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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X16
管理番号 1307478 
審判番号 無効2015-890048 
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-05-26 
確定日 2015-10-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5339613号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5339613号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5339613号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおり,「オペナース」の片仮名,「OPE」の欧文字及び「OPE NURSE」の欧文字を3段に横書き(2段目の「OPE」の欧文字が顕著に大きな文字で表されているほか,3段目の欧文字についても,文字間に間隔が空いており,「OPE」の欧文字が「NURSE」の欧文字に比べ大きい文字で表されている。)してなり,平成22年1月21日に登録出願,第16類「雑誌,新聞」を指定商品として,同年6月4日に登録査定,同年7月23日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が請求の理由において引用する登録第5418423号商標(以下「引用商標」という。)は,「オペナーシング」の片仮名及び「OPE NURSING」の欧文字を2段に横書きしてなり,平成21年11月12日に登録出願,第16類「雑誌,新聞」を指定商品として,同23年6月17日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張の要点
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を,本件商標が商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第19号並びに同法第8条第1項に該当するとして,審判請求書及び上申書において,要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第54号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人による引用商標の使用
(1)請求人雑誌の販売実績
請求人は,1977年(昭和52年)5月に設立された株式会社であり,学術用専門誌の出版事業やセミナー事業を行うものである(甲3)。
請求人は,請求人の保有に係る引用商標を,商品「雑誌」(以下,「請求人雑誌」という。)について,1986年6月から現在に至るまで約30年の長きにわたって継続して使用している(甲4及び甲5)。また,請求人雑誌の使用地域(購買者層)は,満遍なく全国に及んでいる(甲6)。
請求人雑誌の発行部数については,創刊された1986年(昭和61年)から1990年(平成2年)までの5年間の記録は残っていないものの,1991年(平成3年)以降は,年平均で80,458部であり(甲7ないし甲9),手術看護の臨床・教育専門誌という専門性の極めて高い雑誌でありながら,相当な発行部数を長年維持している。また,その累計販売金額は,発売当初の5年間を省いたとしても,実に39億6千万円にものぼる。
(2)請求人雑誌の需要者層・需要者数と発行部数の関係
請求人雑誌は,手術看護に特化した専門誌であり,その購買者たる需要者は,病院の手術室内にて手術看護に従事する医療関係者(医師,看護師等)となる。
我が国には,本件商標が出願された2010年(平成22年)1月の時点において,176,471の医療施設が存在するが,20床以上を備えたいわゆる「一般病院」と呼ばれるものは,わずか7,636施設にとどまり(甲10),さらには,一般に手術室を備えており,それなりに手術室が稼働していると考えられる200床以上の病床を備えた病院数は,平成22年の時点において2,680施設にすぎず(甲12),さらに,地域の診療所等から手術が必要な患者の紹介を受けて手術を行うような「地域医療支援病院」になると,全国でわずか242施設となっており(甲10),このような限られた特殊な業界の中で,請求人雑誌は,30年間の長きにわたり,毎号コンスタントに平均5,700部(増刊号に至っては毎号平均6,200部)を発行し続けてきたのであるから,本件商標の出願時及び査定時において,引用商標が付された請求人雑誌が極めて高い認知度を有していたことは,発行部数と需要者層であるところの病院数との関係において明らかである。
また,請求人雑誌を定期購読する団体(全国の大規模病院や医療センター等)は1,200を越えており(甲13),全国各地の主要な医療施設がこぞって請求人雑誌の定期購読を行っている事実は,引用商標が当該分野において極めて高い周知性を獲得している証左であるといえる。
なお,手術室看護分野と関わりの深い消化器外科の専門家の立場からしても,請求人雑誌が請求人の発行するものとして相当程度知られていることに疑いのないことは,請求人雑誌の編集委員であって,近畿大学医学部医学部長(当時)による意見書(甲14)のとおりである。
(3)宣伝広告
請求人は,手術看護に従事する医療関係者の多くが所属する「日本手術看護学会」の年次大会抄録集において,毎年,継続して広告を掲載している(甲15)。
さらに,2007年(平成19年)には,販促用に請求人雑誌のダイジェスト版パンフレットを50,000部制作し,全国の医療施設への送付や,学会・セミナー会場での配布,また,全国の書店へ個人購読用として100部単位で配布を行ったり(甲16),2014年にも,販促用のカラーチラシを3,000部制作して全国の医療施設へ送付するとともに,日本手術看護学会の年次大会に特設ブースを設けたりするなど(甲17及び甲18),積極的な周知宣伝活動を展開している。
また,請求人は,引用商標を掲げたセミナーも積極的に開催し,その周知に務めてきた。例えば,請求人雑誌の創刊時である1986年(昭和61年)には,「オペナーシング創刊記念セミナー‘86」と題する記念講演会を関西と関東で行ったことを皮切りに(甲19),翌1987年(昭和62年)には「オペナーシング月刊記念セミナー」と題するセミナーを九州,関東,東海の各地方で開催するとともに(甲20),「オペナーシング第3回夏期セミナー」を関東と関西で開催し(甲21),「オペナーシング冬期セミナー」を九州地方で開催している(甲22)。その後も,継続してセミナーの開催を続けており,一例を挙げると,1989年(平成元年)には「第9回オペナーシングセミナー」を関西と関東で開催したり(甲23),1992年(平成4年)には「第11回オペナーシングセミナー」を関西と関東で開催したり(甲24),創刊20周年にあたる2005年には,日本手術医学会の総会において,「オペナーシング創刊20周年記念ランチョンセミナー」と題するセミナーを開催したり(甲25)するなどして,引用商標の周知化を図っている。
