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審決分類 審判 一部無効 外観類似 無効としない X30
審判 一部無効 観念類似 無効としない X30
審判 一部無効 称呼類似 無効としない X30
管理番号 1289667 
審判番号 無効2012-890085 
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-10-02 
確定日 2014-07-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5385844号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5385844号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成22年8月6日に登録出願、第30類「コーヒー及びココア,菓子及びパン,コーヒー豆,穀物の加工品」を指定商品として、同22年12月27日に登録査定、同23年1月21日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
本件商標が商標法第4条第1項第11号該当するとして、請求人が引用する登録第5339875号商標(以下「引用商標」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成21年11月10日に登録出願、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同22年7月23日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中、『菓子及びパン』についての登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第30号証(枝番を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、その指定商品中の「菓子及びパン」について、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。
2 商標法第4条第1項第11号について
商標法第4条第1項第11号に係る商標の類否は、同一又は類似の商品(役務)に使用された商標が、その外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものである(甲第3号証:最高裁昭和39年(行ツ)第110号)。
以下、本件商標と引用商標との類否を判断するに当たって、取引の実情を踏まえつつ考察する。
(1)取引の実情
ア 引用商標は、請求人が製造、販売するテーブルナッツ市場における商品に使用されているところ、テーブルナッツとは、アーモンド等の木の実をロースト又は乾燥させたものを指し、そのまま食するものをいい、酒のつまみのほか、スナックとして食べることの多い食品である。
民間の調査機関である株式会社富士経済の調査(甲第4号証)によれば、テーブルナッツの市場規模は、平成22(2010)年において、販売量9,150トン、販売額227億円(メーカーの出荷金額ベース)であるところ、請求人の平成22(2010)年度の売上高(出荷金額ベース)は、4億3千万円であり、市場でのシェアは、18.9%とされている。
そして、テーブルナッツには、市販用と業務用とがあるが、市場全体では、約90%が市場用、約10%が業務用であり(甲第4号証:用途別販売動向表)、引用商標を付した商品は、そのほとんどが市販用として販売されている。
したがって、テーブルナッツに係る商品の需要者は、特定の業者等ではなく、家庭の主婦等の個人消費者が主である。
また、近年は、食の好みが細分化するとともに、健康に対する意識の高まりから、ナッツ類に対する調理法(油を用いるローストか否か)、塩分(添加か無添加)、原料の原産地等にこだわりを持つ消費者が増加する傾向にあり、好みに合った特定の商品を指名買い、あるいは繰り返し購入しようとする傾向が高まっているといえる。
イ 引用商標の使用態様
請求人は、発売時から現在まで継続的に、食塩無添加、かつ、ノンオイルローストアーモンド製品のパッケージの表面に大きな文字で「美実」の標章を使用している(甲第5号証ないし甲第8号証)。
ウ 請求人による宣伝広告の掲載
請求人は、本件商標の登録出願時前に、大阪松竹座における「大地真央主演の舞台公演」(公演期間:平成22年3月3日ないし同月28日)で、その舞台パンフレットの第59頁の全面にカラーで「美実(アーモンド)」の宣伝広告を行うとともに、同舞台公演の初日(平成22年3月3日)には、舞台上から出演者が同商品の小分け袋を観客に向かってまくというイベントを開催し、同商品に対する高品質感を印象づけた。さらに、同舞台公演において、劇場内ロビーに展示・特売会場を設けて同商品の宣伝広告を行った(甲第9号証の1及び2)。
また、本件商標の登録出願時前の平成22年6月21日付け「日本食糧新聞」(甲第10号証)に、「食塩無添加アーモンド『美実』発売、人気市場で指名買い目指す」等の表現による掲載を行い、請求人製品の特色を宣伝広告した。
エ テーブルナッツ等の商品に付された商標等の状況
テーブルナッツ等の商品の市場規模は、先に記述したとおり、平成22(2010)年の販売額が227億円であるところ、メーカーがテーブルナッツ等の商品に付する商標は、まったくバラバラであり(甲第11号証ないし甲第15号証)、特定の言葉を重んじて用いられるといった状況にない。
したがって、テーブルナッツ等の商品に付する商標の類似の幅は、非常に広いといえる。
(2)本件商標と引用商標の類否
