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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない W20
審判 全部無効 外観類似 無効としない W20
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W20
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W20
審判 全部無効 観念類似 無効としない W20
審判 全部無効 観念類似 無効としない W20
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W20
審判 全部無効 称呼類似 無効としない W20
管理番号 1303082 
審判番号 無効2014-890081 
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-11-04 
確定日 2015-06-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第5689311号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5689311号商標(以下「本件商標」という。)は、「Delico」の欧文字と「デリコ」の片仮名とを上下二段に横書きしてなり、平成26年2月14日に登録出願され、第20類「陳列台,家具,つい立て,ベンチ」を指定商品として、同年6月26日に登録査定、同年7月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人の引用する登録商標2件は、次のとおりである。当該商標権は現に有効に存続しているものである。
1 引用商標1
登録番号 商標登録第2093408号
商標 「デリカ」の片仮名と「Delica」の欧文字とを上下二段に書してなる。
指定商品 第6類「金属製建具,金庫」、 第14類「宝石箱」、 第19類「建具(金属製のものを除く。)」、第20類「家具,つい立て,びょうぶ,ベンチ」のほか、第6類、第11類、第14類、第16類、第17類、第19類、第20類、第21類、第22類、第24類、第26類、第27類及び第31類に属する商標登録原簿記載の商品
登録出願日 昭和57年6月1日
登録日 昭和63年11月30日
2 引用商標2
登録番号 商標登録第5503822号
商標 「Delica」の欧文字を標準文字により表してなる。
指定商品・役務 第6類「金属製建具,金庫」、第20類「家具,つい立て,びょうぶ,ベンチ」、第35類「家具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,建具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のほか、第1類、第6類、第8類、第16類、第20類、第28類及び第35類に属する商標登録原簿記載の商品又は役務
登録出願日 平成23年11月21日
登録日 平成24年6月29日
3 以下、引用商標1及び引用商標2を一括して「引用商標」ということがある。

第3 請求人の主張
1 請求の趣旨
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし第44号証(枝番を含む。)を提出している。
2 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第11号の該当性について
ア 指定商品の類否
本件商標の指定商品「陳列台,家具,つい立て,ベンチ」は、引用商標の指定商品「家具,つい立て,ベンチ」と同一又は類似の関係にある。
イ 商標の類否
(ア)外観について
本件商標は、「Delico」の欧文字と「デリコ」の片仮名とを上下二段に横書きに書してなるものである。
一方、引用商標1は、「デリカ」の片仮名と「Delica」の欧文字とを、上下二段に横書きに書してなるものである。また、引用商標2は、「Delica」の欧文字を標準文字により表してなるものである。
本件商標の欧文字部分「Delico」と引用商標の欧文字部分「Delica」とを比較すると、ともに6文字の構成からなる点で共通し、語頭から5文字目までの「Delic」の文字は一致する。そのため、本件商標と引用商標の外観については、相当程度共通する。また、両商標の相違点は、末尾1文字の「o」と「a」のみであるところ、当該相違点である「o」と「a」とは、環状の形状を有している点において互いに近似した形状であって、当該相違点が末尾1文字であることも相まってその相違点が全体に与える影響は極めて小さい。
よって、時と所を異にして本件商標と引用商標を離隔的に観察するときには、取引者・需要者をして語頭部の「Delic」の文字に注意を強く惹かれ、誤認混同するおそれがあるから、両商標は、当該欧文字部分の外観において相紛らわしく類似するものである。
(イ)称呼について