(4)取引の実情における特殊性
請求人が知る限り,本件商標が出願された2010年(平成22年)の時点において,手術室看護領域の専門雑誌は2誌が存在するのみであり,このような状況下において,毎年コンスタントに8万部程度の発行がなされていた請求人雑誌に使用され続けてきた引用商標は,手術室看護の領域における需要者等において,広く知られるに至っていたことが容易に推測される。
(5)過去の審査における周知性の認定
被請求人は,過去から幾度となく請求人の周知商標に敢えて類似する商標を出願してきたところ,本件商標を出願する半年前には「オペナース/OPE NURSING」なる商標を出願し(甲27),該登録出願が請求人の周知な引用商標に類似することをもって拒絶査定(商標法第4条第1項第10号)となっており(甲28),少なくとも,該登録出願の出願日(平成21年7月)と拒絶査定日(平成22年10月)の時点において,引用商標の周知性が認められていたこととなる。
(6)請求人が発行する他分野での周知雑誌との比較
請求人は手術看護の分野以外の雑誌も発刊しているところ,例えば,循環器系看護の分野における雑誌「HEART」は,創刊が1987年(昭和62年)であり,年間発行部数は5?8万部であるところ,特許庁及び裁判所においてそのタイトル(商標)の周知性が認められている。また,呼吸器系看護の分野における雑誌「呼吸器ケア」のタイトル(商標)は,創刊が2002年(平成14年)であり年間発行部数はおよそ5万部強であるところ,こちらも特許庁において,10年近くの発行年数と,1回あたりの発行部数が3700部とすれば全国の医療施設総数の4割強となることもあって,そのタイトル(商標)の周知性が認められている。
これらの雑誌は,それぞれ循環器系看護/呼吸器系看護/手術室看護という風に専門分野が異なってはいるものの,特定の医療分野に係る看護雑誌であるという点や,長きにわたって継続して年間5万部以上が発行されている点において共通しており,かかる事実からすれば,これらの雑誌よりも更に販売年数が長く発行部数も多い請求人雑誌のタイトル(商標)についても,その周知・著名性は認められるべきである。
(7)小括
以上のとおりであるから,引用商標は,本件商標の登録出願日から登録査定日はもちろん現在に至るまで,請求人が発行する請求人雑誌のタイトル(商標)として,需要者である手術看護の医療従事者間において広く知られていたといえる。
2 被請求人による請求人周知商標へのフリーライド行為
被請求人は,過去,幾度となく請求人の周知商標に類似する商標(もしくは,類似しないとしても出所につき混同の生ずるおそれがある商標)を出願し,その結果,請求人の周知な商標に類似するとの理由(商標法第4条第1項第10号)や,請求人の先願先登録商標に類似するとの理由(商標法第4条第1項第11号)で拒絶されたり,実際に請求人と出所混同の生ずるような態様で商標を不正に使用したことで商標登録が取り消されたり(商標法第51条第1項),不正競争行為を理由に雑誌の名称について使用差止が命ぜられたり(不競法第2条第1項第1号)している(甲27ないし甲35)。
被請求人は,よくも懲りずにここまで模倣行為を続けられるものだと請求人が呆れ返るほど,似通った商標の登録出願・使用行為を執拗に繰り返しており,請求人の周知な雑誌にフリーライドする意図をもって,敢えてこれと極めて紛らわしい本件商標を採択し,紛らわしい態様にて使用し,需要者等に混同を生じさせているのである。
このように,商標について自由な採択の余地があるにもかかわらず,請求人の周知な商標に擦り寄る行為を長年し続けるのは,請求人の周知な商標に蓄積された多大なる信用にフリーライドせんとする意図を被請求人が強く有しているからに他ならない。
3 被請求人による本件商標の使用と出所の混同
引用商標の付された請求人雑誌は,手術看護の分野に特化した月刊誌として,手術看護に従事する医療関係者の間において広く知られるに至っている。
このような状況の下,被請求人は,2014年(平成26年)5月に請求人雑誌と全く同じ分野を取り扱う雑誌として,標章「オペナース」を付した雑誌を創刊し(甲36),2015年(平成27年)2月には2冊目となる同雑誌を発行した(甲37)。当該使用標章に登録商標であることを示すR記号(以下「R記号」という。)が付されていることからすれば,被請求人が本件商標を使用する意図をもって当該標章を使用していることは明らかである。
一方,引用商標が請求人雑誌に係る商標として周知・著名性を獲得するに至っていることからすれば,需要者が,本件商標の付された被請求人雑誌を,請求人雑誌であると混同するおそれは極めて高いといえ,また,現に混同が生じている。
定期的に請求人雑誌を購読している需要者ですら誤認する程であり(甲38),過去に購入した経験から引用商標の記憶を頼りに請求人雑誌を購入しようとする需要者が,本件商標の付された被請求人雑誌を誤って購入してしまうおそれは十二分に考えられるものである。
また,引用商標に係る「オペナーシング」の文字が,本件商標に係る「オペナース」と誤用されている例も存在する(甲39ないし甲41及び甲54)。このことからしても,本件商標を商品「雑誌」に使用すれば,引用商標との間で出所の混同の生ずるおそれがあることは明確であるといえる。
なお,需要者が実際に商品である雑誌を手に取る売場においても,出所混同の生ずるおそれが懸念される。例えば,書店においては,「雑誌」を販売するに際し,平積みや面陳列以外に,背表紙を見せて陳列する,いわゆる「背差し」と呼ばれる方法を用いることも多く,かかる場合,需要者は,背表紙上部に書された文字を手がかりに商品を手に取ることとなり,背表紙に書されたタイトル文字の表記が似通っていると,出所の混同が生じやすい事情がある(甲42)。
4 本件商標が商標法第8条第1項に該当する理由
本件商標は,引用商標との関係において,後願先登録の商標であり,また,指定商品が引用商標と同一(「雑誌,新聞」)であって,以下のとおり,引用商標に類似するものであるから,第8条第1項に該当し,無効とされるべきものである。
(1)本件商標及び引用商標から生ずる観念の特定と対比
本件商標の構成は,上記第1のとおりであるところ,その構成中,「オペ」と「OPE」の文字は「手術」を意味する「operation」の略語であり(甲43及び甲44),「ナース」と「NURSE」の文字は「看護する」や「看護師」を意味するものであり(甲43),これからは,「手術の看護」や「手術の看護師」程の観念が生ずる。
一方,引用商標の構成は,上記第2のとおりであるところ,その構成中,「オペ」と「OPE」の文字は本件商標と同様であり,「ナーシング」と「NURSING」の文字は,「看護」や「看護の」を意味するものであって(甲43及び甲45),これからは,「手術の看護」程の観念が生ずる。
