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審決分類 |
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X304143 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X304143 審判 全部無効 観念類似 無効としない X304143 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X304143 審判 全部無効 外観類似 無効としない X304143 |
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管理番号 | 1305099 |
審判番号 | 無効2014-680003 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-06-02 |
確定日 | 2015-06-09 |
事件の表示 | 上記当事者間の国際登録第1075714号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件国際登録第1075714号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおり「KRISPY KROST」の欧文字(「O」の文字にはウムラウト記号が付されている。以下同じ。)の構成からなり、2011年3月3日にSwitzerlandにおいてした商標登録出願に基づきパリ条約第4条による優先権を主張して、同年(平成23年)3月15日に国際商標登録出願、第30類「Flours and cereal preparations;cereal-based cooked dishes;bread,pastry and confectionery;upside-down tart,spices.」、第41類「Cooks’ education;organizing and carrying out events in the field of culinary art;training;education in general;entertainment;sporting activities;organization of exhibitions for cultural or educational purposes;reference libraries of literature and documentary records;art exhibitions;gardens for public admission;publications and electronic publications in the field of culinary art.」及び第43類「Services for providing food;services provided by restaurants,bars and snack bars.」を指定商品及び指定役務として、平成24年3月27日に登録査定、同年5月18日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 本件審判請求人(以下「請求人」という。)が、引用する登録商標は、次のとおりであり、その商標権はいずれも現に有効に存続しているものである。 (1)登録第3251560号商標(以下「引用商標1」という。)は、「KRISPY KREME」の欧文字を横書きしてなり、平成5年10月21日に登録出願、第30類「ドーナツ,パイ(洋菓子),パン」を指定商品として、同9年1月31日に設定登録されたものである。 (2)登録第4521347号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、平成13年2月9日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同年11月9日に設定登録されたものである。 (3)登録第4675844号商標(以下「引用商標3」という。)は、「KRISPY KREME」の欧文字を標準文字で表してなり、平成13年8月30日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,菓子及びパン,即席菓子のもと」及び第42類「コーヒ・ココア・菓子・パン・清涼飲料・果実飲料を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同15年5月23日に設定登録されたものである。 (4)登録第4675845号商標(以下「引用商標4」という。)は、別掲(3)のとおりの構成からなり、平成13年8月30日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,コーヒー豆,茶,菓子及びパン,即席菓子のもと」及び第42類「コーヒー・ココア・菓子・パン・清涼飲料・果実飲料を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同15年5月23日に設定登録されたものである。 (5)登録第4675846号商標(以下「引用商標5」という。)は、別掲(4)のとおりの構成からなり、平成13年8月30日に登録出願、第30類「ドーナツ,ドーナツのもと」及び第42類「コーヒー・ココア・菓子・パン・清涼飲料・果実飲料を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同15年5月23日に設定登録されたものである。 (6)登録第4675908号商標(以下「引用商標6」という。)は、別掲(2)のとおりの構成からなり、平成14年8月9日に登録出願、第21類「マグカップ,コーヒーカップ,その他の食器類(貴金属製のものを除く。)」、第25類「スウェットシャツ,ティーシャツ,帽子,その他の被服」及び第43類「ドーナツ・パイ・ケーキ・バンズ・ベーグル・練り粉菓子・コーヒー・ココア・清涼飲料・果実飲料を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同15年5月23日に設定登録されたものである。 (7)登録第4820593号商標(以下「引用商標7」という。)は、別掲(5)のとおりの構成からなり、平成13年11月8日に登録出願、第30類「ドーナツ,バンズ,その他の菓子及びパン,ドーナツのもと,その他の即席菓子のもと」及び第42類「コーヒー及びココア・ドーナツ・その他の菓子及びパン・清涼飲料・果実飲料を主とする飲食物の提供,その他の飲食物の提供」を指定商品及び指定役務として、同16年11月26日に設定登録されたものである。 以下、これらを一括して「引用商標」という。 第3 請求人の主張 1 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第26号証を提出した。 2 無効の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第46条第1項によって、その登録は無効とされるべきである。 (1)商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、引用商標に類似する商標であって、外観・称呼・観念において極めて紛らわしく、両商標は類似商標であり、また、その指定商品・役務も同一又は類似のものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (2)商標法第4条第1項第15号について 引用商標を構成する、「KRISPY KREME」商標は、請求人の国際的な著名商標であるので、これに類似する本件商標は、請求人の業務に係る商品又は役務と混同を生じさせるおそれがあるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第19号について 本件商標は、引用商標を構成する「KRISPY KREME」と類似するものであり、「KRISPY KREME」商標の持つ識別力・表示力・顧客吸引力にただ乗りするものであって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。 3 利害関係について 請求人である「エイチ ディー エヌ ディペロップメント コーポレーション」は、ドーナツの製造・販売会社として周知著名な「クリスピー・クリーム・ドーナツ・コーポレイション(Krispy Kreme Doughnut Corporation)」(以下「KKD」という。)の子会社であり、引用商標をはじめとするKKDに関する商標を所有・管理している。 したがって、請求人が、本件審判請求について利害関係を有することは明らかである。 4 具体的理由 (1)請求人商標の著名性 ア 引用商標として登録されている請求人の商標「KRISPY KREME」「Krispy Kreme」(以下、これらをまとめていうときは、「請求人商標」という。)は、KKDが展開するドーナツ店およびその商品の名称として大々的に使用され、我が国にも多数の店舗があり、需要者・消費者の間で広く知られている(甲10及び甲11)。 イ KKDの日本法人「クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社」のウェブサイトに示すとおり、KKDが経営する「KRISPY KREME(Krispy Kreme)」のドーナツ店は、2013年12月時点において世界中で約810店舗も展開されており(甲11)、請求人商標が世界的に周知・著名であることは明らかである。 ウ KKDの「KRISPY KREME」ドーナツは、絶大な人気を誇り、現在日本においては14都府県54の店舗(催事店舗を含む)で製造・販売されている。 エ 「KRISPY KREME」ドーナツは、1937年に米国ノースカロライナ州ウィンストン・セーラムで創業され、1960年頃には、「KRISPY KREME」ドーナツは、アメリカ南東部で広く知られるようになった。2001年12月には海外初の店舗をカナダのトロントに開店し、その後、メキシコ、イギリス、オーストラリア、韓国、インドネシア、クウェート、フィリピンへの出店に続き、2006年6月にクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンが設立され、同年12月に日本第1号店が東京都渋谷区の新宿サザンテラスにオープンした際は、長蛇の行列ができるドーナツ店として話題を呼び、そのドーナツの商標である引用商標は、ほぼ開店と同時期よりわが国においても周知著名になっている(甲10ないし甲12)。 