわち,本件商標が乙第1号証ないし乙第7号証のハンドバッグ(クラッチバッグ)について使用されていた期間において,「アディアム/アディアム インターナショナル」は,被請求人のブランドの一つである「ADEAM」を取り扱う,事業部門の一つを指称するものであった。
被請求人とADEAMインターナショナルとは,乙第24号証として提出する被請求人の登記簿からも明らかなとおり,住所や役員の構成をほぼ同じくし,経済的にも密接な関係を有しており,また,上記のような合併及び再設立の経緯も相まって,被請求人の担当者に,被請求人,ADEAMインターナショナル,被請求人の事業部門「アディアム/アディアム インターナショナル」の関係に誤認があった。
これに伴い,乙第14号証の内容を訂正する旨,陳述した陳述書を,乙第25号証として提出する。
さらに,乙第1号証ないし乙第12号証,乙第21号証の1ないし乙第21号証の3の雑誌掲載時または写真撮影時に,「アディアム/アディアム インターナショナル」が被請求人の一事業部門であったことを示すものとして,被請求人がADEAMブランドのルックブックを制作する際に,印刷会社から取り寄せた見積り書(平成25年5月30日付け)の写しを乙第26号証及び乙第27号証として,また,当該ルックブックの表紙及び裏表紙の写しを乙第28号証及び乙第29号証として提出する。
これらの証拠によると,見積り書の宛名は,被請求人を指す「フォクシー殿」であり,品名には,「ADEAM 2013fall ルックブック(物)」または「ADEAM 2013fall ルックブック(モデル)」と記載されています。また,ルックブックの裏表紙には,「ADEAM Tokyo Midtown」との記載とその住所が記載されている。
これらのことからは,「東京ミッドタウン」の店舗の出店者は被請求人であり,また,ADEAMの事業活動を行っているのもまた,被請求人であることは明らかである。
上記各証拠により,「アディアム/アディアム インターナショナル」が被請求人の事業部門の一つであったことが明らかになった。
(2)「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」への本件商標の使用について
乙第1号証及び乙第2号証に掲載されている「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」は,当該記事に記載されているとおり,「アディアム/アディアム インターナショナル」によって提供されたものであり,「アディアム/アディアム インターナショナル」は,「ADEAM」ブランドを取り扱う,被請求人の事業部門の一つである(乙25)。
よって,乙第1号証及び乙第2号証に掲載の「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」が,被請求人の商品であることは明らかであると共に,被請求人が本件商標を上記「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」に付したものであり,よって要証期間に使用していたことは明らかである。
また,これに関連して,被請求人から乙第1号証の記事を担当したスタイリストへ送られた,2013年(平成25年)5月28日付けe-mailによると,「ADEAM」の「藤島」氏から発信され,本文には「25ans8月号分のクレジットをお送り致しますのでご確認くださいませ。」,「クラッチバッグ・・・180,000円」及び「ブランド表記/ADEAM/アディアム▲インターナショナル」との記載がある(乙30)。25ans8月号の発行年月日は,「2013年(平成25年)6月28日」であり,後2者の記載は,いずれも乙第1号証の記事中の記載と一致する。
(3)「ハンドバッグ(クラッチバッグ)」のショーへの出展について
上記(1)及び(2)に関連して,平成27年7月3日付け口頭審理陳述要領書において,乙第11号証ないし乙第13号証の2,及び乙第21号証の1ないし乙第21号証の3を提出し,言及した,東京都港区赤坂に所在する複合商業施設「東京ミッドタウン」に出店した際のオープニングショーについて,下記のとおり訂正する。
平成27年7月3日付け口頭審理陳述要領書においては,当該出店の主体を「ADEAMインターナショナル」であるとしていたが,乙第25号証のとおり,当該出店は,「ADEAM」ブランドを取り扱う被請求人によってなされたものであって,オープニングショーの主催者も被請求人であった。
したがって,乙第11号証及び乙第12号証,乙第21号証の1ないし乙第21号証の3の写真は,被請求人の作品を着用したモデルの写真であり,ここに訂正する。
(4) 陳述書署名者について
乙第14号証及び乙第25号証の陳述書の署名者である,上田久美子氏は,被請求人の社員である。このことは,被請求人の代表者である,前田進氏による陳述書(乙31)からも明らかである。

第4 当審の判断
1 被請求人が提出した証拠について
被請求人の主張及び提出に係る証拠によれば,以下のとおりである。
(1)乙第1号証及び乙第2号証は,雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」2013年(平成25年)8月号(ハースト婦人画報社,2013年6月28日発行),及び同誌,同年12月号(2013年10月28日発行)であり,同雑誌内には,「バッグ」の写真と共にそれぞれ「ワンピース¥380,000 バッグ¥180,000 バングル¥28,000(すべてアディアム/アディアムインターナショナル)」及び「ケープ¥960,000 プルオーバー¥58,000 シャツ¥38,000 スカート¥76,000 バッグ¥180,000 靴¥96,000(すべてアディアム/アディアムインターナショナル)」の記載がある。
(2)乙第3号証ないし乙第6号証は,上記(1)の写真のデザインと同一のものといえるバッグの写真であり,本件商標が当該バッグの止め金部に刻印されている(乙6)。