ここで,両商標の差異点である「ナース/NURSE」と「ナーシング/NURSING」の語は,共に「看護する」,「看護の」,「看護」といった「看護」に関する意味合いを有し,語源を共にする動詞や形容詞,名詞の関係にあることから,観念上,極めて相紛らわしく,共に「看護」を意味する文字として相互的に使用されているものである。このことは,例えば,看護師が用いる医療用カートの事を「ナースカート」とも「ナーシングカート」とも呼ぶことや(甲46及び甲47),看護師が用いる器械卓子の事を「ナースワゴン」とも「ナーシングワゴン」とも呼ぶこと(甲48及び甲49),看護師のことを「nurse(ナース)」と呼ぶ一方,准看護師のことを「nursing assistant」(甲45)と呼び,看護師を意味する語として「nurse」も「nursing」も共に使用されていることなどからも看て取れる。さらには,請求人雑誌の編集を担当する「オペナーシング」編集室に対し,宛先を「オペナース」編集室等と誤って記載したメールが届いたり,請求人雑誌の愛読者がネット上で「オペナーシング」と記載しようとして「オペナース」と誤って記載したりしていることからも,「ナース/NURSE」と「ナーシング/NURSING」の語が同じ意味合いをもって相互的に用いられることの多い語であり,互いに極めて紛らわしい語であることがわかる。
以上より,本件商標と引用商標は,「看護」に関する用語として相互的に用いられることもある「ナース/NURSE」と「ナーシング/NURSING」という観念的に相紛らわしい差異点のみを有するものであり,これらから「手術の看護」程の共通する観念が生じ得ることを鑑みれば,本件商標と引用商標は観念上類似するものとみるべきである。
(2)本件商標及び引用商標から生ずる称呼の特定と対比
本件商標は,構成文字全体から「オペナースオペオペナース」なる称呼が生ずるほか,上段に書された「オペナース」及び下段に書された「OPE NURSE」の文字部分に相応し,単に「オペナース」の称呼も生ずるとみるのが自然である。
一方,引用商標からは,その構成文字に相応して「オペナーシング」の称呼が生ずる。
そこで,両商標から生ずる「オペナース」と「オペナーシング」の称呼を対比するに,両者は,称呼の識別上重要な位置である語頭から中間部において「オペナー」の3音及び長音を共通にしており,語尾において「ス」と「シング」の音の差異が認められるものの,共に右肩下がりのイントネーションで称呼され,語尾の差異音が消え入る風に弱く発音されることや,差異音の直前の「ナ」の音が長音を伴うことで強く発音されることもあって相対的に弱く発音されることを併せて考慮すれば,両称呼をそれぞれ一連に称呼した場合,全体として語調,語感が近似し,互いに聞き誤るおそれがあるとみるべきである。
(3)本件商標及び引用商標における外観の特定と対比
本件商標は,片仮名と欧文字を上下3段に書した態様からなる点において,片仮名と欧文字を上下2段に書した態様からなる引用商標と相違するが,両者は「オペ」及び「OPE」の文字を共通にし,相違点である「ナース/NURSE」と「ナーシング/NURSING」の文字についても,これらは語源を共通にする英単語の変化形の関係にすぎないため,これに接する需用者等に対し,両商標は外観上近似した印象を与えるものである。
(4)特段の事情(引用商標の周知・著名性等)
引用商標は,30年という長きにわたり請求人雑誌のタイトルとして使用されてきた結果,手術室看護の領域における需要者等において,広く知られるに至っている。また,本件商標が被請求人により指定商品である「雑誌」に現に使用された結果,実際に出所について誤認混同が生じている。両商標の類否を判断するにあたっては,これらの事情も十分に勘案されるべきである。
(5)小括
以上のとおりであるから,本件商標と引用商標とは,その観念が類似し,称呼,外観において相紛らわしい商標であり,本件商標と引用商標の指定商品も同一である。また,請求人による引用商標の使用事実やその周知性をもあわせて勘案すると,本件商標をその指定商品について使用した場合,その出所について誤認混同を生ずるおそれがある。
よって,本件商標は,商標法第8条第1項の規定に違反して登録されたものである。
5 本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由
(1)引用商標の著名性
引用商標は,上記1のとおり,請求人によって継続的かつ全国的に使用されてきた結果,その需要者である,手術室を備えた病院内にて勤務する手術看護に従事する医療関係者(医師,看護師等)の間において,本件商標の出願日や登録査定時はもちろん,現在に至るまで,請求人の出版する手術看護の専門誌の商標として広く知れ渡るに至っており,十分な周知性・著名性を獲得している。
(2)本件商標と引用商標の混同性
本件商標と引用商標を共通する商品「雑誌」について使用した場合,これらに接する取引者・需要者をして,共通する「手術の看護」程の印象を看取せしめ,ひいては出所の混同を生じせしめるおそれのある相紛らわしい商標とみるべきである。
このことは,請求人が1986年(昭和61年)から現在に至るまで本件雑誌に引用商標を継続的に相当使用していることや,その結果,引用商標が需用者等の間で十分に知られるに至っていること,被請求人は周知な引用商標に類似することをもって自らの商標出願が拒絶された経験から引用商標の周知性を十分に知っていながら敢えてフリーライドの意図をもって本件商標を採択し使用していること,本件商標と引用商標の差異は同様の意味合いをもって相互的に用いられることがある「ナース/NURSE」と「ナーシング/NURSING」にすぎないこと,被請求人は請求人雑誌と全く同じ分野において同等の雑誌を創刊した上で「オペナース」なる標章をR記号と共に使用し,現に請求人雑誌との間で混同を生じさせていること等からも明らかである。
(3)小括
以上のとおりであるから,仮に,本件商標が商標法第8条第1項に該当しないとしても,本件商標をその指定商品,とりわけ手術室看護の分野における専門雑誌について使用すると,周知・著名な引用商標を付した請求人雑誌との関係において出所の混同が生ずるおそれがあることに加え,申立人の周知・著名な引用商標が同分野で築き上げてきた顧客吸引力や指標力の稀釈化(いわゆるダイリューション)を招くおそれも十二分にあるものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
6 本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由
被請求人は,過去,幾度となく請求人の周知商標に類似する商標(もしくは,類似しないとしても出所につき混同の生ずるおそれがある商標)を出願し,その結果,請求人の周知な商標に類似するとの理由(商標法第4条第1項第10号)や,請求人の先願先登録商標に類似するとの理由(商標法第4条第1項第11号)で拒絶されたり,実際に請求人と出所混同の生ずるような態様で商標を不正に使用したことで商標登録が取り消されたり(商標法第51条第1項),不正競争行為を理由に雑誌の名称について使用差止が命ぜられたり(不競法第2条第1項第1号)している。