ア 観念における対比
(ア)本件商標の識別機能を有する部分について
本件商標は、漢字を横書きしてなる「美実」と、欧文字を横書きしてなる「PLUS」と、この欧文字「PLUS」の下段に平仮名を横書きしてなる「びみぷらす」と、漢字「実」の右上部分にごく小さく配置される木の葉の模様とからなり、漢字「美実」の各文字が一部の横線を共有するとともに、欧文字「PLUS」の一部であるPとが一本の横線を共有しているような構成になっている。
そして、各構成文字の大きさの比率は、面積比でおよそ、25(美実):4(PLUS):1(びみぷらす)となっており、下段に横書きされた平仮名「びみぷらす」は、漢字「美実」に比べて圧倒的に小さい構成になっている。しかも、この下段に横書きされた平仮名「びみぷらす」は、その上段の「美実PLUS」の読みを示したものと理解されるから、とりたてて需要者の注目をひく態様のものではない。同様に、漢字「実」の右上に配置された木の葉の模様部分についても、その大きさが小さいことや文字とまとまりよく示されていることから、とりたてて需要者の注目をひく態様のものではない。
そうすると、本件商標は、下段に横書きされた平仮名「びみぷらす」以外の構成、すなわち、漢字と欧文字からなる「美実PLUS」が、商標の要部であるかのように考えることもできる。
しかしながら、一般的に、ある語に「PLUS」又は「プラス」の語を結合した場合の「PLUS」又は「プラス」は、単に「付加」する程度の意味を想起させるにすぎず、強い識別力は有しないと理解される(甲第16号証)。
また、漢字「美実」は、既存の語ではなく、新しく創作された語(造語)であるため、極めて強いインパクトを与えるものである。
したがって、欧文字「PLUS」は、上述のとおり、漢字「美実」に対し、小さく表記されていることもあり、需要者においては、大きく表記された漢字「美実」の部分に特に強い印象を受けるといえる(識別機能を有する部分)。
(イ)引用商標の識別機能を有する部分について
引用商標は、欧文字を横書きしてなる「TON’S」と、漢字を縦書きしてなる「美実」が二段に構成されたものである。なお、該「TON’S」は、引用商標の商標権者のハウスマーク「TON」(登録第724190号商標)と所有を表す接語の「’」が組み合わされたものである。
しかしながら、上記「TON’S」は、「美実」に対して圧倒的に小さく記されている〔面積比でおよそ、25(美実):1(TON’S)〕ことや、漢字「美実」が造語であり、需要者に与える印象が極めて強いことから、需要者においては、大きく表記された漢字「美実」の部分に特に強い印象を受けるといえる(識別機能を有する部分)。
(ウ)識別機能を有する部分の観念について
上述のとおり、本件商標の識別機能を有する部分と、引用商標の識別機能を有する部分とは、漢字の「美実」であるという点で共通する。「美実」は、上述のとおり造語ではあるものの、これを構成する「美」は「うつくしい、みごと、よいこと」等を意味し、また、「美」の形容詞としては「美し(いし)」もあり、これは「よい、味がよい」等を意味するものである一方、「実」は「果実、果実の中心部(にある種子)」等を意味する語であり、名詞的に用いられる(甲第17号証及び甲第18号証)。
そうすると、上記「美実」は、既存の語ではないものの、需要者に対して、「美しい果実」、「味がよい果実」等の観念を生じさせる。
したがって、本件商標と引用商標とは、共通する観念を生じるものである。
イ 称呼における対比
本件商標は、その全体をよく観察すると「ビミプラス」の称呼を生じる。これに対し、引用商標は、その全体をよく観察すると「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼を生じ得る。
したがって、本件商標が「ビミプラス」の称呼のみを生じ、また、引用商標が「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼のみを生じる限りにおいては、本件商標と引用商標とは、称呼において類似しない。
しかしながら、上述するように、本件商標及び引用商標の識別機能を有する部分は、いずれも漢字の「美実」である。
そうすると、本件商標からは、上記「ビミプラス」の称呼のほかに、「ビミ」又は「ビジツ」の称呼を生じ、また、引用商標からも、上記「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼のほかに、「ビミ」又は「ビジツ」の称呼が生じるため、本件商標と引用商標とは、「ビミ」又は「ビジツ」という共通する称呼が発生する。
ウ 外観における対比
(ア)本件商標
本件商標の要部「美実」は、漢字を横書きしてなるものであるが、通常の書体で書かれたものではなく、いわゆるデザイン文字からなるところ、漢字を崩すことなくそのまま取り入れて用いているため、漢字として充分に認識される。
そして、本件商標を構成するデザイン文字は、各文字が横1.5に対し、縦1.7と縦長の構成になっており、しかも、文字の縦線に対し、横線が一見してわかる程に極端に細く表されているため、各文字がいっそう縦長に見える。
また、本件商標の構成中、「美」が「実」に対してやや上方に配置されており、これを見る者の視線が上方から下方へ移動するように構成されているため、漢字「美実」全体がいっそう縦長に見える。
(イ)引用商標
引用商標の要部「美実」は、漢字を縦書きしてなるものであるが、通常の書体で書かれたものではなく、いわゆるデザイン文字からなるところ、本件商標と同様に、漢字を崩すことなくそのまま取り入れて用いているため、漢字として充分に認識される。
そして、引用商標を構成するデザイン文字は、文字を構成する縦線と横線とはほぼ同様の太さであるものの、各文字が横2に対し、縦3と縦長の構成になっており、しかも、文字の上半分に重心を持たせているため、縦線が強調され、漢字「美実」がいっそう縦長に見える。
