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審決分類 審判 判定 審理一般(別表) 属さない(申立て不成立) 108
管理番号 1298486 
判定請求番号 判定2014-600026 
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標判定公報 
発行日 2015-04-24 
種別 判定 
2014-06-20 
確定日 2015-03-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第876727号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 商品「剪定鋏」に使用するイ号標章は、登録第876727号商標の商標権の効力の範囲に属しない。
理由 1 本件商標
本件登録第876727号商標(以下「本件商標」という。)は、「名匠」の文字を縦書きしてなり、昭和44年5月17日に登録出願、第13類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同45年10月21日に設定登録され、その後、4回にわたって商標権の存続期間の更新登録がされ、さらに、平成13年4月18日に指定商品を第6類「金属製金具,かな床,金属製締付け金具」及び第8類「手動工具,手動利器」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。

2 イ号標章
被請求人が商品「剪定鋏」について使用する標章(以下「イ号標章」という。)は、別掲のとおりの構成からなるものである。

3 請求人の主張
請求人は、被請求人が商品「剪定鋏」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属する、との判定を求め、その理由を要旨以下のとおり述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出した。
(1)判定請求の必要性
請求人は、本件商標の商標権者であって、被請求人がイ号標章を使用していること(甲1)について、被請求人に対し、平成26年5月1日付けでイ号標章の使用停止を求めたところ、同年5月12日付けで非侵害であるとの回答を受けた(甲4)ので、再度通告を行ったところ、同様の回答があった。
請求人は、今後の対応の方針を得るために、本件商標とイ号標章の類否について本件判定を求めるものである。
(2)イ号標章について
ア イ号標章は、商品「剪定鋏」に使用されている。
イ イ号標章は、別掲のとおり、「名匠」「一刀流」「作」の文字で構成され、「名匠」は横書きされ、「一刀流」は「名匠」の文字より大きい文字で、かつ、書体が相違して縦書きされ、「作」の文字は「一刀流」の文字より小さい文字で書され、その書体は「名匠」と同様の書体で表示されている。
そして、「名匠」は、「名高い工匠、優れて良い腕前の工人」を意味する語句であり、「一刀流」は、「江戸時代の代表委な剣術の一派」を意味するものであって、伊藤一刀斎によって創始された剣術の流儀の名称あり、また、「作」は、「つくること、つくったもの」を意味する。
(3)イ号標章から生ずる取引指標としての称呼、観念
ア 「一刀流」を含む称呼、観念
イ号標章の出所表示機能について着目すると、大きく表示されている「一刀流」に基づいて、「イットウリュウ」の称呼及び「伊藤一刀斎が始祖の剣術の流派の一刀流」の観念が生ずる。なお、被請求人は、登録商標「一刀流」(商標登録第2606711号)を有している。
また、一連に縦書きされている「一刀流作」については、「作」の意味合い、及び一般的に商品の作者の表示手段として「○○作」として使用されていることから、「イットウリュウサク」の称呼が生ずると認められる。しかし、その意味合いを考察すると、通常「○○作」は、特定人か特定の集団の「○○」が作ったものと認識され、それから生じる概念は不自然であり、しいて意味づけすると、「一刀流という特定の剣術の流派に属する人が作った物」といえるが、出所表示機能として需要者が直ちに認識する観念とはいえない。
次に、イ号標章全体を称呼しようとすると「メイショウイットウリュウサク」と称呼される。しかし、「名匠」は、「名高い工匠、優れて良い腕前の工人」を意味するものであり、「名匠○○」は、「○○作」と同様に「○○」は特定人を示すもので、「名匠」と「一刀流作」を組み合わせた「名匠一刀流」の語句から「優れて良い腕前の工人である一刀流という特定の剣術の流派が作った物」と日本語として意味不明になる。
ウ「名匠」の表示に基づく称呼、観念
