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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない W30
審判 全部無効 観念類似 無効としない W30
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W30
審判 全部無効 外観類似 無効としない W30
管理番号 1306510 
審判番号 無効2014-890040 
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-23 
確定日 2015-09-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第5506246号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5506246号商標(以下「本件商標」という。)は、「ダブルネルプレッソ」の片仮名を標準文字で表してなり、平成24年1月27日に登録出願、第30類「コーヒー」及び第43類「飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同年5月28日に登録査定、同年7月6日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録商標は、以下のとおりであり、その商標権は、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第2049744号商標(以下「引用商標1」という。)は、「NESPRESSO」の欧文字を横書きしてなり、昭和60年9月18日に登録出願、第29類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同63年5月26日に設定登録され、その後、平成20年6月11日に、指定商品を第30類「茶,コーヒー,ココア,氷」及び第32類「清涼飲料,果実飲料」とする指定商品の書換の登録がされたものである。
(2)登録第3123593号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、商標法の一部を改正する法律(平成3年法律第65号)附則第5条第1項の規定により使用に基づく特例の適用を主張し、平成4年8月31日に登録出願、第42類「茶,コ?ヒ?,ココア,清涼飲料又は果実飲料を主とする飲食物の提供」を指定役務とし、特例商標として、同8年2月29日に設定登録されたものである。
(3)登録第5288752号商標(以下「引用商標3」という。)は、「ネスプレッソ」の片仮名を標準文字で表してなり、平成20年1月8日に登録出願、第9類「自動販売機,コーヒーを調整・分配する自動販売機」、第11類「業務用加熱調理機械器具並びにその部品及び附属品,暖房装置及びその部品並びに附属品,電気式の牛乳加熱用及び牛乳泡立て用機械器具並びにそれらの部品及び附属品,電気式コーヒー抽出機及び電気式給茶機及びそれらの部品並びに附属品,電気式コーヒー用機械器具,家庭用電気式コーヒーポット,電気式パーコレーター及びそれらの部品並びに附属品」、第21類「手動式コーヒー豆ひき器,エスプレッソコーヒー沸かし(電気式のものを除く。),コーヒーポット(電気式のものを除く。),パーコレーター及びこれらの部品(電気式のものを除く。),コーヒーフィルター(紙製・貴金属製のものを除く。),調理用かきまぜ棒,台所用ミキサー(電気式のものを除く。),ミルク泡立て器,その他の泡立て器,台所用器具(貴金属製のものを除く。),台所用の容器(貴金属製のものを除く。),ガラス製品,磁器製品,陶器製品」、第30類「コーヒー,コーヒーエキス,コーヒー飲料製造用調製品,代用コーヒー,代用コーヒーエキス,茶,茶エキス,茶飲料製造用調製品,ココア,ココア飲料製造用調製品,チョコレート,チョコレートを使用した菓子,菓子,砂糖菓子,砂糖,甘味料(天然のもの),焼き菓子,ビスケット」、第35類「広告,食料品の実演による広告,食料品の販売促進のための企画及び実行の代理,機械若しくは自動販売機による飲食料品の小売において行われる顧客に対する便益の提供,その他の飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動販売機の貸与,インターネットを介した商取引の受注管理,インターネット上のウェブページとして使用される広告及びカタログの編集,レストランの事業の管理」、第37類「食料品の自動販売機の修理又は保守に関する情報の提供,自動販売機の設置工事,自動販売機の修理又は保守」、第39類「食料品の倉庫による保管,食料品の配達」、第41類「本・パンフレット・新聞・映画及びレコードの編集及び制作,特に食品・栄養・ダイエットに関する情報の提供及び助言を含む栄養及び食品に関する教育及び訓練,技芸・スポーツ又は知識の教授」及び第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,レストランにおける飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同21年12月18日に設定登録されたものである。
(4)国際登録第1054554号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、2010年3月26日にSwitzer landにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、2010年(平成22年)9月13日に国際商標登録出願、第9類「Automatic coffee and coffee capsule dispensers.」、第11類「Heating and cooking apparatus; apparatus for heating and frothing milk; electric beverages cooling apparatus; electric coffee machines, coffee makers and percolators; parts and components for all the aforementioned goods.」、第16類「Pamphlets, catalogs, cards, printed documents, newspapers, books, magazines, handbooks, periodicals, publications, journals; instructional or teaching material (except apparatus).」