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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y25
管理番号 1305050 
審判番号 取消2013-300563 
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-07-04 
確定日 2015-07-21 
事件の表示 上記当事者間の登録第4972344号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4972344号商標の指定商品中、第25類「作業服,水に濡らし首に巻いて使用するネッククーラー,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4972344(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成17年8月29日に登録出願され、第1類、第2類、第3類、第6類、第7類、第8類、第9類、第17類、第19類、第20類、第21類、第22類及び第25類に属する商標登録原簿に記載の商品を指定商品として、同18年7月21日に設定登録され、その後、第6類、第7類及び第20類の指定商品については、放棄により登録が抹消されているものである。

第2 本件審判及びその手続の経緯等
1 本件審判は、商標法第50条第1項により、本件商標の指定商品中、商品区分、第25類「作業服,水に濡らし首に巻いて使用するネッククーラー,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」について、商標登録の取消しを請求するものであり、平成25年7月4日に請求され、その予告登録が同年7月24日にされているものである。

2 本件審判の手続の経緯(証拠により認められる争いのない事実を含む。)
平成17年 8月29日 本件商標登録出願
同18年 7月21日 本件商標設定登録
同25年 7月 4日 本件審判請求(甲1、甲2を提出)
同25年 9月12日 被請求人審判事件答弁書提出(乙1ないし乙5を提出)
同25年11月19日 請求人審判事件弁駁書提出(甲3ないし甲8を提出)
同26年 1月29日 当審による審理事項通知
同26年 2月24日 被請求人上申書提出
同26年 2月24日 被請求人審判事件答弁書(2)提出
同26年 3月12日 請求人口頭審理陳述要領書提出
同26年 3月26日 口頭審理期日(被請求人不出頭)

請求人は、審判請求の趣旨及び理由について、審判請求書、審判事件弁駁書及び口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述、乙第1号証ないし乙第5号証の成立を認めると陳述し、これが、第1回口頭審理調書に記載された。

3 当審における審理事項通知書について
審判長は、平成26年3月26日に行う口頭審理における審理事項について以下の主旨の通知を行った。
(1)被請求人提出に係る乙各号証に関する暫定的見解
被請求人は、本件商標を商品「ジャンパー,半袖シャツ」に使用している旨主張しているところ、提出された乙各号証からは、被請求人(商標権者)の注文により通常使用権者である株式会社マエカワユニフォーム(以下「マエカワユニフォーム」という。)が、前記商品を被請求人に納品したことは伺えますが、これのみからでは、通常使用権者が本件商標を上記商品に使用しているものとは認められない。
したがって、提出された乙各号証によっては、本件審判の請求に係る商品のいずれかについての本件商標の使用をしていることを被請求人が証明したと認めることはできない。
(2)口頭審理陳述要領書
ア 被請求人
(ア)被請求人は、上記(1)の暫定的な見解及び請求人の弁駁書の主張について意見があれば述べられたい。
(イ)被請求人は、以下の事項について説明等をされたい。
A 商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」の商標権者以外の者への販売事実について
通常使用権者が商標権者以外の者へ販売した事実又は商標権者が販売した事実を証明する取引書類等があれば、提出されたい。
B 織りネームについて
被請求人が、通常使用権者が取り扱う商品の写真であると主張する乙第2号証及び乙第3号証の襟裏部分には、織りネームが付されているところ、通常、織りネームには、当該商品の商標が表示されるものであるが、ここに本件商標が表示されていない理由を説明されたい。
C 乙第4号証及び乙第5号証の納品書における記載事項について
乙第4号証及び乙第5号証に添付されている納品書中の「商品名」欄にある「ネーム」とはどのようなものをいうのか、また、その「単価」欄及び「金額」欄が空白となっている理由を説明されたい。
D その他提出された乙各号証以外に、商標法第50条第2項に規定する本件商標の使用を立証する証拠があれば提出されたい。
イ 請求人
請求人は、上記(1)の暫定的な見解及び被請求人提出の口頭審理陳述要領書について意見があれば述べられたい。
(3)口頭審理における審理事項
ア 上記(1)の暫定的な見解について
イ 被請求人から新たな証拠が提出された場合、その証拠について

