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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y43
管理番号 1294902 
審判番号 取消2013-300744 
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-08-30 
確定日 2014-11-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第5038559号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5038559号商標の指定役務中,第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与」については,その登録は取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第45038559号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成18年8月28日に登録出願,第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,動物の宿泊施設の提供,保育所における乳幼児の保育,老人の養護,会議室の貸与,展示施設の貸与,布団の貸与,業務用加熱調理機械器具の貸与,業務用食器乾燥機の貸与,業務用食器洗浄機の貸与,加熱器の貸与,調理台の貸与,流し台の貸与,カーテンの貸与,家具の貸与,壁掛けの貸与,敷物の貸与,タオルの貸与」を指定役務として,同19年4月6日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成25年9月19日である。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,審判請求書,弁駁書及び口頭審理陳述要領書において,その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨次のように述べ,甲第1号証ないし甲第8号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,請求人の調査によると,その指定役務中,第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実が存しない。
よって,商標法第50条の規定により,取り消されるべきである。

2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第50条第2項ただし書の「正当な理由」について
ア 商標法は,「その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは」(商標法第50条第2項)と規定している。
これを本件についてみると,たしかに我が国ではカジノは合法化されておらず,被請求人は,我が国でカジノ施設について本件商標を使用することはできない。
しかしながら,本件審判の請求は,そもそも「第43類 宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与」(以下「本件役務」という。)に対するものであり,カジノ施設の合法化とは何ら関係がない。
イ カジノ合法化について
取消を免れるための要件である「正当な理由」(同50条2項)とは,地震等の不可抗力によって生じた事由,第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために,商標権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいい(知財高裁平成22年12月8日平成22年(行ケ)第10013号),商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証される必要がある(知財高裁平成17年12月20日平成17年(行ケ)第10095号)。
我が国でカジノが合法化されていないことは,本件商標の出願時である2005年はもちろん,歴史的にも御法度であったのであり,これまで合法であったものが,突然非合法化されたものではない。
したがって,我が国でカジノ施設について本件商標を使用できないことは,被請求人にとってなんら予見可能性を欠くものではなく,商標権者等の「責めに帰することができない事由が発生」したとはいえない。
(2)被請求人の各主張について
ア 被請求人グループ及びその展開するIR事業の概要について
被請求人の主張は,ほとんど被請求人グループの歴史や事業内容に終始しており,本件商標の使用については,唯一,乙第9号証があるのみである。
乙第9号証は,「Resorts World Genting」のウェブサイトの一部のようであり,当該URLに直接アクセスすると,たしかに当該ウェブページは存在しているが(甲3),その上位の階層と考えられる「Resorts World Genting」のホームページからカジノ施設のページにアクセスすると,「Casino de GENTING」と表示されたウェブサイトにしかアクセスできず,ここには「STARWORLD」の文字又はロゴは一切表示されていない(甲4)。
したがって,本ウェブサイトは,当該カジノが現実に存在しているのかについては合理的な疑義があり,そもそも被請求人は,海外においても本件商標を全く使用していないのではないかと考えられる。
イ 被請求人グループの「STARWORLD」ブランドビジネス
商標法第50条は,「日本国内において」と規定しており,マレーシアでの使用実績は何ら関係がなく,我が国における商標の不使用の「正当な理由」になることはない。
さらに,仮に,乙第9号証が真正に成立しているとすると,被請求人は,少なくともウェブサイトにおいて英語及び中国語で広告しており,これは,英語圏及び中国語圏の需要者に対してカジノの広告をしていることになる。
また,我が国において,カジノの広告は多数見受けられ,我が国では海外のカジノを広告することは何ら規制されていない(甲6ないし甲8)。
ウ 日本におけるカジノ規制を理由とする,日本での本件商標の不使用
(ア)日本におけるカジノ合法化に向けた議論の開始
カジノ合法化の議論が開始された事実があるとしても,実際に合法化されるか否かは不透明であり,カジノ合法化は,被請求人の単なる憶測ないし希望的観測にすぎない。
(イ)被請求人の日本における本件商標の出願
憶測ないし希望的観測に基づいて登録出願したところ,見込みどおりに合法化されなかったという事情は,自らの予測に基づく経営判断により行ったことであり,責によらない事情とはいえない。
(ウ)日本におけるカジノ合法化の議論
カジノ合法化の議論が今年になってまた急展開し再度盛り上がりをみせているものの,現時点では,カジノ合法化は未だ達成されていない状況にあることは,被請求人の単なる憶測ないし希望的観測とこれが外れたとの主観的事情を述べるにすぎない。
(エ)被請求人グループの日本における今後のビジネスプラン
被請求人の今後のビジネスプランは,被請求人の憶測ないし希望的観測が実現したとの仮定に基づくプランにすぎず,本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用できなかった「正当な理由」になるものではない。
(3)本件審判の請求が権利濫用であること
請求人は,マカオにおいて,2006年以来,カジノを付設したホテルに「StarWorld Hotel」という名称を付してしており,当該名称は,マカオにおいて請求人の商標として周知著名となっている。
さらに,請求人のホテルは,現在では多数の日本人観光客が訪れる人気ホテルとなっており,「StarWorld」は,請求人のブランドとして我が国需用者の間においても独自の名声及び信用を獲得している。
請求人は,今後,我が国においても積極的に広告・プロモーション活動をしていく予定であり,そのため商標出願を行ったところ,本件商標が引用されて拒絶理由通知を受けたものである。
そして,当該先行登録商標を排除するために本件不使用取消審判を請求したのであり,これ自体法が予定する正当な請求であり,何らの違法性もない。

