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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Y29
管理番号 1289647 
審判番号 取消2012-300687 
総通号数 176 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-08-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-08-28 
確定日 2014-04-18 
事件の表示 上記当事者間の登録第4763800号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4763800号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成14年8月23日に登録出願、第29類「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」及び第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成16年4月16日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成24年9月20日にされている。

第2 請求人の主張
請求人は、「本件商標の指定商品中の第29類『油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆』についての登録を取り消す。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第6号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中の第29類「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」(以下「本件請求に係る指定商品」という。)について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用されていないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)乙号証の証拠能力・証明力について
ア 乙号証全般の証明力
商標権者のホームページには、代表取締役社長が「海苔専業メーカー」として、「海苔」に特別なこだわりを持ってきたことを述べており(甲1)、その商品案内には、焼きのり・味のりの「極」シリーズは、他のシリーズよりも高価格で設定され、その原材料の産地も有明となっており、贈答用商品としても宣伝されている(甲2)ところからすれば、商標権者において、「極」商標は、高品質を保証する機能を有しているといえる。
しかし、本件における「極油揚げYD-S」(以下「本件商品」という場合もある。)は、中国産の大豆が使用されている業務用の大量・安価なものと推測され(乙1)、品質は決して高くないといえる。このような本件商品に、「極」商標を用いることは、同商標が本来有している高品質の保証機能を害するものであり、商標の異常な使用態様といえるため、本件商品に同商標が付されていることを示す乙号証全般の証明力を強く疑わしめる。
仮に商標権者が本件商品に本件商標を使用していたとすれば、インターネット上で、本件商品の商品名程度は情報公開されていてもよいはずであるが、インターネット検索には、本件商品に関する情報は何も表れない(甲3の1?4)。このことは、本件商品の存在そのものを強く疑わせ、本件商品の存在を前提とする乙号証全般の証明力を強く疑わしめる。
イ 乙第1号証の証明力
(ア)被請求人は、乙第1号証(商品写真)に示す商品が、乙第1号証に写されている状態で市場に流通している旨をその立証趣旨としているものと解される。
しかし、乙第1号証により証明ができるのは、1個の段ボール箱内に油揚げらしき物体(この物体がFD油揚げかどうかも不明)が詰め込まれていて、その段ボール箱に、乙第2号証と同一のラベル(以下「乙2ラベル」という。)と一括表示が記載されている事実(審決注:「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づく「加工食品品質表示基準」で定められた製造業者等が加工食品の容器又は包装に表示すべき事項の記載。本件審判において、当該事項を記載したラベルについて、以下「一括表示ラベル」という。)にとどまり、乙第1号証と乙第3号証の1及び2との関連性は全く立証されていない。
(イ)乙第1号証には、「開封内部写真」があるが、商標権者の取引過程において、個別の段ボール箱の外観と内容物を逐一撮影する作業が存在するとは考え難く、上記写真が本件審判における証拠作成を目的として、意図的に被写体を人為的に作って撮影されたものではないかという疑いが強い。
また、乙第1号証の「商品荷姿写真」と「開封内部写真」は、段ボール箱が設置された周囲の像を見比べれば、それぞれ異なる場所・角度で撮影されたことが明らかであり、かかる事実は、作為性を強く推認せしめるものである。
さらに、特許庁に係属中の取消2012-300495(以下「別件事件1」という。)及び取消2012-300505(以下「別件事件2」という。)と本件審判とでは、被請求人の証拠の提出及び立証方法に明確な差異がある。別件事件1及び2では、被請求人は、「海苔のご贈答用カタログ」等のカタログ等を提出したが、このような立証であれば、「極」商標が付された商品が販売されていることが立証され得るところであるが、本件審判では、取引過程の段ボール箱の写真を提出するというように粗雑な立証方法に終始しており、これは、商標権者において、「極」商標を付する商品がないために、やむなく、後付にて体裁を整えて証拠を作出したことを推認させるには十分な事実である。
(ウ)乙第1号証の撮影日時は2012年8月1日とされている。しかし、写真の日付は、撮影者の都合で変更可能なものであるから、乙第1号証は、本件審判の請求の登録後に撮影された可能性がある。それどころか、同日時点で、出荷商品をわざわざ撮影して写真に残しておいたことに合理的な理由が見いだせず不自然であり、むしろ、作為性が見いだされる。
また、段ボール箱に貼付された2つのラベルは、写真の日付と同様、製造日の記載を含め、撮影者の都合で変更可能であるから、本件審判の請求の登録後に貼付された可能性がある。
さらに、乙第1号証のみでは、本件商品が開封前から段ボール箱に収容されていたか否かが不明である。
(エ)請求人は、本件に関し、本件商品の調査をした結果、商標権者から、大要、以下の回答が得られたという情報を取得した。
a.FDの油揚げは現在製造しておらず、天津において製造再開の段取りが未定の状況である。そのため、輸入する時期も未定である。
b.コンテナ単位(5kg/ケース 540ケース2.7トン)を1社に納品しているので、日本にサンプルはない。
c.特定の1社にしか販売を行っておらず、しかも、製造を再開した後は今までと別の会社に納品する。