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁及び口頭審理期日における陳述において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その第25類指定商品中「作業服,水に濡らし首に巻いて使用するネッククーラー,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。

2 答弁に対する弁駁
被請求人の答弁に対して、以下弁駁する。
答弁書における被請求人の主張によると、被請求人はマエカワユニフォームに対して、商品「作業服、その他の被服」について本件商標の使用を許諾し(乙1)、マエカワユニフォームは本件商標と社会通念上同一の商標と認められる「WAKAI」をその左胸に付した「ジャンパー」(乙2)及び「半袖シャツ」(乙3)を継続的に販売していたとし、これを証する書面として2012年11月30日付けの納品書(乙4)及び2013年5月13日付けの納品書(乙5)を差し出した。
まず、被請求人がマエカワユニフォームに対して商品「作業服、その他の被服」について本件商標の使用を許諾していることは認める。
また、確かに、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツの左胸には本件商標と社会通念上同一の商標であると認められる「WAKAI」が付されている。
しかしながら、第一に、乙第2号証及び乙第3号証に示された「WAKAI」は商品「作業服、その他の被服」についての商標であると認めることはできない。マエカワユニフォームは「食品工場向け白衣専業メーカー・企業向けユニフォーム企画販売」を主たる業務内容とするものであるところ(甲3)、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツも作業服又はユニフォームであると推測される。そして、通常作業服及びユニフォームについては、作業服及びユニフォーム販売業者は発注を受けた作業服に、発注者の依頼に基づき、有料又は無料にてネーム刺繍を行うのが常であり(甲4ないし甲8)、その位置は作業服の左胸であることが多い(甲4、甲5、甲7)。
そうとすると、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツの左胸に付された「WAKAI」は、同商品の発注者であり本件商標の商標権者でもある若井産業株式会社の略称を同ジャンパー及び半袖シャツに刺繍したにすぎないものであり、商品「作業服、その他の被服」の出所表示ではないことは明白である。さらに付け加えるならば、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツの出所表示というべきは、同商品の織ネーム上の標章であるが、この織ネームへの本件商標の使用は示されていない。
第二に、被請求人は、半袖シャツが継続的に販売されている旨主張する。しかしながら、乙第4号証及び乙第5号証に示された納品書には本件商標の記載がいずこにもなく、果してマエカワユニフォームが「『品番:J-41500-011 品名:ジャンパー長袖』は『WAKAI』の商標を付した商品『ジャンパー』を示すものである。」(乙4)及び「『品番:NK-TS2500-79 品名:シャツ半袖』は『WAKAI』の商標を付した商品『シャツ』を示すものである。」旨を証明するにすぎず、これを客観的に示す証拠方法は提出されていない。また、乙第4号証の納品書には「ジャンパー長袖 J-41500-011」の下に「ネーム」とあり、乙第5号証の納品書には「シャツ半袖 NK-TS2500-79」の下に「ネーム」とあること、それぞれの数量が「ジャンパー長袖 J-41500-011」と「シャツ半袖NK-TS2500-79」と同一の数量であることに加え、前述したようにネーム刺繍が作業服及びユニフォーム販売業界においては通常提供されているサービスであることに鑑みれば、「ネーム」は「WAKAI」のネーム刺繍を意味し、そうとすると、「ジャンパー長袖 J-41500-011」と「シャツ半袖 NK-TS2500-79」は、「WAKAI」のネームを付す前のジャンパー長袖又はシャツ半袖であるといわざるを得ない。
第三に、乙第4号証の納品書の納品数量は「1」、乙第5号証の納品書の納品数量は「2」であり、3年間のうち示された使用商品にかかる商品の取引が僅かに2回、しかも数個程度の極めて少数の商品数をいずれも同一の取引者との間で行ったという本件取引にあたっては、これをもって、反復、継続してなされた通常の商品取引の形態とみることはできない。
したがって、被請求人が主張する本件商標の指定商品中「作業服、その他の被服」における使用はなく、被請求人の主張は、その正当な理由がない。

