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審決分類 |
審判 全部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない W21 審判 全部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効としない W21 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W21 |
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管理番号 | 1301659 |
審判番号 | 無効2013-890089 |
総通号数 | 187 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2015-07-31 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2013-12-04 |
確定日 | 2015-05-11 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第5599510号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5599510号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成24年8月29日に登録出願、第21類「猫用トイレ砂」を指定商品として、同25年5月29日に登録査定、同年7月19日に設定登録されたものである。 第2 請求人の主張 請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書及び弁駁書において、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。 1 請求の理由 (1)商標法4条第1項第7号該当性について 本件商標は、株式会社ゼオライトジャパン(以下「ゼオライトジャパン」という。)により登録された登録意匠第774940号(甲2)(以下「本件関連登録意匠1」という。)と酷似する。また、本件商標は、ゼオライトジャパンにより登録された登録意匠第1007326号(甲3)、同登録意匠の類似第1号(甲4)及び類似第2号(甲5)(以下、登録意匠第1007326号及びその類似意匠を「本件関連登録意匠2」という。また、以下、本件関連登録意匠1と本件関連登録意匠2を総称して「本件関連登録意匠」という。)と酷似する。 本件関連登録意匠1は、被請求人により請求された、平成8年審判第863号(甲6)により登録無効とされたが、その意匠権者であるゼオライトジャパンの製品の広告記事及び写真版によって表された意匠に酷似するとして登録無効されたものであって、その意匠はゼオライトジャパンのA氏(以下「A氏」という。)が創作した意匠であることには相違ない。本件関連登録意匠1に示される、ほぼ正面を向いた座位の毛の長い1匹の猫の写真等の著作権は、請求人が有するまでは、ゼオライトジャパンが有していたものである。 ゼオライトジャパンは、本件商標の出願日前の平成11年4月には、本件関連登録意匠及び本件商標に酷似する意匠の包装用袋を使用したネコ砂を製造、販売していた(甲7)。 そして、本件関連登録意匠1は意匠権者自身の実施により無効となったが、そのブランド及び写真等の著作権は本件関連登録意匠2と共に、ゼオライトジャパンから請求人に譲渡されている。甲第8号証に示す営業譲渡契約書によれば、本件商標の出願日前の2005年(平成17年)7月25日に、ゼオライトジャパンから、ネコ砂事業部門に関する営業について、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権が請求人に譲渡されている。 請求人は、ゼオライトジャパンから譲渡された著作権、工業所有権、ブランド等に基づき、(イ)全体が縦長方形状であって、(ロ)周囲に余地を残して、正方形の枠を設け、(ハ)その枠の内側にほぼ正面を向いた座位の毛の長い1匹の猫の写真を大きく現し、(ニ)各枠内を除く背景に左上から右下に向かって下がる明暗交互のやや太い斜縞模様を現した意匠の包装用袋を使用したネコ砂を現在、販売している(甲9)。 これに対し、被請求人は、請求人に対し、平成25年10月21日付けで、本件商標に基づく商標権侵害差止等を請求している(甲10)。 