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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y41
管理番号 1294901 
審判番号 取消2013-300743 
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2013-08-30 
確定日 2014-11-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4987490号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4987490号商標の指定商品及び指定役務中、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,ラジオ放送用・テレビジョン放送用番組の制作・配給,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポ-ツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,運動施設の提供,娯楽施設の提供,興行場の座席の手配,カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供,会員制による娯楽の提供及びこれに関する情報の提供,オンラインによるコンピュータネットワーク通信端末を利用したゲームの提供及びこれに関する情報の提供」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4987490号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成17年12月21日に登録出願、第28類「遊園地用機械器具(業務用テレビゲーム機を除く。),囲碁用具,歌がるた,将棋用具,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,ルーレットゲーム用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,遊戯用カード,遊戯用器具用メダル」及び第41類「当せん金付証票の発売,技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,ラジオ放送用・テレビジョン放送用番組の制作・配給,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,カメラの貸与,光学機械器具の貸与,カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供,会員制による娯楽の提供及びこれに関する情報の提供,オンラインによるコンピュータネットワーク通信端末を利用したゲームの提供及びこれに関する情報の提供」を指定商品及び指定役務として、平成18年9月15日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成25年9月19日にされている。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、本件審判の請求の理由及び答弁に対する弁駁(平成26年6月10日付け口頭審理陳述要領書を含む。)を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中の「第41類 技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,ラジオ放送用・テレビジョン放送用番組の制作・配給,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),スポ-ツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,運動施設の提供,娯楽施設の提供,興行場の座席の手配,カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供,会員制による娯楽の提供及びこれに関する情報の提供,オンラインによるコンピュータネットワーク通信端末を利用したゲームの提供及びこれに関する情報の提供」(以下「本件役務」という。)について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用した事実がないから、その登録は、商標法第50条の規定により取り消されるべきである。

2 弁駁の理由
(1)商標法第50条第2項ただし書の「正当な理由」について
取消を免れるための要件である「正当な理由」(50条2項ただし書、以下括弧内の条文は、同様に「○条○項」のように表示する。)とは、地震等の不可抗力によって生じた事由、第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいい(知財高裁平成22年12月8日平成22年(行ケ)第10013号)、商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証される必要がある(知財高裁平成17年12月20日平成17年(行ケ)第10095号)。
これを本件についてみると、たしかに我が国ではカジノは合法化されておらず、被請求人は我が国でカジノ施設について本件商標を使用することはできない。
しかしながら、我が国でカジノが合法化されていないことは、本件商標の出願時である2005年はもちろん、歴史的にも御法度であったのであり、これまで合法であったものが、突然非合法化されたものではない。
したがって、我が国でカジノ施設について本件商標を使用できないことは、被請求人にとってなんら予見可能性を欠くものではなく、被請求人の責によらず不可抗力により使用できないという状況になったとはいえない。
また、被請求人が縷々述べる合法化の動きにしても、単なる憶測ないし希望的観測の域をでず、これを信頼した者を保護すべき外観が作出されていたともいえない。
したがって、本件商標を使用していないことについて、商標権者等の「責めに帰することができない事由が発生」したとはいえないものである。