d.小売りはやっていない。
e.発注時は「フリーズドライの油揚げ」と言えば通じる(交渉過程において商品名は一切出てこなかった。)。
業務用取引で、かつ、1社にしか販売していないのであれば、わざわざ商標を付する意義などない。また、コンテナ単位で540ケースを特定の1社だけ業務用に販売しているのに、1ケース分しか販売していない内容の伝票を証拠として提出するというのは不自然であり、また、いちいちケース毎に「極」のシールを貼付するなど経費の無駄遣いである。そのため、証拠として提出された段ボール箱に「極」のシールが貼っているのも不自然である。
さらに、段ボール箱に貼付された一括表示ラベルは、業務用商品における業者間取引きでは必要はなく(企画や説明書等で足りる。)、一般消費者に販売する商品について義務付けられているから、業者間取引において一括表示ラベルを貼付することは通常はない。
そして、商標権者から上記情報を取得した土手氏によれば、同人は、卸業界に精通しているが、「極油揚げ」なる商品を1度も耳にしたことがなく、加えて、交渉中において、「極」という発言は一度も出てこないばかりか、FDの油揚げで十分である旨の発言がされていたとのことである。
以上のとおり、商標権者において、本件商品の販売がなされていないことは明らかというべきであって、乙第1号証は、本件審判のために人為的に作成された証拠にすぎない。
ウ 乙第3号証の証拠能力・証明力
(ア)商標法第56条は、特許法第151条を準用し、同条は民事訴訟法第219条を準用しているところ、最判昭和35・12・9民集14-3-3020によれば、文書の写しを提出してする書証の申出は、原則として不適法である。
乙第3号証の1(請求書兼納品書(控)写し)及び2(受領書写し)につき、請求人は、原本の存在について不知である。これらの書類は、会社内のパソコン処理等によって、容易に作成・改ざんが可能な書証である。被請求人の主張する立証趣旨によるところの原本すら存在しない可能性があり、原本確認の必要性は極めて高い。
また、乙第3号証の2につき、その受領印の日付けは2012年8月7日であるのに対して、受領書の作成日は2012年8月6日であり、齟齬が生じている。仮に受領書を作成したのが株式会社カミサリーエイト(以下「カミサリーエイト」という。)であれば、受領書の作成日についても8月7日と記載されているのが自然かつ合理的である。しかし、納品書写し(乙3の1)の日付けに合わされているというのは、受領書を作成したのが商標権者であること並びに乙第3号証の1及び2は同時に作成されたことを推認させる。さらに、「本社行」との記載について、通常は、「行」を「殿」又は「御中」に変更して受領書を郵送等するのが慣例である(FAXであれば送信履歴等が上部に残るので、乙3の2は郵送であると推認される。)にもかかわらず、「行」のままになっているのは、不自然である。
仮に乙第3号証の2のとおりの原本が存在した場合、原本にはカミサリーエイト名義の押印があるが、請求人は同社の印章について不知である。
したがって、乙第3号証は、使用の立証がされていないというべきである。
(イ)通常、伝票は効率化と転記間違いを防止するため、仕入れ伝票(1)・仕入れ伝票(2)・仕入れ伝票(3)・物品受領書・納品書(控)の計5枚がセットで複写式になっていることが多いが、乙第3号証の1(請求書兼納品書(控)写し)及び2(受領書写し)は、書式が別になっている。これでは、通し番号・社名等、その都度転記し別に伝票を作成しなければならい。また、通常、納品には運送業者を用い、送り状によって事務処理がなされるところ、乙第3号証の2には、受領印が押されており、送り状による処理がされていないことが窺われる。これでは、納品ごとに納品先へ受領書を送り、受領印を押して送り返してもらう必要が生じる。商標権者のような大企業がこれほど非効率的な事務処理作業を採用しているとは到底考えにくい。
以上の事実から、乙第3号証の証明力が強く疑われる。
(ウ)東京地判平成22年11月10日判決(平成20年(ワ)第22305号)は、写しの体裁自体に不自然な点がある場合には、原本の存在自体が疑われる旨判示した。
甲第5号証の1?3(別件事件1における乙号証)には、「原本経理部保管」と明記され、各書類に保管のために丸い穴(いわゆるパンチ穴と考えられる。)が空けられた後が見受けられるが、乙第3号証の1には、そのような穴の後は一切見受けられない。原本として伝票が保管されているはずの書類であれば、通常は存在するはずのものが見当たらないのである。そのため、乙第3号証に原本がないことが疑われ、その証明力が疑われる。
(エ)以上より、商標権者が本件商品の販売を行っていないことは明らかというべきであって、乙第3号証は、本件のために人為的に作成された証拠にすぎない。
仮に、乙第1号証及び乙第2号証により、本件商品入りの段ボール箱の存在が推認できるとしても、その段ボール箱に入れられた油揚げが乙第3号証記載の商品であることまでは推認できない。すなわち、乙第3号証は、証拠能力が認められたとしても、せいぜい単に油揚げ5kgがカミサリーエイトに納品・受領されたことを示すのみであって、上記段ボール箱で取引されたことを直接推認させるものではない。
エ 乙号証のうちの一部の証拠が偽造と認定されれば、証拠全体の証明力に負の影響が及ぶ(取消2006-30401参照)。
(2)乙第3号証記載の取引が反復継続性を欠くこと
本件においては、前記(1)アで主張したとおり、乙号証の信用性に強い疑問があり、それゆえ乙第3号証記載の取引が存在しないというべきである。
仮に、該取引が存在するとしても、本件商品の取引態様が中国の会社からコンテナ単位で輸入をし、そのまま国内のある1社のみに販売をするというもの(甲6)であれば、該取引は、反復継続されているとは考えられず、商標法50条1項及び同第2項の登録商標の使用に該当しないというべきである(取消2001-30782参照)。なお、仮にコンテナ単位の取引が反復継続してされていたとしても、そこで本件商標が使用されていたという立証がなされていない以上、上記の結論に何らの影響を及ぼさない。
(3)使用に係る標章が本件商標とは社会通念上の同一性が認められないこと
ア 商標権者ホームページにおいて、「極」商標が用いられている対象は、焼きのり・味のりに限定されている(甲2)から、取引者・需要者は、「極」の文字のみを見れば海苔であると考えるのが普通である。それゆえ、油揚げの取引について、「極」の文字の自他識別力は弱いというべきである。
イ 乙第2号証(乙2ラベル)における「abura-age”kiwami”」
商標権者の各種海苔製品については、その標章に、「abura-age”kiwami”」部分に対応する部分がない(甲2など)。これは、取引者・需要者に対して、油揚げという商品に対する「極」の商標的機能の低さを示すものである。加えて、青い菱形内の白抜きの「極」の文字に近接して描かれている商標権者のハウスマークは、強い識別力を有しているといえる。また、菱形の青色は、該ハウスマークのロゴ部分の斜めの長方形の青色と同じ色である。