このように、本件商標は、被請求人らが、他人の商標かつ他人の意匠かつ他人の著作物であることを知りながら出願し、登録を受けた商標であって、かかる登録は剽窃的である。本件商標は、請求人の商標(甲9)が未登録であることを奇貨として、甲第10号証に示す商標権侵害差止等の請求により不正の利益を得る意図で出願し、登録したものであることは明らかである。特に、本件商標が平成25年7月19日に登録され、公報発行日の同年8月20日から登録異議申立期間の2か月を経過した直後の同年10月21日に訴状が提出されていることからも、被請求人らは、請求人の営業活動を妨害する意図で本件商標を出願、登録したことが窺える。 したがって、このような被請求人らの不正行為は、公正な取引秩序を乱すおそれがあり、その独占使用を認めることは、取引秩序の維持という商標法の目的に反するものであって、社会的弊害が甚大であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号により、商標登録を無効とすべきである。 (2)商標法第3条第1項第3号該当性について 本件商標は、子猫の写真を中心に、ごく簡単な輪郭と斜線のありふれた背景とを結合させた商標であるから、猫用の品質・用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標である。猫の写真と輪郭、背景のみから成る商標は、一般に使用されており、自他商品識別力がない商標である。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号により、商標登録を無効とすべきである。 (3)商標法第3条第1項第6号該当性について 本件商標は、子猫の写真を中心に、ごく簡単な輪郭と斜線のありふれた背景とを結合させた商標であるから、商標法第3条第1項第3号に該当しない場合でも、自他商品識別力がなく、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標である。猫の写真と輪郭、背景のみから成る商標は、一般に使用されており、自他商品識別力がない商標である。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第6号により、商標登録を無効とすべきである。 (4)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第3条または第4条第1項に該当し、商標登録を受けることができないものであるから、その登録は商標法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。 2 弁駁の理由 (1)本件関連登録意匠に関する被請求人の主張について 被請求人らは、本件関連登録意匠について、出願人が創作者を偽り、公知の意匠を無断で出願し、事情を知らない審査官により登録されたにすぎない旨、さらに、本件関連登録意匠は株式会社ゼオライトジャパンが単独で所有していたものではない旨を主張する。 しかしながら、本件関連登録意匠は、創作者を偽って出願されたものではなく、ゼオライトジャパンは、その創作者で、代表取締役であるA氏から正当に意匠登録を受ける権利を譲り受け、その意匠を包装袋に使用し、販売し、その正面は商標としても機能してきたものである。そして、少なくとも、本件関連登録意匠2は、甲第8号証に示す営業譲渡契約書により請求人にそれら意匠権を譲渡する前または後に、被請求人ら又は第三者に譲渡されてはおらず、ゼオライトジャパンの単独の権利であり、ゼオライトジャパンから請求人のみに譲渡され、請求人は、以降、その意匠および商標を継続して使用しており、その商標は本件商標の出願の際には、請求人の商標として周知に至っている(甲11、甲12)。 したがって、本件商標は、被請求人らが、他人の商標かつ他人の意匠かつ他人の著作物であることを知りながら出願し、登録を受けた商標であって、かかる登録は剽窃的であり、その独占使用を認めることは、取引秩序の維持という商標法の目的に反するものであって、社会的弊害が甚大であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第7号の規定により、商標登録を無効とすべきである。 (2)本件商標の採択、3社から被請求人2社の所有に至る経緯に関する被請求人の主張について ア 商品開発、商標の採択に関する主張について A氏は、ベントナイトに若干の付加材を加えて尿を固化し、脱臭力もあるすぐれたペット用便器用砂を完成、被請求人である株式会社スーパーキャット(以下「スーパーキャット」という。)