本件商標からは「デリコ」の称呼が生じる。一方、引用商標からは、「デリカ」の称呼が生じる。
ここで、本件商標の「デリコ」の称呼と引用商標の「デリカ」の称呼とを比較すると、両称呼は、3音節の同数音からなり、語頭からの2音「デリ」の発音が一致する。また、音調上も、両者ともに語頭の濁音「デ」の部分にアクセントがおかれて比較的高い音で強く発音され、3音節目にかけて徐々に低い音で発音される点で共通する。一方で、両称呼は、語尾における「コ」及び「カ」の発音において異なるが、「コ」及び「カ」は、共に無声軟口蓋破裂音[k]を子音とする近似音である。また、当該「コ」及び「カ」の発音は、両称呼の語尾の発音であり、さらに両称呼の中で最も低い音で発音される音であることも相まって極めて弱く発音される。そのため、本件商標と引用商標の称呼は、語頭部分の「デリ」が聴者の記憶・印象に残りやすく、強く印象付けられるのに対し、前記の差異部分は、程度の小さいもので、その印象は薄く、商標全体に与える影響は小さい。
したがって、本件商標の称呼と引用商標の称呼とは、全体的語調・語感が近似し互いに聞き誤るおそれがあることから、本件商標と引用商標とは、称呼において類似するというべきである。
(ウ)観念について
本件商標と引用商標は、ともに辞書等に掲載されていない造語であるから、特定の観念は生じない。そうすると、本件商標と引用商標とは、観念においては比較することができない。
ウ 小括
したがって、本件商標と引用商標とは、外観及び称呼の点で類似の商標であって、同一又は類似の商品について使用するものであり、取引の実情を考慮しても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア はじめに
引用商標は、請求人がその製造・販売に係る商品「折りたたみ式テーブル」(以下、「請求人商品」という。)について昭和37年以来、50年間にわたって継続して使用した結果、日本全国において周知・著名となった。そして、本件商標は、引用商標との関係において、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標である。
イ 商標の類似性の程度
本件商標と引用商標との類似性については、前記(1)のとおりである。
ウ 引用商標の著名性
請求人は、寛政4年(1792年)に筆墨商として創業し、現在では、広く、事務用品、文房具、オフィス用の家具、什器、情報処理機械等の製造・販売等を行っている(甲7)。
請求人は、昭和37年に、当時としては斬新で他に類を見ない直立して折りたためるテーブル「デリカテーブル」を開発し、発売を開始した(甲8ないし甲10)。その後、請求人は、今日に至るまで「デリカテーブル」の製造販売を継続するとともに、折りたたみ式テーブルのラインナップを拡張し、従来とは異なる折りたたみ方向の折りたたみ式テーブル「デリカフラップテーブル」シリーズを開発し、昭和56年から今日に至るまで製造販売を継続している(甲11)。その間、昭和40年代には、請求人は、引用商標を使用した請求人商品の広告を新聞・雑誌に掲載した(甲12、甲13)。また、最近では、財団法人経済調査会の発行する製品情報誌に請求人商品「デリカフラップテーブル」が掲載され(甲14)、雑誌「月刊 近代家具」に請求人商品「デリカフラップテーブル」の紹介記事ないしは広告が掲載され(甲15)、オフィス家具新聞にも請求人商品「デリカフラップテーブル クルーク」の紹介記事が掲載された(甲16)。
一方、請求人は、「デリカテーブル」の折りたたみ機構を利用して、卓球台「デリカ卓球台」(甲8、甲9)を開発、販売し、さらに、「デリカテーブル」及び「デリカ卓球台」によって知名度を獲得した引用商標を使用し、家庭用机「デリカフアミリーデスク」、家庭用椅子「デリカファミリーチェアー」(甲11)などの商品を開発し、販売した。
このように、引用商標は、昭和37年以来50年以上もの長期にわたって、請求人商品を中心に、請求人の製造・販売に係る複数種に及ぶ商品に使用され続けており、引用商標が付された家具関連商品の販売数量及び販売金額は、最近の10年に限っても、約15万台、40億円を超える(甲17)。また、株式会社小学館パブリッシングサービスが提供するウェブサイト「日本を変えたプロダクト図典 Nippon Style」(甲18)の「プロダクトでたどる自分史」及び「メイド・イン・ジャパン データベース」)において、日本を変えた製品の一つとして、請求人商品が紹介されるに至っている。
以上のとおり、引用商標が今日まで50年以上にわたり使用されてきた事実、引用商標を付した請求人商品の販売数量、販売金額、継続的な広告宣伝活動に照らせば、引用商標が、本件商標の出願日である平成26年2月14日時点及び現時点において、請求人商品について使用される商標として全国的に周知・著名となっていることは明らかである。
エ 引用商標の独創性
引用商標である、「デリカ/Delica」、「Delica」という成語は存在せず、引用商標はいずれも造語である(甲19)。そのため、引用商標は、高い独創性を有する。
オ 需要者の通常払われる注意力
