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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013890076 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 外観類似 無効としない X35
審判 全部無効 称呼類似 無効としない X35
審判 全部無効 観念類似 無効としない X35
管理番号 1286599 
審判番号 無効2013-890035 
総通号数 173 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-05-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-21 
確定日 2014-03-17 
事件の表示 上記当事者間の登録第5255450号の2商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5255450号の2商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、平成19年6月29日に登録出願、同21年8月7日に設定登録された登録第5255450号商標の商標権の分割に係るものであって、第35類「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,履物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,二輪自動車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,自転車の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,畳類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,台所用品・清掃用具及び洗濯用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,化粧品・歯磨き及びせっけん類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,花及び木の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,燃料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,印刷物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,おもちゃ・人形及び娯楽用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,楽器及びレコードの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,写真機械器具及び写真材料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,時計及び眼鏡の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,たばこ及び喫煙用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,愛玩動物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務として、その分割の登録(受付日を平成25年1月4日とする。)がされたものである。

第2 引用商標
1 登録第3131305号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、平成5年4月30日に登録出願、第18類「かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ」を指定商品として、同8年3月29日に設定登録され、その後、同17年11月29日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
2 登録第3303820号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおりの構成よりなり、平成5年4月30日に登録出願、第25類「エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,ヘルメット,帽子,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」を指定商品として、同9年5月9日に設定登録され、その後、同19年4月3日に商標権の存続期間の更新登録がされたものである。