のB社長(以下「B氏」という。)、有限会社バンノーサンド社(以下「バンノーサンド社」という。)のC社長(以下「C氏」という。)に製品を示して、商品を提携して販売することを申し出るとともに、その商品の名称を「スーパーDCデオドラントクリーン」とし、本件商標のデザインを考案した。商品開発は、ゼオライトジャパンと被請求人ら二社(以下「3社」という。)が製品を共同開発したのではなく、A氏が単独で開発したのである。A氏は、「スーパーDCデオドラントクリーン」を単独で商標登録第2008154号として商標登録(以下、その商標を「本件関連登録商標」という。)し、被請求人らはその使用許諾を受けていた。ところが、商品の販売が飛躍的に伸びると、被請求人らはA氏が経営するオクト科学株式会社を通さずに製品を販売するようになり、品質が粗悪になった。そこで、A氏は、被請求人らに対し、本件関連登録商標の使用中止と、品質規格の調整を要望したが、被請求人らは回答しなかったので、その商標使用許諾契約は終了したと通知したところ、被請求人らは、本件関連登録商標について無効審判を請求した(平成1年審判第17081号)が、平成9年9月10日に「本件審判の請求は成り立たない。」との審決がなされ、確定したものである。 したがって、被請求人らがベントナイトを原料とする猫砂は3社の開発であると主張するのは間違いであり、本件商標のデザインは、A氏が創作したものである。 イ 3社による商品の展開に関する主張について 被請求人らは、「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字と、「猫の写真を赤色輪郭内に表わし、それを細い多数の斜線で囲んだ独特のパッケージデザイン」の図形(以下「猫と斜線の図形」という)は、3社の商標、自他商品の識別標識として使用され、市場で認知されてきた。」と主張するが、その猫と斜線の図形は、専らゼオライトジャパンが使用しており、被請求人らは他のデザインを主として使用し、猫と斜線の図形の使用は多くはなかった。 また、被請求人らは、ゼオライトジャパンの包装デザインについて、「猫を囲む輪郭線の形状は本件商標とは相違している。」と主張するが、本件商標は、その輪郭線が単純な輪郭形状であり、斜線と猫の写真を用いた点は、全体として本件関連登録意匠2に類似するものであり、他人の商標かつ他人の意匠かつ他人の著作物であることを知りながら登録出願し、登録を受けた商標であって、本件商標登録が剽窃的であることに変わりはない。 ウ 請求人への営業譲渡に関する主張について 被請求人らは、本件関連登録商標を請求人が違法に使用していたと主張するが、請求人は本件関連登録商標を使用したことはない。被請求人らは、ゼオライトジャパンがその商標権の持分を請求人に持分譲渡することに同意しなかったため、ゼオライトジャパンがベントナイトを原料とする猫砂を製造し、本件関連登録商標又は「スーパーDC」の商標を付した包装袋に入れたものを請求人が仕入れ、包装袋に、「製造株式会社ゼオライトジャパン販売新東北化学工業株式会社」と表示して販売していたのであるから、その商標の使用者は、ゼオライトジャパンであって、請求人ではない。 ゼオライトジャパンは、破産手続きが開始された以降、本件関連登録商標又は「スーパーDC」の商標を使用していない。請求人も、該商標を付した製品を取り扱っていない。被請求人らは、請求人が「『スーパーDC DCゴールド』、『スーパーDC DCオリジナル』を引き続いて使用している。」と主張するが、それらの商標を使用するのは、インターネット販売業者であって、請求人ではない。その使用は、各販売業者又はインターネットの技術上の問題であって、請求人の責任ではない。 被請求人らは、本件関連登録商標がゼオライトジャパンから持分譲渡されて3社共有となったことからあたかも本件商標のデザインも3社共有であったかのように主張するが、本件関連登録意匠は、ゼオライトジャパンから被請求人らには持分譲渡はされておらず、それらの意匠権は、平成17年7月25日の営業譲渡により請求人が所有していたものである。被請求人らの本件商標の取得は、請求人の商標が未登録であることを奇貨として、不正の利益を得る意図で登録したものである。 (3)被請求人のその他の主張について ア 被請求人らは、本件商標は、ゼオライトジャパンが使用する包装デザインと異なり、被請求人らのみが使用していたように主張するが、同じ猫と斜線のデザインであって、枠の形状が若干異なるだけで、本件商標が剽窃的であることに変わりはない。