そうすると、乙2ラベルにおいて、単に「極」の文字のみでなく、少なくとも青い菱形内の白抜きの「極」の文字、商標権者のハウスマーク、及び「abura-age”kiwami”」の文字が相俟った結合標章が自他識別力を発揮し得るものである。
さらに、乙2ラベルに係る標章は、青い菱形内の白抜きの「極」の文字部分を斜めに横切る2種類の赤色の図形(ほぼ直角三角形)が描かれており、該図形の赤色は、該ハウスマークのロゴ部分の直立の長方形の一つの赤色と同じ色である。
そうすると、乙2ラベルにおいて、取引者・需要者は、単に「極」の文字のみでなく、青い菱形内の白抜きの「極」の文字、商標権者のハウスマーク、「abura-age”kiwami”」の文字、及び青い菱形内の白抜きの「極」の文字部分を斜めに横切る2種類の赤色の背景が相俟った結合標章を自他識別力を発揮し得る標章として認識するといえる。
ウ 「極」の文字の識別力
(ア)「極」の文字を含む商標は、油揚げの類似群(32F05)に限っても、9件が登録されており(甲4)、そのうち、商標権者以外の者が権利者となっているものは7件にのぼる。したがって、平成24年11月25日時点において、油揚げについて「極」の文字が持つ自他識別機能は弱いといわざるを得ない。
(イ)「極」の語は、「きわまるところ。限り。はて。」(広辞苑第六版)の意味であり、日本人には馴染みのある語であり、商標としての印象が薄いといえるから、該文字のみの識別力は弱い。
エ 以上のとおり、本件商標と乙2ラベルに表示された標章は、社会通念上同一と認められる商標には当たらない。
(4)商標法第50条第3項が適用されるべきこと
ア 本件審判の請求日が平成24年8月28日であり、被請求人の主張する使用の時期が同月6日ないし7日であるので、「その登録商標の使用が、商標法第50条第1項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間になされた」との要件は満たされる(なお、乙第1号証によれば、本件商品が平成24年5月31日に製造されたかのようであるが、当該日に日本国内において製造されたことは証明されていない。)。
イ 請求人は、本件審判以外にも、「極」の文字を含み、かつ、納豆と同じ類似群に係る指定商品の登録商標について不使用取消審判を複数請求している。
請求人は、別件事件1においても、指定商品中の第29類及び第30類全てを対象として不使用取消審判請求をしているところ、当該審判において、被請求人は、第29類「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」については証拠を提出していない。そして、証拠が提出されなかった上記指定商品に対して、本件審判が請求される蓋然性は高かったというべきである。
請求人が請求した複数の不使用取消審判は、いずれも本件商標の商標権者が当事者となっていることからすれば、請求人が「極」の文字を含む商標の不使用取消につき、真摯に取り組んでいることを商標権者は十分に認識しているはずである。
以上の事実に加え、前記のとおり、商標権者の取引過程において、乙第1号証の開封内部写真のようなものを撮影する作業があるとは考えられず、かつ、乙第1号証の撮影日(平成24年8月1日)が別件事件1の審判の請求の登録日(平成24年6月28日)(審決注:別件事件1の審判の請求の登録日は、「平成24年7月3日」の誤記と認める。)後であることから、本件審判における証拠のために上記写真が撮影された可能性が高いといえる。
したがって、上記事実を総合すれば、商標権者による登録商標の使用は、本件審判の請求がされることを知った後であるといえる。
(5)補足
乙第3号証において「FD極油揚げYD-S」の記載がされている点について、商標法第2条第3項第8号の「取引書類に標章を付して展示」であるとして、登録商標の使用が認められるのかどうかという疑義が生ずるが、以下の理由により、商標法第50条第1項及び同第2項の登録商標の使用は肯定されない。
「FD極油揚げYD-S」の記載は、「フリーズドライの最高級品質の油揚げに型番が付されたもの」程度の意味合いの記述的表示にとどまり、商標としての使用にはならない。また、仮に記述的表示ではない場合であっても、「FD極油揚げYD-S」は、外観、観念及び称呼上一体として観察すべきであるから、そのうちの「極」部分のみを抽出して分離観察されるべきものではない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第3号証の2を提出した。
1 使用の事実
以下のとおり、本件商標は、商標権者により、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件請求に係る指定商品中の「油揚げ」に使用されていた(乙1?乙3)。
(1)乙第1号証(商品写真:2012年8月1日撮影)
段ボール箱に商品が収容された様子が撮影されており、箱の表面に貼付された一括表示ラベルの記載により、商品が「乾燥した油揚げ」であり、指定商品「油揚げ」に該当するものであること、製造者(及び販売者)が「ニコニコのり株式会社」(商標権者)であって、商品名が「極油揚げYD-S」であること、さらに、商品が「2012年5月31日」に製造されたものであることのほか、その原材料名、内容量、賞味期限、保存方法などの内容が見てとれる。
そして、乙2ラベルには、「きわみ」の平仮名を付された「極」の商標が表示されているところ、該文字は、いわゆる明朝体で「極」の漢字を表した右肩に「きわみ」の平仮名を縦書きにて付してなるものである。
一方、本件商標は、いわゆる行書体で「極」の漢字を表した右肩に「きわみ」の平仮名を縦書きにて付してなるものであるから、乙2ラベルに表示された上記商標は、本件商標とは、「極」の漢字と「きわみ」の平仮名からなる構成において共通するものであり、社会通念上同一といえる範囲のものである。
したがって、乙第1号証は、本件商標を商品「油揚げ」に使用していることを示すものである。
(2)乙第2号証(乙2ラベル)
乙第1号証に示す商品に貼付された乙2ラベルの実物である。これより、商品が「フリーズドライ(FD)にて製造された乾燥した油揚げ」であること、「きわみ」の平仮名を付した「極」商標が商標権者のハウスマークと共に表示されていることが見てとれる。
(3)乙第3号証の1(請求書兼納品書(控)写し)
商標権者よりカミサリーエイト(福岡市博多区築港本町8-18)あてに、2012年8月6日付けで、商品「FD極油揚げYD-S 5Kg」1ケースが納品され、同時にその代金が請求された事実を示す請求書兼納品書(写し)である。これより、乙第1号証に示す商品の取引が本件審判の請求の登録前にあったことがわかる。
(4)乙第3号証の2(受領書写し)
商標権者よりカミサリーエイトあてに、2012年8月6日付にて納品された商品「FD極油揚げYD-S5Kg」1ケースが2012年8月7日に受領された事実を示す受領書(写し)である。これより、乙第1号証に示す商品の取引が本件審判の請求の登録前にあったことがわかる。
2 むすび
以上をもって、商標権者が本件商標を本件審判の請求の登録前3年以内に、日本国内において、請求に係る指定商品について使用したことを立証するものである。

第4 当審の判断
1 使用の事実