3 登録第5021989号商標(以下「引用商標3」という。)は、「DNA」の文字を標準文字で表してなり、平成16年6月3日に登録出願、第14類「貴金属,貴金属製食器類,貴金属製のくるみ割り器・こしょう入れ・砂糖入れ・塩振出し容器・卵立て・ナプキンホルダー・ナプキンリング・盆及びようじ入れ,貴金属製のろうそく消し及びろうそく立て,貴金属製宝石箱,貴金属製の花瓶及び水盤,記念カップ,記念たて,身飾品(「カフスボタン」を除く。),宝玉及びその模造品,貴金属製靴飾り,貴金属製喫煙用具」を指定商品として、同19年1月26日に設定登録されたものである。
なお、これらをまとめていうときは、以下「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第7号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものであるから、その登録は、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
(1)本件商標と引用商標の類否
ア 称呼
本件商標は、「DeNA」の欧文字を横書きし、「e」をオレンジ色に、「D」「N」「A」を紺色にて表してなるものであり、その構成から自然に「ディーエヌエー」の称呼を生ずる。
本件商標から「ディーエヌエー」の称呼が生ずることは、本件商標の商標権分割前の権利者で、本件商標の商標権者(以下「本件商標権者」という。)の親会社である株式会社ディー・エヌ・エー(以下「ディー・エヌ・エー社」という。)の出願に係る、本件商標と同一構成の商標についての登録出願(商願平11-104863:甲5の1、以下「別件出願1」という。)において、同社も自認している。
すなわち、別件出願1において、審査官は、同出願に係る商標について、商標法第4条第1項第11号の拒絶理由を通知した(甲5の2)ところ、ディー・エヌ・エー社は、平成13年5月30日付け意見書(甲5の4)において、「引用商標を構成する欧文字『DNA』から『ディーエヌエー』の称呼が生ずることに疑念の余地はございません。一方、本願商標からも、その構成に応じ『ディーエヌエー』の称呼が生じます。したがって、引用商標を『DNA』部と『21』部とに分離して考察しなければならない合理的理由があるとすれば、当該『DNA』部と同一の称呼を生ずる本願商標がこれと類似することは論を俟ちません。」と述べた。そして、別件出願1は、平成14年10月31日、「本願商標は、その構成文字より単に『ディーエヌエー』の称呼を生ずる」旨の認定のもと、拒絶査定がなされた(甲5の5)。
以上のように、ディー・エヌ・エー社自身が、本件商標と同一の構成の商標から「単に『ディーエヌエー』の称呼を生ずることが明らか」であると認め、審査官も同様の認定を行ったものである。
事実、音韻が「イー」なるローマ字(大文字。「B」「D」「G」など)に小文字の「e」を付した場合には、連結発音の結果、「イーイー」ではなく単に「イー」(例えば「ビー」「ディー」「ジー」など)と称呼する場合があることは経験則上通例のことである。
これに対し、引用商標は、いずれも「DNA」の欧文字を横書きしてなるものであり、「ディーエヌエー」の称呼が生ずることは明らかである。
よって、本件商標と引用商標は同一の称呼が生ずる。
イ 外観・観念
本件商標は、「D」「N」「A」の欧文字の「D」と「N」の間に「e」を挿入したものであり、「e」が小文字で表されていることによって、「D」「N」「A」の大文字が際立つから、「DNA」の欧文字からなる引用商標と外観が類似する。
また、本件商標と引用商標は、「ディーエヌエー」の称呼を生ずることから、「デオキシリボ核酸」との共通の観念を生ずる。
ウ 取引の実情
近時、ディー・エヌ・エー社は、自身が運営する携帯電話ゲームサイト「Mobage」に本件商標を用いた広告を行っているが(甲6)、当該役務は、役務区分第42類「電子計算機用のプログラムの提供」であって、本件商標の指定役務の取引者、需要者にとって、本件商標が周知されたとの理由で引用商標との類似性が否定されるといった実情は存在しない。
エ 小括
以上のとおり、本件商標と引用商標は、称呼・観念が同一であり、外観が類似するから、類似の商標である。
上記アのとおり、別件出願1においては、本件商標と「DNA21」とが類似と認定されたのであるから、「21」の文字が付加されていない引用商標と本件商標との類似性は定量的に言えば別件出願1におけるより強いものであり、本件においては、別件出願1より一層本件商標と引用商標との類似性が認められるべきである。