さらに、被請求人のビジネスプランによれば、被請求人は「Starworld」ブランドを単にカジノ施設ではなく、ホテル、レストラン、エンターテインメント施設を統合した統合型ビジネスのブランドとして事業展開することを意図していることになるが、そうとすればカジノ施設は必ずしも必須のものではなく、他のエンターテインメント施設で代替することは十分に可能であり、ビジネス全体を延期せざるを得ない要因であったとはいえない。被請求人が、我が国への進出を見合わせていたのは、法令による禁止というより、むしろ市場性やマーケティングに基づく企業の自主的な経営判断によるものというべきであり、真にやむを得ないと認められる特別の事情があったとは認められないものである。
以上から、被請求人が本件役務について本件商標を使用していないことは自らの責に帰する事由によるものであり、また、真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証されたともいえない。
よって、被請求人が本件役務について本件商標を使用していないことについて「正当の理由」は認められない。
(2)被請求人の各主張について
ア 被請求人グループ及びその展開するIR事業の概要について
被請求人グループが海外でカジノを運営した実績があり、我が国では非合法かつ合法化の動きがあったとしても、上述のとおり我が国における本件商標の不使用について「正当な理由」にはあたらない。
被請求人の主張は、ほとんど被請求人グループの歴史や事業内容に終始しており、本件商標の使用については、唯一、乙第9号証があるのみである。乙第9号証は「Resorts World Genting」のウェブサイトの一部のようであり、当該URLに直接アクセスすると、たしかに当該ウェブページは存在しているが(甲3)、その上位の階層と考えられる「Resorts World Genting」のホームページからカジノ施設のページにアクセスすると、「Casino de GENTING」と表示されたウェブサイトにしかアクセスできず、ここには「STARWORLD」の文字又はロゴは一切表示されていない(甲4)。ちなみに、被請求人グループの「Genting Singapore」が運営するシンガポールの「Resorts world Sentosa」のカジノにおいても本件商標は使用されていない(甲5)。したがって、本ウェブサイトは架空のものであって、当該カジノが現実に存在しているのかについては合理的な疑義があり、そもそも被請求人は海外においても本件商標を全く使用していないのではないかと考えられる。
とすれば、「Starwoldブランドによって日本のゲーム市場への進出を目指す」とのビジネスプラン(乙15の2)については、「StarworId」ブランドを使用しなければならない必然性も合理性も全く見いだせないのであり、本件商標の不使用は単に被請求人の自主的な経営判断に基づくものといえる。よって、「正当な理由」が認められる余地は全くない。
イ 被請求人グループの「STARWORLD」ブランドビジネス
(ア)マレーシアにおける「STARWORLD」の使用実績
商標法第50条は、「日本国内において」と規定しており、マレーシアでの使用実績は何ら関係がない。
(イ)マレーシアの広告規制を理由とする、日本での本件商標の不使用
マレーシアの広告規制が、マレーシア国外に適用されるか否かは定かではないが、かかる広告規制はマレーシア国内の風紀等を考慮したものと考えられるから、本規制が国外に適用されることはないと考えるのが自然である。したがって、マレーシアの法律による広告規制が我が国における商標の不使用の「正当な理由」になることはない。
さらに、仮に被請求人の乙第9号証が真正に成立しているとすると、被請求人は少なくともウェブサイトにおいて英語及び中国語で広告しており、これは英語圏及び中国語圏の需要者に対してカジノの広告をしていることになる。また、我が国において、カジノの広告は多数見受けられ、我が国では海外のカジノを広告することは何ら規制されていない。例えば、被請求人のマレーシアのゲンテインハイランドの広告(ガイド記事)では、カジノが紹介(宣伝)されている(甲6、なお、この広告でも「STARWORLD」の文字は使用されていない)。また、その他にも「海外のカジノで遊ぶ」として海外ツアーが広告されているほか(甲7)、例えばシンガポールカジノツアーとして、特にカジノを大々的に宣伝しているものもある(甲8)。
よって、マレーシアの広告規制を埋由とする、我が国における本件商標の不使用についての「正当な理由」の主張は全く理由がない。
ウ 日本におけるカジノ規制を理由とする、日本での本件商標の不使用
(ア)日本におけるカジノ合法化に向けた議論の開始
カジノ合法化の議論が開始された事実があるとしても、実際に合法化されるか否かは不透明であり、カジノ合法化は被請求人の単なる憶測ないし希望的観測にすぎない。
(イ)被請求人の日本における本件商標の出願
憶測ないし希望的観測に基づいて出願登録したところ、見込みどおりに合法化されなかったという事情は、自らの予測に基づく経営判断により行ったことであり、責によらない事情とはいえない。被請求人の見込みや予測が外れたとの事情は、被請求人の主観的事情であり、自ら責任を甘受すべき事情である。
(ウ)日本におけるカジノ合法化の議論
カジノ合法化の議論が今年になってまた急展開し再度盛り上がりをみせているものの、現時点では、カジノ合法化は未だ達成されていない状況にあることは、被請求人の単なる憶測ないし希望的観測とこれが外れたとの主観的事情を述べるにすぎない。
(エ)被請求人グループの日本における今後のビジネスプラン
被請求人の今後のビジネスプランは、被請求人の憶測ないし希望的観測が実現したとの仮定に基づくプランにすぎず、本件審判の請求の登録前3年以内に本件商標が使用できなかった「正当な埋由」になるものではない。
(3)本件審判の請求が権利濫用であること
ア 本件審判の請求は、請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものである
被請求人は、海外における本件商標の使用を窺わせる証拠としては乙第9号証のみであり、そもそも被請求人は本件商標を海外においてすら使用していないのではないかと考えられる。被請求人のカジノ施設では本件商標は使用されておらず、さらにカジノ以外の施設においても本件商標は使用されておらず、海外においてすら本件商標には何らの名声及び信用が化体していない。
かえって、請求人はマカオにおいて、2006年以来、カジノを付設したホテルに「StarWorld Hotel」という名称を付してしており、当該名称はマカオにおいて請求人の商標として周知著名となっている。さらに、請求人のホテルは、現在では多数の日本人観光客が訪れる人気ホテルとなっており、「StarWorld」は請求人のブランドとして我が国需用者の間においても独自の名声及び信用を獲得している。請求人は、今後、我が国においても積極的に広告・プロモーション活動をしていく予定であり、そのため商標出願を行ったところ、被請求人商標が引用されて拒絶埋由通知を受けたものである。そして、当該先行登録商標を排除するために本件不使用取消審判を請求したのであり、これ自体法が予定する正当な請求であり、何らの違法性もない。
イ 本件審判は権利濫用として認められない
上記のとおり、フリーライドの事実はなく、被請求人を害することを目的としているとは認められない。また、請求人の商標出願及び拒絶理由解消のための本件審判の請求に何らの違法性はなく、本件審判の請求を権利濫用ということはできない。

3 平成26年6月10日付け口頭審理陳述要領書
(1)本件役務にカジノに係る役務が含まれない点について
ア 指定商品・役務の範囲の解釈の基準時
本件は、不使用取消し審判であり、まさに不使用取消し審判の請求登録前3年間における、現実の取引における商標の指定商品・役務についての使用が問題となっているのであるから、不使用取消し審判の請求登録前3年間の時点における需要者・取引者の認識を基準にして考えるべきである。
イ 基準時におけるカジノの合法性について
これを本件についてみると、登録時点である平成25年9月19日前3年以内、すなわち平成22年9月19日?平成25年9月18日(以下「要証期間」という。)となる。そして、当該要証期間において、賭博は刑法第185条において禁止されており、特別法による公営ギャンブルや「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に基づいて営業している風俗営業施設等が認められているにすぎない(甲9)。したがって、本件基準時において、賭博であるカジノは刑法によって禁止されており、賭博罪を構成するものであることは明らかである。
ウ 本件役務について
本件役務は、「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」であり、上記の通り、基準時において賭博が刑法において禁止されていることからすれば、需要者・取引者は本件役務に賭博である「カジノ」は含まれておらず、特別法である「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に基づいて認められている範囲の賭博ではない「カジノゲーム施設」、すなわちスロットマシン、テレビゲーム機その他のカジノ風の遊技設備を備えた施設の提供を意味すると認識することは明らかである(甲9)。
エ 小活
よって、本件役務には、そもそも賭博である「カジノ」は含まれておらず、「カジノ」が日本国内で禁止されていることは、本件役務について本件商標を使用していないことについて「正当な理由」とはなり得ない。
オ パリ条約7条について
パリ条約7条は、「いかなる場合にも、商品の性質は、その商品について使用される商標が登録されることについて妨げとはならない。」と規定する。しかし、当該条約は「商品」について規定するもので、「役務」について適用することを規定するものではない。また、仮に役務について本規定が適用されるとしても、これは商品・役務の性質・質により登録が拒絶されない旨を規定するにすぎず、それ以上に、登録された商品の範囲の解釈や不使用の猶予期間に影響を及ぼすものではない。
パリ条約は、6条の5において、外国登録商標について、「当該商標が、道徳又は公の秩序に反するもの、特に、公衆を欺くようなものである場合」には登録及び保護を拒絶することを認めており(甲10)、かかる規定の趣旨からしても、パリ条約が、各締約国に公序良俗に反するような商標を保護することまでも求めるものではないことは明らかである。
カ 他の登録例について
「カジノの提供」等の他の登録例についても、上記と同様、基準時において刑法に反するような商品・役務は、公序良俗に反し指定商品・役務に含まれず、これらの登録例が存在することは、本件役務が賭博としての「カジノ」を含むとの論拠にはならない。
キ 先願登録主義について
被請求人は、偶々カジノ合法化のタイミングで審査が行われていたものだけが登録を許されることになり不合理であるとするが、失当である。
商標法は、「商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図」ることを目的としており(1条)、そのため「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」(3条柱書)として、出願人に少なくとも近い将来の使用の意思を求めるとともに、3年間の猶予期間を与えた上で、商標の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができるとしている(50条)。そして、かかる制度設計のもと、出願人は、社会状況や他人の出願登録状況を睨みながら、自由に出願のタイミングを決定できるのであり、そのタイミング次第で、登録が取り消されることになるとしても、それは制度に織り込み済みかつ当然の事由であって、何ら不合理ではない。むしろ、公序良俗に反する商品・役務を含む商標について、その不使用が「正当の理由」として取り消されないのであれば、公序良俗に反する商品・役務についての登録は半永久的に取り消されないことになり、かかる帰結こそが、商標法の制度趣旨に反し、不合理であることは明らかである。
(2)被請求人の本件商標の不使用に「正当な理由」は存在しない