(3)乙第7号証は,2013年5月11日から同年同月14日までの間に被請求人と,米国に所在するデザイン企画者との間で,「バッグ」の検品を行った際の電子メールの写しであり,「Sat, May 11,2013 at 5:10 AM」のメール内に,「ADEAM International」の記載と「46 W 55 St. New York, NY 10019」の記載があり,乙第8号証ないし乙第10号証は,上記(1)の写真のデザインと同一のものといえるメールに添付された検品対象の「バッグ」の画像の拡大であり,止め金部に本件商標が刻印されている(乙10)。
(4)乙第13号証の1は,ウェブサイト「Fashinsnap.com News」の2013年4月15日の記事であり,「ADEAM(アディアム)」が,4月25日に初のオンリーショップを六本木「東京ミッドタウン」のガレリア1Fにオープンする。」,及び「オープン前日の4月24日には,スペシャル ランウェイショーの開催が予定されている。」の記載がある。また,乙第13号証の2は,「ADEAM 東京ミッドタウン店オープニングショーの案内状の写し」であり,「PLEASE JOIN ADEAM FORTHEIR STORE OPENING AT TOKYO MIDTOWN」,「April 24 2013」,「7:00PM」,「TOKYO MIDTOWN」の記載がある。また,乙第11号証ないし乙第13号証(枝番号を含む。),及び乙第21号証は,該オープニングショーにおけるランウエイ上のモデルの写真であり,モデルの右手には,上記(1)の写真のデザインと同一のものといえる「バッグ」があり,当該写真を拡大したもの(乙21の2)には,止め金部に本件商標が刻印されている。
(5)乙第22号証は,ADEAMインターナショナルの閉鎖事項全部証明書であり,「登記記録に関する事項」に「平成24年9月1日東京都渋谷区神宮前四丁目2番16号株式会社フォクシーに合併し解散 平成24年9月3日登記」の記載がある。
乙第23号証は,ADEAMインターナショナルの履歴事項全部証明書であり,「登記記録に関する事項」に「設立 平成25年11月18日登記」の記載がある。
また,乙第24号証は,被請求人である株式会社フォクシーの履歴事項全部証明書であり,「登記記録に関する事項」に「平成24年9月1日東京都渋谷区神宮前四丁目2番16号から本店移転 平成24年9月6日登記」の記載がある。
(6)乙第26号証は,凸版印刷株式会社作成の平成25年5月30日付け,「ADEAM 2013fall ルックブック(物)」の最終見積書であり,乙第27号証は,平成25年5月30日付け,「ADEAM 2013fall ルックブック(モデル)」の最終見積書である。当該見積書の宛先は,いずれも「フォクシー殿(小杉様)」と記載されている。
そして,乙第28号証及び乙第29号証は,見積書に係る「ADEAM 2013fall ルックブック(物)」及び「ADEAM 2013fall ルックブック(モデル)」の表紙及び背表紙であり,背表紙には,「ADEAM Tokyo Midtown」及び住所が記載されている。
(7)乙第30号証は,上記(1)の雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」2013年(平成25年)8月号」のクレジット依頼の2013年5月28日付けのメールであり,「・ドレス...380,000円 ・クラッチバッグ...180,000円 ・バングル...28,000円」の記載と共に「<ブランド表記>ADEAM/アディアム▲インターナショナル <お問い合わせ先>ADEAM▲東京ミッドタウン店(アディアム▲インターナショナル)」の記載がある。
2 以上によれば,次のとおり判断できる。
(1)本件商標の使用に係る商品について
ア 乙第1号証及び乙第2号証は,雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」2013年(平成25年)8月号(ハースト婦人画報社,2013年6月28日発行),及び同誌,同年12月号(2013年10月28日発行)であり,同雑誌内には,バッグの写真と共に「ワンピース¥380,000 バッグ¥180,000 バングル¥28,000(すべてアディアム/アディアムインターナショナル)」の記載があり,「バッグ」に提示された「¥180,000」の表示は,当該「バッグ」を商品として販売する意図を持って雑誌に掲載したものといえる。
なお,これに関連して,乙第30号証では,上記雑誌8月号(乙1)掲載のクレジット依頼の内容が「クラッチバッグ」と「バッグ」及び「アディアム/アディアムインターナショナル」と「ADEAM/アディアム▲インターナショナル」と相違するが,雑誌掲載の際に掲載スペースの関係で表記が省略若しくは変更されることは考え得るところであり,この程度の変更によっては,その出品者(広告主)及び商品について,互いにその同一性が損なわれているということはできない。
イ 乙第3号証ないし乙第6号証,乙第8号証ないし乙第13号証(枝番号を含む。),及び乙第21号証にあらわされた「バッグ」は,上記アに表された「バッグ」のデザインが共通しており,特に表面のデザインが同一であることから,同一の「バッグ」と認められる。
(2)本件商標の使用について
ア 上記(1)の「バッグ」の留め金部には,本件商標が刻印されている(乙6,乙10及び乙21の2)。
イ 当該刻印はいわゆる「梅鉢紋」の図形であって,本件商標と社会通念上同一の標章であることについては,当事者間に争いはない。
ウ 商品全体に商標が大きく表示されている場合のように,商標の意匠的使用が同時に商標の識別機能としての使用を構成することがあることは,往々にしてあり得るところでり,本件商標を「バッグ」の一部である留め金部に刻印されていることが,意匠的な使用であるとしても,そのことをもって,直ちに看者が別異の標章あるいはデザインにとどまるものとして認識するとはいい難く,よって,かかる使用は,本件商標と外観上同視され得る図形からなる商標の使用というべきである。
(3)本件商標の使用者について