さらに、ディー・エヌ・エー社は、平成23年11月4日、商品役務区分第1類?第45類につき、「DeNA」(標準文字)の文字よりなる商標の登録出願(商願2011-79260、以下「別件出願2」という。)をした(甲7の1)が、別件出願2でも、第18類にて引用商標1を、第25類にて引用商標2を、第14類にて引用商標3を引用する商標法第4条第1項第11号の拒絶理由通知を受けており(甲7の2)、「DeNA」と「DNA」の類似性は揺るぎない判断といえる。
(2)商品の類否
本件商標の指定役務中、第35類「かばん類及び袋物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(類似群コード35K02)は、引用商標1の指定商品中「かばん類,袋物」(同21C01)と類似し、「身の回り品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(類似群コード35K02)は、引用商標1の指定商品中「携帯用化粧道具入れ」(同21F01)及び引用商標2の指定商品中「ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト」(同21A01)と類似し、「宝玉及びその模造品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(同35K20)は、引用商標3の指定商品中「宝玉及びその模造品」(同21D01)と類似する。
よって、本件商標は、引用商標の指定商品と類似する役務について使用するものに該当する。
(3)むすび
以上のとおり、本件商標と引用商標は、類似の商標であり、その指定商品又は指定役務も類似のものである。
2 答弁に対する弁駁
請求人は、被請求人の答弁に対し、弁駁していない。

第4 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第48号証(枝番号を含む。なお、枝番号を有するもので、枝番号のすべてを引用する場合は、以下、枝番号の記載を省略する。)を提出した。
1 ディー・エヌ・エー社の著名性
(1)ディー・エヌ・エー社の沿革
ディー・エヌ・エー社は、東京証券取引所市場第一部上場企業であり、主にeコマース事業並びにソーシャルネットワークサービス、及びソーシャルゲーム等のソーシャルメディア事業等の運営を行う会社である。本件商標の登録査定時である平成22年3月期における資本金は43億2887万円、従業員数は624名(連結)、売上高は481億0500万円、平成24年3月期における資本金は103億9600万円、従業員数は1810名(連結)、売上高は1457億2900万円であった(乙1、乙7、乙9)。
ディー・エヌ・エー社は、平成11年3月にインターネットオークションサイトの企画・運営を目的として設立され、設立当初はインターネットオークション・ショッピングモールといったeコマース事業を中心に展開していたが、国内のインターネット市場の成長、ブロードバンドと携帯電話の高速データ通信や定額料金制の普及等を背景に、モバイルオークション、モバイル広告サービス、モバイルソーシャルネットワークサービス、ソーシャルゲームといったサービスを次々にヒットさせ、現在も、国際事業へとさらなる事業領域の拡大を続けている(乙1)。
また、ディー・エヌ・エー社は、スポーツ事業の振興にも力を入れており、平成23年12月、株式会社横浜ベイスターズの株式を取得して、我が国の著名なプロ野球球団の一つである横浜DeNAベイスターズのオーナー企業となり(乙1)、さらには、平成25年4月1日付けで、男子マラソンの名門エスビー食品陸上競技部が移籍し、ディー・エヌ・エー社内に陸上チーム(DeNA Running Club)が創設された(乙10)。
ディー・エヌ・エー社の営業実績等については、以下のとおりである。
ア 「ビッダーズ」(現DeNAショッピング)によるインターネットオークション&ショッピングモールサービス(乙11?乙18)
イ 「モバオク」「モバゲータウン」等のモバイルサービス・ソーシャルメディア事業(乙11?乙25)
ウ 東証1部上場と事業の拡充(乙26?乙30)
エ 業績(乙2?乙9)
(2)ディー・エヌ・エー社の広告宣伝活動
ア 多額の広告費の支出
ディー・エヌ・エー社は、テレビ、新聞、雑誌及びインターネット等の各メディアにおいて、継続的に活発な広告活動を続けてきており、東証一部上場後の平成20年3月期(第10期)の時点で18億7600万円もの多額の広告費を支出しており、さらに、平成23年3月期(第13期)には、「モバゲータウン」の会員数拡大や「怪盗ロワイヤル」の大ヒットを初めとしたソーシャルゲーム・ブームにより、116億9200万円もの極めて多額の広告費を支出した(乙4?乙9)。