、第21類「Household or kitchen utensils and containers (not of precious metal or coated therewith); non-electric coffee machines, coffee makers and percolators; parts and components for all the aforementioned goods; glassware, porcelain and earthenware not included in other classes.」、第29類「Milk, cream and milk products, milk-based beverages, milk product substitutes.」、第30類「Coffee, coffee extracts, coffee-based preparations and beverages; iced coffee; artificial coffee, artificial coffee extracts, preparations and beverages made with artificial coffee; chicory (coffee substitute); tea, tea extracts, preparations and beverages made with tea; iced tea; malt-based preparations for human consumption; cocoa and cocoa-based preparations and beverages; chocolate, chocolate goods, chocolate-based preparations and beverages; confectionery, bakery goods, namely bread and buns, pastries; biscuits, cakes, cookies, wafers, caramels, dessert puddings; edible ices, water ices, sorbets, iced confectionery, frozen cakes, ice cream, ice candies, ice-cream cakes, frozen yoghurts; breakfast cereals, cereals mainly consisting of processed grains, nuts and dried fruits, corn flakes, cereal bars, ready-to-eat cereals; cereal preparations.」、第35類「Retail sale services and retail sale services over the Internet of coffee, electric coffee machines; advertising; business management; advertising via sponsoring of entertainment activities, sporting and cultural activities; commercial sponsoring of (advertising) recreational, sporting and cultural activities.」、第37類「Installations for coffee machines and food and beverage dispensing apparatus; servicing, maintenance and repair of coffee machines and food and beverage dispensing apparatus; consulting for the servicing of coffee machines and automatic food and beverage dispensers; loaning, rental and provision of the aforementioned machines.」、第39類「Storage, distribution and delivery of foods and beverages.」、第40類「Recycling and processing of aluminum capsules; recycling and processing of materials and components of metal and of plastic.」、第41類「Education; providing of training; entertainment; sporting activities; organization of exhibitions for cultural or educational purposes; art exhibitions.」、第42類「Analytical tests relating to coffee, tea, cocoa and chocolate; quality control including the inspection, monitoring, checking and certification of the quality of coffee, tea, cocoa and chocolate.」及び第43類「Providing food and drink services; hotels, cafes, cafeterias, bars, restaurants, snack bars, canteens, coffee shops; preparation of foods and beverages to take away.」を指定商品及び指定役務として、平成24年4月13日に設定登録されたものである。
なお、引用商標4は、商標法第68条の10第1項の規定により、商標登録第3123593号(平成4年8月31日登録出願)に基づく国際商標登録出願時の特例が適用されるものである。
(以下、引用商標1ないし4をまとめていうときは、単に「引用商標」という。)

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第57号証(枝番を含む。)を提出した(なお、甲号証及び乙号証中の枝番を有する証拠において、枝番を特に明記しない場合は、枝番の全てを含むものである。)。
1 利害関係
請求人は、引用商標を現に使用しており、これに類似する本件商標の使用に由来する出所の混同及び引用商標に化体した信用、名声、顧客吸引力の毀損を防止すべく、無効審判の請求を行うものであるから、本件審判を請求するにつき、利害関係を有する。
2 請求の理由
本件商標の登録は、以下の理由により、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項により無効とされるべきである。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 引用商標から生じる称呼及び観念