3 口頭審理陳述要領書(平成26年6月10日付け)
本件役務に賭博としてのカジノに係る役務は含まれておらず,これが法令により禁止されていることは,本件役務を使用していないことの「正当な理由」とはなり得ない。また,本件審判は,権利濫用に該当しない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,と答弁し,答弁書及び口頭審理陳述要領書等において,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第24号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
被請求人の関連会社は,審判請求の登録前3年以内にマレーシアで使用していたものの,日本国内における被請求人又はその関連会社による使用実績は存在しない。
しかし,かかる不使用について,被請求人には「正当な理由」(商標法第50条第2項但書)が存在する上,本件審判の請求は,権利の濫用に該当する。
(1)被請求人グループ及びその展開するIR事業の概要
被請求人は,ゲンティン・シンガポール(Genting Singapore PLC)(以下「ゲンティン・シンガポール」という。)のグループ会社に属する会社で,被請求人及びその関連会社(ゲンティン・シンガポールグループを含む。以下,総称して「被請求人グループ」という。)は,カジノを中心とする統合型リゾート(Integrated Resort,通称「IR」という。)を世界各地で開発・運営する巨大グローバル企業集団である。
ゲンティン・シンガポールは,シンガポールに拠点を置く,世界的なレジャー・ホスピタリティ事業,及び統合型リゾートの開発・展開を専門的に手がける会社であり,その子会社は,主に,レジャー・ホスピタリティ事業及びこれらに対する投資の市場調査サポートに加えて,大規模統合型リゾートの開発・運営,投資,カジノ経営,及びこれら業務に関連するITアプリケーションの提供などを行っている。
統合型リゾート(IR)ビジネスとは,カジノを中心に,ホテル,ショッピング施設,レストラン,劇場,MICE(ミーティング,インセンティブ,コンベンション,エキシビション,の略語)施設などを併設して,来場者に様々な楽しみ方を提供し,カジノの集客効果を他の施設にも波及させることで,より大きな経済効果を生み出すというビジネスであり,IRにおいてカジノは非常に重要な役割を有し,カジノがなければIRの成功もありえないとまで言われている(乙1)。
被請求人グループは,全世界におけるIRの先駆者であり,まさにIRの「生みの親」ともいわれる存在である(乙2)。
そして,被請求人グループは,1971年,マレーシアの高原リゾート地 ハイランドに,「ハイランドホテル」をオープンし,その後,同地に,ホテル,飲食店,ショッピング施設,マレーシア政府唯一の公認カジノ施設等を次々に建設・開業し,統合型リゾート都市「Resorts World Genting」を作り上げ,「マレーシアのラスベガス」とも称される,マレーシアの一大高原リゾートにまで成長している(乙2ないし乙4)。
また,被請求人グループは,シンガポールがカジノを解禁した際にも,ゲンティン・シンガポールを通じて,2006年の国際公募入札により,シンガポールにおいて統合型リゾートを建設・運営する権利を獲得し,2010年,ゲンティン・シンガポールは,シンガポールのセントーサ島に,シンガポール初のカジノ,東南アジア初めてかつ唯一のユニバーサル・スタジオ,世界最大の海洋水族館,6つのホテル等を有する大型統合型リゾート「Resorts World Sentosa」を開業・運営している(乙5ないし乙7)。
被請求人グループは,その他にも,英国,オーストラリア,フィリピン,そしてバハマなど世界の様々な場所で,カジノを併設したIR等を展開し,統合型リゾート産業を牽引する巨大グローバル企業集団として,世界中にその名が知られる存在となっている。
(2)被請求人グループの「STARWORLD」ブランドビジネス
ア マレーシアにおける「STARWORLD」の使用実績
被請求人グループは,2004年11月28日,「Resorts World Genting」内に,「STARWORLD Casino」というカジノをオープンさせた(乙9)。 マレーシアにおける「STARWORLD Casino」の顧客数は,年間約550万人?875万人にも上り,マレーシア観光の一大拠点として,日本を含むアジア各国を中心として多数の観光客を誘致する起爆剤となっていた。
イ マレーシアの広告規制を理由とする,日本での本件商標の不使用
マレーシアでは,法律(Common Gaming Houses Act 1953(Act 289)第4条1項(g))により,カジノ施設外でのカジノの広告が禁じられている(乙10)。
したがって,被請求人グループは,「STARWORLD Casino」に関連して,日本において「STARWORLD」という本件商標を用いた広告等を行うことができなかった。
(3)日本におけるカジノ規制を理由とする,日本での本件商標の不使用
ア 被請求人の日本における本件商標の出願
被請求人グループは,「STARWORLD」ブランドを,「STARWORLD」という名称の,若年層向けの最新ゲーム機器を備えた現代的なエンターテイメント・ゲーム(カジノを含む)施設を提供するカジノのブランド名として,2004年のマレーシアでの展開に引き続き,日本等においても,該ブランドを擁するIRビジネスの展開の可能性を模索していた。
そして,日本においてもようやくカジノ合法化に向けた動きが本格化しつつあったことから,被請求人は,いち早くIRビジネスの展開に向けて「STARWORLD」の商標権を確保することとし,2006年に本件商標の出願を行った。
イ 日本におけるカジノ合法化の議論