また、被請求人らは、甲第9号証に示す請求人の使用が本件商標の出願・登録後の使用であり、違法である旨主張するが、請求人は、営業譲渡を受けた平成17年7月25日以降、その意匠及び商標を継続して使用しており、その商標は本件商標の出願の際には、請求人の商標として周知であるから、被請求人らの主張は到底認められるものではない。 イ 被請求人らは、なんらの根拠もなく、A氏が本件関連登録意匠の創作者ではないと主張しているが、ゼオライトジャパンが請求人に譲渡したのは、請求人に独占的に実施させることを意図したのであって、それは被請求人らも承知していたことである。 ウ 被請求人らは、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権について、ゼオライトジャパン単独の権利はないと主張するが、ゼオライトジャパンの持分譲渡により3社共有となった本件関連登録商標を除き、それらの各権利はゼオライトジャパン単独の権利であって、請求人に営業譲渡されたものである。 第3 被請求人の答弁 被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第25号証を提出した。 1 本件関連登録意匠 本件関連登録意匠の存在があるからといって、請求人の権利、請求人が譲り受けたと主張する著作権、工業所有権、ブランド等の営業権の譲渡の根拠となるものではない。これらの意匠登録は、当該出願人が創作者を偽り、公知の意匠を無断で出願し、事情を知らない審査官により登録されたにすぎない。かかる登録の存在をもって、請求人の権利の存在を証明しうるものではない。 請求人は、甲第8号証の営業譲渡契約書により、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権の譲渡を受けたと主張するが、ゼオライトジャパン自体が当該権利を単独で有していたものではない。 2 本件商標の採択、3社から被請求人2社の所有に至る経緯 (1)商品開発、商標の採択 被請求人、スーパーキャットとバンノーサンド社の代表者は、昭和47年ころからゼオライトを原材料とする猫用便器の砂の製造販売事業を行い、原料の仕入れや情報の交換などで協力していた。昭和58年頃からは、2社で紙製猫砂「ペパーレMIX」を統一ブランドで販売する事業を展開して成果を上げていた。 ゼオライトジャパンは、昭和58年12月にA氏により設立された。A氏は、スーパーキャットのB氏に猫砂の共同事業を持ちかけ、B氏が興味を持っていたベントナイト製の猫砂の成分、原料の入手が明らかになったことから、バンノーサンド社にも参画を呼びかけ、3社の共同事業が開始された。 昭和60年、ベントナイトを材料とする猫砂の展開を3社共同で開発することとし、原料サンプルの確認、ネーミング、パッケージデザインの決定、商品広告の企画及び依頼、パッケージ業者の選考などの開発作業の全てを共同で行った。3社の共同開発は、完全な対等であって、商標を含むパッケージデザインの選定などの重要事項は必ず3社の合意によることとし、費用は各3分の1ずつ負担し、バーコード制作、デザイン料、パッケージ及び広告用写真代、袋の版代、広告費用も各3分の1ずつ負担した。 商品のネーミング及び表示を含む包装デザインについて、3社の合意により、消臭清掃を意味する「デオドラントクリーン」の頭文字「DC」にスーパーを付した「スーパーDC」と決定し、商品の内容を表示する「デオドラントクリーン」の文字を付記することとした。包装袋のデザインについて、3社の協議をもとに、猫(チンチラゴールド)の写真と商品名を表示する窓を描き、周囲を斜線で囲ったデザインに決定した。 (2)3社による商品の展開 3社は、各社が自らの事業として、同一商標、同一パッケージで同じ商品(乙4ないし6)の製造、販売する事業展開を開始した。ペットブームの始まりの時期に、脱臭効果が高く清掃が容易な画期的な新商品を、中小の業者とはいえ、3社の共同で展開したことで、高い評価を受け、その商品は3社の主力商品に育ち、発売後直ちにトップ商品となり各社の利益も増大した。当時のこの種商品として異例の全国紙への広告、月刊誌「猫の手帳」などへの掲載記事など、積極的な宣伝広告活動を共同で展開し(乙7?乙12)、「スーパーDC/デオドラントクリーン」及び猫と斜線の図形は、3社の商標として、周知、著名なものとなった。 3社は頻繁に会合を持ち、共同して商品の開発、宣伝広告、営業活動などを展開し、順調に発展を継続していた。3社は、完全に対等の立場で、商品開発、宣伝広告を共同して行い、費用も3等分して、各社で負担してきた。その間、ゼオライトジャパンより何らの要求もなされなかった。 