引用商標は、請求人の商号の要部「NESTLE(ネスレ)」の略語「NES(ネス)」と「ESPRESSO(エスプレッソ)」の略語「PRESSO(プレッソ)」を組み合わせた造語であり、後記のように、請求人によるコーヒー等についての長年継続的かつ大々的な使用によって、請求人の業務に係る商品等を表示する商標として取引者、需要者の間に広く認識されている(甲34?甲55)。そのため、引用商標からは「ネスプレッソ」の称呼が生じ、「請求人及びその関連企業の事業に係るネスプレッソと称する商品及び役務」の意味合いを認識させる。
イ 本件商標から生じる称呼及び観念
(ア)「ダブル」の語について
本件商標中の「ダブル」は、「二重、2倍、ウィスキーなどの量の単位.約60ml」を意味する語であり(甲6)、コーヒーを扱う業界において、コーヒー豆の量の単位として、すなわち、通常のエスプレッソは一杯当たりコーヒー豆を7g程度使用するのに対し、14g程度使用したものを「ダブル」と呼んでいる。また、通常のコーヒーに比べて2倍以上含有した贅沢な味わいを特徴とするコーヒー飲料の品質表示としても使用されている(甲7?甲16)。
したがって、本件商標中の「ダブル」の語は、コーヒー豆の数量を表示する品質表示にすぎず、自他商品等の識別力がないか極めて弱い語であるといえる。
(イ)本件商標中の「ネルプレッソ」について
本件商標中の「プレッソ」は、既存の言葉ではないものの(甲17)、「エスプレッソ(ESPRESSO)」を容易に想起させることから、コーヒーのネーミングとして、「プレッソ」の前に商品の特徴を表す語を付けて「○○プレッソ」といった造語が好まれて使用され(甲18?甲21)、かつ、「○○プレッソ」とする商標が多数出願、登録されている(甲57)。
また、本件商標中の「ネル」は「フランネル」の略語であり、挽いたコーヒー豆を濾過(ドリップ)するフィルターとして使用されている(甲22)ことからすれば、本件商標中の「ネルプレッソ」は、挽いたコーヒー豆をネルで濾過したエスプレッソを表現した造語と認識されると考えるのが自然である。すなわち、本件商標に接した需要者、取引者は、「ネルプレッソ」の文字部分に注目し、これを一連一体のものとして認識、理解すると考えるべきである。
(ウ)ところで、二以上の語を組み合わせてなる結合商標にあっては、簡易、迅速を尊ぶ取引の実際において、各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合は、常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称呼、観念されず、しばしば、その一部だけによって簡略に称呼、観念され一個の商標から二個以上の称呼、観念の生ずることがあるのは、経験側の教えるところである(昭和36年6月23日第2小法廷判決)。そしてこの場合、「1つの称呼、観念が他人の商標の称呼、観念と同一または類似であるとはいえないとしても、他の称呼、観念が他人の商標のそれと類似するときは、両商標はなお類似するものと解するのが相当である。」(最高裁第1小法廷昭和38年12月5日判決、昭和37年(オ)第953号、審査基準第3九.6.(甲23))。
これを本件についてみると、本件商標の構成全体から生じる称呼「ダブルネルプレッソ」は9音とやや冗長である。また、その構成全体から特定の観念が生ずるものでもない。前記のとおり、本件商標は、その構成中、「ダブル」は品質表示にすぎず、需要者に印象付ける部分は、「ネルプレッソ」部分にあると考えるのが自然であるから、「ダブル」と「ネルプレッソ」とを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど、不可分的に結合しているものとは認められない。
したがって、本件商標は、「ダブルネルプレッソ」のほかに、「ネルプレッソ」に相応した外観、称呼及び観念をも生ずると考えるのが自然である。
なお、請求人は、本件商標に接した需要者が、「ダブルネル」の文字部分に着目する可能性の有無を検討するため、Yohoo!により、キーワード「ネル」と「コーヒー」を検索したところ、約1,470,000件ヒットしたのに対し、「ダブルネル」は、わずか約69件ヒットするにすぎなかった(甲24)。さらに、その内容を確認したところ、岩倉のカフェ「ボンポアンカルダン」が、二重のフランネル(=布ね)のことを「ダブルネル」と称している例(甲25)と、「上島珈琲店」が、一度抽出したコーヒーを新たなコーヒー粉でさらに濾過・抽出することを「ダブルネル」ドリップ方式と称している例(甲26)の、わずか2例にすぎないことが分かった。そうとすれば、本件商標に接する需要者が、「ダブルネル」の文字部分から上記「二重のフランネル」及び「二度のネルドリップ」を連想、想起し、当該文字部分に着目するとは到底考えられない。
ウ 本件商標及び引用商標から生じる称呼の対比
本件商標から生じる称呼「ネルプレッソ」と引用商標から生じる称呼「ネスプレッソ」は、第2音において、母音「u」を共通にする歯茎音「ル」と「ス」の差異を有し、他の全ての配列音を同じくするものである。この点、商標審査基準(特許庁編集)において、商標法第4条第1項第11号に関し、類似とする基準に該当する(甲23)。
また、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)の出願商標「ネルプレッソ」における不服2013-6080の審決では、「ネルプレッソ」の称呼と「ネスプレッソ」の称呼とは、互いに聴き誤るおそれがあると説示した(甲27)。
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、相互に相紛らわしい称呼上類似の商標であることは明らかである。
エ 取引の実情
後記(2)アのように、請求人は、日本にインスタントコーヒーを広く普及させたグローバル企業である。請求人は、1986年頃より引用商標の下、最先端のエスプレッソマシンと、世界各地のコーヒー豆により高品質と利便性を提供し、プレミアムコーヒー市場をリードしてきた(甲34、甲35)。また、請求人は、発売当初より莫大な広告宣伝費を投じ、様々な広報活動を展開してきた結果(甲40?甲55)、引用商標は、遅くとも本件商標の出願日前に、商品「コーヒー」等について著名性を獲得していたことは明らかである。
請求人がインターネットにより検索を行ったところ、一般の需要者が実際に、両者を混同している(又は混同するであろう)記載を発見した(甲29?甲33)。これは、両商標から生じる称呼「ネルプレッソ」と「ネスプレッソ」の語調・語感が極めて紛らわしいものであるのに加え、引用商標の著名性故に、この紛らわしさが一層増幅されたことによるものである。
オ 以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観において、相当程度似た印象を与えるものであり、かつ、称呼において、互いに聴き誤るおそれがあることに加え、引用商標が、商品「コーヒー」や役務「コーヒーの提供」に係る業界において、相当程度広く認識されているものであること等を総合勘案すれば、両商標が観念において比較することができないものであるとしても、両商標を同一又は類似する商品又は役務に使用した場合、取引者、需要者をして、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるほどに類似するというべきである。