ア 請求人の主張は、「正当な理由」(50条2項)とは、地震等の不可抗力によって生じた事由、第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいい(平成22年(行ケ)第10013号)、商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情が具体的に主張立証される必要がある(平成l7年(行ケ)第10095号)というものであり、予見可能性を欠く場合に、限定するものではない。本件の事情においては、これまで合法であったものが突然非合法化されたものではなく、予見可能性を欠くものでないことを、上記基準に該当する一つの具体的な根拠として主張をしているのである。
イ なお、医薬品の製造販売に許認可が必要であり、現にその承認申請を行っている場合には、「正当な理由」が認められることはそのとおりである。しかし、「正当な理由」が認められるためには、基準時(審判請求の登録前3年以内)において現に承認申請をしていることが必要であり、承認申請をしていない場合にまで「正当な理由」が認められるわけではない。この場合、審査期間中は3年の猶予期間が、商標権者の責によらず浸食される関係になることから、真にやむを得ない事情として当該浸食部分を「正当な理由」と認めて回復させるもので、むしろ「許認可手続の遅延」に該当し、本件とはそもそも事案を異にする。
ウ 被請求人は、恰も、「法令による全面禁止」であれば、当然に「正当な理由」と認められるかのような主張をしているが、かかる主張によれば、法令により全面禁止されている商品・役務をあえて指定商品・役務に指定しておけば、当該商品・役務は半永久的に取り消されないことになり、そのような帰結が、商標法の制度趣旨に反し、不合理であることは明らかである。
「正当な理由」と認められるためには、「天災地変」や「法令による全面禁止」等の事由により、商標の使用ができないことに至った具体的事情が、商標権者の責に帰することができず、真にやむを得ないと認められる特別の事情があるか否かが吟味されなければならないのは当然である。
エ 被請求人がマレーシアで本件商標をカジノについて使用しているか否かについては不知。いずれにしても、本件では基準時において我が国で商標を使用していることを証明する必要があり、本件とは全く関係がない。
オ 第三者によるカジノのガイドツアーの広告は、マレーシア法のカジノ広告規制が我が国に及ばないことを主張しているのであり、被請求人自身によるか第三者によるかは関係がない。第三者によるカジノ広告が我が国で行われているのであるから、マレーシア法のカジノ広告規制が我が国に及んでいるとはいえない。したがって、被請求人は、我が国においてマレーシア法の規制により、本件商標を我が国において広告に使用していないのではなく、自らの経営判断ないし意思により広告をしていないにすぎない。
(3)本件審判の請求が権利濫用にあたらないことは、2014年2月25日提出の請求人による弁駁書に記載のとおりである。
(4)結論
以上のとおり、基準時において本件役務に賭博としてのカジノに係る役務は含まれておらず、カジノが法令により禁止されていることは、本件役務を使用していないことの「正当な理由」にはなり得ない。また、仮に賭博としてのカジノが本件役務に含まれているとしても、その不使用について、自らの責に帰することができない事由があり、真にやむを得ないと認められる特別の事情は認められず、「正当な理由」は存在しない。
また、本件審判は、権利濫用に該当しない。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由(平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書を含む。)を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第27号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標「STARWORLD」(図形を含む。)について、被請求人の関連会社は審判請求の登録前3年以内にマレーシアで使用していたものの、日本国内における被請求人又はその関連会社による使用実績は存在しない。 しかし、かかる不使用について、被請求人には「正当な理由」(50条2項ただし書)が存在する上、本件審判の請求は権利の濫用に該当するので、本件審判の請求は成り立たない。
(1)被請求人グループ及びその展開するIR事業の概要
被請求人は、ゲンティン・シンガポール(Genting Singapore PLC)のグループ会社に属する会社で、被請求人及びその関連会社(ゲンティン・シンガポールグループを含む。以下、総称して「被請求人グループ」という。)は、カジノを中心とする統合型リゾート(Integrated Resort、通称「IR」)を世界各地で開発・運営する巨大グローバル企業集団である。
ゲンティン・シンガポールは、シンガポールに拠点を置く、世界的なレジャー・ホスピタリティ事業、及び統合型リゾートの開発・展開を専門的に手がける会社で、シンガポール証券取引所のメインボードに上場している。ゲンティン・シンガポールの子会社は主に、レジャー・ホスピタリティ事業及びこれらに対する投資の市場調査サポートに加えて、大規模統合型リゾートの開発・運営、投資、カジノ経営、及びこれら業務に関連するITアプリケーションの提供などを行っている。
被請求人グループの歴史は、1971年、マレーシアの高原リゾート地ハイランドに、「ハイランドホテル」をオープンしたことに遡る。被請求人グループは、その後、同地に、ホテル、飲食店、ショッピング施設、マレーシア政府唯一の公認カジノ施設等を次々に建設・開業し、統合型リゾート都市「Resorts World Genting」を作り上げた。
その他にも、英国、オーストラリア、フィリピン、そしてバハマなど世界の様々な場所で、カジノを併設したIR等を展開している。
被請求人グループは、現在、統合型リゾート産業を牽引する巨大グローバル企業集団として、世界中にその名が知られる存在となっている。
(2)被請求人グループの「STARWORLD」ブランドビジネス
ア マレーシアにおける「STARWORLD」の使用実績