本件商標の指定商品及び請求人商品は、会社等の組織において使用される商品であり、その需要者は、必ずしも当該商品に付された標章を注意深く観察する者ばかりでないことは経験則に照らして明らかである。
混同を生じるおそれ
引用商標の著名性及び独創性、引用商標と本件商標との類似性の程度、両商標に係る商品の性質、用途、目的における関連性の強さ、取引者・需要者の共通性の程度を考慮すれば、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準にして、これを請求人あるいは請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するか、又は請求人あるいは請求人と前記のような関係のある会社が新たに販売を開始した「Delica」のシリーズ商品の一つ又はそれに何らかの改良を施した新商品であると混同するおそれがあるというべきである。
キ 小括
本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法4条1項10号の該当性について
前記(2)のとおり、引用商標は、請求人の業務に係る商品「オフィス用家具」との関係で著名な商標である。また、前記(1)のとおり、本件商標は、外観及び称呼の点で引用商標に類似するものであって、請求人の業務に係る商品と同一又は類似の商品について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第19号の該当性について
引用商標の著名性に鑑みれば本件商標に接した需要者は、引用商標を想起するものであり、被請求人は、明らかに引用商標の顧客吸引力にただ乗りする目的で本件商標を使用するものであるといえる。このような不正の目的は、本件商標が著名な引用商標と類似する構成からなることからも明らかであるから、商標法4条1項19号に該当する。
(5)むすび
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号、同項第10号、同項第19号に違反してされたものであるから、同法46条1項の規定により、無効とすべきである。
3 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 取引の実情について
本件商標の指定商品とりわけ、オフィス用家具の取引形態としては、インターネットやFAX等を利用した文書による注文がその多数を占めているのが実情である。
このことは、需要者においては、オフィス用家具は、決められた予算内で必要な数量、一定の品質の商品を購入する類の商品であるから、誤発注の防止や記録の保存のために書面を通じて取引する必要が生じることからである。
このようなオフィス用家具の取引の実情に鑑みると、本件商標及び引用商標の類否判断においては、商標の類否判断における外観、称呼、観念の3つの判断要素のうち、殊更称呼のみに比重をおいて判断することは相当ではなく、むしろ、外観における類似性に比重をおいて判断するのがその取引状況に基づくものといえる。
イ 観念について
引用商標は、『精巧』や『優雅、上品』の意味合いを持つ「De1icacy」や「Delicate」を語源として創作された造語である(甲第19号証)。
被請求人が主張するように引用商標がデリカテッセンの略語として片仮名「デリカ」の文字が用いられている現状があるとしても、オフィス用家具の需要者が、引用商標に接したときには、オフィス用家具とは全く無関係な「お惣菜」、「お惣菜屋さん」の観念を想起することはなく一種の造語であると認識し、特定の観念が生じないものとして把握すると考えるのが相当である。そうすると、特定の観念が生じない本件商標と引用商標とは、観念においては比較することができない。
ウ 被請求人の主張について
被請求人は、答弁書において、「商標類否の判断要素として『称呼』が重視されるのは争いのないところである。』と述べ、称呼に偏重した商標の類否に関する主張を展開している。
しかしながら、商標の類否判断は、外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察するものであり、また、商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とするものであるから、この点において、被請求人の類否に関する主張は失当である(甲32)。
エ 小括
本件商標は、引用商標と外観及び称呼の点で類似し、観念においては比較できない商標であって、同一又は類似の商品について使用するものである。そして、オフィス用家具の分野においては、電話や直接取引等の口頭による注文よりも、インターネットやFAX等の文書による取引がその多数を占めているのが今日の取引の実情といえるから、この取引の実情を考慮すれば、外観において引用商標に明らかに類似し、かつ、称呼においても類似する本件商標は、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。そのため、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 商標の類似性について