3 口頭審理期日における陳述(平成26年3月12日付けの口頭審理陳述要領書)
被請求人が「口頭審理陳述要領書」に代えて提出した「答弁書(2)」に対して、以下反論する。
答弁書(2)において、本件商標「WAKAI」を商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」に付す行為は、商標法第2条第3項第1号における「使用」に該当し、本件商標を付した商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」を通常使用権者であるマエカワユニフォームから被請求人に譲渡する行為は、同第2号における「使用」に該当することは明らかである旨主張する。
請求人は、乙第2号証において、標章「WAKAI」が「ジャンパー」に付され、乙第3号証において、標章「WAKAI」が「半袖シャツ」に付されている事実は認める。しかしながらそもそも、弁駁書で述べたように、標章「WAKAI」は「ジャンパー」及び「半袖シャツ」についての出所表示たる商標であると認められないから、前記行為は商標法第2条第3項第1号の「使用」には該当しない。すなわち、乙第2号証の「ジャンパー」及び乙第3号証の「半袖シャツ」に付された標章「WAKAI」は、それら「ジャンパー」及び「半袖シャツ」を作業着として着用した者が被請求人の従業員であることを示すためのものであって、「ジャンパー」及び「半袖シャツ」の出所を表示するためには何ら機能するものではない。
この点につき、被請求人は「ジャンパー」や「半袖シャツ」においては、出所表示たる商標を、左胸の位置に付すことが慣行化されており、さらにはその標章が織ネームに付された商標と異なることは一般的であるから、本件商標が織ネームに付されていないことをもって、本件商標の使用を否定することはできない旨を主張する。
「ジャンパー」や「半袖シャツ」について、出所表示たる商標を左胸の位置に付すことが慣行化されていること、また、その標章が織ネームに付された商標と異なることは一般的であるとの主張については、何らその事実を示す証拠資料が提出されておらず、これを認めることはできない。「半袖シャツ」の左胸の位置に出所表示たる商標が付されたといえるのは、衣料やスポーツ用品などについてブランドとして確立された者が付す場合だけであって、慣行化されているとはいえない。
したがって、答弁書(2)における被請求人の主張に基づいて、本件商標の使用を認めることはできず、本件商標は、継続して3年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品についての登録商標の使用をしていないことは明らかである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人は、主としてねじくぎ等の金属製金具を製造販売するものであるが、本件商標の登録後、取引先であるマエカワユニフォームに対し、指定商品「作業服,その他の被服」について、通常使用権を許諾している(乙1)。
(2)この通常使用権者による本件商標の使用の一例を示すと、乙第2号証の写真のとおりであるが、同写真はマエカワユニフォームが取り扱う商品「ジャンパー」であり、その商品自体に本件商標「WAKAI」と社会通念上同一と認められる態様で「WAKAI」と表示している。
また、乙第3号証の写真は、マエカワユニフォームの取り扱う商品「半袖シャツ」であり、その商品自体に本件商標「WAKAI」と社会通念上同一と認められる態様で「WAKAI」と表示している。
(3)次に、通常使用権者であるマエカワユニフォームは、本件商標を付した商品「ジャンパー」を主に被請求人に継続して販売しているが、その取引の事実を証するものとして、同社による証明書を提出する(乙4)。
これは、マエカワユニフォームが、被請求人より注文を受け、2012年11月30日に、本件商標を付した商品「ジャンパー」を被請求人に納品したことを示すものである。
また、通常使用権者であるマエカワユニフォームは、被請求人より注文を受け、2013年5月13日に、本件商標を付した商品「半袖シャツ」を被請求人に納品している(乙5)。
(4)以上のとおり、被請求人の通常使用権者であるマエカワユニフォームは、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、本件審判の取消請求にかかる指定商品中「被服」に属する商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」について、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において使用している。
したがって、このような本件商標の登録は商標法第50条第1項の規定によって取消されるべきものではない。