ADEAMインターナショナルは,平成24年(2012年)9月1日に被請求人に合併し解散となり,新たに平成25年(2013年)11月18日に設立された(乙21ないし乙23)。
したがって,被請求人が提出した本件商標の使用の証拠に係る各号証の日付け,すなわち上記(1)の雑誌「(25ans(ヴァンサンカン)」の発行日である2013年6月28日及び2013年10月28日及び上記1(7)の当該雑誌のクレジット依頼のメールの日付であるの2013年5月28日,上記1(3)の被請求人と,米国に所在するデザイン企画者との間で,「バッグ」の検品を行った際の電子メールの日付である2013年5月11日から同年同月14日,上記1(4)の「ADEAM 東京ミッドタウン店オープニングショー」の日付である2013年4月14日には,ADEAMインターナショナルは,被請求人に合併された状態であるといえるものである。
そうすれば,「ADEAM」の東京ミッドタウン店で配布される「ADEAM 2013fall ルックブック(物)」(乙28)及び「ADEAM 2013fall ルックブック(モデル)」(乙29)の見積書(乙26及び乙27)の宛先は,被請求人の略称(「株式会社」を除いた)と認められる「フォクシー」であることも首肯できるものである。
してみれば,被請求人は,本件商標の付された「バッグ」について,当初の製作の段階から取り扱っていたものといい得るものである。
(4)小括
上記(1)ないし(3)より,被請求人は,要証期間である平成23年11月19日から平成26年11月18日までの間に,本件商標が付された「バッグ」を雑誌に掲載して広告している(乙1及び乙2)ことからすれば,商取引を目的として,その指定商品及び指定役務中「かばん類」に属する「バッグ」に本件商標を付する行為を行っていたものであって,これは,商標法第2条第3項第1号に該当する使用をしていたと認められるものである。
3 本件商標の使用の証明について
請求人は,多区分にわたって取消審判を請求された場合,一商品区分(または役務区分,以下同じ)のみの商品(または役務,以下同じ)の使用を証明すれば,他の全ての商品区分の取消を免れるとするものとは解されない。したがって,被請求人が,本件商標に関し,二つの商品区分及び一つの役務区分の指定商品及び役務の取消が求められているのに対し,そのうちの第18類「かばん類」に関する指定商品についてのみ,その使用の証明を試みていることから,少なくとも「かばん類」とは非類似の商品であり,商品役務の区分を異にする第16類「紙類,文房具類」については,取り消されるべきである旨主張する。
しかしながら,商標法第50条第2項は,「審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者,専用使用権者または通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品または指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り,商標権者は,その指定商品または指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。」と規定しており,「請求に係る指定商品または指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明」することにより,商標権者は,その指定商品または指定役務に係る商標登録の取消しを免れることとなる。当該規定の趣旨は,「被請求人が使用の事実を証明する場合に,取消請求に係る指定商品(役務)の全てについて使用の事実を証明しなければならないこととすれば,その証明に要する手数が大変になるだけでなく,審判の迅速な処理も困難となり,また審判の請求人は自分で必要とする指定商品(役務)だけについて取消請求をするべきであると考えられるので,被請求人は,取消請求に係る指定商品または指定役務のいずれかについての使用の事実を証明すれば足りることを明らかにしている。」(特許庁編 工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第19版〕1461ページ)であり,本審判請求において,取消請求商品等のうち,「かばん類」に属する「バッグ」について,本件商標の使用が認められることよりすれば,その余の取消請求商品等について,その登録を取り消すことはできない。
4 むすび
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標権者が,その請求に係る取消請求商品等のうち,「バッグ」について,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたことを証明したものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品及び指定役務中,取消請求商品等について,商標法第50条の規定により,取り消すことができない。
よって,結論のとおり審決する。



別掲 本件商標

審理終結日 2015-11-13 
結審通知日 2015-11-17 
審決日 2015-12-01 
出願番号 商願2011-15275(T2011-15275) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (X161835)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 敏 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 金子 尚人
榎本 政実
登録日 2011-09-22 
登録番号 商標登録第5440562号(T5440562) 
復代理人 岡崎 廣志 
代理人 丸山 幸雄 
代理人 朴 暎哲 
代理人 杉村 憲司 
代理人 村松 由布子 

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