請求人は、引用商標と商品の普通名称「テーブル」及び、「フラップテーブル」等とを結合して使用している。
ここで、商品の普通名称は、一般に出所識別標識としての機能を果たさない。そのため、引用商標を商品の普通名称と結合した態様で使用したとしても、需要者、取引者は、「Delica/デリカ」のみを出所識別標識として認識する。
また、請求人が長年にわたって引用商標を複数種に及ぶ商品の普通名称と結合して使用してきたことに鑑みれば、商標法第4条第1項第15号の判断において対比されるべき商標は、あくまでも「Delica/デリカ」と本件商標である。
イ 需要者の通常払われる注意力について
本件商標の指定商品と請求人の使用商品である「折りたたみ式テーブル、講演台」等はともに会社等の組織において使用される商品である。そして、当該商品は、毎年購入する類のものではなく、一度購入してしまえば、数年以上、場合によっては10年以上継続して使用されるものである。そのため、需要者である会社の総務担当者等は、当該商品に関する知識が蓄積されている者ではないのが通常である。また、当該商品は会社等の組織の予算で購入する必要があるため、予算内で購入できることに主眼が置かれる傾向にある。したがって、需要者は、当該商品に付された標章を注意深く観察して区別して購入するほどの注意力をもって当該商品に接することはない。
混同を生じるおそれについて
引用商標が昭和37年以来50年以上にわたり使用されてきた事実や引用商標を付した請求人商品の販売数量・販売金額、継続的な広告宣伝活動に照らせば引用商標は著名性を獲得していると考えるのが相当である。また、引用商標と本件商標とが外観及び称呼において類似すること、両商標に係る商品が極めて高い関連性を有し、かつ、取引者、需要者が完全に共通することを考慮すれば、本件商標は、請求人あるいは請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と混同するか、又は請求人あるいは請求人と上記のような関係のある会社が新たに販売を開始した「Delica」のシリーズ商品の一つ又はそれに何らかの改良を施した新商品であると混同するおそれがあるというべきである。
エ 被請求人の主張について
被請求人は、「JOIFA統計」を根拠に、請求人の市場シェアが1.9%である旨主張している。しかしながら、被請求人による市場シェアの計算には実際には競合にならない商品が多く含まれており、正確ではない。
むしろ、請求人が昭和37年以来50年以上にわたり使用されてきた事実や引用商標を付した請求人商品の販売数量・販売金額、継続的な広告宣伝活動等に鑑みれば、その著名性は肯定されるべきである。
オ 小括
以上のとおり、本件商標は、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する。

第4 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求め、答弁の理由要旨を次のように述べ、証拠方法として乙第1ないし第8号証(枝番を含む。)を提出している。
2 答弁の理由要旨
(1)商標法第4条第1項第11号の該当性について
ア 外観について
本件商標は二段書きの商標であり、上段が欧文字「Delico」、下段が片仮名「デリコ」である。一方、引用商標1も二段書きの商標であるが、上段が片仮名「デリカ」、下段が欧文字「Delica」である。引用商標2は欧文字「Delica」(標準文字)のみからなる商標である。
本件商標の「Delico」と「Delica」を比較すると、たしかに「o」と「a」の違いということになる。6文字でまとまりよく構成されている態様において1文字の差異は外観的にも軽視できないといえる。また、文字商標の場合、外観のみを図形的に認識することはなく、称呼・観念とともに認識されるものであり、後述する称呼・観念とともに認識した場合明らかに両者は区別できるものである。
イ 称呼について
本件商標の称呼は「デリコ」であり、引用商標1及び2の称呼は共に「デリカ」である。差異音は「コ」と「カ」ということになる。この両音はいずれも破裂音であり、響きの強い明瞭に発音・聴取される音であるから、3音という短い音構成からなる両称呼全体に与える影響は大きく、本件商標、引用商標をそれぞれ一連に称呼した場合、明瞭に聴別できるものである。
ウ 観念について
引用商標の「デリカ/Delica」は、「調理済みの西洋風惣菜、またはそれを売る店」の意のドイツ語「デリカテッセン」の略として我が国では広く知られており、辞書にも掲載されている(乙5)。一方、本件商標は何ら特定の観念の生じない造語である。よって、両者は、観念上相紛れるおそれのない商標であるといえる。
エ 指定商品について
本件商標の指定商品は、引用商標の指定商品と同一又は類似の関係にあると推定される。
オ 小括
以上のとおり、外観・称呼及び観念のいずれの要素においても、本件商標は引用商標とは非類似である。よって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号には該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号の該当性について