(ウ)本件商標と引用商標とは、上述のとおり、両商標の要部が共通し、しかも、これらの要部は、いずれも同様の縦長に見えるようにデザイン化されていることから、両商標が上記指定商品に使用された場合には、互いに見誤るものである。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観において相紛らわしく、その商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるといえる。
(3)小括
以上のとおり、取引の実情を考慮して、本件商標と引用商標とを対比すると、両商標は、それぞれの商標の識別機能を有する部分が共通し、観念、称呼及び外観において同一又は類似する。
そして、本件商標に係る指定商品中の「菓子及びパン」は、引用商標の指定商品と同一である。
したがって、本件商標は、引用商標と類似する商標であり、また、本件商標の指定商品中の「菓子及びパン」は、引用商標に係る指定商品同一であることから、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものである。
3 答弁に対する弁駁
(1)本件商標及び引用商標の要部の認定について
ア 本件商標について
被請求人は、本件商標の構成中、「美実」の部分は、その指定商品との関係において、自他商品の識別力が極めて弱い語であり、需要者、取引者が「美実」の部分を要部として認識することはない旨主張する。
しかしながら、本件商標は、「美実PLUS\びみぷらす」の文字と漢字「実」の右上方に極めて小さい「木の葉形状の塗りつぶし模様」とからなるところ、その文字部分を構成する「美実」、「PLUS」、「びみぷらす」は、甲第19号証に示すように、それぞれの大きさが異なるだけでなく、文字の種類(漢字、欧文字、平仮名)が異なるため、常にこれらが不可分一体のものとして把握されるとはいえない。
本件商標の構成中、大きく目立つように配置された漢字「美実」は、造語であり、需要者、取引者に極めて強い印象を与えるものであるのに対し、欧文字「PLUS」は、意味内容(加えること、足すこと)までよく知られた語(甲第20号証)であって、被請求人が主張するように、本件商標の指定商品「菓子及びパン」についても、よく使用される語であるから、欧文字「PLUS」が需要者、取引者に与える印象は、弱いものである。
また、本件商標の構成中、「木の葉形状の塗りつぶし模様」は、その構成に占める割合が極めて小さく、また、被請求人も認めているように、漢字「実」と一体化して、該文字中に埋没しているため、該模様が需要者、取引者に与える印象は、弱いものである。
さらに、本件商標の構成中、平仮名「びみぷらす」は、甲第19号証に示すように、漢字「美」の17.6分の1の大きさにすぎないこと、通常の字体で表記され、特段注目をひくものではないこと、称呼を示すために付加表記された趣旨が明らかであることから、該平仮名が需要者、取引者に与える印象は、弱いものである。
したがって、本件商標においては、漢字「美実」が、需要者、取引者に対し、商品の出所識別標識として強い印象を与え、要部と認識されるものであるといえる。
イ 引用商標について
被請求人は、引用商標の構成中、「TON’S」部分が請求人のハウスマークであるにもかかわらず、該文字部分に識別力がないとする請求人の主張は失当である旨主張する。
しかしながら、請求人は、「TON’S」部分に全く識別力がないと主張しているのではなく、引用商標の構成中、極めて大きく配置され、かつ、造語でもある「美実」部分が需要者、取引者に極めて強い印象を与えるものであり、仮に、被請求人の主張するように、「TON’S」部分がハウスマークを連想させるものだとしても、甲第21号証に示すように、引用商標の構成中、「TON’S」の文字は、「美実」の文字に対して、29分の1の大きさにすぎないものであるから、簡易迅速を尊ぶ取引においては、極めて印象深い「美実」部分を商品の出所識別標識と捉えて把握されることが少なくないというものである。
このことは、インターネット上の検索エンジン(Google)で、「美実 ナッツ」及び「美実 アーモンド」をキーに検索すると、前者の結果50件中の42件、後者の結果50件中の47件が、請求人又は請求人の商品に関する情報であることからも裏付けられる(甲第22号証)。
(2)取引の実情について
ア 被請求人は、請求人が取引の実情とする主張の内容からは、商標法第4条第1項第11号の無効理由の取引実情として考慮すべき点が不明である旨主張するが、この点につき、請求人の主張するところは、以下のとおりである。
すなわち、被請求人が本件商標を登録出願したのは、著名人を起用した舞台公演において請求人が広告宣伝を行った約5月後であり、また、これまでブランド名を付けることが少なかった「食塩無添加のアーモンド」に対し、請求人が新ブランド「美実」と命名して差別化し、指名買いされる商品を目指すとの広告宣伝を行った約1月半後であって(甲第6号証、甲第9号証及び甲第10号証)、被請求人が本件商標をこのような時期に登録出願することは、需要者、取引者に無用の混乱を招き、ひいてはこの業界全体の信頼を失墜させることにつながりかねないため、企業としてのモラル向上を希望するものである。
イ 被請求人は、本件商標を構成する「美」、「実」、「PLUS」の各文字は、その指定商品についてよく使用される語であり、これらを含む商標は、商品「菓子及びパン」との関係においては、商標の類似の幅が非常に狭い旨主張する。
しかしながら、指定商品を「菓子及びパン」とする「美」、「実」、「PLUS」の各文字を用いている商標が多数に及ぶとしても、商標は、その組み合わせに特徴を有するものであるから、商標を構成する文字を1文字ずつ分離して調べることには何の意味もない。
