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審決分類 審判 全部申立て  登録を取消(申立全部取消) W41
管理番号 1309825 
異議申立番号 異議2015-900111 
総通号数 194 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2016-02-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-04-07 
確定日 2015-12-22 
異議申立件数
事件の表示 登録第5730994号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5730994号商標の商標登録を取り消す。
理由 1 本件商標
本件登録第5730994号商標(以下「本件商標」という。)は,「荒木無人斎流居合道」の文字を標準文字で表してなり,平成25年12月20日に登録出願,同26年12月16日に登録査定,第41類「居合術の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授,資格の認定及び資格の付与,資格検定試験の企画・運営又は実施,居合術に関するセミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・研究会の企画・手配・運営・開催及びこれらに関する情報の提供,武道場の提供,運動施設の提供,武道の用具の貸与,運動用具の貸与,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),表彰式の企画・運営又は開催,賞の企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),スポーツの興行の企画・運営又は開催」を指定役務として,同27年1月9日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は商標法第3条第1項第3号,同法第4条第1項第7号及び同第16号に該当するものであるから,取り消されるべきものである旨申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。
(1)商標法第3条第1項第3号及び同法第4条第1項第16号について
本件商標の「居合」の文字は,「片膝を立てて,すばやく刀を抜き放って敵を斬り倒す技」を意味する語である。また,「居合道」の文字は,「古武道の抜刀術(居合術)を現代武道化したもの」を意味する語である(甲2及び甲3)。
本件商標の「荒木無人斎流」は,16世紀後半,荒木無人斎源秀綱(一説には荒木夢仁斎源秀縄)によって創始された荒木流拳法の居合の系統として伝承されたものと言われている(甲4)。なお,荒木流拳法は,捕手術や小具足術,小太刀,剣,棒,長巻,鎖鎌,乳切木,両分銅等の武器を駆使する総合武術である。また,現存するものとして,荒木無人斎流居合道のほか,荒木無人斎流柔術,荒木流拳法,荒木流捕手,荒木流軍用小具足などがある。
本件商標の登録時において,現に,荒木無人斎流居合道の愛好者等が日本各地におり,その稽古や鍛錬をする道場が複数存在していて,稽古や鍛錬が一私人に限定されることなく行われている事実がある(甲5ないし甲14)。
さらには,本件商標の出願人とは異なる荒木無人斎流居合道が存在する事実がある(甲5ないし甲10)。
また,この荒木無人斎流居合道は,全日本居合道連盟に登録されている(甲11ないし甲14)。全日本居合道連盟は,本件商標の出願人とは異なる荒木無人斎流居合道のほか,荒木無人斎流居合道と同様に伝統的な居合の流派である,新陰流,無外流,北辰一刀流,無双直伝英信流等が所属している(甲11及び甲3)。
これらより,「荒木無人斎流居合道」の文字は,居合を愛好する者(需要者)の間において,本件商標の登録査定時には,「居合」の一流派として一般に知られていたことは明らかである。
よって,本件商標は,単に「居合」の一流派である「荒木無人斎流居合道」の文字を普通に用いられる方法で表示したに過ぎず,自他役務識別機能を具備しないものであって,これに接する需要者は,単に役務の質として認識するに止まるものであることは明らかである。
したがって,本件商標は,これをその指定役務中「荒木無人斎流の居合術の教授,荒木無人斎流居合道の資格の認定及び資格の付与,荒木無人斎流居合道の資格検定試験の企画・運営又は実施,荒木無人斎流居合道に関するセミナー・シンポジウム・会議・講演会・研修会・研究会の企画・手配・運営・開催及びこれらに関する情報の提供,荒木無人斎流居合道の武道場の提供,荒木無人斎流居合道の武道の用具の貸与,荒木無人斎流居合道用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),荒木無人斎流居合道の表彰式の企画・運営又は開催,荒木無人斎流居合道の賞の企画・運営又は開催及びこれらに関する情報の提供,荒木無人斎流居合道の興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」に使用するときは,役務の内容を端的に示すに止まるものというべきものであるから,その需要者をして,役務の質(内容)を表示したものとして認識されるにすぎず,自他役務の識別機能を果たし得ないものというべきである。