また,被請求人のこのような商道徳に反する商標の出願ないしは使用行為に対し,請求人は,このような一連の出願行為は商標法上も不正競争防止法上も共に問題があるため,速やかに取下げを行うよう内容証明郵便による申入れを行ったことがある(甲50の1及び2)。しかしながら,その後も被請求人による類似商標の出願行為や使用行為が止まなかったことから,請求人が再度の警告を行ったところ,被請求人は,請求人からの会社宛書面(郵便による配達証明/宅配によるメール便)及び代表者の自宅宛書面(郵便による配達証明)について,いずれも受領を拒否してきた(甲51ないし甲53)。個人宛書面ならまだしも,会社宛書面の受領を拒否するとは,一般的な商慣習からすると考えられない行動である。
引用商標と紛らわしい本件商標を採択せずとも,他に代替表現はいくらでも考えられるなかで,敢えて本件商標を採択し登録する行為は,公正な商取引秩序を乱すおそれがあるといえ,申立人の引用商標や使用商標に形成された信用や顧客吸引力を利用し,あるいは希釈化させる等の不正競争の目的があったものと容易に推認される。このような節操のない商道徳に反する行為は断じて許されるべきではない。
以上のとおりであるから,このような経緯の下で商標権者が本件商標を登録することは,商標法の精神に反し,商取引の秩序を乱し商道徳に反するものであるため,本件商標は商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
7 本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する理由
被請求人は,過去の経緯からすれば周知な請求人商標の存在を十分に知っていることが明らかであるにもかかわらず,不正の目的,すなわち,敢えて周知な引用商標に類似する商標を使用することで不正の利益を得んとし,また,請求人雑誌と全く同じ分野においてかかる類似商標を使用することで引用商標の有する顧客吸引力を稀釈化させ,ひいては請求人雑誌の売上低下をもたらすことで請求人に損害を加えんとの意思をもって本件商標を使用するものである。
よって,仮に本件商標が上記各無効理由に該当しないとしても,本件商標は,請求人雑誌に係る商標として国内の需要者の間に広く認識されている引用商標に類似する商標であり,かつ,不正の目的をもって使用をするものであるため,商標法第4条第1項第19号の規定に違反して登録されたものである。
8 結語
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第7号,同項第19号並びに同法第8条第1項に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁の要点
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように答弁し,証拠方法として乙第1号証ないし第12号証(乙第5号証は,後日追加するとしているが,提出されていない。)を提出した。
1 理由1
請求人が請求人の雑誌に実際に使用している商標は,甲第2号証に係る商標でなく,甲第4号証及び甲第25号証であり,一方,被請求人の雑誌に実際に使用されている商標は,甲第36号証及び乙第1号証である。
両者の外観には,何らの共通点も類似性も存在せず,全く別の商標であることは明らかである。
2 理由2
雑誌のサイズが全く異なることから,見間違えることはない。
雑誌の場合,特にサイズは比較各誌が類似か否かを判断するためには極めて重要である。サイズは,特に大きな問題であるにもかかわらず,甲第4号証のコピーは原寸大でない。もともとの甲第4号証及び甲第25号証は,B4判の小型サイズにもかかわらず,乙第1号証と同寸に拡大したコピーを添付している。
乙第1号証は,A4変型版の大型サイズの雑誌であり,甲第4号証と乙第1号証の両誌を見間違えることは有り得ない。請求人は,自らの雑誌が小型のB5判であるにもかかわらず,あたかも被請求人のA4変型の大型サイズと同じ大きさに拡大して証拠として提出するのが常態化しており,これでは審査官の印象等にかなり異なった先入観を与える影響があると考えられる。
甲第4号証と乙第1号証の外観に,何らかの共通点若しくは類似性が存在するのかしないかを判断するには,両誌の実物の比較は不可避である。請求人は,通常,提出するものと考えられる雑誌の現物の提出を敢えて行っていないと考えられる。
請求人は請求人の使用商標「OPE Nursing」と被請求人の使用商標「オペナース」が類似の商標であるとしているが,この両者には類似性は存在してないのみならず,相紛らわしくない全く異なった別の非類似の商標であることは,多くの例を見るまでもなく明白である。
よって,本件審判請求は成り立たない。
3 理由3
乙第2号証は,「日本手術看護学会誌」の「第27回日本手術看護学会年次大会抄録集」の表紙であり,乙第3号証は,請求人の雑誌「OPE Nursing」誌の同抄録誌に掲載された広告であり,乙第4号証は,被請求人の同抄録誌に掲載された「オペナース」誌の広告である。
乙第3号証でも明らかなように,請求人の雑誌名は「OPE Nursing」であり,「オペナーシング」は雑誌名の読みにすぎない。確かに,「OPE Nursing」だけでは,雑誌名は「オーピーイーナーシング」と読む人がいてもおかしくないが,請求人の雑誌名の主要な表示は,特段大きく表示されている「OPE Nursing」と請求人の雑誌に触れた誰もが考えるのは明らかである。
請求人は,英字表記「OPE Nursing」(甲4)を雑誌名としており,「オペナーシング」単独で雑誌名とする場合とはその解釈が異なる。被請求人が調べた限り,請求人は,請求人の雑誌名を「OPE Nursing」の形態で表示しており,「オペナーシング」単独で表示した事例は存在しないことから,雑誌名は「OPE Nursing」であり,また,「HEART Nursing」の例からも,「オペナーシング」はその読みと考えられる。
4 理由4
雑誌名「OPE Nursing」と「オペナース」には類似性は存在しない。仮に,請求人が請求人雑誌名を雑誌表紙に「オペナーシング」のみを表示し,広告等についても専ら「オペナーシング」のみの請求人雑誌の表示が行っているのであれば,請求人雑誌名「オペナーシング」と被請求人雑誌名「オペナース」となることから雑誌名が類似かどうか,紛らわしいかどうかの議論は考えられるが,請求人雑誌名「OPE Nursing」と被請求人雑誌名「オペナース」では類似性は全く存在しておらず,明らかに別の雑誌名である。
5 理由5
請求人の雑誌名は,“独自"のユニークな固有名詞ではない。
もともと「オペ」なる言葉は60年程前に映画「白い巨塔」で使われ,日本人の誰もが「白い巨塔」の映画をきっかけに「オペ」=「手術」と言うことが知られて,一般の国民にも幅広く定着した経緯がある。
「オペ」=「OPE」であり,「手術」を一般的にさすものといえる。また,「ナース」=「看護師」(かつては看護婦と呼ばれていた。),「ナーシング」=「看護」であることも,誰でも知っているところである。雑誌名に,これらのいずれかを組み合わせたところで,請求人“独自”のユニークな固有名詞とはなり得ない。
6 理由6
請求人も被請求人も,2009年(平成21年)以前には,お互いにその社名すら知らなかった。