なお、被請求人は、上記主張の根拠として、過去の審決例を示しているが、該審決例に係る商標は、本件商標とは構成態様が異なるものであり、また、その指定商品についても相違するものであるから、参考とすることができない。
(3)本件商標と引用商標との類否について
ア 外観における対比
(ア)被請求人は、本件商標と引用商標とが、外観上、著しく非類似である旨主張するが、先述したとおり、本件商標の構成中の「美実」部分と引用商標の構成中の「美実」部分とは、受ける印象が全く同じであり、時と所を異にして離隔的に観察するときは、需要者、取引者が誤認混同を生ずるおそれがあるため、両商標は、その構成中の「美実」部分の外観において、類似する商標であるといえる。
なお、被請求人は、引用商標の「美実」部分が「美実」の文字とは認識できないほど変形している旨主張しているが、該「美実」部分は、「金文体」という一般に知られた書体(甲第25号証及び甲第26号証)で表されており、需要者、取引者は、当然これを漢字として充分に認識、理解できるため、被請求人の主張には無理がある。
(イ)被請求人は、本件商標が漢字と欧文字の3文字に一本の横線を共有し、全体として横長に一体的に書されている旨主張しているが、その主張の根拠となる一本の横線は、極めて細く、しかも、文字と同じ色で表されているため、それぞれの文字に埋没し、すでにその存在意義を認めることができない態様である。
したがって、本件商標においては、このような態様の一本の横線を共有することによって、識別力の強弱、文字種及び文字の大きさが異なることによる分離又は抽出観察を妨げられることはない。
イ 観念における対比
被請求人は、本件商標が「美しい実」と「足すこと」程度の意味合いを生じるのに対し、引用商標が「TONの美しい実」の観念を生じることから、両商標が観念において非類似である旨主張するが、先述したとおり、本件商標と引用商標とは、いずれもその構成中の「美実」の文字部分が、需要者、取引者に対して、商品の出所識別標識として強い印象を与えるものであるから、該「美実」部分のみを捉えて取引に供される場合がある。
そうすると、漢字「美実」は、造語であり、確定した固有の意味を有するものではないため、これを構成する漢字「美」及び「実」の有する意味が重要な判断の要素となるところ、これらは、被請求人が主張するように、いずれも商品「菓子及びパン」と関連性の強い語であって、しかも、両商標の構成中の「美実」部分は、縦書き及び横書きと異なっているものの、その構成から語順を正確に記憶して理解することができるため、需要者、取引者に対して、共通の「美しい実」等の観念を生じさせる。
したがって、本件商標と引用商標とは、同一の観念を生じ得る。
ウ 称呼における対比
被請求人は、本件商標から「ビミプラス」の称呼が生じるのに対し、引用商標から「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼が生じるため、両商標の称呼が非類似である旨主張するが、先述のとおり、本件商標からは、「ビミプラス」の称呼以外に、その識別力が極めて強い「美実」部分から「ビミ」の称呼も生じる一方、引用商標からは、「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼以外に、その識別力が極めて強い「美実」部分から「ビミ」の称呼も生ずること明らかである。
したがって、両商標は、同一の称呼を生じ得る。
なお、本件商標から「ビミプラス」の称呼が生じる一方、引用商標から「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼が生じるとしても、そのことをもって、両商標から「ビミ」の称呼が生じ得ない理由にはならない。
(4)まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、観念、称呼のいずれにおいても相紛らわしいことが明らかである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第15号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求人の主張の要旨
請求人の主張を要約すると、(a)本件商標の構成中、識別機能を有するのは、「美実」部分のみであり、また、引用商標は、その構成中、ハウスマークである「TON’S」部分には識別機能がなく、「美実」部分のみに識別機能がある、(b)引用商標及び本件商標の構成中の「美実」部分は、縦長に見えるようにデザイン化された点で共通する、(c)上記(a)及び(b)によれば、本件商標と引用商標とは、いずれも称呼「ビミ」又は「ビジツ」が生じ、「美しい果実」、「味が良い果実」の観念を生じるものであって、外観上も相紛らわしいので、両商標は類似する、(d)取引実情として、請求人のすべての商品の売上高を考慮し、引用商標の変形使用例を考慮し、類似しない商標をピックアップして、商標の類似の幅が非常に広い点を考慮すべきである、とのことである。
しかしながら、本件商標と引用商標とは、以下のとおり、その構成中の「美実」部分のみを取り出して考察されるものではなく、あくまでも商標全体が一体不可分に認識される商標である。
2 本件商標及び引用商標の要部が「美実」であるとの請求人の主張について
(1)本件商標について
ア 本件商標の構成中の「美実」部分は、請求人が主張するとおり、需要者に対して、「美しい果実」、「味がよい果実」の観念を生じさせる語であって、該部分は、「美しい果実」、「味がよい果実」、「美い実」を意味することから、本件審判の請求に係る指定商品「菓子及びパン」との関係において、自他商品識別力が極めて弱い語である。