以上のとおり,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当し,また,当該役務以外の役務に使用するときは役務の品質の誤認を生じさせるおそれがあり,同法第4条第1項第16号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は,居合の一流派の名称であり,現在「荒木無人斎流居合道」を広めるための活動が複数の道場で行われている。
本件商標は,「荒木無人斎流居合道」にかかわる者やその価値を保護し継承していこうとする者の共通の財産であり,本件商標を一私人が独占して採択,使用することは,社会の一般的道徳観念に反するものである。
さらには,上記したとおり,出願人と異なる「荒木無人斎流居合道」が,全日本居合道連盟に登録されている事実があり(甲12),とりわけこのような一私人が本件商標を登録し,独占して採択・使用することは,公序良俗に反するものといわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

3 当審における取消理由
当審において,商標権者に対して平成27年9月16日付けで通知した取消理由の内容は,以下のとおりである。
(1)「荒木無人斎流居合道」の文字について,登録異議申立人が提出した証拠によれば,以下の事実が認められる(下線は合議体による。)。
ア 甲第4号証は,「Wikipedia」(写し)であり,「荒木流拳法」の項には,「荒木流拳法(あらきりゅうけんぽう)とは,安土桃山時代に荒木夢仁斎源秀縄によって創始されたと伝えられる武術流儀である。現在残る荒木流は荒木流拳法を正式名称としているが,場所や時代によってさまざまな名称で伝承されており,荒木流柔術,荒木無人斎流柔術,夢仁斎流柔術,荒木流捕手,とも呼称される。荒木夢仁斎が学んだとされる竹内流を名乗る系統もあった。」の記載,及び「関連流儀」には,「兵庫県に荒木無人斎流という居合と剣舞の流派がある。」の記載がある。
また,「国際水月塾武術協会」のウェブサイト(写し)において,「現存する居合流派」に,「荒木無人斎流 兵庫。」の記載がある。
イ 甲第5号証は,「豊田流日本明倫会」のウェブサイト(写し)であり,「荒木無人斎流居合道」の記載があり,その5葉目の「日本明倫会の概要」には,「荒木無人斎流居合道と豊田流剣詩舞道の稽古をしている団体で,設立は昭和60年(1985)4月1日です。兵庫県姫路市を中心に・・・道場を開き稽古に励んでいます。・・・会員数は国内に約130名,アメリカ支部に約50名です。」,「本部道場:兵庫県姫路市夢前町菅生澗」及び「会長:豊田茂治(雅号 凜風)」の記載があり,6葉目の「主な活動」には,「・各道場で,荒木無人斎流居合道と豊田流剣詩武道の修得に努めている ・講習会と昇格試験を実施する。(年1回以上) ・大会は5年毎に開く。 ・居合道は全日本居合道連盟に所属しており,毎年5月に京都での全国大会,10月には全国段別競技会に参加し,連盟の段位称号審査も受けている。」の記載がある。
そして,その7葉目には「会長紹介」として「豊田茂治(凜風)・・・荒木無人斎流居合道正統第17代宗家」の記載がある。
また,甲第7号証は,日本明倫会による「荒木無人斎流居合道の免状」(写し)であり,甲第10号証は,「日本明倫会 兵庫加西支部」のウェブサイト(写し)であって,「荒木無人斎流居合道」の表示及び支部について記載されている。
ウ 甲第8号証は,平成24年11月4日及び25日に開催された「姫路城古武道大会」のパンフレット(写し)であり,その「プログラム」(5頁)には,「I部」及び「II部」に,「荒木無人斎流 居合道(豊田流 剣詩武道)」の記載があり,「荒木無人斎流居合道(豊田流 剣詩武道)」の表示の下,二代目宗家 豊田凜風氏及び「由来」について記載され,「戦国時代,永禄,天正の頃,越前国南条郡阿羅記邑の住人,荒木無人斎源秀綱が,当時の体験を基にまとめた武術です。・・・当初は,剣・槍・柔など個々に武術ではなく,戦場に必要ないくつかの戦闘技術を合わせた総合武術であったが,・・・居合部門が,分化発達し代々の継承者の研鑽によって現在に至ったものです。」(24頁)の記載がある。
エ 甲第11号証は,「全日本居合道連盟剣士交流Web Site」(写し)であり,「連盟所属流派名」に「荒木無人斎流」の記載がある。
オ 甲第12号証は,全日本居合道連盟の「会誌」(写し,抜粋)であり,平成17年1月30日連盟会誌の224頁には「荒木無人斎流 日本明倫会」,227頁には「荒木無人斎流 振武館道場」の記載,同15年1月30日連盟会誌の171頁には「荒木無人斉流 振武館道場」,215頁には「荒木無人斎流 日本明倫会」の記載,同21年1月30日連盟会誌の251頁には「全日本居合道連盟 荒木無人斎流日本明倫会」,254頁には「荒木無人斉流居合道 振武館道場」の記載,及び同24年1月30日連盟会誌の184頁には「荒木無人斎流居合道 日本明倫会」,236頁には「荒木無人斎流 日本明倫会」の記載がある。
(2)当審における職権調査によれば,以下の事実が認められる(下線は合議体による。)。
ア 「無双直伝英信流居合道兵法 千斎会 長崎道場」のウェブサイトにおいて,「居合道について 全日本居合道連盟」に「全日本居合道連盟は,昭和29年5月4日に日本で最初に創設された,居合道専門団体であり,日本最大の居合道連盟・総本山であります。所属する流派も,関口流・新陰流・無外流・神伝流・伯耆流・無想神伝流・神道無念流,荒木無人斎流・無雙直伝英信流,などが有ります。又組織は,各都道府県の支部を始めとして,九州・四国・中国・近畿・中部・東海・関東・北陸・東北・北海道,と10地区の地区連盟があり,各地区に於いて五段迄の段位審査が行われ,六段以上の高段者の審査は全日本居合道連盟・本部審査として年2回(京都・大阪など)全国大会の折に行われます。」の記載がある。