日本の国政レベルにおいては,2006年6月16日には自由民主党政務調査会観光特別委員会及びカジノ・エンターテイメント検討小委員会が「わが国におけるカジノ・エンターテイメント導入に向けての基本方針」(乙12)を発表し,カジノ合法化の具体的な計画が検討・推進されることとなったが,中断し,その後は,大阪府など主に地方自治体において検討が進められ,国政レベルでも2010年に超党派で組織された「国際観光産業振興議員連盟」が発足したものの,カジノ合法化の議論が大きく進展することはなかった。
国政レベルでカジノ合法化の議論が大きく進展したのは,自由民主党による政権獲得により,カジノ合法化の議論が再び軌道に乗り,IR議連は2013年4月に総会を開き,秋の臨時国会での法案提出を目指すことで一致した。
また,これと並行して,2013年6月には日本維新の会が独自に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」を提出した(乙13)。
さらには,2020年の東京オリンピック開催が決定されたことを受けて,カジノ合法化に向けた動きはさらに勢いを増し,自由民主党,日本維新の会及び生活の党は,2013年12月5日,カジノを中心とした統合型リゾートの整備を促す推進法案を衆議院に提出した(乙14)。
以上のとおり,日本におけるカジノ合法化に向けた本格的な検討は,約10年以上前から開始されたが,現時点では,まだ達成されていない状況にある。
ウ 被請求人グループの日本における今後のビジネスプラン
このような日本における政治状況により,被請求人グループは,現時点に至るまでカジノを中心とするIRの展開を日本で開始することができなかったが,上述のとおりカジノ合法化に向けた動きにより,ゲンティング・シンガポールを通じて,日本においていつでもIRビジネスを開始することができるように,「STARWORLD」ブランドの使用を提案するビジネスプラン(乙15)を立案し,今後の可能性について検討を開始した。
特に,被請求人グループは,日本国内において,施設の候補として,テーマパーク,プール施設,あるいは水族館が検討され,カジノについても,現在,様々な可能性を模索し,被請求人グループの株式会社ゲンティン・インターナショナル・ジャパンは,現在,日本において,マーケティングリサーチを多数行うなど,既に多様な業務に従事している。
以上のとおり,被請求人グループは,「STARWORLD」ブランドビジネスについて,現時点において可能な限りの検討・努力を重ねており,ひとたび日本においてカジノ合法化が達成されれば,日本でも直ちに開始できる状況にある。
(4)本件審判の請求が権利濫用であること
ア 本件審判の請求は,請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものである。
上記のとおり,「STARWORLD」ブランドは,2004年に,被請求人グループがマレーシアのハイランドにある「Resorts World Genting」に新たに建設した被請求人グループのカジノ施設の名称として,世界に先駆けて使用を開始したブランドであり,当該カジノは「Resorts World Genting」のカジノ施設のうちの一つとして日本を含む世界中の観光客を魅了し,「STARWORLD」ブランドの名声及び信用を築き上げてきた。
しかるに,請求人は,マカオにおいて,2006年以来,カジノを付設したホテルに「StarWorld Hotel」という名称を付して使用しているばかりか(乙16),先般,日本において,「StarWorld Casino」,「StarWorld Hotel」,「StarWorld Macau」,及び「星際 酒店\StarWorld Hotel」を出願し,現在,査定不服審判が係属中である(乙17ないし乙20)。
このような経緯に鑑みれば,被請求人グループの世界的な知名度に照らしても,請求人は,マレーシアにおける被請求人グループの「STARWORLD」の使用状況を知悉した上でマカオにおいて同一名称のカジノ展開を開始したことが容易に推認される。
また,請求人による本件審判の真の目的は,日本やマレーシアにおけるカジノ規制により被請求人グループが未だ日本で本件商標を使用できずにいることを奇貨として,「StarWorld Casino」の出願を行うと共に,並行して本件審判を提起し,本件商標権の取消を達成するのと入れ替わりに「StarWorld Casino」の登録商標を取得して,被請求人グループがこれまでに築き上げてきた「STARWORLD Casino」ブランドの名声や信用を,マカオのみならず,日本においても,自らのカジノビジネスのために利用し,フリーライドすることにあるのは明白である。
イ 本件審判は権利濫用として認められない
平成8年改正法は,不使用取消審判の請求人適格を「何人」とする一方,「当該審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合は,その請求は権利濫用として認められない」ものとしている(乙21)。
前記アのとおり,請求人の本件審判の請求の目的は,明らかに,被請求人グループがこれまでに築き上げてきた「STARWORLD Casino」ブランドの名声や信用を,マカオのみならず,日本においても,フリーライドすることにあり,まさに被請求人を害することを目的とするものであるから,本件審判の請求は,権利濫用として,認められない。
(5)結論
前記のとおり,被請求人グループは,カジノビジネスに対する日本法及びマレーシア法の規制の存在により,今日まで,日本において,本件商標をIRビジネスに関連する本件役務について使用することができなかった。
したがって,被請求人には商標法第50条第2項但書に定める「正当な理由」が存在する。
加えて,本件審判の請求の目的は被請求人を害することにあり,本件審判は権利濫用に該当する。