「名匠」の文字がイ号標章中の他の構成部分である「一刀流作」と一連に表示されていないこと、「名匠」と「一刀流」又は「一刀流作」とは一体不可分となって特定の観念が自然に生じないこと、及び「名匠」の文字が特定の観念を有し独立して取引指標として成立することから、イ号標章は、「名匠」の文字部分が出所表示の指標として機能し、「メイショウ」の称呼及び「名高い工匠、優れて良い腕前の工人」の観念が生ずる。
(4)本件商標とイ号標章の類否
ア 請求人(商標権者)は、本件商標を指定商品中の「替刃式鉋」及び「鑿」に使用し(甲3)、その態様は、「替刃式鉋」について、筆書きで楷書で鉋台上面にラベルで表示しており、「鑿」について、柄部に筆書き楷書のラベルで表示している。
イ 本件商標の指定商品は、第8類「手動工具,手動利器」であり、イ号標章を使用した「剪定鋏」は、第8類「手動利器」に属する商品である。
ウ イ号標章は、上述のとおり、「名匠」の文字部分が独立して認識される表示形態であり、「名匠」が他の表示部分の「一刀流」、「一刀流作」と密接に関連して、一体としてしか把握できないものではない。逆に、一体として把握した場合、日本語の意味合いとして不自然さが残る。
したがって、イ号標章は、「一刀流」の表示に基づく称呼及び観念が生ずるほか、出所表示として「名匠」に基づく称呼及び観念も生ずる。
エ 一個の標章から二以上の称呼、観念が生ずる場合、一つの称呼及び観念が対比商標と非類似であったとしても、他の称呼及び観念が類似するときは、両商標は、類似するものと解される。
イ号標章は、「一刀流」に基づく称呼及び観念のほか、「名匠」に基づく称呼及び観念が生ずるので、本件商標と類似する。
(5)被請求人の回答書(甲4、甲5)の主張に対する反論
ア 一般的に「名匠○○作」という表示は、確かに「優れた工人○○が作った物」との認識が成立するが、例えば、刀の銘に「○○作」と表現するが、作者自らが「名匠○○作」とは表現せず、「名匠○○作」は、当該作品を展示する場合などに使用される。すなわち、商品の取引指標の出所表示として「名匠○○作」と表示することは一般的に行われているとは認められない。
また、イ号標章は、工人に該当する特定人の表示でない「一刀流」又は「一刀流作」に「名匠」を冠としたもので、被請求人の主張する「優れた工人○○の作品」という概念に当てはまらない。
さらに、イ号標章における「名匠」の表示形態が明らかに独立して認識される形態であるから、イ号標章から取引指標として「名匠」が認識され、その結果、「名匠」の文字からの称呼及び観念が生じ、請求人の商品と関連する商品(例えば、名匠シリーズの商品群が存在し、そのうちの一種)と認識される場合もあり得るものであり、本件商標を付した商品と出所混同のおそれが生ずる。
(6)むすび
以上のとおり、イ号標章は、本件商標と類似し、本件商標の指定商品に含まれる商品に使用しているものであるから、本件商標の効力の範囲に属するものとの判定を求める。

4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の判定を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
(1)当事者
被請求人は、昭和12年、全国でも有数の金物の名産地である兵庫県の伝統大工道具メーカーである伊藤金物製作所から卸部門を独立するかたちで個人商店として創業した伊藤商店が母体となり、昭和25年に法人として設立されたDIY関連商品製造卸商社である。
(2)イ号標章
ア イ号標章が剪定鋏に使用されていることは認める。
イ 請求人は、イ号標章が「名匠」、「一刀流」及び「作」の文字で構成されるとして、これらの意味について個別に検討すべきであると主張するが、「名匠」とは、「一刀流」というブランドが高品質であることを示す修飾語であり、「作」は、単に製作者を意味するものにすぎず、これらの文字の意味を個別に論じる意義はない。
被請求人が商標登録しているのは「一刀流」であり(乙2)、「名匠」と「作」は、これらの修飾語にすぎないため、「一刀流」の文字を強調すべく、請求人が対象とするイ号標章は、文字の大きさや並びを変えているが、これらはあくまで一体として表記され、読まれるものであり、商品パッケージ表面の右下の陰影や裏面の標章は、「名匠一刀流作」が同じ並びの中で印字されている(甲1)。
そもそも「名匠」とは、優れた腕をもつ工匠等のことを広くさす普通名詞であり、「作」も製作者を示す意味と広く理解されているものであること、剪定鋏のブランド名であるにもかかわらず「一刀流」の文字をみて、伊藤一刀斎が創始した剣術流派が製作したものなどと取引者、需要者が認識、理解することはありえない。
また、商品を購入する一般消費者が、「名匠」、「一刀流」及び「作」という文字の意味を広辞苑などにしたがって個別に細分化して吟味検討し、個別の称呼ごとにブランドとしての意味を認識、理解するはずがない。