イ 多数のテレビコマーシャル放映
ディー・エヌ・エー社は、広末涼子や新垣結衣等の有名タレントをCMキャラクターとして起用したテレビコマーシャルを企業名と共に全国で放映してきた(乙31、乙45、乙47)。その結果、平成21年11月から平成22年10月の全オンエアCM1987社8770銘柄17533編の中から「BRAND OF THE YEAR2010 売上げに貢献したCM-Brand展開10選」に選ばれ、株式会社ゼータブリッジ社のCMランキング調査(平成22年2月?12月)でも各ランキングで上位に入るなどした(乙32?乙36)。
さらに、ディー・エヌ・エー社は、平成24年7月からは、日曜洋画劇場(テレビ朝日系列)、ダウンタウンDX(日本テレビ系列)といった番組のスポンサーとなっている(乙48)。
(3)新聞報道等
ディー・エヌ・エー社は、現在に至るまで、全国紙を含めた新聞記事・雑誌・書籍・テレビ番組で何度も取り上げられた(乙37、乙42?乙44、乙46)。このことは、ディー・エヌ・エー社が著名な企業として注目されていた証左である。
(4)小括
以上のとおり、ディー・エヌ・エー社は、遅くとも東証一部上場時点である平成19年12月ころには、既に我が国におけるインターネット関連企業として著名になっており、「DeNA」も又ディー・エヌ・エー社を示すものとして著名となっていた。さらに、平成22年以降のソーシャルゲーム・ブームを初めとしたソーシャルメディア事業の拡大、平成23年12月の横浜DeNAベイスターズの誕生以降、ディー・エヌ・エー社の著名性はより一層顕著なものとなっていた。
2 本件商標と引用商標との非類似性
(1)商標の類否の判断基準(小僧寿し事件最高裁判決)
商標の類否の判断基準については、いわゆる「小僧寿し事件」最高裁判決(平成9年3月11日判決:乙38)は、「商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号昭和43年2月27日第三小法廷判決)。」と述べている。他にも、称呼が同一又は類似する場合でも、外観が相違することや取引の実情等を考慮して非類似とした裁判例が存在する(乙39、乙40)。
(2)指定役務の分野における商標の類否判断
小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供(以下「小売等役務」という。)に係る一般的取引の実情に照らせば、その役務の一般需要者(顧客)は、商標を耳よりもむしろ目で捉える機会が多く、商標の外観が果たす役割が大きいため、小売等役務を指定役務とする商標の類否判断においては、外観がより重視されるべきである。
「平成19年度小売等役務商標制度説明会」においても、小売等役務を構成する個々のサービス活動の代表的なものとして、(1)商品の品揃え、(2)商品の陳列、(3)接客サービス、(4)ショッピングカート・買い物かごの提供、(5)商品の試用、(6)商品の包装・紙袋・レジ袋の提供等を列挙しており、専ら、実際に顧客が小売等の店舗に出向いて提供を受けることを想定している(乙41)。また、通信販売による小売等役務の提供との関係においても、例えば、郵便や電話を利用する形態の通信販売では、サービスの提供を受けようとする一般需要者は、郵便や電話を利用する前に、まず商品選択のためのカタログ等を参照し、当該カタログ等の記載に基づき、郵便を出し、あるいは、電話をかけることが一般的であるし、インターネットサイトを通じた通信販売の場合でも、一般需要者は、端末画面上で商標を視覚的に認識した上で、サービスの提供を受けるのが一般的であるから、商標を耳よりも目で捉える機会が多く、商標の外観が果たす役割が大きいため、商標の類否判断において外観がより重視されるべきであることは同様である(東京高裁平成16年11月29日判決:乙40)。
(3)前記1のとおり、ディー・エヌ・エー社は、我が国におけるインターネット関連企業として、プロ野球球団である株式会社横浜DeNAベイスターズ(本件商標権者)の親会社としても著名である。したがって、本件商標は、一般需要者がディー・エヌ・エー社を直ちに想起し得る著名な標章である。
また、本件商標を引用商標と対比すると、本件商標は、「D」と「NA」の大文字の間に小文字の「e」が含まれており、かつ、当該小文字の「e」のみ橙色で塗り分けられている点で、引用商標と比べ見る者に大きな印象の差を与え、外観上類似しない。さらに、ディー・エヌ・エー社の著名性にかんがみれば、本件商標からはディー・エヌ・エー社の観念が生じることは明らかであり、本件商標は、引用商標と観念においても類似しない。