ゼオライトジャパンは、被請求人に秘匿して自らの単独名義で、本件関連登録商標の出願、登録を取得し、事業が順調になった段階で、商標登録を根拠に被請求人に商標使用料を要求するに至ったが、被請求人は、その要求を拒み紛争となったが、ゼオライトジャパンと被請求人は、平成11年4月、上記商標登録を3社の共有とすることで解決した(乙3)。 「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字と猫と斜線の図形は、3社の商標、自他商品識別標識として使用され、市場で認知されてきた。3社は、この間、長期間にわたり乙13号証の広告など活発な宣伝広告活動、営業活動を継続している。 当初、3社とも完全に一致する態様で文字、図形を使用していたが、ゼオライトジャパンは「スーパーDC」を使用しつつ、猫と斜線の図形については、一部修正した態様に変更して使用するようになり(乙18、19)、甲第7号証に示されるゼオライトジャパンの多種類の「スーパーDC」をみると、本件商標とは相違しており、平成11年の時点で、既に同社は当初の態様で図形を使用しておらず、本件商標そのものの図形は、被請求人2社のみが使用する商標となっていた。 (3)請求人への営業譲渡 甲第8号証(2005年(平成17年)7月25日付け営業譲渡契約書)では、ゼオライトジャパンは、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権を請求人に譲渡したとしている。 しかしながら、共有にかかる商標権の持分を譲渡するには他の共有者の同意を得なければ譲渡できず、使用を許諾することもできない(商標法第35条で準用する特許法第73条)。 特許法、商標法が共有にかかる特許権、商標権は、他の共同者の了解なしに移転できないし、使用許諾もできないとする趣旨は、3社の共同使用にかかる図形商標の使用についても同様であり、また図形の共同使用に関する地位についても、他の共同使用者の合意を得ることなしに、移転できないし、許諾することもできない。 請求人は、当該営業譲渡によるとして、平成17年、当初は自らの製造、販売として、「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字を使用していたものの、被請求人の抗議を受けると、以後は包装に製造者ゼオライトジャパン、販売者請求人と表示して「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字を使用するようになった。請求人の行為は、製造者を共有者と偽装する脱法行為であって、共有に係る商標権侵害行為を構成する違法な使用に他ならない。被請求人は、請求人に対し、かかる偽装行為の責任を追及すべく、甲第10号証の訴訟(商標権侵害差止等請求事件)を提起した次第である。 (4)株式会社ゼオライトジャパンの破産 平成24年9月5日、ゼオライトジャパンについて破産手続開始決定の申立がなされた(平成24年(フ)第10353号)。被請求人は、裁判所の許可を得て、ゼオライトジャパンの持分を譲り受け、平成24年11月16日、商標登録第2008154号商標権は、被請求人2社の共有となり、現在に至っている(乙3)。 請求人は、ゼオライトジャパンの破産により、その商品名を「DCゴールド」、「DCオリジナル」に変更したとしているが、「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字のみならず、猫と斜線の図形も3社の共同使用に係るものであったことを知りながら、請求人は、猫と斜線の図形の使用継続を図るとともに、有力通信販売サイトにおける販売に際して「スーパーDC DCゴールド」、「スーパーDC DCオリジナル」を引き続いて使用している。 3 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)本件商標の登録の経緯 「スーパーDC/デオドラントクリーン」の文字と猫と斜線の図形は、昭和60年の採択以来、被請求人とゼオライトジャパンの3社の共同所有にかかるところ、ゼオライトジャパンの破産により、平成24年11月16日、登録第2008154号「スーパーDC/デオドラントクリーン」商標権は、被請求人2社の共同所有となったものであり、本件商標の被請求人2社による登録の取得は正当なものである。同様に、猫と斜線の図形は被請求人2社のものとなり、当該2社による商標の出願は当然である。なお、それ以前から、既にゼオライトジャパンは、破産状態、破産となっていたのである。 