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審決分類 審判 一部申立て  登録を維持 W08
管理番号 1298477 
異議申立番号 異議2014-900201 
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2015-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2014-07-16 
確定日 2015-03-06 
異議申立件数
事件の表示 登録第5663766号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第5663766号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第5663766号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成25年10月31日に登録出願、第8類「手動工具,手動利器」、第9類「理化学機械器具,測定機械器具,電気磁気測定器,写真機械器具,映画機械器具,光学機械器具」、第37類「荷役機械器具の修理又は保守,電子応用機械器具及びその部品の修理又は保守,電気通信機械器具(「電話機械器具・ラジオ受信機及びテレビジョン受信機」を除く。)の修理又は保守,土木機械器具の修理又は保守,理化学機械器具の修理又は保守,測定機械器具の修理又は保守,土木機械器具の貸与」、第39類「荷役機械器具の貸与」、第42類「建築物の設計,測量,地質の調査及び研究,地質の調査データの解析及び地質の調査データの解析に基づく評価,地質調査に関するコンサルティング,電子計算機・自動車その他その用途に応じて的確な操作をするためには高度の専門的な知識・技術又は経験を必要とする機械の性能・操作方法等に関する紹介及び説明,計測器の貸与,測定機械器具の貸与,電子計算機の貸与,理化学機械器具の貸与,電子計算機用・携帯電話用プログラムの提供」を指定商品及び指定役務として、平成26年3月27日に登録査定、同年4月11日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するものであるから、第8類「手動工具,手動利器」についての登録は取り消されるべきものである旨申立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第30号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)具体的理由
ア SDS規格について
電動ドリルは、これを把持するためのハンドル部やドリルビットを固定するためのチャック部から成る工具本体と、実際に切削対象物に接し孔を開けるドリルビットから成る(なお、ドリルビットのチャック部と嵌合する部分をシャンク部という。)。
ドリルビットは高速で回転するため確実に本体部に固定する必要があるが、その一方でドリルビットは交換部材であるから容易に着脱できることが望ましい。
そのため申立人が中心となってドリルビットのシャンク部とチャック部双方に特殊な凹凸を設け、この溝が嵌合することで確実にドリルビットを固定する一方、ワンタッチで着脱ができる方法を開発した。
該規格はドイツ語の「Steck」「Dreh」「Sitzt」(「差し込み」、「回すと」、「固定される」の意)に由来して「SDS」と名付けられた。「SDS」はその後の改良を経て「SDS-MAX」や「SDS-plus」と共に現在ではドリルビットの標準的な規格となっている。
この点は、ウェブサイトで「電動工具メーカーの”ボッシュ”の特許だそうですが、ワンタッチで着脱できる便利さがうけて、マキタやヒタチ等の国産メーカーにも幅広く採用され、ハンマードリルのシャンク形状のスタンダードとなっています」(甲2)と紹介されていることや、フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」において「SDSプラス、SDS-max」として「ボッシュの開発した特殊な形状のシャンク」(甲3)と記載があることからも明らかである。
現に、ウィキペディアの「電気ドリル」の記載では「主なメーカー」として申立人を除いて8社が挙げられているが、その中のパナソニック、日立工機、ヒルティ、マキタ、リョービが「SDS」規格を採用している。
また、インターネット検索エンジンの「Google」において「SDS」と「ドリル」を同時に検索すると36万件という膨大な数のヒット数が得られるが、その検索結果を概観すると、もちろん申立人の商品に関するものもあるが、それ以外にも多くの同業他社が「SDS」規格に準じた商品であることを示すための一種の証明標章として使用していることが分かる(甲4?甲16)。
このように「SDS」はドリルビットの規格を示す証明標章として市場に広く浸透している。
申立人はこの「SDS」規格に関連して商標登録第4168620号や同4327540号を所有しており、一定の水準を満たす者についてのみ使用を認めることで「SDS」規格に品質の維持を図っている(甲17、甲18)。
第4条第1項第16号該当性について
(ア)適用要件
商標法第4条第1項第16号は「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」は登録を認めない旨を定めている。
ここで「品質の誤認を生ずるおそれがある商標」について裁判所は「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とは、指定商品に係る取引の実情の下で、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため、商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商品を指すものというべき」と判示する。