したがって、本件商標に接する需要者、取引者が、その構成中の「美実」部分のみを商標の要部であると認識することはない。
イ 本件商標は、「美実PLUS\びみぷらす」の構成全体をもって、「美しい実」と「足す」程度の意味合いを生じるものであり、また、その構成中の平仮名「びみぷらす」により、「美実PLUS」の称呼を無理なく認識される。そして、本件商標の称呼である「ビミプラス」は、5音の短い音構成であるため、本件商標は、「ビミ」のみが要部として認識されることなく、「ビミプラス」として一連の称呼のみが生ずる。
ウ 請求人は、本件商標について、その構成中の漢字「美実」の各文字が一部の横線を共有するとともに、欧文字「PLUS」の一部であるPとが一本の横線を共有しているような構成になっている旨主張し、また、引用商標との観念における対比において、本件商標の構成中の木の葉の模様部分についても、その大きさが小さいことや文字とまとまりよく表されている旨主張している。このように、図形と文字とがまとまりよく表されている場合には、商標全体として一体的に認識される商標であると判断されるものである。
(2)引用商標について
ア 請求人は、引用商標の構成中の「TON’S」の文字が「美実」の文字よりも小さいので、「TON」の文字部分には識別機能がなく、「美実」の文字部分のみに識別機能がある旨主張している。
しかしながら、引用商標の構成中の「TON」が請求人のハウスマークであるにもかかわらず、「TON’S」の文字部分に識別機能がないとの請求人の主張は、失当である。
請求人のホームページ(乙第3号証)をみると、(a)「会社概要」の「事業内容」において、「トンブランドの製造販売」との記載があり、(b)「沿革」の「昭和34年12月」において、「オリンピックブランド、トンブランドの製品の発売」との記載があり、同じく、「昭和40年」において、「トンブランド・ゴールデン・ミックスナッツ1kg缶の販売開始」との記載があり、(c)各ページの左上には「TON’S」のブランドマークが付されている。これらのことから、「TON」は、請求人が長年使用してきたハウスマークであることがわかる。
イ 請求人は、本件審判の請求に係る指定商品と同一の商品「菓子及びパン」について、引用商標のほか、「TON」の文字を含む登録商標を8件所有している(乙第4号証)ところ、識別力がないか又は極めて弱い言葉の前に、ハウスマーク「TON」と所有格「’S」である「TON’S」を付けて、登録商標としているものがある。そして、請求人が「TON’S」のシリーズ商標を使用している(乙第5号証及び乙第6号証)ことからすれば、需要者・取引者が、引用商標の構成中の「TON’S」の文字部分を捨象し、「美実」の文字部分のみを要部として認識することはあり得ない。
ウ 引用商標は、請求人の主張によると、「トンズビミ」、「トンズビジツ」の称呼のほかに、「ビミ」、「ビジツ」の称呼が生じるとされているが、引用商標の構成中の「美実」の文字部分のみから「ビミ」、「ビジツ」の称呼が生じない点は、上述したとおりである。請求人が、引用商標から「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼が生じる旨主張しているように、引用商標は、需要者、取引者において、「美実」の文字部分に特定の称呼が定着していない状態の商標であることがわかるから、引用商標の構成中の「美実」の文字部分を要部とする特段の事情はない。
エ 引用商標は、請求人のハウスマーク「TON」に所有格「’S」を付しているので、「トンの美しい果実」、「トンの味がよい果実」の意味合いが生じるものであり、引用商標の構成中、請求人のハウスマークである「TON」の文字を捨象して、自他商品識別力の弱い「美実」の文字部分のみが要部として認識されることはない。
(3)以上のとおり、本件商標と引用商標とは、いずれもその構成中の「美実」の文字部分のみが要部として認識される事情はなく、一体的なものとしてのみ認識される商標である。
3 取引の実情について
(1)請求人は、引用商標を付した商品の売上高ではなく、請求人の商品すべての売上高等を記載して、「テーブルナッツに係る商品の需要者が、特定の業者等ではなく、家庭の主婦等の個人消費者が主である」旨主張しつつ、読者層の少なくとも97.4%が「事業者」である日本食糧新聞(乙第10号証)への広告を行った旨も主張していることからすると、その主張自体、特筆すべき需要者層が、個人消費者なのか事業者なのか、一貫性がない。
また、請求人は、品質にこだわりを持つ消費者が増加する傾向を主張し、特定の商品を指名買いあるいは繰り返し購入しようとする傾向が高まっている旨主張している。さらに、商標法第4条第1項第11号の無効理由であるにもかかわらず、請求人は、引用商標「TON’S美実」を「TON’SBRAND美実」に変形使用した例を挙げ、請求人の根拠地である一地方の舞台公演の観客に対する宣伝を記載している。
しかしながら、これらの主張からは、商標法第4条第1項第11号の無効理由の取引実情として考慮すべき事項が不明である。
なお、被請求人が調べたところ、請求人の同一のパッケージの商品は、「ブランド:TON’S」、「販売元:東洋ナッツ」又は「TON’S美実」として、需要者、取引者に認識されており(乙第11号証)、引用商標を付した商品については、該商標の構成中の「TON’S」の文字部分のみを認識することはあっても、請求人のハウスマークである「TON’S」の文字部分を捨象して、「美実」の文字部分のみが要部として認識されることはない。
(2)テーブルナッツ等の商品に付された商標等の状況について