2 上申書
被請求人は、都合により口頭審理に出廷しないこととなったので、「口頭審理陳述要領書」に代えて、答弁書(2)を提出する。

3 答弁書(2)
(1)答弁の理由(2)
ア 請求人は、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツの左胸に付された「WAKAI」は、同商品の発注者であり本件商標の商標権者でもある若井産業株式会社の略称を同ジャンパー及び半袖シャツに刺繍したにすぎないものであり、商品「作業服、その他の被服」の出所表示ではないことは明白である旨主張する。
また、特許庁からの審理事項通知書においては、暫定的見解として、提出された乙各号証からは、被請求人(商標権者)の注文により通常使用権者であるマエカワユニフォームが、前記商品を被請求人に納品したことは伺えるが、これのみからでは、通常使用権者が本件商標を上記商品に使用しているものとは認められない旨述べられている。
しかしながら、商標法第2条第3項において、標章について「使用」とは、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(同第1号)と規定され、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、…する行為」(同第2号)と規定されている。
そうすると、本件商標「WAKAI」を商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」に付す行為は、商標法第2条第3項第1号における「使用」に該当し、本件商標を付した商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」を通常使用権者であるマエカワユニフォームから被請求人に譲渡する行為は、同第2号における「使用」に該当することは明らかである。
なお、本件商標は、商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」の左胸の位置に付されているが、一般に、「ジャンパー」や「半袖シャツ」においては、出所表示たる商標を、左胸の位置に付すことが慣行化されており、左胸に付された標章は、その商品の出所表示として理解され、認識されている。この左胸に付される商標は、織ネームに付された商標と同一のものに限らず、異なる商標が付されることも一般的に行われている。
したがって、被請求人の通常使用権者であるマエカワユニフォームは、本件商標を、商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」について、使用しているといえる。
イ また、請求人は、乙第2号証に示されたジャンパー及び乙第3号証に示された半袖シャツの出所表示というべきは、同商品の織ネーム上の標章であるが、この織ネームへの本件商標の使用は示されていない旨主張する。
しかしながら、1つの商品に複数の商標が付されることは珍しいことではない。特に、「ジャンパー」や「半袖シャツ」のような衣服類の上衣であれば、織ネームのほか、左胸の位置に商標が付されることは多く、織ネームの商標とは異なる商標が付されることも多い。
したがって、織ネームに付されている商標が、商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」の唯一の出所表示となるわけではないから、本件商標が織ネームに付されていないことをもって、本件商標の使用を否定することはできない。
ウ 以上のとおり、被請求人の通常使用権者であるマエカワユニフォームは、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、本件審判の取消請求にかかる指定商品中「被服」に属する商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」について、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において使用している。
したがって、このような本件商標の登録は商標法第50条第1項の規定によって取消されるべきものではない。

第5 当審の判断
被請求人は、商標権者の通常使用権者であるマエカワユニフォームは本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、本件審判の取消請求にかかる指定商品中「被服」に属する商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」について、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において使用していると答弁し、証拠方法として乙第1号証ないし乙第5号証を提出しているので、以下、検討する。
1 本件商標の使用許諾
被請求人は本件商標について、取引先であるマエカワユニフォームに対して、指定商品「作業服,その他の被服」について、通常使用権を許諾していると主張して乙第1号証を提出している。
乙第1号証は、マエカワユニフォームが本件商標権者から通常使用権の許諾を受けていることを述べている「証明書」であって、通常使用権契約書のかたちの書面ではないものの、請求人はこの証明内容を認めており(弁駁の趣旨)、同号証の内容に不自然さも認められないから、被請求人は、マエカワユニフォームに対して、本件商標の指定商品に含まれる「作業服,その他の被服」について、平成18年7月21日に通常使用権を許諾し、これが本件審判請求時において継続しているとみて差し支えないものといえる。
したがって、マエカワユニフォームは、本件商標の指定商品に含まれる「作業服,その他の被服」について、通常使用権者であるということができるものである(以下、「マエカワユニフォーム」を「通常使用権者」という場合がある。)。

2 乙第2号及び乙第3号証に示された被服における左胸ポケット上部に付された標章について
本件商標は、別掲のとおりの構成よりなるところ、二文字目及び4文字目はアルファベット「A」の横線(バー)を省略して表示したものと認められ、これが全体として「WAKAI」の欧文字をデザイン化したものと容易に認識される構成といえるものである。
被請求人が本件商標が使用されているとして提出した乙第2号証に示された「ジャンパー」(以下「本件ジャンパー」という。)及び乙第3号証に示された「半袖シャツ」(以下「本件半袖シャツ」といい、「本件ジャンパー」と「本件半袖シャツ」を併せて「本件使用商品」という。)の左胸ポケット上部に表示された標章は、本件商標とほぼ同一といえるものであるから、本件使用商品には、本件商標とほぼ同一の標章(以下「本件使用商標」という。)が付されているといえるものである。