被請求人は,医学専門書の出版社であって,請求人による引用商標の使用や周知性を十分知りうる立場にあると主張している。しかしながら,被請求人は,請求人の社名や引用商標の存在は2009年(平成21年)まで全く知らなかった。おそらく,請求人も,被請求人の社名やどんな出版物を出しているかは,同年6月まで全く知らなかった筈である。請求人が看護系の出版社であることは,今でこそ知ることになったが,10年前,20年前,30年前は全く知ることはなかった。仮に,その頃から知っていたら,被請求人は,その時点で看護系領域の雑誌・書籍の出版の開始を行っていた筈である。被請求人が,最初の看護系雑誌の出版を行ったのは2011年(平成23年)後半にすぎない。
医学系出版社の大部分は東京,しかも,文京区に本社を構えている。知り合いの医学系の出版社の多くは,請求人の社名はおろか看護系の出版社であることすら全く知らないところが大半である。看護系の雑誌・書籍の出版を行っている出版社は,請求人のことをさすがに知っているが,大部分の医学系の出版社は請求人の社名すら知らない。ほんの数年前まで被請求人すら請求人の存在は知らなかったとしても不思議ではない。
看護系の専門雑誌が成り立つと考えた出版社は,東京では存在していなかったのである。
医学系の雑誌の大部分は「編集委員」を設置しているのが一般的であり,「オペナース」誌の創刊に当たって,当時の「日本手術学会」理事長と面談し,その後,特許庁の登録商標を調べたが,それらしき手術看護誌の登録商標は存在していなかった。2009年(平成21年)10月頃に請求人の雑誌の存在を知ったのではないかと思うが,少なくとも,同年6月当時,被請求人は,引用商標の検索を行うことは出来なかった。
請求人は,被請求人が手術看護系の雑誌の準備を進めていることと雑誌名が「オペナース」であることは,遅くとも2009年6月5日には知っていた筈である。循環器・消化器・整形外科と病棟での科目が分かれているように,専門毎の専門看護雑誌の創刊を目指した経緯があり,請求人も,同じような発想でスタートしたのではないかと思われる。
7 理由7
雑誌名の決定は,一般的に使われるか知られている専門用語を基に雑誌名を決定している。また,特許庁の登録商標を事前に調査し決定している。
被請求人が雑誌名の決定に当たっては,各カテゴリーで一般的に使われるか知られている専門用語を基に雑誌名を決定している。これはどこの出版社でも同じ筈である。どのような雑誌名であっても,特許庁の登録商標以外に請求人の雑誌名の存在を調べたり,真似などをする必要は全くない。考え得るあらゆる雑誌名を羅列した後に,商標として登録されているかどうかを照合するために,考え付いた雑誌名候補を照合・調査する作業を行う。この作業を経て商標の登録出願を行っており,その商標が登録されることが確実であれば,雑誌名に採択するにすぎない。当然,既に類似商標が存在すれば拒絶査定になる筈であり,登録査定された商標については,その使用に問題が無いと考えるのが一般的な考え方の筈である。
請求人は,上記の方法で雑誌名を選択・決定しており,もともと,請求人の存在すら知らないし,請求人がどのような雑誌を出しているかなど知る由もない。当然のことながら請求人が商標登録している雑誌名があれば,同一の商標など登録出願する筈もない。
被請求人が2009年(平成21年)6月の時点で登録商標の調査した時点では「オペナース」も「オペナーシング」も,誰も商標登録を行っていなかった。誰もが「オペナース」も「オペナーシング」の何れも登録していないことが判明した以上,最終的に「オペナース」か「オペナーシング」のいずれを採用するか決定していない上に,両方の商標を併記したところで,特段の障害も考え難い上に,両方の商標を併記して,7月1日付で「オペナース/OPE Nursing」(甲27)と二段に併記して商標を登録出願した経緯がある。「オペナース」及び「オペナーシング」のいずれの商標も登録をされていないことを確認した上での登録出願であり,被請求人には何らの落ち度もないことはいうまでもない。
請求人は「審判請求書」(8頁)で被請求人が「オペナース/OPE Nursing」(甲27)および「ブレインナース/BRAIN Nursing」(甲29)その他の被請求人の登録出願商標が商標法第4条第1項第10号で拒絶されたことを指摘しているが,被請求人は敢えて「拒絶理由通知書」に対する反論は行わなかった。“武士の情けで”で「拒絶理由」に対する反論を行わなかったことも請求人は理解できないようだ。
8 理由8
請求人は,商標の登録出願すら行っていない請求人の全ての雑誌題号に「登録商標 R記号」と不正に表示していた。
登録出願後に知ったことであるが,誰でもが思いつく,これらの商標は,全く商標登録されてないにも拘わらず,「オペナーシング/OPE Nursing R記号」は,請求人の登録商標ですと「目次」に堂々と印刷している(乙5)(審決注:請求人は,後日提出するとしているが,提出されていない。)のであって,請求人に正義も何らの権利も存在していない。
商標は登録されてはじめてその権利が保護されるにも拘わらず,請求人の「審判請求書」の展開はあたかも被請求人に非があり,被請求人こそ「請求人商標」に類似の商標を使用していると声高に主張している。
上記の経緯から(甲50),請求人の代理人から登録出願の取り下げを要求してきているが,取下要求を行うこと自体が非常識である。被請求人は,その時点で初めて請求人が引用商標の雑誌の存在を知った経緯がある。そこで,被請求人は,平成21年11月1日付けの「回答書」(乙6)を送付している。
9 理由9
請求人雑誌名「OPE Nursing」(甲4)は,請求人の主張どおり必ずしも浸透していない。
請求人の対象とする読者は主として全くの新人であり,1年読んだら必要のない内容であり,せいぜい3年間も読んでいたら,毎年,似たような初歩的な「特集」であり,止めてしまうことは明らかである。10年も20年も継続する個人読者はいない筈であるから,請求人が主張するほど読者には認識されていない。
ところで,請求人は,平成27年7月2日付けで「上申書」(甲54)を提出し,引用商標と本件商標が誤用された新たな証拠として宛先を「オペナース御中」と記載した封筒が届いたとしている。
請求人は,これまでも虚偽の「陳述書」を第三者に書かせて,例えば,被請求人雑誌「HEART」と被請求人雑誌「HEART nursing」の別冊と間違えて購入した読者がいると主張したことがある(審決注:被請求人は,後日,「証拠」を追加するとしているが,提出はない。)。
同様に,請求人は,文面がそっくりな甲第38号証を提出しているが,別冊と当該誌「オペナース」を間違えることは有り得ない。しかも,平成27年7月2日付け上申書(甲54)では,個人はおろか,差出人の大学名・病院名・差出郵便局名が抹消されており,どう見ても不自然である。
10 理由10
平成27年7月2日付け上申書(甲54)については,出版界の業界人の観察する観点からは虚偽の証拠と疑われても止むを得ない。
大学の医学部付属病院の医師「原稿」を送ってきたと説明されているが,どこの医学・看護系の出版社でも,原稿依頼時には,「雑誌ごとの編集部」宛とする印刷した封筒を原稿依頼時に同封するのが礼儀であり仕来りであり,この一点をとっても,この封筒の信憑性は疑わしい。