(1)乙第1号証ないし乙第3号証の2によれば、以下の事実が認められる。
ア 乙第1号証は、審判事件答弁書の「7 理由(2)証拠の説明」(以下「証拠の説明」という。)の記載によれば、「商品写真 2012年8月1日撮影」であるところ、ここには、「商品荷姿写真」、「開封内部写真」、「正面写真」、「正面クローズアップ写真」の4葉の写真が示され、各写真中の右下には、赤色で「2012/8/1」と記載されている。
(ア)「商品荷姿写真」は、上面とラベル2枚が貼付された側面とが接する角部にガムテープが貼付された状態の段ボール箱の写真であり、上記2枚のラベルのうち、上部に貼付されたものは、後記乙第2号証として示すラベルと同一のラベル(乙2ラベル)と認められる。なお、下部に貼付されたラベルは、撮影角度の関係で、ラベルに書された文字は判読することができない。
(イ)「開封内部写真」は、ラベル2枚が貼付された段ボール箱の側面を正面に向け、該段ボール箱の上面を取り除き(上記側面に上部には、ガムテープをはがした後がみられる。)、段ボール箱内に収容された大きなビニール袋に入った商品が見えるように撮影された写真であるところ、写真における商品は、上記のとおり、大きなビニール袋に入っている上に、その形状、色彩等から見て、写真を見た限りにおいては、いかなる商品であるかは、直ちには理解することができないが、上記2枚のラベルのうち、上部に貼付された乙2ラベルには、後記イ認定のとおり、「油揚げ」の表示があるところから、内容物は「油揚げ」であると推認することができる。なお、下部に貼付されたラベルは、撮影角度の関係で、ラベルに書された文字は判読することができない。
(ウ)「正面写真」及び「正面クローズアップ写真」は、ラベル2枚が貼付された段ボール箱の側面を大きく撮影した写真であり、上記2枚のラベルのうち、上部に貼付されたラベルは、乙2ラベルであり、下部に貼付されたラベルは、「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律」(JAS法)に基づく「加工食品品質表示基準」(平成24年6月11日改正、消費者庁告示第5号、以下同じ。)第3条第1項に規定する「加工食品の義務表示事項」に掲げる事項が記載されたラベル(一括表示ラベル)であり、ここには、上段から順に、「商品名/極油揚げYD-S」、「名称/乾燥食品」、「原材料名/大豆(中国産)、パーム油、酸化防止剤(ビタミンE)、凝固剤」、「内容量/5kg」、「賞味期限/2013.06.01」、「保存方法/直射日光を避け、冷暗所にて保存してください。」、「販売者/ニコニコのり株式会社 KFI/〒556-0012 大阪市浪速区敷津東・・・」、「製造日/2012.05.31」と記載されている。
イ 乙第2号証は、証拠の説明の記載によれば、乙第1号証に示す段ボール箱の側面に貼付された2枚のラベルのうちの上部に貼付された乙2ラベル(実物)と認められる。
そして、乙2ラベルの構成態様は、別掲(2)のとおり、正方形に近い横長長方形を、その上辺における右上の内角に近い点と左辺における左下の内角に近い点とを直線で結んで2分割し、そのうちの左上の直角三角形の部分を白色(以下「白色三角形部」という。)とし、他方の右下の三角形様の部分におけるやや太めの枠部を濃い赤色、及び枠内を薄い赤色(これらを併せ、以下「赤色三角形部」という。)とする背景図柄を描き、赤色三角形部内の右寄りに、「油揚げ」の文字を大きく縦書きし(「油」の漢字の一部が白色三角形部内にはみ出している。)、その下に、「5kg」の文字を横書きし、「油揚げ」の文字の左に、「FD」、「(フリーズドライ)」の各文字を2行に小さく縦書きし、白色三角形部と赤色三角形部のほぼ中間部分に、白抜きで表した「極」の文字と「きわみ」の文字(縦書きで小さく表され、かつ、その下に登録商標を表す「丸の中にRの欧文字」が書されている。)を中央に有する紺色の菱形図形を配し、さらに、白色三角形部内の左上に、赤色と紺色と緑色の各3つの縦長長方形を組み合わせた図形を配し、その下に、「ニコニコのり」の文字を横書きし、さらにその下に、「abura-age/“kiwami”」の文字を横書きにした構成よりなるものである。
ウ 乙第3号証の1は、証拠の説明の記載によれば、「請求書 兼 納品書(控)写し」であるところ、その上段部には、「請求書 兼 納品書(控)」、「2012年08月06日」、「株式会社 カミサリーエイト 殿」、「伝票番号/100073631 発送場所/本社」、「下記の通り請求させて頂きます。」、「御買上高/15,000 請求高/15,000」、「ニコニコのり株式会社/本社」、「〒556-0012 大阪市浪速区敷津東・・・/TEL・・・ FAX・・・」、「振込銀行/本社 りそな 難波/当座 ・・・」と記載され、下段部の表には、「コード/9951」、「商品名/FD極油揚げYD-S 5Kg」、「入数/1」、「荷姿/1」、「梱数/1」、「単位/C」、「単価/15,000.00」、「金額/15,000」、「合計/15,000」と記載され、さらに、表の下には、「単位 P:梱数,C:ケース,B:バラ」と記載されている。
エ 乙第3号証の2は、証拠の説明の記載によれば、「受領書 写し」であるところ、その上段部には、「受領書」、「2012年08月06日」、「ニコニコのり株式会社/本社行」、「〒556-0012 大阪市浪速区敷津東・・・/TEL・・・ FAX・・・」、「下記の通り受領致しました」、「株式会社 カミサリーエイト 殿」、「伝票番号/100073631 発送場所/本社」と記載され、下段部の表には、「コード/9951」、「商品名/FD極油揚げYD-S 5Kg」、「入数/1」、「荷姿/1」、「梱数/1」、「単位/C」と記載され、また、「受領印」欄には、「受領/12.8.-7/(株)カミサリーエイト」と表記された丸判が押されている。さらに、表の下には、「単位 P:梱数,C:ケース,B:バラ」と記載されている。
(2)前記(1)で認定した事実を総合すると、商標権者は、本件審判の請求の登録前3年以内である2012年(平成24年)5月31日に、フリーズドライ製法による「極油揚げYD-S 5kg」(本件商品)を製造し、その後、本件商品を写真に撮影する2012年(平成24年)8月1日までの間に、これを段ボール箱に梱包し、かつ、乙2ラベル及び一括表示ラベルを段ボール箱に貼付したこと、商標権者は、2012年(平成24年)8月6日に、乙2ラベルが貼付された段ボール箱に梱包された上記「極油揚げYD-S 5kg」(1ケース)を、日本国内に所在していると認められるカミサリーエイトに納品すると同時に、カミサリーエイトに対し、その代金として、15,000円を請求したこと、カミサリーエイトは、2012年(平成24年)8月6日付け受領書に、2012年(平成24年)8月7日の日付のある丸判をもって、上記「極油揚げYD-S 5kg」(1ケース)を受領したことを、それぞれ推認することができる(なお、当該請求書兼納品書及び受領書は、その記載内容からみて、いずれも2012年(平成24年)8月6日に、商標権者において作成されたものと推認される。)。