オ 以上のとおり、本件商標の出願日以前から、請求人商標は、KKDの商品およびサービスにかかる商標として、継続的に使用されてきた結果、本件商標の出願日の時点ですでに日本国内において需要者に広く知られ、請求人商標が付された商品、及び該商標のもとで提供される役務がKKDの業務に係る商品・役務であることは需要者に十分認識されていたことが明らかである。 カ 請求人商標は、インターネットでキーワード検索すると、約2,160,000件もヒットし(甲13)、「クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社」のFacebookでは、投稿があるたびに多くの消費者からコメントを受けており(甲14)、「クリスピー・クリーム・ドーナツ」に関する消費者のコメント、情報記事は枚挙にいとまがない程多数存在する(甲15ないし甲22)。つまり、インターネット上で多くとりあげられているという事実は、請求人商標が著名であるということにほかならない。 キ 請求人商標は、その由来がナゾであるが、極めてユニークな綴りであり(一般に誰もが想到するような商標ではない)、そのことに多くの消費者が強い関心を寄せており、この事実自体も「KRISPY KREME(krispy Kreme)」のユニークさと著名性の故であり、同商標が著名となっていることに疑問の余地はない。 (2)商標法第4条第1項第11号について ア 外観について 本件商標は、前記第1のとおり「KRISPY KROST」の文字を横書きしてしてなるのに対し、引用商標は、横書きの「KRISPY KREME(krispy Kreme)」の文字を主たる構成要素とする。 両商標は、全11文字中「KRISPY KR」の8文字を共通にし、共通する8文字は、需要者・消費者の注意を集める前半部分の単語「KRISPY」及び後半部分の語頭「KR」であることもあわせて考慮すると、本件商標は、外観上、引用商標と似かよった印象を与える紛らわしい商標である。 加えて、「KRISPY」の文字は、既存の単語にはない極めてユニークな綴りであって、KKDの商標として長年使用されてきた「KRISPY KREME(krispy Kreme)」の「KRISPY」と完全に同一であることから、本件の指定商品・役務の需要者・消費者は、請求人商標の著名性から「KRISPY」の文字が付された商品・役務は請求人の商標であると理解する傾向が一層強いといえ、この点からも、「KRISPY KR」の文字を共通にする本件商標は、外観上、引用商標ときわめて紛らわしい類似の商標である。 イ 称呼について 本件商標から生じる称呼「クリスピークロスト」及び「クリスピークレスト」と引用商標から生じる称呼「クリスピークリーム」及び「クリスピークレメ」とは、商標の識別において最も影響の大きい語頭部を含む「クリスピーク」の部分(文字数にして約7割の部分)において全く同一である。そして、両商標が時と処を異にして行う離隔的観察の手法にしたがい、曖昧な記憶に基づき称呼され又はこれを聞いたとしたならば、両商標が称呼上の混同を生じることは必至というべきであるから、両商標は、称呼上も類似することが明らかである。 ウ 観念について 引用商標は、前半の「KRISPY(Krispy)」及び後半の「KREME(Kreme)」ともに、英和辞典には掲載されていない言葉であり、具体的な意味は不明である。しかしながら、「KRISPY KREME(Krispy Kreme)」商標は、KKDの商品・役務を示す商標として我が国において著名となっているから、引用商標に接する需要者・消費者は、「KRISPY KREME(Krispy Kreme)」の文字から直ちにKKD又はKKDの商品を想起する。 これに対し、本件商標は、前半の「KRISPY」及び後半の「KROST」とともに、英和辞典にはない言葉であり、具体的な意味は不明である。 しかしながら、「KRISPY」は、我が国においては具体的な意味を有しない新規な言葉と解され、KKDは、これまで「KRISPY KREME(Krispy Kreme)」商標を広く使用してきたこと、引用商標がKKD又はKKDの商品・役務を想起させることからすれば、「KRISPY KR」の文字を同じくする本件商標からは、KKD又はその関係者を想起させるものといえる。 したがって、本件商標と引用商標は共通する観念を有し、それぞれの商標に接する需要者は、本件商標と引用商標とを観念上も混同するおそれがきわめて大きく、本件商標は、観念においても引用商標と類似する。 エ 取引の実情 上記(1)のとおり、請求人商標は世界的に著名なものであり、著名であることによって、その商標は需要者に強い連想作用を及ぼすことが明らかである。また、共通する前半の単語「KRISPY」については、KKDが最初に採用した新規かつユニークな言葉であって、長年KKDのみが用いてきた独特な綴りからなる造語であること、KKDによる使用によって、「KRISPY」の綴りは、KKDの店舗・商品名の一部として周知著名となっていること、この名前の由来に疑問や興味を抱く消費者も多いこと等から、これと同一の「KRISPY」を構成要素に含む本件商標は、請求人商標と混同を生じさせることは明らかである。 