被請求人グループは、2004年11月28日、「Resorts World Genting」内に、「STARWORLD Casino」というカジノをオープンさせた(乙9)。
マレーシアにおける「STARWORLD Casino」の顧客数は、年間約550万人?875万人にも上り、マレーシア観光の一大拠点として、日本を含むアジア各国を中心として多数の観光客を誘致する起爆剤となっていた。
イ マレーシアの広告規制を理由とする、日本での本件商標の不使用
このように被請求人グループによるマレーシアでのカジノビジネスは大成功を収めていたが、マレーシアでは、法律(Common Gaming Houses Act 1953(Act 289)第4条1項(g))により、カジノ施設外でのカジノの広告が禁じられている(乙10)。
したがって、被請求人グループは、「STARWORLD Casino」に関連して、日本において「STARWORLD」という本件商標を用いた広告等を行うことができなかった。
(3)日本におけるカジノ規制を理由とする、日本での本件商標の不使用
ア 被請求人の日本における本件商標の出願
被請求人グループは、「STARWORLD」ブランドを、「STARWORLD」という名称の親しみやすさ、呼称のしやすさなどから、若年層向けの最新ゲーム機器を備えた現代的なエンターテイメント・ゲーム(カジノを含む)施設を提供するカジノのブランド名として最適なブランドと考えており、2004年のマレーシアでの被請求人グループによる「STARWORLD Casino」の展開に引き続き、日本等においても、「STARWORLD」ブランドを擁するIRビジネスの展開の可能性を模索していた。
そして、上述のとおり日本においてもようやくカジノ合法化に向けた動きが本格化しつつあったことから、被請求人は、日本においてもいち早くI Rビジネスの展開に向けて「STARWORLD」の商標権を確保することとし、2005年に本件商標の出願を行った。
イ 日本におけるカジノ合法化の議論
日本におけるカジノ合法化に向けた本格的な検討は約10年以上前から開始されたが、当時の政治状況の影響でなかなか進展せず、今年になってまた急展開し再度盛り上がりをみせているものの、現時点では、カジノ合法化は未だ達成されていない状況にある。
ウ 被請求人グループの日本における今後のビジネスプラン
このような日本における政治状況により、被請求人グループは現時点に至るまでカジノを中心とするIRの展開を日本で開始することができなかった。
しかし、カジノ合法化に向けた動きは今年になって再び盛り上がりを見せていることに加え、2020年の東京オリンピックの招致決定といった複合的な好条件が重なってきたことから、被請求人グループは、ゲンティング・シンガポールを通じて、日本においていつでもIRビジネスを開始することができるように、「STARWORLD」ブランドの使用を提案するビジネスプラン(乙15)を立案し、今後の可能性について検討を開始した。
被請求人グループは、「STARWORLD」ブランドビジネスについて、現時点において可能な限りの検討・努力を重ねており、ひとたび日本においてカジノ合法化が達成されれば、マレーシアやシンガポールにおいてカジノ解禁後いち早く参入に成功したのと同様に、日本でも直ちに「STARWORLD」ブランドビジネスを開始できる状況にある。しかし、未だ日本においては、カジノ合法化がようやく現実味を帯びてきてはいるものの、その実現には至らず、被請求人グループとしても、上記ビジネスプランを具体化することができない状況にある。
(4)本件審判の請求が権利濫用であること
ア 本件審判の請求は、請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものである
「STARWORLD」ブランドは、2004年に、被請求人グループがマレーシアのハイランドにある「Resorts World Genting」に新たに建設した被請求人グループのカジノ施設の名称として、世界に先駆けて使用を開始したブランドであり、当該カジノは「Resorts World Genting」のカジノ施設のうちの一つとして日本を含む世界中の観光客を魅了し、「STARWORLD」ブランドの名声及び信用を築き上げてきた。
しかるに、請求人は、マカオにおいて、2006年以来、カジノを付設したホテルに「StarWorld Hotel」という名称を付して使用しているばかりか(乙16)、先般、日本において、被請求人グループのカジノ施設の名称「STARWORLD Casino」そのものから成る商願2012-63073並びに、「STARWORLD」を含む商願2012-63070、商願2012-63074、及び商願2012-63080を出願した。そして、当該出願の全てにつき、現在、拒絶査定に対する査定不服審判が係属中である(乙17?乙20)。
このような経緯に鑑みれば、被請求人グループの世界的な知名度に照らしても、請求人は、マレーシアにおける被請求人グループの「STARWORLD」の使用状況を知悉した上でマカオにおいて同一名称のカジノ展開を開始したことが容易に推認される。また、請求人による本件審判の真の目的は、日本やマレーシアにおけるカジノ規制により被請求人グループが未だ日本で本件商標を使用できずにいることを奇貨として、「StarWorld Casino」の出願を行うと共に、並行して本件審判を提起し、本件商標権の取消を達成するのと入れ替わりに「StarWorld Casino」の登録商標を取得して、被請求人グループがこれまでに築き上げてきた「STARWORLD Casino」ブランドの名声や信用を、マカオのみならず、日本においても、自らのカジノビジネスのために利用し、フリーライドすることにあるのは明白である。
イ 本件審判は権利濫用として認められない
平成8年改正法は、不使用取消審判の請求人適格を「何人」とする一方、「当該審判の請求が被請求人を害することを目的としていると認められる場合は、その請求は権利濫用として認められない」ものとしている(乙21)。
上記アのとおり、請求人の本件審判の請求の目的は、明らかに、被請求人グループがこれまでに築き上げてきた「STARWORLD Casino」ブランドの名声や信用を、マカオのみならず、日本においても、フリーライドすることにあり、まさに被請求人を害することを目的とするものであるから、本件審判の請求は、権利濫用として、認められない。