ア 商標の類似性の程度
前記(1)のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標である。商標法第4条第1項第15号の判断は、具体的な出所の混同の防止を建前とするからである。そうすると、請求人の使用のほとんどは、「デリカ」と商品の普通名称等を結合した商標であるから、非類似の程度はさらに大きい。
イ 引用商標の著名性
(ア)実際に使用している商標
請求人は、実際に使用している商標として、「デリカテーブル」(甲7ないし甲13)、「デリカフラップテーブル」(甲11、甲14ないし甲16)、「デリカ卓球台」(甲8、甲9)、「デリカ手提金庫」、「デリカシステムファニチュア」、「デリカラック」、「デリカ講演台」)、「デリカミニ講演台」、「デリカファミリーデスク」、「デリカファミリーチェアー」、「デリカステージ」、「デリカステップ」(甲11)の態様で使用しているとしている。このように、実際に使用している商標は、「デリカ」と商品名とを結合し一連一体にしたものがほとんどである。引用商標の「デリカ/Delica」は、単独で使用されている例がほとんどない。
(イ)請求人商品の販売数量、販売金額
請求人は、引用商標が付された家具関連商品の最新10年間の売上実績は40億円を超えるとしている(甲17)。この売上実績がかなりの市場のシェアを占める場合には周知性が認められる可能性もあるであろう。そこで、請求人のデータ(甲17)をもとに、オフィス家具業界における公式販売データである(社)日本オフィス家具協会発行の「JOIFA統計」(乙7)のデータと比較してみると、引用商標の主力商品である「テーブル」の直近10年の売上高(総計3,675(百万円))であり、業界全体の「テーブル」の数字が総計191,500(百万円)であるから、その市場占有率(シェア)は、わずか1.9%という2%にも満たない数字である(乙7)。この数字は引用商標が著名はもとより周知の域にさえ及ばないことを示すものである。
(ウ)継続的な広告宣伝活動
請求人は継続的な広告宣伝活動を示すものとして、甲第4号証、甲第8号証ないし甲第16号証及び甲第18号証を提示している。これらについて、証拠書類をその種類、性質、証拠説明書の立証の趣旨等から以下のとおりに分類・精査し、その内容について考察する。
・請求人の商品カタログ(甲4、甲11)
これらにより、「デリカ」の語を含む商標が長期にわたって使用されている事実は確認できるけれども、前記(ア)のとおりの態様で使用されているものであり、引用商標は需要者の印象に強く刻み込まれたという事実を何ら示すものではない。
・社史等(甲8、甲9、甲10)は、何等商標の使用を示すものではない。
・広告作品集(甲12)は、広告掲載の事実を証明するものではない。
・新聞広告(甲13)は、宣伝広告の事実を示すものではあるが、1969年及び1970年のわずか2年のものだけである。
・物品購入ガイド(甲14)は、1回のみの掲載で、一般需要者に頒布される印刷物ではない。
・雑誌(業界誌)広告(甲15)は、いわゆる業界誌であり、2002年と大きく飛んで2012以降のものであること、そして、ここでの商標の態様も「デリカ/Delica」が全体に埋没しているものである。
・新聞(業界紙)の商品紹介記事(甲16)は、いわゆる業界紙であり、ここでの商標の態様も「デリカ/Delica」が全体に埋没しているものである。
・インターネットにおける商品紹介(甲18)は、請求人商品の「事務用机」の写真のみが小さく掲載され(甲18)、当該写真をクリックしてはじめて商標に接することができる。その態様も甲第18号証-4に示すとおりである。
このように、(i)引用商標の継続的な使用の事実については、継続的に使用している事実は認めるにしても、その使用態様のほとんどは引用商標をそのまま態様で使用しているものではなく、(ii)請求人商品の販売数量、販売金額及びこれらの市場占有率(シェア)は周知性の判断の考慮に到底値する数値ではなく、(iii)継続的な広告宣伝活動についても、活動を行っている事実は認めるにしても、継続的なものと認められるのは請求人の商品カタログだけである。この「総合カタログ」は最近のものでは900頁以上にも及ぶもので、その中の僅かな頁に当該商標が掲載されるにすぎない。しかも、これは有償にて配布されるもので広く一般需要者が気軽に手に取り目に触れる性質のものではない。いわゆるマスメディア(一般新聞・雑誌、テレビ、ラジオ等)を介しての継続的な広告宣伝はほとんどなされておらず、このカタログの発行・配布による宣伝広告によって引用商標が広く需要者に知られるに至っているとは考えられない。
以上から、引用商標は、永年細々と使用しているにすぎず、引用商標が需要者に印象づけられている事実は存しないのであるから、著名はもとより周知の域にさえも達していないことは明らかである。
エ 引用商標の独創性
前記2(1)ウのとおり、引用商標は既成語からなる商標である。そして、その意は広く知られているところである。該意から請求人が永年使用しているとする「デリカテーブル」などは第三者によりおそらく悪意なく「ダイニング用テーブル」の一般名称的に使用されている(乙8)。引用商標に独創性は認められないことは明らかであり、識別力も弱いといえる。