3 本件商標の使用について
被請求人は、本件使用商品の左胸ポケット上部における本件使用商標の表示は本件商標の使用である旨主張しているので、以下、この点について検討する。
(1)通常使用権者(マエカワユニフォーム)による商標権者に対する本件使用商品(ジャンパー及び半袖シャツ)の納品について
ア 本件商標の通常使用権者は、食品工場向け白衣専業メーカー・企業向けユニフォーム企画販売を営業内容とする株式会社であり(甲3)、通常使用権者は、本件審判の請求の登録前三年以内(以下「要証期間内」という。)である平成24年11月30日に、本件使用商標が付されたジャンパー(乙2)を被請求人である商標権者に納品したことが認められる(乙4)。
通常使用権者は、要証期間内である平成25年5月13日に、本件使用商標が付された半袖シャツ(乙3)を被請求人である商標権者に納品したことが認められる(乙5)。
ウ 本件使用商標は、本件使用商品の織ネームには表示されてはおらず、その左胸ポケット部分に表示されている(乙2ないし乙5)。
通常使用権者による本件使用商品の乙第4号証及び乙第5号証の納品書における「商品名」欄の「ジャンパー長袖」、「シャツ半袖」の下部には、それぞれ「ネーム」との記載がされているところ、「金額」欄において、「ネーム」については金額が記載されていない。
この点に関して、審判長が審理事項通知書において「乙第4号証及び乙第5号証に添付されている納品書中の『商品名』欄にある『ネーム』とはどのようなものをいうのか、また、その『単価』欄及び『金額』欄が空白となっている理由を説明されたい。」として、乙第4号証及び乙第5号証の納品書における記載事項について質したことに対して、被請求人は何ら回答をしていない。
(2)商標権者以外に対する使用行為について
通常使用権者は、本件使用商標が付された本件使用商品を商標権者以外の第三者向けに宣伝広告をしたり、当該商品を商標権者以外の第三者に譲渡したとの主張及び立証をしていない(答弁の全趣旨)。
この点に関して、審判長が審理事項通知書において「通常使用権者が商標権者以外の者へ販売した事実を証明する取引書類等があれば、提出されたい。」として、本件使用商品の商標権者以外の者への販売事実について質したことに対して、被請求人は何ら回答をしていない。
(3)作業服の左胸部分には当該作業服の着用者の社名・ネーム刺繍の加工がされるのが一般的であると推認できるところ(甲4、甲5及び甲7)、作業服への社名・ネームなどの刺繍加工の役務に関する実情について、次の記載がある。
ア 「作業服・作業用品の大型専門店 サンワーク」のウェブページには、「作業服などの社名/ネーム刺繍につきまして」との表示のもと、「ネーム刺繍加工のご注文方法」として、「ネーム刺繍加工 価格表」が表示され、「刺繍の位置」の対象に、作業服の上着類について6カ所の位置が示されており、その最初に「左胸 無料」との記載がある(甲4)。
イ 「作業服販売一筋 作業服の専門店 シンコーユニフォーム」のウェブページには、「社名刺繍のみはネーム代無料です。」「*商品によりましては、左胸位置調整の為、チャコでラインを引き刺繍をお入れ・・・」「*左胸への刺繍の刺繍の向きにつきましては、・・・」、「ネームの場所 原則、左胸ポケットの上になります。」との記載がある(甲5)。
ウ 「http://www.unifice.com/・・・」のウェブページには、「法人様向け『よくあるご質問』について」として、「Q 注文の流れを教えて下さい」、「A ユニフィスで扱っている製品は国内有名ユニフォームメーカーの一流品だけです。」。「Q 刺繍できますか?」、「A ハイ、可能です。」、「会社名や個人名の刺繍も迅速に対応させていただきます。」、「初回20着以上をご購入の場合、社名刺繍が無料です。」とのQアンドAが表示されている(甲6)。
エ 「ツナギ・飲食店ユニフォーム・刺繍加工なら UniMark」とのウェブページには、「社名刺繍加工ガイド」との表示のもと「このサイトでお買い上げいただいた作業服に関しては、当店指定の仕様であれば1枚@315円? 刺繍することが可能でございます。」、「(社名刺繍の大きさ)」「左胸・左胸ポケット上部へ10cm*5cm以内で刺繍可能です。」との記載がある(甲7)。
オ 株式会社フクヨシのウェブページには、一葉目の左側には、「安全ヘルメット・・・・・作業着・作業服・・・・・制服・ユニフォーム」との欄があり、右側には「社名・ネーム刺繍加工の流れ」との記載があり、次葉以降には、刺繍書体見本が示され、「ネーム刺繍(腕刺しゅう)」について価格の記載がされている(甲8)。