(3)次に、乙2ラベルに表示された標章が本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するか否かについて検討する。
ア 乙2ラベルに表示された標章は、前記(1)イのとおりの構成よりなるものであるところ、その構成中の「油揚げ」、「5kg」、「FD」、「(フリーズドライ)」、「abura-age」の各文字部分は、商品の普通名称、数量、商品の製造方法(生産の方法)を表示するものであるから、自他商品の識別機能を有しない部分である。また、白色三角形部と赤色三角形部も、背景的図柄であり、看者に特別顕著な印象を与えるものとはいえない。これに対して、赤色と紺色と緑色の各3つの縦長長方形を組み合わせた図形部分及びその下に横書きされた「ニコニコのり」の文字部分は、全体をもって、商標権者のハウスマークとして使用され(甲2等)、加工食品の業界において知られているものであり、乙2ラベルにあって、強い自他商品の識別機能を有するものといえる。また、乙2ラベル中、中央に位置し、白抜きで表された「極」の文字及びその読みを表したと理解される「きわみ」の文字を有する紺色の菱形図形部分は、その大きさ、白色三角形部と赤色三角形部の背景的図柄の色彩とのコントラストとも相俟って、看者の注意を強く引く部分であるといえる。そして、白抜きで表された「極」及び「きわみ」の各文字部分は、商品「油揚げ」の品質等を表示するものとして普通に使用されている事実を認めるに足りる証拠も見いだせないばかりか、登録商標を表す「丸の中にRの欧文字」が書されていることも併せれば、商標権者のハウスマークとは別個の、いわゆる商品毎の商標として認識されるというべきである。
したがって、乙2ラベルに表示された標章中の「極」及び「きわみ」の各文字部分は、全体として独立して自他商品の識別機能を発揮する部分であるといえる。
してみると、乙2ラベルに接する需要者(本件商品は、内容量5kgのものを段ボール箱1ケースとして取引がされたことからすると、その需要者は、一般の消費者とは考えにくく、業者間取引を対象とする業務用加工食品と認められるところ、この場合においても譲渡される側が「需要者」であることには変わりがない。)は、その構成中の商標権者のハウスマーク部分、又は、「極」及び「きわみ」の各文字部分に着目して商品の取引に当たるものとみるのが相当である。
そうすると、乙2ラベルは、その構成中の「極」及び「きわみ」の各文字部分より、「キワミ」の称呼を生ずるものであって、「きわまるところ。限り。はて。」(広辞苑第六版)の観念を生ずるものということができる。
イ 一方、本件商標は、別掲(1)のとおり、筆記体で表した「極」の文字を大きく書し、その右斜め上に、該「極」の読みを表したと理解される「きわみ」の文字を小さく縦書きにした構成よりなるものであるから、これより、「キワミ」の称呼を生ずるものであって、「きわまるところ。限り。はて。」の観念を生ずるものである。
ウ したがって、乙2ラベルに表示された「極」及び「きわみ」の各文字部分と本件商標は、書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標であって、同一の称呼及び観念を生ずる社会通念上同一と認められる商標というべきである。
(4)以上によれば、商標権者は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、本件請求に係る指定商品中の「油揚げ」について、その包装箱に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して、取引に資していたことを推認することができる。
そして、商標権者の上記行為は、「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(商標法第2条第3項第1号)及び「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡・・・する行為」(同第2号)に該当するものと認められる。
したがって、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者は、本件請求に係る指定商品中の「油揚げ」について、本件商標の使用をしていたと認め得るところであり、これを覆すに足りる客観的証拠の提出はない。
(5)上記に関する請求人の主張について
ア 乙号証全般について
請求人は、乙号証について、商標権者の焼きのり、味のりの「極」シリーズ商品において、「極」商標は、高品質を保証する機能を有しているのに対し、本件商品は、業務用商品でその品質は高くなく、このような商品に、「極」商標を使用することは、当該商標のもつ高品質を保証機能を害するものであり、また、インターネット上には、本件商品に関する情報はないから、本件商品の存在そのものを強く疑わしめるものであり、かつ、本件商品の存在を前提とする乙号証全般の証明力を強く疑わしめる旨主張する。
しかし、商標権者が自己の業務に係る商品について、自己の有するいかなる商標を採択し使用するかは、商標権者の意思に委ねられているばかりでなく、本件商品は、前記(3)ア認定のとおり、業務用加工食品であり、一般の消費者を対象としたインターネット上の広告において、本件商品が掲載されないことは、さほど不自然なこととはいえない。したがって、本件商品に「極」商標を使用すること及び本件商品がインターネット上で広告されていないことを前提に、乙号証全般の証明力を疑う請求人の主張は、前提において誤りがあり、理由がない。
イ 乙第1号証について
(ア)請求人は、乙第1号証と乙第3号証の1及び2との関連性は全く立証されていない旨主張する。
しかし、乙第1号証に示す段ボール箱に貼付された一括表示ラベルには、「商品名/極油揚げYD-S」、「内容量/5kg」、「販売者/ニコニコのり株式会社」の記載があり、また、同じく段ボール箱に貼付された乙2ラベルには、「油揚げ」、「5kg」、「FD/(フリーズドライ)」、「極/きわみ」、「ニコニコのり」などが表示されており、これらは、乙第3号証の1及び2の「商品名」欄に記載された「FD極油揚げYD-S 5kg」及び乙第3号証の1及び2を作成したニコニコのり株式会社と一致するものである。したがって、乙第1号証と乙第3号証の1及び2をもって、商標権者とカミサリーエイトとの間に、商品「油揚げ」の取引があったことを推認させるものといえるから、上記請求人の主張は理由がない。
(イ)請求人は、商標権者の取引過程において、個別の段ボール箱の外観と内容物を逐一撮影する作業が存在するとは考え難く、また、「商品荷姿写真」と「開封内部写真」は、段ボール箱が設置された周囲の像を見比べれば、それぞれ異なる場所・角度で撮影されたことが明らかであり、さらに、写真の日付は、撮影者の都合で変更可能なものであるところ、乙第1号証の撮影日時(2012年8月1日)に、出荷商品をわざわざ撮影して写真に残しておいたことに合理的な理由が見いだせず不自然であり、上記事実は、作為性を強く推認せしめるものである旨主張する。