オ 需要者の通常払われる注意力
請求人は、本件商標の指定商品及び請求人商品である「折りたたみ式テーブル、講演台」等は、会社等の組織において使用される商品であり、需要者は注意深く観察するものではない旨述べているが、むしろ通常は逆であろう。会社等の組織において使用されるテーブル等は高額であり、多数の従業員が使用するものであるから、需要者(会社の総務担当者等)がその品質及びブランドには最終の注意を払うものだからである。
混同を生じるおそれ
前記イないしエのとおり、引用商標に周知性が認められないことは明らかである。一般的には、本件のような商標非類似の場合には本号の適用には周知度の高さが要求されることは、規定の趣旨、学説、判決例等からも明らかであるが、引用商標の場合には普通の周知のハードルにさえひっかかりしないレベルである。商品の関連性を考慮したとしても、需要者がその出所について「混同するおそれ」がない。
キ 小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第10号の該当性について
引用商標は周知ではなく、また、本件商標は引用商標には類似しない。よって、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号の該当性について
引用商標は周知ではなく、本件商標は引用商標とは全く別個の造語商標であり、不正の目的が存することは全く考えられない。よって、本件商標は商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)むすび
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第10号及び同第19号のいずれにも該当しない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標
本件商標は、「Delico」の欧文字と「デリコ」の片仮名を上下二段に横書きしてなるところ、いずれの文字も辞書等に掲載の見受けられないことから、特定の意味を有しない造語と認識されるものである。また、その構成からは下段の「デリコ」の片仮名が「Delico」の欧文字の読みを特定したものと無理なく認識できるものとみるのが相当である。
そうすると、本願商標は、その構成文字全体に相応して、「デリコ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標1は、「デリカ」の片仮名と「Delica」の欧文字を上下二段に横書きしてなるところ、いずれの文字も特定の意味を有する成語として辞書等に掲載の見受けられないことから特定の意味を有しない一種の造語と認識されるものである。
なお、被請求人は、引用商標構成文字が「調理済みの西洋風惣菜、またはそれを売る店」の意のドイツ語「デリカテッセン」の略として知られているからその意としての観念が生じると主張する。
しかし、引用商標の指定商品である家具等は、被請求人が主張するドイツ語「デリカテッセン」の有する意味とは関連性を有しない商品であることから、引用商標の指定商品の取引の場において引用商標に接した取引者・需要者が、その構成文字から直ちにドイツ語「デリカテッセン」を想起し、その略であるとまでは必ずしも認識し得ないものとみるのが相当であることから、被請求人の主張は採用できない。
そうすると、引用商標1の構成からは上段の「デリカ」の片仮名が下段の「Delica」の欧文字の読みを特定したものと無理なく認識できることから、引用商標1は、構成文字全体に相応して、「デリカ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
引用商標2は、「Delica」の欧文字を横書きしてなるところ、引用商標1と同じく、構成文字に相応して、「デリカ」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
ア 外観について
本件商標は、前記(1)のとおり、上段に欧文字を配し下段に片仮名を配した構成よりなるのに対して、引用商標1は、前記(2)のとおり、上段に片仮名を配し下段に欧文字を配した構成よりなるものであり、引用商標2は、欧文字のみの構成よりなるものである。
さらに、本件商標の欧文字部分「Delico」の欧文字と、引用商標の「Delica」の欧文字との比較において、6字目において「o」と「a」の差異を有し、本件商標の「デリコ」の片仮名部分と、引用商標の「デリカ」の片仮名部分との比較においても、わずか3文字という少ない文字構成において3文字目に「コ」と「カ」の差異を有するものであるから本件商標と引用商標とを全体的に観察すれば、外観上、明かに区別し得るものである。
イ 称呼について