なお、本件商標が一般需要者によって「ディーエヌエー」と称呼される場合があるとしても、ディー・エヌ・エー社を知らない者が本件商標を見た場合に、本件商標から通常生ずる称呼は、「ディーイーエヌエー」又は「デナ」であって、本件商標から「ディーエヌエー」との呼称が生ずるのは、ディー・エヌ・エー社が著名な企業であることを認識しているがゆえであり、一般需要者が出所を識別できているのであるから、「ディーエヌエー」との称呼が生ずることをもって本件商標と引用商標の出所が誤認混同されるとはいえない。
このように、本件商標は、引用商標と少なくとも外観及び観念において類似する商標ではなく、一般需要者において何ら商品の出所を誤認混同するおそれがあるといえないことは明らかである。
したがって、本件商標は、引用商標に類似する商標ではない。
(4)請求人の主張に対する反論
請求人は、本件商標から「ディーエヌエー」の称呼が生ずることは、別件出願1における意見書で、ディー・エヌ・エー社も自認している旨主張するが、当該意見書は、本件商標に関するものではなく、ディー・エヌ・エー社が本件商標から「ディーエヌエー」の称呼が生ずることを自認するものではない。
また、請求人は、別件出願2につき、特許庁が拒絶理由を通知したことをもって、「DeNA」と「DNA」の類似性は揺るぎない旨主張するが、本件商標とは構成及び指定商品・役務を全く異にする商標についてのものであり、本件商標と引用商標の類似性判断とは、全く無関係である。
3 むすび
以上のとおり、本件商標は、引用商標と類似するものではないから、請求人主張の登録無効原因は存在しない。

第5 当審の判断
1 商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする。また、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、上記3点のうちその1において類似するものでも、他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって、商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。(参考:最高裁昭和39年(行ツ)第110号、昭和43年2月27日第三小法廷判決)
2 本件商標と引用商標の類否
前記1の判断基準を踏まえ、本件商標と引用商標との類否について検討する。
(1)本件商標
ア 本件商標の構成
本件商標は、別掲1のとおり、「DeNA」の文字を横書きしてなるものであるところ、その構成中のローマ字の大文字部分である「D」と「NA」は、黒色に近い紺色で表し、「D」と「N」との間に配したローマ字の小文字部分の「e」は、橙色で表してなるものである。
イ ディー・エヌ・エー社及び「DeNA」の表示の著名性
(ア)被請求人の提出した証拠(各項の括弧内に掲記)によれば、以下の事実を認めることができる。
a.ディー・エヌ・エー社は、1999年(平成11年)3月4日に設立された企業であり、設立当初は、インターネットオークションとショッピングモールの「ビッダーズ」を展開していた。その後、2004年(平成16年)3月に、携帯電話向けのオークション「モバオク」、2006年(平成18年)2月に、携帯電話向けのゲーム&ソーシャルネットワークサービス(SNS)サイトの「モバゲータウン」のサービスを開始し、「モバゲータウン」の会員数は、2008年(平成20年)4月には1,000万人を突破、2010年(平成22年)7月には2,000万人を突破するなど、ソーシャルメディア事業を展開する企業として急成長した。さらに、中国、米国、韓国、スウェーデン、シンガポールなど海外にも進出し、また、国内外の電気通信分野等の有名企業とも業務提携をし事業の拡大を図っている(乙1、乙19?37)。そして、上記事実は、ディー・エヌ・エー社の名称と共に「DeNA」の文字をもって、新聞、雑誌、書籍等で頻繁に取り上げられた(乙42?乙44)。
b.ディー・エヌ・エー社の、本件商標の登録査定時(平成21年7月16日)である平成22年3月期における資本金は約43億2887万円、従業員数は624名(連結)、売上高は約481億500万円であり、平成24年3月期における資本金は約103億9600万円、従業員数は1810名(連結)、売上高は約1457億2900万円であった(乙1、乙7、乙9)。
c.ディー・エヌ・エー社は、平成23年12月には、プロ野球球団の一つである横浜DeNAベイスターズのオーナー企業となり(乙1)、本件商標権者の親会社となった。その事実は、新聞、テレビ等を通じて報じられ(乙46の51?111等)、ディー・エヌ・エー社及びそのハウスマーク的存在といえる「DeNA」の表示の知名度は一気に上がった。