後記2の認定のとおり、請求人は、本件審判の請求日(平成24年8月28日)までに、商標権者の有する「極」の文字及びこれを含む構成よりなる4件の登録商標(本件商標を含む。)について、第29類及び第30類に属する全指定商品(指定商品が第29類のみのものは、第29類に属する全指定商品)について、不使用取消審判を請求した事実が認められ、これらの審判において、商標権者は、取消請求に係る指定商品中に「干しのり」が含まれる場合には、「干しのり」に含まれる「焼きのり」等についての使用の事実の立証をし、商標登録の取消しを免れたものの、取消請求に係る指定商品中に「干しのり」が含まれない場合は、使用の事実の立証を何らせず、商標登録が取り消されたことが認められる。
そうすると、上記請求人から商標権者の有する「極」の文字及びこれを含む構成よりなる登録商標についての一連の不使用取消審判が請求された事実を前提にすれば、商標権者において、登録の取消しを免れた登録商標に対し、「干しのり」以外のいずれかの指定商品について、再度請求人より不使用取消審判が請求されるのではないかとの予測をすることは、自然なことというべきであり、その予測の下に、使用している商品の写真をあらかじめ撮影しておくこと自体は、何ら合理性に欠けるものとはいえない。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
また、請求人は、使用の事実を明らかにする証拠において、別件事件1及び2と本件審判とでは明確な差異があり、本件審判においては、「極」商標を付する商品がないために、後付で体裁を整えて証拠を作出したことを推認させる旨主張する。
しかし、別件事件1及び2において、商標権者は、取消請求に係る指定商品中の「焼きのり」等についての使用の事実の立証をしたもので、当該商品は、一般の消費者を対象として販売される商品であるのに対し、本件審判において、商標権者が使用の事実を明らかにした商品は、業者間取引を対象とする業務用加工食品であって、大々的に宣伝広告する商品とはいえないから、立証方法において差が生ずることは、むしろ当然のことといえる。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
(ウ)請求人は、土手氏の陳述書(甲6)を提出し、乙第1号証は、本件審判のために人為的に作成された証拠である旨主張する。
しかし、陳述書の文面からすると、土手氏が食品業界に通じていることは窺えるとしても、例えば、土手氏が本件審判を知るに至ったいきさつなどは不明である。その点はさておくとしても、陳述内容を裏付けるに足りる的確な証拠の提出がない以上、直ちにこれを採用することはできない。
なお、上記陳述書中には、段ボール箱に貼付された一括表示ラベルは、業務用商品における業者間取引きでは必要はなく(企画や説明書等で足りる。)、一般消費者に販売する商品について義務付けられているから、業者間取引において一括表示ラベルを貼付することは通常はない旨の記載があるが、前掲「加工食品品質表示基準」の第4条の2によれば、「業務用加工食品の品質に関し、製造業者等が業務用加工食品の容器若しくは包装、送り状、納品書等(製品に添付されるものに限る。以下同じ。)又は規格書等(製品に添付されないものであって、当該製品を識別できるものに限る。以下同じ。)に表示すべき事項は、次のとおりとする。(1)名称(2)原材料名(3)製造業者等の氏名又は名称及び住所」と規定されていることが認められ、この限りにおいて、本件における一括表示ラベルには、業務用加工食品の義務表示事項より多くの事項が記載されているといえるが、これをもって、法律に違反する行為とはいえないし、また、本件商品がカミサリーエイトから第三者に譲渡される可能性も否定できない。
(エ)その他、請求人は、乙第1号証が作為的に作成されたものであるとして、証明力がない旨主張するが、いずれも請求人の憶測に基づくものといえるから、採用することができない。
ウ 乙第3号証の1及び2について
(ア)請求人は、乙第3号証の1及び2は、原本の存在について不知であり、会社内のパソコン処理等によって、容易に作成・改ざんが可能な書証であるから、証拠能力に欠ける旨主張する。
しかし、乙第3号証の1及び2が、偽物であるとか、改ざんされたものであるとかを認めるに足りる証拠の提出はない。そして、乙第3号証の1及び2は、一般的に、会社が行う取引があったことを推認させる証拠として、何ら不自然なものとはいえないのみならず、これら証拠における取引が実体のない名目的なものであると認めるに足る客観的な証拠は見いだせない。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
(イ)請求人は、乙第3号証の2について、受領印の日付けと受領書の作成日が相違するところから、受領書を作成したのが商標権者であること、乙第3号証の1及び2が同時に作成されたことを推認させる旨主張し、さらに、「本社行」との記載が、「殿」又は「御中」に変更せずに、「行」のままになっているのは、不自然であると主張する。
前記(2)認定のとおり、乙第3号証の1及び2は、その記載内容等からみて、いずれも2012年(平成24年)8月6日に、商標権者において作成されたものと推認されるものであり、カミサリーエイトは、2012年(平成24年)8月6日に商標権者において作成された受領書に、翌日の7日に商品を受け取ったことを示す同社の名前が入った丸判を受領印として押したものといえる。そして、このような取引形態は、取引上普通に行われているものであり、何ら不自然な点は見いだせない。したがって、上記請求人の主張は理由がない。
(ウ)請求人は、乙第3号証の1及び2は、通常用いられる複写式の取引書類ではなく、その書式が異なるものであり、また、通常納品には運送業者を用い、送り状による処理がされるのが一般的であるが、乙第3号証の2は、送り状による処理がされておらず、いずれも非効率的な事務処理作業が要求されるものであり、大企業である商標権者がこのような非効率的な事務処理作業を採用するとは考えにくく、さらに、乙第3号証の1には、各書類に保管のために丸い穴(いわゆるパンチ穴と考えられる。)が空けられた後が見受けられないから、その証明力が疑われる旨主張する。
しかし、取引書類等、取引があったことを示す書類作成は、社内においてコンピューター処理によってされることは、今や普通に行われているところであり、必ずしも、請求人主張の複写式の伝票を用いることが一般的であるとはいえないのみならず、納品についても必ずしも運送業者によってなされるのが一般的であるとはいえない。また、取引書類にパンチ穴を空けて、これらを保管するのが一般的であると認めるに足りる証拠の提出はない。したがって、上記請求人の主張は、いずれも独自の見解に基づくものであって、採用することができない。その他、請求人は、乙第3号証の1及び2の証明力について、種々述べるが、いずれも憶測にすぎないものであり、前記認定を左右するものではない。
エ 取引の反復継続性について
請求人は、仮に乙第3号証に示す取引が存在するとしても、本件商品の取引態様が中国の会社からコンテナ単位で輸入をし、そのまま国内のある1社のみに販売をするというもの(甲6)であれば、該取引は、反復継続されているとは考えられず、商標法第50条第1項及び同第2項の登録商標の使用に該当しないというべきである旨主張する。