本件商標から生ずる称呼「デリコ」と引用商標から生ずる称呼「デリカ」とを比較すると、両称呼は、いずれも3音という短い構成からなるものであり、第1音「デ」及び第2音「リ」の各音を共通にするものの、語尾音において「コ」と「カ」の音に差異を有するものである。そして、この差異音は、ともに破裂音であって、比較的、強く発せられることから、これが3音という短い音数からなる両称呼に及ぼす影響は少なくなく、両称呼は、これらをそれぞれ一連に称呼するときは、互いに聞き分けることができるというのが相当である。
ウ 観念について
本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないから、観念上においては比較することができない。
(4)請求人の主張について
請求人は、本件商標の指定商品とりわけ、オフィス用家具の取引形態としては、インターネットやFAX等を利用した文書による注文がその多数を占めているのが実情であるから、本件商標及び引用商標の類否判断においては、商標の類否判断における外観、称呼、観念の3つの判断要素のうち、外観における類似性に比重をおいて判断するべき旨主張する。
しかしながら、本願の指定商品が常に商標を視覚で認識する取引形態であるからといって、一概に、称呼、観念よりも外観を重視すべきものとまではいえず、しかも、本願商標と引用商標とは、上記(3)アのとおり、外観においても非類似の商標である。
したがって、請求人の被告の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上よりすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼のいずれの点においても類似するものではなく、観念においても両者が相紛れるおそれがあるとするような特段の事情は見いだせないから、両者は、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 請求人の使用する商標の周知性について
(1)請求人が提出した甲各号証によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 請求人が、1792年に創業し、現在では、営業品目として、事務用品、事務用紙工品、各種家具、インテリア用品等を取り扱っている企業であること(甲7)。
イ 請求人が昭和37年(1962年)に、直立して折りたためるテーブル「デリカテーブル」を開発、発売を開始したこと(甲8ないし甲10)。
ウ 1964年から2014年に至るまでの請求人の商品カタログには、「デリカテーブル」「デリカフラップテーブル」(商品:折りたたみ式テーブル)、「デリカ手提金庫」(商品:手提金庫)、「デリカ 完全耐火金庫」(商品:金庫)、「デリカシステムファニチュア」(商品:家具)、「デリカラック」(商品:ラック)、「デリカ講演台」及び「デリカミニ講演台」(商品:講演台)、「デリカフアミリーデスク」(商品:家庭用机)、「デリカファミリーチェアー」(商品:家庭用椅子)、「デリカステージ」(商品:折りたたみ式ステージ)、「デリカステップ」(商品:昇降用ステップ)が商品の写真とともに掲載されていることが認められること。
加えて、1965年から1976年までの当該商品カタログには、「DELICA tables」「DELICAFOLDING TABLES」(商品:折りたたみ式テーブル)、「DELICA hand safe」(商品:手提金庫)、「DELICA fireproof safe」(商品:金庫)、「DELICA system furnitures」(商品:家具)、「DELICA STAGES」「DELICA FOLDING STAGES」(商品:講演台)及び「DELICA RACKS」(商品:ラック)の記載がされていること。
さらに、1964年から1972年までの当該商品カタログの表紙の次頁又は裏表紙の前頁には、「主なる商標」、「わが社の商標」及び「弊社の商標」の見出しのもと、「Delica」の欧文字及び「デリカ」の片仮名とともに「世界で最初のフォルディングテーブルとして開発されたデリカテーブルに使用しています。」の記載が認められること。さらに、1973年から2014年までの当該カタログの表紙の次頁又は裏表紙の前頁には、請求人の代表的な商標として「Delica」の欧文字及び「デリカ」の片仮名又は「デリカ」の片仮名と「Delica」の欧文字を二段に表した商標の記載がされていること(甲11)。
エ 昭和41年から同45年にかけて「デリカテーブル」の文字(一部は、「デリカ」と「テーブル」の文字を二段書きして表している。)を商品「折りたたみテーブル」の広告として新聞及び雑誌に掲載していること(甲12及び甲13)。
オ 2002年、2012年及び2014年には「DELICA Flap Table」の文字を商品「折りたたみテーブル」の広告として雑誌に掲載していること(甲15)。
カ 請求人による商品の年別売上として商品名「デリカフラップテーブル」「デリカテーブル」、「デリカステージ」及び「デリカステップ」の売り上げの合計が2004年度から2013年度にかけて、約15万台、約40億円の売上げがあったことの記載があること(甲17)。
(2)小括