さらに、本件商標の指定商品・役務は、請求人商標が使用され著名性を獲得しているドーナツ及びそれに密接に関連するものである。 そして、「KRISPY KREME」が著名であるところ、造語であるその前半部「KRISPY」のみならず、同じく造語である後半部「KREME」の冒頭部分まで共通する本件商標が、その指定商品・役務について使用されれば、「KRISPY KREME」への連想が生じるのは必至であり、前述の外観・称呼・観念における共通性も相侯って、本件商標が「KRISPY KREME」と混同を生じさせるおそれのある、類似するものであることには疑いの余地はない。 オ まとめ よって、本件商標は、引用商標と外観、称呼及び観念のいずれにおいても共通し、取引の実情を考慮すれば特にその混同可能性は明白であるから、両商標が類似することに疑いはなく、かつ、本件商標の指定商品・役務は、引用商標の指定商品・役務と抵触している。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号について 上記(1)のとおり、請求人の商標「KRISPY KREME」は、KKDのハウスマークであって、わが国はもとより、世界的な著名性を獲得している。特に、その前半部分の「KRISPY」は特徴的な綴りの造語であって、「KRISPY KREME」が著名となっている今日、「KRISPY」の文字に接する需要者・消費者が、これをKKD又はKKD商品・役務と関連づけて、認識することは明らかである。 また、上記(2)のとおり、本件商標は、引用商標と外観、称呼及び観念においても共通性が高い。 加えて、請求人の「KRISPY KREME」商標が特に著名な商品「菓子」(ドーナツを含む。)の分野においては、その主たる購入者(消費者)は、女性や中高生と考えられるところ、これら一般消費者は、商品に付された商標に細心の注意を払うことはなく、これを必ずしも正確に記憶するとはいえず、KKDの商品に接する一般消費者は、商標の構成中、語頭に位置し、特徴的な綴りからなる「KRISPY」の文字を頼りに、商品を選択・購入することが少なくないと考えられるから、「KRISPY」の文字を構成要素とする本件商標と請求人を結びつけて何等かの関係があると認識するおそれがあることは明らかである。 以上のとおり、本件商標が、その指定商品・役務について使用された場合には、その商品・役務は、KKD又は関連する企業の商品・役務と誤認されるおそれがあることは明らかである。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれのある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。 (4)商標法第4条第1項第19号について ア 「KRISPY KREME」商標の著名性 上記(1)のとおり、引用商標がKKDの業務に係る商品・役務を表示するものとして日本国内において需要者の間に広く認識されていることは明らかである。 イ 本件商標と引用商標の類似性 上記(2)とおり、本件商標が請求人の著名商標「KRISPY KREME」に類似することは明らかである。 ウ 不正の目的 請求人の「KRISPY KREME」商標は造語であるところ、請求人の著名商標の一部である「KRISPY」の文字を、とくにその著名性に直接関連する商品・役務である「菓子」、「飲食物の提供」等の商標として採用しなければならない必然性は全くなく、被請求人は、請求人の著名商標に依拠する意図をもって本件商標を採択し登録出願したものと推認せざるを得ない。 また、請求人商標が著名であって、極めて大きな顧客吸引力を有する事実を考慮すれば、本件商標は、請求人商標のもつその顧客吸引力・名声へのただ乗りによって不正の利益を得る目的を有するか、請求人商標の有する強い識別力・表示力・顧客吸引力を希釈化することによって請求人に損害を加える目的を有するかの不正の目的をもって使用するものと解さざるを得ないものである。 すなわち、被請求人が、本件商標を付しドーナツを含む菓子等を販売したとすれば、顧客がKKDを表示する著名な「KRISPY」の表示に誘引されることは明らかであり、上記のような商品に関しては、請求人の引用商標のもつ顧客吸引力にただ乗り等することを意図して本件商標を出願・登録したものと解されるから、被請求人は、本件商標の使用にあたり、商標法第4条第1項第19号所定の「不正の目的」を有していたものである。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するものである。 5 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は、同法第46条第1項の規定により、無効とされるべきものである。 第4 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第34号証を提出した。 