ア 請求人は、テーブルナッツ等の商品に付された商標等の状況について、使用例を挙げて、テーブルナッツ等の商品に付する商標はまったくバラバラであり、特定の言葉を重んじて用いられるといった状況にないことから、テーブルナッツ等の商品に付する商標の類似の幅は非常に広い旨主張している。
しかしながら、商標を恣意的にピックアップすれば、まったくバラバラの商標をピックアップすることはできて当然であり、本件事案に即した考察を行わなければ、取引実情を考察することにはならない。特許庁電子図書館で検索したところ、指定商品を「菓子及びパン」とするものであって、「美」を含む登録商標は1,261件、「実」を含む登録商標は408件、「PLUS」を含む登録商標は191件(乙第12号証ないし乙第14号証)存在する。
以上のとおり、本件商標を構成する「美」、「実」、「PLUS」の各文字は、本件審判の請求に係る指定商品についてよく使用される語であるから、「美」、「実」、「PLUS」のいずれかの文字を含む商標は、該指定商品「菓子及びパン」については、商標の類似の幅が非常に狭いものである。
イ 特許庁における過去の審決において、一連の称呼のみを生ずるとして非類似と判断されている例(乙第15号証)に照らせば、本件商標もまた、一連一体にのみ認識される商標である。
他方、「TON」の文字については、「TONIGHT」のように言葉の一部に「TON」の文字を含む商標を除き、「TON」の文字と認識できる商標は、すべて請求人が所有する商標であることから(乙第4号証)、引用商標の構成中の「TON」の文字部分は、その指定商品「菓子及びパン」について、強い識別力を発揮する部分であるといえる。
したがって、需要者、取引者は、引用商標の構成中の「TON’S」の文字部分を捨象し、「美実」の文字部分のみを要部として認識することはあり得ない。
4 本件商標と引用商標の類否について
(1)外観における対比
ア 本件商標は、その構成中の「美実」の各文字に段差を設け、かつ、「実」の文字の右上に葉をデザイン化した図形を配して、葉の図形が「美」の文字の上端と同じ位置になるように配し、さらに、「実」の文字の右横に「PLUS」の文字を、波を打つように「中程・上方・下方・中程」の位置になるようにデザイン化し、「美」、「実」、「P」の各文字が一本の横線を共有し、「L」の文字の一部と「U」の文字の一部が交わるように配置し、「PLUS」の文字部分の下に「びみぷらす」の文字を配した横長の商標である。
他方、引用商標は、請求人のハウスマークである「TON’S」を左横書きし、そのすぐ下に、漢字「羊一人実」又は「美実」と思しき文字を、文字としてのバランスを著しく変形して縦書きした商標である。
ところで、「美実」を明朝体で普通に書した場合、それぞれの文字の「上部」と「下部」との割合は、別紙3に示すとおり、2:1であるところ、本件商標の構成中の「美実」の文字についての割合もほぼ同一である一方、引用商標については、その構成中の「美」の文字の「上部」と「下部」の割合は、7:10であり、同じく、「実」の文字の上部と下部の割合は、5:8である。このように、引用商標の構成中の「美実」の文字は、上部と下部とのバランスを逆転させて、「人」を普通に書した文字が2つ表れる点に外観上の著しい特徴がある。
したがって、本件商標が、漢字と欧文字の3文字に一本の横線を共有し、文字の段差を設けつつ、その構成全体として横長に一体的に書されているのに対し、引用商標は、横書きと縦書きを組み合わせ、かつ、「美実」を認識するのに困難なほど、文字のバランスを著しく崩した縦長の商標であるため、両商標は、外観上、著しく非類似である。
イ 外観に関する請求人の主張について
(ア)請求人は、本件商標の各構成文字の大きさの比率は、面積比で約25(美実):4(PLUS):1(びみぷらす)と主張しているが、本件商標の各構成文字の大きさの比率は、面積比で約17(美実):4(PLUS):1(びみぷらす)である。
また、請求人は、本件商標がまとまりよく表されていると述べているにもかかわらず、その構成中の「PLUS」の文字部分には強い識別力がなく、同じく、「びみぷらす」の文字部分についても、とりたてて需要者の注目をひく態様のものではないから、本件商標は、その構成中の「美実」の文字部分に強い印象を受ける旨主張しているが、商標がまとまりよく表されている場合には、上述したとおり、途中で分断されることなく、その構成全体をもって一体的なものとしてのみ認識される。
(イ)請求人は、本件商標と引用商標とは、その要部が「美実」で共通し、「美実」の文字がいずれも縦長に見えるようにデザイン化されていることから、外観において相紛らわしく、その商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあると主張している。
しかしながら、本件商標は、上述したとおり、その構成中の「美」、「実」、「P」の各文字を一本の横線で共有しているため、横のラインを強調しており、「美実」の文字部分のみを分離することはできない。
また、本件商標の称呼が「ビミプラス」の5音の短音構成であるため、その構成中の「美実」の文字部分のみを要部とする事情は存在しない。
そして、請求人も認めているとおり、本件商標は、「葉」の図形部分も含めてまとまりよく表されていることから、その構成全体をもって一体的なものとしてのみ認識される。
(ウ)請求人は、本件商標を構成する各文字が横1.5に対し、縦1.7の縦長の構成をとっており、文字の縦線に対し、横線が極端に細く表されている点を挙げて、各文字がいっそう縦長に見えるとし、さらに、文字が上方から下方へ移動するように構成されているため、その構成中の「美実」の文字全体がいっそう縦長に見えると主張している。
しかしながら、本件商標の構成中の「美実」及び「びみぷらす」の各文字について、文字としてのバランス及び横線が極端に細く表されている点は、明朝体による「美実」、「びみぷらす」の文字のバランスとほぼ同一である。