前記(1)で認定した事実によれば、請求人は、事務用品、事務用紙工品、各種家具、インテリア用品等を取り扱う企業であって、本件商標の登録出願前の1964年から現在に至るまで、「Delica」又は「デリカ」の文字と商品の普通名称等を組み合わせた文字からなる標章を商品「折りたたみテーブル」等に使用していることが認められ、「デリカフラップテーブル」又は「デリカテーブル」の片仮名を付した商品「折りたたみテーブル」が相当数の売上げがあったことが認められる。
また、「Delica」及び「デリカ」の標章は、「折りたたみテーブル」等の商品を紹介した請求人の商品カタログに請求人に係る商標として、紹介されていることが認められる。
そうすると、請求人の使用に係る「Delica」及び「デリカ」の文字からなる引用商標は、少なくとも商品「折りたたみテーブル」等のオフィス用の家具等について、一定程度、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の出願及び登録査定時において需要者の間に広く認識されていたというべきである。
3 商標法第4条第1項第10号の該当性について
前記1のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似の商標というべきである。
したがって、本件商標と引用商標とは、引用商標の周知性を考慮しても、非類似の商標というべきものであるであるから、本件商標は商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号の該当性について
本件商標と引用商標とは、前記3のとおり、引用商標の周知性を考慮しても、非類似の商標というべきものでものであって、請求人が提出する全証拠によっても、取引者、需要者が、本件商標と引用商標との間で具体的に出所の混同が生じるおそれがあると認めるに足りる証拠はない。
してみれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者が引用商標を想起、連想して、当該商品を請求人の業務に係る商品、あるいは、同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤信するとは認められず、本件商標の出願及び登録査定時においても商品の出所について混同するおそれがあるとすることはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
なお、請求人は、請求人の使用商品である「折りたたみ式テーブル、講演台」等は、会社等の組織において使用される商品であって、当該商品は、数年以上継続して使用されるものであるため、需要者である会社の総務担当者等は、予算内で購入できることに主眼が置かれる傾向にあり、当該商品に付された標章を注意深く観察して購入するほどの注意力をもって接することはない旨主張する。
しかし、請求人は、これを裏付ける何らの証左も提出しておらず、会社等の組織において購入される商品の場合には、むしろ、会社の担当者は、製造会社名、商標、品番、個数、金額等を確認したうえで購入のための事務処理を行うことが通常であることから、前記主張は採用することができない。
5 商標法第4条第1項第19号の該当性について
本件商標と引用商標及び請求人使用標章とは、前記3のとおり、非類似の商標であって、また、不正の目的をもって使用をするものと認めるに足る証拠も見いだせないから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 結論
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、第10号、第15号及び第19号のいずれの規定にも違反してされたときに該当しないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすべきものでない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2015-05-01 
結審通知日 2015-05-08 
審決日 2015-05-19 
出願番号 商願2014-10710(T2014-10710) 
審決分類 T 1 11・ 253- Y (W20)
T 1 11・ 262- Y (W20)
T 1 11・ 222- Y (W20)
T 1 11・ 263- Y (W20)
T 1 11・ 252- Y (W20)
T 1 11・ 261- Y (W20)
T 1 11・ 271- Y (W20)
T 1 11・ 251- Y (W20)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齋藤 貴博 
特許庁審判長 田中 幸一
特許庁審判官 前山 るり子
早川 文宏
登録日 2014-07-25 
登録番号 商標登録第5689311号(T5689311) 
商標の称呼 デリコ 
代理人 松沼 泰史 
代理人 高柴 忠夫 
代理人 志賀 正武 
代理人 特許業務法人創成国際特許事務所 

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