(4)本件商標の使用についての判断
上記1、2及び3(1)によれば、通常使用権者は、食品工場向け白衣専業メーカー・企業向けユニフォーム企画販売を営業内容とする株式会社であり(上記3(1)ア、甲3)、本件使用商品の左胸ポケット上部に本件使用商標が付された本件使用商品を要証期間内に被請求人である商標権者に納品したことが認められる。
上記3(3)によれば、甲第4号証ないし甲第8号証は、その記載内容より作業服ないしユニフォーム販売業者のウェブページの写しと推認でき、当該作業服ないしユニフォーム販売業者による、商品への作業服着用者の社名・ネームの刺繍加工の位置は、作業服の左胸ポケット上部もその対象であることが認められ(上記3(3)ア、イ及びエ)、これが有料又は無料で社名・ネーム刺繍加工が行われている(上記3(3))ところ、本件使用商品は、左胸ポケット上部に本件使用商標が表示され、乙第4号証及び乙第5号証の納品書における「商品名」欄の「ジャンパー長袖」、「シャツ半袖」には金額が記載されているのに対して、同欄の「ネーム」の記載については金額が記載されていない。
そして、請求及び答弁の全趣旨を総合して検討すれば、乙第2号証及び乙第3号証の写真に示されている本件使用商品は、商標権者がマエカワユニフォームに対して自社の社員用の作業服(ジャンパー及び長袖シャツ)を注文し、それに対して、マエカワユニフォームが注文を受けた商品について、「マーク」すなわち、商標権者の社名の刺繍加工を無料で行って販売した商品の写真というのが相当である。
そうとすれば、乙第4号証及び乙第5号証における、マエカワユニフォームによる納品書は、同社が、被請求人である岩井産業株式会社の注文により、商品「ジャンパー」及び商品「半袖シャツ」を、社名の刺繍加工を無料で行って納品した際の納品書とみるのが、上記した事実及び取引の実情に照らして自然であって、乙第4号証及び乙第5号証は、本件の通常使用権者が本件使用商品に本件使用商標を付して使用したことを証明するための証拠書類ということはできないというべきである。
したがって、被請求人は、その提出した全ての証拠方法によっては、本件商標を、本件審判請求の取消対象に係る商品について要証期間内に使用したことを証明したということはできないものである。
(5)被請求人の主張について
ア 本件使用商標の表示位置について
本件使用商標が本件使用商品の織ネームに表示されていないことについて、審判長が審理事項通知書において「乙第2号証及び乙第3号証の襟裏部分には、織りネームが付されているところ、通常、織りネームには、当該商品の商標が表示されるものであるが、ここに本件商標が表示されていない理由を説明されたい。」と質したことに対して被請求人は、「一般に、『ジャンパー』や『半袖シャツ』においては、出所表示たる商標を、左胸の位置に付すことが慣行化されており、左胸に付された標章は、その商品の出所表示として理解され、認識されている。この左胸に付される商標は、織ネームに付された商標と同一のものに限らず、異なる商標が付されることも一般的に行われている」旨主張している。
商標の使用に関しては、商品そのものに商標を付すことは商標の使用といえるところ(商標法第2条第3項第1号)、本件の場合、本件使用商標が本件使用商品の左胸ポケットの上部に付されているが、作業着においてこの位置は、着用者の社名やネームの刺繍加工がされる部分であり、かつ、本件使用商品の織ネームに本件使用商標が付されていないことから、審判長は、上記の説明を求めたものである。
これに対して、被請求人は、上記の主張をするにとどまり、その主張を立証する証拠を示していない。当審においても、「ジャンパー」や「半袖シャツ」の左胸ポケットの上部にワンポイントマークなどの商標が付されることがあることを否定するものではないが、通常使用権者がユニフォーム企画販売を営業内容とする株式会社であること、及び作業服ないしユニフォーム販売業者による、商品への着用者の社名・ネーム刺繍加工の位置は、作業服の左胸ポケット上部もその対象であることからすれば、本件における本件使用商標の表示位置についての被請求人の上記主張は、それのみによっては、これを採用することはできない。
イ 商標の使用について
被請求人は、商標法第2条第3項において、標章について「使用」とは、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(同第1号)と規定され、「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、…する行為」(同第2号)と規定されており、そうすると、本件商標を商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」に付す行為は、同法第2条第3項第1号における「使用」に該当し、本件商標を付した商品「ジャンパー」及び「半袖シャツ」を通常使用権者から被請求人に譲渡する行為は、同第2号における「使用」に該当することは明らかであると主張している。