また、本件商標の構成中、「美」、「実」及び「P」の各文字は、横長の一本の線でつながっており、さらに、本件商標を構成する各文字は、波を打つようになだらかに文字を上下させる段差を付けて横のラインを強調した配置であるから、本件商標の構成中の「美実」の文字部分について、各文字が縦長に見えることは全くない。
そして、本件商標は、横のラインを強調した構成からなるため、仮にその構成中の「美実」の文字部分だけを考察した場合はもとより、商標全体としての「美実PLUS\びみぷらす」についても、縦長に見えることはあり得ない。
(エ)引用商標は、上述したとおり、請求人のハウスマークである「TON’S」を付した商標であり、請求人が、引用商標を「TON’S」のシリーズ商標として登録し、使用していることから、引用商標は、その構成全体をもって一体的なものとしてのみ認識される。
また、引用商標の構成中の「美実」の文字部分は、下部の割合を著しく縦に引き伸ばして、「美実」の文字とは認識できないほど変形している。
したがって、本件商標と引用商標とは、外観上、著しく非類似である。
(2)観念における対比
ア 本件商標は、「美しい実」と「足すこと」程度の意味合いが生じる一方、引用商標は、「TONの美しい実」の観念が生じる。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念上、非類似である。
イ 観念に関する請求人の主張について
請求人は、本件商標と引用商標とが、いずれもその構成中に「美実」の文字を含む点で共通するから、需要者において、「美しい果実」、「味がよい果実」等の観念が共通する旨及び本件商標の構成中の「PLUS」の文字部分に強い識別力がない旨主張し、本件商標の指定商品とは全く異なる指定商品「化粧品」における異議事件(甲第16号証)を証拠として提出している。
しかしながら、商標は、「指定商品」との関係において、識別力の有無を判断しなければ意味がないところ、本件審判の請求に係る指定商品「菓子及びパン」について、「プラス」又は「PLUS」の文字に識別力がないと認識されることなく、該文字を含む商標全体として一体的に認識されると判断されて登録されたと思料されるものがある。
そうすると、本件商標は、その構成中の「PLUS」の文字部分には識別力がなく、要部が「美実」の文字部分にあるとは認識されず、その構成全体をもって一体的なものとしてのみ認識される商標である一方、引用商標は、請求人のハウスマークであり、「TON’S」のシリーズ商標として使用している「TON」部分を捨象して、需要者・取引者が認識することのない商標である。
したがって、本件商標と引用商標とは、観念上、非類似である。
(3)称呼における対比
ア 本件商標の構成中の「びみぷらす」の文字部分は、その構成中の「美実PLUS」の文字部分の読みを無理なく表しているため、本件商標は、「ビミプラス」の5音の称呼が生じる一方、引用商標は、「トンズビミ」の5音又は「トンズビジツ」の6音の称呼が生じる。
したがって、本件商標と引用商標とは、語頭音から語尾音まですべての音が異なるから、称呼上、明確に非類似である。
イ 称呼に関する請求人の主張について
請求人は、本件商標が「ビミプラス」の称呼のみを生じ、引用商標が「トンズビミ」又は「トンズビジツ」の称呼のみを生じる限りにおいては、本件商標と引用商標とは、称呼において類似しない旨認めている。
本件商標と引用商標とは、上述したとおり、いずれもその構成中の「美実」の文字部分が要部とはなり得ないから、両商標は、称呼において類似しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、外観、観念、称呼のいずれにおいても類似しない商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。

第5 当審の判断
1 本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、「美実PLUS」の文字(その構成中の「美」、「実」及び「PLUS」の各文字は、横線部の一部が連続するように表され、同じく、「L」及び「U」の両文字は、その一部が重なるように表され、さらに、「実」の文字の右斜め上方の近接する位置には、黒色の木の葉様の図形が配されている。)と、該「PLUS」の文字の下方に「びみぷらす」の文字を配してなるものであるところ、該「びみぷらす」の文字は、その文字の構成及び配置に照らせば、上方に位置する「美実PLUS」の文字の読みを特定するものとして、無理なく看取、理解されるといえるものであり、また、該「びみぷらす」の文字から生じる「ビミプラス」の称呼も、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そうとすると、本件商標は、その構成中の「美実PLUS」の文字部分の構成態様と相まって、その構成全体をもって一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当であり、また、本件商標を構成する「美実PLUS」の文字及び「びみぷらす」の文字は、いずれも特定の意味合いを想起させるものとはいい難い。
してみれば、本件商標は、その構成全体から「ビミプラス」の称呼を生じるものであって、特定の観念を生じることのないものである。
2 引用商標について
引用商標は、別掲2のとおり、金文体と称される、視覚的に特徴のある書体(甲第25号証及び甲第26号証)をもって縦書きで表された「美実」の文字と、その上方に、該「美実」の文字と幅を揃え、かつ、ありふれた書体をもって横書きで表された「TON’S」の文字を配してなるものであるところ、該「美実」の文字及び「TON’S」の文字は、いずれも特定の意味合いを想起させるものとはいい難いことからすれば、相互に関連あるものとして看取、理解されることはないとみるのが相当である。