d.ディー・エヌ・エー社は、その業務に係る役務について、「DeNA」と表示して、テレビ放映等を通して、極めて多額の費用を投じて数多くの広告をした(乙31、乙45、乙47)。
(イ)前記(ア)によれば、ディー・エヌ・エー社は、我が国のソーシャルメディア関連の事業を行う企業として、我が国の需要者の間に広く認識されているものであって、また、「DeNA」の表示は、該ディー・エヌ・エー社を表示するものとして、さらに、ディー・エヌ・エー社がオーナーであり、本件商標権者の運営するプロ野球球団である横浜DeNAベイスターズの略称を表示するものとして、「ディーエヌエー」と称呼されて、我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることができる。
ウ 本件商標より生ずる称呼及び観念
前記イによれば、本件商標より生ずる自然の称呼は、「ディーエヌエー」ということができ、これを否定すべき格別の事情があると認めるに足りる証拠は見いだせない。
また、本件商標は、前記イの取引の実情に照らしてみれば、これに接する需要者をして、ディー・エヌ・エー社及びプロ野球球団の一つである横浜DeNAベイスターズを観念させるとみるのが相当である。
したがって、本件商標からは、「ディー・エヌ・エー社」及び「(プロ野球球団の一つである)横浜DeNAベイスターズ」の観念を生ずるということができる。
(2)引用商標
ア 引用商標の構成
引用商標1及び2は、別掲2のとおり、「DNA」のローマ字を肉太の黒色でやや縦に長く表し、かつ、これらの文字を同書、同大、同間隔に横書きしてなるものである。
また、引用商標3は、前記第2の3のとおり、標準文字で「DNA」と表してなるものである。
イ 引用商標より生ずる称呼及び観念
引用商標は、前記ア認定のとおり、いずれも「DNA」の文字よりなるものであるから、これより「ディーエヌエー」の称呼が生ずるものである。
また、「DNA」の文字からは、「デオキシリボ核酸」の観念が生ずるものといえる。
(3)本件商標と引用商標との対比
ア 称呼
本件商標と引用商標は、いずれも「ディーエヌエー」の称呼を生ずるものであるから、称呼同一の商標である。
イ 観念
本件商標より生ずる「ディー・エヌ・エー社」及び「(プロ野球球団の一つである)横浜DeNAベイスターズ」の観念と、引用商標より生ずる「デオキシリボ核酸」の観念とは、観念上明らかな差異を有するものである。
ウ 外観
前記(1)ア認定のとおり、本件商標中の「e」の文字部分は、ローマ字の小文字であるがゆえに、他の「D」「N」「A」の各文字に比べ、小さく表されている。しかし、該「e」の文字部分は、他の文字に比べて小さく表されているものであるとしても、黒色に近い紺色で表された「D」「N」「A」の各文字とは、色彩上対照的な橙色で表され、極めて目立つ配色がされていることにより、看者の印象に強く残る部分であるといえるばかりか、「e」の文字が存在することにより、本件商標は、全体として、単なるローマ字の羅列とは異なった印象を与えるものといえる。
そして、引用商標は、その構成中に、本件商標において最も強く看者の印象に残るローマ字の小文字「e」が存在しないこと、書体において、本件商標とは、大きく相違することなどを総合すれば、本件商標と引用商標とは、看者に与える印象が大きく異なるといえるから、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合においても外観上明らかに区別し得ものである。
エ 以上のとおり、本件商標と引用商標は、「ディーエヌエー」の称呼を同じくするものの、観念において著しく相違し、また、外観においても明らかに区別し得る差異を有するものである。
そして、前記(1)イ認定のとおり、本件商標は、ソーシャルメディア関連の事業を行っている著名なディー・エヌ・エー社を表示するものとして、さらに、ディー・エヌ・エー社がオーナーであり、その子会社である本件商標権者の運営する横浜DeNAベイスターズの略称を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されている取引の実情に照らせば、たとえ本件商標と引用商標が「ディーエヌエー」の称呼を共通にするものであるとしても、本件商標の指定役務及び引用商標の指定商品の主たる需要者といえる一般の消費者が通常有する注意力をもってすれば、本件商標と引用商標とを類似の役務・商品について使用しても、その需要者が、役務・商品の出所について誤認、混同を生ずるおそれはないというべきである。
したがって、本件商標と引用商標は、その外観、称呼及び観念等によって需要者に与える印象等を総合して全体的に考察し、その使用に係る役務・商品の取引の実情を併せ考えると、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