そして、本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務は、互いに抵触する商品又は役務が含まれることは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標の著名性
(ア)引用商標に係る商品とその使用の経緯
請求人は、1986年に、引用商標を家庭用コーヒーメーカーのシリーズ名として採択し、本件商標の出願時はもとより現在まで25年以上の間、家庭用エスプレッソコーヒーメーカー(以下「請求人商品」という。)及びカプセルコーヒー等に使用してきた。
そもそもエスプレッソコーヒーは、抽出時に圧力を加えることにより、サイフォオン式やドリップ式では得られなかったコーヒーのエキスまでも抽出することが可能となるため、コーヒー本来の深い香りと味を引き出すことができる。しかし、従来のエスプレッソマシンは高価であり、高級レストラン等でしか味わうことができなかった。このような中で、請求人商品は、専用のカプセルコーヒーを使用し、マクロチップ制御の高気圧ポンプ・サーモブロックにより、本格的なエスプレッソコーヒーが一般家庭でも味わえるとして人気を博し、現在に至っている(甲34?甲38)。
さらに、近年では、請求人商品における人気を背景に、カップ、キャリーバッグ、テーブルウェア等の関連商品も、引用商標のもとに展開している(甲38)。
(イ)請求人商品の販売形態
請求人商品の販売方式は、需要者が商品を購入する前に実際に触れ、操作性・機能性の高さを実感してもらい、実際に味わうことができるよう、対面販売の拠点として東京、名古屋、大阪をはじめ、札幌、四国、博多に至る日本各地の有名百貨店や家電量販店に、ネスプレッソコーナー(特設コーナー)とネスプレッソブティック(常設コーナー)を設けている(甲40?甲42)。そして、2004年以降、特設コーナーの多くがネスプレッソブティックとして常設化され、かつ、2011年12月には、270坪と国内最大となる路面店も設置された。
また、請求人は、店頭販売に加え、請求人商品専用カプセルコーヒーを定期的に購入する「NESPRESSOクラブ」会員に郵送により「カプセルコーヒー」を供給している。請求人は、新商品の案内を目的とした商品パンフレットを多数、かつ、大量に作成し(甲43)、ウェブサイトや量販店の販売コーナーにより頒布するほか、「NESPRESSOクラブ」会員に継続的に郵送してきた。
(ウ)広告・紹介記事
請求人商品は、各種新聞・雑誌でエスプレッソコーヒーの特集記事や、エスプレッソマシンの特集記事では、必ずといっていいほど取り上げられている(甲44、甲45)。
(エ)新しい広告戦略
近年、請求人は、新聞・雑誌への広告の掲載等、従来の広報戦略(甲46)と並行し、テレビ、新聞、雑誌、インターネット等のあらゆる媒体を用いた広告宣伝を短期間に集中的にすることにより、新商品を需要者に浸透させることに成功している(甲47?甲54)。これらの記事には、常に引用商標が表示されている。
(オ)上記のとおり、請求人が引用商標を「コーヒー」等に長年継続的に使用し、莫大な宣伝広告費用を投じ広報活動を行ってきた結果、引用商標は、気軽に味わえる本格的なエスプレッソコーヒーとして、遅くとも本件商標の出願日より前に取引者、需要者に認識されるに至ったことは明らかである。
イ 引用商標の造語性、独創性
引用商標は、前記2(1)アのとおり、請求人の名称の要部の略称と「PRESSO(プレッソ)」を結合させた造語であり、その独創性は高いものである。
ウ 本件商標と引用商標の類似性
前記のとおり、本件商標と引用商標は、外観及び称呼上類似する商標であり、観念において比較することができないとしても、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるほどに類似するものである。
エ 商品及び営業上の関連性
請求人は、早くから日本市場に進出し、日本にインスタントコーヒーを広く普及させたコーヒー製品を製造・販売する企業として広く知られている。
請求人は、アンテナショップとしてエスプレッソブティック(甲55)やカフェ(甲54)を運営しており、本件商標が使用されるであろう商品・役務は、請求人のそれと同一である。そのため、本件商標の登録が許されれば、将来、百貨店や路面店に並んで提供されるおそれすらある。
オ 以上のとおり、引用商標の著名性、独創性、請求人の事業実態、両商標が使用される商品・役務及びその需要者や取引者の共通性をかんがみれば、本件商標が指定商品等に使用された場合、商品又は営業上の出所混同が生じるおそれが極めて高い。
したがって、仮に本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当すると認められないとしても、本件商標がその指定商品・役務について使用された場合、請求人の業務に係る商品・役務と出所の混同を生ずるものであって、本件商標は、同法第4条第1項第15号に該当するものである。
3 平成26年10月24日付け上申書
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標について
被請求人は、「本件商標は『ダブルネル』と『プレッソ』とを結合させた被請求人の造語である。」と主張し、乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。
しかし、これらの証拠は、被請求人の「ネルドリップ」へのこだわりや、「ミルクコーヒー」に対しての強い思い入れから、「ネルドリップで抽出したコーヒーを、再度「ネルドリップ」で「2回(ダブル)」抽出する方法を採用するに至った経緯、その抽出方法を、被請求人自らが「ダブルネルドリップ方式」と名付け、使用し始めてから、まだ間もないことを示すにすぎない。
すなわち、コーヒーを「ネルドリップ」で「2回(ダブル)」抽出する「方式」を意図して創作された、この「ダブル・ネルドリップ・方式」なる語はもちろんのこと、この「ダブル・ネル」なる語も、辞書用語ではないばかりか、コーヒー関連の分野で頻繁に使用される語でもないことは、被請求人の証拠及び主張からも明かである。
イ 本件商標から生じる称呼について
被請求人は、「『プレッソ』はコーヒー飲料の内容や品質を表す表現として認識される。したがって、『プレッソ』はコーヒーとの関係において、商標として識別力は比較的弱い語といえる。」と主張した上で、本件商標は「識別力の弱さゆえに省略されて『ダブルネル』と称呼されることはあり得るが、請求人が主張するように『ネルプレッソ』との称呼が生じることは到底考え難い。」と主張し、乙第5号証ないし乙第10号証を提出している。
しかし、独立して自他商品等の識別力を有する構成部分の分離ないし抽出は、構成する文字等の結合状態より判断されるべきものである。