前記(5)イ(ウ)のとおり、土手氏の陳述書(甲6)の記載内容を裏付けるに足りる的確な証拠の提出がないから、その陳述を採用することはできない。仮に乙第3号証に示す取引が、商標権者と特定の1社だけに限定されたものであるとしても、このような取引は、一般の業者間取引においてはあり得るものであって、これをもって、カミサリーエイトに納品した本件商品について市場流通性がないということはできない。そして、前記(4)認定のとおり、カミサリーエイトに納品した本件商品には、本件商標と社会通念上同一と認められる商標が付されていたことが推認されるものであるから、商標としての使用を否定すべき事情は見当たらない。したがって、上記に関する請求人の主張は理由がない。
2 商標法第50条第3項について
(1)商標法第50条第3項は、「第1項の審判の請求前3月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であって、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知った後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第1項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。」と規定する。
(2)そこで、前記1で認定した商標権者による本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用が商標法第50条第3項の規定に該当するものであるか否かについて検討する。
ア 使用の時期
(ア)本件審判の請求日は、平成24年8月28日である。また、商標権者によって本件商品(極油揚げYD-S)に本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用された日は、以下のとおりである。
a.「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(商標法第2条第3項第1号)がされた日
乙第1号証に示す本件商品は、一括表示ラベルによれば、2012年(平成24年)5月31日に製造された旨が記載されているところ、当該日、又は、本件商品が撮影された2012年(平成24年)8月1日までの特定の日に、乙2ラベルないし一括表示ラベルが段ボール箱に貼付されていたことを裏付ける証拠の提出はないから、乙2ラベルないし一括表示ラベルが段ボール箱に貼付された日は、2012年(平成24年)8月1日に本件商品が撮影された直前とみるのが相当である。
b.「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡・・・する行為」(同第2号)がされた日
乙第3号証に示す本件商品の取引があったのは、2012年(平成24年)8月6日及び同7日である。
(イ)以上によれば、商標権者が本件商品について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を「商品又は商品の包装に標章を付する行為」及び「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡・・・する行為」をしたのは、本件審判の請求前3か月(平成24年5月28日)から本件審判の請求の登録日(平成24年9月20日)までの間であったというべきである。
イ 次に、上記アの商標権者よる本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用が本件審判の請求がされることを知った後であるか否かについて検討する。
この点につき、請求人は、本件審判以外にも、「極」の文字を含み、かつ、納豆と同じ類似群に係る指定商品の登録商標について不使用取消審判の請求を複数しているところ、別件事件1においても、指定商品中の第29類及び第30類全てを対象として不使用取消審判請求をしたが、当該審判において、被請求人は、第29類「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」については証拠を提出しなかったので、証拠が提出されなかった上記指定商品に対して、本件審判が請求される蓋然性は高かったというべきである旨主張する。
(ア)そこで、本件審判の請求日(平成24年8月28日)以前に、請求人が、商標権者の有する「極」及びこれを含む構成よりなる登録商標についてした不使用取消審判請求についてみるに、弁駁の理由及び職権による調査によれば、以下のとおりである。
a.商標第1488400号商標の1の1は、「極」の文字よりなり、昭和52年10月31日に登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、昭和56年11月27日に設定登録され後、その指定商品の一部を分割移転(平成12年8月7日登録)し、残余の指定商品について、平成14年4月24日に、第29類、第30類、第31類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品とする指定商品の書換の登録がされ、さらに、その指定商品の一部を分割移転(平成14年12月12日登録)した。
本件審判の請求人は、平成24年6月15日に、上記登録商標の指定商品中の第29類「卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物但し、肉製品,加工水産物(かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのりを除く。)を除く。」及び第30類の全指定商品である「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,おでん,お好み焼き,焼きそば,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」についての登録を取り消す旨の審判請求をした(取消2012-300495:審判の請求の登録日:平成24年7月3日:別件事件1)。
当該審判の被請求人(本件商標の商標権者。以下同じ。)は、取消請求に係る指定商品中の「焼きのり、味付けのり」についての使用の事実の立証をしたところ、請求人は、何ら弁駁をしなかった。その結果、平成25年1月23日付けで「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がされた。
b.登録第4403409号商標は、「極の逸品」の文字と図形との結合よりなり、平成11年8月4日に登録出願、第29類「食肉,食用魚介類(生きているものを除く。),肉製品,加工水産物,豆,加工野菜及び加工果実,冷凍果実,冷凍野菜,卵,加工卵,乳製品,食用油脂,カレー・シチュー又はスープのもと,なめ物,お茶漬けのり,ふりかけ,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,食用たんぱく」を指定商品として、平成12年7月28日に設定登録された。