(4)請求人の主張について
ア 請求人は、別件出願1及び2における審査経過を挙げ、本件商標と引用商標の類似性は高い旨主張する。
しかし、別件出願1における拒絶査定は、対比する2つの商標より生ずる称呼が同一であることのみを認定したにすぎず、当該両商標の外観及び観念の類否並びに当該両商標が使用される役務の分野の取引の実情についての判断を何ら示したものではない。もとより商標の類否判断は、一般的基準を定めてこれを機械的に適用すべきものではなく、前記1に掲げた判決説示のとおり、商品又は役務に使用された商標がその外観、称呼及び観念等によって取引者・需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべく、しかもその商品又は役務の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とすべきものである。そして、本件商標と引用商標とは、前記(3)認定のとおり、その外観、称呼及び観念等によって需要者に与える印象等を総合して全体的に考察し、その使用に係る役務・商品の取引の実情を併せ考えると、互いに紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。したがって、別件出願1において、本件商標と同一の構成よりなる商標が「DNA21」の文字よりなる商標と類似する商標であると認定された以上、本件商標と引用商標との類似性が認められるべきであるとする請求人の主張は採用することができない。
また、別件出願2において、引用商標を引用した拒絶理由通知が発せられたことは認め得るとしても、別件出願2は、未だ審査に係属しており、対比する2つの商標が類似するとの最終判断がされたものではない。したがって、これをもって、本件商標と引用商標の類似性は揺るぎないとする請求人の主張も採用することができない。
イ 請求人は、ディー・エヌ・エー社は、自身が運営する携帯電話ゲームサイト「Mobage」に本件商標を用いた広告を行っているが(甲6)、当該役務は、役務区分第42類「電子計算機用のプログラムの提供」であって、本件商標の指定役務の取引者、需要者にとって、本件商標が周知されたとの理由で引用商標との類似性が否定されるといった実情は存在しない、と主張する。
しかし、請求人の上記主張は、以下の理由により、採用することができない。
本件商標の指定役務は、小売等役務であって、該役務は、ディー・エヌ・エー社の業務に係るソーシャルメディア関連の役務とは、役務それ自体は、密接な関連性を有するものとは認められないが、両役務は、その主たる需要者が一般の消費者であることを共通にするものであって、「DeNA」の表示は、その需要者をして、本件商標の指定役務の分野においても、直ちにディー・エヌ・エー社及びプロ野球球団の一つである横浜DeNAベイスターズを認識させる程度に深く浸透しているものとみるのが相当であり、「DeNA」の著名性の程度は、両役務の関連性の強弱に関わりがないというべきである。そして、本件商標の著名性は、本件商標と引用商標との類似性を否定する一要素であるというべきである。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号に違反してされたものではないから、同法第46条第1項の規定により、無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標)

(色彩については原本参照)

別掲2(引用商標1及び引用商標2)




審理終結日 2014-01-16 
結審通知日 2014-01-20 
審決日 2014-02-04 
出願番号 商願2007-71541(T2007-71541) 
審決分類 T 1 11・ 262- Y (X35)
T 1 11・ 261- Y (X35)
T 1 11・ 263- Y (X35)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 光治小林 裕子 
特許庁審判長 内山 進
特許庁審判官 井出 英一郎
小川 きみえ
登録日 2009-08-07 
登録番号 商標登録第5255450号の2(T5255450-2) 
商標の称呼 ディナ、デナ、デイイイエヌエイ、ディーエヌエー、ディーエヌエイ 
代理人 横山 経通 
代理人 坂根 剛 
代理人 速見 禎祥 
代理人 上田 雅大 
代理人 岩坪 哲 
代理人 上羽 秀敏 
代理人 石塚 勝久 
代理人 和久田 純一 

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