そこで、以下、指定商品「手動工具」「手動利器」に係る取引の実情を踏まえて検討する。
(イ)取引の実情について
類似商品・役務審査基準によると本件の指定商品である第8類「手動利器」には「ドリル」が含まれ、「手動工具」には「ドライバー」が含まれる。
こうしたドリルやドライバーはもちろん「手動」であるが、実際の取引現場では「手動」も「電動」も区別することなく「工具」として販売されているのが実情である。
これは昨今のDIYブームにより、従来はプロ用と認識されていた電動ドリルや電動ドライバー、電動のこぎり等について、個人向けのより扱いやすいより低価格な商品が続々と誕生していることが背景にある。
その結果、今までDIY目的に手動のドリルを使っていた人が、現在は手軽に電動ドリルを購入するようになっている。こうした変化は各種ブログやウェブサイトの記載を見れば明らかである。
そのため、DIY用品を販売する取引者はこうした需要者の変化を敏感に捉え、手動も電動も区別なく単に「工具」ないし「DIY工具」として商品をカテゴリー分けし、売り場を設けているのが一般である。
たとえばホームセンターの「HOME’S」のウェブサイトでは「日曜大工・DIY・木材」というカテゴリーの下で「充電式インパクトドライバ(電動ドリル)」と「鉄腕ハサミ(手動工具)」、「ドライバーセット(手動利器)」が紹介されているし、ホームセンター「ビバホーム」のウェブサイトでも「ツールデポ」というカテゴリーの下で「大工工具」と「電動工具」が紹介されている。
実際の売り場の配置を見ても、たとえばホームセンター「Homac」では「工具」の売り場で電動ドリルが販売されている。
このように、実際の取引では「手動工具」「手動利器」と「電気ドリル」等の電動工具は区別されることがないのである。
加えて「ドリルビット」については通常「何を」切削するかによって「木工用」「金属用」等の区別がされ、「何で」切削するかは問題とされないという実情がある。
すなわち、手動ドリル用のドリルビットも電動ドリル用のドリルビットも区別されていないのである。
このように、指定商品「手動利器、手動工具」は実際の取引では「電動ドリル」と区別されずに販売されており、その需要者も一致しているというのが実情である。
(ウ)品質の誤認を生ずるおそれ
以上のような指定商品に係る取引の実情の下で、取引者又は需要者において、本件商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため、商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるかを検討する。
本件商標はゴシック体の欧文字「SDS」の右横に捻った矢印の図形が配されてなる。
欧文字「SDS」と矢印図形が一体不可分でのみ認識されると考える合理的理由は存在しないので、本件商標に接する取引者、需要者は本件商標より「SDS」を看取し、認識・記憶する。
一方、電動ドリルについては「SDS」というドリルビットに係る著名な規格が存在しており、「SDS」規格に合致したドリルビット及び電動ドリル本体については、それが「SDS」規格対応であることを示すために「SDS」の証明標章が付されている。
「SDS」規格は電動ドリルの主要メーカーをはじめ多くの社に採用されており、該商品分野に係る取引者、需要者は「SDS」とはすなわちドリルビットの規格であることを認識している。
本件の指定商品は「手動利器、手動工具」である。しかし、前記のとおり、実際の取引現場では「手動利器」も「手動工具」も「電動ドリル」も区別なく取り扱われているという実情がある。
すなわち、SDS規格に合致したドリルビットを所有する需要者が手動ドリルを購入しようとホームセンターに出かけたところ、本件商標が付された「手動利器」を見つけ、当然にこれが「SDS」規格対応であると思って購入したところ、実際には「SDS」規格に対応した商品ではなかったということが十分に想定し得るのである。
また、「手動工具」に含まれる「ドライバー」にもビットが交換可能であるものが多くある。
こうしたドライバーもビットをチャックで固定する点においてドリルと同様の構造をもつ。
したがって、「SDS」規格のもつ「固定の確実さと着脱の容易さ」に慣れ親しんだ取引者、需要者が、本件商標が付された「ドライバー」について、「SDS」規格と同様の品質(確実に固定でき容易に着脱ができるという品質)を期待することは十分考えられる。
そうとすれば、取引者又は需要者において、本件商標中の「SDS」部分が表示していると通常理解される品質(確実に固定でき容易に着脱ができるという品質)と指定商品が有する品質とが異なるため、商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれは非常に高い。
したがって、本件商標は、その指定商品中「手動利器、手動工具」について、品質の誤認を生ずるおそれがある商標とするのが相当である。
(2)むすび
以上から明らかなように、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当するにもかかわらず商標登録されたものであるから、その指定商品・役務中第8類の商品については、その登録は、商標法第43条の2第1号により取り消されるべきである。

3 当審の判断
(1)商標法第4条第1項第16号該当性について
ア 「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」について
商標法第4条第1項第16号でいう、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」とは、指定商品又は役務に係る取引の実情の下で、公益性を担保するという観点から、取引者又は需要者において、当該商標が表示していると通常理解される品質又は質と、指定商品が有する品質又は役務が有する質とが異なるため、商標を付した商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。(参考:知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10086号 平成20年11月27日判決)