したがって、イ号標章は、「名匠」、「一刀流」及び「作」の称呼、観念、出所識別表示を個別に検討するのではなく、「名匠一刀流作」全体として称呼、観念の意味、出所識別標識を吟味し検討すべきである。
(3)イ号標章から生じる称呼及び観念
ア 上記のとおり、イ号標章は、「名匠一刀流」という文字全体として称呼、観念の意味、出所表示機能を検討すべきであるところ、被請求人が「一刀流」を商標登録しており(乙2)、剪定鋏のブランド名である「一刀流」から、剣術流派が製作したものと一般的に想起されることは考え難く、単なる個別のブランド名と受け取るのが通常であることから、「名匠一刀流作」というイ号標章から生じる観念は、一刀流というブランド名の優れた腕をもつ工匠が作った商品という意味となるものである。
イ 請求人は、一刀流について、伊東一刀斎が始祖の剣術の流派の一刀流という観念が生じると主張するが、そもそも被請求人は、剣道道場を開いているのではなく、剪定鋏などのDIY関連商品を製造する会社であり、イ号標章の対象商品も剪定鋏であることからすると、一刀流という表記から伊藤一刀斎が始祖の剣術流派を観念するとは考えられず、単なるメーカーブランドとしての意味を観念するのが一般的な認識である。
したがって、イ号標章を全体として意味づけした場合、「優れて良い腕前の工人を示すブランド名である一刀流が作った物」あるいは「一刀流というブランド名の優れた腕を持つ工匠が作った商品」等を観念されるものと考えるのが自然である。
ウ 被請求人は、イ号標章中、「名匠」が「一刀流」と一連表示されておらず、これらが一体不可分となって特定の観念が生じない、「名匠」が独立して取引指標として成立するなどと主張している。
しかし、「名匠」と「一刀流」は接近して記載している上、「名匠」を一マス分と見た場合、同じ行間で「名匠」、「一」、「刀」、「流」、「作」の文字が並んでおり、商品パッケージの表面右下部の赤字部分や裏面に「名匠一刀流作」と続けて記載されているように(甲1)、誰が見ても一連のものとして表示されていることは明らかである。
また、イ号標章の「名匠」の文字が横書きであって、「一刀流作」が縦書きなのは、「名匠」があくまで一刀流というブランドの品質が良いことをイメージさせる修飾語にすぎないからであり、一連として表示しないのであれば、「名匠」と「一刀流」の文字は、商品パッケージ(甲1)の「播州火造り 秘伝焼入」、「A型剪定鋏」などの他の表記同様に離れて表記されているはずであるが、近接して記載されていることからすると、「名匠」の文字が他の文字より小さく横書きとなっているのは、単に「一刀流」が商標登録されたメインの標章であることを強調するためのデザインにすぎず、「名匠」の文字だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているわけでもないことから、これをもって「名匠一刀流作」が一連に表示されていないなどとすることはできない。
上記のとおり、「名匠一刀流作」は、これらを一体として特定の観念を生じさせるものといえる。
さらに、「名匠」とは、優れた腕をもつ工匠等のことを広くさす普通名詞であり、商品の品質が良いことを想起させる意味合いはあるものの、「高品質」等と同じ程度の意味合いしかないものであり、これをもって取引者、需要者に独立の取引指標、出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものではない。
したがって、「名匠一刀流作」の標章から「名匠」の文字だけを抜き出して、出所表示の指標として機能しているなどあり得ない。
(4)本件商標とイ号標章の類似性
イ号標章を「一刀流」と「名匠」に分けて観念することはできないことから、「名匠一刀流作」というイ号標章と請求人の商標「名匠」を対比して類似性の有無を検討すべきであり、この両者については、請求人自身も類似を主張することができていないことからも明らかなように、類似していないものである。
(5)取引の実情
請求人は、イ号標章を遅くとも平成3年までに自社製品のブランド名として使用し始め、平成3年7月20日に「一刀流」の商標登録を出願した結果、商標登録され現在も存続しているものであるが(乙2)、約23年間、請求人の販売商品の商標「名匠」と誤認混同したという話はこれまで聞いたことがなく、卸先の販売店、需要者からもそのような苦情があがってきたことももちろんない。
そもそも、新潟県在住の請求人の「名匠」という商品の周知著名性は全国的に高いわけでもなく、「名匠」が取引者、需要者に対し、商品の出所識別機能として強く支配的な印象を与えるものではない。
(6)むすび
以上のとおり、イ号標章と本件商標は類似しておらず、出所混同のおそれなど生じるはずがない。

5 当審の判断
(1)本件商標について