2 平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書
(1)本件指定役務及び本件役務にカジノに係る役務が含まれる
本件指定役務及び本件役務にカジノに係る役務が含まれることは、貴庁により、本件商標が指定役務として「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」を明記して登録されたことからして明らかである。
加えて、商標に関する国際条約及び日本の商標法上も、カジノに係る役務は役務として認められており、本件商標の指定役務からカジノに係る役務を除外する理由はない。例えば、我が国が加盟し採用するニース協定「標章の登録のための商品及びサービスの共通の分類」は、「カジノの提供((Providing) Casino facilities[gambling])」を第41類の役務として採用している(乙22)。そして、パリ条約第7条は「いかなる場合にも、商品の性質は、その商品について使用される商標が登録されることについて妨げとはならない。」と定め、日本商標法施行規則第6条別表は、薬剤や麻薬など法令により販売が制限ないし禁止されている商品を掲げて、我が国が、商品の製造販売又は役務の提供に関する法令上の制限を、当該商品または役務に使用される商標の登録の妨げとしないことを明らかにしているのである。
もとより、日本の長年に亘る商標登録出願実務においても、カジノに係る役務は役務として長年に亘って承認されている。現に、「カジノ」に係る役務は、数多くの登録商標において現に指定役務として採用・登録されてきているのである(乙23、乙24)。
よしんば、カジノが我が国において法令により全面的に禁止されていることを理由にカジノに係る役務は我が国の商標法上の指定役務に該当しないとするならば、以前から真摯に日本のカジノ産業への参入を検討し、将来のビジネスを見越して、他者に先駆けてカジノに係る役務の商標を出願・登録した者が、その商標の登録を許されず、一方で、偶々合法化が達成されたタイミングでカジノに係る商標の登録審査が行われていた者だけが登録を許されることになるわけであるが、それはあまりにも不合理である。
以上、カジノに係る役務は、現に、国際条約及び日本の商標法上、役務として認められており、本件指定役務及び本件役務にも「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」という役務は含まれるのである。
(2)被請求人の本件商標の不使用には「正当な理由」が存在する
ア 請求人の「正当な理由」に関する主張は失当である
請求人は、知的財産高等裁判所の裁判例(平成22年(行ケ)第10013号、平成17年(行ケ)第10095号)を引用して、「正当な理由」について、従前は合法であったものが突然非合法化された場合等の商標の不使用が被請求人にとって予見可能性を欠く場合、に恰も限定されるかのように主張する。
しかし、当該裁判例は、商標法第50条第2項ただし書にいう「正当な理由」について、「地震等の不可抗力によって生じた事由、第三者の故意又は過失によって生じた事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合」、「商標権者において登録商標を使用できなかったことが真にやむを得ないと認められる特別の事情」と述べるのみであり、「正当な理由」を、請求人の主張するような、従前は合法であったものが突然非合法化された場合等の商標の不使用が被請求人にとって予見可能性を欠く場合、等に限定するものではない。例えば、医薬品は、従前から許認可なくして製造・販売できないものであって、医薬品の製造販売に許認可が必要という事情は医薬品製造販売事業者にとって何ら予見可能性を欠くものではない。許認可なしに製造販売できないことは医薬品製造販売事業者にとって常識とも言える事項であり、許認可なしに、あるいは、許認可待ちの状態であっても、医薬品を製造販売できるなどという信頼が医薬品製造販売事業者に生じることもありえない。しかし、医薬品の許認可待ちであることを理由に正当な理由を認めた先例は多数存在する(例えば、取消2007-301124等)。
以上のとおり、請求人による「正当な理由」の構成事由を不合理に限定する主張は、およそ請求人独自の見解であり、失当である。
「正当な理由」とは、上記裁判例が正しく判示するとおり、商標権者等の責めに帰することができない事情、あるいは、不使用がやむを得ないと認められる事情、地震、台風その他の天災地変はもとより、法令による全面禁止も当然に含まれる(乙25)。
イ 被請求人には「正当な理由」が存在する
(ア)被請求人グループはマレーシアにおいて「STARWORLD」ブランドの使用を2004年に開始し(乙9)、日本における「STARWORLD」ブランドを擁したIR施設の展開を検討している(乙15)。被請求人は現在、日本法によるカジノの全面禁止及びマレーシア法のカジノ広告制限によりやむなく日本における本件商標の使用が叶わずにいるが、これら法令による禁止がなければ、被請求人が日本において「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」を含む本件役務に本件商標を使用することができたことは明らかであるから、被請求人の本件商標の不使用には「正当な理由」が存在する。
もし万が一にも、本件のような事例において「正当な理由」が認められなければ、将来のビジネスを見越して他者に先駆けてカジノに係る役務の商標を出願・登録した者が、当該商標の不使用が不可避であるために商標取消となり、一方で、偶々我が国におけるカジノ合法化が達成された段階でカジノに係る役務の商標を登録したものがそのまま当該商標の保持を許されるという不合理な結果を招来することになる。しかしそれではあまりに不合理である。このような結果は、パリ条約7条、及び我が国の商標法が採用する最先出願者登録主義(8条)に反するものであり、我が国の商標法が想定していたものとは思われない。