被請求人が引用する「豆乳飲料 SOY PRESSO」、「ボス ゴールドプレッソ」、「TULLY’S COFFEE BARISTA’S BLEND ROYALEPRESSO」、「ワンダー オーロラプレッソ」及び「<マキシム><トリプレッソ>ボトルコーヒー」からも明らかなとおり、仮に、「プレッソ」の識別力が比較的弱いものであるとすると、「プレッソ(PRESSO)」と結合する文字部分もまた、比較的識別力が弱い語である場合が多い。そして、これらの文字部分は「プレッソ」と結合して「豆乳とほろ苦い(コーヒーをブレンドした)」、「香り高く優れた(コーヒー)」、「気品を追求した味わい深い(コーヒー)」、「絶妙なバランスでコクと苦みのある(コーヒー)」、「3倍高密のコクの深い(コーヒー)」といった観念を想起させることは乙第5号証ないし乙第10号証の示すとおりである。そのため、両文字部分の結合状態は強く、いずれも語呂良く一連に称呼され、認識されると考えるのが自然である。
「ネルプレッソ」と結合する、「ダブル」の語は、数量を示す語にすぎない。本件商標に接する需要者が、周知・著名な引用商標と近似する「ネルプレッソ」の文字部分に着目すると考えても、何ら不思議ではない。
ウ 「ダブル」とその後に続く語との関係・結び付きについて
被請求人は、「『ダブル』がコーヒーに対して使用される場合、コーヒー豆の数量を表示することなどなく、コーヒーのコク、食感、コーヒーに加えられるキャラメルやチョコレート等の量、抽出製法、焙煎の回数といった様々な意味合いで使用されている。・・・これらの事例からわかることは、結局『ダブル』の語に続く語が何かによって、『ダブル』の意味合いが変わるということであり、換言すると、『ダブル』とその後に続く語との関係・結びつきが非常に重要、かつ、強いということである。」と主張し、乙第12号証ないし乙第18号証を提出している。
仮に、被請求人が主張するように、「ダブル」が必ずしもコーヒー豆の数量を表示するものではないにしても、これらはいずれも、コーヒーの濃度、コーヒーに混ぜられた食材の量、コーヒーで楽しめる食感種の数、コーヒーの抽出の回数、すなわち、数量を示す語であるにすぎず、識別力がないか極めて弱い語であることは明かである。
また、「ダブル」とその後に続く語との関係・結びつきは非常に重要、かつ、強いと主張し、その増強証拠として乙第12号証ないし乙第18号証を提出しているが、「ワンダ オン・ザ・ロック・ダブル」(乙12)には、そもそも「ダブル」に続く語がない。「ボス 贅沢ミルクと生クリームのコクダブルカフェオレ」(乙13)については、「ダブル」に続く語「カフェオレ」との関係が強いとは考え難く、また、「ダブル キャラメル・ラテ」(乙14)においては、「キャラメルラテ」が「ダブル」であるとの観念が想起されることがないよう、「キャラメル」と「ラテ」の間に中黒が置かれている。
したがって、本件商標中「ダブル」とその後に続く「ネル」との関係・結びつきが重要かつ強いとする被請求人の主張に合理的理由がないことは明かである。
(エ)小活
本件商標に接した需要者は、本件商標を「ダブルネル」と「プレッソ」との各文字部分に分離し把握されるという被請求人の主張は失当であり、むしろ、「ダブル」と「ネルプレッソ」との各文字部分に分離して認識し把握されると考えるべきである。そして、本件商標に接する取引者、需要者は、結局、周知・著名な引用商標と近似する「ネルプレッソ」の文字部分に着目し、混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、「本件商標と引用商標とは、・・・十分に区別し得る別異の商標である。したがって、本件商標がその指定商品に使用されたとしても、これに接する取引者及び需要者が、請求人又は請求人と何等かの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく商品の出所について混同を生ずるおそれはない。」と主張する。
しかし、上記(1)のとおり、本件商標については、「ダブルネルプレッソ」のほかに、「ネルプレッソ」に相応した外観、称呼又は観念が生じると考えざるを得ず、本件商標を引用商標と同一又は類似の商品等に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、周知・著名な引用商標と近似する「ネルプレッソ」の文字部分に着目し、混同を生ずるおそれがあるというべきである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第32号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標について
本件商標は、「ダブルネル」と「プレッソ」とを結合させた造語である。
ア 「ダブルネル」は、被請求人が新たに生み出したコーヒーの抽出方法の名称「ダブルネルドリップ方式」に由来し、当該名称を略したものである。
(ア)「ダブルネルドリップ方式」について
被請求人が経営する上島珈琲店では、コーヒーをおいしくいれる最高の抽出方式といわれる「ネルドリップ」方式を採用し、該抽出方式へのこだわりを持っている(乙2)。また、被請求人は、ミルクコーヒーの更なる美味しさを追求した結果、「ネルドリップ方式で抽出されたエスプレッソの様に、またはそれ以上に濃厚なコーヒーである一方、雑味が全く感じられないコーヒー」が求めるコーヒーであるとの結論に至り、そこで開発されたのが、ネルドリップ方式で時間をかけて丁寧に抽出したコーヒーを、再度ネルドリップ方式で抽出する「ダブルネルドリップ方式」である。ネルドリップを2回行うことで、コーヒーの濃度は高くなり、また、コーヒーの雑味と酸味が更に取り除かれるのである(乙2、乙4)。
(イ)「ダブルネル」について
被請求人は、ネルドリップを2回(ダブル)で行うという画期的な手法と、ペーパードリップではなく、「ネル」ドリップにこだわるという思いを込めて、「ダブルネルドリップ方式」を「ダブルネル」と略し、本件商標の一部として取り入れたのである。
イ 「プレッソ」について
被請求人は、「ダブルネルドリップ方式」で抽出されたコーヒーが「エスプレッソの様に又はそれ以上に濃厚」であることを表す目的で「プレッソ」を選択したが、「プレッソ/PRESSO」は、コーヒーについて広く使用されるありふれた表現であり、「○○プレッソ」といった造語が好まれて使用されている(甲18?甲21、乙5?乙10)。
したがって、「プレッソ/PRESSO」がコーヒーに使用される場合、「エスプレッソ」、「味わい深いコーヒー」、「しっかりしたコクと香りの強いコーヒー」、「3倍高密エスプレッソ」、「エスプレッソ風の濃厚なコーヒー」等に使用されており、このことから、「プレッソ/PRESSO」は、消費者にコーヒーが「濃厚」であることを認識させるから、コーヒー飲料の内容や品質を表し商標としての識別力が比較的弱い語といえる。
ウ 本件商標の外観、観念及び称呼
(ア)外観
本件商標は、「ダブルネルプレッソ」を同書体同大文字にて横一連に書してなり、全体として非常に一体感のある構成である。
(イ)観念
本件商標は、「ダブルネル」(「2つのフランネル」との意)と、「エスプレッソのようなコーヒー」を想起させる「プレッソ」とを組み合わせた造語である。したがって、本件商標全体からは特定の観念は生じないか、せいぜい「2つのフランネルで濾過したエスプレッソのようなコーヒー」の意味合いが生じる程度である。