2 口頭審理陳述要領書(平成26年5月28日付け)
(1)被請求人の本件商標の不使用には「正当な理由」が存在する
ア 請求人は,知的財産高等裁判所の裁判例を引用するが,当該裁判例は,商標法50条2項但書にいう「正当な理由」について,「地震等の不可抗力によって生じた事由,第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために,商標権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合」(知財高裁平成22年12月15日平成22年(行ケ)第10013号),「商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情」(知財高裁平成17年12月20日平成17年(行ケ)第10095号)と述べるのみであり,「正当な理由」を,請求人の主張するような,従前は合法であったものが突然非合法化された場合等の商標の不使用が被請求人にとって予見可能性を欠く場合,等に限定するものではない。
例えば,医薬品は,従前から許認可なくして製造・販売できないものであって,医薬品の製造販売に許認可が必要という事情は,医薬品製造販売事業者にとって何ら予見可能性を欠くものではない。
イ 被請求人には「正当な理由」が存在する
(ア)被請求人は,現在,日本法によるカジノの全面禁止及びマレーシア法のカジノ広告制限により,やむなく日本におけるIRビジネスの展開が叶わずにいるが,これら法令による禁止がなければ,日本において,IRビジネスを展開し,IR施設に必須ともいえる本件役務の提供を行うことができたことは明らかであるから,被請求人の本件商標の不使用には「正当な理由」が存在する。
(イ)なお,被請求人グループは,2004年,マレーシアのハイランドにあるIR施設「Resorts World Genting」内に「STARWORLD Casino」という名称のカジノをオープンさせて,複数のメディアでも取り上げられている(乙23)。
(ウ)請求人は,仮にマレーシア法のカジノ広告規制が存在するとしても,日本においては,被請求人は「STARWORLD」カジノに関する広告を行うことができたはずだと主張するが,請求人が引用する証拠(甲6ないし甲8)はいずれも被請求人以外の第三者によるガイド記事やツアー内容説明にすぎないから,被請求人の主張に対する何らの反論ともならない。
(2)結論
以上のとおり,被請求人には,商標法第50条第2項但書に定める「正当な理由」が存在する。
加えて,本件審判の請求の目的は被請求人を害することにあり,権利濫用に該当する。