(http://www.iai-dojyo.com/%E6%89%80%E5%B1%9E%E5%9B%A3%E4%BD%93%E3%83%BB%E6%B5%81%E6%B4%BE/)
イ 「仲間たちの流派(2)」と題するウェブサイトにおいて,「居合の主な流派と流祖 今に伝わる居合の主な流派をまとめる。多くの流派で居合術のほか剣術,槍術などを修める。」の記載と,一覧表が掲載されており,そのなかに「荒木無人斎流」の記載がある。
(http://www.geocities.co.jp/Athlete-Athene/8236/eishin2.htm)
ウ 「居合道について」と題するウェブサイトにおいて「敵に向かって刀を抜き,構えから立ち合う剣術に対し,居合とは刀を納めた状態,つまり構えの無い状態から一瞬で敵に斬りつける技を一般に居合と呼びます。・・・・荒木夢仁斎によって創始された荒木無人斎流など多くの流派があります。」の記載がある。
(http://keizanjuku.iaigiri.com/iainituite.html)
エ 「荒木流について」と題するウェブサイトには,「当流は初代荒木夢仁斎源秀縄がこれをはじめ,第二代荒木武左衛門久勝,第三代塩野泰行,と伝えられ,第四代赤羽一間多源信隣が文化五年(西暦1808年)に荒木流軍用小具足として,棒,居合,長刀,捕手,柔,縄,太刀,槍,乳切木などの各種武術を取り入れ,五代 小松廣三郎(弘化二年,西暦1845年)に伝え,その後六代 松尾作左衛門安信(文久二年,西暦1862年),七代 勝野秋雄(明治三十五年,西暦1902年),八代 松尾剣風(本名 廣,昭和5年1月,西暦1930年)が九州 黒田藩の剣術指南役であった祖父より伝えられた。」及び「他の荒木流としては,群馬県伊勢崎市に荒木流拳法,流祖 荒木夢仁斎源秀縄。兵庫県姫路市・岡山県英田郡に荒木無人斎流居合道,流祖 荒木夢仁斎源秀綱がある。」の記載がある。
(http://www008.upp.so-net.ne.jp/arakiryu/sub1.html)
オ 「ひろむしの知りたがり日記」と題するウェブサイトには,「荒木流は無人斎流,荒木無人斎流などともいい,甲冑組討から発展した小具足,捕手を中心に,居合,短刀,小太刀,剣,棒,長巻<ながまき>,手裏剣,乳切木<ちぎりき>,鎖鎌,縄など様々な武器術を含む総合武術ですが,その名が示す通り,流祖は荒木無人斎秀縄<むじんさいひでつな>とされています。」の記載がある。
(http://blog.goo.ne.jp/rekisisakka/e/0c082c3ebb562258ab4d203d4ec5ba4c)
(3)上記(1)及び(2)を総合すれば,「荒木無人斎流居合道」は,安土桃山時代に荒木夢仁斎源秀縄によって創始されたと伝えられる総合武術である「荒木無人斎流」を元とする「居合」の流派の一つであって,「荒木無人斎流居合道」の表示の下,現在においても,複数の者によって,その居合の稽古や鍛錬が行われている事実を認めることができる。
また,「荒木無人斎流居合道」については,全日本居合道連盟,日本明倫会等により,資格試験が実施され,技量により等級(段)が付与されていること,古武道の大会が開催されていること等が見受けられる。
そうとすると,「荒木無人斎流居合道」の文字は,居合等の需要者の間において,本件商標の登録査定時には,「居合道」の一流派として知られていたものということができる。
してみれば,「荒木無人斎流居合道」の文字からなる本件商標を,本件指定役務について使用するときは,「荒木無人斎流居合道」に関する「居合術の教授,技芸・スポーツ又は知識の教授」等の役務であることを表すにすぎず,役務の質(内容)を表示するに止まるものというべきであるから,本件商標は,その役務の質(内容)を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標と認められる。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。

4 商標権者の意見
前記3の取消理由に対し,商標権者は何ら意見を述べるところがない。

5 当審の判断
本件商標についてした前記3の取消理由は,妥当なものと認められる。
したがって,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第3号に違反してされたものであるから,同法第43条の3第2項の規定により,その登録を取り消すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2015-11-13 
出願番号 商願2013-100348(T2013-100348) 
審決分類 T 1 651・ 13- Z (W41)
最終処分 取消  
前審関与審査官 榎本 政実 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 田中 亨子
金子 尚人
登録日 2015-01-09 
登録番号 商標登録第5730994号(T5730994) 
権利者 早淵 肇
商標の称呼 アラキムニンサイリューイアイドー、アラキムニンサイリュー、アラキムニンサイ 
代理人 中嶋 慎一 
代理人 鳥巣 慶太 
代理人 鳥巣 実 

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