そうとすると、引用商標は、これを構成する「TON’S」の文字及び「美実」の文字の態様及び配置と相まって、それぞれの文字が分離、独立して認識される場合も決して少なくないといい得るものである。
してみれば、引用商標は、その構成文字全体に相応する「トンズビミ」及び「トンズビジツ」の称呼を生じるほか、その構成中の「TON’S」及び「美実」の各文字に相応する「トンズ」又は「ビミ」若しくは「ビジツ」の称呼をも生じるものであり、また、上記したとおり、該各文字は、特定の意味を想起させるものとはいえないことからすれば、該各文字はもとより、その構成文字全体からも特定の観念を生じることのないものである。
3 本件商標と引用商標との類否
(1)本件商標と引用商標についてみるに、両商標は、それぞれ別掲1及び別掲2のとおりの構成からなるものであるから、外観において、明らかな差異を有するものである。
また、本件商標から生じる「ビミプラス」の称呼と引用商標から生じる「トンズビミ」、「トンズビジツ」、「トンズ」、「ビミ」及び「ビジツ」の称呼とは、いずれもその音構成において著しい差異が認められるものであるから、称呼上相紛れるおそれはないものである。
さらに、本件商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じることのないものであるから、観念上、紛れるおそれはない。
(2)小括
以上のとおり、本件商標と引用商標とは、称呼、外観及び観念のいずれの点からみても類似するとはいえず、両商標を同一又は類似の商品について使用しても、商品の出所について誤認を生じさせるおそれがあるとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。
4 請求人の主張について
(1)本件商標について
請求人は、本件商標について、その構成中、「PLUS」の文字は、意味内容(加えること、足すこと)までよく知られた語であって、本件商標の指定商品「菓子及びパン」についても、よく使用される語であるため、該「PLUS」の文字が需要者、取引者に与える印象は、弱いものであるから、本件商標の自他商品の識別機能を有する部分は、本件商標の構成中の「美実」の文字部分である旨主張している。
しかしながら、本件商標の構成中の「PLUS」の文字が「加えること。足すこと。」の意味を有するものとして広く知られているとしても、該「PLUS」の文字が、商品「菓子及びパン」を取り扱う業界において、商品の品質等を表す語として、取引上、一般に使用されているとみるべき証拠は見いだせず、また、本件商標は、上述のとおり、その構成中の「美実PLUS」の文字部分の構成態様と相まって、その構成全体をもって一体不可分のものとして認識されるとみるのが相当であるから、その構成中の「美実」の文字部分が自他商品の識別機能を有する部分とする請求人の主張は、採用できない。
(2)取引の実情について
請求人は、被請求人が本件商標を登録出願した時期について、著名人を起用した舞台公演において請求人が広告宣伝を行った約5月後であり、また、これまでブランド名を付けることが少なかった「食塩無添加のアーモンド」に対し、請求人が新ブランド「美実」と命名して差別化し、指名買いされる商品を目指すとの広告宣伝を行った約1月半後であるとし、このような時期に被請求人が本件商標を登録出願することは、需要者、取引者に無用の混乱を招き、ひいてはこの業界全体の信頼を失墜させることにつながりかねないことから、商標法第4条第1項第11号の無効理由に係る取引の実情として考慮すべきである旨主張する。
しかしながら、請求人の提出に係る証拠によれば、本件商標の登録出願の時期が、概ね請求人の主張どおりであることはうかがい知ることができるとしても、被請求人が、そのような時期に本件商標を登録出願をしたことをもって、商品「菓子及びパン」に係る取引者、需要者間において、商品の出所について誤認するおそれが生じる等、取引上、混乱を招いたとする請求人の上記主張を認めるに足る事実は見いだせない。
また、上記3のとおり、本件商標と引用商標とは、両商標を同一又は類似の商品について使用しても、商品の出所について誤認を生じさせることのない非類似の商標である。
してみれば、請求人の上記主張は、採用できない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標(登録第5385844号商標)



別掲2 引用商標(登録第5339875号商標)


別掲3




審理終結日 2013-04-16 
結審通知日 2013-04-18 
審決日 2013-05-22 
出願番号 商願2010-62140(T2010-62140) 
審決分類 T 1 12・ 263- Y (X30)
T 1 12・ 262- Y (X30)
T 1 12・ 261- Y (X30)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 はるみ 
特許庁審判長 寺光 幸子
特許庁審判官 酒井 福造
田中 敬規
登録日 2011-01-21 
登録番号 商標登録第5385844号(T5385844) 
商標の称呼 ビミプラス、ミミプラス、ビミ、ミミ、プラス 
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所 
代理人 西藤 征彦 
代理人 井崎 愛佳 
代理人 西藤 優子 

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