本件審判の請求人は、平成24年6月18日に、上記指定商品についての登録を取り消す旨の審判請求(取消2012-300503:審判の請求の登録日:平成24年7月3日)をした。
当該審判の被請求人は、いずれの指定商品についても使用の事実の立証をしなかった。その結果、平成24年9月12日付けで、その登録を取り消す旨の審決され、同年11月15日に確定の登録がされた。
c.登録第4732499号商標は、「極/きわみ」の文字よりなり、平成15年4月3日に登録出願、第29類「水産物を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,卵を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,加工卵を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,豆を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,肉製品を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,加工野菜を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品,加工果実を主原料とする錠剤・粒状・カプセル状または粉末状の加工食品」を指定商品として、平成15年12月12日に設定登録された。
本件審判の請求人は、平成24年6月18日に、上記指定商品についての登録を取り消す旨の審判請求(取消2012-300504:審判の請求の登録日:平成24年7月3日)をした。
当該審判の被請求人は、いずれの指定商品についても使用の事実の立証をしなかった。その結果、平成24年9月11日付けで、その登録を取り消す旨の審決され、同年11月15日に確定の登録がされた。
d.本件商標(登録第4763800号商標)について、本件審判の請求人は、平成24年6月18日に、第29類の全指定商品である「卵,食用魚介類(生きているものを除く),冷凍野菜,かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物」及び第30類の全指定商品である「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,おでん,お好み焼き,焼きそば,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」についての登録を取り消す旨の審判請求(取消2012-300505:審判の請求の登録日:平成24年7月3日:別件事件2)。
当該審判の被請求人は、取消請求に係る指定商品中の「焼きのり、味付けのり,お茶漬けのり,ふりかけ」についての使用の事実の立証をしたところ、請求人は、何ら弁駁をしなかった。その結果、平成24年12月3日付けで「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がされ、平成25年2月7日に確定の登録がされた。
(イ)前記(ア)で認定した事実によれば、請求人が、商標権者の有する「極」の文字及びこれを含む構成よりなる登録商標に対し、本件審判の請求日以前に不使用取消審判を請求した4件のうちの3件は、取消請求に係る指定商品中には、いずれも本件請求に係る指定商品と同一の指定商品が含まれているところ、当該審判の被請求人は、取消請求に係る指定商品中に「干しのり」が含まれているものについては、「干しのり」(お茶漬けのり,ふりかけを含む場合もある。)についての使用の事実の立証をし、取消請求に係る指定商品中に「干しのり」が含まれていないもの(登録第4403409号商標及び登録第4732499号商標)については、いずれの指定商品についても使用の事実の立証を何らしていないことが認められる。
しかし、請求人は、いずれの審判事件においても、取消請求に係る指定商品は、第29類及び第30類に属する全ての指定商品(指定商品が第29類のみのものは、第29類に属する全ての指定商品)を対象とするものであって、取消請求に係る指定商品中には、本件請求に係る指定商品と同一の指定商品以外にも多数の指定商品が含まれているのであるから、たとえ商標権者が本件請求に係る指定商品と同一の指定商品についての使用の事実の立証をしないとしても、これをもって、商標権者が、取消しを免れた登録商標について、請求人が次の段階として、当然のように、本件請求に係る指定商品について、不使用取消審判を請求することを予知することは困難であったというべきである。その他、商標権者が本件審判が請求されること知っていたことをうかがわせる事情は見いだせない。
そうすると、請求人が、「極」の文字及びこれを含む商標権者の有する登録商標に対し、不使用取消審判を複数請求している事実のみをもって、商標権者が本件審判を請求されることを知った後に、駆け込み的に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したと推認することはできない。他に、商標権者が本件審判を請求されることを知った後に、駆け込み的に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用したと認めるに足りる具体的事実を明らかにする証拠の提出はない。
ウ したがって、本件商標の使用は、商標法第50条第3項に規定する、いわゆる駆け込み使用とは認めることはできない。
3 むすび
以上のとおりであるから、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者が本件請求に係る指定商品中の「油揚げ」について、本件商標の使用をしていたことを証明したと認め得るところである。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中の「油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆」について、商標法第50条の規定により、取り消すことができない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)本件商標



別掲(2)使用商標(色彩については原本を参照)



審理終結日 2013-03-15 
結審通知日 2013-03-21 
審決日 2013-04-02 
出願番号 商願2002-71581(T2002-71581) 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Y29)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺光 幸子 
特許庁審判長 大橋 信彦
特許庁審判官 前山 るり子
渡邉 健司
登録日 2004-04-16 
登録番号 商標登録第4763800号(T4763800) 
商標の称呼 キワミ、キョク、ゴク 
代理人 河野 広明 
代理人 藤田 邦彦 
代理人 松浦 昌子 
代理人 藤田 典彦 

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