平成11年には、ゼオライトジャパンは、本件商標に示す猫と斜線の図形を修正して使用しており、当時、本件商標は、被請求人2社のみが使用する商標であった(甲7、乙18、乙19)。被請求人は自ら使用する商標を出願、登録したものであって、これが何らの法律、法秩序、モラルに違反するものではない。 (2)本件関連登録意匠1、平成8年審判第863号審決公報(甲6) ア 請求人は、本件関連登録意匠1の意匠公報をもって、当該意匠がゼオライトジャパンのA氏により創作されたことを証明すると主張するが、願書に同氏を創作者と記載した出願がなされそれが登録されたというに止まり、創作されたことを証明するものではない。当該意匠はA氏の創作にかかるものではない。 イ 審決には「甲号意匠は、(一部略)本件登録意匠権者の製品であることが認められ、」なる記載がある(甲6)が、当該甲号意匠は、昭和60年10月26日付サンケイ新聞夕刊2版には、同社(ゼオライトジャパン)と並んで被請求人2社との名称等が記載されている(乙2)。審決は、3社の製品であることを認めているのである。 甲第7号証に示されるとおり、平成11年にはゼオライトジャパンは、既に甲第2号証の態様を使用しておらず、本件商標は、被請求人2社のみが使用する商標であり、ゼオライトジャパンの破産により、被請求人2社に属している。 被請求人による本件商標の登録が公序良俗に反するとの請求人の主張は、理由がない。 (3)本件関連登録意匠 請求人は、本件商標が本件関連登録意匠と類似すると主張するが、この点の主張も不可解である。そもそも、本件関連登録意匠は、本件関連登録意匠1と同様、出願前公知の意匠であるし、出願における創作者の記載のみを根拠に、意匠の創作者であることを証明できるというものでもない。 なお、これら登録は存続しているものではなく、無効審判を請求する必要もない。 (4)営業譲渡 請求人は、甲第8号証の規定を根拠として、請求人がゼオライトジャパンから、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権を譲渡されていると主張するが、本来共有、共同使用にかかり、他の共有者、共同使用者の同意を得なければ譲渡できないもの、権利が存続していないもの、無効理由を有するものを対象と記載しているにすぎない。 (5)訴え提起の予告 請求人は、被請求人の訴状(甲10)を提出し、かかる法的請求をなすことが、不正の利益を得る意図で出願したことを示していると主張しているが、裁判所に訴えを提起することが、不正とされるのは理解に苦しむところであり、理由がないことは明らかである。 請求人は、訴え提起が異議期間経過の直後になされたことを強調して、営業活動妨害の意図と主張しているが、被請求人は、平成24年以来警告を行い、異議期間経過前に、訴訟提起を行う意思を提示しており、請求人の主張は不可解といわざるを得ない。すなわち、被請求人の平成25年7月22日付け警告書には、被請求人の主張が明確に示されており(乙22)、請求人が異議申立てを行い得る機会があるにもかかわらず、「裁判所を通じての解決を図らざるをえない。」と言明している。 (6)請求人の登録尊重の意思の表明 請求人の平成25年7月3日付け回答書(乙21)及び同年8月5日付け回答書(乙23)からすれば、 請求人は、本件商標が正当に登録されたものであることを認め、それに沿って行動する意思を明らかにしつつ、その違法な使用を止めることなく継続し、被請求人がやむなく訴訟提起を行うに至り、当該登録の無効を苦し紛れに主張しているにすぎない。 (7)紛争の背景 本件紛争の背景にはゼオライトジャパンの登録制度や手続の悪用を指摘できる。 本来、3社共有である商標、意匠を単独名義で出願していること、自ら公知であることを知って多数の意匠を出願していること、商標登録簿上をみても、同社の名称、住所を繰り返し変更して、法的主体の継続の理解を難しいものとしつつ、巧妙に同一の名称、住所に戻す操作をしていることが判る。甲第8号証では、本来、他の共有者の同意を得なければ移転できない共有商標権の持分を、あたかも自らの権利のごとく譲渡している。 4 商標法第3条第1項第3号及び第6号該当性について (1)本件商標の標識的な構成(構成上の顕著性) 本件商標は、中央の黄色を基調とする写真と背景、赤色の独特の輪郭線、多数の細い斜線で構成されるその全体は他に類例のない顕著な構成態様からなるものであって、これが、単なるデザインあるいは本件指定商品の内容を表わす一般的な表示ではない。 本件商標と同一、酷似する構成が一般的な表現、各社が使用している表現という事情はなく、ありふれた表示法、記述的な表示法というものではない。