1 商標法第4条第1項第11号について (1)外観について 本件商標は、シンプルな書体の欧文字で「KRISPY KROST」と書した商標であり、本件商標と引用商標は、前半の欧文字「KRISPY」と後半の欧文字二文字「KR」が共通しているが、本件商標を構成する後半部分「KROST」においては、「KR」の直後に続く「O」はドイツ語等で使用するウムラウトを付した文字であり、通常の欧文字に比べて我が国において慣れ親しまれていないため、需要者が本件商標に接した際にはこのウムラウトの存在が自然と記憶に残るものと考えられる。 本件商標と引用商標の構成文字の一部が共通していたとしても、本件商標におけるウムラウトの存在や引用商標の特徴的な外観から、本件商標と引用商標は、全体の外観において需要者において混同も生じない、非類似の商標であることが明らかである。 (2)称呼について 本件商標は、日本人の平均的な英語力及びローマ字読みの知識から「クリスピークロスト」と称呼される。 本件商標の称呼は、長音を含めて全体で9音と格段冗長ではなく、引用商標から生じる「クリスピークリーム」の称呼と比較しても、「クリスピークリーム」が長音を前半と後半の二ヵ所に含み、本件商標とは発音した際の語調、語感が全く異なり、本件商標は長音が前半の一ケ所のみであるため、後半が短く詰まった印象の称呼であるのに対し、引用商標の「クリスピークリーム」の称呼は、後半にかけても長音があり、全体として最後まで伸びやかな称呼となっている。また、引用商標5から生じる「クリスピークリームドーナツ」も、まとまり良く一連一体で発音でき、本件商標から生じる称呼とは明確に聴別し得る。したがって、本件商標と引用商標は称呼においても非類似の商標である。 また、請求人は、本件商標に対して異議申立も行っており、当該申立に対しては、登録維持の決定がされており、本件商標と引用商標の称呼に関しても、非類似の商標であるとされているから、本件商標と引用商標は称呼において非類似の商標であることが明らかである。 (3)観念について ア 本件商標及び引用商標に共通して含まれる「Krispy」の文字は、英語で「カリカリした、サクサクした」等の意味を有する単語「crispy」の一文字目をわざと「k」に変更した造語であり、もとの英単語「crispy」はその意味とともに我が国において広く一般的に使用され、外来語化しているため、カタカナ語辞典にも掲載されている(乙2)。したがって、「krispy」が造語であっても、英単語「crispy」が我が国において、様々な食品に広く一般的に使用されている語であることから、一文字目を変更していても、需要者の平均的な知識から、「カリカリした、サクサクした」という意味は平易に導き出すことができ、このことは、特に食品分野における様々な「クリスピー」の語を含む多数の商品名の存在(乙3ないし乙9)からも明らかであり、「クリスピー」という言葉が見慣れた言葉であることから、需要者は自然と「クリスピー」という言葉の後に続く言葉に注目することになる。 イ 本件商標の後半部分「KROST」は、辞書に存在する英単語ではない上、日本人にとって通常の欧文字に比べて見慣れないウムラウトが含まれ、一義的に特定の観念を特定し得ない造語と認識されるが、「(ピザの)クラスト」や「パイ皮」の意味を有する「crust」という英単語は広く一般的に認識されており(乙10)、「KROST」は当該単語と似た綴りであり、これが「crispy(クリスピー)」という単語の後に続いていることから、「(ピザの)クラスト」や「パイ皮」の意味が想起されることも考えられる。実際、本件商標は「クリスピーな(カリカリした)クラスト」という意味で採択された商標である。したがって、本件商標からは「カリカリした何か」又は「カリカリしたクラスト」との観念が生じる。 これに対し、引用商標は、「krispy」の後に「kreme」という言葉が続く構成となっており、「kreme」も英単語「creme」の一文字目を「k」に変更した造語である。当該英単語も、既に外来語化され、「クリーム」という言葉が広く一般的に使用されていることから、引用商標の「Krispy Kreme」の文字からは、「クリスピーなクリーム」や「クリスピーでクリーム状の」等の観念が自然と生じる。 ウ 請求人が主張するとおり、ドーナツの製造・販売会社KKDの販売するドーナツが我が国において著名であることから、引用商標の全体からはKKD及びKKDの商品が想起される。 エ 欧文字「c」から始まる英単語の「c」を「k」に変更した造語は、KKD以外でも広く用いられているのが実情であり、インターネット上で「kripsy」という言葉を検索すると、これが造語であるにも関わらず、「kripsy ○○」という組み合わせが多数検索されることからも明らかである(乙12ないし乙19)。また、当該造語は主に食品分野で頻繁に使用されており、「kripsy」以外にも、同様に「c」で始まる英単語の「c」を「k」に変更した造語から成る商標は、他の英単語に関しても存在し(乙20及び乙21)、食品の分野及びその他の分野において、同じ手法の造語から成る商標が多数登録されていることから(乙22ないし乙31)、英単語の「c」を「k」に変更した造語から成る商標が、我が国において広く一般的に普及していることが伺える。このような状況の中で、本件商標が「krispy」という造語を含むという理由から、KKD又はその関係者を想起させるものとは考えられない。