(イ)なお、請求人は、審判事件弁駁書において、被請求人グループが、海外においても本件商標を全く使用していないと主張しているが、事実に反する。被請求人グループは、2004年、マレーシアのハイランドにあるIR施設「Resorts World Genting」内に「STARWORLD Casino」という名称のカジノをオープンさせている。そして、当該カジノはこれまでに複数のメディアでも取り上げられている(乙26、乙27)。
(ウ)また、請求人は、仮にマレーシア法のカジノ広告規制が存在するとしても、日本においては、被請求人は「STARWORLD」カジノに関する広告を行うことができたはずだと主張するが、請求人が引用する証拠(甲6?甲8)はいずれも被請求人以外の第三者によるガイド記事やツアー内容説明にすぎないから、被請求人の主張に対する何らの反論ともならない。
(3)本件審判の請求が権利濫用であること
ア 本件審判の請求は、請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものである
請求人は、世界に名だたるIRビジネス企業である被請求人グループが、マレーシアにおいて、ホテルに付設した施設としてカジノ施設「STARWORLD」を2004年に開業してからわずか2年後の2006年、自らはマカオにおいて、同じくホテルに付設した施設としてカジノ施設「StarWorld」を開業した。
被請求人グループの世界的な知名度や両商標の同一性、マレーシアとマカオの地理的近接性、使用時期の近接性に照らしても、これが偶然の一致とは考えられず、請求人は、マレーシアにおける被請求人グループの「STARWORLD」の使用状況を知悉した上でマカオにおいて同一名称のカジノ展開を開始したことが容易に推認される。
すなわち、請求人による本件審判の真の目的は、日本やマレーシアにおけるカジノ規制により被請求人グループが未だ日本で本件商標を使用できずにいることを奇貨として、自らは「StarWorld Casino」の出願を行うと共に、本件審判を提起することで、「StarWorld Casino」の登録商標を被請求人に代わって取得して、被請求人グループがこれまでに築き上げてきた「STARWORLD Casino」ブランドの名声や信用を、マカオのみならず、日本においても、自らのカジノビジネスのために利用し、フリーライドすることにあることは明白である
イ 本件審判は権利濫用として認められない
以上のとおり、請求人の本件審判の請求の目的は、まさに被請求人を害することにあるから、権利濫用として、認められない。
(4)結論
被請求人グループは、カジノビジネスに対する日本法及びマレーシア法の規制の存在により、今日まで、日本において、本件商標をIRビジネスに関連する本件役務について使用することができなかった。したがって、被請求人には商標法第50条第2項ただし書に定める「正当な理由」が存在する。
加えて、前記(3)のとおり、本件審判の請求の目的は被請求人を害することにあり、本件審判は権利濫用に該当するから、本件審判の請求が認められる余地はない。

第4 当審の判断
1 本件審判の請求について
被請求人は、本件審判の請求は、請求人による「STARWORLD」ブランドのフリーライドを目的とするものであり、被請求人を害することを目的とするものであるから、本件審判の請求は、権利濫用として、認められない旨主張している。
しかしながら、商標法第50条の商標登録の取消しの審判は、「何人も」請求することができるものであるから、当該審判の請求が、専ら被請求人を害することを目的としていると認められる場合などの特段の事情がない限り、権利の濫用にはあたらないと解するのが相当である。
そして、被請求人が提出した証拠からは、本件審判の請求が専ら被請求人を害することを目的としてされたものであると認めるに足る証拠は見いだせない。また、請求人は、同人の商標登録出願に対し、本件商標が引用され拒絶理由通知を受け、その拒絶の理由を解消するために本件取消審判を請求したものであるから、これが権利濫用ということにはならない。
よって、この点に関する被請求人の主張は採用できない。

2 本件商標の使用について
(1)被請求人は、「本件商標について、被請求人の関連会社は、審判請求の登録前3年以内にマレーシアで使用していたものの、日本国内における被請求人又はその関連会社による使用実績は存在しない。」旨を述べている。
してみれば、被請求人は、本件役務「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」等について本件商標の使用をしていないことを自認している。
そして、被請求人の提出に係る証拠をみるに、本件商標が要証期間において、日本国内で商標権者等によって、使用された事実については、その証拠が一切提出されておらず、その使用を認めることはできない。
(2)本件商標の不使用の「正当な理由」について
商標法第50条第2項は、そのただし書において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者が指定商品又は指定役務に登録商標を使用していないとしても、「登録商標の使用をしていないことについて正当な理由」があることを商標権者である被請求人が明らかにしたときは、その登録商標は取り消されない旨規定しているところ、ここでいう「正当な理由」とは、地震、水害等の不可抗力、放火、破損等の第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由等、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の責めに帰することができない事由が発生したために、商標権者等において、登録商標をその指定商品又は指定役務について使用をすることができなかった場合をいうと解すべきものである(東京高等裁判所 平成7年(行ケ)第124号判決、知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10160号判決、知的財産高等裁判所 平成22年(行ケ)第10012号判決)。
そこで、上記の点を踏まえ、被請求人の主張を検討する。