そこで、このような被請求人の主張についてみると、商標法第2条第3項によれば、本件使用商品に本件使用商標を付す行為及びこれを譲渡する行為は、同項所定の文言の限りにおいては、被請求人の主張のとおりともいえるものの、他方において、同法上、商標の保護は、商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるというのが本来的な姿であるから(同法第1条)、商標としての使用をしていない場合には保護すべき信用が発生しないから保護の対象がないことになり、そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつ、その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるから、請求をまってこのような商標登録を取り消そうというのが同法第50条の立法趣旨というべきである。
そして、本件使用商標を本件使用商品に付す行為が、商標としての使用といえるかについてみると、被請求人が提出した証拠方法によれば、通常使用権者は、商標権者1社に対してのみ本件使用商品を譲渡しており、他方、これを商標権者以外の第三者に対して宣伝広告ないし譲渡した事実は認められず、かつ、上記3(3)のとおり、甲第4号証ないし甲第8号証に示される、作業服販売業者による商品への社名・ネームなどの刺繍加工の役務に関する実情に照らせば、乙第2号証ないし乙第5号証における、本件使用商標を本件使用商品に付して商標権者に納品した行為が商標法第2条第3項第1号及び同2号の「使用」に該当するとの被請求人の主張は、ユニフォーム販売業者である通常使用権が、当該登録商標を、本件使用商品の左胸ポケット上部にのみ付して、これを商標権者のみに譲渡するという、商品一般の取引上希有で、かつ、商標の使用方法としても不自然な使用の実態を根拠にする主張であって、提出された証拠の限りにおいては、本件使用商標は、商品出所表示機能、自他商品識別機能を発揮するものとして使用されてはいないというのが相当であり、上記の被請求人の主張は、これを採用することはできないものである。

4 まとめ
以上によれば、被請求人は、本件商標を、本件審判の取消請求に係る商品「作業服,水に濡らし首に巻いて使用するネッククーラー,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」のいずれかについて、本件審判請求の登録前三年以内に、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが使用していたことを証明していないというべきである。
また、被請求人は、取消請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを主張、立証していない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条により指定商品中「作業服,水に濡らし首に巻いて使用するネッククーラー,その他の被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ・靴くぎ・靴の引き手・靴びょう・靴保護金具」を除く。)」についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)



審理終結日 2015-05-18 
結審通知日 2015-05-20 
審決日 2015-06-11 
出願番号 商願2005-80491(T2005-80491) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山田 正樹金子 尚人茂木 祐輔 
特許庁審判長 土井 敬子
特許庁審判官 大森 健司
原田 信彦
登録日 2006-07-21 
登録番号 商標登録第4972344号(T4972344) 
商標の称呼 ワカイ 
復代理人 きさらぎ国際特許業務法人 
代理人 東尾 正博 
代理人 海田 浩明 
代理人 鎌田 文二 
代理人 鎌田 直也 

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