「原稿」は,通常,電子メールで送られてくるのが一般的である。「原稿」が同封された封筒かどうかも疑わしい。「編集部」の文字も「原稿在中」の文字もどこにも見当たらないのは極めて不自然である。
原稿のプリントも同封して送られてくる場合も稀にはあるが,この場合でも,原稿の印刷はA4判サイズの用紙に印刷されるのが一般的である。その場合には,原稿執筆依頼時に,必ず,受取人の印刷された「受取人払・速達」郵便の封筒が用いられる筈である。
そのうえ,原稿は私的な業務にも拘わらず,郵便料金を大学に支払させているが,倫理的にも考え難い。
しかも,当該執筆者は,よく請求人雑誌を知っている立場にあると説明している。被請求人の見解では,この原稿執筆者が手術看護部に属する看護師ならともかく,医師とのことであるから,この執筆依頼された医師は,請求人の雑誌のことを全く知らなかったと考えるのが自然であり,もともと混同などなかったといえる。
2015年(平成27年)5月15日付けの封筒が,なぜ,今頃になり提出されたのかも疑問の残るところである。しかも,スタンプの局名まで消されている。
原稿を同封したのであれば,挨拶状が,通常,同封されている筈であるが,それらしきものも添付されていない。
したがって,証拠能力は存在しないと断言できる。
11 理由11
同じ雑誌を購入している読者が,雑誌そのものを間違えて購入することは有りえない。
被請求人は,延々と「HEART nursing」と「Heart magazine」(被請求人の登録商標)の訴訟を続けているが,その裁判官が示した判断は,廉い値段の雑誌でないのに中身(コンテンツ)も確認しないで,間違えて購入することは有り得ないと見直しの判断を示した。
本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しないことが証明されている。
被請求人の「Heart magazine」の雑誌名(被請求人の登録商標)は,2014年(平成26年)9月に「循環器ナーシング」と変更された。2014年10月4・5日に京王プラザホテルで「日本循環器看護学会」が開催された当時の最新号(2014年10月号)の「HEART nursing」(請求人雑誌題号)と被請求人雑誌題号「循環器ナーシング」の紀伊国屋書店での売上部数(乙7)の比較では,大差で「循環器ナーシング」が圧勝している。「類似商号を使用することで引用商標の有する顧客吸引力を稀釈化させて,ひいては請求人の雑誌の売上低下をもたらす事で請求人に損害を加えんとの意思をもって本件商標を使用したものであるから,本件商標は,商標法第4条第1号第19条に該当する」旨の請求人の主張は,完全に覆されたことを証明している。
一般的に,看護雑誌は,同じ棚に纏められ,同じ(看護)雑誌コーナーに並べられる場合が殆どである。また,請求人の雑誌は,初心者向けであり,長くて3年程度しか購入しない筈であるから,長期(30年?20年)の読者は既にほぼ全員が読者ではなくなっている。10年や20年にわたり購入するのは,個人でなく病院等の医療機関であり,医療機関の関係者が毎月,書店に買いに行くことは有り得ず,取引先の書店が定期的に配達するか,若しくは医療機関が版元(出版社)に毎年年間購読の更新を行う。いずれの場合でも前年度購入していた雑誌の「年間購読の更新」であるから,間違えることはあり得ない。
雑誌が他の商品と著しく異なることは,雑誌名のみをもって議論すべきでない。最も重要な点は,各雑誌のコンテンツが異なることから,雑誌名のみをもって紛らわしいとの概念が成り立たないことである。出所についても誤認混同は生じない。
したがって,請求人の雑誌が引用商標を長年継続的に使用していたとしても,顧客吸引力や指標力の希釈化を招くことにはならないことから,請求人の主張する商標法第4条第1項第15号には該当しない。
むしろ,5年10年も経過したら,読者は全て入れ替わっている筈である。請求人の雑誌は専門学校等の出身者が主な読者であり,しかも,専門学校卒業後,何も分からないまま,手術室に配属された新人の看護師を読者対象としているのであるから,同じ請求人の読者が5年も請求人の雑誌など必要とすることはない。新人でも3年もすれば,毎年毎年ほとんど同じような内容の「特集」であり,1年後には読者はほとんど入れ替わっていると考えられるから,請求人の読者が,請求人が引用商標を長年継続的に使用していたことなど全く知らないと考えるべきである。
12 理由12
別の例を考察してみるに,乙第9号証は「日経WOMAN」の2015年(平成27年)8月号の日本経済新聞第5面に掲載された広告であり,乙第10号証は「PRESIDENT WOMAN(プレジデントウーマン)」の2015年8月号の同第6面に掲載された広告であり,両誌とも「WOMAN」としてプッシュしたいとの意図が覗われるところ,これら商標の実際の登録の実情を調べてみると,「日経WOMAN」は登録第2247544号として「日経ウーマン」(日本経済新聞社)が登録され(乙11),また,「PRESIDENT WOMAN」は登録第5055645号として「プレジデントウーマン/PRESIDENT WOMAN」(株式会社プレジデント社)が登録され(乙12),加えて,「WOMAN/ウーマン」(上下2段)も登録第404898号として登録されており,何れの商標の指定商品も,第16類「雑誌,新聞」であり,読者は何れも共通して女性であることは明らかである。
請求人の見解からすれば,これら二誌は,何れからみても商標法第8条第1項及び同法第4条第1項15号に該当することになる。また,請求人の主張する同法第4条第1項第7号及び同項第19号にも該当することになる。しかし,出版界においては,いずれにも該当すると看倣されることなく,商習慣として確立している。

第5 当審の判断
1 請求人が使用する商標について
(1)請求人が使用する商標の具体的態様
引用商標は,前記第2のとおり,「オペナーシング」の片仮名及び「OPE NURSING」の欧文字を二段に横書きしてなるものであるが,請求人が実際に雑誌に使用している商標の具体的な態様は,昭和62年11月開催の福岡における冬期セミナーの案内チラシ(甲22)における広告においては別掲2(以下「使用商標1」という。),平成19年7月作成の創刊22周年の販促用パンフレット(甲16)の裏表紙においては別掲3(以下「使用商標2」という。),また,平成27年4月1日発行の第30巻4号(甲4)の表紙においては別掲4(以下「使用商標3」という。),同号に掲載された次号予告の広告においては別掲5(以下「使用商標4」という。)のとおりであり,そのほかの広告(甲6,甲15,甲17,甲18,甲25)において使用している商標を含め,「オペナーシング」の片仮名及び「OPE NURSING」の欧文字によって構成されているものではあるが,いずれも,「OPE」の欧文字が「NURSING」の欧文字に比べ極めて大きな文字で,しかも,行を違えるか,両文字の間に間隔を空けるかして表示している商標(以下,請求人が実際に雑誌やその広告に使用しているこれらの商標を総称する場合は「使用商標」という。)ということができる。