(ウ)称呼
本件商標は、上記(ア)のとおり、全体として一体感のある構成からなり、「ダブルネルプレッソ」の称呼が格別冗長ではなく容易に称呼することが可能であること、さらに、本件商標全体から「2つのフランネルで濾過したエスプレッソのようなコーヒー」との意味合いも想起し得ることも相俟って、本件商標からは「ダブルネルプレッソ」の称呼のみが生じるとみるのが自然である。
請求人は、「ダブル」は、コーヒー豆の数量を表示するにすぎず、自他商品等の識別力がないか極めて弱い語であるとした上で、本件商標の要部は「ネルプレッソ」であり、これに対応した称呼が生じると主張する。しかし、「ダブル」がコーヒーに使用される場合、必ずしもコーヒー豆の数量を表示しているとは限らず、コーヒーのコク、食感、コーヒーに加えられるキャラメルやチョコレート等の量、抽出製法、焙煎の回数といった様々な意味合いで使用されている(乙12?乙18)。したがって、コーヒーに「ダブル」が使用されたとしても、「ダブル」から「豆の数量」を含む特定の意味合いが一義的に認識される可能性は非常に低いか又はほぼないといえ、「ダブル」の語は、これに続く語が何かによって、その意味合いが変わるということであり、換言すると、「ダブル」とその後に続く語との関係・結びつきが非常に重要、かつ、強いということである。
これを本件商標についてみると、「ダブル」の後に続く語は「ネル」、つまり「フランネル」の略語であるので(甲22)、本件商標における「ダブル」の意味合いは、本件商標権者が意図する「2つの」ネル(フランネル)として理解されるとみるのが極めて自然なのである。
一方で、前記のとおり、「プレッソ」は、コーヒーとの関係において比較的識別力が弱い語であるので(甲18?甲21、乙5?乙10)、仮に本件商標から「ダブルネルプレッソ」以外の称呼が生じるとすれば、「ダブル」と「ネル」の結びつきが強いことも相俟って、本件商標が「ダブルネル」と称呼されることはあり得ても、請求人が主張するように「ネルプレッソ」との称呼が生じることは到底考え難い(乙11)。
なお、請求人は、本件商標の構成全体から生じる称呼は、やや冗長である旨と主張するが、「ダブルネルプレッソ」と同程度の音数又はそれ以上の音数の商標であっても、一気一連に称呼すると判断された事案は多数存在する(乙21?乙27)。
(2)引用商標について
ア 外観
引用商標1は、「NESPRESSO」を、また、引用商標2及び4は、やや図案化した「N」と「ESPRESSO」とを、さらに、引用商標3は、「ネスプレッソ」を、それぞれ一連に書してなる。
イ 観念
引用商標は、造語であるから特定の観念は生じないか、せいぜい請求人が製造販売する気軽に味わえる本格的なエスプレッソコーヒーとの意味合いが生じる程度である。
ウ 称呼
引用商標は、その構成文字より「ネスプレッソ」の称呼が生じる。
(3)本件商標と引用商標との比較について
ア 外観
本件商標と引用商標1、2及び4とは、構成文字が片仮名と欧文字とで異なる故に、外観が全く異なっている。また、本件商標と引用商標3は、語頭部分の「ダブル」の有無、中間部分の「ネル」と「ネス」の有無において異なり、構成文字数も明らかに異なる。よって、両商標の外観は全く異なっている。
イ 観念
本件商標は、特定の観念は生じないか、せいぜい「2つのフランネルで濾過したエスプレッソのようなコーヒー」との意味合いが生じる程度である。
一方、引用商標は、特定の観念は生じないか、せいぜい請求人が製造販売する気軽に味わえる本格的なエスプレッソコーヒーとの意味合いが生じる程度である。
したがって、両商標の観念が相紛れるおそれはない。
ウ 称呼
本件商標より生ずる「ダブルネルプレッソ」の称呼と引用商標より生ずる「ネスプレッソ」の称呼は、明瞭に聴取され得る語頭部分の「ダブル」の有無において異なる。さらに、「ネル」と「ネス」の部分で「ル」と「ス」の音が異なる。
したがって、両称呼は、その語調語感を明らかに異にするので、非類似である。
仮に本件商標より「ダブルネル」の称呼が生じるとしても、該称呼と「ネスプレッソ」とは、「ネ」の音を除いて全て異なり、明らかに非類似である。
(4)以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観及び称呼において異なり、観念において相紛れるおそれがないので、非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用商標の著名性について
請求人は、甲第34号証ないし甲第55号証を提出し、引用商標が「コーヒー」等に使用された結果、周知性を獲得していると主張する。
しかし、上記証拠の中には、例えば、甲第40号証の32、34のように、引用商標が非常に不鮮明に映っているものが多数含まれ、さらに、甲第43号証の中に、日付の特定できないパンフレットが多数含まれている。したがって、甲第34号証ないし甲第55号証をもって、本件商標の出願時及び査定時において、引用商標が相当程度知られていたことが立証されているとはいい難い。
(2)混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標とは、上記1のとおり、十分に区別し得る別異の商標である。したがって、本件商標がその指定商品に使用されたとしても、これに接する取引者、需要者が、請求人又は請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれはない。
なお、仮に引用商標の著名性が認められたとしても、異議申立て又は無効審判請求の対象となる商標と引用商標とが非類似であることを理由に、混同を生ずるおそれが認められなかった審決例は多数存在する(乙28?乙31)。
(3)請求人の主張に対する反論
ア 請求人は、インターネットで「ネルプレッソ」を検索した結果として甲第29号証及び甲第30号証を提出し、「ネルプレッソ」と「ネスプレッソ」の語調・語感が極めて紛らわしいものであると主張する。
しかしながら、本件商標は、「ダブルネルプレッソ」と一体的に認識されることが自然であり、仮に本件商標の一部が分断されて認識されるとすれば「ダブルネル」と認識されることは、上記1のとおりである。したがって、本件商標を「ネルプレッソ」と特定すること自体が非常に恣意的であり、インターネット検索の結果「ネスプレッソ」の検索結果が示されたとしても、本件商標と引用商標とが混同されていることを示すに及ばないことは明らかである。
イ 請求人は、一般の需要者が本件商標と引用商標とを混同していることを裏付ける証拠として甲第31号証ないし甲第33号証を提出する。
確かに、甲第31号証ないし甲第33号証では、「ネスプレッソ」と記載されるべき箇所が「ネルプレッソ」と表現されているように見受けられる。 しかし、本件商標はあくまでも「ダブルネルプレッソ」又は「ダブルネル」と認識されるのであるから、「ネスプレッソ」が誤って「ネルプレッソ」と表現されたからといって、本件商標と引用商標とが混同されることを示すことにはなりえない。