第4 当審の判断
1 本案前の主張について
被請求人は,本件審判の請求は,請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものであり,被請求人を害することを目的とするものであるから,権利濫用として認められない旨主張している。
しかしながら,商標法50条の商標登録の取消しの審判は,「何人も」請求することができるものであるから,当該審判の請求が,専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り,権利の濫用にはあたらないと解するのが相当である。
そして,被請求人が提出した証拠からは,本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としてされたものであると認めるに足る証拠は見いだせないことからすれば,本件審判の請求が,権利濫用ということにはならないものである。
また,請求人は,自身の商標登録出願に対し,本件商標が引用され拒絶理由通知を受けたものであり,拒絶の理由を解消するために本件取消審判を請求したのである。
よって,上記した被請求人の主張は採用できない。

2 本件商標の使用について
被請求人の主張によれば,「被請求人の関連会社は,審判請求の登録前3年以内にマレーシアで使用していたものの,日本国内における被請求人又はその関連会社による使用実績は存在しない。」旨述べており,本件商標の使用をしていないことを自認している。
そして,提出にかかる証拠をみるに,本件商標が,審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,商標権者等により使用された事実を証する証拠は,一切認められないものである。

3 本件商標の不使用の「正当な理由」について
商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」とは,地震,水害等の不可抗力によって生じた事由,放火,破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰すことができない事由が発生したために,商標権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうと解するのが相当である。
被請求人は,「日本においてカジノ合法化が達成されれば,マレーシアやシンガポールにおいてカジノ解禁後いち早く参入に成功したのと同様に,日本でも直ちに『STARWORLD』ブランドビジネスを開始できる状況にある」及び「被請求人グループは,カジノビジネスに対する日本法及びマレーシア法の規制の存在により,今日まで,日本において,本件商標を該ビジネスに関連する本件役務について使用することができなかった。」旨主張する。
しかしながら,「カジノ」に関連する役務は,そもそも本件商標の指定役務に含まれていないものであるから,上記主張は,本件役務との関係で,正当な理由にならないことは明らかである。
したがって,被請求人主張の理由をもって,本件商標の使用をしていないことについて,商標法第50条第2項に規定する正当な理由があるということはできない。

4 まとめ
以上のとおり,本件商標は,審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,本件役務について使用されていなかったものであり,その使用をしていないことについて正当な理由があるものとも認められない。
また,請求人が本件審判を請求することが,権利の濫用ということもできない。
したがって,本件商標の登録は,本件役務について,商標法第50条の規定に基づき,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲 (本件商標)





審決日 2014-07-17 
出願番号 商願2006-79796(T2006-79796) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 原田 信彦 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 井出 英一郎
田中 亨子
登録日 2007-04-06 
登録番号 商標登録第5038559号(T5038559) 
商標の称呼 スターワールド 
代理人 石堂 磨耶 
代理人 岡田 淳 
代理人 一色国際特許業務法人 
代理人 恩田 博宣 
代理人 恩田 誠 

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