(2)使用商標の周知性
請求人提出の甲各号証及びその主張を総合勘案すると,請求人は,1986年(昭和61年)6月から約30年にわたって,請求人雑誌に,使用商標を表示して出版し続けており,その発行部数は年に約8万部以上,累計販売金額は39億6千万円にのぼることが認められ,しかも,販促用のパンフレットやチラシを作成し,全国の医療施設や学会,セミナー会場,さらには,書店に配布(甲15ないし甲18)するとともに,セミナーを開催(甲19ないし甲25)し,使用商標を表示した請求人雑誌の周知を図ってきたことが認められる。
そして,請求人雑誌は,手術看護の分野の専門誌であるところ,その需要者も,手術看護に関係する医療関係者であり,その需要者層も限られた分野にとどまるといえるから,使用商標は,その使用商品である手術看護に関係する雑誌の需要者には,広く知られたものとなっていたものと認めることができる。
2 本件商標と使用商標との対比について
本件商標は,前記第1のとおり,「オペナース」の片仮名,「OPE」の欧文字及び「OPE NURSE」の欧文字を三段に横書きしてなるところ,その中でも,二段目の「OPE」の欧文字が他の文字に比べて顕著に大きな文字で表されているほか,三段目の欧文字についても,「OPE」の欧文字と「NURSE」の欧文字の間には間隔が空いており,「OPE」の欧文字部分が「NURSE」の欧文字部分に比べ大きい文字で表されているものである。
他方,使用商標は,上記1(1)のとおり,「オペナーシング」の片仮名及び「OPE NURSING」の欧文字によって構成されているが,いずれも,「OPE」の欧文字が「NURSING」の欧文字に比べ極めて大きな文字で,しかも,行を違えるか,両文字の間に間隔を空るかして表示されているものである。
そこで,本件商標と使用商標とを対比するに,観念においては,本件商標は,その構成中の片仮名部分が欧文字部分の表音と認められるものであり,「手術」を意味する「OPE」(オペ)の文字と「看護師,看護する」を意味する「NURSE」(ナース)の文字が結合したもので,全体としては「手術看護師」,「手術の看護をする」程度の意味合いを連想,想起させるものといえる。また,使用商標は,その構成中の片仮名部分が欧文字部分の表音と認められるものであり,「手術」を意味する「OPE」(オペ)の文字と「看護」を意味する「NURSING」(ナーシング)の文字が結合したもので,全体としては「手術の看護」程度の意味合いを連想,想起させるものといえる。そうすると,本件商標と使用商標とは,その全体から同一の意味合いを連想,想起させるとまではいえないものであるとしても,その意味合いの差異は,「看護」とその看護を行う職業人である「看護師」や動詞である「看護する」という関連語に伴う意味合いの差にすぎないことから,観念において,看者に近似した印象を与えるものといえる。
次に,外観においては,両商標とも,「OPE」の欧文字が顕著に大きな文字で表示されている点において共通するとともに,片仮名部分においても,前半部の「オペナー」の文字部分が,また,欧文字部分においても,前半部の「OPE NURS」の文字部分が共通しているものである。しかも,片仮名部分において,後半部の「ス」と「シング」の文字が,また,欧文字部分においても,後半部の「E」と「ING」の文字が相違しているが,該差異も,「看護師」や「看護する」を意味する「NURSE」の語と「看護」を意味する「NURSING」の語という関連語に伴う語尾の綴の差異であることから,全体に与える影響が大きいということはできない。そうすると,本件商標と使用商標とは,外観において,近似した印象を与えるものといえる。
さらに,称呼においては,顕著に大きな文字で表示され,独立して自他商品の識別標識として機能し得る「OPE」の欧文字部分に相応して「オペ」又は「オーピーイー」の称呼を生じる点において共通するものである。さらに,本件商標からは構成文字に相応して「オペナース」の称呼,使用商標からは構成文字に相応して「オペナーシング」の称呼が生じるところ,そのうちの前半部の「オペナー」の音を共通にするものである。また,後半部における「ス」と「シング」の音の差異も,「看護師」や「看護する」を意味する「NURSE」の語と「看護」を意味する「NURSING」の語という関連語における発音の差異であることから,全体に与える影響が大きいということはできない。そうすると,本件商標と使用商標とは,称呼においても,近似した印象を与えるものといえる。
以上のとおりであるから,本件商標と使用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても,近似した印象を与えることは否定できないものといえる。
3 被請求人の商標登録出願の経緯について
請求人提出の甲各号証及び職権による調査によれば,請求人は,1986年(昭和61年)に引用商標に係る専門誌「オペナーシング」を創刊したほか,1984年(昭和59年)に「ブレインナーシング」を,1987年(昭和62年)に「ハートナーシング」を,1988年(昭和63年)に「エマージェンシー・ナーシング」を,1995年(平成7年)に「消化器外科ナーシング」を,1996年(平成8年)に「整形外科看護」を創刊した。
そして,これら雑誌の創刊後に,被請求人は,「オペナース」及び「OPE NURSING」の文字からなる商標を平成21年7月1日に(ただし,この登録出願は拒絶査定となっている。),「オペナース」,「OPE」及び「OPE NURSE」の文字からなる本件商標を平成22年1月21日に登録出願したものであり,そのほかにも,「ブレーンナース」及び「BRAIN nursing」の文字からなる商標を平成21年7月1日に(ただし,この登録出願は拒絶査定となっている。),「ブレインナース」,「BRAINCARE」,「BRAIN nurse」及び「ブレインケア」の文字からなる商標を平成22年1月21日に登録出願し,また,「ハートナース」及び「HEART nursing」の文字からなる商標を平成21年7月1日に(ただし,この登録出願は拒絶査定となっている。),「ハートナース」,「HEART CARE」,「HEART NURSE」及び「ハートケア」の文字からなる商標を平成22年1月21日に登録出願し,また,「EMERGENCY」,「エマージェンシーナーシング」,「エマージェンシー」及び「Emergency Nursing」の文字からなる商標を平成21年7月14日に登録出願(ただし,この登録出願は却下となっている。)し,「消化器外科ナース」の文字からなる商標を平成21年7月14日に登録出願し,「整形外科ナース」の文字からなる商標を平成21年7月14日に登録出願しているところ(甲50の1,http://www.medica.co.jp/company/history/),これら被請求人が登録出願した複数の商標と請求人の雑誌名が近似しているのは,単なる偶然の一致とは考え難いといわざるを得ない。