(4)以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきではない。

第5 当審の判断
1 引用商標の周知性
上記第2のとおり、引用商標1は、「NESPRESSO」の文字よりなるものであり、引用商標2及び4は、別掲のとおり、語頭の「N」をやや図案化した構成よりなるものであるところ、全体として、「NESPRESSO」の文字を表したものと直ちに理解されるものであり、また、引用商標3は、標準文字で「ネスプレッソ」と書してなるものである。
そして、請求人提出の、甲第34号証ないし甲第55号証を総合すると、引用商標は、請求人の業務に係る商品「家庭用エスプレッソコーヒーメーカー」(以下「請求人商品」という。)について、1986年(昭和61年)頃から現在に至るまで継続して使用され、その間、請求人商品は、テレビ、新聞、雑誌等を介して頻繁に紹介又は広告等がされ、また、請求人は、請求人商品の専用の販売コーナーを日本全国の有名百貨店等に設けるなどして、請求人商品の販売活動を積極的に展開してきたことが認められる。その結果、引用商標は、請求人商品を表示するものとして、本件商標の登録出願日(平成24年1月27日)前には既に、我が国のコーヒー関連の分野の取引者、需要者の間に広く認識され、その状況は、本件商標の登録査定日(平成24年5月28日)においても継続していたものと認めることができる。
2 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標について
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「ダブルネルプレッソ」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、該文字は、同一の書体をもって、同一の大きさ、同一の間隔で、外観上まとまりよく表されているばかりでなく、これより生ずる「ダブルネルプレッソ」の称呼も冗長というほどのものではなく、よどみなく称呼し得るものといえる。してみると、本件商標は、外観及び称呼の面から考察すれば、一連一体の商標を表したと理解、認識されるといえる。
イ 本件商標に関し、請求人は、「ダブル」の語は、コーヒーを取り扱う業界では、コーヒー豆の量の数量を表す品質表示として使用されているから、本件商標中の「ダブル」の文字部分は、自他商品の識別機能を有しないか極めて弱い語である旨主張し、これを前提に、本件商標の要部は、「ネルプレッソ」であると主張する。
しかしながら、「ダブル」の語は、「二重、2倍、重なっていること」を意味する外来語(甲6)としてよく知られているものであり、コーヒーを取り扱う業界において、通常のコーヒーに比べて2倍以上の量のコーヒーを用いる場合に、「ドッピオ」、「ダブル」と称している場合があることは認められる(甲7ないし甲16)ものの、例えば、「ミルクと生クリームの“ダブルのコク”」(乙13)、「2つの食感が楽しめる業界初のコーヒー/ダブルで楽しむ新食感」(乙15)、「ダブル抽出製法/2粒度の原料豆を2温度帯で抽出するコーヒー抽出技術」(乙17)、「ダブル焙煎コーヒー/通常一度で行う焙煎行程を2回行う事により、・・・コーヒーを最も美味しく飲める焙煎方法の一つです。」(乙18)、「W coffee DOUBLE BLEND(ダブルブレンド)/香り高く、深いコクのある味わいの深煎りコーヒー豆と、コーヒーポリフェノール(クロロゲン酸類)が豊富ですっきりとした後味の浅煎りコーヒー豆を独自の割合でブレンドしたコーヒーです。」(甲11)などのように、コクや食感、あるいは焙煎方法等が「二重、2倍、重なっていること」を表すために「ダブル」の語が使用されている事実も存在し、必ずしもコーヒー豆の量の数量を表すものとしてのみ使用されているとは限らない。加えて、「ダブル」の語は、上記で示した事例にあるように、一般的には、それ自体では、何が「二重、2倍、重なっている」のかは判然とせず、次に続く語によって、「二重、2倍、重なっている」ものの対象物が明確になる語であるといえる。
してみれば、コーヒーを取り扱う業界において、「ダブル」の語が、直ちにコーヒー豆の量の数量を表す品質表示語であるとすることはできない。
ウ 次に、本件商標における「ダブルネル」の文字部分について検討する。
(ア)コーヒーを取り扱う業界では、ネル(フランネルの略)のフィルターを使用して、挽いたコーヒー豆を濾過していれたコーヒーを「ネルドリップ」と称している事実がある(甲22、甲24の1、乙2、乙4)。
(イ)本件商標権者は、2012年(平成24年)6月15日付けのニュースリリースにおいて、「コーヒーのおいしさを最大限に引き出す抽出方法として日本の喫茶店で古くから高く評価されてきた“ネルドリップコーヒー”の抽出技術を自動化した『ネルドリップマシン』(特許番号4004506)を独自開発し、その機能を更に進化させた『ダブルネルドリップ方式』を全店舗に展開していることです。・・・」、「ダブルネルドリップ方式/1度抽出したコーヒーを新たなコーヒー粉でさらにろ過・抽出する、全く新しい方式です。2度目のろ過・抽出の際、コーヒー粉の粒子がフィルターと化し、コーヒー液の余分な雑味を吸着します。こうしてできた濃厚なネルドリップコーヒーは、クリアな味わいを実現しています。」などと掲載した(甲26)。
(ウ)また、インターネットの「食べログ」サイト(2008年(平成20年)8月21日付け)には、「飲み物は『ダブルネル』で煎れるというブレンドコーヒーを。ダブルネルとは二重のフランネル(=布ね)でドリップしたコーヒーのこと。」と記載されている(甲25)。
(エ)さらに、本件商標に対して請求人が申し立てた登録異議の申立て(異議2012-900293)において、異議の決定における「当審の判断」で示した証拠には、以下の記載がある(乙11)。
a.「『ネルドリップ』とは、布ドリップとも言われるように、フランネルという織物の種類のひとつを使用した抽出方法です。」、「・・・私たちが辿り着いたのは『ダブルネルドリップ』方式。一度抽出したコーヒーを新たなコーヒー粉でさらにろ過・抽出する、まったく新しい方式です。」
b.「ダブルネルドリップとは、しずくをたらす、又はしずくの一滴一滴が特性の二重のフランネル(布)を通り、珈琲が落とされます。」
c.「ハツネヤガーデンカフェ/HATSUNEYA GARDEN CAFE/ドリンクメニュー/ダブルネルドリップコーヒー/無糖ミルク珈琲(写真はイメージ)/ダブルネルドリップコーヒーとミルクの濃厚な味わいS 350円/M 390円/L 500円・・・ネルドリップコーヒー/ウインナーコーヒー(写真はイメージ)/ネルドリップコーヒーの上に甘さひかえめのホイップクリームをのせてS 370円/M 410円/L 520円・・・」
d.「ブレンドコーヒーはダブルネル(二重の布)でドリップしたもので、・・・」
e.「サザコーヒーオンラインショップ/ネルドリップ/ネルドリップ式の抽出は『サザコーヒー本店』で採用されています。・・・本来『ネルドリップ』の『ネル』は『ネルシャツ』のネル布(羊毛織布)のことをいいます。現在は綿の使用が主流で一般には『綿のフイルター』の事をさします。その布を使ってコーヒー粉をこす方法が、ネルドリップです。・・・」