本件商標が、英単語の「c」を「k」に変更するという手法において引用商標と共通していたとしても、本件商標はまとまり良く一連一体で把握できる態様で「KRISPY KROST」と書して成り、「KROST」の「O」があまり見慣れない特徴であることから、引用商標と共通する前半の造語「KRISPY」よりも後半に「O」が含まれることによるヨーロッパ言語のイメージの方が特徴として自然と記憶に残るものといえる。 オ 引用商標の我が国における著名性を考慮した場合、ドーナツ等のいわゆる「スイーツ」に関する取引実情としては、テレビやインターネット等の情報通信が発達し、それらを媒介として多くの情報が発信され、需要者にとって溢れるほど情報があるのが実情である。スイーツに特段興味が無くても、KKDほど著名であれば、テレビで紹介された時の報道を目にしたり、街で店舗に行列が出来ているのを目にしたり、職場で話題になっているのを聞く等して、その商品が多くの人に認識されている。また、日本における1号店のオープンが大変話題となったことから、KKDがアメリカのドーナツブランドであることも我が国で広く知られており、そのような状況において、需要者が本件商標に接した際には、「KROST」の「O」の存在により本件商標がヨーロッパにルーツがあるとの印象が残ることや、造語「KRISPY」が他の食品等にも使われがちでそれ自体はさほど特徴的ではないことから、本件商標からKKDないしその関係者を想起させることは考えられない。 カ したがって、本件商標は、引用商標の著名性も起因して、需要者は観念上明確に両商標を区別できるから、観念において非類似である。 (4)全体の非類似性 以上のとおり、本件商標と引用商標は、外観、称呼、観念の判断要素を総合的に考察した結果、全体として混同の生じない非類似の商標である。 2 商標法第4条第1項第15号について 引用商標が一連一体の商標全体として著名であることにより、その構成全体から直ちにKKDが想起される。また、KKDのブランド名「クリスピークリームドーナツ」はその一連一体の称呼自体、広く日本の需要者に認識されており、多くの需要者においてこれが「アメリカから日本に進出して来た人気のドーナツ」であることを知っている。 したがって、「KRISPY」という特徴的な綴りの造語を含むことが引用商標の一つの特徴であることは確かであるものの、その特徴が引用商標の出所表示機能に与える影響を過大評価するのは妥当ではない。 実際の取引の実情としては、KKDような外国から進出して来る「菓子」等いわゆる「スイーツ」に関しては、実際にKKDでもそうであったとおり、1号店の進出前後に多くの報道がなされ、オープン直後から長蛇の列ができ、巷で話題になること等が多い。そのような現象は多くの海外から進出して来たアイスクリーム、パンケーキ、ポップコーン等の「スイーツ」に共通している。このような取引実情において、消費者は、シンプルな書体で「KRISPY KROST」と書した構成の本件商標に接した際、単に「KRISPY」の文字を含むという理由のみから、商品の出所をKKD及びその関係者と誤認することは考えられない。たとえ、「KRISPY」という文字に見覚えがあったとしても、本件商標は、それに続く言葉が日本において珍しいウムラウトを含む「KROST」であるという全体の構成からヨーロッパ言語のイメージが生じ、ヨーロッパにルーツがある商標との印象を与え、商品の出所をアメリカの著名ブランドとして知られるKKDと混同することは到底考えられない。実際に、被請求人が本件商標を使用する商品は、我が国でまだあまり知られていない、「タルトフランベ」というピザに似た商品である(乙32)。このように、商品自体が日本の需要者にとって新しく、本件商標からヨーロッパにルーツがあるとの印象が生じることから、被請求人が本件商標を使用する際に、混同が生じる可能性は無い。 したがって、引用商標が著名であることは確かであるものの、実際の消費者の記憶及び「スイーツ」等食品分野の取引の実情を検討すると、本件商標と請求人とを結びつけて何等かの関係があると認識するおそれがあるとの主張は行き過ぎた主張であり、著しく妥当性に欠ける。 また、請求人の本件商標に対する異議申立の維持決定においても、引用商標の著名性を認めた上で、本件商標と引用商標とは、何ら相紛れるところのない非類似の商標であって、商品の出所について混同を生ずるおそれはない旨認定されている(乙1)。 以上のことから、本件商標は、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標ではなく、商標法第4条第1項第15号に該当しないものである。 3 商標法第4条第1項第19号について 上記1のとおり、本件商標が引用商標と非類似であることは明らかである。 被請求人の本件商標の使用態様を検討すると、被請求人のブランド「クリスピークロスト」は、請求人のブランドと、商標を使用している商品に加え、発祥国、ブランドコンセプト、事業規模等が全て異なっている。請求人の商品はふっくらと焼いた甘いドーナツであり、正統派なアメリカのスイーツと言ったイメージのブランドであり、これに対し、被請求人が本件商標を使用している「クリスピークロスト」は、そのウェブサイトにも「ハンバーガー等に飽きた都会で生活する人々のため」等と記載されており、ヘルシー志向の需要者をターゲットにしている(乙33)。 