そして、同号でいう、商品の品質又は役務の質とは、抽象的な内容のものを指すのではなく、取引者又は需要者が当該商標から看取する具体的な商品の品質又は役務の質をいうものとみるのが相当である。
イ 本件商標について
本件商標は、別掲のとおり円弧状に捻った矢印の図形と「SDS」の欧文字とを組み合わせてなるものである。
そして、欧文字部分の「SDS」は、特定の意味を有する熟語(成語)としては存在しないものであるから、特定の意味合いを有しない造語とみるのが相当であって、商品の品質を表すものとはいえない。
また、申立人が提出した証拠からも、「SDS」の文字が「手動工具,手動利器」の商品の品質を表すものとすべき事実は見あたらない。
したがって、取引者又は需要者が本件商標に接する場合、その構成中の「SDS」の文字が、第8類「手動工具,手動利器」の商品の品質を表したものであると認識することはないものというべきである。
ウ 申立人の主張について
申立人は、「SDS」の文字を、本件商標の指定商品中「手動利器,手動工具」について使用される場合は、実際の取引では「電動ドリル」と区別されずに販売されており、その需要者も一致しているというのが実情であるから、「手動工具,手動利器」においても電動工具と同様に「SDS」で表される商品の規格と同様の品質があるかのように、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあると主張する。
また、申立人の提出に係る証拠(甲2?甲16)によれば、「SDS」の文字は、申立人により開発された電動工具(コンクリートドリル)のドリルビットの規格の表示又は呼称名として使用されている事実が一定程度認められるものである。
しかしながら、本件商標中の「SDS」の文字が電動工具(コンクリートドリル)のドリルビットの申立人が開発した規格を表示するものとして、申立人の商品(電動工具)に使用しているとしても、本来造語である「SDS」の文字が、「手動利器,手動工具」の機構ないし形状等の品質を明らかに表示するものということはできないし、また、仮に電動工具(コンクリートドリル)の商品が申立人のいうように「SDS」の規格を具有するとしても、単にその構成の一部であるドリルビットだけを挙げて、直ちに、取引者、需要者をして「手動利器,手動工具」といった商品についての規格を連想させるものとは到底解されない。
また、電動工具(電動機を内蔵して木材、金属、コンクリートなどを加工する工具)と手動利器・手動工具(柄やナイフ等作業工具(ハンドツール)と呼ばれる手を原動力とした利器・工具)とでは、その工具の分野でそれぞれの性能、用途等を分かつものであるから、工具がもともと機械加工に用いるもの、電気工事に用いるもの、大工仕事に用いるものなど様々な用途の工具があることを考え合わせれば、たとえ、申立人の主張するように、近時我が国においてDIY商品として同一店舗で販売されたり、作業用、家庭用として工具の普及が多様化、多彩化する等の事情があるとしても、それによって、本件商標中の「SDS」が手動利器、手動工具に使用された場合に、それを電動工具に係る規格と同じ規格に基づく構造をもった商品であるかのように誤認するおそれがあるとは認められない。
してみれば、取引者、需要者が、「SDS」の表示する規格について、コンクリートドリル用(電動工具)のドリルビットの規格であると認識する場合があるとしても、手動工具のドリルビットの品質(規格)であると認識することはないものというのが相当である。
エ 小活
以上によれば、本件商標をその指定商品中、第8類「手動利器,手動工具」に使用した場合、その取引者、需要者は、本件商標の「SDS」の部分から、「電動工具(コンクリートドリル)のドリルビット」の品質(規格)であることを直感、理解し、「電動工具(コンクリートドリル)のドリルビット」と同じ品質(規格)の商品であるかのように、その品質を誤認するおそれがあるものとは認められない。
よって、本件商標における「SDS」の文字は、商標法第4条第1項第16号でいう「商品の品質又は役務の質」を表示する語には該当しないというべきである。
してみれば、本件商標をその指定商品中「手動利器,手動工具」に使用しても、商品の品質の誤認を生ずるおそれがあるとすることはできないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
(2)まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものではないから、商標法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲(本件商標:色彩については、原本を参照されたい。)



異議決定日 2015-02-26 
出願番号 商願2013-85671(T2013-85671) 
審決分類 T 1 652・ 272- Y (W08)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 忠司 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 田中 亨子
井出 英一郎
登録日 2014-04-11 
登録番号 商標登録第5663766号(T5663766) 
権利者 末政 直晃 日東精工株式会社 ジャパンホームシールド株式会社
商標の称呼 エスデイエス 
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト 
代理人 山崎 和香子 
代理人 齋藤 宗也 

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