本件商標は、前記1のとおり、「名匠」の文字を縦書きに書してなるとこ
ろ、「名匠」の文字は、「名高い工匠。すぐれて良い腕前の工人。名工」(広辞苑第六版)の意味を有する語として広く一般に親しまれているといえるから、該文字に相応して「メイショウ」の称呼及び「すぐれて良い腕前の工人」の観念を生じるものである。
(2)イ号標章について
イ号標章は、請求人の提出に係る甲第1号証に示された被請求人商品「剪定鋏」の包装に付された文字であって、別掲のとおり、縦長の黒色長方形枠内に、上段に「名匠」の文字を横書きし、その下段に大きく太く「一刀流」の文字を筆書き風に縦書きし、該文字の下に、「作」の文字を表した構成からなり、縦長の長方形枠内に同色でまとまりよく一体的に書されているものである。
そして、イ号標章の構成中、「名匠」の文字は、上記のとおり「名高い工匠。すぐれて良い腕前の工人。名工」の意味を有し、広く一般に知られている語であり、イ号標章に係る商品「剪定鋏」及びその関連商品を取り扱う分野においては、「すぐれた良い腕前の工人」による商品であることを表すものとして「名匠」の語が普通に使用されているものと認められるから、「名匠」の文字は、その商品との関係において、自他商品の識別標識としての機能が極めて弱いものというのが相当である。
同じく、「一刀流」の文字は、「江戸時代の代表的な剣術の一派。伊藤一刀斎景久を祖とする。」(広辞苑第六版)の意味を有するものであり、該文字は、その商品との関係において、自他商品の識別標識として機能を十分果たし得るものといえる。
さらに、「作」の文字は、「つくること。また、つくったもの。」の意味を有し、広く一般に知られている語であり、本件商標の指定商品及びイ号標章に係る商品等を取り扱う分野においても、その商品の製作者を表す語として「作」の語が広く一般に親しまれているものといえるから、その商品との関係において、自他商品の識別標識としての機能を有しないか、あるいは、極めて弱いものというのが相当である。
そうすると、イ号標章の構成中、「名匠」の文字のみが独立して取引に資されとはいい難く、強く自他商品識別標識として機能を有する部分は、「一刀流」の文字であって、これに接する取引者、需要者は、該文字をもって取引に資される場合があるというのが相当である。
したがって、イ号標章は、構成文字全体から「メイショウイットウリュウサク」の称呼のほか「イットウリュウ」の称呼をも生じ、「すぐれた良い腕前の一刀流の作品」の観念が生じるものである。
(3)本件商標とイ号標章との類否について
本件商標は、前記1のとおり、「名匠」の文字を縦書きしてなるのに対し、イ号標章は、別掲のとおり、「名匠」、「一刀流」及び「作」の文字から構成されているものであるから、「名匠」の文字を共通にするものの、ほかの文字の有無の相違により、外観において、明確に区別し得るものである。
次に、称呼についてみるに、本件商標から生じる「メイショウ」の称呼とイ号標章から生じる「メイショウイットウリュウサク」及び「イットウリュウ」の称呼とは、その音数及び音構成を明らかに異にするものであるから、明確に聴別し得るものである。
さらに、本件商標は、「すぐれて良い腕前の工人」の観念が生じるのに対し、イ号標章は、「すぐれた良い腕前の一刀流の作品」の観念が生じるものであるから、観念上、相紛れるおそれはない。
そして、イ号標章を使用する被請求人商品「剪定鋏」は、本件商標の指定商品中、第8類「手動利器」の範ちゅうに属する商品といえるものであるから、本件商標の指定商品「手動利器」と同一又は類似の商品である。
以上よりすると、本件商標の指定商品とイ号標章を使用する被請求人の商品とが同一又は類似する商品を含むものであるとしても、本件商標とイ号標章とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れることのない非類似の商標である。
(4)まとめ
したがって、本件商標とイ号標章とは、類似する商標ということはできないから、商品「剪定鋏」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものである。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 イ号標章


判定日 2015-03-10 
出願番号 商願昭44-39104 
審決分類 T 1 2・ 0- ZB (108)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
手塚 義明
登録日 1970-10-21 
登録番号 商標登録第876727号(T876727) 
商標の称呼 メイショー 
代理人 近藤 彰 
代理人 松谷 卓也 

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