加えて,上述の請求人の雑誌の一つである「ハートナーシング」に関連して,商標法第51条第1項の規定により被請求人の商標登録を取り消す旨の判決(平成25年11月14日判決言渡 平成25年(行ケ)第10084号)や,不正競争防止法第2条第1項第1号により使用を差し止める旨の判決(平成26年1月17日判決言渡 平成24年(ネ)第2044号)がなされている。
以上の状況を総合的に勘案すると,本件商標についても,請求人が専門誌「オペナーシング」を発行しているのを承知の上で,それと近似した商標を登録出願したものであり,上記1のとおり,使用商標がその需要者の間では相当程度広く認識されていたといえることをも勘案するならば,使用商標の周知性へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や希釈化(いわゆるダイリューション)を意図していたものとみるのが合理的といえる。
4 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
使用商標は,上記1のとおり,手術看護の分野の専門誌の名称であり,その需要者が手術看護に関係する医療関係者であることを勘案すると,その需要者層も限られた分野にとどまるといえるところ,使用商標は,少なくとも,本件商標の登録出願時においては,それを使用する商品である手術看護に関係する雑誌の需要者には,広く知られたものとなっていたということができるものである。しかも,本件商標は,上記2のとおり,その使用商標とは外観,称呼及び観念のいずれにおいても,近似した印象を与えるものであり,その指定商品も,その使用商標を使用している商品とは,同一又は類似の商品といえるものである。
そして,商標法第4条第1項第15号は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものである(平成12年7月11日 最高裁平成10年(行ヒ)第85号)ところ,本件商標は,上記3のとおり,被請求人が使用商標の存在を承知の上で,それと近似した商標を登録出願したものであり,使用商標の周知性へのただ乗り(いわゆるフリーライド)や希釈化(いわゆるダイリューション)を意図していたものといわざるを得ないものである。
そうすると,これら事情を総合的に考察するならば,本件商標は,その指定商品に使用する場合には,その商品が請求人の業務に係る商品であると誤信されるおそれ(いわゆる「広義の混同を生ずるおそれ」を含む。)があるといわざるを得ないから,商標法第4条第1項第15号に該当するものといえる。
5 被請求人の主張について
(1)請求人と被請求人の雑誌のサイズに関する主張について
被請求人は,請求人と被請求人の雑誌のサイズが全く異なるから両者の雑誌を見間違えることはない旨主張する。
しかしながら,商標法第4条第1項第15号の趣旨は,商品の出所について誤認,混同を生じるおそれがある商標の登録を排除することにあるのであって,本件商標の指定商品もサイズが限定されているわけでもなく,本件商標が混同を生じるおそれがあることは上記4のとおりであるから,被請求人の主張を採用することはできない。
(2)請求人の雑誌名の独自性に関する主張について
被請求人は,「OPE(オペ)」が「手術」,「NURSING(ナーシング)」が「看護」を指すことは誰でも知っているところであり,請求人の雑誌名は“独自”のユニークな固有名詞ではない旨主張する。
しかしながら,商標が自他商品の識別標識として機能し得るというためには,商標法第3条第1項各号に該当する場合を除くならば,独自性やユニークさを要するものではないし,被請求人は使用商標が同項各号に該当することを証明するところもない。そして,職権をもって調査しても,使用商標が使用されている商品が定期刊行物である雑誌であることをも勘案すると,使用商標が同項各号に該当するとしなければならない理由も見いだし得ない。
そうすると,被請求人の主張を採用することはできない。
(3)請求人の社名や出版物を知らなかったとの主張について
被請求人は,2009年(平成21年)以前には,請求人の社名も出版物も知らなかったと主張する。
しかしながら,本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するか否かの判断の基準時は,本件商標の登録出願時(平成22年1月21日)及び登録査定時(平成22年6月4日)である(同条第3項)ところ,その判断の基準時を前提にするならば,請求人が専門誌「オペナーシング」を発行しているのを承知の上で,それと近似した商標を登録出願したものといわざるを得ないこと上記3のとおりである。
そうすると,被請求人の主張を採用することはできない。
(4)特許庁の登録商標や出願商標を調査して登録出願したとの主張について
被請求人は,特許庁の登録商標や出願商標を調査して登録出願したのであって,何らの落ち度もない旨主張する。
しかしながら,商標法第4条第1項第15号は,他人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるならば,特許庁に登録又は登録出願されているかに関わらず,同号に該当することになるから,たとえ,被請求人が登録商標や出願商標を調査したとしても,それをもって,同号に該当しないということはできない。
そうすると,被請求人の主張を採用することはできない。
(5)請求人が雑誌の題号に「登録商標」と不正に表示していたとの主張について
被請求人は,請求人が雑誌の題号に「登録商標」と不正に表示していたことが発端である旨主張する。
しかしながら,被請求人が後日提出するとしていた証拠方法は,提出されるところはないし,雑誌の題号に「登録商標」と表示していたと仮定しても,本件商標は,上記4のとおり,請求人の業務に係る商品であると混同されるおそれがあるのであるから,それをもって,商標法第4条第1項第15号に該当しないということもできない。
そうすると,被請求人の主張を採用することはできない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号及び同項第19号並びに同法第8条第1項について論じるまでもなく,同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)


別掲2(使用商標1)


別掲3(使用商標2)


別掲4(使用商標3)


別掲5(使用商標4)




審理終結日 2015-08-28 
結審通知日 2015-09-02 
審決日 2015-09-17 
出願番号 商願2010-7227(T2010-7227) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X16)
最終処分 成立  
前審関与審査官 金子 尚人 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 林 栄二
中束 としえ
登録日 2010-07-23 
登録番号 商標登録第5339613号(T5339613) 
商標の称呼 オペナースオペ、オペナース、オペ、オオピイイイ 
代理人 齊藤 整 
復代理人 川本 篤 
復代理人 徳永 弥生 

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