f.「UCC上島珈琲、2段階濾過タイプのドリップマシンを全店に導入」の見出しによる「UCC上島珈琲は、布製のフィルターを上下2段に配置しコーヒーを抽出する『ダブルネルドリップマシン』を、セルフ業態の上島珈琲店全店(10店舗)に導入した。2段階の濾過によって、濃厚で後味の良いコーヒーができる。」
g.「UCCフードサービスシステムズ、『ダブルネルドリップマシン』開発」の見出しによる「ユーシーシーフードサービスシステムズ(株)は、店舗で提供するコーヒーメニューの品質向上を目的にネルドリップマシン『ダブルネルドリップマシン』を開発した。・・・今回開発した同製品は、ネルのフィルターを上下二ヵ所に取り付け、コーヒーの抽出工程を2回行う。第2フィルターが第1フィルターで抽出したコーヒーの余分な雑味と酸味を吸着する役目を果たすため、ネルドリップコーヒー本来の濃厚で後味の良いコーヒーが実現した。」
(オ)以上の(ア)ないし(エ)によれば、本件商標権者は、コーヒー業界で従来から採用されていたネルドリッブ方式の抽出方法を進化させた方式と認められる、ネルのフィルターを上下二カ所に取り付け、コーヒーの抽出工程を2回行う「ダブルネルドリップマシン」を開発し、当該「ダブルネルドリップマシン」を用いて、「ダブルネルドリップ(方式)」なる抽出方法を、平成17年4月頃には既に採用していたと推認することができ、その他、コーヒー業界において、二重のフランネル(ネル)を使用してコーヒー豆を濾過する方法を採用している場合もあり、これらを「ダブルネルドリップ」と称している事実が存在する。
そうとすると、本件商標の構成中「ダブルネル」の文字は、「二重のネル」程の意味合いを想起させる一連の語といえる。
エ まとめ
上記イ及びウのとおり、コーヒー業界における、「ダブル」及び「ダブルネル」の語の使用状況からすると、本件商標に接するコーヒー関連の分野の取引者、需要者は、その構成中の「ダブル」の文字部分のみを分離抽出して、これを商品の品質又は役務の質と捉えることはないとみるのが相当である。
そして、本件商標は、上記ア認定のとおり、外観及び称呼上の一体性を有するものであって、加えて、「プレッソ」の語が、エスプレッソの略語的用法として、例えば、「SOY PRESSO」、「ゴールドプレッソ」、「ROYAL PRESSO」などのように、「○○プレッソ」とコーヒーの分野において多用されていることについては当事者間に争いがないところからすれば、本件商標は、構成全体をもって、一体不可分の造語を表したと認識するとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して、「ダブルネルプレッソ」の一連の称呼のみを生ずるものであって、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標について
上記第2のとおり、引用商標1は、「NESPRESSO」の文字よりなるものであり、引用商標2及び4は、別掲のとおり、語頭の「N」をやや図案化した構成よりなるものであるところ、全体として、「NESPRESSO」の文字を表したものと直ちに理解されるものであり、また、引用商標3は、標準文字で「ネスプレッソ」と書してなるものであるから、いずれも「ネスプレッソ」の称呼を生じるものである。
そして、引用商標は、上記1のとおり、請求人商品を表示するものとして、我が国のコーヒー関連分野の取引者、需要者間に広く認識されているものであるから、「(ブランドとしての)ネスプレッソ」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との対比
ア 外観
本件商標と引用商標とは、それぞれ上記2(1)ア及び(2)の構成よりなるものであるから、外観上明らかに区別し得る差異を有するものである。したがって、本件商標と引用商標は、外観上類似する商標ということはできない。
イ 称呼
本件商標より生じる「ダブルネルプレッソ」の称呼と引用商標より生じる「ネスプレッソ」の称呼は、構成音数の顕著な差異により、それぞれの称呼を一連に称呼した場合においても、その語調、語感が相違したものとなり、互いに紛れるおそれはない。したがって、本件商標と引用商標は、称呼上類似する商標ということはできない。
ウ 観念
本件商標は特定の観念を生じないものであり、引用商標は、「(ブランドとしての)ネスプレッソ」の観念を生じるものであるから、互いに紛れるおそれはない。したがって、本件商標と引用商標は、観念上類似する商標ということはできない。
エ 以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼及び観念のいずれの点についても、相紛れるおそれのない別異の商標というべきものである。
(4)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号について
上記1のとおり、引用商標が請求人商品を表示するものとして、我が国のコーヒー関連の分野の取引者、需要者間に広く認識されているとしても、上記2のとおり、本件商標は、引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれの点についても、相紛れるおそれのない別異の商標というべきものである。
してみると、本件商標に接する取引者、需要者が、引用商標を想起又は連想することはないというべきであるから、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用しても、該商品及び役務が請求人又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのように、商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(引用商標2及び引用商標4)





審理終結日 2015-02-23 
結審通知日 2015-02-25 
審決日 2015-05-12 
出願番号 商願2012-5192(T2012-5192) 
審決分類 T 1 11・ 261- Y (W30)
T 1 11・ 262- Y (W30)
T 1 11・ 271- Y (W30)
T 1 11・ 263- Y (W30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨澤 美加 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 2012-07-06 
登録番号 商標登録第5506246号(T5506246) 
商標の称呼 ダブルネルプレッソ、ダブル、ネルプレッソ 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 森川 邦子 
代理人 工藤 莞司 
代理人 小暮 君平 
代理人 特許業務法人R&C 

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