被請求人が主張する「正当な理由」とは、要するに、「被請求人は現在、日本法によるカジノの全面禁止及びマレーシア法のカジノ広告制限によりやむなく日本における本件商標の使用が叶わずにいるが、これら法令による禁止がなければ、被請求人が日本において『カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供』を含む本件審判の請求に係る指定役務に本件商標を使用することができたことは明らかである。」との理由である。
しかしながら、そもそも本件商標の指定役務中には、我が国において法律で禁止されている賭博行為は、包含されていないものである。
すなわち、商標登録出願時以前から、我が国において法律で禁止されている行為については、商標法第3条第1項柱書きの「自己の業務に係る商品又は役務」に含まれないと解されるものであるから、本件商標の指定役務中に表示されている「カジノゲーム施設の提供及びこれに関する情報の提供」は、「カジノ風のゲームを行うことのできるゲーム施設の提供」であり、法律で禁止されている賭博行為は含まれていない。
そして、本件商標の使用をしていないことについて、正当な理由があるというためには、本来、自己の業務として扱うことのできる商品や役務であることがその前提であることは、商標法第3条第1項柱書きから明らかであって、その上で、登録商標として権利取得後の使用において、法的な規制によって商品を製造販売することができなかったとか,天災によって商品を製造販売することができなかったなど,商標権者等の責めに帰することができない事情によって審判請求の予告登録前3年以内に登録商標を使用することができなかった場合に、「正当な理由」があるというものと解される。
なお、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由とは、例えば、時限立法によって一定期間(3年以上)その商標の使用が禁止されたような場合が考えられるものであって、医薬品の許認可における事情とは異なるものである。
しかるに、被請求人の主張は,本件商標の不使用について、日本法によるカジノの全面禁止から、本件商標を使用することができなかったことにつき正当な理由があったというものであるが、もともと指定役務に含まれていない役務についての主張であったり、また、商標登録出願時以前から登録商標として権利取得後の現在においても、業として提供できない賭博行為に関する主張であるから、上記「正当な理由」の存在を認める根拠となるものではない。
加えて、「マレーシア法のカジノ広告制限によりやむなく日本における本件商標の使用が叶わずにいる」との理由は、我が国における商標の使用と何ら関係がなく、「正当な理由」と認められない。
さらに、被請求人は、「商標に関する国際条約及び日本の商標法上も、カジノに係る役務は認められており、本件商標の指定役務からカジノに係る役務を除外する理由はない。例えば、我が国が加盟し採用するニース協定『標章の登録のための商品及びサービスの共通の分類』は、『カジノの提供((Providing) Casino facilities[gambling])』を第41類の役務として採用している。・・・日本の長年に亘る商標登録出願実務においても、カジノに係る役務は役務として長年に亘って承認されている。現に、『カジノ』に係る役務は、数多くの登録商標において現に指定役務として採用・登録されてきているのである。」旨の主張をしている。
しかしながら、我が国においては、賭博としての「カジノに係る役務」は認められておらず、本件商標の指定役務にも含まれていないから、本件商標の指定役務からカジノに係る役務を除外する理由はない、との主張は、妥当なものではない。
そして、ニース協定の「標章の登録のための商品及びサービスの共通の分類」において、「(Providing) Casino facilities[gambling]」(カジノの提供)を、第41類の役務として採用しているとしても、上記ニース協定の「第2条 国際分類の法的効果及び使用」においては、「(1)国際分類の効果は,この協定に定める要件に従うことを条件として,各同盟国が定めるものとする。国際分類は,特に,標章の保護の範囲の評価及びサービス・マークの承認について同盟国を拘束しない。(2)?(4)(省略)」と規定されており、国際分類は、特に、標章の保護の範囲の評価及びサービスマークの承認について同盟国を拘束しないものである。
また、たとえ、登録商標において指定役務として登録されているものがあったとしても、我が国においては、法律で禁止されている賭博行為については、誰もが業として提供できないものであるから、その登録の事実が上記「正当な理由」の存在を認める根拠となるものではない。
以上のとおりであるから、これらの主張が上記第三者の故意又は過失による事由、法令による禁止等の公権力の発動に係る事由や、商標権者等の責めに帰することができない事由のいずれにも該当するとは認められない。
してみれば、被請求人主張の理由をもって、本件商標の使用をしていないことについて、商標法第50条第2項に規定する正当な理由があるということはできない。

3 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、本件審判の請求に係る指定役務について、本件商標の使用をしていたことを証明したものと認めることができず、また、その使用をしていないことについて正当な理由があったということもできない。
また,請求人が本件審判を請求することが,権利の濫用ということもできない。
したがって、本件商標の登録は、その指定役務中の「結論掲記の役務」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)




審決日 2014-07-17 
出願番号 商願2005-120045(T2005-120045) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 半田 正人 
特許庁審判長 今田 三男
特許庁審判官 井出 英一郎
田中 亨子
登録日 2006-09-15 
登録番号 商標登録第4987490号(T4987490) 
商標の称呼 スターワールド 
代理人 恩田 誠 
代理人 岡田 淳 
代理人 恩田 博宣 
代理人 一色国際特許業務法人 
代理人 石堂 磨耶 

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