以上のとおり、被請求人のブランドは、請求人のブランドとは造語「krispy」及び欧文字二文字「kr」が共通すること以外の共通点は見当たらず、請求人の主張する不正の目的を有するものとは到底言えない。 したがって、本件商標は、不正の意図をもって出願された商標ではなく、商標法第4条第1項第19号に該当しないものである。 4 結論 以上述べたとおり、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものではないことは明白である。 第5 当審の判断 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 本件商標は、別掲(1)のとおり、「KRISPY KROST」の欧文字よりなるものであるところ、その構成文字全体に相応して「クリスピークロスト」の称呼を生じるというのが自然である。また、「KRISPY」及び「KROST」の各文字が辞書等に掲載の見受けられないものであることから、「KRISPY KROST」は、一種の造語と認められ、特定の観念を生じないものである。 (2)引用商標 引用商標1及び引用商標3は、「KRISPY KREME」の欧文字からなるものであるところ、その構成文字全体に相応して「クリスピークリーム」の称呼を生じるものであり、また、「KRISPY」及び「KREME」の各文字が辞書等に掲載の見受けられないものであることから、「KRISPY KREME」は、一種の造語と認められ、特定の観念を生じないものである。 引用商標2及び引用商標6は、別掲(2)のとおり、上部の線が両端から中央に向かって傾斜し、上部が広く底部の辺が下から4分の1程度黒く塗りつぶされた台形図形の中に、デザイン化した「Krispy Kreme」の欧文字を有してなるものであるから、構成中の「Krispy Kreme」の文字部分から、引用商標1及び引用商標3と同様に「クリスピークリーム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 引用商標4は、別掲(3)のとおり、デザイン化した「Krispy Kreme」の欧文字よりなるものであるから、引用商標1及び引用商標3と同様に「クリスピークリーム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 引用商標5は、別掲(4)のとおり、上部の線が両端から中央に向かって傾斜し、上部が広く底部の辺が下から4分の1程度黒く塗りつぶされた台形図形の中に、デザイン化した「Krispy Kreme」の欧文字を書し、白抜きの「DOUGHNUTS」の文字を、黒く塗りつぶされた底辺部の中に配してなるものであるところ、その構成中の「DOUGHNUTS」の文字は、「ドーナツ」を意味する英語である。そして、引用商標5は、その構成文字全体として、「クリスピークリームドーナツ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものであり、また、構成中の「DOUGHNUTS」の文字が、その指定商品又は指定役務との関係において、自他商品又は役務の識別標識として機能しない部分であるから、「Krispy Kreme」の欧文字より、引用商標1及び引用商標3と同様に「クリスピークリーム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 引用商標7は、別掲(5)のとおり、内側に小さな円を、外側に大きな円を配し、その中央部にデザイン化した「Krispy Kreme」及びその下部に「ORIGINAL GLAZED」の欧文字を、また、円形図形の上部及び下部に「HOT」及び「NOW」の欧文字を有してなるものであるから、その構成文字に相応し、「クリスピークリームオリジナルグレイズド」及び「ホットナウ」の称呼を生じ、その全体として、特定の観念を生じないものである。また、構成中の「ORIGINAL GLAZED」の文字部分は、「glaze」の文字が「食物に着せる透明質の衣材料、(特に)砂糖シロップ、ゼラチン」(小学館ランダムハウス英和大事典)の意味を有する語であることから、全体として「独特の(シロップ等で)つやを出しをしたもの」程の意味合いを想起させるものであり、その指定商品又は指定役務との関係において、自他商品又は役務の識別標識としての機能が強いとはいえないものである。そうすると、引用商標7は、中央に顕著に表された「Krispy Kreme」の文字部分のみをもって取引に資する場合も少なくないといえるから、当該文字部分から、引用商標1及び引用商標3と同様に「クリスピークリーム」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。 そこで本件商標と引用商標の類否について検討するに、上記構成からなる本件商標と引用商標は、外観において判然と区別し得る差異を有するものであり、相紛れるおそれはないものである。 また、本件商標から生じる「クリスピークロスト」の称呼と引用商標から生じる「クリスピークリーム」の称呼を比較すると、「クリスピーク」の音が共通であるとしても、「ロスト」と「リーム」の3音に明瞭な差異を有するから、十分に聴別し得るものである。 