本件商標は、自他商品識別力を有する外観構成からなり、その独占適応性について否定されるものではない。 (2)本件商標の市場における認識(使用における顕著性) 本件商標は、昭和60年以来、被請求人とゼオライトジャパンの3社により使用され、ゼオライトジャパンは平成11年には一部修正し、平成24年には破産となり、被請求人2社のみが現在まで使用してきたものである。3社あるいは現在の被請求人2社の商標として、永年にわたり使用され、市場において周知となっている標章であって、これが自他商品識別標識として、取引者、需要者に認識され、価値ある商標として機能していることが明らかである。 よって、本件商標は、被請求人の永年にわたる使用を通じ、市場の実態に即して、強い自他商品識別力を現に有しているものである。 5 むすび 以上のとおり、本件登録の登録は、商標法第4条第1項第7号、同法第3条第1項第3号及び同第6号に違反してされたものではないから、その登録を無効とされるべきものではない。 第4 当審の判断 1 商標法第4条第1項第7号該当性について (1)商標法第4条第1項第7号の趣旨について 商標権の帰属と商標法第4条第1項第7号の関係については、「商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き、その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には、その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし、同号が『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』として、商標自体の性質に着目した規定となっていること、商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること、及び、商標法においては、商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば、商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである」(平成14年(行ケ)第616号 平成15年5月8日判決言渡)とされている。 (2)本件関連登録意匠等の移転について 請求人は、甲第8号証に示す営業譲渡契約書によれば、本件商標の出願日前の2005年(平成17年)7月25日に、ゼオライトジャパンから、ネコ砂事業部門に関する営業について、著作権、工業所有権、ブランド等の営業権が請求人に譲渡されているとし、本件関連登録意匠1は意匠権者自身の実施により無効となったが、そのブランド及び写真等の著作権は本件関連登録意匠2と共に、ゼオライトジャパンから請求人に譲渡されていると主張し、それを前提に本件商標の登録が剽窃的で、不正の利益を得る目的によるものと主張している。 営業譲渡契約書は、ゼオライトジャパンを甲、請求人を乙とした契約書であり、その第1条第4項には、「本契約書において『営業権』とは、甲のネコ砂事業を継続して営む上で必要となる、特許権、契約、ブランド等をいうものとし、詳細は本契約書第4条にて規定される。」と、第4条第1項には、「『営業権』とは、『譲渡営業』に関連する、別紙3に記載された、甲が保有する特許権、著作権、工業所有権、契約、ブランド等に加え、甲が保有する営業上のノウハウ等をいうものとする。」とあり、第6条において、譲渡期日を2005年8月2日とする旨が定められている。 しかしながら、同契約書には、譲渡対象となった具体的な登録意匠や登録商標等までは明らかにされておらず、さらに、意匠登録原簿によれば、本件関連登録意匠2が請求人に譲渡されたとの設定登録はされていない。加えて、本件関連登録商標も、商標登録原簿によれば、本件関連登録商標が請求人に譲渡されたとの設定登録もされていないばかりか、ゼオライトジャパンの持分を含め、スーパーキャットとバンノーサンド社への移転の設定登録がされている。そして、意匠法第36条及び商標法第35条において準用する特許法第98条第1項第1号により、意匠権及び商標権の移転は、一般承継を除き、登録しなければその効力を生じない。 そうすると、請求人の提出の甲各号証をもって、本件関連登録意匠2等が請求人に譲渡されていたということはできない。 なお、仮に、甲第8号証に示す営業譲渡契約書が本件関連登録意匠2を請求人に移転する内容を含んでいた場合を想定しても、本件関連登録意匠2の移転の登録をしなかったのは譲受人である請求人であり、かつ、登録料の不納で平成20年に登録の抹消に至らしめたのも、登録料を納付すべき当時の意匠権者ということになるのであって、その責めは他人に求めることはできないものである。 (3)小括 上記(2)のとおり、請求人の提出の甲各号証をもって、本件関連登録意匠2等が請求人に譲渡されていたということはできない。しかも、本件関連登録意匠2の図形が請求人の業務に係る商品を表示するものとして周知となっているような事情も見いだし得ない。 さらに、商標法は、著作権や意匠権との調整について、それらの権利と抵触する商標を不登録事由として商標登録を排除するのでなく、商標法第29条の規定により、商標登録後に、指定商品のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることを禁ずることとしていることを踏まえると、仮に、請求人が著作権や本件関連登録意匠2の譲渡を受けていた場合を想定しても、その著作権や登録意匠の存在をもって、直ちに本件商標の登録の排除し、その登録を無効にしなければならない理由があるということもできない。 以上のような事情を総合的に勘案するならば、本件商標の登録が剽窃的であるとか、不正の利益を得る目的によるものであるということはできないし、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くといわなければならない事情があるということはできない。 その他、本件商標が公序良俗に反するとしなければならない理由も見いだし得ない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。 2 商標法第3条第1項第3号及び第6号該当性について 請求人は、本件商標は子猫の写真を中心にごく簡単な輪郭と斜線のありふれた背景とを結合させた商標であるから、猫用の品質・用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であり、猫の写真と輪郭、背景のみから成る商標は、一般に使用されており、自他商品識別力がない商標であるから、商標法第3条第1項第3号及び第6号に違反して登録されたものである旨主張する。 しかしながら、本件商標は、左上から右下に向かって下がる多数のやや太めの縞模様を縦長方形内に配し、赤色及び白色の波括弧形状を連続させて正方形様の枠を設け、その枠の内側にほぼ正面を向いた座位の毛の長い一匹の子猫を黄色の明暗で表した写真を大きく配した構成からなるものである。そして、枠内に子猫の写真があるとしても、本件商標は、上述のとおりの構成からなるものであって、縞模様の長方形に赤色の枠を結合させた態様は特異なものであり、甲各号証のみならず本件全証拠によっても、その構成全体が我が国において、本件指定商品「猫用トイレ砂」を取り扱う業界において広く使用されている事実は認めることができないものである。 そうすると、本件商標は、その商品の品質や用途を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標ということはできないものであり、需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができない商標ということもできないものである。 したがって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号及び同第6号に該当しない。 3 結論 以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号並びに同法第3条第1項第3号及び同項第6号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲(本件商標) (色彩は原本を確認されたい。) |
審理終結日 | 2015-03-11 |
結審通知日 | 2015-03-16 |
審決日 | 2015-03-30 |
出願番号 | 商願2012-69843(T2012-69843) |
審決分類 |
T
1
11・
16-
Y
(W21)
T 1 11・ 22- Y (W21) T 1 11・ 13- Y (W21) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉野 晃弘 |
特許庁審判長 |
土井 敬子 |
特許庁審判官 |
林 栄二 大森 健司 |
登録日 | 2013-07-19 |
登録番号 | 商標登録第5599510号(T5599510) |
代理人 | 高橋 康夫 |
代理人 | 楠 修二 |
代理人 | 高橋 康夫 |
代理人 | 須田 篤 |