次に、本件商標から生じる「クリスピークロスト」の称呼と引用商標5から生じる「クリスピークリームドーナツ」の称呼を比較すると、両者は、その構成音数及び音構成において顕著な差異を有するから、互いに相紛れるおそれのないものである。 そして、本件商標から生じる「クリスピークロスト」の称呼と引用商標7から生じる「クリスピークリームオリジナルグレイズド」及び「ホットナウ」の称呼を比較すると、両者は、その構成音数及び音構成において顕著な差異を有するから、互いに相紛れるおそれのないものである。 さらに、観念においては、本件商標及び引用商標は特定の観念が生じないから、比較することができない。 してみれば、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれの点からみても、相紛れるおそれがない非類似の商標ということができる。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するということはできないものである。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について 申立人の親会社であるKDDは、アメリカ合衆国で1937年に創業したドーナツ製造・販売会社であり、全世界でチェーン店を展開し(甲10ないし甲12、甲16、甲17、甲19等)、我が国においても2006年6月にクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社が設立され、同年12月に日本第1号店が東京都渋谷区の新宿サザンテラスにオープンし、行列ができる程の人気であったこと(甲15及び甲16)、その後、日本国内において広く店舗を展開していること(甲10)及び該店舗の看板、インターネットのウェブサイト並びに商品の包装用容器に引用商標5が使用されていること(甲10ないし甲12、甲14、甲17、甲20、甲21及び甲26)などから、引用商標5が請求人の商品「ドーナツ」に使用され、本件商標の国際商標登録出願時及び登録査定時において、我が国においてある程度の周知性を有していたことは認めることができる。 しかしながら、本件商標は、上記1のとおり、引用商標5とは非類似の商標であって、十分に区別し得る別異の商標というべきものであるから、これをその指定商品及び指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者をして、引用商標5を連想又は想起させるとはいえないものであり、申立人又は申立人と経済的、組織的に何らかの関係にある者の業務に係る商品であるかのごとく、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるとはいえないものである。 また、ほかに、本件商標を、その指定商品及び指定役務に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、申立人又は申立人と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのごとく、その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるとすべき理由を見いだすことはできない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するとはいえないものである。 3 商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標と引用商標とが互いに紛れるおそれのない非類似の商標であることは、上記1のとおりであり、加えて、請求人の提出に係る証拠のいずれをみても、被請求人が不正の利益を得る又は他人の著名商標に蓄積された顧客吸引力を希釈化する等の不正の目的をもって本件商標を使用すると認めるに足る事実は見いだすことができない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当するとはいえないものである。 4 むすび 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとは認められないから、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
【別記】 |
審理終結日 | 2014-12-24 |
結審通知日 | 2015-01-05 |
審決日 | 2015-02-03 |
審決分類 |
T
1
11・
271-
Y
(X304143)
T 1 11・ 261- Y (X304143) T 1 11・ 263- Y (X304143) T 1 11・ 262- Y (X304143) T 1 11・ 222- Y (X304143) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 八木橋 正雄 |
特許庁審判長 |
土井 敬子 |
特許庁審判官 |
原田 信彦 中束 としえ |
登録日 | 2011-03-15 |
商標の称呼 | クリスピークレスト、クリスピークロスト |
代理人 | 大島 厚 |
代理人 | 小暮 理恵子 |
代理人 | 柴田 泰子 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |